●リプレイ本文
●極東ロシア〜ヤクーツク基地
同じ機体が並んでると実に正規軍って気がする。
左端のシラヌイS型1機を別にすれば、コピーしたように同一のカラーリングで翼を並べる東アジア軍所属のバイパー改7機を目にして、時枝・悠(
ga8810)の第1印象はそれだった。
「‥‥なんて事はどうでも良いか。そろそろ仕事脳に切り替えねば」
厳冬期シベリアの寒風に身を震わせながら、滑走路の一角でミッション・ブリーフィングのため集まった仲間の傭兵や正規軍パイロット達の輪に加わった。
「確実に片付けて迅速に帰ろう。寒いし」
「如何にして爆撃機を護り切るか‥‥友軍のフォローを受けられるのは助かるな」
白鐘剣一郎(
ga0184)は極東ロシア軍から提供された囮用の爆撃機部隊を眺めながら、しばし策を練る。
やがて振り返ると、正規軍側から参加のチェラル・ウィリン(gz0027)軍曹に微笑して握手を求めた。
「チェラルも宜しく頼む。即席だが今日は俺が相棒を勤めさせて貰うのでな」
「こちらこそ。傭兵きってのエースとロッテが組めるなんて光栄だよ♪」
剣一郎の右手をグッと握り、猫目の少女が歯を見せて笑う。
それからちょっと小声で耳打ちし、
「‥‥ところで、今年の夏にはパパさんになるんだって?」
「こらっ。こんな所で大人をからかうんじゃない」
苦笑して窘める剣一郎に、ペロッと舌を出して笑うチェラル。その姿だけ見れば、彼女が東アジア軍が誇るエース部隊「ブルーファントム」の一員とは思うまい。
(「‥‥そういやブルーファントムがチーム単位で動いてるとこ見た事無いな」)
何となく思う悠。
彼女達がチームとして動くのは重要機密に触れる任務が多いため、その多くは報告書として公開されることはないといわれる。
既にロシア軍将校から説明を受けた通り、今回の偽装爆撃の目的はロシア・バグア軍を側面から攻撃し「本命」であるグリーンランドから注意を逸らすこと。遙か西方、欧州方面(ロシア側のいう「西部戦線」)でも同様の陽動攻撃が行われているはずだ。
明星 那由他(
ga4081)は北の空を見上げ、脳裏に世界地図を思い描いた。
「ロシアとグリーンランド、一見バラバラでも‥‥ちゃんと繋がって動いてる。僕がすることも何かに繋がってるのかな‥‥?」
元ロシア陸軍出身の番場論子(
gb4628)にとっては、さらに感慨深い任務であった。
「これも極東ロシア軍・東アジア軍の二大集団間の協力有ってのしかるべき事ですからね」
と、ロシア人パイロット達に微笑みかける。
この極東の蒼い空の下、かつては歴史的な対立もあった国々が協力し、侵略者バグアに立ち向かっている。グリーンランドで発動される大規模作戦を勝利に導くためにも、この作戦は失敗させるわけにいかないのだ。
「グレプカには行きましたが、依頼は初めてなのです〜。色々足りない所が有るかも知れないですけれど、よろしくお願いするのですよ」
先の大規模作戦で傭兵デビューし、今回が初のKV戦依頼となるNike(
gb9556)がやや緊張した面持ちで、一同に向かいペコリと下げる。
「チェラル、手伝いに来たよ。今回も一緒に頑張ろうね」
恋人の勇姫 凛(
ga5063)から声をかけられると、チェラルはいつものやんちゃ坊主のようなそれとは少し違う、照れ臭そうな笑みを浮かべた。
「凜君と飛ぶのは佐賀空港の時以来だよね? 今日は受け持ちは違うけどヨロシク♪ あ、それと‥‥」
と、そこで口をつぐみ、
「あ、これは後でいいや! アハハッ」
パイロットスーツのポケットから取り出そうとした何かを引っ込めた。
●ウダチヌイ北西上空
