タイトル:【PN】大地の邪龍マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/04 01:16

●オープニング本文


●セルビア共和国・UPCベオグラード防衛司令部
「やはり、空爆だけで奴らを全滅させることはできなかったか‥‥」
 司令部の一角に設置された大スクリーンを見上げつつ、UPC軍司令官とその幕僚達は憮然として呟いた。
 スクリーンに映し出されているのは、セルビアの首都ベオグラードとその周辺地図。
 ベオグラード西方の平野部から、首都に向けてゆっくり近づいてくる4つの光点がある。
 ただし「それ」が移動しているのは空中でも地上でもなく、さらにその下――深度100mほどの地底。
 UPC軍がベオグラード周辺に設置した数十個の地震探知機が捉えた、バグア軍の地中ワーム「アースクエイク」の影である。

 セルビア南部の山岳地帯をKV部隊のフレア弾で集中爆撃する「鉄槌作戦」により、UPC軍は同山岳の地底を拠点に活動していたアースクエイク部隊にかなりの損害を与えた。その結果一時的にせよ敵ワームの活動を弱めることに成功したものの、一部のワーム達はフレア弾の破壊力も及ばぬ大深度の地下へ逃げ延びていたらしい。
 現在、セルビアのUPC軍はマケドニア方面から侵攻してきたバグア軍と激しい交戦状態にあり、当然陸軍の主力もベオグラード南方へ集中している。
 その隙を突くように、フレア弾の空爆を突破したアースクエイク4機が、守備兵力の手薄なベオグラード西方へ姿を現わしたのだ。
 地上部隊を中心に、もうかなりの損害が出ている。
「もう一度、フレア弾で空爆できないのか?」
「無理ですよ。山岳地帯を抜けられ、近辺には町や村もありますから‥‥むろん一般市民の避難を急がせていますが、完全に避難が完了するまであと1週間はかかります」
「しかし奴らとて、たった4機で首都を落とせるとは思っていまい。いったい、目的は何だ?」
「それなんですが――」
 参謀の1人が、作戦卓に広げた大地図を指さす。
「現在、奴らが活動している地域から10kmばかり離れた場所に、メガコーポレーションが運営する地下発電所が存在します。従来の火力とSES機関の混合システムで、ベオグラードを始めセルビア国内主要部の電力をまかなう大規模地下施設です」
 地下発電所――司令部の将校達が一様に眉をしかめる。
「しかし‥‥あの発電所なら、地震対策として地盤の固い地域を選び、施設自体も分厚いシェルターで守られていると聞くが? たとえあの大ミミズでも、そう容易く破壊できないだろう」
「施設そのものはともかく、そこからベオグラードへと電力を送る地下ケーブルがあります。もしそれを寸断されれば――北上するバグア軍を本格的に迎え撃つ前に、このベオグラードは電力源を絶たれ、都市機能を半ば喪失する怖れもあります」
「むう‥‥」
 司令官は腕組みして黙り込んだ。
 しかし間もなく口を開き、
「事態は一刻を争うな。といって、いま南部戦線に展開している正規軍兵力を引き抜いてくるわけにもいかん‥‥こうなれば傭兵部隊を動員しても、この地中ワームどもを始末せねばなるまい」

