タイトル:【水着】南洋パラダイスマスター:対馬正治
シナリオ形態: イベント |
難易度: 易しい |
参加人数: 84 人 |
サポート人数: 0 人 |
リプレイ完成日時: 2008/07/30 00:03 |
●オープニング本文
●ラスト・ホープ海軍基地〜空母「サラスワティ」艦長室
「‥‥水泳大会?」
艦長用の執務デスクに向かい、せわしなく書類を整理していたラクスミ・ファラーム(gz0031)は仕事の手を止め、怪訝そうに顔を上げた。
目の前には副長・シンハ中佐が例によって謹厳実直を絵に描いたごとき不動の姿勢で立っている。
「はい。先日の依頼に参加したある傭兵より、ぜひ本艦が主催して執り行って欲しいとの要望が手紙で送られてきまして‥‥」
「ふむ‥‥丁度良い。欧州攻防戦も終わって、少々タガが緩んできた頃じゃしの」
ニヤリと笑うと、腕組みして深々と頷くラクスミ。
「実は、近くUPC軍と合同で上陸戦を想定した大演習を行おうと思っていたところじゃ。海兵隊員はもちろん、一般クルーも参加してな」
「あのう、殿下‥‥」
「ふっふっふ‥‥実戦さながら、地獄の猛演習じゃ。本艦は当然上陸側を担当するから、部下の将兵達には当然イヤというほど泳いで貰う事になるぞ? そもそも敵前上陸といえば、古来戦術的にも最も困難な――」
「畏れながら‥‥ちょっとよろしいですか?」
「何じゃ。わらわの考えが不服と申すか?」
「いえ、その‥‥件の傭兵がいう『水泳大会』は、殿下が想像されているものとは少々違いまして‥‥」
そういいながら中佐の差し出した封書には、『ドキッ! サラスワティ主催の水泳大会・ポロリもあるよ♪』と銘打たれた企画書が同封されていた。
「‥‥何じゃ? これは」
「あー! ボク、それ知ってるよ?」
背後の方からやたらと元気な声が上がる。
艦長室のソファに胡座をかき、岩龍パイロットの李兄妹と一緒に特大かき氷「シロクマ」をパクついていたチェラル・ウィリン(gz0027)だった。
聞けば、企画書を送ってきた同じ傭兵との約束でこの空母を訪れたのだという。
「ほら、お正月なんかに、よくテレビでやってるじゃない? タレントやアイドルの女の子が、ビキニ姿で水中バレーとか騎馬戦とかやってキャアキャア騒ぐの。で、たまにビキニのブラが外れたりして‥‥」
「‥‥?」
その説明を聞いてもピンと来ないラクスミは、資料として同封されていた類似番組の録画DVDを卓上のPCで再生してみた。
――5分と観ないうちに頭が痛くなってきた。
「あ〜‥‥すまぬが、この話はなかった事に‥‥」
「そうはいわれましても‥‥この企画については、既に300名を超す本艦クルーから賛同の署名が寄せられております。全員男性兵士ですが‥‥」
「道理で‥‥最近、艦のPXで使い捨てカメラが飛ぶように売れておるとは聞いておったが‥‥」
「何にせよ、これで中止にしたら部下達の士気が下がります。というか、そのまま暴動になりかねませんぞ?」
「うーむ‥‥」
暫く頭を抱え込んでいたラクスミだが、ふと思いついたように、デスクのインターホンのボタンを押した。
間もなく、艦長室にプリネア海軍の下士官服をまとった華奢な少女が現れる。
マリア・クールマ(gz0092)。元DF隊員であり、当時のコードネームから「マリア」とだけ呼ばれていた彼女は、先日シンハ中佐と養子縁組することで、新たな姓と国籍、そしてプリネア軍軍曹の役職を得ていた。
「ほう。軍曹の制服もなかなか似合っておるの」
「‥‥」
新たに養父となった中佐をちらっと見やり、マリアは少しはにかむように俯いた。
「よいことじゃ。‥‥ところで、今までは傭兵としてパイロットだけやって貰っていたが、我が軍の下士官ともなればそうはいかん。どうじゃ? 初仕事として、このイベントの幹事などやってみぬか?」
といって、ラクスミは企画書とDVDをマリアに渡した。
――有り体にいえば押しつけた。
素直に受け取り、パラパラ企画書に目を通すマリア。
やがて不思議そうに顔を上げ、王女に尋ねた。
「でもこの空母、プールなんかない‥‥」
「ああ。その件なら案ずるな。わらわの方で手配しよう」
ラクスミは本国政府への直通電話を取り、ファラーム王家が太平洋上に所有する某リゾートアイランド貸し切りを要請をするのだった。
【イベント案内】
場所:太平洋上の小さな島。イメージ的にはグアムやサイパンに近い。ただしファラーム王家の私有地なので一般の観光客はいない。非交戦区域。
期間:1泊2日。朝10時に高速移動艇にて現地集合、ホテルに宿泊後、翌朝10時に解散。(「サラスワティ」はその間沖合に停泊)
設備:シーサイドホテル、屋外大プール、プライベートビーチ、宴会場等。全て貸し切り。
食事:リクエストに応じてホテル側でご用意致します。テイクアウト可。
備考:浮き輪からスキューバ、ジェットスキーまで、海遊びに必要な道具(兵器や危険物は不可)は全てプリネア側から貸与可能。水着は持参・レンタルどちらでも(レンタルの場合種別を指定して下さい)
記念撮影希望者には「使い捨てカメラ」を貸与(ただしシナリオ中で消費)。
ホテルは全室スイート&オーシャンビュー。ベッドルームはツイン/ダブルより選択。グループでワイワイ泊まりたい方はリビングに人数分のベッドをご用意いたします。
参加可能NPC(マリア以外):ナタリア・アルテミエフ(gz0012)、チェラル・ウィリン(gz0027)、ヒマリア・ジュピトル(gz0029)、ラクスミ・ファラーム(gz0031)、テミスト、ミーティナ、李・海狼、李・海花
●リプレイ本文
●楽園へGO!
