タイトル:九州戦線異状なしマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/08 11:50

●オープニング本文


「よう、お疲れ! まだ生きてやがったのか?」
 臨時指揮所のテントにズカズカ踏み込むなり不作法な口を利く大男の将校に眉をひそめた大隊長の坂田少佐は、それが陸自時代の同期であるUPC軍少佐、松本・権座(gz0088)だと判ると、一転してニヤリと笑った。
「何だ。貴様こそ、ベオグラードでくたばったかと思ったぞ」
「どうも悪運が強いらしくてなぁ。また生き残っちまったぜ」
 敬礼も抜きに握手を交わしあう2人の男。
 互いの胸中を過ぎる思いはひとつ――。
(「‥‥こいつ、本当にしぶといな」)

 ベオグラード防衛戦支援の任を果たし、欧州から帰還した松本少佐は休む暇もなく、次なる戦場――UPCとバグア両軍がしのぎを削り合う九州へと送り込まれた。
 ただし所属はかつての東アジア軍ではなく、ラスト・ホープに本部をおく特殊作戦軍へ異動となっている。要するに能力者傭兵を指揮する遊撃部隊の指揮官を命じられたのだ。
 壱岐・対馬解放に成功したとはいえ、相変わらず北九州一帯、ことに福岡には有力なバグア軍兵力が居座り、隙あらば九州全土を手中に収めようと機会をうかがっている。
 しかしUPC側にいま福岡を奪還するほどの余裕はなく、対するバグア軍にもシェイド、ステアー、ファームライドなど決定的な切り札が存在しないため(現段階では確認できていないという事だが)、各地で小規模な小競り合いが続く膠着状態――というのが現状だ。
「小競り合い」と書くと何となく平和に思えるが、その実態はあらゆる戦争の中で最も悲惨な「日常化した消耗戦」に他ならない。
 文字通り先の見えない戦いということだ。

「挨拶は抜きだ。で、そっちの戦況はどうだい?」
「どうもこうも。北の方に丘が見えるだろう? あそこにいるバグアの対空陣地を叩け、と上からはいわれてるんだがな」
 よほど攻めあぐんでいるのか、坂田少佐は憮然とした表情で作戦卓の地図を示した。

北  丘丘丘丘
↑ ゴ丘亀亀丘ゴ 亀=タートルワーム
   丘丘丘丘  ゴ=ゴーレム
    ゴ

「‥‥なるほど、泥人形が3つか。こいつぁ厄介だ」
「それだけじゃない。丘の周囲は平地なんだが‥‥出るんだよ。あの大ミミズが」
「アースクエイクか‥‥」
 欧州攻防戦でも猛威を振るった例の地中ワームを思い起こし、松本は顎を撫でた。
「だが、近頃じゃKV用の地殻変化計測器も制式化されたじゃねえか? 居場所さえ判りゃ、何とでもなるだろう?」
「貴様、うちの部隊の戦力を知っておるのか?」
 呆れたように坂田がいった。
「主力は74式戦車改と一般人の歩兵。その他特科(ミサイル、大砲などいわゆる砲兵)も全部陸自時代からのお下がりだ。キメラを相手にするのがやっとだぞ? 肝心のKVがないし、あっても動かせる能力者がおらん」
「だから俺が派遣されて来たんだよ。貴様を喜ばせる『お客』を連れてな」

 松本が坂田を連れて指揮所を出ると、そこには彼の高速移動艇に随伴する傭兵達のKV部隊が、次の指示を待つべく横列を組んで待機していた。

●参加者一覧

エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
雑賀 幸輔(ga6073
27歳・♂・JG
来栖 祐輝(ga8839
23歳・♂・GD

