タイトル:ワクチンを入手せよ!マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/12 16:30

●オープニング本文


「ヨーロッパの方じゃ大激戦だったらしいが‥‥見ろよ? ここは平和なもんじゃないか」
 手近の岩に腰掛け、傭兵の男が呑気そうに煙草を吹かした。
「ちょっと、何サボってんのよ! キメラが襲ってきたらどうするつもり?」
 SES兵器の自動小銃を構えた女傭兵が、声を荒げて叱る。
「そうガミガミいうなよ。キメラだって、こんなペンペン草も生えない場所にノコノコ現れるほど物好きじゃないさ」
 男の言葉通り、そこは草木もろくに生えない見渡す限りの荒野。ただし百mほど離れた先には、寄り添うようにして立つテントの群が見える。
 中国大陸の一角、地図上では人類とバグアの競合地域とされる場所に建設された難民キャンプ――そこに身を寄せる難民達のために、UPCからの援助物資を送り届けるのが彼らの任務であった。
 幸いキメラとの遭遇もなく、後はキャンプを守るUPC正規軍から受け取りの書類さえ貰えば、今回の仕事はつつがなく終了だ。
「こんな依頼ばかりなら、楽でいいんだがな‥‥おや?」
 傭兵は煙を吐きながら、不審そうに顔を上げた。
 キャンプの前で、1人の男がUPC軍の兵士達と何やら口論している。
「‥‥何かしら?」
「やれやれ‥‥キメラが出ないからって、人間同士でケンカしてりゃ世話ないな」
 男女の傭兵は仲裁しようと近づいていった。

「どうなってるんです? 僕の頼んだワクチンが届いてないじゃないですか!」
 両手を広げ、訴えるように叫んでいるのは、年の頃30前後の男だった。
 ウェーブがかった茶髪を肩口まで伸ばし、日焼けした顔立ちは欧米人のようにも見えるが、実際にはどこの国の人間かよく判らない。少なくとも地元住民ではなさそうだ。
「おかしいなあ‥‥全部揃ってるはずなんだけど」
 詰め寄られた兵士が、援助物資のリストをチェックしながら首を傾げている。
「何かもめ事かい? ‥‥その男は?」
「ああ、この人はカークランドさん‥‥このキャンプに滞在する、ボランティアのドクターです」
「‥‥医者?」
 兵士にいわれ、もう一度しげしげ男を見やる。ジーンズに厚手の綿シャツ、伸び放題の髪と無精髭は、どう見ても医師というより「歳を食ったバックパッカー」という風情だ。
 だが、バグアとの戦闘をUPC軍や能力者傭兵が担う一方で、いわゆる非戦闘行為――難民援助や医療活動のため、あえて競合地域に踏み込んで活動するNPO団体や個人のボランティアも少なくない。
 むろん危険行為なのでUPCも積極的に推奨しているわけではないが、彼らの献身がなければ世界各地で対バグア戦争の被害を受けた何億ともしれぬ数の難民達を保護しきれない、というのもまた現実である。
 そんな医師の1人、エムラド・カークランドの話によれば、今回届けられた援助物資の医薬品の中に彼が要求していた薬、すなわちこの地域のみに発生する特殊な風土病のワクチンが入っていなかったのだという。
「うーん、多分本部での手違いですね‥‥来週の便で必ず届けさせましょう」
「それじゃ手遅れだ! 昨夜までで、もう5人の罹患を確認してます!」
 カークランドは一際大声を上げた。
「この病気は極めて伝染力が高い! あと1週間放置していたら、抵抗力の弱い子供や老人から次々に――」
 そこまでいいかけてから急に声を落とし、
「なら‥‥力を貸して頂けますか? ここから南にある町に‥‥いや町といってももう無人の廃墟ですが‥‥確か病院があったはずです。そこにいけば、あるいは‥‥」
 その街のことなら、傭兵達もよく知っている。半年ほど前キメラの群に襲われ、命からがら逃げ延びた住民が、現在こうしてキャンプ生活を余儀なくされているのだから。
 当然まだキメラは徘徊しているだろうし、そんな場所にある廃病院に踏み込むとなれば、それこそ命がけの冒険となるだろう。
「残念ですが‥‥自分達の任務はこのキャンプの護衛です。軍の命令を無視して、勝手にこの場を離れるわけにはいきませんよ」
「命令だって!? ああっ、これだから軍隊ってやつは‥‥!」
 苛立ちを隠せないように髪を掻きむしっていたカークランドが、ふとすぐ側から見守る男女の傭兵に目を留めた。
「もしや、あなた方は傭兵‥‥いえ能力者じゃないですか?」
「え? ま、まあそうだけど」
「ちょうどよかった! あなた方は、正規軍の命令には縛られず、ある程度自由な行動が認められてるんですよね? お願いです! 僕と一緒にあの街の病院まで行って、ワクチンを捜すのに協力してもらえませんか!?」
 いうなり、男はジーンズの尻ポケットに手を突っ込み、しわくちゃの紙幣の束を取り出した。
「報酬なら僕の有り金を全部差し上げます! 額は少ないですが‥‥」
「いえ、その‥‥私たちにいわれても‥‥」
「他の連中にも相談してみないと‥‥なあ?」
 二人の傭兵は戸惑うように振り返り――背後に駐機する高速移動艇と、その傍らで既に撤収の準備にかかる仲間の能力者達を見やった。

