タイトル:湯けむり戦闘ツアーマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/16 23:25

●オープニング本文


●ラスト・ホープ〜未来科学研究所
「ふうむ。面白いな‥‥」
 研究室のPCに向かい、蜂ノ瀬教授は独り言のように呟いた。
「どうかなさったんですか?」
 助手で研究所スタッフのナタリア・アルテミエフ(gz0012)が、書類整理の手を休めて尋ねる。
「いや、今朝方九州のUPC軍から送られてきた情報なんだが‥‥ちょっと見たまえ」
 いわれるままにPCのモニター画面を覗くと、そこに細長い胴体に六本の節足、ギョロリと剥いた大目玉に鋭い牙を生やしたグロテスクな生物の画像が映し出されていた。
 体長は2mくらい、というところか。
「昆虫型キメラですね‥‥新種でしょうか?」
「いや、私も最初はそう考えたんだが‥‥これ、何かに似とると思わんかね?」
「何か‥‥?」
 ナタリアは眼鏡を直しつつわずかに考え込み、
「そういえば‥‥ヤゴに似てますね。トンボの幼虫の」
「そうそう。トンボといえば、いたろう? そんなキメラが」
 そういわれて、ナタリアもすぐピンときた。
 コードネーム「ドラゴンフライ」。トンボに似た外見と飛行能力を持ち、群れを成せば戦闘機とも渡り合える厄介な大型キメラだ。
「つまりこのキメラが、ドラゴンフライの幼虫だと?」
「確証はないがね。だがドラゴンフライの材料にトンボのDNAが使われているとすれば、充分に可能性はある‥‥実に興味深い」
 蜂ノ瀬は興味津々といった顔つきで、ヤゴ型キメラの画像を見つめた。
「ぜひ、こいつを研究してみたいな‥‥うまくサンプルが入手できれば、キメラ対策の新しい手がかりがつかめるかもしれん」
「では、ULTに連絡してさっそく依頼を‥‥」
「いや、その必要はない。さっきULTに問い合わせてみたら、ちょうど九州のある温泉街から依頼が来ていた」
「温泉街?」
「うむ。街の近くへこいつの同類と思われるキメラが現れて、観光客が激減しているそうだ。向こうも随分せっぱ詰まってるらしく、規定の報酬に加えて温泉旅館の宿泊代や食費も全部持つとさ」
(「まあ‥‥素敵♪」)
 一瞬、ナタリアの目の前がバラ色に染まる。タダで食べ放題、飲み放題の豪華温泉ツアー。キメラのサンプル採取は危険な作業だが、つい先日戦ったギガ・フラワーに比べれば遙かに楽そうな相手だ。
「あのう、教授? そのお仕事、よろしければぜひ私に――」
「あ、いいからいいから。君にも自分の仕事があるだろう? 今回は傭兵達に、ついでで頼むことにしたから」
 ナタリアの希望をあっさり打ち砕き、蜂ノ瀬は何事もなかったかのように研究に戻った。

●UPC本部〜斡旋所
「え〜!『キメラ退治とサンプル採取。報酬に加えて無料温泉ツアー付き』!?」
 壁面のモニターに表示された依頼内容を見て、ヒマリア・ジュピトル(gz0029)が目を輝かせた。
「面白そ〜う♪ 受けちゃおっと☆」

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
エスター(ga0149
25歳・♀・JG
御坂 美緒(ga0466
17歳・♀・ER
八重樫 かなめ(ga3045
16歳・♀・GP
田沼 音羽(ga3085
18歳・♀・ST
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM

●リプレイ本文

 南国とはいえ、2月の九州は寒かった。まして山間部ともなると、まだ雪さえ残っている所も珍しくはない。
 そんな山奥の林道を、能力者温泉ツアーご一行様――もとい、キメラ討伐の傭兵部隊は各々の武器を手に、油断なく進んで行った。
「温泉ツアー‥‥いいですね、実に心が躍ります。温泉に浸かりながらの日本酒、たまりませんよね‥‥」
 今回のメンバーでは最年長にあたり、自ずとリーダー役を務めることになったリディス(ga0022)が、うっとりと遠くを見るようにいった。
「日本の温泉は初めてッスからね〜〜。存分に楽しむッス!」
「浴衣姿に下駄の音、日本が誇る文化を奪うキメラは放置出来ないですよね!」
 同行するエスター(ga0149)、田沼 音羽(ga3085)も頷きながら同意する。
 ‥‥って、何か論点がすり替わった感満々。
 いやもちろん今回の任務は温泉街付近に出没する昆虫型キメラ掃討、および組織サンプル回収であるが、彼女達の心は既に正規の報酬に加えてボーナスとして用意された無料温泉ツアーの方へと飛んでいた。
「街の人も不安だろうし、もし温泉街が無くなったら、人類にとって大きな損失だと思うから‥‥」
 勇姫 凛(ga5063)が生真面目な口調でいってから、ちょっと赤面し、
「‥‥温泉と食べ放題だけにつられたわけじゃ、無いんだからなっ!」
 むろん危険な任務であることに変わりないし、その点は傭兵達もぬかりはない。
 現地の温泉街に到着後、すぐ依頼主である温泉組合会長と面会し、目撃情報や被害状況の詳しい聞き取り等を行った。
 会長の話によれば、直接の被害は今の所一部の家屋が壊されたり、農家の家畜が襲われたりした程度だが、むしろ「キメラ出現」の風評による観光客激減の方が街全体の大きな損失になっているという。
 そこで傭兵たちは組合から借りた周辺地図と最新の目撃情報に基づき、2班に分かれてキメラ捜索を開始した。

