タイトル:傭兵お料理教室マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/10 12:23

●オープニング本文


「実はね、姉さんしばらく依頼で留守にするかもしれないの」
「‥‥」
「行き先はヨーロッパで‥‥まあ軍機になるから詳しい事はいえないけど、けっこー大きな作戦になりそうね」
 そういってから、ヒマリア・ジュピトル(gz0029)はテミストの反応をうかがった。

 ここはラスト・ホープ内のとあるファミレス。
 次の大規模作戦の戦場がどうやらヨーロッパらしい――という噂は、既に傭兵達の間でも話題となっていた。
 UPCからの正式発表はまだだが、一週間ほど前からULTの「斡旋所」モニターには、イタリアやスペイン、バルカン半島方面からの依頼が目白押しに増えている。
 ヒマリアもまた傭兵の一員として現地へ長期遠征する覚悟を決め、今夜はしばらく会えなくなる弟のテミストを夕食に誘ったのだ。

「‥‥」
 見ればテミストはひどく深刻そうな表情で俯き、フォークとナイフを皿に置いたまま、食事も進んでいないようだ。
「いやねー、もうっ。ナニ辛気くさい顔してんの? あたしなら大丈夫。死ぬワケないでしょ?」
「えっ?」
 テミストは驚いたように顔を上げた。
「姉さんが死ぬ? な、何で?」
「‥‥あたしの話、どこまで聞いてた?」
「えーと、『実はね』のあたりまで‥‥」
 ヒマリアは無言でフォークを置き、片手を伸ばして弟にデコピンを入れた。
「痛っ!?」
「あんたねーっ! 人がマジメな話してるんだから、キチンと聞きなさいってば!!」
「ご、ごめんなさい‥‥」
 額を押さえて謝るテミストだが、その顔色はやはり冴えない。
 却ってヒマリアの方が心配になってきた。
「ひょっとして、どこか具合でも悪いの? 食欲もあんまりないみたいだけど‥‥」
「うん‥‥実は、ちょっと胃がもたれて‥‥」
「えーっ!? まずいよそれ。お医者さんには診てもらった?」
「それほどでもないんだけど‥‥実は‥‥」
 と、テミストが打ち明けるところによれば――。

 先月のホワイトデー、ヒマリアが主催して開いた傭兵達のお菓子教室の席上、テミストは3つ年下のガールフレンド、ミーティナに手焼きのクッキーを贈った。
 感激したミーティナは、翌日の学校で、早速自分も手作りクッキーを作り昼休みに届けに来たのだという。
「なーんだ。イイ話じゃない♪」
「でも‥‥それから毎日だよ?」
「‥‥へ?」
「毎日、袋一杯にどっさり‥‥あ、余ってるから姉さんも食べる?」
 テミストは手元の鞄から大きな紙袋を取り出し、1/3ほど残ったクッキーを姉に差し出した。
 ヒマリアも一つ手にとって食べてみる。
 傭兵達の手ほどきを受けたとあって、10歳の女の子が作ったにしてはそこそこ出来はいい。しかし‥‥。
「そりゃクッキーは栄養価が高いからおやつや非常食にいいし、戦場食にも使われてるくらいだけど‥‥でも、こんなの毎日袋一杯食べてたら、そりゃ胃も壊すわよ‥‥食生活のバランスだって崩れるし」
「だよねえ‥‥でも、せっかく作ってきてくれるのを、捨てちゃうのも何だか悪いし」
「で、律儀に全部食べてたワケ?」
 まあここで断れないのが、テミストの人の好い所なのだろうが。
「これは‥‥今度はあの子の方に、少し料理を教えてあげる必要がありそうねえ。‥‥あ、そーだ!」
 ヒマリアはふと思い出し、ポケットから一枚のチラシを取り出した。
 兵舎の食堂入り口で配られていたものだ。

『食堂のメニューは飽きた! Cレーションは不味い! ついついファーストフードやインスタント食品に頼りがち‥‥そんな貴方のためのお料理教室!
 ×月×日(日)、兵舎食堂にて開催。参加費・材料費無料』

