タイトル:【鍋】艦上隠し芸大会マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/06 15:33

●オープニング本文


 冬の寒い時期、皆で囲めば会話が弾み体も心も温まる鍋。
 1人で囲んでも心に侘びしさを感じる時もあるが、体を温める鍋。
 万年常夏の地方では、香辛料たっぷりのアツアツを囲み、額に汗を掻き乍ら食べる鍋。
 犬やら猫が入って人を和ませたり、思わぬ物が入っていて恐怖を与える鍋。
 鍋の蓋をあければ。そこには、色々な物語が詰まっている。

 ──今、一つの鍋があなたの目の前にある。
 この鍋は、あなたにどんな物語を齎してくれるだろう?」

●ラスト・ホープ〜空母「サラスワティ」艦長室
「とりあえず飛行甲板の強化と搭載武装の増強は完了致しました。残る課題はレーダーと火器管制システムの改良ですな」
 艦長デスクの前に直立不動の姿勢で立ち、副長兼侍従武官シンハ中佐が謹厳実直を絵に描いたような口調で報告を続ける。
「いくら強力なSES兵器を備えようと、M11の敵新型機を追尾出来なければ無意味というもの。これにはバグア襲来以前から米国主導で研究されていたBMD(弾道ミサイル迎撃システム)を参考に‥‥殿下?」
 目の前に座る民族服の少女、ラクスミ・ファラームの耳に中佐の声は届いていなかった。
「‥‥美味そうじゃな‥‥」
「はあ?」
 若き王女の翡翠色の瞳は、デスクの傍らに設置された液晶TVの画像に釘付けになっていた。
 ――ラスト・ホープ島内で、主に日系人向けに放送されているグルメ番組である。
 今週のテーマは「冬の鍋料理」。
 屋形船でレポーターやタレントがわいわいと鍋をつつき、舌鼓を打っていた。
「恐れながら殿下。口許に涎が‥‥」
「ぬ? おお、いかん。わらわとしたことが」
 慌てて服の袖で涎を拭い、
「で、何の話じゃったかの?」
「‥‥いえ、もう結構です。こちらの書類にご裁可を‥‥」
「うむ。苦しゅうない」
 シンハ中佐が差し出した報告書にさらっと目を通し、裁可のハンコを押すものの――。
 相変わらず、王女の視線は上の空だ。
「鍋か‥‥羨ましいのう。日本の冬などただ寒いだけかと思っていたが‥‥よもやあのように楽しげな習慣があろうとは」
「まあ我が国にも鍋料理はありますが‥‥年中暑い最中に、わざわざ大汗を掻いて食べる、一種の我慢大会みたいなものですからなあ」
「――よし、決めた! 次は甲板で鍋パーティーじゃ!」
「は? しかし、ついこの間クリスマスパーティーを開催したばかりで‥‥」
「それはそれ、これはこれじゃ」
 再びTVの屋形船を魅入られたように眺め、
「あの『座敷』というのが、何とも風情があって良いではないか‥‥。うむ! 早速業者を呼んで、飛行甲板一面に畳を敷こう。そこでクルーや傭兵たちと鍋を囲みつつ、海上で新年を迎える‥‥なかなかよいアイデアとは思わぬか?」
(「もはや空母でもなんでもないな‥‥」)
 中佐はチラリと思ったが、こうなるとラクスミの暴走は誰にも止められない。
 彼女のワガママを抑えられるのはせいぜい父親のプリネア国王か、兄の皇太子クリシュナくらいのものだろうが、あいにくここは本国から遠く離れたラスト・ホープのドッグである。
「はあ‥‥まあその、お好きなように‥‥」
「しかし、ただ鍋をつつくだけというのも芸がないのう‥‥」
 手元の書類に視線を落とし、
「甲板の強化は済んだのじゃな? ふっふっふ‥‥」
「ま、まさか‥‥」
「その通り。今回は招待した傭兵たちに、手土産として隠し芸を披露してもらう。もちろんKV変形使用可でじゃ!」
 あまりのアホらしさに、一瞬シンハ中佐の気が遠くなる。
「(まあ、正月も本国に帰れないクルー達の気晴らしにはなるか‥‥)」
 何とか気を取り直し、ULTに依頼を出すべく二人は企画の調整に入るのであった。

