タイトル:【DoL】北からの一矢マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/24 20:33

●オープニング本文


 西暦2008年1月初頭、カナダのオタワにあるUPC北中央軍本部会議室にて多くの高官が見守る中、2人の指揮官が意見を対峙させていた。
「まずはシカゴ近郊の工場制圧、同時に自由の女神砲奪還。それを行うには傭兵諸氏の協力が必要不可欠だと考えます」
 1人は傭兵の必要性を主張するハインリッヒ・ブラット准将。
 前回の名古屋防衛戦でもミハエル=ツォィコフ中佐に全権を譲るまで、作戦の指揮を執っていたUPC屈指の名将だ。彼が傭兵の必要性を主張するには理由があった。
 今回のシカゴ奪還戦、UPCの狙いは世界最大規模を誇る五大湖周辺の工業地帯奪還。そして自由の女神砲の奪還、あるいは破壊となるが、現状防衛線を維持するだけでも苦しいUPC北中央軍にどれほどの余裕があるというのか?
 攻防どちらか一つに戦力を集中させることができれば勝率はあがると誰の目からも明らかだったが、戦力は限られていた。
「現在UPCの戦力のみではオタワ防衛すら危うい。そのことは貴方も理解しているでしょう、中将」
「異分子を取り込んだ結果内部崩壊等混乱が生じた場合、貴公はその責任をどうとるおつもりですか?」
 淡々と答えるのはもう1人の指揮官ヴァレッタ・オリム中将、彼女は傭兵参加に懐疑的だった姿勢を見せていた。
 一度戦功をあげたからといって予算不足から苦渋の策で編み出された傭兵を主力に据えるのは承服できないという態度だ。
 ヴァレッタ中将が真に懸念するのは、名古屋防衛戦でもユニヴァースナイトに場所を特定したというスパイの存在だった。今回の防衛目標である自由の女神像も前回のユニヴァースナイトと似た状況下にある。現在バグアの布陣を見ている限り女神像の場所は特定されていないようだが、油断をすれば寝首をかかれる可能性も否定できない。
「貴公が何故かくに傭兵に寛容なのか私には理解できん。得体の知れぬ輩から情報が漏れる可能性を貴公は考慮せぬのか?」
 ヴァレッタ中将率いる直属の部下、通称親衛隊はUPC屈指の諜報能力を持つと言われている。それは同時に情報かく乱にも長けていると言うことであり、彼女のそういう力が北中央軍をUPC最大勢力にならしめたといっても過言ではない。
 また同時に自分の手の届かぬ所のものには一切手を出さない原理主義者でもあった。何百とも知れぬ傭兵を自ら庭に招き入れるような事は、彼女が愚作とするものの一つである。
「しかし彼ら彼女らの力なくして勝利はありえません。今回の作戦、勝利するために必要なものは数と速さです」
 UPCが工場を奪還するのが先か、バグアが女神像を奪還するのが先か。それがこの作戦の大きな分かれ目となる。勝てばいいという問題では無かった。
 また中将率いる親衛隊は諜報こそ得意とするが、彼女の信念もあり絶対数が少ない。正面からのぶつかり合いには弱いことも彼女は理解している。そして准将が突くのもそこであった。
「我々は各人の趣味や志向だけで戦うわけにはいきません。これは勝たなければいけない戦い、そのためには使えるものは使うべきかと私は考えます。‥‥そもそも、我らだけでどうにかなるものであれば、そもそもシカゴを奪われることもなかったでしょう」
「‥‥そこまで言うのなら、貴公の言う傭兵の力を私にも見せてもらおう」
 こうして地球の未来と准将の進退を駆けた対バグア第二回戦が開かれることになった。

