タイトル:ギガ・フラワーの逆襲マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/05 14:38

●オープニング本文


「それ」を最初に発見したのは、バグア軍の南下を警戒して九州上空の警戒にあたっていた、UPC空軍の電子戦偵察機「岩龍」だった。
 場所は熊本と宮崎のちょうど県境、国見岳付近。山中の樹木を押し倒し、何か巨大な物体が移動している。よくよく見れば、物体そのものが無数の蔦や枝葉で覆われた、歩く巨大植物だった。
 そして動物ならば「頭」にあたる部分にはラフレシアを思わせる直径十メートル近い巨大な花を開き、そこから煙突のごとく濛々と黄色い花粉を吐き出している。
「な、何だあれは!? 巨大キメラ‥‥?」
 驚愕しつつも、直ちに望遠写真を司令部へとデータ転送する岩龍パイロット。
 だが、それが彼の最期の仕事となった。
 レーダーが福岡方面から飛来する高速物体をとらえたと思う間もなく、次の瞬間にはM6の超音速で接近してきたヘルメットワームから放たれたプロトン砲により、岩龍の機体は爆発し九州上空に散っていった。

●ラスト・ホープ〜未来科学研究所
「この頭部の花みたいな部分‥‥以前に現れたギガ・フラワーに似てないか?」
 UPC日本支部から緊急の要請を受け、対策会議に招集された医学・生物学・植物学関係のスタッフ達が、「岩龍」パイロットが命と引き替えに残した画像データを分析しながら意見を交換する。
「おそらく同系統のキメラでしょうな。ただし大きさといい、移動能力といい、新たな改良種と見ていいでしょうが」
「確か、例の毒花粉に対抗する治療薬はもう完成しているのだろう? なら話は早い。山から下りる前に、フレア弾で始末してしまえばいい」
「それが、そう簡単にいかんのだよ‥‥」
 会議に出席する医療スタッフ主任、蜂ノ瀬教授が難しい顔でいった。
「第2次偵察班からの報告によれば、奴の上空には3機の小型ヘルメット・ワームが護衛に張り付いている。また、百m以内の圏内に接近すると空中であれ地上であれ、本体から伸びる触手に襲われる危険があるということだ」
「KVによる攻撃は?」
「実体弾でダメージを与えてもすぐ再生されるので殆ど効果無し。またあの黄色い花粉はレーザーやビームといった知覚兵器の効果を半減させる効果があるらしく、こちらもあまり期待できないようだ」
「‥‥やはり、フレア弾しかありませんな。護衛のワームがいるといっても、たった3機でしょう? KV部隊を多数投入すれば‥‥」
 その時、UPC本部から電話で新たな情報がもたらされた。
 現在、新種のギガ・フラワーは九州山中を宮崎方面に向かってゆっくりと移動している。奴の目的地は、おそらく進路上にあるUPC空軍の新田原基地だろう。
 そしてもう一つ――福岡のバグア軍基地から飛行ワーム多数が飛び立ったという報告だった。
「‥‥そういうことか」
 納得がいったように、蜂ノ瀬が頷いた。
「諸君、このギガ・フラワーは囮だ。新田原から正規軍KV部隊の主力を出撃させ、手薄になった所をワーム群で奇襲し一気に基地を叩こうという魂胆だろう」
「だからといって放置するわけにもいかんでしょう? どのみち、あと24時間もすれば奴は新田原に到達する‥‥いや、それ以前に市街地に出られたら、どれほどの被害が出るか――」
「君はどう思うかね?」
 蜂ノ瀬は隣に座る助手のナタリア・アルテミエフ(gz0012)へ意見を求めた。
「そうですね‥‥」
 まだ女子大生のようなサイエンティストは、丸眼鏡を光らせつつわずかに思案し、
「後方のワーム群の存在を考えれば、正規軍の主力はうかつに動かせません‥‥となると、少数精鋭の飛行小隊で護衛のワームや触手攻撃を牽制、その隙にフレア弾攻撃でキメラ本体を殲滅するより他ないでしょう」
「やはり、君もそう思うかね」
「しかし‥‥極めて危険な任務ですわ。たとえ能力者パイロットといえども、成功させられるかどうか――」
「はっはっは、心配いらんよ。前に初代ギガ・フラワーと戦った、勇敢な能力者がいるじゃないか。ここに」
 にこやかに笑いながら、蜂ノ瀬はナタリアの肩をポンと叩いた。
「‥‥‥‥は?」
「安心したまえ。実はもう、新田原に護衛の傭兵部隊を待機させてある。君の乗るKVS−01もフレア弾を搭載済みだしね。‥‥もっとも念のため2発積んだら、重量の関係で他の武装は一切装備できなくなったが。ハハハ」
 ナタリアの顔が死人のごとく青ざめた。
「あのその、私、飛行機は‥‥あと触手系もちょっと‥‥」
 誰も聞いてない。
 蜂ノ瀬を筆頭に、さっそく九州南東部の地図を広げ、巨大キメラ迎撃のプランなど練っている。
「いや〜、子供の頃見た怪獣映画みたいで、何やらワクワクしてきますなぁ」
 呑気なこといってる場合か。
 そのとき、再び卓上の電話が鳴った。
「ああ、私だ‥‥うん、うん‥‥そうか! それは良かった!」
 受話器を置いた蜂ノ瀬が、既に口から魂が抜けかけた様子で放心しているナタリアに満面の笑顔で振り向いた。
「聞きたまえ、ナタリア君! いい報せだ」
「え? か、代わりのパイロットが見つかったんですか!?」
 雲間から差す一条の光を見る思いで、ナタリアは聞き返した。
「いやあ、傭兵でもない君が今回の任務を『志願』した事に、軍の連中もいたく感動した様でねえ。‥‥万一殉職するような事があったら、ぜひ聖盾従軍章を授与させてくれとの申し出だ。これは我が研究所にとっても大変な名誉だよ、ウン」
(「どこがいい報せなんですかァーー!?」)
 ナタリアは叫びたかったが、もはや声を出す気力さえなかった。