『傭兵の食生活改善!』をスローガンに、ULT職員と傭兵有志が合同で企画したものらしい。

「‥‥これ、僕やミーティナでも参加できるの?」
「大丈夫でしょ? 2人とも傭兵の家族なんだし」

●参加者一覧

御坂 美緒(ga0466
17歳・♀・ER
小川 有栖(ga0512
14歳・♀・ST
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
リャーン・アンドレセン(ga5248
22歳・♀・ST
忌瀬 唯(ga7204
10歳・♀・ST
大和・美月姫(ga8994
18歳・♀・BM

●リプレイ本文

 腹が減っては戦はできぬ。
 しかしどうせ空腹を満たすなら、手軽に・美味しく・ヘルシーに――かくして『傭兵達の食生活改善!』をスローガンに開催された料理教室のため、とある日曜の午後、傭兵有志はお馴染みの兵舎食堂へと集まった。

 互いに顔見知りの者もいれば、今回が初対面という者もいる。
「あ、あのぅ、この髪は地毛です。染めている訳ではございませんので‥‥」
 まずは今回が依頼初参加となる大和・美月姫(ga8994)が、やや緊張した面持ちで自己紹介した。
「先生役であり、生徒役でもあります。皆さんのレシピを覚えて帰りたいです」
「先生役が‥‥多いので‥‥ボクは教えて貰おうと‥‥思います‥‥」
 シャイな忌瀬 唯(ga7204)が、おどおどしつつも挨拶する。
 外見は10歳と幼いが、実は立派な16歳。料理も得意な方だが、今回は他人が作る料理を見たり、教えて貰って、自分のレパートリーを増やしたいと考えていた。
「先生役です。他の方が先生をやっているときは、生徒役になりまあす」
 小川 有栖(ga0512)がのんびりと宣言。お茶と和菓子が好物の彼女だが、なぜかおはぎだけは苦手だという。
 こうしてみると、皆傭兵として世界各地を飛び回っているだけに「全く料理ができない」という者は殆どいないようだ。むしろ今回の料理教室で新たなレシピを覚えたい、という目的の方が多いのかもしれない。
 また、今回の催しは傭兵同士で親睦を深めようという、レクリエーションの一面もある。
「久し振りにヒマリアちゃんと一緒に参加出来るし、テミスト君ともミーティナちゃんとも会える☆ なんか、楽しみな事がいっぱいだなぁ〜」
 聖・真琴(ga1622)は天真爛漫な笑顔を湛えた。
「(それに何と言っても‥‥)」
 ポッと頬を染めつつ、傍らに立つ傭兵の若者を横目で見やる。
 その若者、月影・透夜(ga1806)もまた真琴に振り向き、
「戦いの無い依頼に一緒に参加するのは初めてだな。どんな料理ができるか楽しみだ」
 二人は既に恋人同士なのだ。
「こんにちはーっ!」
 元気よく片手を振りつつ、ヒマリア・ジュピトル(gz0029)が弟のテミスト、そしてテミストのGFであるミーティナを連れて入室してきた。思えば今回の参加者で一番「ビギナー」といえるのはこの3人かもしれない。
 ちなみにミーティナも傭兵の妹だが、本人は一般人なので普段はL・Hにある学園初等部の女子寮で独り暮らし。さすがに傭兵達の兵舎に来るのは緊張するのか、テミストの片手をきゅっと握って俯いている。
 そんな少女の姿をみながら、
「(ふっふっふ‥‥私はそんなにレパートリーはありませんが、ミーティナさんに心構えを説くのです♪)」
 テミストとミーティナの馴れ初めから知っている御坂 美緒(ga0466)は密かな野望に燃えるのであった。
「話は全て聞かせてもらった!」
 とばかりの勢いで登場したのは鯨井起太(ga0984)。
「大好きなボーイフレンドに、毎日クッキーを届けるだなんて何とも素晴らしい話。ここでミーティナに料理を教えるのは簡単だが、話の本質はそんなに単純じゃあない。少女が欲しているのは『彼氏はどんな笑顔で料理を受け取ってくれるか?』そんな風に期待を膨らませながら、実際に渡すまでのドキドキタイムに他ならない!」
 そう語る彼が、自信をもって送る秘蔵レシピとは何か?
「テミスト君、久し振り♪ 覚えてる?」
「あ、聖さん‥‥あの時は、お世話になりました」
 過去、キメラにさわられた所を真琴を含む傭兵達に救助されたテミストが礼を述べる。
「へぇ〜♪ この娘がミーティナちゃんね☆ こぉ〜の〜、隅におけないなぁ〜」
「え? いえその、僕たち、まだそんな‥‥」
「きょ、今日はよろしく、お願いします‥‥お料理のこと、色々教えてください」
 真っ赤になってどぎまぎするテミストに代わって、ミーティナがペコリと頭を下げた。
 内気そうに見えて、意外に芯はしっかりしている。
 ‥‥将来、ヒマリア以上にテミストを尻に敷くかもしれないが。

