タイトル:【CH】笹の葉さらさらマスター:対馬正治

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 33 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/14 21:19

●オープニング本文


「ん‥‥心配かけてごめんね。‥‥でも、自分で決めた事だから」
 深夜、2時間におよぶ長電話。
 最後に電話を切る間際、それでも「彼女」はこういってくれた。
『どんなに離れていても‥‥必ずあなたは、帰って来るって信じているわ』


 チェラル・ウィリン(gz0027)はタンクトップの上にノースリーブのGジャンを羽織ったいつもの出で立ちに、武器や身の回りの品を一通り詰め込んだバックパック1個を背負い、日本のとある街角にいた。

「ブルーファントム」脱退。さらに正規軍から与えられた「軍曹権限」も返上し、現在の彼女は一介の傭兵へと戻っている。
 もっともトップクラスのエースであるチェラルが正規軍から離脱する事を上層部はよしとせず、自分の出した辞表は軍内部で「預かり」状態になっているとか、いないとか。
(「色々めんどくさいなあ‥‥ま、いっか。何か用事があれば、向こうから連絡してくるだろ」)
 自らラスト・ホープを離れ、あてもない旅に出てもう半月になろうとしている。
 なぜ急に正規軍を離れたくなったのか、これといって理由はない。
 元々能力者になる前から身寄りもなく、彼女は世界の各地を放浪する生活を送っていたのだ。強いていえば、生来の放浪癖がまた頭をもたげてきたという所か。
 もちろんバグアとの戦いから背を向けるつもりはないが、それは別に一傭兵としてでも続けられる事だ。
(「それに‥‥やっぱりボク、正規軍ってガラじゃないもんなぁ」)
 先の欧州攻防戦の際、後先考えずにUPC軍陣地に突入した挙げ句、勝手に燃料切れを起こし機体を鹵獲された間抜けなバグア軍エースパイロットがいたという。
 別に敵側のエースに同情する義理もないが、「戦闘(ケンカ)は得意でも戦争は不得手」という意味ではどこか自分に似ているような気がしなくもない。本人も今頃バグア陣営でさぞ肩身の狭い思いをしているかと思うと、何となくメシでも奢ってグチのひとつも聞いてやりたくなってしまう。
 まあ実際に対面すれば、その場で血みどろの戦闘になるのがオチだろうが。

 ガードレールに腰掛け、そんな事をとりとめもなく考えていると、すぐ目の前の商店街の店員達が昼間だというのに外に出て、アーケード沿いに色とりどりの笹飾りの飾り付けを始める光景が目に映った。
「あれって七夕の‥‥ああ、そういえばもう7月か」
 チェラルはふと、ラスト・ホープを出る直前に親しい傭兵達と見物した神社の縁日を思い出した。
「あら、チェラルさんじゃありませんこと?」
 振り向くと、そこにレディーススーツを着込みショルダーバックを提げた姿で、まだ女子大生のようなサイエンティスト、ナタリア・アルテミエフ(gz0012)がにっこり微笑んで立っていた。
「ナタリア先生? 何でこんな所に‥‥?」
「近くの医大で学会の講演に呼ばれましたの。それで、この街は七夕祭で有名と聞いてましたから、帰りのついでに見物していこうと思ったのですけど‥‥」
 ナタリアは商店街を見回し、
「‥‥でも、何だか想像したより寂しいですわねえ?」
 長引くバグアとの戦争で、軍需関連産業を除く国内経済はすっかり疲弊している。それでもバグア占領地域や競合地帯に比べれば治安が保たれているだけマシといえるが、ことに地方都市の衰退は著しい。
「年々観光客も減ってるし‥‥七夕も今年が最後かもしれないなあ」
 地元の商店街組合員と思しき男達が額を寄せ集め、難しい顔でそんな事を話し合っている。
「でも子供達も楽しみにしてるし‥‥何とかお祭りは続けられませんかねえ?」
 チェラルとナタリアは顔を見合わせた。
「ねえ先生? こういうの手助けするのも、ボクらの仕事だよね?」
「どうでしょう? ‥‥でも、一応お話してみましょうか?」
 2人は頷き合い、商店街の人々の方へ歩き出した。

●参加者一覧

/ 白鐘剣一郎(ga0184) / 柚井 ソラ(ga0187) / クレイフェル(ga0435) / 御坂 美緒(ga0466) / 赤霧・連(ga0668) / 七瀬 帝(ga0719) / クラリッサ・メディスン(ga0853) / 愛紗・ブランネル(ga1001) / 新条 拓那(ga1294) / 篠原 悠(ga1826) / リヒト・グラオベン(ga2826) / 漸 王零(ga2930) / 愛輝(ga3159) / 寿 源次(ga3427) / 王 憐華(ga4039) / ファルル・キーリア(ga4815) / 勇姫 凛(ga5063) / 呉葉(ga5503) / Letia Bar(ga6313) / 草壁 賢之(ga7033) / 不知火真琴(ga7201) / 砕牙 九郎(ga7366) / 斑鳩・八雲(ga8672) / レティ・クリムゾン(ga8679) / テミス(ga9179) / サルファ(ga9419) / 神無月 るな(ga9580) / シュブニグラス(ga9903) / 最上 憐 (gb0002) / 中岑 天下(gb0369) / 城田二三男(gb0620) / 水雲 紫(gb0709) / 鴇神 純一(gb0849

