タイトル:【TLF】海峡の砲声マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/16 02:14

●オープニング本文


 その飛行物体は北米から北極海経由でユーラシア大陸上空へ侵入、バグア占領下の中国領内で一端補給を受けた後、人類側のレーダー網を巧みにすり抜け、M6の超音速で対馬海峡、対馬島北端の平野部へと着陸した。
 直径100mにも及ぶ大型ヘルメットワーム。ただし人類軍のカテゴリにあてはめれば「輸送機」に相当するそれは、必要な「荷物」だけ降ろすと再び離陸、中国方面へと飛び去っていった。

 大地に降り立ったのはゴーレム3機、タートルワーム1機。
 現在、同島南部で激戦が続くこの戦域に、初めてバグア側から送り込まれた増援部隊である。
「ふん‥‥こんな小さな島、奴らが欲しいというならくれてやればいいものを」
『そういうわけにはいかん。我らにとっては無価値な島といえ、連中に奪い返され新たな軍事拠点とされては、後々厄介だからな』
 コクピットの重力波無線機から、相変わらず無機質な声――それは人類が解するいずれの言語でもない――が響く。
『それに、北米では連中を少々つけあがらせてしまった。知っているだろう? 壊れた大砲ひとつ取り返したくらいで、地球人どもがまるで大勝利したとでもいわんばかりに有頂天になっているのを』
「もう一度確認する。今回の任務は『守備』ではなく『破壊』でいいんだな?」
『間違いない。全てを焼き尽くし、二度と奴らが住めぬ無人島にしてしまえ。それで奴らも思い知るだろう――我がバグアに抵抗することの愚かさを』

 ゴーレムのコクピットを開き、男は何時間ぶりかで外の夜風に当たった。
 身の丈190cm近いがっしりした体躯。かつて世界を指導する「超大国」と呼ばれたある国の将校服。敵側の軍服を着るというのも妙な気分だが、今の体に残る記憶のせいか、正規のパイロットスーツよりこちらの方がしっくり来るのだ。
 だがその相貌は元の素顔が判らぬほど無惨な火傷の痕で爛れ、唯一人間らしく見えるのは残された左目の周囲のみ。
 深夜の対馬島を見渡していると、どこからともなく「主」を出迎えるかのようにワラワラと飛行キメラの群が集まってきた。
 ハーピー、セイレーン、バフォメット――数こそ多いものの、よく見ればどれも中小型のキメラばかりだ。KVと互角に戦えそうな超大型タイプは、島の南部でUPC軍と戦っているのだろう。
 あるいは、もう全滅してしまったのかもしれないが。
「どいつもこいつも雑魚ばかりか‥‥まあいい。これはこれで、使い途はある」
 男は火傷で醜くひきつった口を歪めて嗤い、左目だけ穴の開いた鉄仮面を被り直した。


 対馬島北端、海栗島のUPC軍(旧航空自衛隊)レーダーサイトが『迷彩の‥‥!』という悲鳴の様な通信を最後に音信を断ったのは、その数時間後の事であった。

●参加者一覧

ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
桜崎・正人(ga0100
28歳・♂・JG
エスター(ga0149
25歳・♀・JG
鷹見 仁(ga0232
17歳・♂・FT
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
ソード(ga6675
20歳・♂・JG

●リプレイ本文

「カタパルト接続OK‥‥GO!」
 発艦オフィサーの号令と共にガクンという衝撃が背後から突き抜け、KVの機体がスチーム・カタパルトの大馬力で海上へと打ち出される。
 対馬海峡・東水道を航行中のUPC海軍大型空母「光竜」の飛行甲板より、傭兵達のKVは次々と発艦していった。

