タイトル:【Pr】地下街掃討戦マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/02 22:46

●オープニング本文


「‥‥色々、あるんだなあ」
 高瀬・誠(gz0021)は本部斡旋所のモニター群に映し出される世界各地からの「依頼」を眺めつつ、驚いたように呟いた。
 彼は新人傭兵としてつい先日、ラスト・ホープに着任したばかり。
 ともあれ、まずは依頼を受けようと斡旋所を訪れたのだが、その内容はUPC本部からの対キメラ戦要請から民間人の個人的頼み事まで、実に種々雑多だ。
 正直、どれを選んでいいのか判らない。
「よう、どうした? あんた新兵さんかい?」
 背後から、古参の傭兵が声をかけてきた。
「はい。‥‥でもどの依頼から受けたらいいのか、さっぱり‥‥」
「別に悩むこたあないだろ? 習うより慣れろ。どれでもいいから、試しに受けてみろよ。現場で判らないことがあれば、ベテラン連中が教えてくれるだろうさ」
「そうですね‥‥」
 誠はモニター群に向き直り、
「えーと、『廃墟ビルを占領したヒドラの掃討依頼、KV使用不可』‥‥これなんかよさげかな?」
 今の所、彼はKVの機体こそ支給されたものの、肝心の武装が予算不足で購入できないのだ。
「ちょっと待てぇーっ!」
 参加の申請を出そうとした誠を、慌てて古参傭兵が制止した。
「おまえさん死ぬ気か!? ヒドラっていやあ、特に手強い大型キメラだぞ? 自分のレベルってものを考えろ!」
「で、でも、僕には何が何やらさっぱり‥‥」
「しょうがねえなぁ。‥‥とりあえず、俺が選んでやろう」
 古参兵はため息をついてモニターを見回し、
「‥‥こいつなんかどうだ? 『地下街に潜伏した小型キメラ掃討』‥‥場所は日本の名古屋か」
「名古屋‥‥この間、大規模戦闘があった所ですね」
「おう。バグア軍の主力は撤退したが、まだ街のあちこちにキメラの残党が残ってやがる。まあ残敵掃討ってとこだな。場所が地下街なら、相手もスライムやラット系の小型キメラ中心だろうし‥‥新兵が場数を踏むには、ちょうどいい依頼じゃねえか?」
(「名古屋か‥‥昔父さんに連れて行ってもらって、みそカツ食べたっけ‥‥」)
 といっても子供の頃のことなので、今どうなっているのかはさっぱり知らない。
 ただ、かなり広いアーケード地下街があったことは漠然と憶えているが。
 最初の依頼がよりによって日本、というのは少々複雑な気分だったが、いきなり見知らぬ外国で戦うよりは却ってマシかもしれない。
(「とにかく‥‥少しでも早く、実戦経験を積まなきゃ」)
 誠は意を決し、依頼参加の申請ボタンを押した。

●参加者一覧

ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
蒼羅 玲(ga1092
18歳・♀・FT
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
三良坂栞(ga1754
24歳・♀・FT
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
佐間・優(ga2974
23歳・♀・GP
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM

