タイトル:スクランブル!L・Hマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/06 01:16

●オープニング本文


●オセアニア大陸〜バグア軍事拠点
 エレベータの扉が開き、その男が広大な地下ハンガー内に姿を現わしたとき、銃を持って両脇に整列していた数百名に及ぶバグア兵達――その多くは投降した旧オーストラリア軍兵士の体に寄生していたが――は一斉に銃を構え直し、捧げ筒の姿勢を取った。
「――シモン閣下に敬礼っ!」
 パイロットスーツに身を包み、背中まで長く黒髪を下ろした若い男が、兵士達の敬礼など眼中にないかのごとく、ゆっくりと滑走路へ向けて歩いていく。
「本当ならステアーを出したかったのだがな。まあ『博士』の許可が下りなかったのだからやむを得ん」
「当然だろう。‥‥どう考えても、無駄な作戦だと思うぞ」
 シモンの背後に続きながら、特殊合金の仮面で顔を覆ったもう1人のパイロット、ハワード・ギルマンは気乗り薄な口調でぼやいた。
「こんな偵察任務ならヘルメットワームにやらせときゃいい。いや、偵察衛星だけで充分だろうが?」
「なに、ちょっとした『警告』だよ。奴らは虫ケラの分際でこのオセアニアに――我がバグア軍の聖域に土足で踏み込んだ。然るべき制裁を加える必要がある」
「しかし偵察に来たとかいう、そのKV部隊はおまえがステアーで全滅させたのだろう? ならば今さら‥‥」
「物足りん」
 ふいにシモンが立ち止まり、ギルマンに振り返った。
 若者は端正な顔に歪んだ微笑を湛え、その切れ長の両眼は嗜虐の光に輝いている。
「この際、連中に『恐怖』というものを存分に教えてやろうではないか? 連中が『最後の希望』とか呼ぶあの島を滅ぼすのに、シェイドやステアーなど必要ない。我らのファームライドで充分だということを、な」
 そういうなり再び向き直り、前方に翼を並べて駐機する赤い機体――2機のFRに向かって足早に歩き出す。
 FRの傍らには護衛の小型HWが4機。それぞれ、底部に爆弾ならぬCWを2機ずつ吊り下げてあった。
「おいシモン! 貴様、いったい何をするつもりだ? 今回の任務は、ただの威力偵察じゃなかったのか!?」
 怒鳴りながら後を追うギルマンの目に、奇妙な光景が映った。
 シモンが搭乗するFR「射手座」の副兵装スロットに、ミサイルでもスナイパーライフルでもない、見慣れぬ「兵器」がセットされている。
「何だ‥‥あれは?」
 それには答えず、シモンはただ薄笑いを浮かべて自機の操縦席へと乗り込んでいく。
「怖じ気づいたというなら、無理に付き合わんでもいいぞ? 邪魔する蚊トンボどもを叩き墜とし、こいつのトリガーを引く‥‥別に私1人でも充分だからな」
「‥‥」
 戸惑うギルマンの頭上で、出撃口にあたる天井部がゆっくりスライドし、今は冬にあたる南半球の陽光が差し込んだ。