●リプレイ本文

「アースクエイクに亀にゴーレム‥‥大層な戦力だけど、勝てない相手じゃないな」
 地中ワームの奇襲を防ぐため、固い岩盤地帯を選んで設営された前線基地。
 人型変形したナイチンゲールの望遠アイカメラで丘の上に陣取るバグア軍対空陣地を確認し、エミール・ゲイジ(ga0181)は不敵に笑った。
 丘の周囲は見晴らしの良い平野だが、そこには多数の中小型キメラが展開し、そして姿は見えないがさらに厄介な敵――EQ2機が潜んでいる。
「LM−01、新機体だけど‥‥欧州での戦いで最初にEQに食べられたのはLM−01って話本当かな‥‥」
 対照的に明星 那由他(ga4081)は不安顔だ。そうでなくても、彼の陸戦専用KVではいざというとき「上空に逃げる」という手段が使えないのだから。
(「でも、絶対ちゃんと戻ってきて整備を見学させてもらうんだ」)
 密かに思いつつ、同じ任務に参加するジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)の雷電と来栖 祐輝(ga8839)のS−01Hをちらちら見やる。
「だって発売したばっかりの新型機に‥‥ぱっと見じゃ分かりにくいけどあれって超レアの非量産機だよ。見せてもらえるチャンスそうそうないもんね」
 どうやらサイエンティストとしての好奇心の方が、地中ワームに対する恐怖心に勝っているらしい。
 櫻小路・なでしこ(ga3607)は、今回傭兵側の指揮官を務める松本・権座(gz0088)に礼儀正しくお辞儀した。
「ベオグラード以来ですね、この度もよろしくお願い致します」
「おう。あんときゃ世話になったなぁ」
 強面のUPC軍少佐も思わず頬を緩める。
「さてと。今回の相手は欧州でさんざん手こずらせてくれた大ミミズだが‥‥そういつまでも、好き放題にゃさせられねぇぜ」
 これまでは接近を察知するのもひと苦労だったEQであるが、今回傭兵側には九州で初の実戦使用となる「地殻変化計測器」がある。一種の地中レーダーともいうべきその機械は、槍のように地面に突き刺すだけで一定範囲を移動する地底物体の位置データをKVに伝えてくれる画期的な新装備だ。
 しかし、この計測器には一つ問題があった。
 設置数が多ければ多いほど効果が増幅し索敵範囲を広げる事ができるのだが、予め発信電波を特定KVのAIに調整する都合上、自機の計測データを他の友軍機と共有することができないのだ。
 この難題に対し、傭兵達は手持ちの計測器全てを葵 宙華(ga4067)のワイバーン1機に同調させることで対応した。
 直接のデータリンクに比べると若干のタイムラグは生じるものの、その分広範囲の索敵圏を得られることで宙華は空中からのEQ観測に、その他のKVは戦闘に専念することができるからだ。
「葵、監視は任せた。緊急時のコードは『幸輔、愛してる!』だから間違えないように」
 恋人である雑賀 幸輔(ga6073)からの通信に思わず頬を染める宙華だが、
「了解。‥‥幸輔も気をつけて」
 と、真顔に戻って返信する。
 ディアブロの操縦席で、南部 祐希(ga4390)も緊張を隠せない。
「‥‥昔の同僚が見ているとあっては無様は晒せませんね。傭兵としての仕事、十全に果たさせて頂きます」
 元自衛隊の陸士である彼女にとって同じ陸自上がりの松本少佐(三佐)は部隊は違えど「かつての上官」ともいえるが、一般人の彼はKVに搭乗できないため、現場での作戦行動は傭兵達に大幅な裁量権が与えられている。それだけに責任は重大だ。

「‥‥そろそろ時間だな」
 正規軍側の指揮官である坂田少佐が合図の照明弾を打ち上げると、後方に展開したUPC陸軍部隊が射程の長い榴弾砲や地対地ミサイルで丘を狙い、一斉砲撃を開始した。
 むろん非SES兵器なので直接的な効果は期待できないが、これは敵のタートルワーム、護衛のゴーレムの注意を僅かでも逸らすための攻撃である。
「さて、雷電のデビュー戦。どれだけやれるかまだ不安だけど、ここで自信に変えさせてもらうぜ」
 ジュエルを始め、傭兵達のKV部隊も前進を開始した。
「今回は亀と木偶にあわせて土竜退治か、楽しくなりそうだ」
 まずはEQの動向を探るため、時任 絃也(ga0983)、流 星之丞(ga1928)らが計測器の設置作業に入る。
 即座に敵タートルのプロトン砲、ゴーレムのスナイパーライフルが砲撃を加えてくるがが、距離が遠いため殆ど命中することはなかった。
 那由他のLM−01も、事前に収集しておいた周辺地形、地質のデータに従い計測器を2個設置。
 怖れていたのは計測器設置中のEQ襲撃だったが、幸い丘から遠く離れているためか地中ワームは襲ってこなかった。どうやら、AI制御で陣地防衛を優先とする指令が与えられているらしい。
 その代わり妨害しようと群がってくる中小型キメラ群をレーザーやガトリング砲などで適当に薙ぎ払いつつ、各機が搭載した計測器を設置。
『エミール、壱3a設置完了』
 予め打ち合わせ済みのコードにより、宙華の元に僚機から相次いで計測器設置の報告が入る。
 間もなく、飛行形態で上空に待機した宙華機は敵プロトン砲からある程度距離をとった空域から丘を含む広大な範囲の地底物体を観測できる態勢が整った。
『葵さん、状況連絡宜しくお願いします』
 星之丞から設置完了の連絡を受けた宙華が計測器の転送してくるデータをモニター画面に表示すると、丘から手前300mほどの地中に2つの影が動き回っている。
 EQはタートルワームの有効射程圏内、なおかつKV兵装の命中しにくい距離を巧妙に計算して配置されているようだ。
 そこで傭兵側KVは那由他、幸輔、祐輝、なでしこ、絃也の5機がEQ対応班、エミール、ジュエル、星之丞、祐希の4機がタートル&ゴーレムへの牽制班として本格的な戦闘体制へと入った。
「俺達の命綱はあんただ葵、よろしく頼むぞ」
「さて、大ミミズの一本釣りと洒落込むか‥‥」
 絃也や祐輝らが声を上げ、まずは対EQ班5機が丘へと前進する。

