タイトル:九州戦線・泥濘の中でマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/18 20:02

●オープニング本文


「しかし、飽きもせずよく降るな‥‥」
 塹壕の中から外の様子をうかがいつつ、UPC陸軍士官の1人がぼやいた。
 季節はまさに梅雨。篠突く雨が、バグア軍の襲来に備えて幾重にも掘られた野戦陣地の塹壕の中にも容赦なく降り注いでいる。
 ただでさえじめじめした塹壕の地面に小川のごとく泥水が流れ、野戦服の上にポンチョを羽織っても外から沁みる雨水と体から吹き出る汗のため、不快指数200%などという生やさしいレベルではない。
 塹壕内の兵士達は雨に打たれつつも重機関銃やロケットランチャーを構えて警戒配置に付いているが、中には疲労のため銃座にもたれかかったままうたた寝し、下士官からどやしつけられている兵もいた。
 それでもここ数日は平和な方だ。雨の下での露営はきついが、ワームやキメラの襲撃に比べれば遙かにマシである。
「大ミミズどもの動きはどうだ?」
 地震計の観測を担当する部下の兵士に尋ねてみる。
「はっ! 今の所接近の兆候は見られません」
「そうか。ならいいが‥‥」
 この陣地は東と西の左右を高い崖に挟まれているため、ヘルメットワームによる空襲から身を隠しやすい地形となっている。また、柔らかく地滑りを起こしやすい地質は、敵陸戦ワームの主力であるゴーレムの侵入を阻む役にも立っている。もっともこれは、人類側KVについてもいえることだが。
 最も怖ろしいのは地中ワームのアースクエイク、及び地中型キメラによる奇襲だが、これに対しては陣地の周囲や地底に分厚いメトロニウム合金の装甲板を埋設することで、一応の防衛体制を敷いている。
 守るに易く攻めるに難い。そのためか、峡谷の北側に陣を敷くバグア軍も、時折対人用の中小型キメラが散発的に襲撃をかけてくる程度で、今の所は本格攻勢の気配を見せていなかった。
(「当分にらみ合いか。にしても‥‥」)
 士官は後方の陣地を振り返った。
(「最新鋭のKVとまではいわんから‥‥せめてSES兵器搭載のM−1戦車くらい配備して欲しいもんだな、上の連中も」)
 部隊の主力は陸自時代の名残ともいうべき74式戦車改。一応対キメラ戦用に火力を強化してあるとはいえ、対ワーム用としては殆ど頼りにならない。それさえも数が足りず、冗談のような話だが半世紀近く昔の旧式戦車をベースとする61式戦車改の姿さえ混じっていた。
「ま、敵さんも動かんというなら‥‥いまのうちメシでも食っとくか」
 形態糧食のパックから取り出したタクアン漬けの缶詰を開け、最初の一切れを口にしようとした、そのとき。
 突然グラリと地面が揺れ、北の方角から派手な爆発音が轟いた。
「敵襲ぅーーっ!! 総員、戦闘配置につけぇー!!」
 そんな怒鳴り声が、陣営のあちこちから上がる。
 士官もまた、食べかけの缶詰を放り捨て、慌てて双眼鏡にかじりついた。
 陣地北側に設置した地雷原が次々と爆発し、爆炎と土砂が吹き上がる中、大きな影が2つ、地を這うように接近してくる。
「まさか、EQ‥‥!?」
 一瞬血の気が引くが、双眼鏡の視界が捉えた「敵」は、同じワームでも怖れていたEQとは別物だった。
 全長約10m。小型HWに短い4脚を生やした形状のそれは、ゴーレム出現以前に敵地上戦力の主力を成していた旧タイプの陸戦ワームである。
「名古屋防衛戦の頃までよく見かけた奴だな‥‥考える事は、敵も同じってわけか」
 もっとも同じ「旧式兵器」といっても、ワームと在来型戦車ではまるで勝負にならないわけだが。
 74式戦車改の105mm砲が相次いで火を噴くが、ワームの機体に輝く赤いフォースフィールドに弾かれ、さしたるダメージは与えていないようだ。
 だが地雷の爆発が小規模な崖崩れを起こし、2機のワームを土砂で覆い尽くす。陸戦ワームは何とかはい出ようと生物のごとく身もだえした。
 わずかながら時間稼ぎになりそうだが、埋もれかけたワームのさらにその上を乗り越え、大小多数のキメラが陣地目がけて押し寄せてくる。そのうち何割かは地雷でFFもろとも吹き飛ばされるが、いずれ地雷原も突破され、塹壕地帯まで侵入されるのは時間の問題だった。