●リプレイ本文

●戦火の過ぎた街
(「‥‥穴倉の中を探索ってのは、正直気乗りしねぇんだよなぁ。畜生、お天道さんが恋しいぜ」)
 UPC日本本部から貸与された暗視ゴーグルを装着しながら、ゲック・W・カーン(ga0078)は内心でぼやいた。
 ここは先の大規模戦闘による戦災からの復興が進む名古屋。
 バグア軍の本隊を撃退したとはいえ、一部崩落したり焼けこげた街並みには生々しい戦闘の傷痕が残り、廃墟と化したビルの屋内や地下には未だに逃げ遅れた手負いのキメラが徘徊しているという。
 また、バグア軍は撤退する際に置き土産とばかり大量の小型キメラを放っていったらしく、このところスライムやラットなどによる被害報告も絶えない。
 ことに広大な地下街を有する名古屋駅周辺はそれら小型キメラの巣窟と化し、大規模戦闘終結から1ヶ月近くを経た現在にいたるも、UPC正規軍及びラスト・ホープからの傭兵部隊が各々分割された担当地区を受け持ち、地下に潜んだキメラどもの掃討戦にあたっていた。
 今回、ゲックを含む小隊が担当するのは、名古屋駅東側から丸の内方面に伸びる長さおよそ400m、幅30mの地下商店街、通称「ウニモール」。
 地図だけ見ると一直線の単純な地下道だが、実際には左右の両サイドと通路中央に大小百近いテナントが存在し、小型キメラにとっては格好の隠れ家である。
 現在、電気・ガスなど一切のライフラインは停止し、ウニモールは無人の廃墟と化していた。
「お掃除は出来る時に丁寧にしておかないと、後々苦労しますからね?」
 一児の母であるママさん傭兵・三良坂栞(ga1754)が、戦闘前とも思えないほんわかした口調でいう。女性は出産の痛みを体験してしまうと大抵の事には動じなくなるというが、本当かも知れない。
「まったく。真っ暗な地下街ってのはオタクとしてはRPGのダンジョン、リアル版とかお化け屋敷だね。もー少し俺が大きくてお姉ちゃんたちと同じぐらいの年なら格好よく護ったり出来るだろうけど」
 見かけは10歳の腕白坊主にしか見えないリチャード・ガーランド(ga1631)がグチをたれつつ、悪戯小僧の本領発揮とばかりに栞の胸にタッチという暴挙に及ぶが、彼女はオホホと笑って軽やかに身をかわした。
 さすが「母は強し」である。
 その傍らでは元アイドルでTV番組の企画から能力者になったという経歴を持つ美少年傭兵、勇姫 凛(ga5063)が、
「聞いた事がある、名古屋の地下街は平和だった頃から、まるでダンジョンみたいで、遭難者も沢山出ているって‥‥凛達も、気を付けないと」
 と、現場の地図を開いて内部の道順を熱心に確認している。
(「それは遭難者じゃなくて、単なる迷子だろう」)
 ――と内心でツッコむゲックだが、彼らの言葉どおり、現在のウニモールはまさに暗闇のダンジョンといっていい。
 一見小型キメラ相手のたやすい依頼に思えるが、その実なかなか厄介な任務だ。
 いくら暗視ゴーグルがあるといっても、ちょっとした物陰に潜む小型キメラはどこから襲ってくるか知れないし、場合によっては中型(1〜2m)に分類されるバフォメットなど意外な強敵と出くわす可能性もある。
 それに加えて、今回のメンバーには栞や凜など戦闘経験の浅い者も混じっているので、古参兵として彼らの面倒を見る責任もあった。
(「特に問題は‥‥彼だな」)
 ゲックは顔を上げ、隊列の後方で俯き加減に黙りこむ高瀬・誠(gz0021)を見やった。
 誠の場合、今回が初任務という事もあるが、もう一つ気になる事情があった。
 彼が能力者になる前、すなわちまだ平凡な中学生だった頃、学校の遠足で行った海上エネルギープラントがスライムの群に襲撃され、目の前で多くの友人を殺されている。
 誠に対してはここに到着するまでの間、高速移動艇の中で自分の経験から得た心得や戦い方など簡単にレクチャーし、

『ま、口であれこれ言った所で、いざその瞬間に対応できなきゃ意味が無い。無意識に身体が反応できるまで反復を欠かさない事だ』

 とアドバイスしておいたが、実際の戦場で同じスライムと遭遇したとき、彼がどんな反応を示すかはゲックにも予測がつかなかった。
「最後の仕上げってところか? 名古屋から奴らを追い出そうぜ、誠」
「え? ‥‥は、はいっ!」
 佐間・優(ga2974)から肩を叩かれ、はっとしたように顔を上げる誠。
(「だいぶ肩に力が入ってるな‥‥裏目に出なけりゃいいんだが」)
 とはいえ、一度戦場に踏み込めば古参であろうが新兵であろうが条件は同じだ。
 今回の誠はもはや要救助者でも訓練生でもない、あくまで部隊の一員であるし、ゲックもまたそのように扱うつもりだった。
「初めてキメラ相手の実戦に入る方は、気楽に――とまでは言いませんが、焦らずいきましょう。俺達もサポート出来ますから」
 ゲックの心境を代弁するようにリヒト・グラオベン(ga2826)が仲間達に声をかけ、彼らは掃討戦の班分けを行った。