●参加者一覧

ベールクト(ga0040
20歳・♂・GP
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
天上院・ロンド(ga0185
20歳・♂・SN
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

 ラスト・ホープから移動艇で飛来したナタリアが滑走路に降りたとき、新田原基地は既に戦闘を前にした緊張と喧噪に包まれていた。
 滑走路上には何十機という戦闘機が翼を並べてスクランブル体制を取り、その間をパイロットや整備員が慌ただしく走り回っている。
 ノートPCを抱き締めおろおろ周囲を見回す女子大生のようなサイエンティストを、軍用車両に乗ったUPC正規軍将校が敬礼して出迎えた。
「お待ちしておりました、博士! 準備の方はすっかり整っております」
「準備」と聞いてビクっと身を竦めるナタリアを、左右から音もなく近寄った2人の兵士が有無を言わさず車内に押し込み、飛行場の片隅の格納庫へと移動する。
 ‥‥心なし「出迎え」というより「強制連行」のムードが漂うのは気のせいであろうか。
 格納庫内にはナタリア搭乗用に用意されたKVS−01、そして護衛役を務める8名の傭兵が待っていた。
「うっす、よろしくなナタリアちゃん。花束までのエスコートはしっかりやらせてもらうぜ」
「自ら志願して」危地へ赴こうとしているナタリアに感銘した様子で、ニカっと爽やかスマイルを浮かべてサムズアップするのはジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)。
「ナタリア、また宜しく。凛達がしっかりと守るから、安心して」
 前に初めてギガ・フラワーが出現したとき、彼女を護衛してキメラの細胞サンプル採取に協力した勇姫 凛(ga5063)が頼もしく微笑む。
「‥‥ふむ、気分はお姫様をエスコートか。かなり物騒なガラスの靴を履いたお姫様だがな」
 既にフレア弾2発を搭載し、出撃前の整備も済ませたS−01を眺め、ゲック・W・カーン(ga0078)が呟いた。
 ただし緊急依頼ということもあり、機体に爆弾以外の武装は一切なし。
 丸腰同然のKVを目の当たりにして、ナタリアは顔面蒼白でその場に立ちつくした。
 その背後から、
「にしても、フレア弾のみで特攻か‥‥潔いっつーか、漢(オトコ)だな?」
 とどめを刺すかのようなベールクト(ga0040)の一声。
「‥‥‥‥はうっ」
 にわかに意識が遠のき、糸が切れた人形のごとくへにょっ、と倒れそうになったナタリアを、周囲の傭兵達が慌てて抱き留めた。
「ど、どうした? 体の具合でも悪いのか?」
 心配そうに尋ねるゲックに、はらはら落涙しつつナタリアは事の次第を打ち明ける。
 一同は唖然としてナタリアを見つめた。
「KV苦手なのに‥‥毎回こうだと‥‥ナタリアさんも‥‥不幸属性持ちな‥‥気がしますぅ‥‥」
 やはり以前、ナタリアの護衛役を務めた幸臼・小鳥(ga0067)が同情するようにいう。
「まぁ、なんつーか‥‥強く生きろ?」
 ベールクトも思わず慰めの言葉をかけた。
 できるものなら代わってやりたいが、彼らも今回の依頼は「ナタリア機の護衛」と聞かされ、そのつもりで戦闘プランや機体の装備を整えて来たのだ。もはや一刻の猶予もないこの状況で、そう簡単に交替できるものでもない。
「ナタリアさんも苦労人ですね‥‥お手伝いしますよ」
「まぁ俺らがきっちり護ってやるから、安心しろってばよ」
 天上院・ロンド(ga0185)と砕牙 九郎(ga7366)にも励まされ、彼女もようやく気を取り直す。
「は、はい‥‥よろしくお願いしますわ」
 ふらつく足取りで搭乗機に向かうナタリアの背中を見ながら、月神陽子(ga5549)はふと思った。
(「触手は‥‥まぁ、動物でなく植物ですから少しはマシですわね。ワームも3機程度なら何とかなりますし。一番心配なのはナタリアさんですわ」)
 フレア弾の投下時は戦闘速度での急降下が必要となる。
 もし急降下途中で気絶されて、そのまま突っ込んで爆死されでもしたら。
(「‥‥やっぱり依頼は失敗ですわよね?」)
 失敗となれば、当然報酬にも響く。これは傭兵として非常に痛い。
 そこでコクピットに乗り込もうとするナタリアを呼び止め、
「これはエチケット袋ですわ、それに酔い止めと気付け薬です。太腿を刺す針も要りますか?」
「いえその、そこまでは‥‥では、エチケット袋だけお借りします」
「気絶される前には言って下さいね。さすがに降下途中で気絶されては、どうにもできませんわよ?」
「はあ‥‥ご親切に、どうも」
 まあわざわざ断ってから気絶する人間も、あまりいないだろうが。

