タイトル:悪夢の島〜還らぬ小隊〜マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/10 18:28

●オープニング本文


●ラスト・ホープ〜民間傭兵派遣会社「SIVA」支社ビル
「前の大規模戦闘‥‥名古屋防衛戦は憶えているな? ちょうど、あの2ヶ月ほど前の事だ」
 地下のコンピュータルームで端末を操作しながら、ラザロがいった。
 人間よりはホストコンピュータやサーバ類の保守を優先しているためか、室内の温度は低い。だが高瀬・誠(gz0021)は、自分の感じている悪寒の原因がそれだけではないような気がした。
 いま室内にいるのは彼とラザロ、そしてソニア・グリーンと名乗った若い女性の3人のみ。
 彼に同行してくれた仲間の傭兵達は上階の応接室で待機している。

「君らの希望通り、SIVAのデータベースを開示しよう。ただし、直接見せるのは『当事者』の高瀬君だけだ」

 それが、ラザロの出した条件だった。
 SIVA側の依頼者であるソニアの個人情報に関わるため――というのがその理由である。
 ただし、誠が知った内容を「個人的に」他の傭兵達に話すのは構わない。
 それについてはソニアの同意も得ていた。

「場所は‥‥まあ太平洋上のとある無人島とでもいっておこう。戦略的には何の価値もない、UPCもバグアも関心をもたない空白地域だった‥‥その時まではな」
 だが、その価値のない孤島にバグア軍の上陸、そして施設の建造が確認された。
 UPCは偵察機の情報からそれを知ったが、当時まだナイトフォーゲルが大量配備される以前の事でもあり、うかつに手を出すわけにもいかず、ただ様子を見ていることしかできなかった。
「キメラの生産工場。あるいは新種キメラの実験場‥‥当時UPC情報部はそう判断していた。だがある日、どういうつもりか連中はヘルメットワームに乗ってさっさと引き上げてしまったのだよ。施設を放り出してね」
 そこでUPCはサイエンティストを含む能力者の傭兵1個小隊を島に送り込み、詳しい情報を探ろうとした。あわよくば、バグア側が放棄した施設を無傷で接収できれば――という期待もあったに違いない。
 しかしこの作戦は失敗に終わった。移動艇から島に上陸して2時間もしないうちに、傭兵部隊が音信を断ってしまったからだ。
 バグア軍が残したキメラに襲われて全滅――移動艇に残ったUPC軍士官はそう判断した。それでも、何とか生存者を救出すべく丸一日かけて島の周囲を飛び回った末、海岸部をフラフラした足取りで歩く人影を発見した。
 ただ1人の生存者――それが当時能力者のファイターであり、ソニアの亡夫でもある傭兵のグラハム・グリーンであった。
 他の傭兵達が次々とキメラに襲われ命を落とす中、グラハムは重傷を負いながらも必死で島の中を逃げ回り、そこで偶然バグアが建造したと思しき何らかの「施設」を発見した――らしい。
 救出されたグラハムが錯乱状態だったうえ、その後ラスト・ホープの病院で息を引き取ってしまったため、それ以上詳しく聞き出すことはできなかった。
「あの‥‥軍はグラハムさんのエミタを調べなかったんですか? エミタAIには、能力者の戦闘履歴がデータとして記録されるって聞きましたけど‥‥」
「むろん調べたろうさ。だがその情報は何故か公開されないまま、軍は島の調査を打ち切った‥‥理由は判らんがね」
 誠の問いに、ラザロが答えた。
 やがて名古屋防衛戦が始まったため、もはや敵が見捨てた無人島に危険を冒してまで貴重な能力者を送る余裕はない、という事情もあったのかもしれない。
 そして死亡したグラハムの遺体から摘出されたエミタは個人データを抹消されたうえ、ちょうどその頃新たな能力者として志願した誠に移植された――。
「これで全部だよ」
「‥‥え?」
「君の悪夢の原因は、おそらくエミタAIに残されたグラハムの記憶‥‥厳密に言えば、彼が見た光景がデータとして一部残っていたんだろうな。だからエミタごと交換してしまえば、もう悪夢に悩まされることもない。そうだろう?」
「確かにそうですけど‥‥でも‥‥」
 誠は戸惑いながら、傍らに座るソニアを見やった。
 ラザロのいうとおり、研究所でエミタを交換してもらえば、少なくとも誠自身の問題は解決する。だが、おそらく摘出されたエミタは軍に回収され、今度こそグラハムのデータも完全に抹消されてしまうだろう。
 ――すなわち、ソニアが知りたがっていた「夫の死にまつわる真相」も、永遠の闇に葬られてしまうに違いない。
「‥‥」
 おそらく今回の依頼のため、亡夫の弔慰金も含め殆どの私財を注ぎ込んでいるのだろう。質素なドレスに身を包んだ若い未亡人は、ただ涙ぐんだまま俯いていた。
「何なら、もう一度依頼を出してみないかね? この不幸なご婦人のために。それにあの頃と違って、今なら君ら傭兵でもKVを使える。島に残ったキメラ程度なら、怖れるに足りんだろう?」
「KVの使用には軍の許可が要りますよ」
「そのへんは何とでもなるさ。SIVAの役員には、元UPC正規軍の退役将校もいることだし‥‥むろん、その時は俺も同行しよう」
 ふいに理由のない怒りを覚え、少年はキッとラザロを睨みつけた。
「そんな風に僕を焚きつけて――あなた自身は、いったい何が目的なんですか!?」
「最初に言ったろう? 俺は‥‥ただ知りたいんだよ。グラハムが最期に何を見たのか。能力者の傭兵でさえ正気を失うほどの『恐怖』‥‥それが、いったい何なのかを」
 男はデスクに肩肘をついたまま、灰色の目を細めてニタリと笑う。
 その傍らに置かれたモニターには、グラハムが派遣されたという島の海図が青白い光を放って表示されていた。

