タイトル:【DoL】伊勢湾警備マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/02 01:21

●オープニング本文


 西暦2008年を迎えた一月某日、名古屋にあるUPC日本本部を統括する東アジア軍本部の会議室では、ミハイル=ツォィコフ中佐がいつにも増して怒号を上げていた。
「お前達が私を評価してくれたことには嬉しく思う。だがそれでは余計な注目を浴びてしまうだけというのが分からんのか!」
 問題になっている議題はツォィコフ中佐の帰郷である。本来極東ロシア軍所属の中佐がいつまでも日本に滞在する必要は無く、防衛戦の事後処理も済んだ今では中佐はロシアに帰るのが筋だった。しかし日本本部の司令官本郷源一郎大佐は、中佐の帰郷さえも一つのプロパガンダに利用できないものかと考えていた。
「だがガリーニンはもう存在しない、中佐はどうするというのだ?」
「俺を呼び出したのはお前達で、ガリーニンの突撃もお前達の指示だ! 全権を握ったのは確かに俺だが、その青写真を描いたのもお前達ではないか!!」
 吼える中佐、しかし彼に提示された案は一つしかないことも中佐は理解していた。
「お前達は何故そこまで俺をユニヴァースナイトに乗せようとするのだ!!!」

 会議室のプロジェクターは、UPC東アジア軍が提示したガリーニンに代わる中佐の乗艦「ユニヴァースナイト」を映し出していた。手元に配られた資料には「KV搭載可能、自己発電機能有、航続可能時間1000時間超」といった十分すぎる性能が書かれている。しかし最大の問題点が書かれていなかった。

「名古屋防衛戦も敵の本来の目的はこのユニヴァースナイトの破壊が目的だったのではないか?」
 ユニヴァースナイトの最大の問題点、それはガリーニンを超えギガ・ワームにさえ引け劣らない巨大な体躯だった。また空母である以上ユニバースナイト自体には十分な火力が搭載されているわけではない、いかに各メガコーポレーション合同開発の最新鋭空中空母とはいえ、KVが無い状態で集中砲火を浴びれば撃墜は免れない。
「そのユニヴァースナイトの進水式を大々的に行うと言うのはどういう了見なのだ! 再び名古屋をバグアの戦火に晒したいのか!!」
 当初中佐はユニヴァースナイトに乗ること自体に懐疑的だった。
 乗ってしまえば常に最前線を転戦し、部下を危険に晒してしまう。
 乗艦条件として提示したのが部下以外の各種専門家の搭乗と進水式の見直しだった。
「しかし名古屋以外にもバグアからの解放を期待する声は高い。彼ら彼女らに希望を持たせるのも私達UPC軍人の仕事だ」
 冷静に諭す司令官。そこまで言われた以上、流石の中佐も反論ができなかった。
「ならばガリーニンの時と同様KVでの護衛を依頼する。並びに、民間人は全員シェルター退避だ。貴様らの言う希望はブラウン管を通してでも伝わるだろう。これが俺の譲歩できる最低ラインだ」
 こうして中佐のユニヴァースナイト搭乗が決定した。

 ◆◆◆

「ツォィコフ中佐の心配も、もっともじゃな」
 空母「サラスワティ」艦長室。デスク上のノートPCに表示されたULTからのメールを読み終え、ラクスミ・ファラーム(gz0031)は呟いた。
「御意。仮に自分がバグアの指揮官なら‥‥敗北の屈辱を受けた同じ名古屋で、人類側の大々的な進水式など見過ごすはずがございません」
 その場に同席する副長にして侍従武官・シンハ中佐も同意を示した。
 現在、同空母は船団護衛の任務を終え佐世保港へ停泊している。補給とクルーの休息を終え、ラスト・ホープへ帰投しようとした矢先に、UPC側から今回の進水式までの事情説明と、「式にあたり、伊勢湾海上で哨戒任務にあたって欲しい」との依頼が舞い込んだのだ。
「如何致しましょう? 仮に敵が例の新型機を投入してきた場合‥‥本艦の安全も保証されませんが?」
 もっとも襲来するのは必ずしも「シェイド」とは限らない。あの大規模戦闘からはや2ヶ月――バグア側も前回の失敗から学び、全く新たな戦術や新兵器で挑んでくる可能性もありえるのだ。
「それでも、断るわけにはいくまい‥‥」
 褐色の肌の王女は緑色の瞳を閉じ、わずかに思案していたが、間もなく意を決したようにULTへ依頼に応じる旨の返信メールを打ち始めた。
「ともあれ、あの空中空母は無事に進水させねばならん。でなければ‥‥先の大規模戦闘で死んでいった者たちが浮かばれんからの」