●リプレイ本文

●宴の支度
 駅前商店街からいくらか離れた場所にある、静かな竹林。街中の喧噪とは別世界のような静謐の中で、漸 王零(ga2930)は息を殺し、名刀「国士無双」の柄に手を掛けた。
「――むんっ!」
 秋水一閃。太さ十数cmはある大竹がバタバタと倒れ、背後で見守っていた商店街組合の面々が「おーっ」と歓声を上げる。
「既にナタリア女史からお話があったかも知れないが、我々にも七夕祭をお手伝いさせて欲しい」
「いやあ、助かります。こちらからも、ぜひよろしくお願いしますよ」
 寿 源次(ga3427)の言葉に、普段はスーパーを経営する組合長も深々頭を下げた。
「うしッ‥‥全力で今を楽しみ、楽しませてみせようじゃないかッ!」
 草壁 賢之(ga7033)が己に気合いを入れる。
 同行する斑鳩・八雲(ga8672)も、
「笹の葉、七夕、天の川‥‥すっかり夏なのですねぇ」
 切り出した竹材は傭兵達が協力して運び出し、商店街側が用意したトラックに積んで会場へと運んだ。

●文月の星祭
(「七夕ですか‥‥日本に逃れた時はそのような余裕は無かったので、手伝いも大事ですが、この機会に楽しませて頂くことにします」)
 本部のテントから祭の会場を眺めながら、リヒト・グラオベン(ga2826)はしみじみと思っていた。

『能力者の傭兵が全面協力!』との宣伝が前評判を呼び、今年の七夕祭は例年にない賑わいを見せている。色とりどりの吹き流し・千羽鶴・くす玉・短冊といった笹飾りが林立する商店街で、地元の屋台に混じって傭兵達も様々な店を広げていた。

「寄ってらっしゃい見てらっしゃーい! 疲れを癒すには甘いもの。ちゅーわけで、リンゴ飴はいかが? あ。食べやすい姫リンゴの飴もあるさけな」
 紺の甚平、狐のお面を斜めに掛けて腕まくりといういなせな出で立ちで、クレイフェル(ga0435)が景気のいい声を張り上げた。
 その傍らに、白地に撫子と流水の柄の入った女物の浴衣で甲斐甲斐しく手伝う柚井 ソラ(ga0187)の姿もある。
「いらっしゃいませ。飴菓子はいかがですか? チョコバナナもありますよ」
 なぜ女物かというと、浴衣を送ってきた実家の母親が息子(ソラ)に可愛い格好をさせるのが好きだからである。ソラ本人としては不本意なのだが、母の好意を無碍にもできず、やむなく着ているのだった。
「おにーさんにじゃんけんで勝てたら、もう一本サービスしてあげよ」
 人懐こい笑顔を浮かべ、小さな子供客に話しかけるクレイフェル。
 裏メニューとして、兵舎で開いている喫茶『Lucky Days』のモンブランもひっそり用意してあった。
「L・H1美味しいモンブランやで? 要る人は言うてな」