 ◆◆◆

 ミシガン州、スー・セント・マリー空軍基地。
 アッパー半島東端、カナダ領に近いこの基地は1981年に一度閉鎖されているが、その後バグア軍により米本土侵攻、および五大湖地域占領という事態を受け、いまや北米大陸に残された貴重な人類側反攻拠点として、新たな戦略的役割を担いその機能を復活させていた。
 五大湖解放作戦「Day of Liberty」――自由の女神砲を擁するシカゴを最重要目標に、周辺の主要都市をも一気に奪回しようという未曾有の作戦は、敵側が最大規模の戦力をもって目標都市を要塞化した地域への突入ということもあり、あの名古屋防衛戦以上の激戦は必死と思われる。
 今回の解放目標とされた都市の一つに、ミシガン湖西岸に位置するミルウォーキー(MW)が存在した。ユニヴァースナイトによるシカゴ攻略と呼応し、デトロイトから出撃するUPC北中央軍の空軍部隊がミルウォーキーへと空襲をかける。
 だが、敵も易々と侵入を許すまい。シカゴ同様に要塞化され、多数の飛行ワーム、およびタートルワームによる堅固な防空体制が敷かれているのは明白だ。
 そこでUPC総本部は、正規軍によるMW攻撃の一環として、北方のスー・セント・マリー基地からもKV部隊の奇襲をかけ、敵の防空戦力を削る作戦を立案した。
 デトロイトに集結した正規軍主力部隊とは別に、まだ小雪の舞い落ちる北の空軍基地へ傭兵達のKVが呼び集められる。
 出撃は明日未明。ミシガン湖畔を文字通り血と戦火で染め上げる大規模戦闘が、間もなく幕を上げようとしていた――。

●参加者一覧

ヴィス・Y・エーン(ga0087
20歳・♀・SN
エスター(ga0149
25歳・♀・JG
ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
時雨・奏(ga4779
25歳・♂・PN
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
ソード(ga6675
20歳・♂・JG

●リプレイ本文

 スー・セント・マリー空軍基地を出撃後、いくらも経たないうちにミルウォーキーの街並みが目に入ってきた。
 ミシガン湖畔に佇む、かつては緑豊かで美しかった都市。そして現在は全市をバグアに占領され、市民達の多くは強制労働に駆り出されて明日をも知れぬ過酷な日々を送っているという。
 一日も早く彼らを解放してやらねば――そんな思いが傭兵達の脳裏を過ぎるが、今回の目標はミルウォーキーそのものではない。
 場所でいえばミルウォーキー北方、アップルトンとの中間付近に布陣するバグア軍部隊。
 奴らを排除できれば、デトロイトからのUPC正規軍の本格的な航空攻撃を前に敵軍の防空戦力を削ると共に、ウィスコンシン州方面から南下すべく待機中の、旧カナダ軍を主力とした陸上部隊のため道を啓くことにもつながるのだ。
(「危険な任務ですけど、ミルウォーキー解放の第一歩となる様、尽力致します」)
 MW市街の高層ビルを横目で見つつ、櫻小路・なでしこ(ga3607)は固く胸に誓った。


 ミシガン湖西岸上空まで達したとき、早くも迎撃に上がったヘルメットワームの機影が風防越しに見えた。
 数は2機。UPCからの情報どおり、現在五大湖周辺のバグア軍主力はシカゴ中心に集結しつつあり、やはり北方の守りは比較的手薄な様だ。
『目標を視認! 作戦通りいきますよ!』
 S−01のコクピットから叢雲(ga2494)が僚機に通信を送り、10機のKVは各々2機1組のエレメント(単位)を組んでフォーメーションを取った。
 その後方から、正規軍から参加した岩龍2機がジャミング中和の電子支援を開始する。
 まずは対空戦闘を受け持つヴィス・Y・エーン(ga0087)&エスター(ga0149)、ミア・エルミナール(ga0741)&叢雲、ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)&時雨・奏(ga4779)、なでしこ&ソード(ga6675)の4ペアが、二手に分かれて敵飛行ワームへと向かった。
「さあーてさて、気合の入った任務だね。目尻のハートが疼く!」
 ミアは己の頬を叩いて気合いを入れた。
 彼女の主義としては『ゴーアタック・ゴーアタック・ゴーアタックオンリー!』であるが、相手の小型ワームも以前に比べ強化されているとの情報もあり、ここは慎重に立ち回る必要がある。といって、この後に控える地上戦を思えば時間をかけずさくっといきたいところだが。
「さて、オレらは先陣か。後続の為にも、今回でできるだけ倒しちまいたいとこだね」
 ジュエルは友軍機とのフォーメーションを確認しつつ、湖岸より1kmほど内陸部に展開したバグア軍対空部隊をチラリと見やった。
 まだ射程距離圏外のためか、3機のタートルワームがプロトン砲を撃ってくる気配はない。
 今回が初の実機戦となるソードが、ペットボトルのお茶で一口喉を潤してから先制のスナイパーライフルD−02を発射。
 が、まだ距離が遠いためかこれはかわされる。
 さらに距離が詰まった所で、
「金を貰う以上、仕事はきっちりとな‥‥初手から安全牌、一点賭け行かせて貰うで」
 奏が呟き、レーダーでロックオンするなり短距離高速型AAMを放つ。
 他の傭兵達も一斉にミサイル、ロケット弾を斉射。
「シビれさせてやるぜ!」
 ジュエルはG放電装置の雷を惜しみなく浴びせた。
「ご馳走をたんまり持ってきたんだ。全部食べてくれよ〜」
 初弾を外したソードもまた、手持ちのK−01小型ホーミングミサイルを盛大に発射した。
 敵ワームは慣性制御を駆使して回避するが、計8機からの飽和攻撃により何発かを被弾。やや速度を落としつつも、プロトン砲を放って反撃してくる。
『数ではこっちの方が上や。皆、動けるなら迂回して後方か側面にまわれ‥‥それ以外は牽制頼むで〜』
 奏の呼びかけに応え、傭兵側は1対4という数の優勢を活かして近距離から高分子レーザー、ガトリング砲の集中砲火を浴びせ、5分足らずの空戦で2機のヘルメットワームをミシガン湖の藻屑と変えた。