 射程圏外といえ敵の対空砲火には充分注意しつつ、宙華はコンソール盤のモニター画面を食い入る様に見つめた。己の判断が一瞬でも遅れれば、幸輔も含む仲間達の命が危険に晒される。覚醒変化による威風堂々とした表情のうちにも、双肩にかかる重い責任がもたらす緊張は隠せない。
 光点の1つが速度を増す。狙われているのは、予想通り那由他のLM−01。
 電子戦の要であり、なおかつ飛行能力を持たない陸戦KVは、EQにとって「最優先目標」としてプログラムされているのだろう。
「明星、気をつけて! そちらに1機向かってる!」

 無線で警告、及びデータ転送を受けた那由他は、直ちに迫り来る姿なき敵ワームに機体特殊性能を使用し回避行動を取った。
 間一髪、大地を割ってドリル状の牙を生やしたEQの巨大な顎が姿を現わす。
「せいぜいデカイ口を開け!! そして大口径の弾を鱈腹食らうがいい!!」
 その瞬間を狙い、祐輝のヘビーガトリング、幸輔の高初速滑空砲、絃也のレーザー砲がEQの頭部目がけて集中砲火を浴びせる。
 祐希のディアブロはタートル&ゴーレムからの支援砲撃を遮断するため、丘の方角へ向けて煙幕銃を発射。
 同時に、ジュエルの雷電を含む牽制班4機はブーストをかけ丘へと突撃した。
「ヤバくなったらオレの背中に付きな‥‥って、大きなお世話か」
 巨大ワームが、洞穴を吹き抜ける風のような咆吼を上げた。
 図体に似合わぬ素早さで地面から這い出し、KV部隊に体当たりで反撃してくるEQに対し、後方に控えたなでしこのアンジェリカがM−12強化ビーム砲を放った。
 強大な加速粒子の光条に打ちのめされたEQがたまらず地中へ潜行しようとする余裕を与えず、ブーストで突進した幸輔のディスタンがソードウィングでとどめを刺した。
『EQの飲み込み攻撃は大きく分けて、浅い深度から加速をつけての横方向からと、比較的深い深度から縦方向の2パターンがあるようです‥‥深度が浅い場合は進行方向に注意し、深い場合は上に立たないように注意してください』
 那由他が過去データから独自に分析した見解を僚機に伝えた。
 その仮説通り、宙華機のモニターが今度は大深度から殆ど垂直角度でLM−01を狙う第2のEQを発見した。
 警告を受けた那由他機が再び回避オプションで離脱。
「ダンス開始の合図は敵に任せる‥‥踵を鳴らした瞬間から、派手に回れ‥‥!」
 幸輔はEQ出現予測地点に滑空砲の照準をロックオンした。
 土砂を跳ね上げ伸び上がるように出現したEQに対し、再びKV部隊の砲火が集中する。
 切り札ともいうべきアンジェリカのビーム砲がチャージ中のため、巨大ワームの近接攻撃とバケモノ並みの生命力に手こずらされる傭兵達だが、やはり頭部への集中攻撃で敵の削岩機能を破壊後、左右から肉迫し文字通りなます切りにして息の根を止めた。
『第1幕の終結だ‥‥敵機撃破を確認。状況2に移行する』
 幸輔の通信を合図に、対EQ班の4機も丘へと向かう。
 宙華は第3のEQが潜んでいる可能性も考慮し上空へ留まると共に、ロケットランチャーを発射し丘に陣取るバグア軍部隊を牽制した。