●ベオグラード近郊・UPC空軍基地
 チェラル・ウィリン(gz0027)は格納庫内の壁際に立ち、手摺りの向こうに駐機する1機のKVを見上げていた。
 XA−08B「阿修羅」――遠く日本より運び込まれてきた新型KV。四脚を踏みしめ格納庫の床面に立つその姿は、さながら鋼鉄の猛獣である。
「銀河重工が売り込みのサンプルとして1機だけ送ってきたらしいが‥‥結局、セルビア軍は採用を見送ったらしい」
 傍らにたつ松本少佐が説明した。
「まあ攻撃力は高いし、ディアブロやワイバーンに比べりゃ値段も割安なんだが‥‥その分防御が薄かったり、色々とクセのある機体だしな‥‥。もしあの大ミミズに呑み込まれてみろ? それこそ命がいくらあっても足りねえぞ」
「‥‥でも、この子は使えるよ。特にこれ、特殊能力のサンダーホーン」
 銀河重工のカタログでスペックを確認しながら、チェラルが答えた。
「要するに、捕まらなきゃいいんだよ。で、ミミズが頭を出したところで、うまく飛び退いてこの尻尾でバチーン! とね」
「そりゃ口で言うのは簡単だけどなあ‥‥いくら『ブルーファントム』のあんたでも危険すぎやしねえか? だいいち、サンダーホーンだけで倒せる相手でもねえし」
「だから‥‥他の兵装は全部外していいよ。なるべく身軽にして、ボクが囮になってミミズを釣るからさ。そこを狙ってみんなに攻撃して欲しいんだ」
「‥‥それはそうと‥‥おまえさん、体の方は大丈夫なのか? この間はえらい大ケガだったって聞くが」
 つい先日の「鉄槌作戦」において、爆撃班に先行する制空部隊として出撃したチェラルのバイパーは敵の大型ヘルメットワーム、そして50機を超すキューブワームから集中攻撃を浴び機体は大破、彼女自身も瀕死の重傷を負ったばかりだ。
「え? あー、もう平気、平気。サイエンティストの軍医さんに、ばっちり錬成治療してもらったからね♪」
 チェラルはニカっと笑うと、肩のあたりで両拳を握った。
「そうか? なら、いいが‥‥じゃあ俺は、作戦の調整で司令部の方へ行ってくる。ULTに依頼して傭兵も手配しなくちゃならんしな」
「行ってらっしゃ〜い。ボクはこの子の慣し運転でもやってるから♪」
 笑いながら手を振り、松本の背中を見送っていたチェラルだが――。
「‥‥っ」
 ふいに小さく呻いて頭を押さえ、その場にしゃがみ込んだ。
「ハハ‥‥やっぱり‥‥ちょっと、無理しすぎたかな‥‥?」
 外見上の負傷は、確かに錬成治療で完全回復したように見える。
 だがキューブワームの怪音波を集中的に浴びた際、エミタAIに僅かな変調を来したらしく、彼女の練力はまだ半分も回復していなかった。
(「ラスト・ホープに戻って研究所で直してもらえばいいんだろうけど‥‥そんな時間、ないからなあ」)
 一方愛機のバイパーは修理が間に合わず、今すぐ出撃可能なのは、たまたま基地に置いてあったこの「阿修羅」だけなのだ。
(「あと一度くらいなら出撃できる‥‥発電所を‥‥守らなくちゃ」)
 頭痛に耐えながら、手摺りをつかんで辛うじて立ち上がる。
 周囲に人気がないのを確かめてから、チェラルはふらつく足取りで阿修羅の搭乗口へと向かった。

●参加者一覧

エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
御坂 美緒(ga0466
17歳・♀・ER
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
シア・エルミナール(ga2453
19歳・♀・SN
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
夜柴 歩(ga6172
13歳・♀・FT