●参加者一覧

エスター(ga0149
25歳・♀・JG
鷹見 仁(ga0232
17歳・♂・FT
七瀬 帝(ga0719
22歳・♂・SN
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
アイリス(ga3942
18歳・♀・JG
八界・一騎(ga4970
20歳・♂・BM
レディオガール(ga5200
12歳・♀・EL

●リプレイ本文

●謎の宝船空母
 2007年12月31日夜、太平洋上。
 プリネア王女ラクスミ・ファラームより招待状を貰い、各々の愛機を操縦し空母「サラスワティ」上空に到達した傭兵達は、一瞬我が目を疑った。
「‥‥何だ、ありゃ?」
 飛行甲板の中央付近にはびっしりと畳が敷き詰められ、既に忘年会は始まっているのか、船上に用意された十数個の大鍋を囲み、クルー達があぐらをかいて杯を交わしている。
 満載排水量3万5千tの空母はそのまま座敷船と化していた。
 艦橋には巨大なしめ縄がかけられ、艦首に飾られた高さ2mほどのハリボテ鏡餅。
 さらに艦の至る所には「賀正」「寿」「大漁」などと大書された旗(一部漢字の間違いあり)が翻っている。
 どうやらラクスミとしてはにわか仕込みの知識から「純和風の年越しパーティー」を意図しているようだが――。
(「何か、違う‥‥」)
 鷹見 仁(ga0232)、七瀬 帝(ga0719)、三島玲奈(ga3848)、八界・一騎(ga4970)ら日本人傭兵達は到着前からドン退き状態に陥った。
 もっとも全然気にしてない面々もいたが。
「姫さんとは初対面だが‥‥中々好いな。実に好い。見所がある。何たって‥‥鍋に興味を示したからな」
 操縦桿を握りつつ、ゼラス(ga2924)が不敵な笑いを浮かべた。
 そう。今回、彼にとって隠し芸大会など二の次。
 王女にニホンの鍋の素晴らしさを伝える事こそが使命。
 至って真面目、ある意味、覚醒時以上のテンションで今回の忘年会に臨んでいた。
「楽しみだ。鍋の素晴らしさと‥‥この切り札である『鴨鍋』。これで姫さんに伝えよう鍋の素晴らしさを。鍋こそが世界で最高の料理だと言う事を‥‥! ふ、ふふふ‥‥」
 ゼラスほどの意気込みはないが、
『日本の鍋は色々有るッスからね〜。どんなのが出るか楽しみッス』
『空母で忘年会って、なんだか楽しそうですよ〜』
 エスター(ga0149)とアイリス(ga3942)はごく単純に鍋パーティーを楽しみにしていた。
 ともあれ、後部甲板に人型変形させた機体を着艦させ、傭兵達は「サラスワティ」艦上へと降り立った。

●壮烈! 隠し芸
 船首方向の甲板上に紅白のテントが張られ、王女ラクスミは副官シンハ中佐、その他5名のプリネア軍将校達と共にそこに座っていた。
 何を思ったか王女は弁財天、シンハ中佐は毘沙門天、他の幕僚たちにもそれぞれ七福神のコスプレをさせている。
 まあ艦名「サラスワティ」は元々インド神話の女神、日本でいう弁財天だからあながち無関係でもないのだが、たぶん彼女はそんな深い所まで考えていないだろう。
 まずは一言、招待のお礼を――と思っていた傭兵たちだが、白粉を厚く塗り歌舞伎役者のごとく隈取りしたラクスミの顔を見たとたん笑いがこみ上げ、誰ひとりまともに挨拶することができなかった。
 前回のXmasパーティーで王女に会い損ねた(と思っている)仁も、結局爆笑を堪えるのに精一杯で、彼女の顔をろくに正視することができなかった。
「日本の格言では『笑う門には福来たる』とか。今宵は年忘れに、その方らの隠し芸で大いに笑わせてもらおうぞ!」
 プリネア国旗が印刷された扇子を振り上げ、隠し芸大会の開会を宣言するラクスミ。

 傭兵たちは事前の打ち合わせ通り、まずは人型KVによる共同芸「紅白旗揚げ」を開始した。
『赤あっげて〜。白あげないで、赤あっげて〜』
 船上のスピーカーから流れる指示に従い、一列に並んだKV8体が旗を上げ下げする。ありがちな芸だが、全高15mの巨大ロボットがやるとさすが迫力が違う。
「うむ、前座としてはなかなかの趣向。これは本番も楽しみじゃな」
 扇子を上げ、王女が上機嫌でいった。
 本番、すなわち個人芸パート開始。王女を始め七福神‥‥もとい7名の「サラスワティ」幹部が審査員を務める事になっていた。