 身長が10歳のミーティナと同程度の唯は、予め頼んで子供用の低いテーブルを準備してもらっていた。
 その前にミーティナやヒマリア姉弟が立ち、さらに先生役の傭兵達がズラリと取り囲む。

「ふむ。子供でも作れる位に簡単且つ、安い・お手軽・ヘルシーな料理か。なかなか難題だな」
 リャーン・アンドレセン(ga5248)は思案した。
「余りヘルシーとは言えないが、子供が喜びそうな『ハヤシライス』でも作ってみるか?」
 というわけで、彼が一番手として戦場仕込みの料理の腕を披露する事となった。
 牛薄切り肉を3cmの長さに切り、酒、塩コショウ、砂糖をもみ込み、小麦粉をからめる。
 玉葱を縦半分に切り、更に縦5mm幅に切って耐熱皿に並べる。水を振り掛けた後、ラップを掛けて電子レンジで加熱。トマトは水洗いして水気を拭き取り、ヘタをくりぬいてザク切りにする。
 ここまでの過程を、テミストやヒマリアにも手伝わせつつ実演する。基本中の基本である包丁の使い方、野菜の切り方から教えるためだ。
 さらにフライパンにサラダ油、バターを中火で熱し牛肉を炒める
 牛肉の色が変わったら玉葱を汁ごと加え、赤ワインを注ぎ入れる。木ベラで混ぜながら、強火で赤ワインを全体にからめるように炒め合わせる
 調味料を加え、煮立ったらトマトを加える。再び煮立ったら弱火にして蓋をして15分位煮、トロミがついたら塩コショウで味を調える
 炊きたてのご飯にバター、ドライパセリを加えて全体に混ぜ合わせ、パセリライスに。お皿に盛り、ルーを掛けて完成!
「たっぷり入れたトマトの風味が絶品だぞ?」

「有栖の手抜きクッキン・グ〜♪」
 なにやら、どこかで聞いたような言い方で2番手・有栖が紹介するのは「超簡単、コーンスープ」と「サラダ感覚のタコライス」。
「コーンスープから作りまーす。4〜5人前です。コーンクリーム缶、1缶をお鍋に入れて、空いた缶になみなみと牛乳を注いで、それもまたお鍋に。お湯で溶いたチキンブイヨン2個を鍋に入れて火にかけます。温まったら、塩と胡椒で味を調えて出来上がり〜♪」
 手抜きといいつつ、わざわざ変な猫のイラスト入りレシピをPCで作成し、人数分プリントアウトしておくという念の入れようである。
「次は、タコライス。フライパンにバターを溶かし、合い挽き肉を入れ、色が白くなるまで炒めたら、カレーパウダーを少々いれ、サルサソースをとウスターソース、ケチャップとレモン汁をいれて、ソースが出来ました。お皿にお茶碗一杯分のご飯をよそって、上にピザ用チーズ、ソースをかけ。2cm角に切ったレタスと1cm角に切ったトマトとアボカドをトッピング〜♪」
 自分の番が終わると今度は生徒役に回り、他人の料理レシピをメモに取る。
「ふむふむ、人が作っているのを見るのは勉強になりますね♪」