極東ロシア戦で大きく占領地を削られたロシア・バグア軍であるが、広大なロシアの大地を東西に分断するその兵力は未だに侮れない。
そんなバグア軍基地の一つを目指し、大型爆撃機5機を守る形で正規軍と傭兵達の混成KV部隊が大空を翔る。
「陽動作戦か。まあ、敵を必要な限り減らしておくのは悪い事じゃないしな」
「本番の大規模作戦を有利に進めるためにも、全力で釣ってあげなくちゃね」
愛機のシラヌイ「アルタイル」を駆るAnbar(
ga9009)の通信に、フェニックス「BARRAGE」を操縦する蒼河 拓人(
gb2873)も頷いた。
ただしあまり敵を追い詰め、本当に極東ロシア再侵攻などという事態を招いても困る。適度な脅威を与え、ロシア・バグア軍が北極圏への援軍を出しづらくするのが目的なので、その辺りのさじ加減が難しいところだ。
5機でデルタ編隊を組んだ爆撃機部隊の周りを囲むように、正規軍のKV部隊が直衛にあたる。
さらにその上空を、チェラル機を含む傭兵KV9機がやや先行して前方を警戒していた。
敵基地上空まであと数十kmというポイントで、電子支援を担当する那由他の岩龍改が早くもバグア側迎撃機と思しき機影をレーダーに捉えた。
中型HW1機に小型HWが10機。
「見る限り戦力は並だけど‥‥侮る訳にもいかないね」
拓人の言葉どおり、HW編隊の後方から半透明のサイコロ型物体が多数展開し、その直後KVの電子機器が乱れ、能力者パイロット達を頭痛が襲った。
「CW‥‥電子戦機乗りには‥‥、不倶戴天の敵だ」
那由他が忌々しげに呟いた。
「ペガサスより各機、慌てず迅速・確実に行こう」
傭兵としては最古参である剣一郎が僚機を激励し、いよいよ傭兵達は本格的な戦闘態勢へと移行した。
先制第1撃としてかつての愛機ディアブロの名を冠した悠の搭乗機、新鋭KVサイファーからK−02小型ミサイルが立て続けに発射された。
「これだけばら撒くんだ、少しは当ててくれよ」
マルチロックオンされた10機のCW全機に命中。ダメージを受けたCWが速度を落とし、フラフラと編隊から脱落していく。
続いて那由他機がHW編隊へ向けて127mmロケット弾を放つ。これはCW対応班、そして中型HW対応班に道を開くための牽制だ。
CW対応を任務とするAnbar、論子、拓人の3機が、ロケット弾の噴煙に紛れて前方へ加速した。
プロトン砲を乱射して妨害を図る小型HW群に対して、那由他、凜、悠、Nikeらの4機が立ちはだかった。
「常套手段だけど‥‥さて、どこまで防げるかな?」
拓人のBARRAGE、論子のロジーナ「Witch of Logic」がK−02ミサイルを発射。重ねてダメージを受けたCW数機が爆発、しぶとく浮かんでいる奴らにはAnbarのアルタイルが、距離に応じてスナイパーライフルD−02、強化型ショルダーキャノンを使い分けとどめを刺していく。
「多少の頭痛には目を瞑って貰うとして、とっとと片付けれるだけ片付けてしまおうぜ。本命のHWはまだまだ残って居そうだしな」
近頃は人類側のミサイルにもCW対策として赤外線誘導や画像認識システムが組み込まれ、能力者達を手こずらせた電子戦ワームも以前にくらべ脅威度は低くなっている。
つまり無理に全滅させずとも、数を減らして怪音波の影響を戦闘に支障を与えない程度まで減らしてしまえばそれで済むのだ。
CW対応班が電子戦ワーム排除するのと並行し、凜のロビンは機体得能を発動し小型HWへと急加速した。
「マイクロブースターオン‥‥1機たりとも、爆撃機に近づけさせはしないんだからなっ!」