「1番! 鷹見 仁、行くぜっ!」
 一端空中に舞い上がり空戦形態に戻った仁は、空中からG放電を船上の避雷針へ放ち、迸る稲妻を合図に(予めクルーに準備させた)特撮用の発煙弾を爆発させる。
 人型に変形し甲板に降着すると、KVで特撮ヒーローっぽくポーズを取った。
「天に星月、地に草花、人の心に愛在らば!」
 口上と共に一つ一つ、ビシっとポーズを決めていく。
「燃える心を光に変えて、闇に蠢く悪を斬る! 天下無敵のイイオトコ、俺が噂の鷹見 仁! 流れる涙を止めるため、心の叫びに応えるために、愛と勇気と正義を胸に、この戦場(船上)へ、今‥‥見! 参!」
 最後に背後でもう一度爆発。
「おおっ、カッコいいぞ!」
 ラクスミが手を叩いてはしゃぐ。日本の特撮ヒーロー番組は欧米やアジア諸国でも広く放映されているので、クルー達のウケも悪くなかった。
 ――が。
「確かに手は込んでますが‥‥」
「アレは一体何ですかな?」
 シンハ中佐以下、6名の幕僚たちは訝しげに顔を見合わせている。生粋の軍人である彼らは特撮番組など知らなかったのだ。

「2番、七瀬 帝。ふふ、この僕の美しさが十分一流の芸であり芸術品だと‥‥え? ダメ?」
 そこで帝はKVに積んできた自作の板を降ろし、クルーにも手伝ってもらい甲板上に並べた。それはちょうど、彼自身の顔の巨大な輪郭であった。
「見事美しい僕の顔にさせてみせようじゃないか。はーっはっはっは!」
 KVに飛び乗るや発艦、空中から目・鼻・口のパーツ(自作)を飛行形態から輪郭目指し落としていく。
 麗しい美形の顔が完成するはず――だったが、惜しくも失敗。
 風圧の影響もあり、結局出来たのは妙に崩れた「変な顔」だった。
 ただし艦上の審査員、およびクルー達は抱腹絶倒しているので、隠し芸としては成功といえるだろう。
「ふふ、ふははははは、やはり僕は実物が美しいってことだね!」
 操縦席で高らかに笑いつつも、ちょっぴり虚しい帝であった。

 レディオガール(ga5200)はKVは使わず、持参したネズミのパペットを使い腹話術を披露した。
「皆さんこんばんわ、リポーターのレディオガールです」
 各鍋を周り、その様子を勝手に実況。
レ「本日はサラスワティ艦上での年越しパーティーの様子をお伝えしようと思います」
ネ『サラスワティと言えばよくイベントを開催することで有名ですね。それではレディさん、実況よろしくお願いします』
レ「はいわかりました、それではこちらの鍋の様子から(以下略)」
 そんな感じで延々とレディが実況しネズミが解説していく。
 その姿は、遠く離れた審査員席からは「黒服の少女が独りで何かブツブツ喋っている」としか映らなかった。

「シンハ‥‥あの者は、一体何をしておるのじゃ?」
「さあ? 所謂『電波を受信している』状態かと思われますが」
「そうか。あれが噂に聞く電波少女か‥‥」
 どんな噂だそれは。

「4番、エスター行くッス〜!」
 彼女もまた、生身の芸に挑んだ。
 種も仕掛けも無い、スナイパーライフルと空のマガジンを持って甲板に立つ。
 だがしかし。乳を揺らし乳の谷間に仕込んでおいた弾を宙に上げ、空中で再装填すれば、即座に射撃可能状態に早変わり!
 所謂即射の応用。まさに捨て身の一発芸である。
 周囲で見ていた野郎どもが鍋も忘れて立ち上がり、艦を揺らさんばかりのアンコールの嵐が巻き起こった。
「なら、ご期待に応えてもう一度行くッスよ!」
 だが2度目は惜しくも失敗。装填し損ねた弾がバラバラ畳に落ち、ついでにブラが外れてポロリと(以下自粛)。