A班:リディス、エスター、音羽、凜
B班:月森 花(ga0053)、御坂 美緒(ga0466)、八重樫 かなめ(ga3045)、葵 宙華(ga4067)、ヒマリア・ジュピトル(gz0029)

 一方、B班5名も携帯でリディス達と定時連絡を取りつつ、山中のキメラ捜索を続けていた。
「ボク達‥‥似てるね。まるで鏡みたい」
 花は、今回で初顔合わせとなるかなめに話しかけた。
「んー、花ちゃんとあった時に思わず鏡な行動とったけど、何でだろ‥‥? 偶然だよね。何かシンパシーみたいなのは感じるけどさ」
 初対面にもかかわらず、互いに何かを感じ合っている。
 花もかなめも、戦災孤児のため自らの肉親について漠然とした記憶しかない。
 もしや――という思いが2人の脳裏を過ぎるが、どちらもあえて口には出さなかった。
 そのすぐ後ろでは、
「ヒマリアさんが不在の間、弟さんは彼女と二人きり‥‥後でお土産を買って伺わないとですね♪」
「そういえば‥‥ちょうどバレンタインの季節かぁ。ウフフッ、ラスト・ホープに戻ったら、2人でどう過ごしたかテミストに白状させなくっちゃ☆」
 既に顔馴染みの御坂 美緒(ga0466)とヒマリア・ジュピトル(gz0029)が、何やら脳天気な会話を交わしている。
「地元の人の証言によれば、ヤッキーが目撃されたのはこの辺のはずだけど‥‥」
 お気に入りの棒付きキャンデーを舐めつつ、葵 宙華(ga4067)が周囲の山林を見渡した。
 ちなみに今回の敵キメラはその姿がトンボの幼虫・ヤゴに酷似していることから、古代トンボの学名から取った「メガネウラ」というコードネームが与えられているものの、傭兵達の間ではかなめが命名した「ヤゴキメラ=ヤッキー」という呼称がすっかり定着している。
 同じくトンボの成虫に似た大型飛行キメラ「ドラゴンフライ」との関連は、今の所不明である。
 研究所の蜂ノ瀬教授は今回のキメラが「ドラゴンフライの幼生体」という仮説を唱えているが、それはサンプルを回収して詳しく研究してみなければ判らない事だろう。
 仮にドラゴンフライだとすれば、その羽化を許せば被害はこんなものではすまなくなるので、いずれにせよ早めに退治しておくのに越した事はないが。
「ヤゴって気持ち悪い‥‥しかも大きいなんて。今回女の子ばかりだけど、皆は大丈夫なのかな?」
 出発前に研究所で見せられたグロテスクな画像を思い出し、花は思わず身震いした。