●参加者一覧

新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
ルクシーレ(ga2830
20歳・♂・GP
忌瀬 唯(ga7204
10歳・♀・ST
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
阿木・慧慈(ga8366
28歳・♂・DF
風間・夕姫(ga8525
25歳・♀・DF
櫻小路・あやめ(ga8899
16歳・♀・EP
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG

●リプレイ本文

「そういうことなら一も二もありません。協力しますよ! こんな状況下で伝染病が流行る恐さは色々と伝え聞いてますしね」
 新条 拓那(ga1294)を始めとして、事情を聞いた能力者達はカークランドの頼みを聞き入れることにした。念のため移動艇の通信機からUPC本部に確認を取ったところ、イレギュラーではあるが緊急依頼として受理するという。
「私は‥‥傭兵ですから‥‥それに‥‥困っている人を‥‥放っては置けません‥‥」 」
「決して安くないお金を貰って働いているんです。アフターケアもしっかりこなさなくては、でしょう?」
 忌瀬 唯(ga7204)、そして遠倉 雨音(gb0338)もまた快諾を示した。
 幸い今回の輸送護衛ではキメラの襲撃も受けていないため、全員練力と体力は充分に温存してある。
「助かります! 無理な頼みを聞いて頂きまして‥‥」
 カークランドは両手を広げ、感謝と安堵の入り交じった表情でいった。一時の激情が収まると、むしろ人懐こい、温厚といってもいい顔立ちである。
「それでは些少ですが、報酬は前払いで――」
 そういって紙幣を差し出そうとした医師の手を、
「おっとカークランドさん、そいつを受け取るつもりはないぜ?」
 と、ルクシーレ(ga2830)が押しとどめた。
「こいつは本来の依頼の延長。『難民キャンプへの救援物資輸送』の報酬はUPCから受け取る予定だからな。さあて、と。詰めの甘い仕事のフォローをしますかっと」
 本音をいえばS−01のバージョンアップ費用の足しにしたい所だが、ここは傭兵として格好の付け所――と思い、ぐっと我慢する。
「報酬の大小なぞ、命の重さには代えられぬ。弱き者が‥‥子らが先に逝くは、わしはもう嫌じゃよ‥‥」
 秘色(ga8202)は辛そうにかぶりを振ったあと苦笑いし、
「軍組織というものは、難儀なものよのう。兵士も心配はしようが己が身は侭ならず――歯痒かろうて。じゃが、あまり辛く当たってやるでないぞえ?」
「どうも‥‥先ほどはお見苦しい所をお見せしました。事が事なだけに、つい興奮してしまいまして」
 カークランドも照れたように笑い、先刻まで口論していたUPC軍の兵士に詫びた。
 兵士達も、傭兵側がワクチン入手を引き受けた事で内心ホッとしたのか、人員は出せない代わり軍用トラック2台の提供を申し出てくれた。
「ところで病院内の詳しい見取り図はありませんか? もし向こうへ行ってから肝心のワクチンが見つかりませんでした、じゃシャレにならない」
 阿木・慧慈(ga8366)がもっともな疑問を口にする。
「ああ、それでしたらご安心を」
 カークランドが答えた。
「実はあの街がキメラに襲われる直前、ごく短い間ですが臨時の手伝いで働いていた事がありまして‥‥院内の造りや、薬品保管庫の場所などは全て僕が憶えています」
「となると、あとは薬の瓶を運搬する専用ケースが必要か‥‥」
 注射用のワクチンは専用のガラス製アンプルに密封されているため、他の容器に移す事ができない。しかし剥きだしで運搬した場合、道中で何か衝撃を受けて壊れてしまう怖れもある。
「何しろこういう場所ですからね。あまり満足な物は‥‥」
「それではクーラーボックスなどはありませんか? 何か詰め物でもすれば、代用になると思いますけど」
 提案したのは櫻小路・あやめ(ga8899)だった。
「それくらいでしたら、何とか‥‥」
 いったん難民キャンプの中へ引き返したカークランドが、間もなく肩から青いクーラーボックスを提げて戻ってきた。アウトドアグッズとして売られている、ごくありふれたプラスチック製の保冷ケースである。
「救援物資の箱にあった緩衝材のスポンジを詰めてあります。これならある程度の衝撃にも耐えられるでしょう」
 移動手段の車、そして薬の運搬ケースを確保した所で、傭兵達はワクチン入手のためキャンプから出発する事になった。
 トラックの運転を担当するのは拓那、及び風間・夕姫(ga8525)。
「準備はよいな? では、ガッツリ其のワクチンとやら『大漁』といこうではないかえ」
 ガッツポーズを取りつつ、意気揚々と秘色が乗り込む。
「あの‥‥届かないので‥‥抱き上げて‥欲しいです‥‥‥」
 身の丈99cmと小柄な唯は、恥ずかしそうにいうと仲間の手を借り荷台に上げてもらった。
「ちょっと‥‥よろしいですか?」
 道案内のため後続車の助手席に乗ろうとするカークランドに、雨音がおずおずと声をかけた。
「医者としての責任感が強いのは結構なのですが‥‥あまり焦らないでくださいね? 早まって、取り返しのつかない事になっては大変ですから」
「ええ、判ってますよ‥‥僕は能力者でも傭兵でもないですが、伊達に世界を旅してるわけじゃないですからね」
 医師というより「放浪のバックパッカー」と表現した方がぴったりくる男は、やや自嘲気味に軽く肩をすくめた。
「経験上、キメラの怖さは充分承知しています。皆さんを信じて、この身を預けるつもりですよ‥‥ちょっと卑怯な言い分かもしれませんが」
「俺らの相手はキメラ、先生の相手は病魔ってだけで、やるべき事や想いに違いはないですよ。誰かを助けたい‥‥その一点で俺らは同じです」
 そういって笑い、拓那は自らが運転する先頭車の方へと向かった。

 病院のある町はキャンプから南に5kmほど下った場所にある。
 2台のトラックは互いに無線機で連絡を取りつつ、見渡す限りの荒野をガタゴトと車体を揺らしながら進んだ。
 運転役の2人を除く傭兵達はトラックの荷台から各々銃を構え、キメラの襲撃に備えて警戒にあたる。
「半年前にはここでUPC軍とバグアのかなり激しい戦闘があったんですがね‥‥今では町全体がキメラに占拠され、キャンプを守る軍とにらみ合ってる状態です」
 町への道を案内しながら、カークランドがドライバーの夕姫に説明した。
「――ほら、あそこにKVが1機墜落してるでしょう? その時の名残ですよ」
 初期型のR−01と思しきKVが飛行形態のまま不時着し、ちょうど機首を町に向ける格好で擱座している。パイロットが無事脱出したかは不明だが、軍も機体まで回収する余裕がなかったのだろう。