「遂に計画が実現したですね♪ これからも『サラスワティ福利厚生組合』の会長として頑張ります!」
ファラーム王家所有・リゾート島の浜辺に白ビキニ姿ですっくと立ち、今回のイベント発起人であり、いつのまにやら福利厚生組合会長へと就任した御坂 美緒が演説すると、数百名にも及ぶ空母クルー達から嵐の様な拍手が巻き起こった。
「家族や大好きな皆と一緒に遊ぶ‥‥実に幸せだ!」
青空を見上げ、まひるが心地よさげに背伸びする。同行者はミア・エルミナール、シア・エルミナール、リュス・リクス・リニク、アセット・アナスタシア、カララクの人呼んで「まひるファミリー」。ただしこのうちリニクは後で須佐 武流と合流する約束となっている。
また、まひるを姉と慕う使人風棄も、ファミリーの護衛役として同行していた。
「変な人がいたら言ってください、僕が消してあげますから」
‥‥まあ幸いというか、島内にいるのはその殆どが招待された能力者とプリネア軍関係者なので、風棄が「消す」べき対象は存在しないはずだが。
「はわわ、立派なリゾートなのですよ〜」
「この島がファラーム王国の持ち物だって? いやはや何とも‥‥スゴイな」
アイリスや寿 源次も感心したように周囲のプライベートビーチや、海岸に隣接して建つ白亜のリゾートホテルを眺めやる。
リヒト・グラオベンは沖合に停泊する「サラスワティ」の艦影を見やり、先の欧州攻防戦の際は同空母に搭乗し北極海を横断した事を思いだし、
(「再会した地が正反対とは‥‥不思議な気分です」)
と感慨に浸っていた。
「ほう‥‥なかなか盛況じゃの」
「そのようですな」
ハイビスカス柄のワンピース水着&腰にパレオを巻いた王女ラクスミが、副長シンハ中佐や李兄妹を引き連れヘリから降りると、
「ラクスミお姉ちゃーん!」
と浜辺の方から駆け寄ってきた愛紗・ブランネルが嬉しそうに駆け寄りもぎゅっと抱きつく。
「おお、久しぶりじゃの。今日はチェラルと一緒ではないのか?」
「うーん‥‥愛紗、もしかしたらお邪魔になるから‥‥」
「? まあ、よい。ならば、わらわ達と来るがいい」
メインの企画が始まるまで、まだ時間がある。ホテルへのチェックインを済ませた傭兵達のうち、まひるFに加え紫藤 文、楓姫、風見トウマといった面々は早速浜辺に繰り出しビーチバレーに興じるのであった。
●絢爛! 水着コンテスト
「夏だ! 海だ! ならば諸君、水着でコンテストだー!」
ホテル前の大プールに設営された特設ステージ。
司会役のマイクを握る鈴葉・シロウが、燃え尽きるほどにヒートな熱い口調で叫んだ。
「姫さんの、マリアさんの、チェラルさんの、水着が見たいかー!」
「ウオォーーッ!!」
客席を埋め尽くすプリネア軍兵士達が一斉に拳を突き上げる。
「そしてちょっとだけ目を閉じて――ポロリを期待している奴、正直に手を上げてみろ! 大丈夫だ、私は他言しない! 何故なら私が見たいからだ!!」
「イーーッ!!」
またも差し上げられる数百の腕。おまえら某秘密結社の戦闘員か?