●参加者一覧

ヴィス・Y・エーン(ga0087
20歳・♀・SN
鷹見 仁(ga0232
17歳・♂・FT
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
潮彩 ろまん(ga3425
14歳・♀・GP
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
ランドルフ・カーター(ga3888
57歳・♂・JG
王 憐華(ga4039
20歳・♀・ER
美川キリコ(ga4877
23歳・♀・BM

●リプレイ本文

 抜けるような青空、その下に広がる群青の海原。
 名前すらないその小さな島は、船上から眺める分にはただ平和な「南洋の楽園」としか思えなかった。
 SIVA側の用意したコンテナ船に仮設された飛行甲板に9機のKVが並び、依頼人である高瀬・誠(gz0021)を含む傭兵たちは既に集合を終えていた。
「久しぶりだな。元気‥‥では、あまりないのか?」
 鷹見 仁(ga0232)が心配そうに声をかけると、少年はやや無理するように、ぎこちなく微笑んだ。
「あ、鷹見さん‥‥どうもお久しぶりです。ラスト・ホープに来たときはお世話になりました」
 依頼内容については概ね知っていたが、誠自身から改めて詳細を聞き、
「そんなことが‥‥言っちゃ悪いが少し興味をそそられるな。ま、俺たちに出来るだけのことはしてやるよ。あまり思い詰めるな」
「はい。‥‥よろしくお願いします」
「とりあえず、今回の依頼目的としては‥‥例の施設の発見ってことになるかな?」
「UPCが封じようとした真相‥‥それが如何なるものか解き明かすためにも、施設の発見は成功させたいところです」
「秘密にされるとよけい知りたくなっちゃうよね‥‥あっ、もちろんソニアさんや誠くんの為にも、真相知りたいってのもあるから」
 前回に引き続いての参加となるリヒト・グラオベン(ga2826)、潮彩 ろまん(ga3425)も仁と同意見だった。
 いちおう「誠個人の依頼」という形を取っているものの、実際には一連の事件に関わった者達‥‥UPC、ラザロ、ソニア、そして現在のラザロの雇い主であり、今回の調査を全面的にバックアップしている傭兵派遣会社SIVAと、様々な思惑が複雑に絡み合っている。
 特にSIVAは簡易空母に改造したコンテナ船の他、SES兵器を搭載した護衛の駆逐艦まで派遣している。ULTや各国メガコーポレーションには及ばないまでも、私設軍隊まで所有するその力は単なる1企業の域を超えており、ラザロ個人の好奇心とは別に、彼らが今回の調査に並々ならぬ「興味」を抱いているのは明白だった。
(「どうもこの依頼、一筋縄ではいきそうにないですね‥‥」)
 リヒトがちらっと視線を向けると、今回のもう1人の依頼人、若き未亡人ソニア・グリーンは甲板に佇み、亡き夫グラハムが最後に訪れた島影を寂しげに見つめていた。
「相ッ変わらずラザロは気に入らないが‥‥グラハムの奥さんが真相を望んでるんだし、そういう事ならアタシも付き合わなくっちゃね。それに。知りたくなってきたしね、グラハムの見た『施設』が一体何なのかを」
 そんなソニアの姿を遠目に見ながら、美川キリコ(ga4877)がざっくばらんな口調でいう。
