タイトル:【PN】地震源を狩れマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/22 14:32

●オープニング本文


「南部への補給はどうなっている!?」
 バルカン半島防衛を指揮するUPC欧州軍ベオグラード司令部。
 司令官の将軍が作戦卓を叩いて怒気も荒く叫んだ。

 地中海ではイタリア半島の覇権を巡り、UPCとバグア両軍が大規模戦闘を繰り広げているさなかであるが、ここバルカン半島の戦況も予断を許さないという点では同様である。
 マケドニア方面から始まったバグア軍の大攻勢は鉄壁と思われたラポヴォ要塞を陥落させ、後方を絶たれたブジャノヴァクの陣地守備軍は現在、傭兵部隊の支援を受けつつ激しい抵抗を続けている。
 ここを抜かれることになれば、次にバグア軍の矛先が向かうのはおそらくベオグラード。ひいてはセルビアを含むバルカン半島全域が敵勢力圏に呑み込まれるという最悪の事態を招きかねない。
 それを防ぐためにも、UPC欧州軍としてはセルビア南部へ1兵でも多くの援軍を送りたいところであったが――。

「はっ、我が軍としても速やかなる増援と補給を図るべく、陸路と空路による兵站線の確保に全力を尽くしておりますが‥‥」
 そう返答しつつも、補給を担当する参謀の表情は暗い。
 面の戦いである地上戦を制するには、単純にKVの数だけ揃えれば済むという問題ではない。それには非能力者が大半を占める陸軍、そして彼らを支える大量の軍需物資が必要とされるわけだが、その生命線ともいうべき補給ルートがバグア軍によってズタズタに寸断されてしまったのだ。
 KVによる護衛を付けても、低速の輸送機や輸送ヘリは次々とヘルメットワームに撃墜されてしまう。ディアブロ、ディスタンといった新鋭KVの配備により一時は人類側有利に傾くかと思われた空の戦いだが、どうやら敵のHワームも五大湖解放戦の頃に比べてさらに強化されたらしい。
 さらに悲惨を極めているのがルートE75を補給路とする陸上輸送部隊だ。
 あのラポヴォ要塞攻略でも凄まじい威力を示した敵の新型地中ワーム。UPC情報部により『アースクエイク』と呼称されるそいつは、まさに前世紀のUボートがそのまま陸に上がったかのごとく、地上の補給線破壊に猛威を振っていた。
 地底を時速数十kmというスピードで掘り進み、削岩機を兼ねた頭部の大口でKVをひと呑みにするという破天荒な攻撃手段。地底への直接攻撃ができぬKVにできることはただ空中へ待避し、護衛対象の輸送部隊が為す術もなく地中へ引きずりこまれていく光景を見守ることしかできない。
「先日、傭兵部隊が持ち帰った現場写真、及びKVの機体損傷を分析した結果ですが――」
 技術担当の参謀が立ち上がり、意見を述べる。
「最新型のディアブロさえ一撃で破壊したパワーは侮れませんが、その一方機体強化で防御を高めたバイパーやS−01は辛うじて大破に留まっております。この点から推測して、固い岩盤や鉄筋コンクリートで基礎を固めた大都市の地下を、長時間掘り進むほどの性能はないのではと‥‥」
「だからといって、これ以上奴らを野放しにできるかっ! もし南部の防衛線が完全に突破されて、ゴーレムやタートルワームどもと本格的に連携されたらどうする!?」
 司令官は激しい剣幕で怒鳴り返すと一転、しばしの間黙考した。
「‥‥例の地震探知機だが‥‥設置はどれだけ進んでいる?」
「埋設作業の方はほぼ完了いたしました。あと数日のうちには、地中ワーム索敵システムとしてテスト稼働できるかと‥‥」
「テストなどしている暇はない‥‥システムの稼働開始時点をもって、『鉄槌作戦』を発令する‥‥!」
 絞り出すような司令官の言葉に、同席していた参謀達の表情が一斉に強ばる。
 ただ1人、会議の末席で無愛想に腕組みした日本人将校を除いて。