 KV小隊が上空に達するなり、地上の亀型ワーム3機が一斉にプロトン砲を打ち上げてくる。幸い命中精度は高くないものの、1発喰らえばそのダメージは馬鹿にならない。
「久しぶりだな、亀共‥‥あの時のようにはいかねえぜ! いくぞ、リヒトシュトラール!!」
 緋沼 京夜(ga6138)は愛機F−104に声をかけ、一気に急降下した。
 彼の役目は、コンビを組んだ藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)と共に煙幕銃を使用し、仲間達の地上降下を支援することにある。
 口で言えば簡単だが、煙幕の効果が及ぶよう正確に狙うには敵の目前で速度を落とす必要があるため、被弾覚悟の危険極まりない任務だ。
「京夜殿の背中、我が確かに預かった。心ゆくまで暴れられよ♪」
 藍紗のS−01が囮役となって敵の目を引きつけ、その隙に巧みに地表近くまで高度を下げた京夜は、敵陣のやや風上を狙って煙幕弾を発射。
 濛々と噴き出した煙がタートル群の視界を遮り、対空砲火の途絶えたチャンスを捕らえた傭兵達はKVを人型に変形させ、次々と着陸を果たした。
 岩龍には1機を空中待機、もう1機を地上降下させ、各機から引き続き電子支援を受ける。
 煙幕の向こうから、KVでいえばディフェンダーに相当すると思しき白兵戦兵器を振りかざしたゴーレム2機が突撃してきた。
「さーて、亀さんは硬いわゴーレムはうっとーしーわで色々と大変だけどー、皆がんばろーかー」
 ヴィスは人型に変形する直前、空戦形態から残りのロケット弾をタートルを狙い全弾発射。外れはしたものの、その爆発は一瞬敵をひるませる役には立った。
 今回の目標はあくまで友軍KVへの脅威となるタートルワームである。
『まだや‥‥功を焦るな‥‥』
 うかつに飛び出したり固まってプロトン砲の的にされないよう、仲間達に奏が自重を促す。
 傭兵達は空戦時同様2機1組のエレメントを維持したまま、護衛のゴーレムを迂回しつつ装輪走行でタートル包囲にかかった。
「今後も長い付き合いになってきそうな連中ッスからね! ここらで一つ白星挙げときたいッス!」
 物理攻撃には鉄壁の防御を誇るタートルに対し、エスターが間合いをとって高分子レーザーを発射。返す刀でゴーレムをも牽制する。
 リロードを済ませたレーザー砲を乱射しつつゴーレムの間を駆け抜け、ミアはタートル1機に肉迫、アグレッシブ・ファングを乗せてツインドリルでアタック。
 これは堪えたらしく、大亀は悲鳴のような咆吼を上げて手足と首を甲羅に引っ込めた。
 たとえ甲羅に籠もって防御を上げても、知覚兵器までは防げない。コンビを組む叢雲がすかさずビームアクスを振り上げ、非物理攻撃の一閃を浴びせた。
「接近戦は趣味じゃないんですが‥‥ね!」
 火花が飛び散り、甲羅のプロトン砲塔がグシャっと潰れる。まだ耐久を残しているとはいえ、対空砲台としてほぼ無力化されたのは明白だった。
 動きを止めたタートルに対し、ソードとなでしこが相次いで高分子レーザーを浴びせ、最初の1機にとどめを刺す。
 ワーム達は混乱に陥った。