 紺の腹掛、股引、法被といった江戸っ子御祭仕様をまとった愛輝(ga3159)は、浴衣姿に襷がけの呉葉(ga5503)、赤茶に白牡丹の浴衣に濃紺の帯を締めたLetia Bar(ga6313)らと共に定番の「綿アメ屋」を開いていた。
「らっしゃい、らっしゃーい。大きくてふわふわの綿あめですよー。甘くて頬っぺたゆるんじゃいますよー」
「祭りといったらワタアメ! ワタアメなくっちゃ始まりも終わりもないよっ!! ちょいとそこいくお兄さん、ワタアメ買ってかない?」
 売り子担当の呉葉とLetiaも元気よく笑顔で客寄せに励む。
 ことにLetiaは若い兄ちゃん相手に浴衣の胸元から豊満な谷間を強調し、ちょっとでも頷こう(覗き込もう)ものなら、
「はい、お兄さん4本お買い上げっ! 太っ腹ぁ〜」
 と超・笑顔で売り上げ急上昇。
 しかしさすがに強引だったか、しまいには後ろで黙々と綿アメ作りと勘定に励んでいた愛輝にさりげなく窘められてしまったが。
 ちょうどそこに、今回のイベント発案者の1人であるチェラル・ウィリン(gz0027)が通りかかった。
「お疲れーっ♪ ボクらにもくれるかな?」
 傭兵同士の場合代金はタダなので、5本の綿アメを受け取ったチェラルは同行のヒマリア・ジュピトル(gz0029)、テミストとミーティナ、そして勇姫 凛(ga5063)にも手渡した。
 まだL・Hにいた頃、チェラルは凜から人づてに浴衣「紫陽花」を贈られている。そこで今日の七夕祭では、ヒマリアに頼んで持ってきた貰ったその浴衣姿での参加であった。
「‥‥チェラル、浴衣とってもよく似合ってる」
 思わず見とれてしまい、一瞬の間を置いて誉める凜。彼自身は浴衣「蛍」を着付けている。
「エヘヘ、そーかなぁ?」
 普段あまり和服を着る機会の少ないチェラルは、照れくさそうに頭を掻いた。
「怪我もすっかり良くなったみたいで、凛、安心したよ。今日は思いっきり楽しんで、七夕祭りも盛り上げようなっ」
 人混みの間からチェラル達の姿に気づいた愛紗・ブランネル(ga1001)が、駆け寄って来るなりギュッと抱きついた。
 傍らにいる凜の姿に気づき、チェラルを見上げて小首を傾げる。
「んー‥‥愛紗お邪魔?」
「そんなことないよ! みんなで回ろ?」
 チェラルは笑いながら愛紗と手を繋いだ。
「やっぱりラクスミお姉ちゃんはいないんだね‥‥」
「王女様は、空母のお仕事で忙しいからなぁ〜」
「だから今度は『サラスワティ』で水泳大会なのです♪」
 唐突に背後からチェラルに抱きついた御坂 美緒(ga0466)が、彼女の胸をふにふにしてきた。
「わああっ!?」
「この前の依頼が成功したので、乗組員の方々と約束した通りラクスミさんにお手紙でリクエストしたのです♪ チェラルさんも来てくれるですよね?」
「え? で、でもボク、これからしばらく旅に‥‥」
「お誘いを受けて頂くまで続けるですよ?」
 ふにふにふに。
「――わ、わかった! 参加するよ! く、くすぐったいからもうやめて‥‥ギャハハハ!」
 かくしてチェラルから約束を取り付けた美緒は、何気にその場から逃げようとしていたヒマリアを、ついでにミーティナも捕まえて恒例のふにふに大会。
「むむ‥‥少し成長したでしょうか♪ ふっふっふっ、ご褒美に一割り増し大胆にやるですよ♪」
「ヒ〜ッ! か、勘弁して御坂さ〜ん!!」
 ゲラゲラ笑いながら身悶えるヒマリアも、結局水泳大会への参加を余儀なくされる。
 もっともまだ10歳のミーティナはきょとんとした顔で、
「これ、何かの健康法ですか?」
 と不思議そうに尋ねるばかりであったが。
 ちょうどそこに、ヒマリアと誘い合っていたクラリッサ・メディスン(ga0853)が少し遅れて到着した。日本の祭じたい体験の少ないクラリッサだが、今回ヒマリア姉弟やミーティナのため浴衣をレンタルして着付けてもらい、クラリッサ自身もクリーム地に朱の撫子柄が散らした柄の浴衣姿である。
「これが日本の七夕のお祭り‥‥素敵なものですわね。ヒマリアさん達もそう思いません?」
「そーですね。あたしもL・Hの縁日に行き損ねたから、今日は目一杯エンジョイします☆」
 美緒が使い捨てカメラでチェラルと凜の2ショットを収めると、一行はクラリッサ&美緒&ヒマリア姉弟&ミーティナとチェラル&凜&愛紗の二手に分かれ、それぞれ祭の会場を巡り始めた。

「はーーーっはっはっはっはっは!!」
 立ち並ぶ屋台の一軒から、どこか聞き覚えのある高笑いが響く。
「僕の名は七瀬 帝(ga0719)。ラストホープ随一の美形スナイパーだよ!!」
 と、自ら名乗る彼が開いているのは「アイスキャンデー屋」。
「暑い日中にひと時の涼と僕の美しさを堪能していただきたいのさ!!」
 その服装はといえば、特注でオーダーした金色生地、そしてラメの浴衣。
 屋台じたいは至って普通。クーラーボックスの中にはミルクにあずき、オレンジにグレープ、ゆず、コーヒーというオーソドックスなキャンデーが並んでいる。
 しかし、どれも美容に利くコラーゲン配合。そしてなぜか10本に1本は金ラメ入りであったが。
「あー、七瀬さん! ご無沙汰してまーす」
「ヒマリアくん、テミストくん、久し振り! ぜひ寄っていただきたいね」
「どれがお勧めなんですかぁ?」
「本日のお勧めはこの『ローズ味』。薔薇の花弁入りの、香りのよいアイスキャンディーだよ!」
 気合い8割増しの笑顔で、帝はローズ味キャンデーを差し出した。

