タイトル:大空の悪夢マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/22 09:07

●オープニング本文


「またやられたか‥‥くそっ!」
 競合地域として各地でバグアとの戦闘が続く九州某所。
 戦闘機パイロットからSOSの救難信号を受け、墜落予測地点へと急行した傭兵部隊の1人が吐き捨てるように怒鳴った。
 現場には一般人パイロットの主力であるF−15GJが墜落し、数km離れた地点で脱出用のパラシュートも発見された。
 だが、肝心のパイロットが見つからない。さらに数時間かけて捜索した結果、彼らが目にしたのは原型を留めぬまで噛み砕かれ、血まみれになった射出座席であった。

●ラスト・ホープ〜未来科学研究所
「ヘルメットワームの仕業ではないのだね?」
「はい。墜落当時、付近の空域にHWの機影は見あたりませんでしたから。それに、襲われているのは主に一般人パイロットの搭乗する戦闘機や輸送機、ヘリコプターばかりなのです」
「となると‥‥犯人はやはり飛行キメラということか」
「おそらくは。一応レーダーにそれらしい反応はあったのですが、対KV用の超大型タイプとも違いますね。体長はせいぜい4、5mといった所でしょう‥‥ですが、それだけに却って厄介です。何しろ、敵は機体ではなく‥‥直接コクピット内のパイロットを狙って来るわけですから」
「ふうむ‥‥」
 知人のUPC空軍将校から相談を受けた蜂ノ瀬教授は、腕組みして考え込んだ。
「まるでグレムリンみたいな奴だな。‥‥ほれ、まだ飛行機が兵器として実用化されて間もない時代に、パイロットの間で『空の怪物』として怖れられた」

 20世紀初頭、まだ人類にとって大空が未知の領域だった頃、パイロットの間では様々な怪異が語られていた。空飛ぶ小鬼「グレムリン」然り、謎の火の玉「フー・ファイター」然り。
 その後航空技術の発達に伴いそれらの「伝説」も過去のものとなった――はずであったが、バグア襲来によりレーダー使用が大幅に制約され、加えて各種飛行キメラの出現により、再び空は人類の侵入を拒む「魔境」と化していたのだ。
 ともあれ軍からの要請により、コードネーム「グレムリン」と命名された新種キメラへの対策は蜂ノ瀬教授をリーダーとする研究所スタッフに一任された。

「‥‥というわけなんだが、君はどう思うかね?」
 教授から意見を求められ、助手のナタリア・アルテミエフ(gz0012)はPC画面に表示された軍のレポートに改めて目を通した。
「早急に対処するべきですわね。対ワーム戦の主力が能力者搭乗のKVといっても、数の上で九州防衛を支えている在来型戦闘機や輸送機の安全を確保しない限り、戦線の維持が一層困難になる怖れがあります」
 見た目は女子大生のような若さにもかかわらず、既に博士号も取得済みの才女はノンフレームの丸眼鏡をキラっと光らせ、よどみなく答えた。
「まずは敵の詳しい生態を調査するのが先決でしょう。電子偵察機による写真撮影、その他各種センサーによるデータ収集が望ましいですわ」
「そうそう。できれば、偵察機パイロットもそれなりの専門家がいいだろうな」
 我が意を得たり、という顔で深々頷いた蜂ノ瀬は、満面の笑みを湛えてナタリアの肩をポンと叩いた。
「そういうわけで、君ちょっと飛んで来てくれんかね?」
「‥‥‥‥は?」
 一瞬ポカンと口を開けたナタリアの顔面から、みるみる血の気が引いた。
「あ、あのぉ〜‥‥私、飛行機の操縦はちょっと‥‥」
 能力者のサイエンティストであり、研究者として天才的な才能を持つ彼女も、ただ一つ重大な欠点――重度の飛行機恐怖症を抱えていたのだ。
「あ! いやいや、みなまでいわずともよろしい。勇敢な君の事だから、きっと私が止めても自ら志願するだろうと思ってねえ。『善は急げ』ともいうし、実は君が温泉旅行に行ってる間に空軍に要請して、もう『岩龍改』の手配も済ませてある」
 実の所は「他に志願者がいなかったから、たまたま休暇中だった彼女に押しつけた」というだけの話だが。
「‥‥」
 放心状態のナタリアに背を向け、お土産の温泉まんじゅうを頬張りつつ、蜂ノ瀬は早速ULTへ電話し護衛の傭兵部隊派遣の依頼を出すのだった。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
玖堂 暁恒(ga6985
29歳・♂・PN
聖・綾乃(ga7770
16歳・♀・EL
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
ジュリエット・リーゲン(ga8384
16歳・♀・EL
テミス(ga9179
15歳・♀・AA