 ともあれ操縦席に着いたナタリアは覚醒状態に入った。
 いかに飛行機恐怖症といっても、彼女とて能力者である。覚醒して抵抗を高めれば、よほどの事がない限り飛行中の失神はあり得ないだろう。
 一通り計器類のチェックを済ませたあと、起動させたノートPCをケーブルでコンソールパネルに繋ぎ、移動艇の中で作成したデータをKVの戦闘コンピュータに転送する。
 敵キメラの大きさと移動速度、推定攻撃地点における地形、気象条件などから割り出した最適の爆撃ポイント。このデータに加えてエミタAIのサポートさえあれば、パイロットとしてはビギナーである彼女にも「ぶっつけ本番の急降下爆撃」という高度なミッションがこなせるのだ。
 ただし戦闘時間が長引き、練力が尽きたらどうなるか判らないが。

 間もなく空軍基地の将校が現れ、ギガ・フラワーの接近と正式の出撃命令を傭兵達に告げた。
 敵巨大キメラは上空に飛行ワーム3機を伴い、北西の山岳地帯から新田原基地目指してゆっくりと移動している。
 この事態に鑑み、UPC陸軍はまず山麓付近に大量の地雷を埋設。さらに戦車や自走砲、多連装ロケット等を主力とした機甲部隊を平野部に展開しているが、いかに対キメラ用に武装を強化してあるといっても所詮在来兵器による防衛線では突破されてしまう公算が高い。
 そして頼みの綱の正規軍KV部隊は、福岡から飛び立った飛行ワーム約50機――現在は阿蘇山上空で滞空している――を警戒して身動きが取れなかった。
 これは佐世保、大村など他のUPC軍航空基地も似たような状況で、それぞれ30機程度の飛行ワームが牽制するかのように付近の上空に展開している。
 UPC側もKVを発進させ上空警備にあたらせているが、仮に巨大キメラ殲滅のため主力KV部隊を移動させれば、手薄になったところをすぐさまM6の超音速で強襲しようという意図は明白だった。
 もっとも正面からの総力戦となればバグア軍も少なからぬ損害を受けることになる。だから奴らはじっと待っているのだ。いわばギガ・フラワーが新田原に到達するか否かで勝敗の決する、時間との戦いといえた。
「要するに我々が最後の砦、というわけですか‥‥」
 ロンドが端正な顔を引き締める。
 傭兵達は各々の愛機に搭乗すると、格納庫の出口から滑走路へと滑り出した。