「やっぱり、お祭りはいいわねぇ。っと、見とれている場合じゃないわ。準備しないとね」
 ファルル・キーリア(ga4815)は、本部テントの一角を借りてカレー屋を開いていた。
 現在はバグア占領下にある横須賀・旧米軍基地の出身である彼女の売り物は、かつて地元で町おこしにも使われた本場の「海軍カレー」。
「小麦粉をバターで炒めて‥‥カレー粉を追加っと。これでルーの完成ね。これをスープに入れて煮詰めれば完成よ」
 大鍋から立ちのぼるカレーの香りが食欲をそそるのか、昼食時となると列ができるほどの繁盛となった。
「このペースで売れると‥‥ストックが早めに尽きそうね。どんどん作っちゃいましょ」
 ルーの残りを気にしながらふと顔を上げると、以前ベオグラード戦で共にEQと戦ったチェラル達が店頭でカレーをパクついている。
「もう、傷とエミタの調子は大丈夫なの??」
「ムグ?」
 幸せそうにカレーを頬張っていたチェラルはお冷やで慌てて飲み下し、
「あー、あの時は迷惑かけちゃってゴメンね。ケガはもう治ったよ? エミタも研究所できちんとメンテしてもらったし」
「なら、いいけど‥‥あんまり1人で背負い込んで無茶しちゃダメよ? 1人で戦ってるわけじゃないんだから」
「アハハ‥‥そうだねえ。次からは気をつけなくちゃ」
 ちょっとバツの悪そうな顔で笑いながら、残りのカレーを掻き込むチェラル。
「でも美味しいね、このカレー。もう一杯おかわり、いい?」

 参加者の傭兵の中には、最初からお客として参加している者も少なくない。
 親しい傭兵仲間である篠原 悠(ga1826)、不知火真琴(ga7201)、砕牙 九郎(ga7366)、レティ・クリムゾン(ga8679)らはグループで行動していた。
 身の丈2mの大男に美女3人という、かなり目立つ一行である。
 ことに悠にとってレティは憧れの同性だった。
「レティさん、浴衣すっごく似合ってます! かわ‥‥」
 といいかけるが、「可愛い」は禁句と思い出し、
「素敵です! 〜♪」
 誉められたレティも、少し照れた表情で、
「‥‥ありがとう」
「あの、手、繋いでいいですか‥‥?」
 悠は甘えるようにレティと並んで歩いた。
 屋台の方も行きたい店は色々あるが、悠の場合目当ては何と言ってもたこ焼き屋。
 自兵舎でたこ焼き屋台を営む彼女としては、
「ライバル店の味はチェックや!」
 とファイト満々である。
 4人は客として屋台巡りを楽しむ傍ら、迷子案内の手伝い、犯罪の抑止など自主的に会場警備の役目も務めていた。
 真琴は友人の愛輝らの屋台を訪れ、途中で購入した冷たいドリンクを差し入れに。
「皆さん暑い中お疲れ様なのです、良ければこれ飲んで下さいねv」
 奥から出てきた愛輝も喜んで綿アメを配る。
 次に顔を出したのは帝のアイスキャンデー屋。
「キラキラ王子様のアイスキャンディー‥‥なんだかとても高級な感じですね‥‥!」
 続いてクレイフェルのモンブランと、まさに屋台三昧である。

 サルファ(ga9419)と中岑 天下(gb0369)は2人きりで祭の人混みをそぞろ歩いていた。
「BAR以外で一緒になるのは、久し振りだな」
「そうね。もう半月ぶりくらいかな」
「――手をつないでも、いい、かな?」
「‥‥」
 黙って、軽く天下が差し出した片手を、サルファが握る。
「‥‥恋人みたい、ね」
 ポツリと天下が呟き、暫く無言のまま祭の喧噪の中を歩く2人。
 サルファが何か言おうとしたとき、ちょうど顔見知りのシュブニグラス(ga9903)が開くかき氷の屋台の前を通りかかった。
「やあ、調子はどうですか?」
「来てくれたのね。ありがと♪」
 浴衣姿のシュブニグラスが、扇子で顔を扇ぎながらニコッと笑う。
 屋台にはお馴染みの「氷」暖簾の他、イチゴ・メロン・みぞれ・グレープ・オレンジ・宇治・ハワイアンブルー・マンゴーといったシロップのメニューが張り出されている。
 お勧めの一品は「シロクマ」だ。氷の上に練乳をかけて果物を盛り付け、その上に餡を載せる特大かき氷である。
「ちょうどよかったわ。このあと商店街の人にお店を頼んで、私は早食い大会と流しそうめんの手伝いに行く予定だったの」
「それではシロクマを2つ下さいな」
「ハイ。今年の夏流行の味よ?」
 シュブニグラスから受け取った2皿のかき氷を仲良く食べるサルファと天下。
 さっき言いかけた言葉の続きは、もっと後になりそうだ。
 その隣では、神無月 るな(ga9580)がやはりかき氷を食べつつ、シュブニグラスと長話に興じていた。
 彼女の場合単独参加なので、特に目的は定めず気ままな祭見物だ。知人や同兵舎の傭兵達に挨拶しつつ、射的やアーチェリーの店が目に留まれば暖簾をくぐる。
 通常、この手の屋台は大きな景品を落とし難い配置にしてあるものだが、覚醒してスナイパーの本領を発揮したるなは、そんなのはお構いなしに百発百中で取りまくった。
「お姉ちゃん、すごーい!」
「うふふ。君、コレ上げましょうか?」
 取った景品は、周りで目を丸くする子供達にプレゼンツ。