●そしてその日、彼らはそこに居た
「UPC軍との合同訓練、しかも実弾演習か‥‥腕が鳴るぜ!」
「私の機体、この前貯金を下ろして目一杯強化したのよ。正規軍のボウヤ達に、傭兵の実力ってやつを教えてあげなくちゃね♪」
 脳天気な通信を交わしつつ、傭兵達のKVが編隊を組みL・H沖合約250kmの上空を飛行する。
 前方には10kmほどの間隔をおいてS−01改、R−01改、そして岩龍改で構成されたUPC空軍のKV9機、そして「仮想HW」を務める遠隔操縦の標的機がそれぞれ編隊を組んで飛んでいる。むろん無人機の運動性は実物のHWに遠く及ばないが、いかに正確・迅速に撃墜できるかで傭兵・正規軍双方が技量を競い合う――これが今回の合同訓練の骨子だった。
 審判役を務める岩龍改が後方に下がると、「先攻」となる正規軍KVが4機ずつフォーメーションを組み、前方を飛ぶ標的機に狙いを定める。
「まずは、正規軍のお手並み拝見か‥‥」
 KVの操縦席からその様子を眺めていた傭兵達の目に、信じ難い光景が映った。
 攻撃態勢に入ろうとしていた正規軍KV8機が突如相次いで爆発し、黒煙を引いて海上に墜落していく。
「おい、演習前のパフォーマンスかよ? にしても、ちょっとやり過ぎ――」
 だがそんな楽天的な考えも、パニック状態に陥った岩龍パイロットの通信、そして前方に出現した4つの黒い機影でかき消された。
「なっ――HW? 本物の敵襲か!?」
 HWの底部から切り離されたサイコロ状の飛行物体が計8つ、残ったKV部隊を包囲するように展開する。
 その直後、傭兵達のコクピット内にあの不吉な警報――ロックオン・アラートが鳴り響いた。

●ラスト・ホープ〜防空司令部
「出現したのはFRが2機――間違いないな?」
「はっ。各国のUPC軍司令部にも至急確認致しましたが、シェイド、ステアー、それに他のFRが動いたとの情報は入っておりません」
 司令官の質問に、緊張で顔を強ばらせた情報士官が答える。
「我が方の迎撃態勢は?」
「現在、常時待機のKV15機がスクランブル、2分もあれば現場に到着できるでしょう。さらに4分で第2陣の15機、10分後には重武装KV50機が出撃する予定ですが」
「甘い! 相手はステアーほどでないにせよ、欧州戦では10機足らずで数百機のKVと渡り合ったバケモノだぞ!?」
「せめて30分保たせられれば‥‥対シェイド・ステアー戦のため編成した特別エース部隊を招集できるのですが‥‥」
「だが君も知っての通り、FRは短期決戦用機体だ。30分ものんびり戦域に留まっているとも思えんが‥‥」
 そこまでいってから、司令官ははたと考え込んだ。
「解せんな。敵もそれが判っていながら、なぜこんな無謀な攻撃を‥‥?」
「何か‥‥特殊な武器でも搭載しているのでは?」
 情報士官の一言に、司令官はハッしたように顔を上げた。
 その脳裏に、かつて五大湖解放戦においてシェイドがユニヴァースナイトを一撃で墜としたという「バグア製高出力レーザー」の禍々しい記録が過ぎる。
 同じ武装がFRに搭載可能であるかは判らない。だが、もしあれでアウトレンジからL・Hの市街地を砲撃されたら――。
「本島防衛体制をレベル5まで引上げろ! 出動可能な全能力者パイロットを非常招集、全島市民に地下シェルターへの避難勧告を出せ!」
 そして無線機を取り、軍用回線を通し現在FRと交戦中の傭兵達に告げた。
「すまんが緊急依頼だ。まず最低でも援軍が着くまでの2分間、そこで持ち堪えてくれ。そしてL・Hから半径200km圏に奴らを侵入させないこと‥‥いいか? 諸君らの今いる場所が、事実上の最終防衛ラインと考えて欲しい」

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
時雨・奏(ga4779
25歳・♂・PN
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