「ふむ。2度目の失敗が残念じゃったの‥‥ハッ!?」
 ラクスミが左右を見ると、6名の部下達は手に手に双眼鏡を取り、点数を付けるのも忘れ食い入るように観賞している。
「こら、おまえら何をしておる!? シンハっ、貴様まで!」
「いやその、自分も男ですから‥‥」
 もはや審査員じたいがまともに機能していない。

「エントリー5番、三島玲奈‥‥彼女には『空飛ぶ漫談師』の称号がありますな」
「ほほう。それは強豪じゃな」

 玲奈はKVの主翼上に立ち、体操服にブルマ姿で「持ってけ制服」を踊った。
 続いて主翼からゴム紐で逆さにちゃぶ台と一緒にぶら下がりコント。
「2008年宇宙の旅芸人」と題し、バグアを宇宙で迎撃する訓練というネタである。
 彼女の芸は確かに面白かった。
 ――が、いかんせん濃すぎた。
 ラクスミ個人には結構ウケたものの、元ネタを知らない他の審査員やクルーはポカンとして眺めている。というか、彼らは直前に見たエスターのノーブラ姿が強烈すぎて殆ど上の空だった。

(「アイリスはすごい芸とか出来ないですよ〜」)
 そこで彼女は、前日に慌てて買った「日本の宴会マナー」と言う本を参考に、人型KVに乗り「どじょう掬い」や盆踊り、ソーラン節をミックスした奇怪な踊りを踊った。
 それが一部の欧米系クルーには妙にウケた。
「OH! ジャパニーズ・パーティー・ダンス!」
「オリエンタル・ミステリー!」
 やんやの喝采である。
「ふぅ、この本のお陰で助かったですよ〜」

「変わった踊りじゃなあ」
「はあ‥‥おそらく、日本古来の伝統舞踊かと」

「さあ、俺の妙技を見せてやるぜ!!」
 一騎は事前に用意したBGMを船上スピーカから流し、リズムに合わせて装備しているチタンナイフ3本を使ってジャグリングした。
 一歩間違えれば大惨事だが、もはや泥酔状態のクルー達は感覚が麻痺しているのか、ゲラゲラ笑いながら拍手を送っている。

「な、なかなかの迫力じゃの」
 王女も固唾を呑んで見守った。

 8番、ゼラス――。
「俺の芸は鍋だ」
 一言いうと、マフラーを翻して去っていく。
 当然失格だが、それはまた次なる闘いの幕開けでもあった。

●絢爛! 鍋尽くし
「いいか、鍋を愛せ! 愛した分だけ鍋は応える!」
 自ら調理場に乗り込み、鍋奉行と化したゼラスが吠える。
 これまで放浪の人生で多くの料理人と接する機会を得たが、その経験と知識を発揮する日がついに来たのだ。
 多国籍のクルーが搭乗する艦だけに、それまでにもアジア風エスニックから欧米風ブイヤベース、チーズフォンデュなど国際色豊かな鍋が揃っていたが、そこに傭兵達がさらに多彩な具とレシピを持ち込んだ。

 エスターが持ち込んだのは猪鍋の材料一式。
 薄切り猪肉には山椒の粉を軽く振っといて臭み抜き。蓮根は厚めに輪切り、大根と人参は一口大にぶつ切り。牛蒡はさきがけ、春菊と白菜は適当にザク切り、長葱は斜め切り。
「鍋の出汁は鰹節と昆布で取り、カップ酒を一杯注ぐッス」
それから肉を入れて煮込んで、煮えにくい野菜から順に投入し白3:赤2の割合で味噌を入れたら葉野菜を投入。
「隠し味のおろし生姜を投入したら最後の煮込みをやって完成ッス」

 タイ風ココナッツミルク鍋を見つけた仁は、持参した豆乳を投入(シャレ)。
 味が一層まろやかになったかどうかは‥‥定かでない。
「僕も鍋は好きだよ。コタツで食べたら幸せだよね‥‥あ、餅入れていいかい? 大好きなんだ、僕」
 やはり持参した餅をカセットコンロで焼き、手近の鍋にポイポイ放り込む帝。

 玲奈が用意したのはカレー鍋だった。
・レシピ(6人前)
 豚バラ肉150g
 鶏もも肉1枚半
 ブロッコリー1株
 人参 1本
 生椎茸 6枚
 えのき 1袋
 ねぎ 1本半
 玉ねぎ1個半
 油揚げ 3枚
 たら 3切れ