●リプレイ本文

『阿蘇山上空、高度4千m付近に飛行キメラらしき複数の機影を認む。待機のKV部隊はただちに要撃体勢に入れ。オーバー!』

 九州方面隊防空指揮所からの通報を受けた傭兵達は、取り急ぎ新田原基地のハンガーに駐機させた各自のKVへと乗り込み、相次いで滑走路へと移動した。
「ったく、脱出して無防備な状態を狙うなんざ、碌でもねぇキメラだな。ま、兎に角被害が拡大させない為にも、対抗策のヒントのひとつでも出る様、情報を集めてもらわんとな」
「気の利いた嫌がらせ‥‥してくれんじゃねぇか‥‥ウゼぇから‥‥とっとと潰してやるよ‥‥」
 同じディアブロに搭乗する風羽・シン(ga8190)と玖堂 暁恒(ga6985)が、無線を通して言葉を交わす。
「手の出せない相手を狙うなんて、随分と卑怯な真似をしますわね‥‥これは一つお仕置きをして差し上げましょう」
 今回が初KV戦となるジュリエット・リーゲン(ga8384)も、ナイチンゲール改の操縦席で怒りを隠せない。
 傭兵達が憤る通り、今回の目標である新種キメラ「グレムリン」の特性は、なぜかKVとの戦闘はひたすら避け、UPC軍の在来型機ばかり――しかも機体ではなくパイロットを直接狙って襲う点にある。
 短期間でKV操縦を習得できる能力者と違い、一般人パイロットの育成にはそれなりの長い年月を必要とする。つまり彼らを狙い打ちにされるということは、UPC軍にとってはジワジワ真綿で首を絞められるのに等しい。
 いかに対ワーム戦の主力がKVといっても、補給や輸送も含め数の上で戦線を支えているのは、やはり彼ら一般人の操縦する在来型機なのだから。
「一般人パイロットばかりを襲うキメラ‥‥。意図的に区別して襲っているのだとしたら、それなりの知力はある‥‥と考えるべきか」
「本能的に刷り込まれたパターン認識でKVを避けているとも考えられますが‥‥こればかりは調査してみなければ判りませんわ。キメラの生態には、未だに謎の部分が多いですから‥‥」
 煉条トヲイ(ga0236)の疑問に、岩龍改に乗ったナタリア・アルテミエフ(gz0012)が答える。つまり今回の依頼目的はグレムリン討伐よりその生態データ収集がメインであり、それを担当するのが研究所スタッフであるナタリア自身というわけだ。
「何だか声が震えてるようだが‥‥大丈夫なのか? 例の飛行――」
「し、心配ありませんわ! オホホホ!」
 大慌てでその場を取り繕うナタリア。彼女が重度の飛行機恐怖症である事は、一部の傭兵達の間では既に「公然の秘密」と化している。
「私だって能力者の端くれですもの。それに、こんな事もあろうかと、今回は準備万端整えてきましたわ!」
 そういうナタリアの操縦席は、先日の鹿児島温泉旅行の際に手当たり次第買いこんできた神社仏閣の御守りが、コクピット内狭しとぶら下がっている。
 まあ「開運厄除」「交通安全」はまだ判るとして、中には「安産祈願」だの「学業成就」の御守りまで混じっているのが理解に苦しむ所であるが。
「大丈夫ですか? ‥‥謎の敵を前に不安でしょうが、僕達がしっかりとガードします。それに、最近の機体は優秀ですから、そう簡単に『落ち』たりはしないですよ」
 事情を知らない流 星之丞(ga1928)が穏やかな微笑と共に通信を送ると、無線機の向こうで「ひっ!?」と短い悲鳴が上がった。
「あ、あのぉ‥‥申し訳ありませんけど、今回の任務中『落ちる』とか『墜落』といった単語は‥‥なるべく控えて頂けると、助かるんですが‥‥」
「‥‥え? ああ、了解しました!『落ちる』『墜落』がNGワードですね!?」
 コンソール盤の上にガクッと突っ伏すナタリア。まるで入試間近の受験生である。
 そんな彼女の苦悩を知ってか知らずか、
「悪夢の襲来と言うけどナタリアさん、私はサルディニア島のヘルメットワームを蜂の巣にした小隊の所属よ。ど〜んと行こうや!」
 バイパー改搭乗の三島玲奈(ga3848)が景気よく励ました。
 先の欧州攻防戦では所属小隊『燕・スワロウトレイル』と共に活躍した彼女であるが、その顔には「名誉の負傷」ともいうべき生々しい傷痕が残されている。
「ナタリアさん、はじめまして☆ 一緒にお仕事が出来て光栄ですぅ」
 出撃前の緊張を感じさせない明るい声で、聖・綾乃(ga7770)が挨拶した。
「あ‥‥はじめまして。こちらこそ、今回はお世話になりますわ」
「グレムリン‥‥名前から想像すると、『あの凶暴ながらも可愛らしい』子を思い出しちゃうンですけどぉ〜」
「どうでしょう? あの呼称は、軍の方で命名したものですし‥‥」
「でも、パイロットさん達に危害を加えるなンて事‥‥許せないです。正体を確かめなくっちゃ!」
 20世紀初頭、飛行士達の口コミによる「怪談」で一躍有名となった空の怪物グレムリンは、大ヒットした例のアメリカ映画を引き合いに出すまでもなく「翼の生えた小鬼」として描写される事が多い。ただし今回のキメラについてはまだ目撃して生還した者もいないため、その形態や能力については全くの未知数である。
「さて‥‥回避型KVがどこまでできるのか‥‥やってみましょうか」
 機体強化で回避性能を大幅にアップさせた「阿修羅」初飛行となるテミス(ga9179)が若干緊張しつつも滑走路から離陸。
「大丈夫‥‥シミュレーション通りに‥‥焦らず、落ち着いて、冷静に‥‥ブラボー2・RAY、出撃しますわ!」
 初陣の緊張をほぐすため大きく深呼吸し、ジュリエットもB隊1番機のトヲイに続いて大空へと舞い上がった。