「特に現地の人の目は大切ですね、私たちが知らないようなところでも見ているでしょうし」
 そういいながら、A班のリディスが改めて地図にマークされた目撃地点を確認する。
「DNA単位で実物のヤゴを模したキメラなら、オリジナルの好みそうな場所が近いかもしれません」
 サイエンティストの音羽は、主に水場や地熱の高そうな地点をチェックしていた。
 ふと、彼女は自分の眼鏡が曇るのを感じた。
 冬場であるにも拘らず、森の奥から生暖かい湯気が漂ってくる。
 音羽は他の仲間達にも声をかけ、4人で森の中へと分け入った。
 5分もしないうち、蒸気を吹き上げる小さな泉を発見した。温泉地だけに、温かい地下水が湧き上がる天然の井戸らしい。こんな山奥でなければ、いい露天風呂になったことだろう。
 ガサッ――。
 何か重たい物が、枯れ葉を踏んで移動する気配。
 警戒する4人の前に、そいつはのっそり姿を現した。
 ギョロリとした複眼、節分かれした長細い胴体――実在のヤゴをより醜悪にデフォルメし、巨大化させた体長2mほどの昆虫型キメラ。
 直ちにB班に連絡を入れると共に、傭兵達は一斉に覚醒した。
「ヤゴモドキごときが、私の温泉の邪魔をするなぁぁぁ!!」
 覚醒変化で漆黒に変わった長い髪をなびかせ、ヴァルキュリアの爪をかざしたリディスが先陣きって突入する。
「貫けエクスプロード‥‥温泉の平和と安らぎの為に!」
 エクスプロードの槍を構え、同じく前衛に立つ凜が獣突でキメラを弾き飛ばす。
 立て続けの攻撃を受けたヤゴキメラは、見かけによらぬ俊敏さで体勢を立て直し、顎の部分に折り畳まれた鎌状の牙を素早く伸ばして反撃してきた。
 後衛でアサルトライフルを構えたエスターが、その顎を狙って鋭覚狙撃のスナイプシュート。
 バシィーーッッ!!
 雷鳴のような轟きと共に一条の光芒が森を貫き、ヤゴキメラの胴体を半ば消し炭に変えた。
「あら‥‥すごい威力‥‥」
 エネルギーガンを抱えた音羽が、自分でも驚いたようにポカンと口を開けた。
 ちなみに知覚武器であるエネルギーガンの攻撃力は、サイエンティストが使えばKVの高分子レーザーにも匹敵する。
 当然、価格も戦闘機並みという恐るべき兵器であった。

 同じ頃、B班の傭兵たちもやはり林道で他のヤゴキメラに遭遇、美緒の超機械による錬成強化を受けてから交戦状態に入っていた。
 前衛に立ったかなめは、姿勢は低くしグレートソードで頭と心臓を守るように構え、瞬天速で一気に距離を詰め、その勢いのまま全力込めて叩きつけた。
「一撃必倒、雷迅剣! 何ちゃって」
 ロングスピアを構えたヒマリアが横に回り込み、体節の継ぎ目を狙って「ていっ! ていっ!」と急所突きで攻撃する。
 宙華は敵の顎が伸びきった瞬間を狙い、牙の根元を狙ってスコーピオンの銃弾を撃ち込んだ。
「醜い姿ね‥‥」
 ドローム社製SMGを構え、覚醒により性格の変わった花が冷淡に呟きつつ弾幕を張る。
 度重なる攻撃でキメラの動きが鈍ってきた所で、最後にかなめが斬り込んでとどめを刺した。

 とりあえず倒したキメラから体組織のサンプル採取を済ませ、A、B両班は携帯で連絡を取りつついったん集合した。
 目撃情報から推測してキメラの数は2、3匹と思われるので、あるいはまだ1匹がどこかに潜んでいる可能性もある。
 そこで、奴らが巣くっていたと思われる温泉の泉を中心に、傭兵達は捜索を再開した。
 間もなく、泉からほど近い大木に3匹目のヤゴキメラを発見。
 だが、なぜか死んだように動かない。
 その背中はパックリと縦に割れ、もぬけの殻と化している。
「まさか‥‥」
 立ち木の間から、バサバサと近づいてくる不気味な羽音。
 羽化を遂げたドラゴンフライ――ただし脱皮後間もないためか、その成長はまだ不完全だった。
 全身から白い粘液を垂らして地上2mくらいの高度をよたよた飛びつつ、それでもキメラの本能からか傭兵達に挑みかかってくる。
「ぎゃあ〜〜っ! キモチ悪ぅ〜い!!」
 ヒマリアがスピアを上に向け、金切り声を上げて攻撃――というか、キメラを寄せ付けぬため必死で突きまくった。
「あんたに癒しの場は要らない。此処から立ち去れ、この世から立ち去れっ!」
 宙華が強弾撃で羽の根元を狙撃。
 さらにエスターもスキル大判振る舞いで銃弾を叩き込む。
 べちゃっ、と地面に落ちた巨大トンボに傭兵達が一斉に襲いかかり、袋叩きの末ようやく息の根を止めたのであった。


