●リプレイ本文
●銀河重工・熊本支社
南国とはいえ雪もちらつく真冬の九州。なぜか暖房としてレトロな石炭ストーブが焚かれる熊本支社内の会議室で、L・Hから来訪した傭兵達は事務員の出した熱い日本茶など飲みつつ、開発中の新型KV・XF−09B「竜牙(旧称:飛竜)」についてあれこれ話し合っていた。
「どんなKVになるか、楽しみですねえ」
銀河製KV阿修羅を愛機とし、前回から引き続いての参加となる井出 一真(
ga6977)がワクワクしたようにいう。
「面白そうな機体じゃないか」
資料として事前に渡された開発案のレジュメに目を通しつつ、龍深城・我斬(
ga8283)も頷く。もっとも彼としては、この機会に色々と提案したいこともありそうだが。
「恐竜型かぁ‥‥となるとレックスよりも強くなくちゃね♪」
クロスエリア(
gb0356)は北米の大規模作戦で姿を現わしたバグア軍の新型砲撃戦ワームREX−CANON、通称「レックス・ワーム」を思い浮かべていた。陸戦形態に同じく2足歩行の恐竜型を採用するという竜牙には、ぜひともあのワームと互角に渡り合えるだけの性能は欲しい。
「想定スペックや搭載予定の特殊能力は火力重視設定、駆逐戦での運用を想定しているとなると‥‥竜牙の役割は雑魚を蹴散らし戦線を押し上げると言った感じか?」
レベッカ・マーエン(
gb4204)は資料を読みながら、サイエンティストらしく早くも新型KVの分析にかかっている。
「あとは‥‥陸戦での機動性と運動性が人型より高いのであれば高速アタッカーとして対エースでも高い効果がありそうだな」
「恐竜型かぁ。KVも、いろいろな形が出てくるようになったよな、本当に」
完成予想図を眺め、感慨深そうに呟く鹿島 綾(
gb4549)。
新人傭兵向け初期機体の入れ替え、既存KVの一斉大幅など、この所メガコーポ各社のKV開発事情も新たな段階を迎えつつある。去年の暮れ、奉天公司、メルス・メスの2社が同時に高級機体を発売し、傭兵達を驚かせたのも記憶に新しい所だ。
「駆逐戦KVといえば‥‥英国工廠のロビンあたりですっけ。特化や局地戦型は銀河のお得意ですよね」
イーリス・立花(
gb6709)は知覚特化の性能と画期的なアリスシステムで一躍名を馳せたロビンや過去の銀河製KVを例に出して思案に暮れた。
銀河の火力特化KVとしてはかつて初期機体にも採用された阿修羅が連想されるが、同機は現在でも最高レベルの攻撃力を誇りながら、その防御面や生存性などに問題の多い機体でもあった。
「いつか阿修羅の他にもう1機買いたいなって思ってたけど欲しかったディアブロが初期機体になっちゃったから別の候補探してたんだよね」
と、山下・美千子(
gb7775)。
新たな搭乗権購入を検討する彼女の様な傭兵にとって、比較的手頃な価格で手に入る高性能の中堅機体は興味ある存在だ。
「こういうKVが欲しかったから採用目指してがんばって欲しいな」
ファリス(
gb9339)は過去の開発依頼や現役のKVについての資料などをまとめた大学ノートを持参して、下調べに余念がない。
「‥‥ファリスは傭兵になってあまり時間が経っていないから、きっととんちんかんのこと言うと思うの。だから、予習してきたの」
間もなく、両手に説明用の資料や企画書の類を抱え、開発プロジェクト主任の明石・小源太(gz0281)が慌ただしく入室してきた。
「や、どうも、どうも。すっかりお待たせしちゃいまして。では、さっそく始めるとしますか」
●固定兵装は必要か?