「――要するに、あのミミズどもが根城にしてる山岳地帯をフレア弾で叩こうって計画だな。むろん、友軍や民間人の待避を確認したうえでのことだが」
 UPC東アジア軍・松本少佐は、臨時指揮所として与えられた1室で、招集された傭兵達に告げた。
「索敵システムからの情報によれば、山中の地下に燃料や何やらを補給する巣みたいな場所が3つばかりあって、連中はそのあたりに群れてるらしい。そこを狙ってドカンと‥‥ああ、手持ちのフレア弾がなきゃ供与するってよ」
 壁に貼りだした大地図の、ベオグラード南方にあたる山岳地帯を指揮棒で指し示しながら、ぶっきらぼうに説明する。
「もちろん敵さんだって大人しく爆撃させちゃくれんだろ。こちらの動きを察知すれば、出せる限りのHワーム、それにキュー‥‥何だっけ?」
「キューブワーム。まあ言いにくいからボクは『サイコロ』って呼んでるけどね」
 生真面目に軍服を着込んだ松本とは対照的に、ラフな私服姿のボーイッシュな少女が、ハキハキした声で助け船を出した。
「ああ‥‥紹介しよう。今回の作戦に参加するチェラル・ウィリン(gz0027)軍曹だ。‥‥もう知ってる者もいるかもしれんが」
「クラッシャー」「弾丸娘」「歩くG弾頭」等様々な異名を取る彼女を前にして、さすがの松本少佐もやや腰が引けたように後の説明を譲った。
「いま少佐がいった通り、敵も例のカブトガニとかサイコロとか目一杯繰り出して邪魔しに来ると思うんだ。そこで、ボクら正規軍のKV部隊が先に出てやっつけるってワケ」
「カブトガニ」とはHワームの事らしい。
 元は一介の傭兵ながら、卓抜した戦闘能力を買われて正規軍より「軍曹権限」を与えられている彼女だが、実は軍事的知識はさほどでなく、実戦においては野生のカンだけで戦っているのでは? という噂も一部にはある。あくまで噂に過ぎないが。
「大船に乗ったつもりで、と言いたいトコだけど‥‥う〜ん」
 わずかに考え込み、
「‥‥でも、今回はちょっと取りこぼしちゃうかも。その時は悪いけど、キミたちでうまくさばいてよね?」
 ペロッと舌を出して笑う。
 松本が何か言いかけたが、すぐに黙り込んだ。
 傭兵達には知らされていないが、本作戦において正規軍パイロットに「撤退」は許されていない。すなわち「全滅覚悟で爆撃隊の盾となれ」という事だ。
 だがチェラルはその事をおくびにも出さず、いつも通りの笑顔で親指を立てた。
「――じゃ、お互い頑張っていこーっ♪」

●参加者一覧

皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
緋霧 絢(ga3668
19歳・♀・SN
アイリス(ga3942
18歳・♀・JG
エレナ・クルック(ga4247
16歳・♀・ER
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
美海(ga7630
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

