タイトル:犯罪者矯正プログラムマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/15 18:36

●オープニング本文


 バグア軍とUPC軍の激しい攻防が続く九州北部。その最前線で、ある小都市を前に苦戦するUPC陸軍の1部隊があった。
「くそっ、あと一歩で落とせるんだがな‥‥」
 奪還作戦の指揮を執る連隊長が、望遠鏡を覗きながら悔しげに呟いた。
 兵力はこちらの方が優勢だ。街に残るバグア軍の守備隊は、中小型キメラに加えて街の住民を洗脳した民兵部隊が若干というところ。既に包囲は完了している。
 だが問題は街の東端、元は工場があった部分に備え付けられた敵軍の大型プロトン砲だった。
 小高い丘陵の上に位置するその工場からは街の周囲が一望にできるため、今まで突入を図った陸軍部隊はすべてそのプロトン砲から発射される淡紅色の光線になぎ払われ、大損害を被って撤退を余儀なくされていた。
 基地全体を覆うフォースフィールド発生装置が存在するらしく、通常の砲爆撃は殆ど効果が見られない。またKV部隊による空爆も試みられたが、高射砲の機能も持ち合わせているらしい大型砲の対空砲火により、今まで5機が撃墜されている。そのため後方の司令部からは「これ以上貴重なKVは出せない」との通告が来ていた。

●ラスト・ホープ〜UPC総本部
「攻略目標の街にワームは配備されていないのだろう? 敵の増援が送られる前に、何とか奪回したいものだがな」
 日本本部と共同で九州奪還作戦にあたる司令官が、参謀達と話し合っていた。
「問題の大型砲はエレベーター式の台座に据え付けられ、地上と空中、どちらも狙える形式になっているようですね」
 偵察機「岩龍」による望遠写真を分析しながら、参謀が説明する。
「それに、基地の周囲4カ所に設置されたフォースフィールド発生装置の施設‥‥せめてこの一カ所でも潰せれば、フィールドの穴を狙って榴弾砲やミサイルの集中砲撃で何とでもできるんですが」
「特殊部隊を潜入させて、FF発生装置を破壊するわけにはいかんかね?」
「極めて困難な任務になりますね‥‥敵も施設の周囲にはキメラやトラップを張り巡らせて警戒してるでしょうし‥‥まず能力者の部隊でも編成しなければ不可能ですよ」
「能力者か‥‥しかしキメラ掃討だけならまだしも、トラップや爆発物の専門知識まで持つ者というと、そうはおらんだろう」
 司令官の言葉を聞き、情報担当の参謀が発言を求めた。
「それが‥‥一人、いるにはいるんです。ただし、正規軍でも傭兵でもなく‥‥」

●ラスト・ホープ〜衛生処理施設
 人工島の地下にあるゴミ処理施設で、ひとり黙々と働く陰気な顔つきの小男がいた。
 地上の居住区から毎日送られてくる大量のゴミを、フォークリフトを運転して焼却炉へと運んでいく。
 そんな単調な作業を、面白くもなさそうな顔で一日中繰り返していた。