「あ、ご挨拶が遅れました‥‥櫻小路・なでしこ(ga3607)と申します」
「初めての方ははじめまして、久しぶりの方はお久しぶりです。今回はよろしくお願いしますね。私はスナイパーの王 憐華(ga4039)といいます」
 彼女ら2人は今回の依頼には初参加だが、誠やキリコとは先の五大湖解放戦で同じ「天衝」隊メンバーとして共に戦った仲である。
「‥‥お団子食べますか♪♪ 腹が減っては戦も出来ませんからね」
 にっこり微笑み、憐華は持参した手作り団子を仲間達に振る舞った。
 所属する部隊は違えど、あの北米での大規模戦闘に参加した縁もあり、傭兵達の間には初対面の者同士も含めてある種の連帯感が芽生えている。
 が、間もなくその和気藹々としたムードに水を差す「異分子」が空から訪れた。
 漆黒のステルスフレームに機体を包んだF−104バイパー。
 そのKVは船の上空で減速すると、空中で人型形態に変形し、スラスターを吹かしながらゆっくり垂直降下した。
「やあ、すまんね。遅くなって」
 ヘルメットを脱いだラザロが、出迎えのクルーに小声で何か指示を下した後、傭兵達の方に歩み寄ってきた。
「北米の方じゃ随分と活躍したそうじゃないか? もっとも、最後はUPC軍がシカゴから撤退したっていうから‥‥この戦争もまだまだ長引く。つまり俺達の商売も、当分食いっぱぐれはなしってことだな」
 皮肉を含んだラザロの物言いに、一様にムッとする傭兵達。
 そんな中、
「まあまあ。今回は合同調査なんですから。お互い、仲良くやろうじゃないですか」
 過去に別の依頼でラザロと面識のあるランドルフ・カーター(ga3888)は仲間達をなだめると、1人ラザロの方に歩み寄り、上着のポケットから取り出した高級煙草を勧めた。
「おや、カーターさん。お元気そうで何より」
「ときに‥‥今回の件、あなたはどうお考えですか?」
 貰い煙草をくわえたラザロに火を貸しながら、ランドルフは尋ねた。
「昔、人間の心に潜む『恐怖』を具現化するキメラと戦ったことがあります。それに似た能力を持った『何か』ではないかと私は考えるんですが‥‥どうです? 会ってみたいと思いませんか、ラザロさん?」
「日本であった『むじな』型キメラの事件だな。あの報告書は読ませて貰ったよ。なかなか興味深い」
 フゥ‥‥と煙を吐きつつ、ラザロが頷く。
「これは、私個人の推測なのですが‥‥たとえば、バグアが怪奇小説を題材にしたキメラを作り出すとは考えられませんか?」
 確かに誠を悩ませる悪夢の内容といい、かつてUPCが行った島の調査の顛末といい、どこか現実離れした、怪奇小説めいた出来事ではある。
「あり得るね。そもそもキメラが神話や伝説の怪物を模しているのは、人類の潜在的な恐怖心を煽るため――といわれてるくらいだからな」
 そこでラザロはニヤリと笑い、
「バグアの連中に『恐怖』の感情があるかは知らん。だが、奴らは確かに人間が抱く『恐怖』の存在を知っているし、しかも強い関心を抱いている‥‥だから、試してみたかったんじゃないかな?」
「試す? 一体、何を――」
 ランドルフが重ねて問いかけようとしたとき。
 船のクルーの1人が駆け寄り、駆逐艦のレーダーやソナー探査の結果、島の上空と周辺海域に敵影は確認されないこと、そして島への上陸準備が整ったことを告げた。