 出撃前に漂う、異様なほど張り詰めた空気。
 ベオグラード近郊の空軍基地に集合した時から、傭兵達もまた、それを肌で感じ取っていた。
「UPC欧州空軍、ローランド少佐だ。制空班アルファ隊リーダーとして、諸君らの爆撃任務を援護する」
 英国本土から増援として飛来した正規軍将校が、敬礼して手短に挨拶した。
 アルファ隊はローランド少佐直属のワイバーン5機の他、UPC各国軍より選抜されてきたナイチンゲール×3、F−111×2、バイパー×1、岩龍×1で編成された、文字通りの正規軍エース部隊である。
 だが指揮官の少佐を始め、歴戦のエースであるはずの能力者達は一様に青ざめた顔で押し黙り、ある者はロザリオを握りしめ、小声で祈りの文句を唱えていた。
「そっちはお願いします。代わりにってわけじゃないけど‥‥この『鉄槌』、必ず遂行してみせますよ」
 ブレイズ・カーディナル(ga1851)の言葉に、ローランド少佐は「よろしく頼む」と固い表情で頷いた。
「さて‥‥皆さん、ハイキングの準備は大丈夫ですか? 特に、ミミズ達へ差し出すお弁当は抜かりなきようにしましょう」
 リヒト・グラオベン(ga2826)はその場の雰囲気を和ませようとジョークを口にしてみたが、正規軍パイロット達はニコリともしない。
 ただ1人の例外は、東アジア軍からの応援として同隊に参加するチェラル・ウィリン(gz0027)。いつも通り脳天気な鼻歌交じりでバイパーの点検を済ませると、傭兵達の中に顔見知りのブレイズ、そして勇姫 凛(ga5063)の顔を見つけ、ニコニコ笑いながら歩み寄ってきた。
「やあ、キミたち。今日はよろしくね♪」
 それから皇 千糸(ga0843)、聖・真琴(ga1622)、アイリス(ga3942)の方をみやり、
「キミたちが凜君と一緒に例の『三つ子の悪魔』を退治したんだって? 頼もしいなぁ。その調子で、今日は大ミミズどもの巣をぶっ潰してやってよ!」


 およそ1時間後――アルファ隊出撃からわずかな間を置き、傭兵達のブラボー隊も基地の滑走路から飛び立った。
 目指すはベオグラード南方の山岳地帯。目的はアースクエイク補給ポイントへの爆撃だが、当然アルファ隊の防衛ラインを突破した敵航空戦力の妨害が予想される。
 そのため、傭兵達のブラボー隊は爆撃班と護衛の空戦班、さらに爆撃班を2チームに分けて各々編隊を組んでいた。

 A班(空戦):リヒト、時任 絃也(ga0983)、ブレイズ、美海(ga7630
 B班(爆撃):エレナ・クルック(ga4247)、真琴、凜
 C班(爆撃):緋霧 絢(ga3668)、千糸、アイリス(ga3942