・鍋つゆ
 だし汁1800ml
 醤油 大さじ1
 大さじ2と2/1
 砂糖 小さじ 1と1/4
 カレールウ1箱(200g)

 材料は食べやすい大きさに切る。油揚げは油抜きし、半分に切る。
 えのきは石づきを切り落とし、ほぐす。
 鍋にだし汁、カレールウを入れ火にかけ、ルウが溶けたら醤油、みりん、砂糖を加える。
 煮立ったら肉、野菜など入れ煮込む。
 ‥‥ってそのまんま載せるMSもどうかと思うが。

 特に具は用意してこなかったアイリスは、会場で見つけた温野菜の土鍋蒸しを皿にとって頬張った。
「お野菜が美味しいですよ〜」

「鍋、鍋、なーべー♪」
 覚醒状態のまま、超ご機嫌で鮭を一匹丸々抱えて調理場に現れる一騎。
 彼は狸獣人なのだが、その姿は殆ど北海道のヒグマである。
 ゼラスにさばいて貰い、間もなく鮭一匹を丸々使った石狩鍋が会場に運ばれた。

 黒の好きなレディが用意したのはイカスミ鍋だった。
 醤油・みりん・イカスミで味付けしたスープに、イカ・エビ・ホタテ・白身魚などの魚介類を投入。
 真っ黒で何が入ってるかわからない、まさに闇鍋である。
「黒いからとてもおいしい‥‥」

 やがて深夜の零時が近づくと、傭兵達の発案で除夜の鐘に見立てた108発の照明弾が艦上から打ち上げられ、新年のカウントダウンと共に派手に爆竹が鳴らされた。
「ハッピー・ニュー・イヤー!!」
 船上の全員が一斉に叫んだ。

●迎春! 初日の出
 夜明けも間近になり、審査七福神より隠し芸大会の結果発表が行われた。
 1位:七瀬 帝
 2位:アイリス
 3位:八界・一騎

 なお男性クルー達から圧倒的支持を受けつつも、審査員が点数を付け忘れたエスターには特別賞を贈呈。
 上位入賞者3名、特別賞にはそれぞれ記念品が、その他の傭兵達にも参加賞が授与された。

 やがて東の水平線に光がさした時、傭兵達はクルー一同と共に、初日の出に向かい新年の誓いを立てた。
「遭遇したキメラやバグアを撃殺できます様に。そして目指すは一発必中のスナイパーッス」
 とエスター。
「バグアを地球から叩き出してやるぞ〜!」
 と叫んだ仁は、そのあと小声で付け加えた。
「そしてみんなが笑顔で暮らせる世界を取り戻す」
 帝はオペラ歌手のごとく胸に手を当て、
「艦上からの初日の出‥‥美しい。実に美しい‥‥!! 昨年、いや昨日よりも美しい僕に!!」
「今年の終わりにも、こうして鍋を囲みたいな」
 早朝の潮風にマフラーをなびかせ、ふっと呟くゼラス。
「えーっと、来年は〜、重武装、重装甲KVの開発を祈りまーす!!」
 一騎はKVへの思いのたけを叫んだ。
 無言で朝陽を仰ぎ見るレディの頭に浮かんだ言葉は「世界征服」。
 しかしどうすれば征服できるかは本人にもわからない。
「‥‥誰か考えて」
 考えてといわれても。

「ちょっとお嬢ちゃん。そんなトコで寝てると風邪ひくよ?」
「はわっ!?」
 徹夜明けについウトウトしていたアイリスは、警備兵に肩を叩かれ飛び起き、慌てて昇り始めた初日の出をペコリと拝んだ。
「今年こそは迷子になりませんように」
 それから、ふと気づく。
「‥‥あれ?」
 一体、どこをどう迷えばこんな場所に出られるのか。
 彼女は艦橋の真上、対空レーザー砲塔の横に突っ立っていたのだ。
「はわわ〜! みんな、どこぉ〜!?」
 泣きべそをかくアイリスの頭上を、玲奈の操縦するKVが飛び過ぎる。
 赤いスモークの尾を引き、玲奈機は新年の蒼空に大きくハートマークとVの字を書き初めした。

<了>