「――よう、ペテロ。仕事は慣れたか?」

 男はフォークリフトを止め、声の主――UPC情報士官をじろっと見下ろした。
「‥‥見りゃ判るだろう? 俺なら真面目にやってるぜ」
「いい心がけだな。どうだ、一服やらんか?」
 ペテロはリフト車から降り、士官からの貰い煙草をうまそうに吸った。ちなみに「ペテロ」というのは偽名であり、その顔も整形したものだ。男の本名、年齢、素顔、そしてどんな過去を持つのか――それは本人以外の誰も知らない。
 判っているのは、かつて東南アジアのカメル共和国で進められた違法プロジェクト「DF計画」の被験体として強制的にエミタを移植された能力者であること。そして爆発物とトラップに異常な執着を示す、ある種の「危険人物」らしいということだけであった。
「シモンは死んだ。マリアは、我々に保護された後‥‥自らの意志で傭兵になった」
「へえ、そうかい」
 さして興味もなさそうに、ペテロは答えた。
 かつては同じデビル・フォース隊員として行動を共にした仲間とはいえ、彼はシモン達の捨て駒にされる形で、真っ先にUPCに身柄を拘束されていたのだ。
「そんなことより、約束に間違いないだろうな? ここで3年働けば、シャバに出してくれるっていう」
「3年とはいわずに‥‥今すぐ自由になりたいとは思わないか?」
「‥‥何だって?」
 一瞬、怪訝そうに情報士官の顔を見つめたペテロは、すぐその意味に気づき、慌てて両手を振った。
「じょ、冗談じゃねえ! 俺は傭兵になんかならねえぞ!? だいたい、俺だって好きで能力者になったわけじゃねえよ。キメラだのバグアなんて気味の悪い化け物と戦うくらいなら、ここで働いてた方がマシってもんだ!」
「まあ、選択はおまえの意志に任せるがな‥‥」
 情報士官はそういいながら、足許のブリーフケースから携帯ラジオほどの大きさの機械を取り出した。
「こいつは、UPCが開発した最新式の特殊爆弾でな――いや、もちろん爆薬は抜いてあるが――こいつが4、5個もあれば基地の一つくらい簡単に吹っ飛ばせる」
「‥‥!」
 それを聞いてペテロの目の色が変わった。
「だ、旦那‥‥ちょっと触っていいか?」
「――おっと。まあ慌てるな」
 玩具を目の前にした子供の様に伸ばされたペテロの手を巧みにかわし、情報士官はニヤリと笑った。
「どうだ? こいつを、自分の手で爆発させてみたいと思わんかね?」
 士官の手にすっぽり収まるような特殊爆弾を凝視しつつ――。
 ペテロは、ゴクリと生唾を飲んだ。

●参加者一覧

桜崎・正人(ga0100
28歳・♂・JG
佐嶋 真樹(ga0351
22歳・♀・AA
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
大賀 龍一(ga3786
34歳・♂・SN
イレーネ・V・ノイエ(ga4317
23歳・♀・JG
大上誠次(ga5181
24歳・♂・BM
雪村・さつき(ga5400
16歳・♀・GP

●リプレイ本文

(「直接戦った事はないが、ペテロと同じミッションをこなす事になるとはな‥‥」)
 九州に向かう移動艇の中で、おどおどと不安げな様子で周囲を見回す野戦服の小男を眺め、桜崎・正人(ga0100)は奇妙な感慨を覚えていた。
(「ともあれ、ともに戦う以上奴も仲間だ、守り抜いて成功させて見せるさ」)
 かつて敵性能力者としてUPCに拘束された相手といえ、今回の危険な任務を達成するにはこの男の協力が必要なのだ。
「貴方の護衛を務めるリヒトと申します。煩わしいでしょうが、仕事と思って割り切って下さい」
 恩赦と引き替えに戦場へ駆り出されてきた元囚人を落ち着かせようと、リヒト・グラオベン(ga2826)が穏やかな声で挨拶する。
「護衛? ふん、本当は監視役だろう?」
 ペテロは顔を上げ、陰気な三白眼でリヒトを睨んだ。
(「まあそれも、的外れではありませんけどね‥‥」)
 実際、リヒトは万一ペテロが逃亡した際に備えて射出捕獲ネットの貸与を申請していたのだが、「そういう特殊な道具はちょっと‥‥」とULTのオペレータから断られてしまった。
「安心しな、別に逃げようなんて考えちゃいないさ。第一、何処に逃げるってんだ? 下にいるのは軍隊とバグア、それにキメラばかりじゃねえか」
 男がぼやく通り、彼らが現在向かっている先は現在UPC軍とバグア軍が鎬を削り合う九州北部の最前線だ。
「いっとくけどな、俺は親バグア派とかそんなんじゃねえぞ? カメル軍の基地を脱走したのだって、シモンの奴に何だかんだと言いくるめられて‥‥ま、あいつももう死んじまったけどよ」
「貴方も同じなんですね‥‥僕も望んでこの力を得たわけじゃありませんから」
 流 星之丞(ga1928)の言葉に、ペテロは少し驚いたように振り向いた。
 ペテロが「DF計画」で強制的にエミタ移植を受けたように、星之丞もまた謎の組織から望まずして能力者に改造されたという過去を持つ。
 そう話したのは、同情とか傷を舐め合おうとか、そういうつもりではなく、ただ普通の学生だった昔を思いだして、少し悲しくなったからだった。
「此度の任務はFF発生装置の破壊となるな。難しい任務とは言え、友軍が装置の破壊を待っているのだ。下手な真似はできぬし、何としても成功させたいところだな」
「だがよ、どうやってその装置とやらに近づくんだ? 目的の町は、バグアの兵隊とキメラが警備してるんだろ?」
 任務を説明するイレーネ・V・ノイエ(ga4317)に、ペテロが聞き返した。
「当然、直に入り込めるわけじゃない。事前に色々と準備をしておかないとな」
 イレーネに代わって答えたのは大上誠次(ga5181)だった。