 ターゲットの補給ポイントは山中の手前から南方向におよそ10kmの間隔をおいた3ヶ所、地表からおよそ30mの地下にあるという。元々地下施設破壊を目的として開発され、爆発地点を中心に直径100mを焼き尽くすフレア弾を使用するが、確実を期すため1地点に対し2発を投下する計画だ。
『さぁ、大ミミズの巣狩りと行きましょうか。アレにガブリとやられちゃうのは二度とゴメンだからね』
 愛機S−01の操縦席から、千糸が仲間たちに無線で呼びかける。
『ホント軽くトラウマになるわよ、アレ』
 口調こそわざと冗談めかしているが、それは偽らざる本音である。なぜなら、彼女自身が大規模作戦直前、セルビアの街道に出現した地中ワーム「アースクエイク(EQ)」に呑まれ九死に一生を得た経験者なのだから。
「(‥‥それにアルファ隊の覚悟に報いる為にも、ね)」
『さて、先遣隊にもあまり負担はかけられん。可能な限り迅速に目標を叩く』
 口には出さなかった千糸の心境を代弁するかのごとく、空戦班の絃也が告げた。
 出撃前に会ったアルファ隊の様子を見て、傭兵達も薄々感づいていた。おそらくバグア側も既にUPC軍の動きを察知し、激しい妨害を加えてくるだろう。そんな空域に先陣を切って突入する以上、チェラルを含めて彼らは全滅をも覚悟の上で本作戦へ参加しているのだ。
 もちろん、危険という点ではブラボー隊も変わりない。
 C班リーダー、絢などは万一に備えてサバイバルに必要と思われるアイテム類をまとめて射出座席に格納したうえ、撃墜された機体が敵に発見されにくいよう迷彩パターンに塗り替えているほどだ。
「私らの出来に全てが掛かってる‥‥ちょっと‥‥重いな。でも‥‥『壁』になってくれてるみんなの為にも‥‥絶対成功させる!」
 真琴は決意も新たに操縦桿を握りしめた。彼女自身はまだEQの実物を見ていないが、やはり能力者である妹が別の依頼で山中に入った際、地鳴りという形で奴に遭遇しかけている。
「絶対に失敗なんて出来ないですよ〜」
 日頃は明るいアイリスも、任務の重責をひしひしと感じつつ気を引き締めた。
「(凛達が手間取れば、それだけチェラルが危険になる‥‥そんなの、絶対に嫌だから)」
 ディアブロを駆りつつ、凜はチェラルの身を案じていた。
 仲間達の前では照れ隠しで否定しつつも、でも止まらないほど強くなるチェラルへの気持ち。今はそれを力に変えて、爆撃地点へ機首を向ける。
「もうすっかりわたしの翼として馴染んでますね〜」
 B班リーダー、エレナは出撃前入念に整備したワイバーンの計器類を再度チェックしつつ、満足げに頷いた。
 任務に必要な作戦範囲の地図、航空写真はしっかり頭に焼き付けてある。重いフレア弾を抱えつつもなお高い機動力を維持し、機体強化で飛行ワームと充分渡り合えるほど命中率を上げた彼女の愛機は、今回の爆撃を成功させる要ともいえる。
 また今回の参加メンバーのうち、EQと直に遭遇したのは千糸とブレイズのみ。
「モグラ叩きなのにモグラが叩けないのですよ〜」
 まだ見ぬバグアの新兵器を空から叩くとあって、美海はいつも通り真面目腐った顔つきで嘆きつつも、内心では好奇心と興奮で胸を躍らせるのだった。