CWの怪音波は能力者のエミタにも直接影響を及ぼし、激しい頭痛と共に知覚攻撃の効果を減衰させる。そのため凜はアリスシステムによりロビンの知覚能力を回避と命中に回していた。
恋人から贈られたキーホルダーにそっと触れ、
「チェラル達が中型を引き付けていてくれてる、今のうちに‥‥」
粒子砲とレーザー砲、レーザーバルカンを使い分けつつ、小型HWにドックファイトを仕掛け、HWと爆撃機の射線を遮る用に食らいついていく。
剣一郎とチェラルが中型を抑えているといえ、小型HWは10機もいる。
那由他は後方からSライフルRで援護射撃を行い、友軍機がHWに囲まれないよう、また爆撃機の方へ突破されないよう注意を払った。
僚機の攻撃を擦り抜け爆撃機編隊へ抜ける敵機がいれば、機首を翻し残弾のロケットを惜しみなく撃ち込む。
黒煙を噴いてふらついた小型HW1機に、正規軍のバイパー隊が最後の防衛線として一斉にレーザーとガトリング砲を浴びせた。
数でいえば倍以上の優位をもつHW群に対抗するため、悠は他の僚機と最大限連携を図り、互いに攻撃時の死角を補った。
敵の撃破はもちろんだが、非武装に近い爆撃機の護衛が最優先だ。
幸か不幸か、目立つ新鋭機である彼女のサイファーに対し小型HWの攻撃が集中してくる。
すかさずフィールド・コーティングで守りを固め、ダメージを最小限に抑えた。
「しっかり弾けよ、初陣で壊しちゃ博士に悪い」
HWとの距離に応じて重機関砲とエネルギー集積砲を使い分け、反撃に転じる。
「少しは見せ場が要るだろう、ディアブロ?」
悠の言葉に応えるかのように、愛機の吐き出す30mm機関砲弾の猛射が間近に迫ったHWの装甲を蜂の巣にした。
「さあ、がんばってやってみるのですよ〜。初KV依頼で撃墜はお願い下げなのです〜」
のんびりぽわぽわとした声でいいつつも、Nikeのアンジェリカ「びっくばいぱぁ☆」は筐体ゲームで鍛えた腕を存分に発揮している。
SESエンハンサーを併用し、遠距離からAAEM、近接して高分子レーザー砲による知覚攻撃。むろん実戦であることは承知しているので、特にレーザー砲のリロードは欠かさない。
「弾の切れ目が命の切れ目なのは、筐体ゲームで重々承知なのですよ〜」
デルタレイの光条がHWを射抜き、彼女の依頼初スコアを上げた。
「頭痛が治まった‥‥丁度アリスもお休みの時間、さぁ一気にやっつけてやるんだからなっ!」
CWの減少に伴い怪音波が弱まったのを見計らい、凜はロビンの知覚を元に戻し、残りの小型HWに向かい本格的な反攻へ移った。
(「さて、向こうの切り札はどう動くか‥‥」)
指揮官機と思しき中型HWの挙動を注視し、剣一郎が胸の裡で呟く。
当初は後方から配下の小型HWの戦闘を見守っていた敵エース機も、CWの8割方を喪失し、CW掃討にあたっていたKV3機が小型HW対応班と合流するに及び、痺れを切らしたように爆撃機を目指し慣性制御で加速した。
そんな中型HWに向かい、剣一郎のシュテルン「流星皇」が、チェラルのシラヌイSと翼を並べて迫る。
「貴様の相手は俺たちだ」
まずは様子見に最大射程からSライフルD−02で狙撃。
機体を巧みに傾けこれを交わす動きは、やはりAI制御の無人機とはひと味違う。
「油断しちゃダメだよ、白鐘君。敵はあの極東ロシア戦で生き残った猛者みたいだ」
「エースが乗ればHWもさすがの動きをするか‥‥だが、行かせん!」
チェラルとの連携は細かい部分を詰めるよりも、相互の死角をカバーし合う事を念頭に置いての戦闘機動を心掛ける。
剣一郎のSライフルを別にすれば、両機とも近接戦闘タイプの兵装をメインに装備している。そのため、自ずと距離を詰めてのドッグファイトにもつれ込んだ。