 道中ではキメラの襲撃を受ける事もなく、傭兵達のトラックは町の北外れ、入り口からやや離れたに場所に停車した。あまり接近すると、エンジン音を聞きつけたキメラ達を引き寄せる危険があるからだ。
 そこから徒歩で町に近づいた傭兵達は、カークランドから病院への最短コースを聞き出し、彼を護衛する形で隊列を組んで、廃墟と化した町中へと侵入した。
 できれば一般人の医師を町の中まで連れ込むのは避けたかったが、この場合病院までたどり着いても薬品庫の場所、さらに数多くの薬の中から必要とされるワクチンを選別できるのが彼しかいないのだから仕方がない。
「先生、速度等はそちらに合わせますから、無理はせず行きましょう」
「ええ。みなさんも気をつけてくださいよ‥‥以前に偵察で近づいた兵士の話では、町に残っているのは大きな奴でもせいぜい2mくらいの中小型キメラばかりだそうですけど」
 阿木に答えたカークランドの言葉どおり、町に入って5分と経たないうちに、瓦礫の中から2匹のキメラが唸りを上げながら姿を現わした。
 ちょうど狼を一回り大きくしたような獣型のキメラだ。
「邪ァ魔っ! こちとら用があんのはワクチンだけだ! さっさとそこをどきゃーがれ!」
 まずは前衛に立つ拓那が飛び出し、牙を剥いて襲いかかってきた1匹をツーハンドソードの一撃で両断する。
「危ないです‥‥伏せて‥‥下さい‥‥」
 唯が警告を発し、同じく護衛を担当する雨音、秘色と共に地面に伏せた医師を庇う。
 後から突進してきたもう1匹に対して夕姫が小銃S−01による銃撃を浴びせ、敵がたじろいだところで慧慈とあやめが左右から挟撃。それぞれクロムブレイド、アサルトクローで斬りつけ息の根を止めた。
 その間、ルクシーレは背後からの奇襲に備え、バスタードソードを構え油断なく後方をうかがう。カークランドの言葉を信じる限り全員でかからねば倒せないような大型キメラはいないようだが、怖いのは数を頼んだ敵に周りを囲まれてしまうことだ。
「後から襲おうなんてセコいヤツらは俺が相手をする! 5分で終わらせるさ」

 その後も数匹の獣型キメラに遭遇したものの、特に負傷者を出すこともなく順当に片付け、およそ20分の後、一行は目的地である廃病院へと到着した。
 鉄筋2階建て、病院としては小規模な建物である。コンクリート壁のあちこちは焼けこげ、ガラス窓も全て割れ、無人の廃墟であることは一目で見て取れた。
「これでも、この町で唯一の病院だったんです。町の人たちにとっては命の城だったのに‥‥」
 かつて自ら働いた事もあるという病院のなれの果てを見上げ、哀しげに眉を曇らせるカークランド。だが感傷に浸っている時間はない。
「ワクチン入手は一刻も早い方が良いです。その為にも、戻って来るまでのリミットを決めておいた方が良いでしょう」
 あやめの提案に対して医師は僅かに思案し、
「狭い建物ですし‥‥薬品庫さえ無事なら、15分もあれば充分でしょう」
 薬品保管庫は2階の奥にあるという。問題は、狭い屋内のためカークランドを中心にこれまで進んできた十字陣形が取れないことだが、それでも1列になって医師の前後を守りつつ、傭兵達は病院内へと踏み込んだ。
 まずはエキスパートであるあやめが「探査の眼」を使い、屋内の安全を確認。