「みんな散開しろ! 敵のミサイルが来るっ!」
 新条 拓那(ga1294)は激しい頭痛の中、必死にハンドサインで仲間達に警告した。
 果たして、敵の先制攻撃は一見何もない空間から放たれてきた。それも2方向から。
 傭兵達のKVは咄嗟の回避行動に移ったが、小回りの利かない雷電、バイパーといった重装甲KVが間に合わず、小型ミサイルの嵐を浴びてしまう。
「FR!? 直接ここを狙ってくるなんて! 援軍到着まで2分‥‥こいつは、今までで最高に長い2分間になりそうだぜ‥‥っ!」
 ブレイズ・カーディナル(ga1851)が唸る。
「ただの訓練依頼が、決死作戦に化けおったわ。ほんま、人生何が起こるか判らんのう」
 時雨・奏(ga4779)はワイバーンの操縦席で、敵の居所をつかもうとIRSTをチェックした。
「水際で2、30機のKVが増援に来た所で何になると? わしらが、どうこうせんといかんやろ」
 一方、御影・朔夜(ga0240)はむしろ不敵に笑っていた。
「FRか‥‥丁度良い。私もこの機体も、以前とは違うと言う事を証明して見せなければな‥‥!」
 傭兵達が体勢を立て直し、周囲に展開したCW掃討、及び霧島 亜夜(ga3511)の煙幕装置によりFRの燻り出しにかかろうとした矢先。
 自ら光学迷彩を解き、2機の赤い戦闘機が傭兵達の前に出現した。
 それぞれの機体には「射手座」と「蟹座」の紋章が刻印されている。
「防空云々で上にケチつけんのは後だ! コレを凌がなきゃ文句言うとこがなくなっちまう! それも‥‥シモンだって? ナメたことしやがってぇ!」
 拓那が拳を強く握りしめる。
 それは過去、ギルマンと幾度か刃を交えた漸 王零(ga2930)にしても同じだった。
 見れば、バグア側は周囲にCW8機と小型HW4機を展開させた上で、シモン、ギルマンの順に一直線に突入してくる。
「たった2機だけ‥‥?」
 他に伏兵がいないか慌てて目視で確認するが、周辺にそれらしい敵影はない。
 ともあれ援軍到着までの時間を稼ぐため、傭兵達はCW群に向けて各自の遠距離兵器を一斉射。
 次いで、ハンドサインにより素早く編隊を3つに分けた。

 対シモン班:拓那、井出 一真(ga6977)、砕牙 九郎(ga7366
 対ギルマン班:王零、朔夜、ブレイズ
 対CW・HW班:陽子、亜夜、緑川 安則(ga0157)、奏、岩龍改

 岩龍改は正規軍唯一の生き残りだが、武装は20mmバルカンのみ。それでも戦力に加えざるを得ないのは、まずCWを掃討しない限り劣勢を免れないからだ。
 月神陽子(ga5549)は前方のCWに向けてP−120mmを水平発射、妨害してくる小型HWをすれ違い様にソードウィングで切り刻む。
 亜夜は射程内に捉えたCWを狙い127mmロケットを放った。
 岩龍の足の遅さを逆手に取り、HWが友軍機に気を取られてる隙をついてブーストで素早く回り込み、素早くCWを強襲・駆逐していく。
「『紅の魔術師』の奇襲は一味違うぜ。岩龍でもやれるって所、魅せてやるぜ!」
 そのとき、すぐ後方で激しい爆発が機体を揺さぶる。正規軍の岩龍改がHWに撃墜されたのだ。
「ちくしょうっ‥‥!」
「抜かれたら最後の希望が危険だ。絶対死守あるのみ!」
 安則は84mmロケットを主体に、有効射程に入ったCWから手当たり次第に墜としていった。短期決戦なのでスキルも出し惜しみなしだ。
「悪いな。サイコロ相手に時間をかける暇はないんだよ」
 護衛のHWが4機と少なかった事もあり、彼らがCWを全機撃墜するまでほぼ1分余り。
 だがその1分の間に、同じ空では対FR班の死闘が始まっていた。

「久方ぶりだな、ギルマン。汝に再び会えてうれしいぞ」
 王零は「蟹座」のFRに呼びかけた。
「しかし、このような殺戮になりそうな事に汝が加担するとはな。敵となっても軍人としては尊敬していたが残念だ。敵前逃亡に慣れて軍人としての誇りを捨ててしまったのか!?」
『‥‥あいにく、俺は騎士でもサムライでもない』
 無線機から、どこか気怠げなギルマンの声が応えた。
『如何なる手段を以てしても、敵を撃滅し任務を達成する‥‥それが我々軍人の本分だ。違うか?』