「果たして栄冠を手にするのは誰かな〜?」
隣に立つ司会役の相方、犬塚 綾音もにこやかにトーク。
彼女自身もGカップのナイスバディに豹柄ビキニ、頭にはカウボーイハットと、エントリーしていないのが惜しいほどの姿である。
「うーむ。とりあえず、こんなものか‥‥」
ステージ裏から舞台照明・マイクボリューム等をチェックしながら、今回ミスコンの企画全般を監督する時任 絃也は頷いた。
彼自身は殆ど裏方専門の地味な役回りである。それでもあえて引き受けたのは、リゾートでの骨休めに加え、持病ともいうべき女性恐怖症克服という目的もあった。
「自らを苦難に放り込む、これも修行だ」
クレイフェルが直接担当する照明が目映く点灯すると、華やかなBGMに合わせてプール中央に浮かぶ円形ステージには早くもエントリーNO.1の緋霧 絢が姿を現わしていた。健康的なスク水に鎖付き黒革首輪、脚には『IMP』のタトゥシールというミスマッチが得も言われぬエロスを醸し出している。
1人あたり5分のアピールタイムが終わると、花道を引き返しプールサイドの舞台後方で待機。替わって次なる出場者が中央ステージへと進み出た。
「2番、葵コハルでーす! 胸は無いけど元気は元気は山盛り!! よろしくねー♪」
コハルの水着はアクアブルーでホルターネックのセパレートタイプ。
ミアは白地で赤いハート柄、下布面積割とギリギリなワイヤーホルタービキニで出場、客席の男性兵士達に手など振ってみる。
ステージ衣装も兼ねた際どいビキニのルュニスは『FM−Rev』の腕章を付け、この後に控える水上レース企画の宣伝も兼ねて派手にアピール。
次いで対照的にスクール水着姿の楓姫が頬を赤らめつつ登場。
「‥‥シンプルに‥‥高校生らしく‥‥です‥‥」
「ウチは烏谷・小町や、よろしゅーに!」
同じスク水でもこちらは白スクール水着の小町は腰に手を当て、胸を張って自己紹介した。
御崎緋音はピンクのフリル付きビキニで体型よりも初々しさをアピール。
鯨井昼寝は黒地に花柄のビキニ上下&白を基調としたロングパレオ。たとえ娯楽イベントといえども勝負事には常に全力投入する主義の彼女は、他の参加者の水着データから投票者の性別や年齢層まで可能な限り調査して分析。綿密なプランをもって準備を整えていた。
「よし、準備はバッチリ! それじゃいっちょ張り切っていくとしますか♪」
本番ステージでは最上の笑顔を振りまきつつ、王道ともいうべきモデルウォーキング。
冥姫=虚鐘=黒呂亜守の場合、ツアー参加の目的は専ら休養と海水浴であったが、「空母乗組員の士気向上になるなら」とエントリーを受諾。一見無愛想ともとれる無表情な彼女だが、長い黒髪、かなりの美脚とあいまって、さながら黒い牝豹のごとき野性的なエロスを放っている。
「さて男性諸君、キミ達は一体何を望むのやら。私がソレを持ち合わせているかは、疑問だが」
茶色のパレオをまとい出場した神森 静は、一礼した後アピールとしてベリーダンスを披露した。妖しげな音楽に合わせて薄布を振り、微笑みながら、回ったり腰をくねらせ色っぽく踊る。
そのとき激しく動いた弾みに水着の胸元がずれ、一瞬だけ見えそうになるのを慌てて両手で隠した。
「おーっと危うく初ポロリ! これは誠に残念!」
「妙な期待すんなっ!」
すかさず綾音にツッコミを入れられるシロウだが、もはやテンション最高潮のトークは誰にも止められない。
いつものポニーテールをツインテールに変えたリーウィット・ミラーは、青のボーダーのビキニ姿。入場曲はチアの音楽に変えて貰い、チアリーディングで培った元気良さでステージ狭しと跳ね回り、思いっきりアピールする。
「ハァイ殿下お久しぶり〜」
観閲席の王女ラクスミに手を振る藤田あやこは、真紅に白のサイドライン入りビーチバレー用ビキニの上から所属小隊のジャケット、ミニスカートを身につけ、小道具にバレーボールを持参。
肢体をひねってボールをエアサーブ&転がってエアレシーブと、スポーティなお色気をアピールする。
ついでにステージ後方に居並ぶ他の参加者の胸の前にボールを掲げて胸比べ。
「おーっとあやこさん挑発だ!『バストも負けませんよ〜』と他のライバル達を挑発しているぞーっ!」
神無月 るなの水着は紫地に黒のレース、腰には紫のロングパレオ。