「まずいですね‥‥小型ですが、スライム型のキメラがかなりの数徘徊しているようです」
 一口に「スライム型」といっても実際には様々な能力を持つタイプが存在し、しかもブヨブヨした軟体で物理攻撃を半減させてしまうという、キメラのうちでは小物といえ意外と厄介な相手だ。
「とにかく目的はワクチンだ。一気に蹴散らして終わらせる!」
「ゴキブリが相手じゃない分まだマシか」
 拓那と夕姫が頷きあい、先陣を切って院内に突入した。
 刷り込まれた本能のみで動く小型キメラは、いわば生きたトラップのようなもの。人間の気配を察知するなり、室内の床や壁、さらに天井の上からウヨウヨと襲いかかってきた。
 こうなると前衛も後衛もない。傭兵達はカークランドを取り囲み、一団となって2階へと続く階段を目指した。
「野菜の方が、斬るは得意なのじゃがの――疾く去ね!」
 スコーピオンの弾幕を突破して突っ込んできたスライムの1匹を、秘色がイアリスの流し斬りで切り捨てる。
 近接武器で戦う仲間達を支援するため、雨音はアサルトライフルを構え、鋭角狙撃を併用しつつ援護射撃。
 またカークランドにピタリと付いた唯は、スライム系に有効とされる超機械αによる電磁波攻撃を近づくキメラどもに浴びせかけた。
 何とかキメラたちの妨害を突破し、間もなく階段から目的の薬品庫まで到達。
 キメラたちは獲物となる人間以外には興味をもたないのか、幸い薬品じたいはほぼ無傷のまま残っていた。
「3分で済ませます!」
 ロッカーの扉を開けたカークランドが、種々雑多なラベルの貼られた各種薬品をざっと一瞥し、手早く必要なワクチンを選び出してクーラーボックスに入れた。
「物のついでだドクター、多くはムリだが他に持って帰りたいものはあるか?」
 小銃S−01で群がるスライムどもを掃射しつつ、夕姫が尋ねる。
「そうですか? 出来れば全部持って帰りたい所ですが‥‥とりあえずこれと、これだけ‥‥」
 薬品庫の中からさらに抗生物質など数種類の薬品を選び出し、カークランドは急いでクーラーボックスの蓋を閉めた。
「――終わりました! さあ、脱出しましょう!」
 そうと判れば長居は無用だ。
「後は戻るだけ‥‥だが、これからが肝心だな。しっかり護って行こう」
 慧慈が仲間達に声を掛け、一同は来たときと同様、行く手を塞ぐスライムの群を蹴散らしながら病院の出口を目指した。
 この場に生息していたスライムは比較的動きの鈍いタイプだったらしく、大した被害を出すこともなく建物からの脱出には成功した。
 が、問題はその後である。
 病院での銃声を聞きつけたのか、町の各所に潜んでいた例の獣型キメラが十匹近く、ゾロゾロと路上へと集まり始めていたのだ。
「行きは良い良い、帰りはなんとやら‥‥か」
 うんざりしたように夕姫がため息をつく。
 しかし、ここを突破しなければトラックまで行き着けない。
 スナイパーの雨音が射程の長いアサルトライフルでキメラどもを牽制。
 続いて近接戦に強いグラップラー、ダークファイター達が突入して血路を切り開く。
 1匹1匹のキメラはそう強くなかったが、時折周囲に向けて遠吠えを発する所から見て、町中に散らばる同類を呼び集めているらしい。
 これはもう、時間との勝負といえた。