 美月姫はお手軽に作れる和風メニューを何点か紹介した。
『トリの竜田揚げ』
「竜田揚げは肉などに醤油とみりんから作ったタレに漬け込んで、下味をつけて片栗粉のみで揚げます。唐揚げは、片栗粉と小麦粉を使用しなおかつ下味ににんにくを使用します」
『だし巻き玉子』
「お出汁がしっかりと利かせてふっくらジューシーに巻き、大根おろしを添えます」
 その他、『小松菜と油揚げの煮びたし』、『お豆腐のお味噌汁』、『タケノコの炊き込みご飯』等々。味付けは全体的に薄味で。
 持参のエプロンを身につけ、髪は邪魔にならない様後ろ手に束ね。
 おっとりした面持ちで、楽しげに和風料理を実演していく。

「野菜‥‥切っておきますね‥‥使い終わった道具は‥‥先に洗ってしまいますので‥‥貸して‥‥下さい‥‥」
 唯自身は既に家事全般を嗜んでいるので、他の傭兵から料理の手ほどきを受けつつも、自らは裏方として各作業をあれこれと手伝った。
「あ‥‥それ‥‥危ないので‥‥気をつけて‥‥」
 外見は幼く見えてもお姉さんなので、ミーティナが火や刃物を使う時などはそれとなく注意してやる。

 真琴はファミレスの定番メニューでもあるチーズハンバーグを紹介。
 自ら人数分のグリル皿・木製皿のセットを持参し、有栖と同じくイラスト解説付きで自作したレシピをみんなに配った。

 ※材料(4人分)
 合挽き挽肉:400グラム(牛300g・豚100g)
 たまねぎ:1個
 卵:1個
 パン粉:2/3カップ
 にんじん:1/3
 しいたけ:2枚
 牛乳:少々
 しょうゆ・ソース・ケチャップ・塩コショウ・ナツメグ:適量

 ※作り方
 たまねぎを茶色くなるまで過熱しボウルに用意した材料を入れ粘りが出るまでこねる。
 等分に分けたタネを両手でキャッチボールの様にぺしぺし叩き付け空気を抜く。
 小判型に整形し中央に窪みを付けグリル皿にタネを乗せ、グリル皿ごとオーブン250度で15〜20分焼く。

 その間、透夜はカルボナーラを作る合間に、真琴の料理のサイドメニューとしてマッシュポテトを作成。パスタを茹でる間にポテトの下拵えやオーブンを準備と、並行した作業を手際よく進めていた。
「パスタは消化も早く吸収されやすい。手軽でバリエーションも豊富。憶えておくと重宝するぞ。パスタの種類も色々あるしな」
 真琴のハンバーグが出来上がると、透夜のマッシュポテトを付け合わせて皿に盛り、最後にハートを描いた小さい旗を刺す。
「はい☆ お子さまランチの出来上がり♪」
「わぁ〜! 可愛い〜い☆」
 ‥‥なぜかヒマリアが一番目を輝かせている。