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
時雨・奏(ga4779
25歳・♂・PN
玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
セレノア・キューベル(ga5463
25歳・♀・EL

●リプレイ本文

 KVを駆る傭兵達が上空から白い航跡を引いて進む空母「サラスワティ」を目視確認したのは、ちょうど紀伊半島沖合に達した時だった。
 上空警戒にあたっていた同艦所属のパイロット、李・海狼(リー・ハイラン)の「岩龍」が誘導する形で、間もなくKVの飛行小隊は次々と着艦を終えた。
「これが『サラスワティ』……何とも言えない迫力がありますね」
 同艦を初めて訪れる玖堂 鷹秀(ga5346)が、感心したように眼鏡の位置を整える。初のKV戦となる彼は、来るべき北米における大規模作戦に備えて今回の依頼へ志願したのだ。
「絶景かな絶景かな〜」
 本人は初めてだが、養母と義姉に続いての搭乗となる熊谷真帆(ga3826)は飛行甲板を見回して歓声を上げた。
 甲板で出迎えたプリネア海軍士官が姿勢を正して敬礼し、一同を艦橋へと案内した。

 艦内の司令所で待っていた提督服の少女――プリネア王女にして「サラスワティ」艦長、ラクスミ・ファラーム(gz0031)と副長、シンハ中佐の顔つきは何故か険しかった。
「ラクミス王女殿下、お久しぶりにございます。またご一緒できまして光栄です」
 まずは櫻小路・なでしこ(ga3607)が、礼儀正しく挨拶する。
「そしてユニヴァースナイト発進の妨害はさせる訳に参りません。非才の身ではありますが全力を以って尽力致します」
 続いて他の傭兵達も、各々挨拶や自己紹介の言葉を述べた。
「お初にお目にかかりますラクスミ王女。私、玖堂 鷹秀と申します。殿下とサラスワティの名に恥じぬ様、全力を以って任に就かせて頂きます」
「朧 幸乃(ga3078)と申します‥‥宜しく御願い致します‥‥」
「家の者が色々お世話になってます」
 何故か青森尻屋村名産「だるま芋」を王女に献上する真帆。
「うむ。初めての者も、そうでない者も、皆よろしく頼む」
 一同に向かって敬礼した後、ラクスミは作戦卓に数枚の写真を並べた。
「――まず、これを見て欲しい。皆はどう思うか?」
 傭兵達は揃って写真を覗き込み――そして、王女らの表情を険しくしている原因を理解した。
 そこに写っていたのは、今まさに港から上陸しようとするヒト型のロボットが8体――傍らのタンカーと比較して、陸戦形態のKVと同じかそれ以上の大きさだ。さらに、巨大な亀を思わせるキメラともワームともつかぬ怪物の姿もあった。
 いずれもディテールのはっきりしない超望遠写真である。今朝方、名古屋のUPC日本本部からFAXで送られてきたものだという。
「バグアの新兵器でしょうか‥‥?」
 里見・さやか(ga0153)が眉をひそめて尋ねた。名古屋防衛戦に参加した傭兵達の胸中に、あのシェイドの脅威が蘇る。
「正規軍の岩龍が撮影したものらしいがな‥‥どういうわけかその後の情報がない。これだけの敵兵力が上陸したのなら、もう本格的な市街戦が始まっておるはずじゃが」
「そいつも妙な話やな‥‥敵さんの攪乱情報とちゃうか?」
 時雨・奏(ga4779)が首を傾げる。
「で、あればよいのがの‥‥最悪、港の何処かに潜伏している可能性もある。ユニヴァースナイト本体と市街地は既に別の部隊が警備にあたっているそうじゃが、もしこ奴らが伊勢湾の海中か沿岸部に潜んでいるとすれば‥‥我々が相手をする事になるな」
「行けば判ることだ。いずれにせよ、人類の希望の灯を消さないために、この進水式は成功させねばな」
 一同の決意を代弁するように、セレノア・キューベル(ga5463)が答えた。