 一般人にしてはカークランドの足が速かった事も幸いし、辛うじてキメラの包囲を突破した傭兵達は、町の外に駐めたトラックへと飛び乗った。
 2台の車を発車させ、しばらく走った所でバックミラーを除くと、町の方向からなおも数十匹のキメラがこちらに向かって追いすがってくる。
「ここで倒さないと‥‥キャンプまで‥付いて来てしまいます‥‥」
 荷台の上で、負傷した仲間の錬成治療にあたっていた唯が当惑して呟いた。
「車を停めてください。‥‥私が降りて足止めになりましょう」
 アサルトクローと盾のガードを構えて立ち上がりかけたあやめの肩を、ルクシーレが軽く叩いて止めた。
「ちょい待ち。俺に考えがある」
 車を停めさせるなり、荷台から飛び降りたルクシーレは、ちょうど近くに不時着していた例のKVへと瞬天速で走った。
 ――思った通り、兵装の一部はまだ生きているようだ。
「オラぁ、ワクチンの礼だ! たっぷり喰らいなっ!!」
 R−01のガトリング砲が咆吼を上げ、追撃してきたキメラの群を片っ端から弾き飛ばした。


「ワクチンは効きましたよ。治療が早かったのが幸いして、患者は皆回復に向かっています。来週には追加のワクチンが届くそうですし、これ以上の感染拡大は防げるでしょう」
 テントから出てきたカークランドが、改めて傭兵達に礼を述べた。
「それはよかった‥‥ところで、もしワクチンに余裕があるようなら、念のため俺たちにも接種してもらえませんか? 正直、注射は苦手なんだけど」
 照れ臭そうに頭を掻きつつ、拓那が提案する。
 カークランドはちょっと意外そうに拓那の顔を見たが、やがておかしそうに笑い出した。
「‥‥いや失敬。能力者も同じ人間って事ですね。さあどうぞ! いま準備しますから、皆さん腕をまくって一列に並んでください」

<了>