 移動艇を適当な空き地に降ろし、最初に傭兵たちが向かったのは、件の巨大プロトン砲に悩まされる包囲部隊の移動指令車だった。
 待ちかねたように傭兵達を迎え入れた連隊長は、挨拶もそこそこに攻略目標の市街地図を広げた。
「これは奴らに占領される前の地図だが‥‥街の東側に、広い工場があるだろう? 今ではこの敷地が、プロトン砲陣地と、それを守るFF発生装置の施設に使われている」
 地図に示された工場の敷地には、赤いサインペンで大型プロトン砲と、その周囲4カ所を守るFF装置を示すマークが書き込まれていた。
 ちなみに砲台の西側はなだらかな丘陵になっているが、敵の視界を遮る物がないので、こちら方面から接近するのは論外だ。
「やはり潜入するなら街の方から‥‥となると、目標の施設は一番街に近い‥‥ここか」
 正人が呟き、砲台から見て最も西側に位置する施設を指さした。
「了解した‥‥君らがここを爆破してくれれば、それが合図だ。今夜にでも砲兵部隊をそちらの方面に移動させて、集中砲火を浴びせる準備をしておこう」
 また爆破と同時に、街の近くに待機させたHMV(高機動車)で救出に向かう事も約束してくれた。
「街に忍び込むのに使える、下水道とかそういうのはないの?」
 雪村・さつき(ga5400)が尋ねた。
「あるにはあるが‥‥おそらくトラップ代わりのキメラがウヨウヨしているだろうな。とてもじゃないが勧められん」
 事実、これまで何度か地下水道から工作部隊を送り込んでみたものの、全員が連絡を絶ってそれきりだったという。
「それでは、やはり地上からの潜入しかありませんね‥‥」
 リヒトは暗視スコープ、そしてバグア側民兵や一般市民に発見された場合に備えて非殺傷武器であるスタンロッドとスタン&スモークグレネードの貸与を要請したが、連隊長はすまなそうに首を横に振った。
「すまんが、我が軍もそれほど物資が余っているわけではないからな」
 結局、借りられたのは懐中電灯と地図だけだった。
 今回の任務の性質上、銃声を立てて騒ぎを起こすのは不味いため、アーミーナイフや剣で武装している者が多い。そんな中、 大賀 龍一(ga3786)はコンビニで買える日常物資を使ったお手製のサイレンサーを用意していた。
  底に8mm径に穴を開けたペットボトルを切断し、スチールウール、アルミ箔、スチールウールのサンドイッチを更にボール紙で挟み、層状にペットボトルに詰め、蓋をする。
「はいよ、手製消音器ね。ただし使うにしても十発。あとは信用しないでくれ」
 そういって自分のハンドガンに装着し、スコーピオンを装備したノイエにも渡した。


 その日の夕刻――。
 街の入り口、バグア側民兵が警備にあたる検問所を、若い男女の2人連れがよろめくように訪れた。カジュアルな服装は泥にまみれ、女の方はケガでもしているのか片眼を包帯で覆っている。
 ――実は、難民を装った正人とノイエであった。
「止まれ‥‥何しにきた?」
 2人の民兵が自動小銃を構えて近づいてくる。
「‥‥俺らは親バグアなんだ、あんたらの仲間に入れてくれっ! このままバグア軍に反抗してたって生きていけるわけがない。ならあんたたちの陣営に降ったほうが、この先も生きていける。頼むよっ!」
 正人が迫真の演技で訴えたが、兵士は眉一つ動かなかった。
「そのまま動くな‥‥」
 1人の兵士が銃を構えたまま、もう1人が正人達のボディチェックを始める。
 その顔は仮面のような無表情。若い女性であるノイエの豊満な体に触れても、興奮する気配すらなかった。
 いわゆる「親バグア派」といわれる人間には大別して2種類が存在する。
 すなわち洗脳によりバグアのロボットにされた者、そして(それが自ら望んでか、何らかの事情に迫られてかはさておき)己の意志を残したままバグア側に与した者。
 見た所、この民兵達は前者のようだ。いわば心を奪われた操り人形のような存在で、バグアの命令に忠実な代わり、命令された以上の働きもしないというデメリットがある。
「‥‥武器は持っていない。女の方は負傷しているが、労働力としては充分だろう」
 身体検査を済ませた兵士が立ち上がり、抑揚のない声でいった。
「よし、通れ‥‥我が軍のために働くなら、生命の安全は保証する」