「さてさて、いったい何が待ち受けてるんだろーねー?」
 SIVA側で用意した上陸用ホバークラフトに人型形態のLM−01で乗り込みながら、ヴィス・Y・エーン(ga0087)が好奇心旺盛な面持ちで呟いた。同じく、リヒトも今回はLM−01に乗り換えている。
 人型と自動車型、2つの形態を持つ陸戦専用の新型KV。空を飛ぶことはできないものの、その分コストパフォーマンスに優れ、「岩龍」と同じく電子戦支援能力を持つ。
 またサイズ的に他のKVに比べ小回りが利くので、今回のような密林での調査行では活躍が期待できた。
 ソニアは強く同行を希望したものの、一般人の彼女を島に行かせるのはあまりに危険――という理由から船内で待機。
 他の7名はラザロと共に各自のKVへ乗り込み、飛行形態で仮設飛行甲板から順次発艦していった。

『UPCが過去に調査した島の地図だ。完全ではないが、ないよりマシだろう』
 海岸に上陸するなり、ラザロ機から各KVへデータが転送されてきた。
 小さな無人島にも拘わらず、その地図は所々が空白になっている。前回生身で送り込まれたUPCの傭兵部隊が、地図を完成させる前にキメラに襲われ、グラハム1人を残して全滅してしまったからだろう。
 島は海岸部を除き殆どが密林に覆われているが、幸い樹木を掻き分ければ、人型KVで移動できないほどではなかった。問題があるとすれば、周囲に障害物が多いため、いざというとき速やかに飛行形態に移行できないことであろうか。
 一応上空と海の安全は確認されたといえ、密林の中に何が潜んでいるか判らない。
『以前の調査では何があったんでしょうね。いずれにしても注意しないといけませんね』
 表向き平穏な無人島を見渡し、なでしこが不安そうに呟く。
『うーん、何でバグアは基地作ったのに、放置して逃げちゃったのかな? ‥‥軍の推測が正しかったんなら、自分で作ったキメラが制御出来なくなって、追い出されちゃったのかも‥‥だとしたら、ボク達もとっても危険だよね』
 ろまんは自らの推測を口にした。
 創造主であるバグアでさえ持てあまし、放棄されたキメラ――もしそんな怪物が実在するなら、これは人類にとっても一大脅威ということになる。
『‥‥でも、考えたって仕方ないか、悩むより調査にGOだよ!』
 海育ちの元気な剣道少女は、あっけらかんと笑った。
 予め打ち合わせたプランに従い、傭兵達は3班に分かれて島の調査を開始した。

A班(右エリア担当)
 リヒト、なでしこ、誠
B班(中央エリア担当)
 仁、ランドルフ、ラザロ
C班(左エリア担当)
 ヴィス、憐華、ろまん、キリコ

 島内を左右と中央の3エリアに分け、キメラの襲撃を受けても相互支援ができる二等辺三角型のフォーメーションを取り、各機の速度を合わせつつ密林内に侵入。
 特にLM−01の機能を活かして情報を収集し、前調査隊が残した痕跡を探しながら進む。
 ちなみにランドルフは先に犠牲となった傭兵たちの遺骨収集を申請したが、SIVA側からは「調査が完了し、島内の安全が保証されればこちらで行う」との返答だった。
 もっとも許可が下りた所で、密林に飢えたキメラが徘徊していることを考えれば、遺骨じたい発見できる望みは薄かっただろうが。

『そういえば、最近L・ホープに遊戯場がオープンしたようですね。この一件が全て片付いたら、皆で行ってみませんか?』
 同じ班で行動する誠を気遣い、リヒトは無線でわざと気楽な話題を振ってみた。
『そう‥‥ですね』
 返事をする誠だが、頭の中は島の調査、そして自らのエミタに刻みつけられた「悪夢」の正体を追うことで一杯のようだ。
『大丈夫ですか、高瀬さん? 気負わずに今の自分に出来る事を着実にして参りましょう。わたくしもお手伝いできる事をさせていただきます』
『は、はい』
 やはり行動を共にするなでしこもまた、心配そうに声をかける。
 ただし誠の方も、以前の名古屋地下のように怯えたり取り乱したりする様子がない所を見ると、その後の実戦や大規模作戦を通してそれなりに成長している様子だった。

(「まさか、攻撃してきたりする事はないだろうが‥‥」)
 R−01の風防越しに隣を歩く黒いバイパーを横目で見つつ、仁はラザロへの警戒を怠らなかった。誠の話から判断する限り、彼が何か自分達に明かしていない「目的」を秘めている可能性は高い。
 もちろんあからさまに観察したり、逆に気にしていない振りをすると警戒されるかもしれないので、不自然にならない程度に注意を向けている態度をとっておく事は忘れなかったが。
(「しかし誠の奴、大丈夫かな‥‥?」)
 ふと気になったとき、左エリアの探索にあたっていたヴィス機から緊急通信が飛び込んだ。
『大型キメラと接敵! 他のエリアも注意して!』