『ギガ・フラワーね‥‥ヘルメットワームがキメラの護衛をしてるなんざ初めて聞いたぜ。ある意味珍事じゃね?』
『殆どのキメラは使い捨てみたいなものですけど‥‥あれは明らかに拠点攻略用の戦略兵器ですわ。名古屋防衛戦から3ヶ月‥‥福岡のバグア軍も、もうあれだけのモノを作り出せる生産力を取り戻したということでしょう』
 ジュエルの疑問に、ナタリアの緊迫した声が無線で答える。
『まあ、それに相当する厄介な存在みたいだし、きっちりカタをつけていこうぜ!』

 現在、傭兵達は対ワーム部隊として陽子&九郎、ジュエル&ベールクト、ゲック&小鳥がペアで編隊を組み、その後方にナタリア直衛機としてロンド&勇姫が続いている。
 さらにその後方には正規軍の岩龍1機が従い、ワームからのジャミングを中和していた。
 巨大キメラの殲滅――フレア弾の有効距離100m以内に接近するには、まず護衛として付いている飛行ワーム3機を排除せねばならない。
 基地から出撃していくらも経たぬうちに、早くも敵円盤3機の機影が風防越しに視認できた。
 3対8。ただし小型ワームとKVのキルレートは一般的に1:3といわれているので、まずは集中攻撃で1機を潰し、早々に数の優位に持ち込む必要がある。
 対ワーム班各機は互いに連絡を取り合いヘルメットワーム3機の位置を確認後、ちょうど3角形の編隊を組んだ先頭機に狙いを絞った。
「ミサイル全部‥‥上げますぅっ!」
 射程距離に入るなり、目標の1機を狙い小鳥を始め全機が各自ミサイルを発射。
 慣性制御でかわそうとしたワームだが、ブレス・ノウも併用した計8機からの飽和攻撃はよけきれず、数発を被弾した末山中に墜落、そこで大爆発を起こした。
「本当はミサイルを撃つのは好きではありませんの。近接兵器とは違って、こう‥‥ゴリッとかザクッとか、グシャっとした感触がありませんし」
 近接特化させた紅いバイパー「夜叉姫」の操縦席で、覚醒により般若のごとき形相に変貌した陽子が物足りなげに嘆息した。

 残りのワーム2機は、すかさず左右に分かれプロトン砲を放って反撃。
 双方入り乱れてのドッグファイトが始まった。
「ハッ! チキンレースだぜ!」
 ベールクトは右翼の1機へ狙いを定め、短距離高速型AAMを叩き込む。その後旋回行動を取り螺旋を描くようにロールしつつ軌道を変え、追いすがってくるワームの攻撃を回避しながら引きつけて、ペアを組むジュエル機へと攻撃をバトンタッチ。
 ジュエルの放ったG放電装置の電撃を浴びたワームがややグラついたところへ、小鳥機のスナイパーライフルの援護を受けつつゲック機が肉迫。
 レーザー砲とガトリング砲を浴びせてとどめを刺した。
「ワーム撃墜確認‥‥ですぅ‥‥。次は‥‥どれですかぁ‥‥!」

 一方、左方向へ迂回したワームへは陽子&九郎の2機が向かった。
「さて、初依頼だ。きっちり決めないとな!」
 間近に迫ったワームを狙いガトリング砲の弾幕を張るが、これは慣性制御でかわされてしまう。小型とはいえ、敵ワームも名古屋防衛戦の頃に比べると性能が強化されているのだ。能力者搭乗のKVでも機体強化なしでは攻撃を当てることすら難しい。
 危うく反撃を受けかけた九郎機とワームとの間に、陽子の「夜叉姫」が割って入った。
「ブースト空戦スタビライザー起動――見せて差し上げます、天空で舞い踊る鬼神の姿、赤き剣の舞を!!」
 ブースト&スキル発動により運動性を増幅させ、すれ違いざまに鋭利なソードウィングによる斬撃を浴びせる。火花が飛び散り、ダメージを負ったワームは慌てふためいたように「夜叉姫」から逃れ、フレア弾を抱いた後方のナタリア機に目標を変えた。

『ノーベンバー、FOX2。敵ワームを迎撃する!』
 ナタリア機直衛にあたるロンドが、凜と共にスナイパーライフルで牽制する。
 あくまでギガ・フラワーを守るつもりなのか、被弾をものともせず突入してくるワームに対し、両機はレーザー砲や短距離AAMによる近接攻撃に切替えた。
 AAMの発射ボタンを押しながら、凜の脳裏をかつて見た光景――初代ギガ・フラワーの毒花粉の被害を受けて入院した人々や子供達の姿が過ぎる。
「もう、二度とあんな事はさせない。その花は凛達が燃やすんだ、だからどけーっ!」
 ミサイルとすれ違いのように放たれた収束フェザー砲の光線がわずかにナタリア機をかすめ、最後のワームは力尽きたように爆散した。