 その様子を後方の指揮所から双眼鏡で確認し、満足そうに松本少佐が頷く。
「計測器の効果は上々のようだな‥‥やはり索敵を葵機に一任する策が当たったか」
 が、わずかに顔をしかめ、
「しかし‥‥アレがせめてひと月早く実用化されてりゃ、ベオグラードでチェラル軍曹に危険な囮役をやらせずに済んだんだがなぁ」
 悔しそうに独りごちた。

「何だぁ、そのヘナチョコ弾は? 効かねえなーっ!」
 初陣となる雷電の操縦席で、ジュエルが高らかに笑い声を上げた。
 丘の頂上からはタートルワーム2機が、さらに中腹に配置されたゴーレム3機が迎撃の砲火を浴びせてくる。
 ――が。人類側より高威力を誇るゴーレムのスナイパーライフルも、そしてタートルワームの大口径プロトン砲でさえ、雷電の強大な装甲に対し損害らしい損害を与えることができなかった。
 回避するのも面倒とばかり最大戦速で突っ込んだジュエルは、ライトディフェンダーを振るって前衛の量産ゴーレムに横薙ぎで斬りつけた。
 ダメージを負って体勢を崩したゴーレムに対し、
「運が無かったな。悪いけど、今すぐ退場してもらうぜ!」
 エミールのナイチンゲールが試作剣「雪村」を振り下ろす。
 それでもなおしぶとく抵抗するゴーレムだったが、後に続く祐希のロンゴミニアトで上半身をほぼ粉砕され、ドっと大地へ倒れた。
 丘の左右を守っていたゴーレム2機がショルダーキャノンを発射、さらにBCアクスを振りかざし突進してくる。
 ジュエルの雷電にゴーレムの相手を任せ、エミール、祐希、星之丞らは丘を駆け上った。
 間合いを詰めた近接戦でも意外に強いタートルだが、回避能力はゴーレムより遙かに劣るうえ、知覚攻撃に脆いという致命的な弱点がある。
 機体特殊性能を使う時のクセ――奥歯を「カチッ」と噛みしめ、星之丞のナイチンゲールがハイマニューバ発動。
 前方に立ちふさがる大亀の体当たりを回避、プロトン砲発射の体勢に入ったもう1機に向かうや、
「狙いを付ける一瞬、そこが弱点です!」
 3連レーザー砲から放たれた光線が吸い込まれるかのごとくタートルに命中、ワームの生命力を大きく削った。
 そこへさらにエミールが雪村による斬撃、祐希の機槍とのコンビネーションでタートル1機目を撃破に成功。
 その頃になると、平野部でEQ2機を撃破したKV5機も駆けつけ、暴れ回る雷電の重装甲に手を焼いていたゴーレム2機を相次いで葬った。
 最後に残ったタートル目がけ、再チャージを終えたアンジェリカのM−12強化ビームがSESエンハンサー併用で迸る。
 大ダメージを負ったタートルに対し祐希のロンゴミニアトが3度目の唸りを上げ、分厚い甲羅が砕け散る鈍い音と共に、バグアの移動砲台はその動きを止めた。

 ワーム殲滅の報告を受けた坂田少佐の正規軍部隊が74式戦車改と歩兵戦闘車を前進させ、戦車砲と機関砲で残存キメラ掃討を開始する。
「生身なら手こずるが、KVなら蹂躙できるか」
 余力を残した絃也ら傭兵達も協力し、ほぼ2時間に渡る戦闘で、これまで上空を通過する正規軍KVを脅かしていたバグア軍対空陣地はほぼ完全に駆逐された。
『カーテンコール、作戦の終了を確認。‥‥さてっと。帰るぞ、葵〜!』
 地面に突き立った計測器を引き抜き回収を終えた幸輔が、頭上のワイバーンへKVのアームを振りながら通信を送る。
 その一方で、EQとの戦闘記録や計測器の今後の活用法について、早くも几帳面に検証する那由他。
 御守り代わりとして提げた不死鳥のペンダントに触れ、静かに任務の成功と仲間達の無事に感謝していた祐輝は、目を開くと一転、
『皆お疲れ、腹も減ったし飯でも食いにいこうぜっ!!』
 無線に向かって明るく叫ぶのだった。

<了>