●リプレイ本文

「やっぱりフレア弾だけでは全て仕留めるってわけにはいかなかったか‥‥」
 地下発電所の真上に設営された臨時基地で出撃前のR−01を点検しつつ、ブレイズ・カーディナル(ga1851)は舌打ちした。
「だが、今ならある程度動きも読める。直接戦闘だって十分できるはずだ。‥‥今度こそ逃がさない!」
 それはそれとして、ブレイズにはもう一つ気になる事があった。
「作戦前に軍曹に会っとくか‥‥前の時にあんなに負傷受けてたし、やっぱ気になるからな」
 山岳地帯のEQ補給ポイントをフレア弾で叩く「鉄槌作戦」決行の際、ブレイズら爆撃班の盾となるべく制空班に参加したチェラル・ウィリン(gz0027)軍曹は搭乗機バイパーが修理不能の大破、本人も瀕死の重傷を負っている。
 その後の錬成治療によりケガは全快したと聞くが、負傷当時の惨状を目の当たりにしたブレイズとしては、やはり彼女の体が心配だ。
 バイパーの代替機として用意された「阿修羅」の側に行くと、チェラルと言葉を交わす勇姫 凛(ga5063)の姿が目に入った。同じく「鉄槌作戦」に参加した彼も、やはり同様の不安を覚えているらしい。
「軍曹‥‥体の方は大丈夫なんですか?」
「え? アハハ、みんな心配症だなー。今も凜君に話してたけどね、ボクもこの子も、コンディションはばっちりだってば!」
 普段と変わらぬ――いや、むしろ不自然なほど明るい笑顔を浮かべ、チェラルは新たな搭乗機である阿修羅のボディをコツン、と叩いた。
 だがいかに銀河重工の新型KVといっても、今回の阿修羅は無改造。特に防御面についてはディスタン、ワイバーンなどの上位機種に及ぶべくもなく、万一の事を思えばまさに命がけの作戦ともいえる。
(「‥‥ま、やると言った事はやってのける人だしな。少しでも彼女を助けようと思ったら、今の俺に出来ることはただ一つ、とにかく迅速に敵を撃つことだ」)
「‥‥分かりました、その言葉信用します。頑張ってください」
 そう告げると、ブレイズはそのまま自機の方へと取って返す。
 一方、凜の方はまだ心残りがあるのか、チェラルの側から離れようとしなかった。
(「チェラル、この間のケガがまだ‥‥見せまいとしてるけど、凛、わかるから‥‥でも、無理しないでとも言えないのわかっているから。だからせめて、凛が支えてみせる!」)
 そんな想いを込めて、ぎゅっとチェラルの手を握った。
「チェラル、今度は凛も一緒に戦うから!」
「こっちこそヨロシク。キミのディアブロも頼りにしてるよ♪」

 能力者としての直感とでもいうべきか――今回の依頼に参加した傭兵達は、いずれも大なり小なりチェラルに起こった「異変」を感じ取っていた。
「小夜啼鳥がミミズの餌にってのも笑えないな。ま、どっちが餌なのか思い知らせてやるとしますか」
 エミール・ゲイジ(ga0181)は、愛機ナイチンゲールの操縦席で、ふと思った。
(「そりゃ腕で言ったらチェラルの方がずっと上だろうけど、怪我したばかりな上に慣れない無改造機体だからな。チェラルの調子が悪いようなら、俺が踏ん張らないと、な」)

「地下送電ケーブルの守備ですか‥‥こんな場所を狙うなんて、面倒な行動を起こしてくれるわね。意図的か偶発的なのかは分からないけれど、重要地点なのは確かだし」
 迎撃支援を担当するシア・エルミナール(ga2453)は、地中ワームという厄介な敵との戦いを前にして思案に耽る。
(「それよりもチェラルさんの方が気に掛かりますか‥‥大丈夫でしょうか?」)
 前回酷いケガをした上に、機体も乗り慣れない無改造機。多少の無理は承知の上で、自らもフォローしなければと腹を括る。

「せて、蚯蚓退治か‥‥やるべきことは一つ‥‥後はやるだけ」
 と、漆黒のディアブロに乗り組み出撃の刻を待つ漸 王零(ga2930)。大規模作戦では『天衝』総隊長として大空を駆け巡った彼だが、今回の敵は地面の底だ。
「いくらチェラルがすご腕でも無改造の阿修羅でEQ4体の囮ができるとは思えん。できたとしても長時間の戦闘は望めんだろうな。ならば‥‥できる限り早く終わらせてやらんとな」