「――だからこそクッキーの代替足り得るのは、作ってすぐ食べてもらえる料理ではなく――うれしはずかしキュンキュンタイムを存分に味わうことの出来る『お弁当』であるべきなのさ!」
 料理のコーチに先立ち、起太はミーティナに向かい鼻息も荒く「お弁当」の意義を熱弁した。
「クッキーが問題なく作れるのであれば、サンドイッチくらいは作れるだろう?」
 コクンと頷くミーティナ。
「では紹介しよう。これぞ人類が生み出した最大の奇跡とも言える、おむすびさ!」
「これ‥‥ライスを固めたんですか?」
 北米出身のミーティナは、起太の握るおむすびを珍しそうに覗き込んだ。
 おむすびといえば最もシンプルな手料理の代表であるが、おいしい、飽きない、簡単に作れると三拍子揃ったそれは、工夫次第で無限のバリエーションを持つ。
「この白きトライアングルこそ至高。さあ存分に食べたまえ!」
 だがしかし!
「至高のお弁当」ともいうべきおむすびにも、実は強力なライバルが存在した。
「恋愛において、『愛情こめた手作り料理』というのは、フレア爆弾に匹敵する強力な武器なのです。つまり、美味しい手作りお弁当を毎日作ってあげれば、テミスト君のハートを狙い撃ち! もう勝ったも同然なのです!」
 やはりミーティナをつかまえ、恋愛におけるお弁当の重要さを蕩々と説く美緒。
「私が作るお料理は、サンドイッチなのです♪ パンを切って具を挟めるだけなので、初心者でも簡単に出来るお料理なのですよ♪ 中の具は、卵サラダやスライス野菜がスタンダードですけど‥‥他の人達が教えてくださる料理も使えちゃうのです♪」
 というわけで、美緒は先に傭兵達が作った料理を具材にして、次々と自作サンドイッチを拵えていった。
 真琴のハンバーグで「ハンバーグサンド」。
 透夜のパスタで「パスタサンド」。
 挙げ句の果ては起太のご飯で「ご飯サンド」。
「サンドイッチには無限の可能性があるのです♪」
 おむすびとサンドイッチ――お弁当の2大定番でもある両者は、人類の食の歴史が続く限り、ランチタイムの双璧として人々に愛され続ける事であろう。


 一通り調理の実演が終わった所で、一同は皿に盛りつけた料理を持って食堂に移動。
 試食も兼ねてお食事会が始まった。
「普段、人に料理を作る事など殆ど無いからな。少し気恥ずかしい気もするが‥‥」
 自作のハヤシライスを皿に盛り、リャーンがテーブルに並べる。
「皆に少しでも『美味い』と思って貰えれば‥‥か、かなり嬉しい‥‥かもしれない」
 と、普段はクールな彼にも似合わず、やや照れくさそうに呟いた。
 真琴はレクチャーのためにつくったものとは別に、透夜専用として和風ハンバーグも作っていた。
「和風ソースが好きだって言ってたっけ。上手く出来るかな‥‥」
 透夜もまた、真琴用のパスタは別の皿に作り分けてあった。
「真琴はこっちな。好みに合わせてみたんだが、どうだろう?」
「うん、美味しいよ‥‥ありがとう」
「俺も本格的な真琴の料理は初めてだから、楽しみだな」
 仲睦まじいその様子を遠くから見守りながら、以前に透夜と同じお菓子教室に参加した美緒の乙女センサーがきゅぴーん! と反応。
「あのお菓子教室での告白のお相手は、恐らく彼女なのですよ!」
「あ、美緒さんもそう思います? 実はあたしも‥‥」
「ヒマリアさんには牛乳も用意してあげるですね♪ 食事の際の牛乳、これぞ明日の為にその1なのです♪」
「うみゅ‥‥あ、ありがとうございます‥‥」
 何やら複雑な笑顔を浮かべつつも、コップに注がれた牛乳を一気飲み。
 一方、大勢の食事にあまり慣れていない唯は少々戸惑い気味。とりあえず同じ兵舎『放課後クラブ』のメンバーとは顔なじみなので、その近くに座って料理を味見する。
「えと‥‥こういうの‥‥慣れてないので‥‥でも‥‥楽しいです‥‥」
 傭兵になってまだ日も浅い美月姫は、みんなの料理を味わいつつ、依頼の体験談なども聞きながら和気藹々と談笑していた。
 ミーティナは傭兵達のコーチで作った料理を、おずおずとテミストに勧めた。
「あ、美味しいな‥‥今度は僕も作るから、お昼は二人でお弁当にしない?」
 テミストがそういうと、ミーティナはニッコリ嬉しそうに笑う。
 ‥‥テミストの方もどうやらクッキー地獄から解放されそうだ。
 そんな恋人達の様子を眺めながら、
「(好きな人に美味しいって言ってもらえるのは、きっと嬉しいだろうな)」
 微笑ましい気持ちで有栖は思う。
 ふと、誰かの顔が浮かんでくるが、すぐ消えて。
「‥‥ま、私にはまだまだ先のことかな?」
 そう呟くと、軽くため息をもらすのだった。

<了>