 ギルマン機を包囲した3機はK−01による同時攻撃を警戒し、各々異なる高度からFRに距離を詰めていった。
 本来なら対CW班との合流を果たしてから集中攻撃を浴びせる予定だったが、動いたのはギルマンの方が先だった。
 慣性制御により素早く方向転換しつつ、K−01、そして別に装備していたAAMを発射する。恐るべき事に、今回のKV部隊では最高レベルの回避力を誇る朔夜のワイバーンでさえ、その攻撃を避けきれなかった。
 手持ちのミサイルを使い切ったギルマンは即座に距離を詰め、ガトリング砲による近接戦を挑んできた。
「ハワード・ギルマン――ルウェリンと同じく、対バグア戦争に於けるかつての雄か‥‥!」
 朔夜はブースト&マイクロブーストを発動し、AAMやリニアガンを近接距離から撃ち込むも、殆どが紙一重でかわされた。
 改造した機体、己の全ての技量を駆使してなお、此方の攻撃は当たらず、ギルマンの弾は容赦なくワイバーンの機体へと食い込んでくる。
「理に適った機動、これはルウェリンと同等‥‥或いはそれ以上か――!」
 ふいに機体の制御を失い、風防の外の眺めが急速に回転する。
 薄れていく意識の中で、朔夜はなぜかゾディアックの1人、あの「乙女座」の女の事をぼんやりと思っていた。

 朔夜機墜落。交戦時間40秒。

「‥‥星座にゃ疎いんで、マーク見ただけじゃ何座かわかんないけど‥‥一度交戦したあのマークのFRは別だ。ここから先には行かせないぞ、ギルマン!」
 ブレイズは飛来したK−01のミサイル群めがけてグレネードを撃ち込んだ。空中に膨れあがる大火球が小型ミサイルを吹き飛ばすが、それでも何割かは命中を許してしまう。そこへ、火球を突き破るようにしてFR本体が突入してきた。
 ガガガガガッ!!
 ガトリング砲とはいえ無改造のKVならそれだけで撃墜されそうな衝撃が、雷電の機体を揺るがす。
「絶対に負けられない! 何がなんでも‥‥お前を止める!」
 バルカン、ミサイル等手当たり次第に弾幕を張る。元より命中は期待せず、敵の機動を限定することで後の本命が当てやすくするためだ。
 が、その間に「本命」の1人である朔夜機が撃墜されてしまった。
 雷電の重装甲に手を焼いたか、ギルマンは兵装をプロトン砲に切替えてきた。
 タートルワームを遙かに凌ぐ強化プロトン砲の洗礼に、さしもの雷電もあっという間に抵抗を削られていく。
「もってくれよ‥‥雷電!」
 愛機に向かって叫ぶブレイズ。しかし、非情にもKVのAIを通して「損傷率90%超」との警告メッセージが飛び込んだ。

 ブレイズ機、機体大破により戦線離脱。交戦時間60秒。

 王零はただ1機、ギルマンと対峙する形になった。彼の雷電も、既にFRからの攻撃で機体生命の半分近くを奪われている。
「何の! これで時を稼げるのなら我の勝ち、少しでも兆しを作れても我の勝ち!! 行くぞ!!」
 一気に間合いを詰め、超伝導アクチュエータ起動でレーザー砲を撃ち込む。だがその攻撃はことごとく回避され、逆にプロトン砲の連射を浴びるはめになった。
『なかなか頑丈な機体だが、それだけでこのFRは墜とせんぞ』
 ギルマンの言葉と共に淡紅色の光線が雷電の機関部を貫き、王零の機体は炎と黒煙に包まれた。