 護衛のワーム3機を排除したKV部隊の前に、ついにギガ・フラワー本体が現れた。
 大幅に遺伝子改造された全長はおよそ20m。ラフレシアを思わせる頭部の花弁から濛々と黄色い毒花粉を噴出し、その巨体は煙幕に覆われたごとく霞んで見える。
「うー‥‥ほんとにあのキメラ‥‥歩いてますぅ‥‥」
 嫌悪感剥きだしに呻いた小鳥の言葉どおり、奴は蔦と枝葉に覆われた巨体を大蛇のようにうねらせつつ、ゆっくりと前進を続けている。
「この次が‥‥ない様に祈りつつ‥‥いきますぅっ‥‥!」
 ソードウィングを装備したベールクト、陽子の2機を露払いに、岩龍を除く8機のKVはナタリア機を援護する形で巨大キメラに向けて突入した。
 いったいどうやって感知しているのか、先頭の2機が100m圏に入るなり、無数の触手(蔦)が大蛇のごとく襲いかかってくる。
「汚ェ手で触ってくるんじゃねぇよ!」
 ベールクトが怒鳴り、翼に刃を持つKV2機は襲い来る触手を次々斬り飛ばす。
 後続の6機も、一斉にスナイパーライフルやガトリング砲、レーザー砲、残弾ミサイルによる弾幕を張り触手を吹き飛ばした。
 千切られた触手は直ちに再生を始めるが、とても間に合わない。音速で飛ぶKVにとって、100mなどほんの一瞬の距離に過ぎないのだ。
『今だ! 行けぇーっ!!』
『攻撃に集中して大丈夫だよ、ナタリアとみんなの背中は、凛が守るから!』
 ゲックと凜からの通信を受け、ナタリアは一端高度を上げてからフレア弾投下のため急降下の体勢に入った。
 その動きに感づいたのか――キメラ頭部の花芯部から、噴水のように緑色の液体が噴射され、それを浴びたナタリア機の翼がジュッと音を立てて浸食された。
「キャアーッ!?」
 コクピット内でナタリアが悲鳴を上げる。
 その危機を救ったのは、同じ高度を随伴していた凜のR−01だった。
「やらせないっ‥‥凛、いつでも切り札は用意してあるんだからなっ!」
 アブレッシヴファング併用で予備のスナイパーライフルを発射、花芯を破壊する。
 その隙に降下したナタリア機は、キメラの根元付近を狙ってフレア弾を投下。
 わずかに狙いは逸れたが、直径100mに及ぶ高熱の炎がギガ・フラワーのほぼ6割を焼き払った。
 再び高度を上げたナタリアは、そのままローリングシザースで背面旋回した。
 恐怖のあまりついにキレたのか、眼鏡の奥の両眼は完全に据わっている。
「魔女の婆さんに焼かれなっ! ウラアァーーー!!」
 母国語で何か口汚い罵声を叫びつつ、2発目を投下。
 炸裂した炎の塊が、再生しようともがく巨大植物キメラを今度こそ欠片も残さず焼き払った。


「どうもお疲れさん‥‥しかしまぁ、あんたも気苦労多そうだな‥‥色々と」
 基地に帰投後、ゲックはナタリアに労いと慰めの言葉をかけた。
 巨大キメラ殲滅と時を同じくして、後方のワーム群も全機福岡へ撤退していったという。
 無事任務は成功したものの、KVから降りたナタリアは半ば放心状態だった。
 覚醒状態が解けたため、今までの反動が一気に来たらしい。
「でも、ナタリアって凄いね、率先して大変な仕事引き受けてるんだ。たまには温泉ヤゴ退治みたいなのにも、参加すればいいのに。温泉、気持ちよかったよ?」
 ヤゴキメラ依頼の裏事情を知らない凜が、無邪気な笑顔でいう。
「おん‥‥せん?」
 ナタリアの頬がピクっとひきつる。
 と同時に、ドーっと滝のごとく涙が溢れ出した。
(「任務を達成できた嬉し泣きか‥‥」)
 そう解釈した傭兵達は、号泣するナタリアの肩を叩き、みんなで明るい笑い声を上げるのだった。

<了>