 残り2機のタートルは地上のKV目がけてプロトン砲を乱射するが、元より対空用の長距離砲撃を前提とした武器である。能力者の傭兵達は砲塔の動きから相手の狙いを読み、淡紅色の光線を巧みにかわす。
 そのうち、1機のプロトン砲が仲間のタートルを誤射するというアクシデントが発生した。
「亀は亀らしく、おとなしくしてろっ!」
 ジュエルのビームアクスが味方の誤爆に傷ついたタートルに追い打ちをかける。
(「相手の装甲からして一撃では倒すのは無理‥‥かといってプロトン砲を壊せば、逃げ帰って修理するだけやろう」)
 奏は考えた。
「ならば、一番効果的なのはここや! ‥‥貴様の足、頂くで」
 ブーストで一気に飛び込み、アグレッシブファングでツインドリルを叩き込んで離脱する。
「どや? 足を壊せばもう逃げられんやろ?」
 甲羅に籠もっても知覚兵器の餌食になるだけと悟ったのだろう。
 傷ついた足を引きずり、慌てたように戦場からの離脱を計るタートルの前に、ハンマーボールを構えた京夜機が立ちはだかった。
「遅いっ――はああぁぁぁぁっ!!!」
 人型KVのアームが高々振り上げられ、SES武器の巨大なトゲつき鉄球が叩きつけられる。
 グシャッという鈍い音と共に、タートルの甲羅の一部が陥没した。
 京夜が素早く横に退くと、その後方で待機していた藍紗機がここぞとばかりM−12帯電粒子加速砲の照準をロックオンする。
「その自慢の甲羅、我が撃ち砕いてくれる!」
 高エネルギー粒子の矢に貫かれたタートルは、苦痛の咆吼を上げつつも、信じがたい生命力で最後の抵抗とばかり藍紗に向かって突進した。
「おっと、相棒を傷つけたいなら俺を破壊していきなっ! 守るって約束してるんでね」
 背後から再び京夜のハンマーボールが振り下ろされ、不死身と思われた亀型ワームも、ついに力尽きてその動きを止めた。
 護衛のゴーレム2機がせめて最後のタートルを守ろうと我が身を盾にするも、周りを完全に包囲した10機のKVからレーザーとビームの十字砲火、さらに肉迫してのビームアクスやハンマーボールの鉄槌を浴び――。
 やがて1機のゴーレムが倒れ、タートルもまた甲羅に引きこもったままの姿でその動きを止めた。
 突如、機能停止した3機のタートルと1機のゴーレムが鹵獲防止のため自爆する。
 その爆発に紛れ、すかさず逃亡を計る最後のゴーレムをエスターとソードがスナイパーライフルD−02で狙撃したが、結局慣性制御で逃げ切られてしまった。
 が、いずれにせよ飛行ワーム2機、タートルワーム3機は当初の目的通り撃破。
「スー・セント・マリー聞こえとるか? 任務完了。ご所望通り、敵のオイルでミルウォーキーへの赤絨毯ひいてきたぞ」
 奏がUPC空軍基地へ任務達成の通信を送ると、
『了解、諸君らの健闘に感謝する。なお新郎新婦は、間もなく式場へ出発する』
 正規軍部隊の出撃準備完了、という返信である。
 ――傭兵達は、無事ミルウォーキー奪回への玄関口をこじ開けた。
 だが、湖岸の都市を巡る攻防はまだ始まったばかりである。
 異星人の手に落ち、暗黒に閉ざされたあの街を、何としても再び平和な市民の憩いの場に戻してやりたい――。
 傷ついた機体のコクピットから彼方のビル群を眺めつつ、彼らの胸にそんな思いが去来した。

<了>