「アセット・アナスタシアです‥‥あまり見られるのは慣れてないけど、頑張るよ」
今回の水着コン中最年少参加のアセットは、姉からお下がりのスク水で出場。その初々しさに、却って客席からの声援を浴びる。
「え、ええと‥‥サイエンティストのヴィーと申します。いつもは後方からスキルで皆さんの支援をさせていただいてます‥‥」
小学生の様に小柄ながらも3サイズはそれなりなヴィーは露出度低めに空色のワンピース。
「これといって自信のもてる特徴はありませんが、健康面には自信有り、です」
ペコリとお辞儀し退場の際、足を滑らせ壇上でどべっとこける。このハプニングに、観客からは「可愛いーっ!」と声が飛んだ。
ふいにステージの照明が消え、BGMが純和風のお琴に変わる。
何だ、何だ? と客席がざわめき始めたとき。
パッと照らされたスポットライトの中、夫の漸 王零にお姫様だっこされた王 憐華が花道を進み出た。
「さあー新婚ホヤホヤの王 憐華! 夫婦揃っての登場だーっ!」
王零の逞しい腕からステージに降り立った憐華は布地はぎりぎりの白のサスペンダーダンサーアウトフィット+桜色のロングパレオという出で立ち。
その大胆な水着と巨乳っぷりに、思わず客席から「‥‥ぉぉーっ」と押し殺したような歓声が上がる。
(「少し派手だが、まあこんなのも良いか?」)
レティ・クリムゾンは白いビキニとワンピースの中間の様な、いわゆるモノキニ。普通のワンピース水着に比べて露出度の高い所に、サンバイザーと腿のホルスターがワンポイントである。
「普段はラフでボーイッシュな服装が多いレティさんですが、こういう姿も却って新鮮ですねえ。客席からもしきりに声援と口笛が飛んでおります」
(「やったっ! 大好きなレティさんと南国バカンス! ちょっとくらい戦争の事忘れて羽を伸ばしたってええやんね♪」)
篠原 悠はどちらかといえば先に出場した憧れの人・レティの水着姿に見とれていたが、彼女自身はセクシーさよりも健康的な爽やかさを押し出したビキニ姿である。
「む‥‥これでいいのか?」
ステージに出る直前、クリムは舞台裏の姿見で己の水着姿を再確認した。
剣術一筋で世事に疎い彼女にとって、「水泳」といえば非常時の着衣水泳か全裸で泳いだ経験しかない。それでも「とにかく頑張ってみる」と姉に借りて、白の少し柄のあるワンピース水着での出場であった。
そしてトリとなるまひるがドレスとしての見栄えも持つ黒ビキニで登場すると、観客席から一層高い拍手喝采、口笛が上がった。
最後は水着姿の女性傭兵達が客席に向かってにこやかに手を振りつつ改めて中央ステージを一周後、花道を戻り退場していく。
審査員役の傭兵達から投票用紙が回収され、絃也の指示を受けたプリネア兵やホテル従業員がステージの解体にかかる。次なるイベント・水上レース大会の準備に備え、会場もしばしの休憩時間となった。
そんな会場の騒ぎをよそに、浜辺でのんびり釣り糸を垂らす斑鳩・眩はぽそっと。
「‥‥若いっていいなぁ」
●多忙! 本部スタッフ
本部スタッフには白地に青で「STAFF」のロゴがプリントされた帽子、Tシャツ、パーカーの3点セットが支給され、TPOに合わせてどれか1点以上の着用が義務づけられている。
仮設テントの下で、白スク水の上にSTAFFパーカーを羽織ったマリア・クールマがトランシーバでメイン会場やビーチからの報告を受けつつ、無表情のまま卓上のノートPCにスケジュール進行状況・トラブル発生記録などを事細かに入力していた。
テント内には彼女を手伝う櫻小路・なでしこや八重樫 かなめ、ゴリ嶺汰の姿も見える。
「水着コンテスト、無事終了‥‥了解。水上レースの準備が終わったら、また連絡を頂戴」
そんな彼女の元に、誰か人を捜すような顔で鷹見 仁が現れた。
「凄い人数だな。とりあえず、俺も会場警備の手伝いでもしようか?」
「ありがとう。スタッフ用のパーカーやTシャツはそこにあるから、自由に使って」
「‥‥ところで、ちょっと人を捜してるんだが。名前は判らないけどおまえと同い年くらいの女の子で、『サラスワティ』士官のはずだけど」
「捜してみる」
マリアは素早くキーボードに指を走らせ、PCから空母乗組員の名簿を検索したが、
「該当者なし‥‥この空母にも女性士官はいるけど、私と同世代の人はいないわ」
「‥‥?」