「‥‥さて、それじゃリベンジといこうか」
 海原の彼方に長々と横たわる対馬の島影を望みつつ、R−01の操縦席でゲック・W・カーン(ga0078)は呟いた。
 UPC東アジア軍・九州方面隊の威信をかけた対馬海峡解放作戦も、いよいよ最終局面を迎えようとしている。
 対馬本島へ上陸を果たした陸軍部隊はバグア軍のキメラ、および親バグア派兵士の激しい抵抗を受けつつも対馬空港を奪回。その後は本土からの増援を受けつつ各地の都市や港湾を奪回、島内の南半分をほぼ解放するに至った。
 一方、福岡のバグア軍に援軍を出す動きは見られず、このまま行けば対馬島全域の解放も時間の問題――誰もが楽観ムードなりつつあった矢先、突如として中国大陸より飛来した輸送ワームよりゴーレムを主力とした敵部隊が送り込まれてきたのだ。
 しかも、最初に攻撃を受け全滅した、海栗島レーダーサイトからの最後の通信は――。
「迷彩‥‥!? ‥‥アイツの事だ。この前は翻弄された挙げ句、逃がしちゃったけど‥‥今度は絶対に沈めてやるンだからっ!」
 日頃は天真爛漫な聖・真琴(ga1622)も、闘志を剥き出しにして拳を握りしめる。
 バグア軍でありながら人類側もどきの迷彩塗装を施したゴーレムを操る者など、ただ1人しか考えられない。
 元米陸軍大佐、ハワード・ギルマン――かつて「対バグア戦争の英雄」と称えられ、5年前戦死したはずの男がなぜ敵軍のエースパイロットとして還って来たのかは判らない。ただひとつはっきりしているのは「奴を倒さない限り対馬島は解放できない」という事だけだ。
 ゲックや真琴を始め、今回参加したメンバーのうち何人かは、あの五大湖解放戦の際、実際にギルマン率いるバグア軍と交戦し、その狡猾な戦術に煮え湯を飲まされている。
「前回は苦戦したし、今回はしっかりと注意していかんとな」
 その1人、漸 王零(ga2930)は風防越しに新たな愛機、F−108ディアブロの翼を頼もしげに眺めやった。彼が搭乗するMSI製の最新鋭機は、以前の機体同様黒一色に染め上げられている。
「しかし、新しい機体の名は『悪魔』か‥‥我の場合は『漆黒の悪魔』又は『戦場の悪鬼』ってところかな?」
 今回、王零も含めて部隊の10機中、実に4機をディアブロが占めている。
 だがその最新鋭機の力を持ってさえ、驚異的な機動力を誇るギルマンのエース機ゴーレムを仕留める事ができるのか? それは戦ってみなければ判らない。
「機体を乗り換えた初の実戦であの時のエースと再び戦う事になるとは‥‥臆したわけではありませんが、入念にチェックして損はありませんね」
 リヒト・グラオベン(ga2826)はまだ乗り慣れぬ自機のコンソールを睨み、慎重に計器類や機体のコンディションをチェックした。
 むろん「因縁の相手」という点では既存KVの乗り手も同様だ。
「アイツが来てるんッスね‥‥1度目は偶然、2度目は多少狙った必然、3度目の今回は運命ッスか?」
 F−104バイパーの操縦桿を握り、エスター(ga0149)が不敵に笑う。彼女の場合、ギルマンとは実に3度目の会敵となる。
「――縁が在ったら運命の恋人って事でスナイプリストに乗っけてやるッス!」
『今回は相応の覚悟が必要です。撃破したとしても、代償は高く付くかもしれません』
 櫻小路・なでしこ(ga3607)は、ギルマン自身よりむしろ彼を送り込んできたバグア側の意図を警戒していた。