「KVだ! 早くKVを寄越せ!」
 後方のトーチカ内指揮所では、部隊指揮官が電話に噛み付かんばかりの剣幕で、九州方面隊司令部へ援軍を要請していた。
「何ぃ、こちらに回す分がない!? なら生身でも構わん! ワームとやりあえる能力者の部隊を呼べっ!!」

 峡谷に降り注ぐ雨が、一段とその強さを増した。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
桜崎・正人(ga0100
28歳・♂・JG
緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
イレーネ・V・ノイエ(ga4317
23歳・♀・JG
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN

●リプレイ本文

「サイエンティストがおらんのか? それは困ったな‥‥ここにも一般人の軍医しかいないぞ」
 移動艇から降りてきた傭兵部隊の点呼を取るなり、守備隊長を務めるUPC軍将校は眉をひそめた。
 ファイター2名、ダークファイター1名、グラップラー3名、スナイパー4名。
 戦闘面に限っていえば、前衛・後衛のバランスが取れた編成といえる。ただし味方の生命回復役を担うクラスを欠くのは、何とも痛い。
 それでも通常の対キメラ戦なら、短期決戦で一気にカタをつければ済む話だ。
 だが今回の敵は――。
「ワームを相手に生身か‥‥少々、厳しいがやるしかないな‥‥」
 八神零(ga7992)が呟く。歴戦のファイターとして強靱な体力を誇る彼だが、前回依頼による負傷が治りきっていないため、残り練力にやや不安を残す参加である。
「旧式とは言え、ワーム2体は特に厄介な相手だな。真正面から戦っても、効果的にダメージを与えられるとは思えんが‥‥さて、どうした物か」
 降りしきる雨に打たれながら、煉条トヲイ(ga0236)も難しい顔で考え込む。
「生身でワームとやりあえなんて無茶な注文ですけど、みんなで生き残るためにできるだけの事は頑張りましょうか」
 整った顔を引き締め、鏑木 硯は(ga0280)「蛍火」の柄を握りしめた。
 ともあれ、この場は手持ちの救急セットや回復用の携帯食、活性化のスキルなどで何とか凌ぐしかあるまい。
「我々も出来る限りの援護はしよう。この谷を突破されると、後方の人類側都市が危険に晒されることになる」
 そう言い残して将校は指揮所のトーチカに引き返し、傭兵達は最前線で指揮を執る先任士官の案内で塹壕内へと入った。
「塹壕に戦車‥‥もとい陸戦ワーム。気分はほとんど第1次世界大戦だな。おあつらえ向きに私の武装は機関銃だしな」
 周囲の光景を眺めやり、戦史に詳しい緑川 安則(ga0157)が苦笑いする。
 アグレアーブル(ga0095)は双眼鏡で戦場を見渡し、また先任士官にも現在の詳しい戦況を確認した。
 士官によれば、地雷の爆発による崖崩れにより一時は動きを止めた陸戦ワームだが、間もなく土砂を払いのけ前進を再開するだろうという。またワームと共に襲来した中小型キメラの大軍は犠牲を払いつつも地雷原を強行突破、こちらも間もなく北側から塹壕内へ押し寄せてくるとの返答だった。
「死にたくなければ、既存部隊はあまり前に出すぎないでくれよ」
 時任 絃也(ga0983)の忠告に対し、
「むろん我々とて犬死にする気はありません。しかしワームはともかく、あれだけの数のキメラが相手では貴官らの手に余るでしょう?」
 正規軍側の支援としては、後方から155mm榴弾砲2門、及び74式戦車改3両による支援砲撃。機動力と火力の弱い61式戦車改2両は塹壕内に掘った穴に隠し、対キメラ用に使うとのことだった。
 アルヴァイム(ga5051)が対戦車火器の数について尋ねたところ、歩兵携帯式の無反動砲、ロケットランチャーなどが約50基という返答だった。
 これらの重火器で武装した特別部隊を編成し、対キメラ戦の支援にあてるという。
 最後に両部隊は相互の無線の波長を合わせ、観測兵から常に最新の情報を得られるよう手短かに打ち合わせた。
「私達能力者だけでは勝てない敵、援護をお願いします」
「お任せを。多くの戦友が倒れる中、我々も徒にこの18年を生き延びてきたわけではありません」
 さっと挙手の礼をとり、部下を率いて足早に配置へ戻る士官の背中を見つめながら、
(「彼等がこの戦場に立つには、どれだけの勇気が居るのだろう‥‥」)
 アグレアーブルはふと痛々しく思ったが、元々無表情な彼女がそれを面に表すことはなかった。
 塹壕同士を繋ぐ横穴を通り抜けて北側に移動しながら、零は傍らにいる兵士の1人にワームの「砲身」の位置を尋ねた。
「ほら、奴の胴体の両側から腕みたいに2本突き出してるだろ? あれが戦車でいう『砲塔』だな。で、あの同じ砲身から遠距離の目標には赤っぽい光線を、近距離だと紫の光線を撃って来やがる。赤いのがプロトン砲、紫のはフェザー砲って呼ばれてるが‥‥こっちのレーザーやビームとどう違うかまでは知らねえなあ。何せ宇宙人の兵器だし」
 兵士の喩えどおり腕のようにユラユラ動いている所から見て、ある程度上下左右への射角は取れるようだ。
「真下から、攻撃できればこちらが有利になれると思うが‥‥一種の賭けに近いな‥‥」
 口許に手を当て、零はじっと考え込んだ。