仁は不審に思ったが、この忙しい最中これ以上マリアの手を患わせるのも悪いと思い、そのまま本部スタッフを手伝うべくテントを離れた。
隣のテントでは、スタッフ帽を被ったナタリア・アルテミエフがワンピース水着の上に白衣を羽織り、救護班の指揮を執っていた。運び込まれてくる患者は殆どが一般人のプリネア兵、症状は熱中症が多い。
「次は気をつけてお遊び下さいましね」
救護班スタッフとしてナタリアの助手を務める里見・さやかが、応急手当を施した患者を送り出す。
「結構忙しいですね。ナタリアさんは大丈夫ですか?」
「いえ、ご心配なく。これが私の本来の仕事ですから‥‥」
にっこり笑うと、ひどく遠い目で空の彼方を見上げ、
「ステキですわね。地面の上のお仕事って‥‥」
「‥‥はあ?」
よく判らないが、何やら余人には知れぬ苦労があるらしい。
同じく救護班に属するカルマ・シュタットは主にプールやビーチを見回り、溺れる者が出ないかを監視していた。
勇姫 凜が本部テント前に顔を出したとき、丁度警備巡回から戻ってきたチェラル・ウィリンと出くわした。迷彩柄のカモフラビキニ&スタッフ帽という出で立ちである。
「チェラル、その水着も可愛いね、よく似合ってる‥‥」
「そう? エヘヘ、ありがと。‥‥ところで君顔赤いけど、どうかしたの?」
「べ、別にっ‥‥ところで凛、チェラルと2人なら優勝だって狙える気がするんだ、だから参加してみない?」
ドキドキする鼓動を抑えつつ、勇気を出して水上レースのペア参加にチェラルを誘ってみる。
「それはいいけど‥‥うーん、ボク警備の仕事があるからなぁ」
「ならアイリスが代わるです〜。スタッフのパーカーと帽子、借りますね」
「アイリスさん‥‥見回りするんですか‥‥?」
彼女の迷子癖を知る忌瀬 唯が、心配そうに尋ねた。
「そ、そんな事‥‥えっと、大丈夫です」
それでも心配なので、唯は自分も同伴する事にした。
「‥‥絶対に‥‥一人で動いたらダメですよ?」
「マリアも少し遊んできたらどうだ?」
黒ビキニの上にスタッフ帽&パーカーを羽織ったイレーネ・V・ノイエは、朝からろくに休憩も取らず黙々と運営管理を行うマリアを気遣い声をかけた。
「でも、私は幹事だから‥‥」
「流石に海に来て見ているだけでは楽しくないだろうしな。時と青春は待ってくれぬのだ、存分に今を満喫して来い♪」
「せっかくの機会ですからマリアさんも少しは楽しまないとダメですよ」
やはりボランティアで本部スタッフに参加していた井出 一真も口添えする。
「なら‥‥少しだけ」
近くのスタッフに作業の代行を頼むと、マリアはちょっと恥ずかしそうに席を立った。
それから30分ほど後。
『迷子のお知らせです。18歳のアイリスちゃんを探しています。お心当たりの方は本部までご連絡下さい』
スピーカから全島に繰り返し流れる唯の放送に、会場のプリネア兵達が首を傾げた。
「今、18歳って聞こえたが‥‥」
「8歳だろ? きっとスタッフが間違えたのさ」
だが、さらに30分後。
「また迷子なのですよ〜」
めそめそ泣きながら唯に手を引かれ戻ってきたアイリスの姿に、兵士達はただ唖然とする他なかった。
●チキチキ水上大疾走レース!
メイン会場の大プール。観客席は、再び使い捨てカメラを構えた野郎どもの熱気と興奮に満たされた。
プール内には約150mにも及ぶウレタン橋が浮かべられ、その上を走り抜け完走者のタイムで順位を決める。落ちたら失格。カップル参加OK。独り身でも勿論OK。カップルは片方が落ちた時点で失格。
そしてお約束のごとく、30mごとに計5つの障害物が設置されている。
なおコース設計、その他企画運営はアルヴァイム、演出の一部と司会・進行役はルュニスが担当。
第一関門:カーブコース(細くカーブする道)
第二関門:ビーチボール弾雨(他参加者も投擲可)
第三関門:浮島ジャンプ(ウレタンが途切れ途切れに連結されているコース)
第四関門:ぬるぬるローション坂(円錐型の山になったウレタンに、大量のローション)
第五関門:?(シークレット)
「ちょーいにゃっ、それじゃあ一人目行ってみましょー!」
実況を務めるルュニス自ら、第1号として出走。第3障害までは難なく走り抜けるも、4番目のローション坂で足を滑らせあえなく――というか、サービスも兼ねて自ら落ちた。
「やぁ〜にゅ、ぬりゅぬりゅになっちゃったのす」