「サラスワティ」が最大戦速で伊勢湾へ到着した時、湾内は不気味なほどの静けさに包まれていた。
 UK進水式を数時間後に控え、名古屋港への民間船舶の入港、及び名古屋市上空への民間機侵入は厳しく制限されている。それでも港内には多くの車両や船舶が残っているが、これらには前夜正規軍による臨検が入り、またドライバーや船員、港湾職員達は地下シェルターへ退去済だという。
 ただし「無人」という事は、そこにバグアの伏兵が潜んでいても報せる者がいないという事でもあるが。
「このまま何も無ければ、それに越した事は無いのですが‥‥」
 鴎が飛び交う穏やかな海上を見つめ、さやかが不安げに呟く。
 UKが市内の何処から発進するかは機密であるが、ただ発進後はちょうど名古屋港上空を通過して太平洋上に向かうと通告されている。巨大空中空母が無事伊勢湾上空を抜けるのを見届けた段階で「サラスワティ」は警備任務を終える事となっていた。
 伊勢湾を目前にして、まず上空警戒にあたるアルファ隊の藤村 瑠亥(ga3862)、セレノアの2機、それに空母所属の哨戒ヘリ4機が発艦する。
 セレノア搭乗の「岩龍」レーダー、そしてヘリの投下したソノブイにも怪しい反応はなく、空母はそのまま湾内深くまで進行し、名古屋港の手前で停止した。
 哨戒範囲は伊勢湾内及びその沿岸地域一帯に及ぶが、最も警戒を要するのはやはりUKの通過点直下となる名古屋港だ。
 また真偽の程はともかく、例の偵察写真の件もある。
 さやかの進言により、哨戒は知多〜桑名のラインから名古屋港までを重点的に実施される事となった。
 陸上警備を担当する奏のR−01は港を目指して飛び立ち、人型形態に変形して波止場に着陸。そのまま貨物コンテナの陰に機体を隠して待機にはいる。
「まー何も起こらんかったら、何もせずに金が貰える楽な仕事やけど‥‥んなわけないわなぁ」
 空母からホバークラフトが降ろされ、プリネア軍海兵隊が名古屋港に上陸した。通常は艦内警備を任務とする部隊だが、広い港湾施設内を警備するには傭兵達だけでは手が足りないため、王女が特に出動を許可したのだ。
 対キメラ用の大口径ライフルや携帯式誘導弾で武装し、一部には能力者も含む褐色の肌の兵士達は、素早く3人1組の分隊に別れ、改めて付近の倉庫や車両、停泊中の船舶などの臨検を開始した。
 その姿を風防越しに見やりながら、奏は間近に迫る進水式の時刻を再確認し、改めて武者震いした。
「陽動の可能性もある、こっちもそろそろやな‥‥海兵隊の皆、気合入れて索敵と撤退の準備やっといてくれ」

 その間なでしこは空母に残り、艦内のCDC(戦闘指揮センター)ともデータリンクしつつ、各担当班の状況をモニタリングして把握に努めていた。

『アルファ2、藤村 瑠亥だ。特に異常なし。時間が来たのでこれより帰投する』

「海花さんに海狼くん、私とご一緒して下さるのは?」
「ハーイ! 自分アルね!」
 鷹秀の言葉を受け、黒髪をお団子状に結った李・海花(リー・ハイファ)が元気よく手を上げた。まだ七つの幼女だが、これでもれっきとした「岩龍」パイロットである。
 最初の1時間が何事もなく経過し、帰還する瑠亥・セレノア機を目視した第2ローテの鷹秀はS−01に乗り込むと、
「ヨロシクなっ海花! アルファ3玖堂、HawkArrow! 行くぜぇ!!」
 覚醒により別人のごとく変わったかけ声も勇ましく、岩龍を従えスキージャンプ甲板から蒼空に向け駆け上っていった。
 とりあえず最初の哨戒を無事終えた瑠亥が、機体を降りて甲板上で一服付ける。
「‥‥ふう、海を見ながらというのも悪くはない‥‥な」