 王零機墜落。交戦時間80秒。

 丁度その時、ようやくCW掃討を終えた安則機と亜夜機がその場に駆けつけた。
「個人的な感情と理由でシモンをぶん殴りたいが今はL・H防衛が急務! ギルマン少将! 付き合ってもらうぞ!」
『大佐で結構。俺はまだ、二階級特進したつもりはないからな』
 同時に、プロトン砲の連射が2機にも襲いかかる。
 安則は岩龍改を庇いつつミサイル、Sライフルで反撃したが、CWが全滅したにも関わらず、その攻撃はFRをかすりもしなかった。
「装甲が自慢の雷電でもこれは少々きついか」
 もはやこれまでか――と思いかけた時。
 ギルマンは急に攻撃を止め、機首を翻すとブーストをかけ南方へと飛び去って行った。
「何故だ‥‥?」
 その答えは、機能回復した岩龍改のレーダーを亜夜が覗いた時判明した。
 KV8機がCW掃討や対ギルマン戦に奔走している間、もう1機のFRは既にL・H200km圏の間際へと移動している。
「そういう事か‥‥ギルマンは囮だ。L・H突入を図っていたのは、シモン1機だけだったんだ」
 悔しげに呟く安則。この時点で安則機も亜夜機も、機体損傷率は9割に達していた。
「やむを得ん。我々はまだ飛べるうちに帰投しよう」
「でも‥‥」
「仲間を信じろ。そして君には帰りを待ってる人がいる‥‥そうだろう?」
「‥‥」

 安則機、亜夜機、大破により戦線離脱。交戦時間90秒。

「退けない理由なら幾らでもある‥‥! 怯えている場合じゃない!!」
 一真は己に喝を入れた。
 怖ろしくないといえば嘘になる。だが相手がシモンだと知った以上、後に退くわけにはいかない。今はあの空母にいるマリアのためにも。
「往くぞ! 今の俺の出来る限りでぶつかる!」
「後に退けない」という点では九郎も同じだった。
「あの人のいるL・HをFR如きに落とさせるか!! 絶対俺が護るぜ!」
 2機の雷電は、連携して複数のミサイルを発射した。
 さらにその上空から、拓那のディアブロがG放電装置の雷を浴びせて援護する。
「テメェなんざ怖かねーんだよ、シモン! 本当に怖いのは、俺がお前に怖気づいて、何も出来なくなることだけだ!」
 集中砲火により追い込んだ所へ、高威力・高命中率の兵器を叩き込む作戦――だが、追い込もうにもそれ以前に全ての攻撃が紙一重で避けられてしまうのだ。
 初撃のK−01以降、なぜかシモンは仕掛けてこない。あらゆる攻撃をせせら笑うようにかわしつつ、超音速飛行で悠然とL・Hを目指している。
 その頃には傭兵達も気づいていた。
 シモン機の底部にセットされた見慣れぬ兵装に。
 それはある種の遠距離兵器にも見えるが、少なくともSライフルや滑空砲ではない。
 体当たりも辞さぬ覚悟で、一真はシモン機を食い止めるべく吶喊した。
「SESフルドライブ、ソードウイングアクティブ! 往けええ!!」
 ブースト、超伝導アクチュエータを併用しソードウイングで斬りつける。
 その翼刃は、FRの機体をわずかにかすった――ように見えた。
 だが次の瞬間、FRの両サイドから鈍く輝く2枚の刃がせり出した。
 ――バグア製ソードウィング。
 旋回する事もなく180°方向転換すると、シモン機はたった今すれ違った一真機の背後を取ったかと思うや、螺旋を描くようにして続け様に斬りつけた。
「うわあああ!?」

 一真機墜落。交戦時間50秒。

 再び方向転換したシモンは、今度は機体を風車のごとく横回転させつつ、前方の九郎機に襲いかかった。
 必死に回避を図るも、もはや間に合わない。
 片側の主翼2枚を切り飛ばされ、九郎の雷電は大きく失速した。