『アルファ10・グース、敵Hワーム群確認! 大型1、小型30以上! キュー‥‥』
 アルファ隊所属の岩龍パイロットから緊急通信が入り、途中で激しいノイズにかき消された。
「何なの‥‥?」
 同じく岩龍を操縦する絢は慌ててジャミング中和装置の出力を上げたが、一向に効果がない。
 数秒後、遙か南方上空で相次いで閃光が輝き、黒煙を引いた複数の機影が山中へと墜落していく。
 墜とされたのは敵か味方か。レーダーも無線も効かず、肉眼だけでは確認のしようもない。
 だが戦闘が発生した同じ方角より、急速に近づいてくる機影があった。
 もはやお馴染みとなった小型Hワームが7機。その後方に、奇妙な立方形の飛行物体4つを従えている。アルファ隊パイロットが最後に報告しようとしたのは、多分こいつのことだろう。
 一見すると兵器だか何だか判らないが、それは欧州戦線においてファームライドやEQに並ぶ脅威となっているバグア軍のキューブワーム(CW)。強力な電子妨害に加え、同時に発する怪音波により操縦者の精神に直接ダメージを与えてくる厄介な敵だ。
 能力者達全員を激しい頭痛が襲った。
「くぅ‥‥岩龍の支援があってもキッツイわね」
 千糸が思わず顔をしかめる。
「確かに‥‥こんな新兵器を大量に使われては、正規軍のエース部隊といえども危ないかもしれません」
 それでも空戦班リーダー・リヒトは翼を振って僚機と連絡し合い、自身はブレイズと、絃也&美海にロッテ編隊を組ませ、2機×2組でシュヴァルム戦法の体勢を取った。
「前で戦っているアルファ隊の方がずっと厳しい戦いをしてるんだ。これぐらいのこと、やってみせないとなっ‥‥!」
 視界が霞む程の頭痛に悩まされつつも、ブレイズが己に言い聞かせマニュアル操縦で機体のバランスを保ち続ける。
 やはり頭痛に耐えながら、爆撃班6機は地上の状況を確認した。
 怖れていたタートルワーム、もしくはそれに類した対空兵器の姿は見あたらない。EQや中小型キメラは別として、バグア地上軍の主力はまだここまで進出していないようだ。
「‥‥なら、この弾は連中にくれてやりましょう」
「あなた方がいると頭痛いんですから〜!」
 それぞれ爆撃班の指揮をとる絢とエレナは、やはりバンクとハンドサインで僚機に指示。
 本来は対地掃討用に準備しておいたロケットランチャーに加えG放電装置、スナイパーライフルといった遠距離兵器で一斉にCWを攻撃した。
「爆撃前に撤退なんてなったらシャレにならないですよ〜!」
 アイリスもまた、サイコロのような異形のワーム目がけ127mmロケット弾を撃ちまくる。皮肉な事に、CWの強烈なジャミング下においてはなまじの誘導兵器より無誘導のロケット弾やガトリング砲の方が却って効果的だった。
 幸い数が少なかったこともあり、ワームとしては脆弱なCWはこの一斉射で全滅。ジャミングと頭痛が消えたところで、空戦班4機はブーストをかけ残るHW7機へと突撃した。
 目的は敵の殲滅ではなく、あくまで爆撃班が任務を遂行するまでの牽制だ。
 対するHWは当初プロトン砲で攻撃してきたが、距離を詰められたとみるや、突然その機体に異変が生じた。
 ヘルメット前方部分が変形し、ドリルを思わせる螺旋型の槍と化してそのまま体当たりをかけてきたのだ。KV武装にもドリル兵器はあるが、それをそのまま空戦に持ち込んでくる所が彼我の技術差ということか。
 ロッテ編隊のオフェンスを担当するリヒト機、絃也機がそれぞれ狙われたが、とっさの回避行動で辛うじて初撃はかわす。
『此方にあわせる様に敵の新型武器か、まるで鼬ごっこだな』
『どのような兵器か知りませんが‥‥当たらなければ意味はありません』
『全くだ。威力は気にはなるが、喰らいたくは無いな』
 さらにHWは機体後方から特殊金属製と思しき「尾」を長く伸ばしたかと思うと、鞭のごとく振り回し牽制してきた。
 対するリヒトと絃也はブリューナク、AAM、高分子レーザー等で反撃。さらにカバーを担当するブレイズ機がAAMで後方から支援。
「鬼さんこちらなのですよ〜」
 美海はラージフレアをふんだんにばらまき、敵の重力波センサーを攪乱した。

 空戦班がHW部隊と激しい戦闘を繰り広げる間、爆撃1番手となるエレナ機が、目標第1ポイントを狙い減速・急降下体勢に入った。
 一応地上の安全は確認してあるといえ、KVにとっては最も無防備となる危険な瞬間である。
「アースクエイクにこれ以上ご飯なんて食べさせてあげません!」
 急角度で投下されたフレア弾は落下速度の勢いで地面深くのめり込み、一瞬の間をおき巨大な炎の華が大地に開花した。
『対空火器は大丈夫みたいです〜』
『了解。いっちょ、おっ始めるかぁ♪』
 続いて爆撃体勢に入った真琴の目に、膨れあがる超高熱の炎から逃れるかのようにワラワラと地面から湧き出す巨大ミミズ――EQの群が映る。
「アレが、あの娘の言ってた『バケモン』か‥‥確かに相当ヤバそぉだわ」
「あんなモノが足元に居るって知ってしまった以上は、放っておくわけにはいかねぇよな。これ以上‥‥好き勝手暴れさせるものか!」
 HWと戦う傍ら、ちらっと眼下をみやったブレイズも、吐き捨てるように叫んだ。
 今回の爆撃目標はあくまで補給ポイントだが、この際1機でも多くのEQを潰しておくのに越したことはない。
「――吹っ飛んじまえっ!」
 真琴のS−01から投下されたフレア弾が再び大地を抉り、練力を込めた炎で逃げ遅れた数機のEQを焼き払った。
 爆撃を終えたエレナ・真琴両機は直ちに対HW戦に移行し、後続の爆撃班は次なる補給ポイントへと移動。
 3番手の凜が、ディアブロの機体を大きく前方へ傾け大地へと降下した。
「(チェラルに任されたんだ、絶対奴らの巣を焼き払ってやるんだからなっ)」
「大地を貫けフレア弾‥‥そして、その熱い輝き、チェラル達の所へ届けっ!」
 凜の想いそのままに、地表を貫通したフレア弾が大量の土砂を吹き飛ばしながら3つ目の炎の華を咲かせる。
「本日のメインディッシュ、召し上がれ!」
 4番手、千糸によるフレア弾投下。
 空戦班は強化されたHワームと近接戦用の新兵器に悩まされたが、それでも1機、また1機と爆撃を終えた友軍機が戦列に加わるにつれ、徐々に敵の猛攻を押し返していく。
「臥薪嘗胆の時は終わったのです。逆襲なのですよ〜!」
 攻勢に移った美海はHWの背後を取り、尻尾の鞭をかわしつつレーザーを浴びせた。