A班:ゲック、リヒト、櫻小路・なでしこ(ga3607)、凜、誠
B班:優、リチャード、蒼羅 玲(ga1092)、栞

 作戦行動自体は単純だ。
 丸の内方面の階段から降り、A班は右、B班は左のエリアを直進しつつキメラ捜索&掃討を実施。400m先の駅階段付近でいったん合流の後折り返し、討ちもらしがいないか再度確認。
 左右のエリアはテナントによって仕切られているが、双方をつなぐ通路は複数あるので、いざとなれば呼笛で合図、全員が合流して敵に当たることも可能だ。
 改めて各自が己の装備と配置を確認。
 そして、彼らは全員が覚醒し、闇に覆われたウニモールへと降りていった――。

●暗闇の掃討戦
 A班の5名はリーダーのゲックを先頭に、中衛(なでしこ、誠)、後衛(リヒト、凜)が続く形でウニモールの中を進んでいった。
 中衛の誠はファイターとしてなでしこを守る形になるが、皮肉なことに傭兵としての実戦経験は彼女の方が遙かに上だ。
「あまり緊張しないでくださいね。わたくしもできるだけフォローしますから」
「は、はい」
 なでしこから声をかけられた誠は右手に刀を、左手にハンドガンを握りしめ、やや震える声で短く答えた。
 後衛の凜は、日頃履き慣れたローラーブレードのまま、床の障害物を巧みに避けつつリヒトに並んでついてくる。
「前だけに気を取られるな、連中は何処から襲ってくるか分からんからな」
 ゲックは背後の新兵たちに注意した。
 暗視ゴーグルを通して覗く地下モールの光景は、施設自体の被害は比較的軽微なもののあちこちのテナントの窓が破れ、しかも物音ひとつしないので、まるで深海に潜っているかのような異様な雰囲気だった。
 敵に悟られないよう指信号により合図をとりつつ移動。
 通路右手、及び中央のテナントにはまずリヒトが索敵役として潜入し、その間は他の者が周辺の警戒にあたる。
「退路に回り込まれたら大変だから‥‥後ろは、凛に任せて」
 新兵とは思えぬ落ち着いた様子で、凜がロングスピアを握りしめた。
 そんな風にして、1軒1軒をしらみつぶしに捜索していく。
 案に相違して、群棲しているかと思われた小型キメラの姿は見えなかった。あるいは地下街全域で始まった掃討戦を察知し、奴らはいち早く何処かへ移動してしまったのかもしれない。
 最初の百mほどの捜索を無事に終え、やや分隊の間の緊張もほぐれかけてきた頃。
 ちょうどリヒトが右手の元飲食店の内部を捜索している最中、通路側の天井の隙間から、緑色の小さな物体がポトリと床に落ちた。
 たまたま最初に気づいたのは、通路側の警戒に当たっていた誠だった。
 体長20cmにも満たない超小型キメラ――。
 だがそれがスライムだと知った瞬間、誠の顔色が変わった。
「うわぁあぁああっ!?」
 悲鳴を上げつつ、ハンドガンを立て続けに発砲。しかしスライムは素早い動きで銃弾を避け、逆にボールのように弾んで誠をはね飛ばした。
 なでしこがスコーピオンの弾幕を浴びせるが、やはりスライムは壁や天井をちょこまかとはい回り、銃弾をかわし続ける。
 グリーンプチスライム。スライム系でも、特に動きが敏捷なタイプとして報告されているキメラであった。
「今、獣を超え、人を超え‥‥勇姫凛、参る!」
 ローラーブレードで後衛から滑り出した凜が、瞬速縮地でスライムに接近、ロングスピアの一閃を加える。
 再びなでしこの放った鋭覚狙撃が命中し、動きの鈍ったスライムを、ゲックが疾風脚で斬り捨てた。
 床に腰を抜かしたままの誠を引きずり起こし、ゲックは無言で張り倒した。
「いいか、お前がトラウマ引き起こして一匹逃したとしたら、その一匹はいつか必ず誰かを襲う。お前が味わった悔しさを、お前の所為で他の誰かが味わうんだ。それが嫌なら腑抜けてんじゃねぇ!」
「‥‥」
 殴られた頬を押さえて俯く誠に、テナントから出てきたリヒトが自分のバスタードソードを手渡した。
「これを使いなさい」
「え? で、でも、こんな高い武器‥‥」
「いいから持ってなさい。貴方の体格にも合うし、お互い、自分の大切な存在(もの)のために頑張りましょう」