「ほむ、皆は何処にいるかしら?」
 やはり単独参加組の1人である赤霧・連(ga0668)は、人混みの中に知人の顔を捜しつつ心赴くままに歩いていた。
「ふふ、1人は久しぶりかもしれません。祭りの賑やかさと1人の寂しさを楽しみたいですよ」
 その時、本部の方角から風に流れて匂ってくる、何やら甘ったるい香り。
 思わず美味しいものセンサーがビビっと反応、同時にお腹がグ〜っと鳴る。
「お腹がすきました〜」
 そのまま吸い寄せられるように本部方面へと歩いていった。

「‥‥しかし祭りなんて久しぶりだな‥‥本当に‥‥」
 城田二三男(gb0620)の動機は「屋台の料理がタダで食べ放題」と実にストレートであった。
 甘い物が苦手な彼は、専ら焼きモロコシ、焼きそばなど食べ物の屋台を中心に回る。
 ただ食べるだけというのも気が引けるので、さりげなく会場の警備にも気を配るが。
「‥‥祭りにはトラブルがつきものってな‥‥少しでもいいものにしたいものだ‥‥」
 そんな二三男の耳に、スピーカーから流れるアナウンスが飛び込んだ。

『やって来ました大食い大会! お相手は”笹はパンダの好物です”、寿 源次です』

「‥‥ふぅむ‥‥どうしたものかな‥‥」
 一瞬考え込む二三男であったが、放送の続きで品目が自分の苦手な「団子とかき氷」と知り、
「‥‥これは勝ち目がないな‥‥」
 次なる屋台を求め、何処へともなく立ち去るのであった。

●激闘! 食の祭典
『さあ〜、腕(腹)に覚えのある勇者達が集いました!』
 着物姿で叫ぶ源次のマイクアピール、そして何やら勇壮なBGMに合わせて本部前の広場に入場する傭兵&一般人の参加者達。
 今回の大食い大会は「団子大食い」「かき氷早食い」の2部構成である。
 第1試合、大食い勝負の料理&配膳を担当するのは王 憐華(ga4039)。お団子好きの彼女は、今回の祭で自らお団子の屋台も出店している。
「皆様、私のお手製のお団子を頑張って食べてくださいね♪♪」
 憐華にとって大食いは一種の「神事」でもあるため、配膳時は浴衣から普段の巫女装束へと着替えていた。
 ただし胸元の大きく開いた、ちょっと目のやり場に困る巫女さんだが。
「制限時間は30分間。一皿3本で食べ終わる毎に団子の種類を変えていきます。ちなみにメニューはみたらし・あんこ・笹団子の3種類です」
 審判役を務めるリヒトのルール説明を聞く参加者の中に、一際闘志を燃やす1人の傭兵がいた。
 彼女の名は最上 憐(gb0002)。以前に別依頼のピザ大食い大会で敗れた憐は、密かにリベンジの機会を窺っていたのだ。
「‥‥ん。今度は負けない。勝つ。口で足りなければ。鼻からも食べる」
 大食力強化のため覚醒も済ませ、まさに不退転の意気込みである。
「アレレ、何故、大食い大会に参加しています!?」
 対照的に、団子の匂いにつられて殆ど無意識にエントリーしてしまった連は、驚いてキョロキョロ辺りを見回していた。
 その他傭兵の参加者は憐華の夫である王零、美緒、ヒマリア、八雲、それにチェラル。
「やぁ、チェラル。元気にしていたか? 怪我の方はもういいのか?」
 漸が声をかけると、
「エヘヘ、もう平気だよ。さー、今日は負けないぞぉ!」
「そうか。大丈夫ならそれでいい。‥‥だが我もこの勝負、譲るわけにはいかんからな」
 やがてリヒトの合図と共に、各選手一斉に団子の皿へと飛びついた。
『各人まずは順当なペースか?』
 源次が実況する中、まず頭ひとつ抜きんでたのは憐だった。
「‥‥ん。私。この大会で勝ったら。カレーをお腹いっぱい。食べるんだ」
 死亡フラグの様なセリフを吐きつつ、序盤からハイペースで次々皿を重ねる。
「‥‥ん。噛んでる時間無駄。飲む。飲みほす。カレーを飲むのに比べれば。楽勝」
 しかし団子というのはただでさえ腹持ちがいいうえ、餡のカロリーもある。
 最初の10分でまず一般人の参加者が相次ぎ脱落。20分を過ぎると流石の能力者達も始めの飛ばしすぎがたたり、次々リタイアしていく。
 残り5分。食卓に残っていたのは王零、憐、チェラルの3名だった。
「この団子なら食べ慣れている‥‥憐華の団子で我は負けるわけにはいかん。‥‥ここは命を張るべき戦いだ!!」
 伊達に普段から新妻の団子を食べ慣れているわけではない。それまではややトップギア気味で食べていた王零は、ここぞとばかりにラストスパートをかけた。
 残り2分。
「フゥ〜、もう限界だぁ!」
 パンパンに張ったお腹を押さえてチェラルがギブアップした直後、それまで黙々と団子を平らげ続けてきた憐も、「‥‥ん。おかわり」という言葉を最後に力尽きてパタリと倒れた。