 移動艇内の打ち合わせで、傭兵側は4班編制で行動することに決まっていた。

 狙撃班1:緑川、時任
 狙撃班2:アルヴァイム、鏑木
 狙撃班3:イレーネ・V・ノイエ(ga4317)、桜崎・正人(ga0100
 奇襲班:煉条、アグレアーブル、風羽・シン(ga8190)、八神

 作戦としては奇襲班がトーチカから300〜400m地点の塹壕に潜伏し、先行のワームが真上を通り過ぎるのを待つ。その際、3隊に分かれた狙撃班はワームを攻撃しつつ後退、奇襲班の真上まで誘い出す役割を務める。
「ま、塹壕戦ならでの戦いをする。で、奇襲班に近づかせて、奇襲発動と同時に集中砲火を仕掛け仕留めるしかない」
 狙撃班の仲間達に改めて説明する安則。
 また敵の赤外線センサーを誤魔化すため、傭兵達は各自が顔や体に泥を塗った。
「何か大昔に、泥まみれになってエイリアンと戦うって映画があったな。‥‥まさか自分が同じ事する破目になるとは思わなかったぜ」
「全くだ。此れほど美容に効果を期待できそうにない泥パックも珍しいな」
 シンとイレーネがぼやきあいつつも、地面からすくい取った泥を体に塗りつける。
 逆に安則などは、
「これぞ戦場だな。こうでなくては戦場とはいえんだろう」
 と、どこか嬉しげであったが。

 実は結果からいえば、この行為にあまり意味はなかった。なぜならバグア軍ワームが敵を探知する主な手段は赤外線ではなく重力波センサーであるからだ。
 ただしワーム自体が元々戦車など大型目標の破壊を目的とした兵器であるため、重力波センサーの精度もさほど高いものではなく、歩兵に対してはせいぜい「地面を何か小さな物が動き回っている」という程度の認識であったが。