 九郎機墜落。交戦時間60秒。

 その直後、CW掃討を終えた奏と陽子がその場に到着した。
 新たな「獲物」に感づいたFRが、機首を翻しワイバーンに襲いかかる。
 咄嗟にマイクロブーストで回避するも、主翼の一部を切断されてリタイアを余儀なくされた。
「ああ、もう‥‥報酬、倍くらいは貰うからな、マジで!」

 奏機、大破により戦線離脱。交戦時間70秒。

 同じくソードウィングを装備する陽子は、あえてブーストをかけFRの懐へ飛び込んでいった。
 狙うは、シモン機の搭載する謎の兵装。
 加えて彼女には、シモンに対して問い質したい事があった。
「シモン‥‥貴方には聞きたい事があります。貴方が乗っていたステアー。あれは3機目なのですか?」
 返答はない。シモンは陽子の翼刃をこともなげにかわし、逆に自らの刃を彼女の機体に深々と食い込ませた。
 我が身が切り刻まれる様な痛みに耐えつつ、なおも陽子は問う。
「もしリリアンと交代したのならば、それはそれで構いません。けれど、ジャックとでしたら‥‥わたくしは貴方を許すわけにはいきません」
 陽子は自分にとって特別な敵であり、そして愛しい相手でもある男の面影を思い浮かべ、次の瞬間口走っていた。
「貴方など‥‥ジャックには到底及びません」
『この私が、貴様のいう男に及ばないかどうかは――』
 シモンのFR全体がふいに赤光を帯び、慣性を無視してほぼ垂直に急上昇した。
『己の身を以て知るがいい』
 回避する余裕もない。天空から落とされたギロチンがKVの機首部分を切断し、頭部を失ったバイパー改はコマのごとく回転しながら海上へ落下していった。

 陽子機墜落。交戦時間110秒。

 この時点で、シモン機とL・Hとの距離はおよそ210km。
 例の兵器を発射するつもりか、やや速度を落としたFRめがけ――。
「うおおおおっ!!」
 前方上空にいた拓那のディアブロがパワーダイブをかけた。
「抜かせない、絶対に! 俺たちの希望を、テメェのやりたいようにさせてたまるかよ! 俺の全てを賭して、テメェを止めてやる!」
 恋人から託された必勝祈願の御守りを片手に握りしめ、拓那はディアブロを空中で人型変形させ、FRにディフェンダーで刺突をかけた。
 寸前に気づいたシモンは咄嗟に自らも空中変形。ディフェンダーの切っ先がFRの肩を突き火花を散らすも、次の瞬間には片腕で弾き飛ばされ、反撃の翼刃を浴びていた。
 一撃で機能を停止したディアブロは、そのまま海面へと墜ちていく。

 飛行形態に戻ったシモン機から何か白色の光線が発射され、L・H方面へ長く伸びていく光景を見つめながら、拓那の意識は闇に呑まれていった。

 拓那機墜落。交戦時間120秒。



 辛うじて帰還した傭兵達が聞かされたのは、「L・Hには何の被害もなかった」という防空司令官の意外な言葉だった。
「本島のある施設を狙い、FRからレーザーが撃ち込まれたのは確かだ。だがそれはごく低出力の‥‥おそらくダミー兵器と思われる」
「いかれとるで‥‥そんな悪ふざけのために‥‥」
 正規軍9機、傭兵6機のKVが被撃墜。L・H近海だったこともあり速やかに救助され、また喪失機体も軍から保障されるといえ、重傷を負った彼らは未だに病院で治療を受けている。
「その偽兵器が狙った施設ってのは、何処なんです?」
 亜夜の問いに司令官は一瞬口ごもったが、
「L・H本島の‥‥メイン動力炉の真上だ」
 司令室の窓からは、いつもと変わらず平和な街を歩く人々の姿が見える。避難命令を出す前に戦闘が終わってしまったため、彼らはまるで気づかなかったのだ。
 自らの知らぬ間に空の彼方で起きた、120秒の悪夢を――。

<了>