(「練成治療はただ単に傷を塞ぐだけ、疲労や体力を回復させる事は出来ない‥‥完調の言葉、鵜呑みにするのはやめておきましょう‥‥」)
 出撃準備を整えたチェラルの阿修羅を遠目に見つつ、玖堂 鷹秀(ga5346)はサイエンティストとしての知識からそう判断していた。

(「現地治療のみの再出撃、その上機体はスペアの無改造機ですか‥‥」)
 やはり自機の風防越しに阿修羅を見やり、南部 祐希(ga4390)も思う。
「‥‥言いたいことはありますが、それは後にしましょう」

「地中の敵‥‥むむ、難敵なのです」
 EQが侵攻してくると思しき地下送電線の上空を先行して警戒する御坂 美緒(ga0466)は、地上の様子とS−01の戦術コンピュータを代わる代わる見やっていた。
 地上には松本少佐の要請に応じ、ベオグラード司令部が派遣した陸軍歩兵の偵察部隊が広範囲に渡って展開している。
 EQが自在に行動できるのは比較的地盤の軟らかい地域である事は判明しているので、送電線の位置と周辺の地質データがあれば、奴らが狙ってくるコースはある程度あたりがつけられる。これにベオグラード司令部が試験的に運用している地中索敵システム、偵察部隊からの情報も加えれば、さらに敵の動きを把握しやすくなるということだ。
 そんな折り――ふいに、地中索敵システムとリンクしたモニター画面に、西方から近づく4つの光点が浮かび上がった。その直後、地上の偵察部隊から「小さな地震と地鳴りを感知した」との通信が入る。
「いよいよ現れたのですね!」
 美緒がアラートを発し、数分もしないうちに臨時基地から飛び立った10機のKVが視界に入った。