ビキニのブラ自体はみっちり詰まったホルターネック式なのでポロリはないものの、ローションまみれの上ばゆんばゆんに揺れる爆乳はなまじのトップレスより遙かにエロい。
これを合図に、プールサイドで待機していた各選手も順次スタート。
覚醒禁止とはいえ、常人より遙かに優れた運動能力を誇る能力者である。始めのカーブは全選手が無事に通過。2番目の弾雨あたりから徐々に厳しさを増してきた。
セット操作を担当するアルヴァイムの計算により、ルュニスのデモ時に比べ数倍増のビーチボール弾の嵐が選手達を見舞ったからである。
「‥‥やっぱりやるのか、これ‥‥」
やや退け腰になるカララクだが、まひるに引っ張られる様にボール弾雨に突入。
ボールが当たった弾みにまひるのブラが解けるが、ポロリどころかボロリもゴロリもOK! な彼女は構わずカララクの手を引きひたすらゴールを目指す。
「ポロリが恐くてビキニが着れるかー!」
ミア&シアのエルミナール姉妹は、双子ならではのコンビネーションで弾雨の中を駆け抜けた。
悠はペアを組んだレティにボール弾が集中するのを庇おうとしたはずみに、足を滑らせ二人して転落。どさくさ紛れに胸を押しつけ、「レティさん大好きっ!!」と叫びつつプールに飛び込んだ。
続く浮島ジャンプの最中、ミオ・リトマイネンの青色3角ブラがはらりと舞い落ちた。巨乳一歩手前、張りのある美乳が露わとなるが、ミオ自身は顔色1つ変えず、何事もなかったかのように駆け抜けた。
「‥‥まあ、やるからには頑張りましょう」
ジェイ・ガーランドはペアを組む赤宮リアに声をかけた。
「我に秘策あり! です。ポロリなんて怖くありませんよ♪」
「と言うかリア、貴女ポロリ前提なので御座いますか?」
果たして浮島ジャンプ中、リアのブラがポロリ。一瞬「うぉーっ!?」と盛り上がりかけた観客席に、間もなく困惑の色が広がった。
何と! リアはその先端をバンドエイドで隠しておいたのだ。
‥‥これはこれで、かなり際どい気もするが。
「こ、この程度で屈してなるものですか! 行きますよ、ジェイさん!」
「リア、失敬を。貴女は隠すのに専念してください」
そういうなり彼女を抱え上げ、そのまま一気に駆け抜けていくジェイ。
胸のサラシに褌という異色の水着姿で参戦の鷹司 小雛は浮島を揺らさぬよう中央に降り、その島が崩れる前に次の浮島へジャンプ、とテンポ良く飛び移っていく。
第4関門、ぬるぬるローション坂。
「こ、これは‥‥来ましたね‥‥ギャラリーサービスポイントですね?」
るなの言葉通り、こちらは難易度よりは視覚的サービス重視といった所か。
「‥‥はっ、これは!?」
きゅぴーん! と何かを開眼したごとく叫ぶ美緒に、ペアを組むヒマリアが「どーしたんですかぁ?」と不思議そうに尋ねる。
「ふにふにの新境地を閃いたです!」
「‥‥閃かなくていーです‥‥」
そして最後の関門――。
プール底に隠されていた十数本のホースが浮上し、ゴール目前の選手目がけて高圧放水を開始した。コンピュータ制御で照準や水圧を調整可能な水噴射は、当然女性はブラ狙い、男に対しては容赦なくガチ放水である。
4つの障害を突破してきた強者達の多くが、ここでリタイアを余儀なくされた。
女性はポロリを防ごうと胸を隠した瞬間に、ペアの場合は相方のポロリを庇おうとして双方バランスを崩し、次々とプールに水柱を立てていく。
チェラルと共にここまでたどり着いた凜の目に、放水を浴びた彼女のブラの肩紐が外れかける姿が映った。
咄嗟に庇おうとした拍子に、そのまま抱き合って仲良くドボン。
パステルレッドのビキニを新調したテミスも、
「ポロリ? えっと‥‥わあ!」
慌てて隠そうと抱きついた鴇神 純一と共に転落した。
「にゃむし! 愛が故にその身を盾にしたがそのまま落ちたぁーっ!」
「アハッ。失格しちゃったね〜」
ルュニスの実況を聞きつつ苦笑いするチェラルだが、凜の方は「あっ、ごっ、ごめん‥‥」と赤面して胸のドキドキを抑えるので精一杯だった。
そんな会場の騒ぎを遠目に見つつ、相変わらず海岸で釣り糸を垂らす眩が一言。
「‥‥青春してるねぇ」
かくして、全選手の競技終了。ちょうどその頃ミスコンの集計結果も届き、水上レースの完走タイム上位者と共に発表された。
※水着コンテスト
1位:鯨井昼寝
2位:レティ・クリムゾン