 沖合の空母からの出撃という事もあり、現場上空までの到達はあっという間だった。
「さっそく、お出迎えか‥‥」
 上対馬町上空付近に達したとき、黒雲のように近づいてくる飛行キメラの大群を目にして、桜崎・正人(ga0100)がうんざりしたようにため息をもらした。
 もっとも数こそ多いが、向かってくるのは全て体長2m以下の中小型キメラだ。KVと互角に渡り合えるような超大型は1匹も見えない。
 肝心のゴーレム、及びタートルワームの姿も、今の所見あたらない。この地域では唯一の民間人居住地である上対馬町を除くと、付近は山がちな地形で身を隠す場所にはことかかないだろう。
(「ちっ。元グリーンベレーとやりあいたい場所じゃねぇな」)
 ゲックは内心で舌打ちする。
 とはいえ、飛行能力のないタートルワームの移動を考えると、敵は島内の幹線道路である国道382号線沿いに侵攻してくる可能性が高いと思えた。
『ともかく、上空のキメラどもから始末しましょう』
 空戦班リーダーを務めるソード(ga6675)が、青くカラーリングしたディアブロ「フレイア」から僚機に通信を送る。
 同行する正規軍「岩龍」には戦闘空域外からの電子戦支援を要請し、同じ空戦班のなでしこ、真琴、正人と共に戦闘態勢に入った。
「支援宜しくねっ☆」
 後退する岩龍パイロットに向けて真琴がサムズアップすると、向こうも了解したのか「任せてください」というように親指を立てて編隊から離れていった。
『FOX1! ‥‥ファイァーッ!』
 AAMを発射する際の警告コールと共に、ソード、なでしこ両機がK−01Hミサイルをほぼ同時に発射。計500発の小型ミサイルが雲霞のごとく密集するキメラ群へと襲いかかり、爆発の閃光と敵FFの赤い輝きが海峡の空を彩った。
 中型クラスのキメラを中心にバラバラと墜落していくが、残りのキメラ達はひるむ様子もなくこちらに向けて突入してくる。
 ハーピー、セイレーン、ドラゴンパピィ――殆どは体長1m以下の小物ばかりだ。しかし逆にサイズが小さい事で、本来対ワーム戦を想定した誘導ミサイルをすり抜けてしまったのだろう。
 距離を詰められた空戦班はロケット弾や高分子レーザー砲でこれを迎え撃つ。
 この時点で8割方のキメラ群は撃墜されていたのだが――。
『避けるっス!』
 最初に敵の意図を見抜いたエスターが全機に警告したが、手遅れだった。
 数十の爆発とFFの輝きが、今度はKV部隊を覆い尽くした。
 対人用キメラではハナからKVに勝ち目はない――そう判断したギルマンは、彼らの体に小型爆弾を取り付けた上で無差別の体当たり攻撃を命じていたのだ。
 破壊力自体は小さかったので大破は免れたものの、キメラの全滅と引き替えに傭兵たちのKVも各所に被弾し、無傷のものは1機としてなかった。