 やがて日も暮れて、戦火の街に夜の帳が降りる頃。
 残りの傭兵達にペテロも加えた7名は、街の方角から懐中電灯による合図を受けて動き出した。
 昼間は街にほど近い廃ビルの中に身を潜め、先に潜入した正人達が警備の手薄な場所を突き止め、連絡を送ってくるのを待っていたのだ。
 辺りは月明かりさえない暗闇。暗視ゴーグルを装備しているのはペテロ1人なので、他の能力者たちは覚醒し、直感を高めることで何とか夜道を歩くしかなかった。
 リヒトと佐嶋 真樹(ga0351)が施設破壊用の小型爆弾を分けて預かり、同時に武器を持たないペテロの護衛兼監視役につく。残りの者は、各々武器を構えてキメラや敵兵との遭遇を警戒した。
「貴様の素性など知らん。私は私の任務を果たすだけだ。逃げてもいいが‥‥その場合、私がお前を始末する」
 真樹がペテロに通告した。
「‥‥だが、私の側に居る限りは、貴様の命は保障しよう」
「ありがてぇこった。せいぜい、よろしく頼むぜ」
 憎まれ口を叩く元囚人は、闇の中でもそれと判るほど恐怖に戦いている。
「うまく潜り込めたって、街ン中は敵だらけだ‥‥あんたは、怖くねえのか?」
「‥‥」
 真樹は答えない。否、答えるまでもない。自らが犠牲となり、それで多くの友軍の命が救えるなら安いものだと確信していたからだ。

「――ちょっと止まれ!」
 いよいよ街に潜入しようという直前、ペテロがふいに小声で叫んだ。
「ワイヤートラップと赤外線センサーだ。‥‥あと監視カメラも何台かある」
 兵士やキメラの姿が見えないのも当然だった。バグア側も、警備の穴になりそうな場所には予めトラップや監視装置をセットしてあるのだろう。
「いいか? おまえら、そこから絶対に動くなよ」
 覚醒状態に入ったらしく、ペテロの広い額にメキメキと血管が浮き上がる。
 持参したツールキットを抱え、グラップラーの男は瞬天速で闇の中へと消えた。
 このまま逃げられたら――とリヒトは身構えるが、ペテロが言うとおり周囲がトラップだらけなら下手に身動きは取れない。
 5分もしないうちに、ペテロが闇の奥から引き返してきた。
「トラップとセンサーは殺してきた。カメラの方は、下手にいじると敵さんに怪しまれるからな‥‥死角になる部分を俺が歩く。おまえらは姿勢を下げて、俺と同じ足跡を踏んでくるんだぞ」
 その言葉は、ついさっきまで怯えきっていた同じ人物とは思えない。
 覚醒変化なのか、それとも生来のトラップ類への執着が死に対する恐怖さえ抑えこんでいるのか、それは定かでなかったが。

 ペテロの案内で無事潜入を果たした傭兵達はいったん覚醒を解き、そこで待っていた正人、ノイエと合流を果たし、預かっていた2人の武器を返した。
「例の施設とやらを探ってきたが‥‥思った通り、警備は厳重だな」
 正人の話によれば、プロトン砲台とは別に工場自体もまだ生きていて、キメラや武器を生産するため稼働しているらしい。
「街の一般住民は、わずかな食料や物資の配給と引き替えに工場で働かされているようだ。もっとも、夜の間は家に帰って休んでいるらしいが」
 続いてノイエが説明する。
 少なくとも夜間に行動する限り、一般人を巻き込む心配はなさそうだと判り、傭兵達も安堵する。残る問題は、FF装置の施設を守る民兵とキメラだが。
 新たに班を組み分け、正人と龍一が先行して施設への侵入路を確保。リヒト、真樹、ノイエ、そしてペテロら爆破工作班が後に続く。星之丞、誠次、さつきは退路の確保を担当。