 見事1位を勝ち取った王零に、憐華からお祝いのキスが贈られる。
「そういえば、鹿児島の温泉旅行には来られませんでしたね?」
 冷たい水で口直しするチェラルに、同じリタイア組の八雲が話しかけた。
「ウン‥‥ボクはまだ、エミタ修復が済んだばかりだったし」
「なかなか良い温泉でしたよ? ぜひ一度、訪ねてみるといいでしょう」
 ちらっと傍らにいる凜や愛紗を見やり、
「ふむ、何やら良い仲の方々がちらほら‥‥。実に良いことです」
 そういって微笑むと、八雲はその場から立ち去っていった。

 続く早食い勝負は、企画は九郎、かき氷提供はシュブニグラス。
 制限時間30分。シロップは自由に選べ、超特盛りかき氷を一番早く食べきった者が優勝――というルールである。
 再び審判役のリヒトが合図を送り、新たな挑戦者達がかき氷に匙を付ける。
 傭兵からの参加者は悠、真琴、九郎‥‥に憐。
「‥‥ん。足り無い。全然足りない。もっと。おかわり」
 さきほどたらふく食った団子はエミタのパワーでとうに消化してしまったらしい。
 単純に大食いのパワーだけなら憐が勝ったであろう。だが制限時間のあるこの勝負、九郎のプロレスラー並みの巨体がものをいった。
「いいトコ見せる為にも全力で挑むぜ!」
 結局「時間内に掻き込める量」という単純な理由から九郎が優勝。
「あいたた‥‥勝ったけど頭いてーっ。レティさーん、ちょっと休ませてってばよ」
 調子に乗ってレティに膝枕で介抱してもらおうと図る九郎だが、惜しくも悠に抓られて阻まれてしまう。
「‥‥ん。また負けた。やけ食い‥‥じゃなくて。練習。修行」
 次なるリベンジを誓いつつ、憐の小さな背中が屋台の列へと消えていった。