 ヴィスを含むC班が遭遇したのは、犬型の胴体に3つの首を持つ「ケルベロス」だった。ただし3つ並んだ左端の首は白骨化してダラリと垂れ下がり、体のあちこちは傷ついて腐敗している。おそらくグラハム隊が負わせた傷だろう。
 そんな状態にも拘わらず、キメラはその闘争本能に従って傭兵達に襲いかかってきた。
「良い機会だ。ちょっくらリハビリに付き合って貰うよ!」
 ダイヤ陣形の先頭に立っていたキリコがブレイクホークを振り上げ、大型キメラの首を1本斬り飛ばす。
 だがケルベロスは信じがたい生命力でキリコ機に体当たり、さらに残った最後の頭から炎のブレスを浴びせて後続の憐華、ろまんを同時に攻撃してきた。
 殿にいたヴィス機がレーザー砲で牽制。
 敵の動きが弱った所を、
「どいてください、目標を狙い撃ちます!!」
 憐華のスナイパーライフルD−02が火を噴き、フォースフィールドもろともキメラの胴体を射抜く。
 瀕死のダメージを負いながらもしぶとく密林に逃走を図るケルベロスに、ろまんのハンマーボールが追い打ちをかけた。
「くらえ必殺、ハンマーボール剣玉殺法!」
 大樹に引っかかり狙いを外した――と見えた大鉄球は、ちょうど剣玉のように大きく弧を描いてケルベロスに命中。最後の頭を叩き潰し、大型キメラに引導を渡した。

 時を同じくしてB班も大型キメラ「ヒドラ」の襲撃を受けていた。
 が、こちらは発見が早かったため、先手を取ってラザロ機が放ったM−12粒子加速砲が敵の土手っ腹に風穴を開け、さらにランドルフがガトリング砲を叩き込んだ後、一気に間合いを詰めた仁がライト・ディフェンダーでとどめを刺した。
(「もっと早くKVが配備されていれば、グラハムさん達も‥‥」)
 そんな無念の思いが、ランドルフの胸を過ぎる。

 そんな風にして行く手を阻む大小のキメラを片付けながら、島内を捜索すること、およそ2時間。そろそろ練力も半減し、いったん補給のため船に戻ろうかと傭兵達が無線で相談するさなか――。
 A班のリヒト機が、密林の奥に半ば埋もれた人工の建造物を発見した。

 数機のKVが周辺の警戒にあたり、残りの傭兵達は生身の武装に身を固め、注意深く機体から降りた。
 金属ともプラスチックともつかぬ未知の物質で形成されたドーム状の建造物は、大量の爆薬で強引に大穴が開けられていた。
 中に踏み込むと、無惨に焼けこげた機械類――それは明らかに人類の所産ではない――が散乱する床の中央に、地下への入り口らしき扉がある。
 ただし、その継ぎ目は何者かの手で固く溶接されていたが。
 建物の内部を一目見るなり、誠は足を止め、微かに身を震わせた。
「ひょっとして‥‥これも、夢に見た光景かい?」
 気遣うようなキリコの言葉に、少年は青ざめた顔で頷く。
「この爆破と、床の溶接は人の手によるものだな‥‥おそらくグラハム達がやったことだろう」
 誠とは対照的に、ラザロは嬉々とした表情で床面に膝をつき、地下への扉を覆う砂埃を両手で払った。
「何で? せっかく見つけた、バグアの秘密施設なのに」
 SIVAから借りたカメラで周囲の証拠写真を撮っていたヴィスが、納得がいかず尋ねる。
「彼らはここまでたどり着き、地下にいる『何か』を見た‥‥そして、慌てて封印したんだよ。自分達が逃げる時間を犠牲にしてまでね」
「これが、パンドラの箱に成るか否かは‥‥次の調査となりますね」
 練力や弾薬の消耗を考慮し、リヒトは仲間達に告げた。
「目的は達成しました。皆に連絡して撤収しましょう」
 頭上を照らす南洋の陽射しにも拘わらず――彼は背筋を這うような悪寒を禁じ得なかった。

<了>