 作戦じたいは至って単純である。EQ侵攻予想地点に急行したチェラル、凜、エミールの3機が陸戦形態で囮となって行動。その間、美緒は上空から警戒にあたり、EQ出現時は漸、ファルル・キーリア(ga4815)、ブレイズ、鷹秀、祐希、シアが上空から降下して集中攻撃を浴びせる。
 全体を白く塗装したワイバーン「マーチヘア」を駆る夜柴 歩(ga6172)は、警戒班に所属しつつ陸軍歩兵への援護も兼任。
「‥‥今度は、我が守る番じゃ。もう二度と、我のせいで傷付く者は出させん」
 問題は、EQ側がKV部隊を無視してそのまま地下送電線へ向かってしまう場合だ。
 作戦の成否は敵が地上の囮役に食いついてくれるかどうかにかかっていたが、そのためチェラルはわざわざUPC情報部を通してバグア側に「人類側エースが新型KVに乗って出撃するらしい」という情報をリークしている。
 美緒機から転送された敵の位置情報に基づき、まずチェラルが、次いで凜とエミールが相次いで大地に降り立った。
 チェラルの着陸を上空から観察しつつ、ファルルが首を傾げる。
「あのブルーファントムの一員‥‥の割には動きが悪いわね? 機体に慣れてないからかしら?」
 その直後、西南の方角を監視する歩兵から早くもEQ接近の報が伝えられた。
 傭兵達が目を凝らすと、数百m先のアスファルトの路面にメリメリと亀裂が走り、帯状に盛り上がりつつ近づくのが見えた。
『来るよ‥‥チェラル、今だっ』
 凜が通信で注意を促す。
 一瞬の間を置き、4脚で大地を踏みしめる阿修羅の足下がパックリと割れ、湾曲した螺旋状の牙が5本、機体を呑み込もうと地面からせり上がってきた。
 だがチェラルはその寸前に阿修羅を跳躍させ、大口を開けたEQの体内に向けてサンダーホーンの電磁パルスを放っていた。
 悲鳴のような甲高い唸り声を上げ、地上から5mほど頭を出したEQが巨体を硬直させる。
「悪いが汝らの好きにはさせん。邪魔させてもらう」
「地中から出てきさえすれば、そんなに怖い相手じゃない!」
 漸やブレイズら迎撃班も一斉に陸戦形態に変形し、地上からの攻撃態勢に入る。
 頭部に一撃を食らったことで削岩機能に支障が出たのか、EQは全長20m以上にも及ぶ大蛇のような巨体で地中から飛び出し、傭兵達のKVに襲いかかった。
 これに対し漸、ブレイズ、祐希が前衛に立ち、間合いを取って高分子レーザー砲、ショルダーキャノン、機槍ロンゴミニアトで攻撃。さらにファルルと鷹秀がSライフルD−02とリニア砲で支援砲撃。
 見かけによらずEQの回避は素早かったが、他の陸戦ワームに比べて防御は低いようだ。だがその生命力は文字通りバケモノ並みで、全身からハリネズミのごとく突き出したドリルや刃物を武器としてKV部隊目がけ突進してきた。
 通常の近接攻撃でもかなり重い。だが傭兵達は最も危険な呑込み攻撃を回避しつつ、鯨を狩るシャチのごとく左右から巨大ワームの生命を削っていった。
「バージョンアップした機体だ、前までのR−01とは一味違うぜ!」
 敵の長い横っ腹にブレイズがレッグドリルで跳び蹴りをたたき込み。
「お願いだから早いところ倒れて!」
 シアが後退しつつレーザー砲を照射する。
 ダメージの蓄積したEQの動きが大幅に鈍った所で、
「この刹那、逃しはしない!『漆黒の悪魔』漸王零‥‥押して参る!!」
 一気に肉迫した漸がソードウィングの斬撃を放ち、1機目のEQにとどめを差した。
『気をつけてください! もう2機がそちらに向かってるですよ!』
 上空警戒にあたる美緒機から、各機に警告が走る。
 囮班3機を残し、他のKVは再び飛行形態を取り舞い上がった。
「囮は見てるほうも心臓に悪いわ‥‥本当に。見ている側ですらこうなんだから、囮の人たちはどんなことになっているのか‥‥」
 不安げにシアが呟き、チェラルの阿修羅を見下ろす。
 一方、地上に残った囮班も互いに通信を交わしEQ接近を警戒。
『今度は2機か‥‥凜君、エミール君、頼んだよ!』
『凛の機体だって新型だ、それにいざという時は3人の方が支え合えるよ』
『オーライ。ま、いい加減敵さんにもナイチンゲール乗りの傭兵として覚えてもらいたいとこだし』
 友軍機が撃破された事で、EQ側も優先目標を完全にKV部隊へと切替えたのか。
 今度は左右から襲ってきたEQ2機をかわして阿修羅が跳び、ナイチンゲールがハイマニューバで軽やかに舞う。
 やはりサンダーホーンでダメージを受けたEQの頭部に、凜のディアブロがAフォース併用のレッグドリルでダイビングキックを決めた。
「初めて好きになった子を、お前達にこれ以上傷つけさせはしないんだからなっ!」
 勢いで思わず叫んでしまうが、幸い無線のスイッチを切っていたため、これは他人に聞かれずに済んだ。
 新手のEQに対し、迎撃班も二手に分かれて降下した。最初の1機との戦いで、徐々に対EQ戦のコツもつかみ始めている。
「この輝きに魅入ると死んじまうぜぇ! 吼えろ、羅候!!」
 覚醒変化により普段とは別人のように語気の荒くなった鷹秀が、自ら「羅候」と名付けたリニア砲を撃ちまくる。
「地中じゃなくて、土に還りやがれ!」
 歩は戦場付近にいた歩兵部隊に待避を促しつつ、ガトリング砲でEQを牽制。
「貴様の相手はこっちじゃ、ウスノロめが!!」
 やがて生命も残り僅かになったEQ1機に対し、ブーストで接近した祐希がAフォースを発動しロンゴミニアトで吶喊をかける。
「‥‥悪魔の本領を思い知れッ!」
 激しい火花と生体機械の部品が飛散し、土手っ腹に風穴を開けられたEQが、ベタっと地面にへたりこむ。
 間もなく、同様にしてもう1機のEQも力尽きた。
 残り、あと1機――。
 美緒機から連絡を受け、再びチェラルが囮のためEQ接近方向へと向かう。
 異変はその時起こった。
 先刻と同様に奇襲をかわすはずだった阿修羅の動きがわずかにタイミングを外し、地底から襲いかかったEQの牙にくわえ込まれてしまったのだ。
『機体トラブル‥‥? チェラルとミミズの間に割り込むわ。援護お願い!』
 とっさの判断で僚機に通報したファルルが、ソニックブレードでEQの首元に斬りつけた。たまらず阿修羅を吐き捨てるEQ。完全に噛み砕かなかったのは、やはり鹵獲が目的だったからであろうか。
『ここからは雪風隊長、ファルルがお相手するわ。胸についてる鉄菱勲章は伊達じゃないわよ! さぁ、かかってらっしゃい』
 仮に敵が有人機なら何か特別な反応を示したかもしれないが、オートAIによる無人ワームの取った行動は、単純に攻撃目標の変更のみ。
 削岩用の牙をくわっと開き突進してくるEQに対し、ファルルは温存していたグレネードランチャーを放った。
「この瞬間を待っていたわ。半径5mを焼き払うこの新兵器、腹の中に撃ち込まれて無事でいられるかしらね?」
 一瞬、EQの巨体が風船のごとく膨張し、その各所から火花と煙が噴き上がった。