 6番手のアイリスが最後の爆撃に成功したとき、残り3機まで減っていたHWは諦めたように撤退していった。
 3カ所のEQ補給ポイントは全て破壊された。フレア弾6発の爆発を確認次第、数百km彼方で交戦中のアルファ隊も後退に移る手筈となっている。
『ブラボー隊、全機帰還します‥‥基地にてチェラル達を出迎えましょう』
『これで全て倒せたとは思いませんが、一時的にでもアースクエイクの行動を阻害できればヨーロッパ戦線の戦況は好転しますね』
『アルファ隊の人達、大丈夫かしら‥‥?』
 リヒト、絢、千糸らが交信しつつ帰途につく。
「(絶対届かないだろうけど‥‥)」
 真琴は無線機を取り、まだ戦い続けているはずのチェラル達に語りかけた。
『アルファ隊へ‥‥こちらブラボー隊。任務は遂行したよ。‥‥無理はしないで』


「チェラルさん、皆さん、無事に戻ってきて下さいですよ‥‥」
 滑走路の端に佇み、心配そうに見上げるアイリスの目に、南の空から戻ってくる機影が映った。
 アルファ隊だ。計9機のKVが、これでまだ飛べたのか? と思いたくなるほどボロボロに損傷した状態で、辛うじて着陸してくる。
「くそっ! あのCWさえいなければ‥‥!」
 負傷したローランド少佐が、忌々しげに毒づきつつ機体から降りた。
「あの、チェラル軍曹は‥‥?」
「判らん‥‥だが、彼女が殿になって敵の追撃を食い止めてくれなければ‥‥我々は全滅していた」
 恐る恐る尋ねるブレイズに、少佐が答えた。
 およそ10分後――見覚えのあるバイパーの機影を発見し、傭兵達は歓呼を上げた。
 大破寸前のバイパーは着陸直後に片脚が折れ、ガガガガッ――と嫌な音を立てつつ横滑りし、滑走路の端で停止。
 ひび割れた風防が開き、チェラルがゆっくりと機体から降りてきた。
 滑走路の路面に、ポタポタと血の雫が滴り落ちる。
「‥‥みんなは‥‥?」
 駆け寄ってきた傭兵達に、掠れた声でそれだけ尋ねた。
「か、帰ってきたよ! 凜達も、アルファ隊の人達も‥‥!」
 全身朱に染まった少女の口許が、弱々しく微笑んだ。
「そう‥‥よかっ‥‥」
 言葉が途絶え、呆然とする凜の腕の中に、意識を失ったチェラルの体が倒れ込む。
「救護班急げぇーっ! ボヤボヤするな!!」
 ローランド少佐の怒鳴り声が、傭兵達の耳にはひどく遠くから響いた。

<了>