「あら‥‥?」
 S−01の機内で待機しつつ、コンソールのモニター画面を見つめていたなでしこが、訝しげに声を上げた。
 各担当班の状況をモニターする一方で、UPC側から提供された臨検情報をチェックしていたのだが、その中に1件気になるデータを見つけたのだ。
 正規軍による臨検が終了した直後、「機関の故障」を理由に臨時入港を求めてきた外国籍の民間タンカーが1隻存在していた。事情が事情だけに正規軍も拒否するわけに行かず、とりあえず入港を許可し船員だけ避難させたとある。
(「つまり、この船だけはノーチェックということですね‥‥」)
 なでしこは海兵隊の指揮官に連絡を取り、念のため該当船舶を調査するよう要請。
 それから5分ほど後――。
 港の方角から銃声と爆発音、そして一条の黒煙が昇った。
 空母のデータリンクを介し、傭兵達の無線機に海兵隊からの緊急通信が入る。

『タンカーの甲板上より銃撃を受けました! 現在、我が方も1個小隊で応戦中!』

「無人」のはずの船から、何者かが攻撃してきた。バグア兵か洗脳されたスパイかは不明だが、もはや敵の存在は明らかだった。
 ラクスミは直ちに海兵隊に後退を指示。同時に、空母に待機していた傭兵達も、艦の直衛にあたるなでしこを残し全機スクランブルをかけた。

 最も現場近くにいた奏は、R−01を起動させコンテナの陰から出た。
 彼の目前でタンカー上の「敵」と銃撃戦を交わしていた海兵隊が後退。その直後、沖合の「サラスワティ」艦上から狼煙のような白煙が立て続けに上がった。
 VLSから発射されたSSM(艦対艦ミサイル)。一端垂直に上昇した3本のミサイルは大きく弧を描いて急降下したかと見るや、レーダー誘導により海面すれすれを飛翔しタンカーの舷側に突き刺さった。
 大爆発と共に沈み始めたタンカーの内部から2つの黒い影が飛び出し、1つは空中に舞い上がり、もう1つは地上へと降り立った。
 上空へ脱出したのは、既に見慣れた小型ヘルメットワーム。そして地上に降りたのは――例の写真に写っていた人型ロボットだった。
 2本足で立つ姿こそKV陸戦形態に似ているものの、紫色の装甲を身にまとうそのフォルムは遙かに武骨で、あたかも岩巨人を思わせる。
 後に「ゴーレム」と呼称されるバグア軍の陸戦型ワームが、その日初めて傭兵達の前に姿を現したのだ。
 最初に交戦したのは奏のR−01だった。まずは様子見にバルカン砲で攻撃してみるが、これは相手の巨体に似合わぬ素早さ――おそらく慣性制御だろう――で軽くかわされてしまった。
「くそう、シェイドがおらんでも変形時でも高機動で活動できる機体が必須つーことか‥‥阿修羅を頼むで、銀河重工‥‥!」

 哨戒班も含めたKV隊のうち、挌闘戦に秀でた幸乃、瑠亥のR−01が奏の援護へ、また他の者は上空の飛行ワームへと向かった。
「気のきいた台詞なんて言えませんが‥‥自分の仕事はちゃんとこなします‥‥」
 陸戦形態で着陸した幸乃機がチタンナックルで殴りかかるが、これもかわされる。
 唸りを上げたゴーレムが大鉈のような白兵戦兵器を振り回すが、幸乃はすんでの所で機体を退き、その刃をかわした。
 次いで降り立った瑠亥が突撃ガトリング砲を浴びせるが、これも外された。
「っち! やはりそう簡単には行かないか!!」