 そのタイミングを待っていたかのように、国道脇の山中から淡紅色のプロトン光線が対空砲火を打ち上げてくる。
 ――タートルワームだ。
 ソードとなでしこが敵ワームの潜むと思しき山中をロケット弾で爆撃する一方、陸戦班6機はいち早く降下態勢に入った。
 王零が指揮を執る陸戦班が人型変形し国道上に降下したとき、山中に隠れていたタートルがぬっとその巨体を現わし、その陰に隠れるようにして3機のゴーレムが(タートルに比べると小口径の)プロトン砲を放ってきた。
 そのうちの1機は――紛れもなく、あの迷彩ゴーレムだ。
「ふふふふふふ。会いたかったぞ、ギルマン。前回の借りは返させてもらう。『闇影の狂鬼神』漸王零、押して参る!!」
 覚醒変化により銀髪灼眼と化した王零が凄絶な笑みを浮かべた。
 国道上を舞台に、双方距離をとっての激しい砲撃戦が始まる。
 しかし傭兵側のスナイパーライフルはタートルワームの固い甲羅に阻まれ、レーザー砲はまだ射程が足りない。逆に傭兵達は敵のプロトン砲を一方的に浴びる形となった。
『‥‥これより着陸し、陸戦班の援護に向かう』
 正人からの通信が入る。
 払った代償は安くないものの、空中のキメラが全て自爆した事で、空戦班4機も早期の合流に成功。数の上では傭兵側が敵に対し有利に立つ形となった。
『斬り込むぞ! 我に続け!』
 このままプロトン砲の的になるくらいなら、多少の被弾は覚悟しても白兵戦に持ち込んだ方が得策、と決断した王零は僚機に檄を飛ばし、果敢に前進を開始する。
 エスター、正人、リヒトがSライフルでこれを援護した。
 損害を受けつつも何とか中距離まで接近したKV部隊はレーザー砲やショルダーキャノンによる攻撃を開始。特に非物理攻撃であるレーザー砲の集中砲火は堪えたのか、タートルが苦しげな咆吼を上げ甲羅に籠もる。
 その背後から滑るように2機の量産ゴーレムが飛び出し、プロトン砲を乱射しつつ白兵戦に備えて片手にBCアクスを引き抜いた。
「邪魔だ邪魔だぁー! アンタら雑魚を相手にしてる暇はねぇンだよ!」
 真琴がレーザーで牽制しつつ、チタンファングで反撃。北米戦では回避力の高さに悩まされた相手だが、機体強化の甲斐もあってかこの一撃は見事にヒットしゴーレムの巨体が揺らいだ。
 リヒトも鷹見 仁(ga0232)と共にもう1機の量産型を抑えに回っていた。
 BCアクスによるつばぜり合い。外観は似たような武器だが、パワーの方はバグア製の方がやや勝っているようだ。
「似非物に負けるわけにはッ‥‥これならどうです!?」
 ディアブロの特殊性能、A・フォース発動。一気に出力を高め、敵ゴーレムを押し返す。体勢を崩したゴーレムに、今度は仁がツインドリルの刺突を決めた。