 準備を整えた傭兵達が各々の配置についたちょうどその時、ついに地雷原を突破したキメラの第1波が、鉄条網などの障害をものともせずに突入してきた。
 ほぼ同時に、覆い被さった土砂を力任せにはね除けたワーム1機も前進を開始。
「生身でワームをとやりあう羽目になるとはな‥‥殺れるか? というより殺らんと後がないか」
舌打ちしつつも、まずは眼前のキメラ群に向けて小銃S−01のトリガーを引く絃也。
「総員、迎撃せよっ!!」
 正規軍の特別部隊も、士官の号令と共に塹壕から身を乗り出し、バックファイヤが友軍兵を巻き込まないか確認の後、一斉に各自の兵器を発射した。
 数十発の対戦車榴弾やロケット弾が煙の尾を引いてキメラ群に吸い込まれ、獣や昆虫、爬虫類等を模した怪物どもをFFもろとも消し飛ばす。
 それさえもかいくぐり、塹壕内に侵入してきたキメラに対しては狙撃班の傭兵達が迎え撃った。
 硯は蛍火の鞘を払い、チームを組むアルヴァイムを護って接近するキメラを切り伏せたた。少女と見まがう美貌が泥とキメラの体液にまみれ、さながら美しき戦鬼と化したかのようだ。
 瀕死のダメージを負いつつもなお弱々しくFFを張るキメラに対し、歩兵達が蟻のごとく群がるや、あるいは自動小銃の零距離射撃を浴びせ、あるいは憎悪の叫びを上げて銃剣で突きまくった。
 スナイパーライフルを構えるイレーネの目と鼻の先に、獣型キメラが飛びかかってくる。彼女は顔色ひとつ変えず、いつも通り怪物の右目を正確に撃ち抜いた。
 その女狙撃手を背後から襲おうとしたトカゲ型キメラの頭部を、正人の小銃S−01が吹き飛ばした。
「‥‥イレーネには傷ひとつつけさせんぞ‥‥」
 ワームの砲身が異様な輝きを放ち、紫色の光線が大地をなぎ払う。
 傭兵と正規軍歩兵は一瞬早く塹壕内に逃れたため、間一髪でフェザー砲の蒸し焼きは免れた。却って地面の上にいた十数匹のキメラが巻き添えを食って焼き殺されるが、4足の陸戦ワームはそんなことお構いなしに塹壕地帯へと乗り込んできた。
「塹壕の中で機関銃を構え、戦車ならぬワームを狙い撃つ。まるでカンブレーでの戦いだな。我が一族も参加したと聞いたことある」
 一般人の歩兵は後方へ待避させ、安則は狙撃眼+影撃ち+強弾撃を同時発動した上でドローム製SMGから貫通弾を放った。
「‥‥そんじゃまぁ、ぼちぼち行こうか。相棒」
「ああ。宜しく頼む」
 互いに声をかけあい、正人とイレーネも対ワーム射撃を開始した。
 塹壕を最大限に活かすため、狙撃を行った後は身を隠してすかさず移動、常に狙点を変えて敵に的を絞らせない
 実際、生身の射撃武器がどの程度ワームに効いたかは不明だが、FFを貫通したSESの銃弾が敵の装甲をある程度削っているのは確かなように思われた。
 そして、ついに傭兵側が待ち望んだ瞬間――奇襲班の潜む塹壕の真上へ、先行のワームが差し掛かった。
「生身でワームと殴り合う日が来るとはな‥‥しかし、それもまた一興――行くぞ‥‥!!」
 トヲイを先頭に、満を持して待機していた奇襲班4名が塹壕から飛び出す。
 比較的脆いと思われる脚部の間接部を狙い、トヲイはシュナイザーによる紅蓮衝撃の一撃を見舞った。
 ワームの巨体が、初めてグラリと揺れる。
 ボディの各部に走る青白いラインが明滅し、2門の砲身が目標を求めるかのごとくせわしなく動く。AI制御で行動する無人兵器であるにもかかわらず、旧型ワームは明らかに「戸惑って」いた。あるいは「生身の能力者との戦闘」じたいプログラムされていないのかもしれない。何しろ能力者が誕生してまだ2年と経っていないのだから。
「戦い馴れないのはお互い様、ですね?」
 トヲイが初撃を与えた同じ場所へ、疾風脚で接近したアグレアーブルがルベウスでさらに斬りつける。
 ここにきて、奴もようやく足下から攻撃するちっぽけな「敵」の存在を認識したらしい。
 ワームのボディから1本の鋼線が伸びるや、所構わず鞭のごとく地面を打ち据えた。