 一般客でも気軽に参加できるイベントとして企画されたのは、新条 拓那(ga1294)が提案した「ジャンボ流しそうめん」。
「何しろ七夕だしなぁ。天の川に負けないくらい長大な流しそうめんっていうのは、話題作りにはもってこいじゃない♪」
 事前に王零達が切り出してきた青竹を材料に、商店街の道路に沿って長さ百mの流しそうめん用レーンを作ろうという壮大な計画である。
 問題は、資材の竹をいかにして綺麗な縦割りにするかという点であったが。
「棒倒し用の棒とは違い、しなりもある竹が相手か‥‥だが」
「月詠」の刀を手にした白鐘剣一郎(ga0184)がずいっと前に進み出る。
 節の部分で歪まぬよう、竹が一直線に割れる部分を見定め。
「見切った――天都神影流『奥義』不知火!」
 紅蓮衝撃&急所突き&豪破斬撃のスキルを同時発動、赤い輝きと共に固く長い青竹がスッパリと断ち割れた。
 2本目からは急所突き&豪破斬撃による「天都神影流、斬鋼閃」を使用。
 王零も加勢し、2人の剣士による竹割りの共演が始まる。
 間もなく、レーンの材料としては充分な量の竹材の山が出来た。
「うん、お見事だねー♪ ではでは、割った竹はこっちに頂戴な〜!」
 節も綺麗に抜いた竹材を、拓那と共にテミス(ga9179)と鴇神 純一(gb0849)も協力し、長大な「樋」として組み上げていく。ちなみに恋人同士のテミスと純一は、今回お好み焼き&焼きそばの屋台主としても参加している。
 大人用と子供用、背丈に合わせて2種類のレーンが完成すると、純一は商店街から借りた循環用ポンプを取り付けた。
「こんなこともあろうかと! ちゃんと循環ポンプ用意してきたぜ! もちろん消毒滅菌済みの飲食用だ! 水は大事にしないとな!」
「今日は年に一度のお祭り。日ごろの憂さなんてそうめんと一緒にぜーんぶ水に流して、心行くまで堪能して下さいな! それでは、放流開始〜♪」
 拓那の合図と共に、賢之が茹でたてのそうめんを大鍋に入れたまま運んでくる。
「飛天草壁流‥‥水切抜刀術ーッ!!」
 覚醒して腕を振り、ザルで麺の水を切るなり矢継ぎ早に流し始めた。
 箸とお椀を手にした大人や子供達が、歓声を上げて竹のレーンに走り寄る。
「流れ往く、竹の中の白い星、食べて願うは、次なる星か‥‥次流しますよー」
 水雲 紫(gb0709)が短歌を口ずさみつつ、ザルで水切りした麺を流していく。
「お見事でしたわ‥‥はい、お疲れ様です」
 竹割りの実演を終えた剣一郎に、ナタリア・アルテミエフ(gz0012)がタオルを差し出した。
「ああ、ありがとう。この後の時間は? 取り急ぎがなければ一緒に七夕を見て回らないか」
「ぜひご一緒させて頂きますわ。そうそう、夜になったら花火大会も開催されるそうですよ?」

●星に願いを
 やがて周囲が夕闇に包まれる頃、ライトアップされた商店街の中央に特大の笹竹が立てられた。
 祭の佳境として、参加者に各々願い事を書いた短冊を飾って貰おうという趣向である。
『強くなれますように ソラ』
「‥‥誰かの悲しい顔を見なくてもいいように」
『明日も明後日もその後も、明るい気分でいられますように クレイフェル』
 その脇にこっそり『勇気を持てますように』とも。
(「勇気を分けて。天のカップルよ‥‥っ」)
『素敵な恋が出来ますように 美緒』
『いつまでも皆と一緒にいられるように byれん』
 暫く迷っていた連は、結局商店街の人から脚立を借りて竹の天辺へと飾った。
『世界が平和になるぐらいに、僕の美しさが更に磨かれますように! 七瀬 帝』
『この戦争が早く終わり、戦友のみんなが本来の自分の姿に戻れますように』
『大好きな人達が怪我を負うことなく、いつまでも笑顔でいられますように』
 2枚の短冊に願いを書いて吊ったクラリッサは、逆に2人して仲良く1枚の短冊に願い事を書き込むテミストとミーティナを見て思わず微笑んだ。
「‥‥お互い独り身は辛いですわね、ヒマリアさん」
 するとヒマリアはいたずらっぽく笑い、
「あれ? クラリッサさんも、こないだの温泉旅行で、何だか体の大きなお侍さんみたいな方と結構いいムードに見えましたけど?」
『ダディに会えますように 愛紗』
 短冊に書いた後、愛紗は物心ついた頃から一緒だった友達のはっちーを見つめる。彼女自身は、はっちーを「ダディからの贈り物では?」と思っていた。
 肌身離さず連れているのも、父親と再会した時の目印という意味もある。
「生きていれば30前かなぁ‥‥バグア側の人だったらどうしよー?」

『チェラルと恋人になりたい 凛』
 その短冊を誰にも見られないよう、隅っこの方にそっと飾った凜は背後を振り返った。
 彼女は首の後ろで両手を組み、嬉しそうに笹飾りを眺めている。
「チェラルはお願い書かないの?」
「ん‥‥ボクはいいや。みんなのおかげでお祭りが大成功しただけで満足だから‥‥凜君は何をお願いしたの?」
「りっ、凛のお願いは、絶対秘密なんだからなっ」
 耳まで赤くなり、ムキになって短冊を隠す。
「アハハッ、そうだよねー。ごめん、ごめん」
 クスクス笑うチェラルだったが、ふいに凜に顔を寄せて声を落とし、
「実はね‥‥辞めちゃったんだ。正規軍」
「えっ!?」
「‥‥といっても、軍のエラい人達に止められたけどね。だから今は、何だか『休暇扱い』って事になってるみたい」
「‥‥」
「ホントはボクも、みんなと同じ傭兵に戻りたかったんだけど‥‥そうもいかないみたい。面倒だよねえ」
 愛紗がはっちーを抱き締め何か考え事をしていたので、2人はその場を少し離れ、天の川を見上げた。
「そういえば‥‥ベオグラードでボクを病院へ運んでくれたの、凜君だったんだってね? ‥‥ありがとう」
「あの、チェラル、この間はちゃんと伝えられなかったけど‥‥何か困ったことあったら凛、いつでも相談にのるから。それから、ご馳走してくれるの楽しみにしてる、もちろんそのお誘いの電話も歓迎だからなっ」
「なら‥‥ちょっと頼りにしちゃってもいいのかな? それと、後で何か食べに行こっか? 愛紗君も誘って」
 凜がふと気づくと、いつの間にか浴衣姿のチェラルと手を繋ぎ合っていた。