 KVとの交戦を避けるかのごとくゲリラ的な襲撃を繰り返すグレムリンを誘き出すため、UPC空軍は一般人としては最高レベルの技量を誇るベテランパイロットを募り、わざと旧式のF−4ERJを4機編隊で飛ばすことで「囮」とした。
 F−4戦闘機から敵キメラ出現ポイントの連絡を受けたKV部隊は、前衛のA(アルファ)隊5機、後衛のB(ブラボー)隊4機が編隊を組み、ブースターを吹かして現場へと急行する。
 ちなみにナタリア自身はA隊5番機。目標キメラを近接撮影する都合上、多少の危険は承知でも彼女は前衛班にいる必要があったのだ。
 阿蘇山上空に到達したとき、十数匹のキメラをひきつけ旧式ながらも巧みな飛行テクニックで逃げ回っていたF−4編隊は、KV編隊を視認するなりメインブースターを吹かし、「後は頼む!」というようにM2を超える最大速度で戦域から離脱した。
(「何だ? こりゃあ‥‥」)
 キメラのグレムリンを初めて目にした傭兵達は、嫌悪感から一様に顔をしかめた。
「奴ら」は映画などで描かれた、怖いながらもどこか愛嬌のあるモンスターとは、似ても似つかなかった。
 その外観は、一言でいえば「空飛ぶ蛸」。左右に4本ずつ長く伸ばした触手の間に膜状の翼を広げ、中央にあるブヨブヨした頭部に二目と見られぬ醜い顔と鋭い嘴がある。
 その鳥とも軟体生物ともつかぬグロテスクな怪物が、胴体を伸縮させながら水中を泳ぐクラゲの様な動きで大空を飛び交っているのだ。
「グレムリンって言うから、可愛いの期待してたのにぃ〜‥‥うぅ気持ち悪い」
 真っ先に叫んだのは乙女の夢(?)を破られた綾乃だった。
「うぷっ‥‥」
 ナタリアは顔面蒼白で口許を抑えている。もっとも彼女の場合、敵キメラの姿がどうという以前に、KVが離陸した時点で既に真っ青になっていたわけだが。
 それでも覚醒中はエミタAIのサポートで正常に飛行を続けられるあたり、まさに「ULTの科学は世(中略)ーーッ!!」としか言いようがない。
「さて、卑怯なやり方しか出来ぬ不届き者を、成敗しに行くか」
 暁恒がボソっというなり、KV兵装のセーフティを全解除した。
 いったいどういう手段で識別しているかは不明だが、それまでの「獲物」と入れ替わりに出現したKV部隊に気づいたグレムリンどもは、膜翼を大きく広げて急制動をかけ、泡を食ったように福岡方面へと逃走を図る。
 その動きに対しA隊1〜3番機、B隊4機が有効射程に入るなりミサイルなど遠距離兵器を発射。さらに1部のKVはキメラ逃走を阻止するべく敵前方へと回り込む。
 A隊4番機の星之丞は、ナタリア機直衛として共に後方へ下がった。同時に、ナタリアの岩龍改はECCMの電子支援を開始。
 玲奈はナタリアに戦闘中の管制を要請すると共に、自らも副兵装スロットに装備したガンカメラによりキメラ撮影を実施した。
 キメラとしては大型の部類に入るグレムリンだが、その戦闘力においてはやはりKVの敵ではなかった。ミサイル1発を食らって呆気なくバラバラに吹き飛ぶ所からみて、回避や防御はあのキューブワームより脆いようだ。
 ただし全てを吹き飛ばしてしまったら「調査」にならない。傭兵達はまず敵キメラの群を包囲しつつ、その数を減らす作業から手を付けた。
「何処へ行くつもりだ? 逃がすと思うな!!」
 いち早くキメラの退路を断った暁恒がガトリング砲のトリガーを引く。
 シンもまた長距離バルカンで牽制、ある程度ダメージを与えたところで一気に突入しレーザー砲でとどめを刺した。
「アルファ3、テミス、行きます!」
 カスタマイズした阿修羅の回避力を存分に活かし、テミスは敵キメラを翻弄しつつAAM、ロケット弾を撃ち込む。
「さあさあ、当てられますか? 私は一筋縄ではいきませんよ! ‥‥多分」
 AAMとロケット弾は最後の1斉射分を残し、後はガトリング砲の攻撃に切替えた。