「そのまま行け、こちらで合わせる」
「OK!」
タイミングを合わせ、左右からほぼ同時にソードウィングで斬りつける。
傭兵・正規軍双方のエースによる翼刃攻撃が、KVの倍近い大きさを持つ中型HWの外装甲に深々と裂け目を作った。
中型HWの機体がひときわ強い赤光に輝く。練力消費により一時的に性能をアップさせたらしい。
慣性制御で機首を反転させ、旋回中の流星皇に向けてプロトン砲を放ってくる。
再び敵機に相対した剣一郎はスラスターR、さらにレーザー砲で破損箇所を集中的に攻めた。
その頃になると小型HWも殆どが撃墜され、手の空いた友軍KVが次々と援軍に駆けつける。
「チェラル、お待たせ‥‥さぁ、一緒に凛達の力を見せてやろ!」
「なら、またアレでいこっか?」
シラヌイSと合流したロビンが、タイミングを合わせ互いに螺旋を描くようにして中型HWへと接近、戸惑う敵エース機の1点に向けてレーザー砲を照射した。
もはや勝ち目はないと悟ったか、形振りかまわず慣性制御で基地方面への逃走を図るHW。だがそこに予め退路を読んで待ち伏せる冬季迷彩のロジーナ、論子のWitch of Logicがいた。
「逃がしませんよ」
ストームブリンガーB起動。HミサイルJN−06発射。
被弾したHWの機体が震え、装甲の破片が飛び散る。
度重なるダメージを受けて、なお戦域からの離脱を図る敵エース機を流星皇がブーストオンで追う。
剣一郎はPRMを発動、命中精度を大幅に上げた。
「行くぞ、勝負だ!」
自らが刻んだ装甲の亀裂を狙い、再度の翼刃アタック。
――斬!
シュテルンの翼が内部機構に届くほど深々と食い込み、ついに力尽きた敵エース機は墜落、シベリアの大地に炎の華を咲かせた。
迎撃の第一波はこれで全滅したが、那由他機のレーダーは早くも新手のHW編隊の接近を探知していた。数は先刻の倍以上いる。
「よーし、撤退だ! これだけ引っかき回せば、効果は充分だよ!」
チェラルの指示と共に爆撃機隊が一斉に煙幕を展開、反転180度。
「爆撃を断念し撤退」というポーズである。
傭兵達のKV部隊も殿を務める形でヤクーツク基地へと進路を取った。
「決着だな‥‥ペガサスより各機、状況はどうだ?」
正規軍機を含め、友軍機の損傷は軽微。「本番」となる大規模作戦への参加にも影響はなさそうだった。
●ヤクーツク基地
「チェラルもお疲れ様だ。さすがだったな」
「白鐘君こそお見事♪ ボク、ひょっとしたらもう追い越されちゃったかなぁ?」
基地へ帰還後、KVから降りた傭兵と正規軍のエースは互いに掌を打ち合わせた。
「――っと、そうそう」
チェラルは思い出したように凜の元へと駆け寄り、パイロットスーツのポケットからラッピングされたハート型チョコを差し出した。
「随分、時期遅れになっちゃったけど‥‥それと、この前は誕生日プレゼントありがと♪」
その様子を見守りながら、
「チェラルさんと凛さんは仲良しなご様子ですが、婚約済みですか?」
論子が微笑みながら尋ねる。
「え? まだ、そんな――」
凜とチェラルは赤面して口ごもった。
「そういえば〜、勇姫さんとぉ、チェラルさんは、お付き合いを〜?」
出撃前から気になっていたらしいNikeが、ワクワクした様子でさらに突っ込む。
「えっと、それは‥‥そうそう、Nike君にも素敵な彼氏がいるんじゃない?」
照れ隠しに話題を逸らすチェラルの言葉に、
「Nike? Nikeは、KVとゲーム筐体が恋人なのです〜。今はまだそれでいいのです」
その返答を聞き、傭兵達の間から笑い声が上がった。
<了>