 一方、ゲックは無闇な突入を控え、レーザー砲によりタートルへの攻撃を集中した。
「‥‥がむしゃらに前に出るだけが戦いじゃないってな‥‥高い授業料だったがよ!」
 甲羅に籠もりながらも回転しながら回避行動を取っていたタートルだが、次第にダメージが蓄積してきたのか、その動きも目に見えて鈍ってきた。
 その機を見計らったソードが装輪走行で一気に突入。機槍ロンゴミニアトの凄まじい一撃が甲羅もろともタートルを貫通し、さしもの大亀型ワームも力尽きてその動きを止めた。

 遮る者のなくなったギルマンの前に、王零、そして須佐 武流(ga1461)が立ちふさがる。
『ミルウォーキーの空港では世話になったな!』
『‥‥また、貴様か』
 ディアブロの試し切りとばかりにソードウィングで斬りかかる王零だが、敵もエース機だけに難なくこれをかわす。
「ちっ。やはり当たらんか」
 王零は舌打ちし、兵装をより命中率の高いソニックブレードへと切替えた。
 BCアクスを振り上げ反撃を加えようとするギルマンに対し、武流のハヤブサが素早く回り込み、チタンファングで斬り込んだ。
『ギルマン‥‥お前なら俺の限界を超えてくれるか? そしてそれを超えれば俺は強くなれるか? ‥‥試させてもらおう!』
 怒ったギルマンがアクスの矛先を変えるが、武流は紙一重で回避した。
「簡単に俺を捕らえられると思ったか!」
 突撃ガトリングで牽制しつつレーザー砲とチタンファングによるヒット&アウェー戦法を繰り返し、ゴーレムのプロトン砲を破壊する。
 ディアブロの攻撃力とハヤブサの運動性。2対1の戦闘で徐々に装甲を削っていくものの、ギルマンは慣性制御も交えた老獪な動きで巧みに身をかわし、逆に傭兵側へBCアクスやショルダーキャノンの攻撃を当ててくる。
『‥‥この体を我が物にした時‥‥俺は地球人の歴史を知った』
 こちらの注意を逸らすためか、それとも単なる独り言なのか――低く籠もった男の声が傭兵達の通信機から流れた。
『絶えざる戦争。破壊と殺戮‥‥くくっ、実に俺好みだ。同胞の中には貴様らを虫けら呼ばわりする者もいるが‥‥俺はそうは思わん。むしろ敬意を払ってもいい』
 まだ顔も見せぬバグア指揮官の、まるで地の底から響くような呟き。
『貴様らの血塗られた歴史は、我らが受け継いでやる――だから、安心して滅べ!!』
 凄まじいBCアクスの2連撃が、王零と武流を弾き飛ばす。
 とどめとばかりにショルダーキャノンを撃ち込もうとした時――。
『おまえらと一緒にするなっ!』
 後方から飛び込んだ仁が、倒れた2機を庇ってディハイングブレードを叩き込む。
 ギルマンは横に飛び退いてこれをかわしたが、そこに装輪走行で突入してきた真琴によるチタンファングの斬撃が待っていた。
『破壊と殺戮? ふざんなっ! 私ら能力者は、みんなの希望と笑顔のために戦ってンだよっ!!』
 その時、初めてギルマンも気づいた。
 王零達との戦闘にかまけている間、配下のゴーレム隊もタートルも全て倒され、既に己がKV部隊の包囲下にある事に。
『うぬっ‥‥!』
 やはり装輪走行で接近してきたソード機が、タートルを葬ったロンゴミニアトにA・フォースを付与した3連撃を加えた。
 さらに後方からはエスターがSライフルD−02によるピンポイント狙撃。
 さすがに分が悪いとみたか、ギルマンは疑似飛行で空へと舞い上がり離脱を図る。
 だがそこでG放電装置の雷撃とK−01ミサイルを浴び、迷彩ゴーレムは再び大地へと叩きつけられた。
 ミシガン湖畔での経験からギルマンの空中逃亡を予測した正人となでしこが、再び飛行形態に戻り上空で待ち伏せていたのだ。
 体勢を立て直した王零が、最後の練力を注ぎ込んで試作剣「雪村」にA・フォースを付与する。
「この一瞬、逃しはしない。我が一撃その身に刻め!!」
 乾坤一擲。光の刃がゴーレムのボディに深々と突き立てられ、ギルマン機はガクリと大地に膝を突いた。
 蜂の羽音のような不気味な唸りが響き、迷彩ゴーレムの間接部から青白い光芒が洩れた。
(「まさか、島を巻き込んで自爆‥‥!?」)
 傭兵達の胸を最悪の予感が過ぎる。
 目も眩む閃光。一瞬、KV操縦席のセンサー類が全てブラックアウトした。
 だが、ゴーレム自爆による衝撃と爆風は、拍子抜けするほど小さいものだった。
「どういう事だ‥‥?」
 訝る傭兵達の回線が復旧し、後方の「岩龍」から通信が入った。
『何が起こったんですか? 強烈なジャミング反応と、小型飛行物体の高速離脱を確認しましたが‥‥』
「――くそっ。逃げられたか‥‥」
 王零が悔しげに呟いた。
 自爆とみせかけ、ギルマンはゴーレム内部に装備された脱出用円盤でまんまと逃げおおせたのだろう。
 追撃しようにも、既に王零機の練力は底を尽き、他のKV隊も損傷率はおよそ7割近くに及んでいる。
 やや脱力した傭兵達の通信機に、「岩龍」パイロットの嬉々とした声が飛び込んだ。
『九州方面隊司令部より入電。福岡のバグア軍は動かず。現在、陸軍主力が対馬島北部に向け進撃中――我々の勝利です!』


 海峡の彼方から、解放戦の勝利を称える海軍艦艇の祝砲が轟く。
『(相棒‥‥今後も世話になりますよ)皆さん、光竜へ帰還するとしましょう』
 リヒトは任務を果たした愛機を心の中で労りつつ、仲間達へ通信を送った。

<了>