 かくしてEQ4機は葬られ、地下送電線は守られた。任務としては充分に「成功」である。
 しかし大破した阿修羅から陸軍兵士によって救出されたチェラルに対し、傭兵達の目は厳しかった。
「この‥‥大たわけ!!」
「あなたの技量は確かにすごいと思うけど‥‥自分の力を過信すれば墓場に行く事になるわよ?」
 歩が怒鳴りつけ、腕組みしたファルルが冷ややかに非難する。
「‥‥ごめん」
 練力の尽きかけた体で地面に座り込み、うなだれたチェラルは、ポツリと呟いた。
「あの、チェラルさんケガしてますし‥‥その話は、また後でも‥‥」
 彼女の錬成治療にあたる美緒の言葉を遮り、他の仲間の治療にあたっていた鷹秀が激しく罵った。
「ま、一つ覚えておいてくれっか?『やりたい事』と『出来る事』ってな別モンだ、身に余る荷物を抱えようとすっと、荷物だけじゃなく自分も潰れる。ってコトをな」
「子供一人に無理をさせて平気な顔が出来るほど、傭兵のプライドは安くないのです」
 祐希もまた、容赦なく責める。
 子供――確かにそうかもしれない。卓抜した戦闘能力を買われ軍曹権限を与えられたチェラルといえど、まだ17の少女だ。しかも生来自由奔放でやんちゃな性格は、ファルルのように冷静な指揮官タイプとは対極の気質といえる。
「無理や無茶をしなきゃいけない場面もあると思うけど、その前にもっと周りを頼ったら――」
 ごふっ。
 ファルルの言葉が終わらぬうち、地面に大きな血塊を吐いてチェラルが倒れた。
 金色の目は虚ろに見開かれ、意識も半ば朦朧としているようだ。
「‥‥どいて」
 驚いてチェラルを見守る仲間達を押しのけるように進み出た凜が、彼女の体を「お姫様抱き」で抱え上げた。
「彼女をどこに連れていく気?」
「病院。あと移動艇でL・ホープに連れて帰る」
 それだけ答えると、凜は後も振り返らずチェラルを抱いて自機ディアブロの方へと走り去った。

<了>