 一方、上空で真っ先に飛行ワームに接敵する事になった鷹秀は、海花の岩龍を後退させ単機で交戦状態に入っていた。
「俺の裏ぁ下がっとけ、海花! お前を落させる訳にゃいかねぇからな」
 先手を取るため、射程の長いHミサイルをブレス・ノウで発射。これがうまく命中し、敵円盤をややグラつかせた時、空母から飛び立ったさやか、真帆、セレノアが到着した。
「こちらブラボー2。これよりECCMを開始します」
 武装の貧弱な海花機を空母へ帰還させ、代わってさやかの岩龍がワームのジャミングを中和する。
「ワーム視認! G01、充填100%、発射!」
 真帆はこの日に備えて準備したとっておきのG01ミサイルを、やはりブレス・ノウで発射。命中を確認後、急上昇して高々度からのレーザー攻撃態勢に入った。
「G01はミサイルのMVP王です!」
 S−01から立て続けの攻撃を浴びたワームは、ダメージを負いふらつきながらもセレノアの岩龍に向けてプロトン砲を放ってくる。偵察機だけに、他のKVに比べて与しやすいと踏んだらしい。
「随分となめられたものだ。その迂闊さを思い知らせてやろう」
 北欧出身の美女は、その端麗な顔にバイキングのごとき凄みのある笑いを浮かべた。
 バルカン砲で牽制しつつ、ギリギリまで引きつけたところで機体強化により性能を上げた高分子レーザーを放つ。
 ついにワームの機体は爆散し、炎と破片をまき散らして伊勢湾の海に没した。

 地上でゴーレムを包囲した3機のR−01は、巨人の素早い回避力に散々手こずらされたが、やがて敵も慣性制御用のエネルギーが尽きたのか、ある時点からその動きが目に見えて鈍ってきた。
「散々、温存してた札を腐らすような真似はせん‥‥ここが賭け時か」
 勝機と見た奏はブーストで一気に間合いを詰め、切り札のツインドリルで吶喊をかけた。
 この一撃が初めて命中し、紫色の巨人は一瞬軋みを上げて動きを止める。
 そのチャンスを逃がさず、幸乃のチタンナックルが、そして瑠亥のディフェンダーが、それぞれアグレッシヴ・ファングで威力を増幅した攻撃をヒットさせた。
『ガガガ‥‥ガガ‥‥ガ』
 ボディの至る所から煙を噴き上げつつ、ゴーレムが1歩、2歩と後ずさる。
 その背後は遙かに広がる海。
 バランスを崩したバグアの巨人が、波止場から海面に転落して数秒後――。
 大爆発と共に水柱が上がり、夕立のごとき海水の雨が3機のKVに降り注いだ。

 後方に待避していた海兵隊が戦闘終了と共に再び索敵を再開。その結果、港湾施設内に他のバグア兵力は存在しない事が判明した。
 例の攪乱情報も含め、ここに潜んでいたのは人類側の目を港に引きつけるための陽動部隊だったのだろう。
 やがて傭兵達は、遙か上空を横切るユニヴァースナイトの偉容を初めて目撃した。
 進水式は無事成功し、人類が総力を挙げて開発した巨大空中空母はついに大地から飛び立ったのだ。
「‥‥これが、人類の反撃の狼煙となる事を祈ろう」
 その機影を空母のデッキ上から眩しそうに見上げつつ、セレノアが感慨深げにいった。


 伊勢湾警備の任務を終えた傭兵達は、なでしこの提案により空母内に新設されたという入浴設備で戦闘の汗を流す事になった。
「どうせなら純和風でいこうと思ってな。なかなか豪勢じゃろ?」
 久しぶりに提督服を脱いだラクスミが、なでしこ他女傭兵達と同じ浴室で湯につかりつつ得意げにいう。
 その横では、海花が大はしゃぎで平泳ぎしている。
「はあ。確かに和風ですけど、でも‥‥」
 タイル張りの浴室と、一列に並んだ鏡と水道の蛇口。
 そして湯煙に浮かぶ富士山の壁画を眺めつつ――。
(「違います、殿下。これは単なる銭湯です‥‥」)
 なでしこは口から出かかった言葉を呑み込むのだった。

<了>