「悪戯が過ぎましてよ? これからは、お仕置きの時間ですわ」
 初の実戦となるナイチンゲール改の操縦にも馴染んできたジュリエットは、訓練どおりスナイパーライフルRで風船のようなキメラの頭部を破裂させた。
「鬼さんこちら♪ 手の鳴る方へ☆」
 挑発するようにR−01の翼をバンクさせる綾乃機に対し、「第1世代KVならまだ勝てる」と甘く見たのか、1匹のグレムリンが方向転換して立ち向かってきた。
 至近距離まで近づいたキメラが触手を伸ばして襲いかかってくるや。
「‥‥甘い。捕まってなど、やる訳がないでしょう?」
 覚醒による影響か、普段のあどけなさからは想像もつかぬ小悪魔的な冷笑を浮かべ、綾乃はスラスター噴射により回避。機体を横滑りさせ軌道修正の後、アグレッシブ・ファング付加の滑腔砲を叩き込み、醜悪な空の怪物を粉砕する。
 この時点でグレムリンの群は残り3匹まで減っていた。
 このまま全滅させるのは容易いが、今回最も重要な任務――生きた状態のキメラからデータ採取という作業が残っている。
 そのため最低1匹は残し、ある程度抵抗力を削った上でナタリアの偵察機に近接させる必要があった。
「この砲弾を枕にして地獄でうなされろ!」
 1匹のグレムリンに間合いを詰めた玲奈のバイパー改がガトリング砲を浴びせてひるませたところで、リニア砲とレーザー砲のコンボで欠片も残さず焼き尽くす。
「キメラ退治にゃ勿体無さ過ぎる武装よ!」
「創られし歪な者よ、速やかに無へと還りなさい!」
 ジュリエットがハイマニューバ併用でSライフルRを発射、さらに1匹を撃破した。
 最後の1匹となったキメラに対し、傭兵達は本体を傷つけないようバルカン砲やスナイパーライフルのピンポイント射撃により膜翼の一部を撃ち抜き、その動きを鈍らせた。
「僕が安全を確保しつつ誘導します、行きましょう」
 星之丞に促され、それまで後方に待機していたナタリアが岩龍改を前進させる。
 百m内の至近距離まで接近したうえでまず望遠カメラによる画像撮影、さらに各種センサーによる生体データ採取。
 さすが研究所所属のサイエンティストだけあり、一般人なら小一時間はかかりそうな複雑な機械の操作を1分足らずで手早く済ませる。
「――終わりましたわ!」
 各機に通信を送り、グレムリンから離れようとしたとき。
 シュルルルッ! それまで死んだように動きを止めていたキメラの触手が、突如として岩龍改の機体に絡みついた。
「ぎゃああああーーっ!?」
 恥も外聞もないナタリアの悲鳴が無線を通して響き渡る。
 ――ちなみに彼女は飛行機恐怖症であると同時に、大の触手嫌いでもあった。
 風防の強化ガラス越しに不気味な大型キメラの形相がグワっと広がり、鋭い嘴がキツツキのごとくガンガン風防を突いてくる。
「きゃー! きゃー! きゃー!」
 思わず動転して脱出ボタンを押しそうになるが、それが敵の狙いだと気づき、辛うじて思い留まるナタリア。
 ナタリア機を救出しようにも、下手に攻撃すれば彼女の機体も巻き添えにしてしまう。
 傭兵達が息を呑んで見守る中、トヲイのアンジェリカが慎重に後方から接近。
「‥‥グレムリンか。だが、大空で悪夢を見るのは貴様の方だ‥‥!!」
 追い抜き様にソードウィングが一閃し、キメラの触手のみを正確に切断した。
 ふぉぉーーーっ!!
 呼吸音とも悲鳴ともつかぬ唸りを上げ、キメラの胴体が岩龍改から剥がれていく。
「やらせない‥‥ナタリアさん、さぁ今のうちに離れて!」
「ナタリアさんを傷つけたらお前ら星ごと呪い潰す!」
「今まであなたたちが殺めた命、ここで償ってもらいますよ‥‥!」
 触手を失い空中へ放り出された最後のグレムリンに対し、星之丞、玲奈、テミスの各機が集中砲火を浴びせる。
 幾多のパイロット達の命を奪ってきたバグアの新種キメラは、大空に自らの血と肉片を盛大にばらまいてその姿を消した。