 一方、左側通路を捜索していたB班も、テナントの中で20cm大の黄色いスライムと遭遇していた。
 ポリカーボネートの盾を構えて偵察中だった玲は蛍火による豪破斬撃を加えるが、相手はスライムのため物理攻撃のダメージを半減されてしまう。
 敵はイエロープチスライム。スライム系では防御力の高さで知られるタイプだ。
「リチャード、援護を頼むわ!」
 覚醒変化で女らしくなった優の指示を受け、中衛のリチャードがスライム系に効果が高いとされる超機械の電磁波攻撃を浴びせる。
「悪ガキ科学者だからって強いんだぞ。武器次第だけどさ!」
 苦手な非物理攻撃を浴びて弱ったスライムに、優と玲が相次いで疾風脚と豪破斬撃を叩き込み、とどめを刺した。

●炎の伏兵
 その後、両班は各々数匹のラット系やスライム系のキメラに遭遇したが、いずれも低位種だったたらしく、特に苦戦することもなく順調に仕留めていった。
 そして約1時間後、合流地点である名古屋駅前の階段付近まで到達したとき――。

 傭兵達の暗視ゴーグルが、強烈な赤外線を捕らえた。

 全身を炎のような赤に彩る、ラットを巨大化させたような中型キメラ。
 ――ファイアーマウスが2匹。
 1匹が放った強烈な炎撃を、玲が辛うじて盾で食い止める。
 敵の発する赤外線により却って視界が遮られるため、傭兵達は暗視ゴーグルを脱ぎ捨て、代りに化学反応で光を発するサイリュームライトで辺りを照らした。
 なでしこ、リチャード、および武器をドローム製SMGに持ち替えた凜が後方から支援射撃。
 玲が正面からの攻撃を耐えている間、他のファイターとグラップラーたちが両翼から回り込んだ。
 先ほどは動揺してゲックに叱責された誠も、今度は気を取り直し、バスタードソードを握りしめ前衛に飛び出していく。
 美術刀を構えた栞がマウスの1匹に流し斬りを決め、素早く後方に退いた。
「――くうっ!」
 怒り狂った敵が放つ炎撃で肩を焼かれた誠は、苦痛に顔を歪めつつも辛うじて豪破斬撃を打ち込んだ。
 ふらつき始めたマウスに、すかさずリヒトが瞬即撃でとどめを刺す。
 残る1匹にゲックが先手必勝で先制、なでしこが強弾撃で追い打ちをかけ、最後は優のファングによる急所突きがキメラを沈黙させた。

 中型キメラ2匹を仕留めた後、負傷した者はリチャードによる錬成治療を受け、傭兵達は再び2班に分かれ丸の内方面に引き返した。
 討ちもらしたキメラを狩るためだが、あのファイアーマウスたちがこのウニモールのヌシ的存在だったらしく、帰り道では低位種のラット2匹、スライム1匹を始末するだけに留まった。

「す、すみません‥‥あんなにゲックさんに忠告されてたのに‥‥」
 無事に地上に撤収した後、誠は同じA班の仲間たちに詫びた。
 リヒトはバスタードソードをそのまま彼に譲ろうと申し出たが、誠はじっと考え込んだあと、深く頭を下げて剣を先輩傭兵に返した。
「ごめんなさい。‥‥僕には‥‥まだ、この剣を使う資格がありません‥‥!」
 歯を食いしばった少年の足許に、悔し涙がポタポタと滴り落ちる。
「これから先、もっと苦しい目に逢うかもしれんが必ず生き残れ。お前は1人じゃないからな」
 ゲックがそう励まし、誠の肩を叩いた。

<了>