『レティさんの力になりたいです。そして、そばに居たいです 悠』
「今日はちょっと食べ過ぎたかなぁ‥‥そや、明日はレティさんと真琴さん誘って走ろ!」
 愛輝は少し悩んでいたが、ちらりと隣を見てからペンを走らせた。
『呉葉が幸せでありますように』
 それからその脇に小さく、
『Letiaさんも』
『故郷を取り戻せますように‥‥そして、平和に暮らせる日が来ますように Farul Kielia』
「何時になるかは分からないけど‥‥祈る事は悪い事じゃないわよね」
『バグアとピーマンが地球からいなくなります様に 呉葉』
「‥‥世界の平和も大事だけれど、身近な平和も祈ったって罪じゃないよね?」
『子供達の願いが叶いますように Letia』
 短冊を飾った後は、カメラで呉葉と愛輝の2ショットを、続いて3人で肩を寄せ合い目一杯腕を伸ばしてパチッ。
「ふふっ、この出来栄えは神のみぞ知るってやつだねぇ」
『この先も皆が無事に楽しく過ごせます様に 真琴』
『これ以上、誰も死なないように レティ』
「戦争だから仕方ないかもしれないけど‥‥精一杯努力して、その上での神頼みなら‥‥悪くないはず」
 二三男は他の傭兵や一般客が楽しげに短冊を書く姿を、ぼんやり横目で眺めていた。
「‥‥願い事‥‥か‥‥そんなものはもうないんだがな‥‥」
 いったんは立ち去ろうとするが、ふと思い直し、短冊にペンを走らせる。
「‥‥たまには人のために願うのも悪くはない‥‥か」
 書いた願い事は他人に見えないよう、そっと笹の葉の陰に吊した。
 同様に逡巡していた紫は、結局何も書かないまま短冊を結ぶ。
「‥‥望み無くとも、想いは同じ」

 様々な短冊の中には、無記名のものも多い。
『寂しがりのあの子に、今よりもっとたくさんの幸せが訪れます様に』
 それもまた、誰が誰に宛てたのかは判らない、しかし切なる願いの込められた1枚であった。

「その――まあ、何だ?」
「ん?」
 大笹竹を見上げていた天下の耳に、サルファの言葉が聞こえた。
「‥‥1回しか言わないぞ? いいか? ――その‥‥」
 天下が振り向く。
 サルファは大きく深呼吸した。
「中岑天下さん。俺は、貴女のことが――好きです‥‥」
 思わず赤面する天下。
「え、う、あ‥‥わ、私も、好き、です」

『世界に笑顔が溢れ、テミスに幸せになってほしい』
 そう書いた短冊を結び終えた純一に、
「『これからも純一さんと一緒にいられますように』、っと‥‥短冊書きましたよ、純一さん」
 にっこり笑ってテミスが振り返った。
「‥‥」
 純一は彼女の手を握り、祭の会場から少し離れた路地裏へと導いた。
「え‥‥?」
「大丈夫、ここなら死角になって誰にも見られないよ」
 ちょうどそのとき花火大会が始まったのか、夜空を彩る光の華が2人を照らし出す。
「‥‥愛してるぜ、テミス」
「あっ‥‥」
 軽く触れ合うような口づけ。花火の下で、それは次第に深く濃厚なものとなり――。
 やがて夜の闇が、再び恋人達を優しく包み込んだ。

 同じ花火を、剣一郎とナタリアは大笹竹の側から見上げていた。
『大切な人を護る為に全力を尽くす』と書いた短冊を吊す剣一郎。
「無論ナタリアの事も含めて、だ」
(「俺は彼女に好意を持っている‥‥故に願いではなく、そう誓いを立てよう」)
 その気持ちが伝わったのかどうか。
 ナタリアはおっとりした微笑を浮かべ、自分の短冊を剣一郎と同じ枝に結んだ。
『私の大切な方が、いつもご無事で帰ってくださいますように』

 夜空に開いては消えていく大輪の花火を見上げつつ、懐手で歩いていた源次が、ふと一句をひねり出す。
「満天の 夏の夜空を 仰ぎ見て まだ見ぬ女性(ひと)へと 想い馳せる‥‥。いつか自分も織姫と会えるだろうか?」

<了>