3位:篠原 悠、まひる(同数票)
※水上レース
1位:鷹司 小雛
2位:ジェイ・ガーランド&赤宮リア
3位:烏谷・小町
なお上位入賞者には、王女ラクスミより記念メダルと共に金一封が贈られたのであった。
「使い捨てカメラの望遠モードじゃ、イマイチだなぁ‥‥」
「仕方ねえだろ。艦長のお達しで、これ以外のカメラは持ち込み厳禁なんだから」
などとぼやきながら会場を後にするプリネア兵達のそばに、ささっと近づく人影がある。
ゴールドラッシュとエメラルド・イーグルのコンビであった。
「君たち、好みの子がいれば代わりに撮影してきてあげようか?」
「なにぃ、マジか!?」
たちまち契約成立、2人の手元に集まる紙幣の束。
その後彼女らは、ナタリアからチェラル、ラクスミはもちろん、傭兵のキレイどころ全員を撮影して回り、その生写真を闇市場(?)でバンバン売りさばいた。
といっても通常のブロマイド以上に際どい写真は売却前に破棄、また結果的に一部の兵士達が盗撮に走るのを抑止する効果(?)もあったが。
なおこの臨時収入は、その晩ホテルの最高級ディナーなどでゴージャスに消費されたという。
●それぞれのバカンス
さて、人の集まるイベントは避け「のんびりリゾート地の一時を楽しもう」という者達も少なくなかった。
浜辺で太公望を決め込む眩の隣では、アグレアーブルがシートの上で寝転がり、これまたまったり自堕落オフモードを楽しんでいた。熱くなったら海に潜り、何となくウミウシを捜したりして、また眩の隣でゴロゴロ。
「平和だねぃ‥‥」
「戦闘ばかりでなくガス抜きも必要」と柚皓 寛琉に引っ張られる形で参加した南雲 莞爾は、偶然同行することになった緋室 神音と共にレンタルのジェットスキーを楽しんだ。
最初こそ慣れない操作に悪戦苦闘したが、やがて操縦のコツもつかみ、2人で並走を楽しんだりする。戦場では凛然とした神音の様を見慣れているせいか、ポニーテイルに青紫のビキニ姿の彼女が妙に新鮮で、どこか照れくささを感じてしまう莞爾であった。
鷺宮・涼香と鴉はやはりレンタルのボートで少し沖合にこぎ出し、そこからシュノーケリングで潜り南洋の熱帯魚を観賞した。初めて見る世界に感動と興奮を覚えつつ、魚の餌付けにも挑戦。涼香は防水ケース入りカメラで、魚と戯れる鴉を記念撮影した。
Letia Barはラシード(ラス)と共にスコップで砂浜に穴を掘り始めた。
「さぁさぁ、フォル! 早くっ♪」
呼び寄せたフォル=アヴィンを穴に寝かせ、そのまま埋め始める。
埋めた後は砂山をボイィ〜ン・マーメイドの形を整え、まさに生けるサンド・アートだ。
「ラス、そこはもっとこんもりv」
「ラシードよ、お前もか‥‥」
半ば諦め、半ば泣きそうな顔でフォル。
「少しは、埋められて遊ばれる側の気持ちを考えて下さい」
こめかみに手を当て、呟くようにいう愛輝。言うだけだが。
「愛輝さん、ありがとう。でも、心がこもってないような‥‥」
さらに呉葉、愛輝が拾ってきた貝殻やヒトデで飾りつけ。
「完成〜っ! 記念撮影♪」
通りすがりのプリネア兵にカメラを頼み、完成したフォル・アートを囲んで一同でパシャッ。
その後は掘り出してやり、引き続き海遊びを楽しむのだった。
イベント参加を終えた緋音は、レイアーティと2人きり、人気のない波打ち際で水遊びに興じていた。はしゃぎすぎた拍子にブラの肩紐が外れてしまうが、その場にいたのは婚約者のレイだけだったので、ちょっと上目遣いに、
「えっと‥‥お願い‥‥できます?」
「む‥‥。ここの紐は‥‥こう結べばいいんでしょうか‥‥?」
「レイさん、私の水着‥‥どうかな‥‥?」
「可愛いです‥‥けど、水着姿なんて初めて見るので‥‥なんだか照れくさいですね」
ミスコンの優勝は逃したものの、緋音にはその一言で充分だった。
都築俊哉と岩崎朋は幼なじみ。朋の方が俊哉を引っ張るような形での参加である。
(「まぁ、こういう事は昔からいつものだから慣れてはいるのだが‥‥問題は、同じ部屋に泊まるって事なんだよな‥‥」)
内心穏やかでない俊哉を尻目に、朋の方はわざと目の前で着替えをしてみたり、体に日焼け用のローションを塗らせたりとからかってみる。まあこれも素直に「好き」といえない気持ちの裏返しなのだが、さて今宵南洋で過ごす一夜は、若い2人にとってよき思い出の晩となるかどうか。