 その後も泉の周辺を捜索し、他のヤッキーや脱皮後の殻が存在しないことを確認、ようやく旅館に帰り着いた時にはすっかり日が暮れていた。
 泥と汗、ついでにキメラの体液にまみれた衣服を浴衣に着替え、ともかく一汗流そう――と、旅館の女将の案内で念願の温泉へ。
 混浴の露天風呂がある、というので殆どの者は水着持参、希望者には旅館側が湯浴着を貸してくれた。
 屋内の脱衣所に移動し、景気よく浴衣を脱いだ瞬間ボン! と突き出したエスターの巨乳を目の当たりにして、なぜか一部の女性傭兵たちが切ない敗北感に捕らわれる。
「女の子の価値は胸の大きさじゃないもんっ!」
 拳をグッと握りしめて呟くかなめの言葉に、ヒマリア以下数名がうんうんと頷く。
「‥‥大丈夫です。私達にはまだ未来があるですよ!」
 ヒマリアとお揃いでスクール水姿の美緒が力強く宣言した。
 ――何の未来か、ここではあえて問うまい。
 ちなみに花の水着は紺色でセパレートのチューブトップタイプ。左胸に花柄プリントと、結構こだわっている。
 脱衣所のガラス戸を開けると、すぐそこは露天風呂。キメラ騒動のため他の客の姿は見えず、殆ど貸し切り状態である。
 温泉の湯に身を浸し、芯から体が暖まってくると、身を切るような寒気が却って心地よい。
 浮かべた盆に日本酒の徳利を乗せ、成人組は早くも一杯。
「んー‥‥これでまた明日から頑張れそうです」
 ほろ酔い加減で頬を染め、リディスがしみじみ呟く。
「あ、エスターさんもどうです?」
「煮えたぎる大地の力は疲れと共に心の甘えも浚ってゆく‥‥」
 リディスの杯を受け、急に詩人となったエスターもグイっとお猪口を飲み干す。
「筋肉と精神を緩めつつも、心には揺るがない根性を保ち、ちっぽけな人間と雄大な大地との真剣勝負を行い、その勝負の果てに飲む一杯はサイコーッス!」
 少し離れた場所では、宙華と花がキャアキャアいいながらお湯をかけっこしている。
 ちなみに、唯一の男性である凜も水着姿で混じっていた。というか、女性陣に無理やり引きずり込まれていた。
「別に凛、恥ずかしくなんかないんだからなっ!」
 冷静を装おうとしつつも、周りが女性ばかりでやっぱり恥ずかしいらしい。
 もっとも傭兵とアイドルを掛け持ちしているだけに顔も肌も綺麗な彼の場合、肩から上をお湯から出している分には、女性陣に混じっていても何ら違和感がないほどだったが。

 お湯から上がり、再び脱衣所に戻った後は、お約束のごとく全員で牛乳orフルーツジュースを購入し腰に手を当て一気飲み。
「背丈も胸もオッキクする栄養ドリンクですもんね」
 牛乳を飲み終えた宙華が、ハァ〜っと息を吐きながら満足げにいった。
「そ、それホントですかっ?」
 ヒマリアが目を輝かせ、思わず牛乳をもう1本オーダー。
 ‥‥腹壊すぞ。

 猪鍋と川魚、それに山菜料理の夕食に舌鼓を打った後は、有志による卓球大会。
 美緒とヒマリアはなぜかスク水姿のままだったり、もはや貸し切り状態なので何でもアリである。
 しかも能力者同士の試合なのでレベルがハンパではない。
「スナイパーの精密射撃を見せるッス!」
 巨乳を揺らせて目にも留まらぬ一撃を繰り出すエスターの玉を、ラケット二刀流の美緒が迎え撃つ。
 選手交代してラケットを握る花だが、
「あ〜ん、また空振りっ!」
(「クレー射撃は好きだけど卓球の球撃ったら怒られるね」)
 と思わず想像してしまう。
 もはや開き直った凜はアイドルらしく浴衣からポロリで女性陣に大受け――って、もう何が何だか。

 卓球大会がお開きの後は各自自由行動という事で、音羽は浴衣の上に半纏を羽織り下駄を鳴らして温泉街のゲーセンを訪れた。
 期待した通り、純喫茶風の店内には「平城京インベーダー」だの「パックリマン」だの「レンガ崩し」だのといった年代物の卓上型ゲームがずらりと並んでいる。
「うん、音ゲーとかよりこっちの方が、やっぱりいい感じ」

 同じ頃、さすがに疲れて寝ようと部屋に戻った凜は、しっかり相部屋となっている事を知らされ、またもや頬を染めていた。
「りっ、凛は男だっ!」

 翌日――。
 傭兵達は旅館や温泉組合の人々に見送られ、移動艇を駐めた麓のヘリポートまで旅館のマイクロバスで戻っていったが、かなめと花だけは自腹でもう少し逗留するといって現地に残った。
「かなめちゃんは、どうして残ったの?」
「ボクは温泉街の人達と交流深めようと思うんだよ。キメラの活動で壊れた所の修復やお手伝いや、世間話したりね。ただ感謝されるだけって落ち着かないんだよね、ボク」
「あれ? 実はボクもそう思ってたんだよ?」
「ふうん‥‥やっぱりボクら、似たもの同士なんだねっ」
 遠い記憶の中に残る不思議な懐かしさを覚えつつ、2人は手を取り合って街へと引き返していった。

<了>