 相手がKVならば、せいぜい牽制程度の攻撃である。だが生身の能力者にとって、その一撃は一瞬で大きく生命を削られるほどの凶器となった。一般人ならば確実に体を切断されていたに違いない。
 奇襲班4名は激しく地面に叩きつけられ、そのまま塹壕内へと転がり落ちた。
「‥‥くそ、流石に堅い!! 腐ってもワームと言う事か‥‥」
 口から血を流し、悔しげにトヲイが呻く。
 奇襲班を援護するべく射撃を続けていた狙撃班の傭兵達も、長く伸びた鋼の鞭で弾き飛ばされ、一瞬にして重傷を負わされた。
 塹壕の底にはいつくばった傭兵たちを狙い、目一杯射角を下げた砲身が怪しい紫色の光を収束させる。
 ドオォーーン!
 落雷の様な音が轟き、ワームの頭上でFFの赤光と爆発の閃光が煌めいた。
 後方に控えた155mm榴弾砲、そして74式戦車改が支援砲撃を開始したのだ。
 むろん通常兵器による攻撃なので、直接のダメージは殆ど与えられない。だが飛来する大質量の砲弾がワームの重力波センサーに反応し、AIの判断を狂わせた。
 これも旧型の哀しさか。奴には、飛んでくる砲弾がSES兵器かどうかなど区別できなかったのだ。
 ワームの砲身が目標を変え、正規軍陣地に向け長距離用のプロトン砲を発射する。
 しかし遙か後方に布陣する榴弾砲へは届かず、また74式改は油圧式サスペンションで車高を下げ、巧みに防塁の斜面へ身を隠した。
 その瞬間に生じた隙を、傭兵達は見逃さなかった。
「さて、スクラップにするとしようか‥‥」
 再び立ち上がった零が傷ついたワームの脚部に「月詠」二刀流による二段撃+豪破斬撃+急所突きの同時発動で斬撃、ついに奴から足1本を奪う。
 ガクッ、と大きく傾いたワームにシンがクロムブレイドの両断剣を打ち込むと、灰色の巨体が動きを止め、ボディ各部から白煙が吹きだした。
「自爆するぞ! 待避!」
 すかさず塹壕内に身を伏せた傭兵達の頭上を、激しい爆風が吹き過ぎる。
 ――残るは1機。
「とにかくワームだ。ワームを仕留めれば勝機もある!」
 安則が塹壕内からSMGを構え直し、スキル併用で後続の1機へ銃弾を撃ち込む。
 アルヴァイムも同じドローム製SMGに貫通弾を装填、ワームの脚部を狙った。
 硯は蛍火を構えたまま瞬天速でワームの真下へ滑り込み、ボディ低部へ決死の急所突きを決める。
「他の人が無茶するの見てるより、自分で無茶してた方が気は楽ですからね」
 正規軍の砲撃に気を取られているうちギリギリ足下まで傭兵達の接近を許してしまった陸戦ワームは、真下に鋼の鞭を振う事も出来ず、一方的に攻撃を浴びる羽目になった。
 それでもあくまで強行突破を図るつもりか、咆吼とも駆動音ともつかぬ唸り声を上げてしゃにむにトーチカ陣地を目指して突き進む。
「此処から先は一歩も進ません‥‥最低でも脚一本は貰って行く!」
 体勢を立て直したトヲイが、狙撃班の傷つけた脚部目がけてすれ違い様に紅蓮衝撃を叩き込むと、ガギッと鈍い音を上げワームの巨体が傾いたまま動きを止めた。
 残った3本の脚をジタバタさせるワームを取り囲み、傭兵達は手持ちの近接武器と銃器でスキル全開の集中攻撃を繰り返す。
 数分後、残存のキメラも巻き込みワームが自爆する2度目の爆発が谷底を揺さぶった。


「‥‥厄介だと思ったが‥‥所詮は旧式か‥‥」
 残骸と化した陸戦ワームを見つめ、零が静かに刀を仕舞う。
 傭兵達もまた全員傷だらけ。既に練力は底をつく寸前だが、辛うじて立っているだけの気力は残っていた。
「‥‥あー、シャワーなんかじゃなく、風呂に全身蕩けるまで浸かりたい気分だぜ」
「確かに風呂が恋しいな。まぁ、L・Hに帰ってからゆっくり、かな」
 シンのグチを耳にしたイレーネが、正人に向かって笑いかける。
 普段は煙草など吸わぬトヲイが、
「‥‥流石に一服したい気分だ。誰か持ってるか?」
 それを聞いた安則が、高級煙草を1本差し出し、自らも旨そうに吸った。
「恩賜の煙草ってやつかな?」
 いつしか雨も降り止み、砲声の止んだ谷底に大きな虹がかかる。
 アグレアーブルは傷の痛みも忘れ、顔を上げてその虹を見つめた。
「今年の梅雨明けも、もうすぐ、かな」

<了>