午後はスキューバを楽しんだ文は、帰り道で偶然会った楓姫と並んで夕暮れの浜辺を歩いていた。
「夕日見て戦いを考える、とか自分傭兵みたいだよなー」
「いつでも‥‥こうしていられると良いのに‥‥ね‥‥」
楓姫の頭を軽く撫でた文は、ふと思い出して持参の「くまのぬいぐるみ」を彼女に贈った。
ファイナとアセットも、同様に夕刻の浜辺をぶらりと歩いていた。
アセットはファイナから贈られた浴衣姿に着替えている。
「‥‥こうやって、2人で浴衣を着れるのが、幸せなことだね‥‥」
「一日あっという間に過ぎちゃったね‥‥ずっとこの時間が続けばいいのに‥‥」
「あ、そうだ! 今日はプレゼントがあるんだ。これ、前から欲しがってた、こねこのぬいぐるみ」
「ありがとう‥‥大切にするよ‥‥」
「大事にしてね♪ 大好きだよ、アセット‥‥」
●椰子の葉陰で
そして、夜。
屋外イベントとして企画されたBBQ&花火パーティーに、まひるFやLetiaのグループに加え昼間は本部スタッフとして働いていた面々、日中コハルから水泳指南を受けていたイスル・イエーガーやイベント参加せず独自に行動していた紅 アリカらも集まっていた。
「夏のアウトドアと言えばコレっしょ!」
浜辺に汲み上げたBBQ用コンロに、ホテルから運ばれた肉や野菜が次々乗せられ、たちまち辺りに旨そうな香りがぷ〜んと漂う。
「更に定番の〜シャケのホイル焼きっ♪ 熱いから気をつけて」
その匂いにつられたかのように、何処からともなく現れた小さな影が、焼き上がった肉から黙々と食べ始めていた。
「‥‥ん。その肉頂く」
最上 憐である。彼女の参加目的はただ食べ物。それ意外は眼中にない。
「‥‥ん。メニュー、全部注文。大盛りで。‥‥ん。肉とか肉とか肉を食べる」
肉を最優先目標にひたすら食べ尽くす。延々と貪り尽くす。
「‥‥ん。足りない。全然足りない。もっとおかわり」
BBQで空腹を満たしたメンバーは風下で花火大会に興じた。
通常の花火セットはもちろん、超線香花火我慢大会、その威力の凄まじさから物議を醸した「ロッタ特性ロケット花火」まで、弾ける火花が夜の海岸を照らし出した。
若者グループが賑やかに遊ぶ横では、黒川丈一郎、六堂源治、斑鳩八雲ら成人組が源次や嶺汰も交えて酒を酌み交わす。
「やっぱ平和がイチバンっすね。あいつ等が何時でもあんな風に遊べる世界にしてやりたいッス」
同じ頃、ホテルの浴場では皆城 乙姫と篠ノ頭すずが女同士の愛を確かめ合い、部屋ではなでしこが久々の再会となる従姉妹の天小路桜子と夜通し語り合っていた。
クレイフェルと絢はたまたま同室となったが、夜間ツインベッドで寝ていたはずの絢が寝ぼけて潜り込んでくるや、動転するクレイフェルを抱き枕と間違えひしと抱きついた。
翌朝事情を知った彼女は硬直して赤面するのだが、それはまた後の話である。
ちなみに恋人同士の武流とリニクは、普通に抱き合って寝ていたが。
ごく最近親しい戦友を喪った榊 兵衛は思う所あり、深夜の海岸にクラリッサ・メディスンを呼び出していた。
岩場に腰を下ろし、
「お前とは釣り合いが取れると自惚れる気はない。だがな、それでも俺はお前を戦友以上だと思っている。これから先の生涯を共に過ごして欲しいと思えるほどにな。だから、俺の傍らで人生を歩んでくれないか?」
「‥‥私もヒョウエの事を、いつしかただの戦友とは思えなくなっていました。多分初めて会ったあの時から‥‥」
「ああ、俺のすべてを賭けて誓おう。けして離しはしないと!」
兵衛は彼女を抱き締め、情熱的な口づけを交わした。
「これでもう、ただの戦友には戻れなくなってしまいましたわね‥‥約束して下さいます? けして私だけを残して勝手に死んだりしないって」
そこから少し離れた岩場では、同様に密会していたナタリアと白鐘剣一郎が、重ね合あせていた互いの唇をゆっくり離した。
「‥‥ナタリア、俺は君の事が好きだ」
「私も‥‥今度はもっと‥‥落ち着いた場所で、お会いしたいですわ」
囁くようにいうと、ナタリアは剣一郎の逞しい胸にそっと頬を寄せた。
様々な人の想いが交錯する陸地を離れ、かなめは独り夜の海上をのんびりたゆたっていた。普段身につけている篭手も外し、火傷痕の残る両手で静かに海水を掻きながら。
「うに、皆楽しそうならそれで良いんだよ」