 任務終了後、基地への帰投中。
「この記録で、もう誰も傷つかなくなればいいな‥‥」
「この作戦で得た情報‥‥これから、敵戦力に対してしっかりと対策を取らないといけませんね」
 星之丞やテミスの言葉に対し、
「今回の調査でグレムリンの行動パターンや固有の生体反応もだいぶ解明できるはずですし‥‥今後はパイロットさん達へ早めの警報を出すことで、被害を大幅に減らすことができると思いますわ」
 無事任務を果たしたナタリアも、安堵したように答える。
「ナタリアさん♪ 空って気持ちいいでしょう?」
 覚醒を解き元の無邪気少女に戻った綾乃が、ちょっぴり悪戯っぽい笑みを浮かべて声をかける。
「そ、そうですわね。ホホホ‥‥」
「今回収集したデータ、有効活用してくれよ? それと――例の『恐怖症』の克服、頑張ってくれ」
「はあ‥‥努力します」
 トヲイの忠告に、シュンとなって頷くナタリア。
 とはいえ、幼少時のトラウマに基づく性癖だけに、そうそう容易く治るものでもないだろうが。
(「能力者なのに飛行機恐怖症とは、変ったお嬢さんだな。本当に‥‥」)
 コクピット内で肩をすくめつつ、トヲイはアンジェリカの進路を新田原へ取るのだった。

<了>