 工作班があとわずかで施設にたどり着くという時、前方でパスッパスッという微かな銃声と、甲高い獣の悲鳴が響いた。どうやら先行班の2名が、番犬役のキメラと交戦状態に入ったらしい。
 にわかに深夜の静寂が破られた。周囲のあちこちで、民兵達が慌ただしく走り回る軍靴の足音と、中小型クラスのキメラ群が動き出す気配。
「あんた達は、先に行けぇ!」
 誠一がリヒトに叫び、再び漆黒の体毛に覆われた人狼に覚醒する。
「望んだ力ではないけど、僕は重い十字架を背負った、この生き方を選んだから!」
 左奥歯をカチッと噛み、髪と両目の瞳を黄緑色に変えた星之丞が、十字架を思わせるツーハンドソードの鞘を払う。
「よーし。いっちょ、やりますか!」
 さつきもまた、迫り来る敵に備えてアーミーナイフを構え直した。

 退路確保班の3名が民兵やキメラを食い止めている間、ペテロを連れた工作班はFF発生施設へと急いだ。鉄筋コンクリートビルの上にパラボラアンテナを思わせる装置を乗せた建造物の前で、正人と龍一が待っていた。
 施設を警備していた民兵たちは、龍一がお手製サイレンサー付きのハンドガンで足を撃ち抜き、敵から剥いだ野戦服をロープ代わりにして猿ぐつわをかませ縛り上げている。
「どうだ、やれそうか?」
 ノイエの問いかけに、しばし値踏みするように施設を見上げていたペテロだったが、やがてぼそっと答えた。
「建物じたいは元からあったやつの使い回しだな‥‥装置がどれだけ頑丈かは知らねぇが‥‥外壁部に仕掛けて、ビルごとぶっ飛ばしちまえば同じ事だろ」
「なら、頼んだぞ。貴公の腕の見せ所だ」
 ノイエが目で促し、リヒトと真樹が各々預かっていた特殊爆弾をペテロの手に渡す。
 見かけは携帯ラジオに似た黒い小箱を見つめ、男はかつての爆弾魔に戻ったかのごとく危ない笑いを浮かべた。
 だがすぐ真顔に戻ると、
「五分で済ませる。よく周りを見張っといてくれよ」
 そう言い残すと、ペテロは先刻のように瞬天速で闇の奥へ走り去っていった。

 バグア側に洗脳されたとはいえ、さつきは同じ人間である民兵に対してはなるべくナイフを使わず、ストリートファイト仕込みの拳打と蹴りで昏倒させていった。
 その傍らで、大地を跳躍して飛びかかってきた犬のようなキメラを、誠次の振うロエティシアの爪が引き裂いて肉塊へと変える。
 星之丞もまた、大きく振りかぶったツーハンドソードによる流し切りで、襲い来る番犬型キメラを一刀の元に切り捨てていた。
 しかし、いくら倒しても押し寄せる民兵部隊とキメラの群に囲まれ、彼らの練力も次第に消耗しかけてきた頃――。
 東の方角で閃光が走り、一瞬遅れてきた爆音と共に高々と火柱が上がった。
「――やったのか!?」
 誠次が振り返ると、ビルごと崩壊して燃え上がるFF発生施設を背景に、正人、真樹、リヒト、ノイエ、龍一、そしてペテロが此方にむかって走ってくるのが見えた。

 ヒュルルルル――。

 鋭く風を切る音と共に、西から飛んできた砲弾が傭兵達の頭越しに工場へと落下し、新たな火柱を上げた。施設の爆破を確認し、待機していたUPC陸軍が榴弾砲とロケット弾による攻撃を始めたのだろう。
 プロトン砲台をFFの赤い光が包み込むが、発生装置が一つ欠けるため、死角となった部分をすり抜けた何発かの砲弾が砲台を直撃して炸裂する。
 その光景を見た民兵達は無表情のまま工場へ向かって転進したが、傭兵たちの退路にはまだ多くの小型キメラが立ちはだかっていた。
「爆弾、まだ残ってないの?」
「安心しな。そう思って、一発残してあるぜ」
 さつきの言葉にニヤリと笑い、ペテロが最後の爆弾を放り投げる。
 特殊炸薬の爆風が、行く手を遮るキメラ達をそのFFもろとも弾き飛ばした。


「お互い、良い仕事をしましたね」
 無事任務を果たし、ラスト・ホープへと帰る移動艇の中。
 リヒトは仲間達の労をねぎらい、覚醒を解いたペテロにも握手を求めた。
「どうです? よかったら、貴方も傭兵に?」
「いやあ、遠慮しとくよ。命がいくらあっても足りやしねえ」
 元囚人はリヒトの手を握りつつ、疲れ切った顔で苦笑した。
「あの島で何か仕事を見つけるさ‥‥どう考えても、俺は正義の味方ってガラじゃねえからな」

<了>