今回依頼の最初の議題として、いくつかプランの上げられた「竜牙」専用の固定兵装を選ぶアンケートがあった。
参加8名の提出した結果は、
・ディノテール:2名
・ディノファング:2名(ただし条件付き)
・今回挙げられている兵装なら必要なし:4名
「性能的に見劣るし、竜牙ならでは独自性も見た目だけ。何より空戦ではデッドウェイトになる。今の所は要らないなあ」
と我斬がばっさり切る。
「このラインナップだとあまり必要を感じない、いっそいらないな。そもそも恐竜は己の爪や牙が武器だったがKVは武装が変えられるし」
レベッカも同意見だ。
「それにKVが『地上でも戦える戦闘機』とするなら空陸で効果があるほうが良いと思うのダー」
「現状の能力だと魅力を感じないね。このままなら、いっそ省いてしまって拡張性を増すか、装備値を向上させた方が良いと思う」
綾もきっぱり言い切る。
「ふうむ‥‥前回は『どうせ恐竜型を採用するならそれらしい内蔵兵装も欲しい』というご意見が多かったのですが。今回は逆の結果になりましたねぇ」
話を聞きながら、小源太が苦笑いする。
今回提示されたプランの中で比較的評価の高かったのはディノテール。
「私はこのKVの戦闘スタイルは基本遠距離攻撃を主にするのかなって考えてるから、近距離では攻撃力を重視して『ディノテール』がいいかな」
というのがクロスエリアの意見。
「ただディノって聞くとどうしてもバグアのワームを思い浮かべちゃうんだよね‥‥だから、いっそ『スピノスパイク』なんて名前はどうかな?」
「尻尾のなぎ払いでの脚部への攻撃は上手に使うと敵のバランスを崩したり出来ると思うの」
とファリア。
「あと、中型以下のキメラとかに集られた時に追っ払いとかに使えると思うの。せっかくの恐竜型だから尻尾を有効利用する事を考えた方が良いと思うの」
いずれも陸戦時におけるサブウェポンという位置づけだ。
ディノファングについても2名が票を投じたが、これはあくまで「条件付き」である。
「個人的にはディノファングが良さそうですが‥‥性能的にはちょっと魅力に欠けますかね」
一真が首を傾げながらいう。
「ただ、この性能だと普通にショップで購入した兵装と大して変わらないので‥‥兵装スロットを一つ占有されるのは惜しいですね」
「固定兵装はどれかと言われれば両手や尻尾の空く、ディノファングが一番だとは思いますが、他の武器と代替可能な程度ならば必要が無いのではないでしょうか」
イーリスが指摘する。
「まあショップのチタンナイフあたりを買って口に装備すれば済む話ですからねぇ」
「どうせなら阿修羅のサンダーテイルを応用し、噛み付いた牙から電磁パルスを流し込む、みたいな兵装になると良さそうなんですが」
一真が小源太に提案した。
「でもこれだと固定兵装じゃなく特殊能力になっちゃいますね」
「確かに。ミカガミの内蔵『雪村』と同じ扱いになるでしょうねぇ」
ファリスからも、阿修羅の特殊性能をファングかクローに応用できないかと提案が出た。
「まあ同じ弊社の技術ですから、絶対不可能とはいいませんが‥‥現状予定されている超伝導AEC、オフェンス・アクセラレータに加えてスキル3つというのは、この価格帯ではかなり難しいでしょうね」
小源太はメモ帳に何かを書き付け、
「では弊社から提示した固定兵装案は一旦白紙に戻すとして‥‥何か代りに装備したい兵装のご要望はありますか? ああ、アクセサリでも結構ですが」
銀河側からの質問に対し、我斬が提唱したのは帯電粒子加速砲。
「首から尻尾までを直線状に固定、全身を砲身化して口から放つ強力無比な一撃必殺砲。射撃姿勢を取るのに行動力消費、更に回数制限、錬力消費もあっても構わないよ。貫通能力も欲しい‥‥ミカガミの技術を応用して何とかできないかな?」
「おお、そいつは浪漫ですねぇ」
小源太も身を乗り出すが、ちょっと残念そうに、
「ただ‥‥うちはドロームさんなんかに比べて帯電粒子砲の開発ノウハウが少ないんですよねぇ。やるならレーザー砲かな? いずれにせよ竜牙の性能で最も高いのは物理攻撃ですから、メインウェポンとしては少々バランスを欠くことになりますね」
「じゃあ『テイルスタビライザー』はどうかな? 尻尾にスラスターを増設、質量移動による重心移動と併用する事で錬力を消費して行動力消費無しに旋回出来る固定アクセってことで」
「なるほど、それは面白い‥‥行動消費なしまで可能かは判りませんが、一応検討案に加えておきましょう」
レベッカもまた独自のスタビラー案を提案した。
「近年はヴェロキラプトルやディノニクスなどのドロマエオサウルス科は羽毛恐竜だったとする説が有力だ。飛翔の為ではないが翼を持っていたという説に基づいた復元図があるだろ。その翼を模したスタビライザー的なアクセサリは出来ないか?航空機形態、陸戦形態で姿勢安定を補助し回避をサポートと言った感じで安価に手堅く」
「固定アクセは盲点だったな‥‥。そういう手もあったか」
綾は僅かに思案し、
「作るのなら、重量は軽めで、一番の長所と一番の短所を程よく伸ばすフレームがいいかも。こいつなら、攻撃と防御かな‥‥名称は『ディノスケイル』なんてどうだろう?」
「どうせなら、防御よりも回避を上げるものが良いかと思います」
と一真。
「具体的には可動式のスラスターポッドを増設して機動性を増すのはどうでしょう? 脚部の付け根辺りに装備すれば、跳躍や高速走行時にも有用かと思います。装備部位がこの辺りなら接続部の強度も充分確保出来ると思いますけど」
もっとも固定アクセ装備についても否定的な意見は多かった。
「私はアクセサリって乗る人の個性が一番でるところだと思うから、固定のアクセサリはいらないんじゃないかな」
クロスエリアが異論を唱える。
「固定アクセサリはアクセサリ枠を圧迫してしまうと思うので、必要ではないかなぁと。それなら機体性能を上げた方が、と思っちゃうんですよね」
「恐竜型の利点を活かすだけなら推奨装備でよくない? 固定兵装化の短所を差し引いても使いたいと思わせるだけの性能とか固定兵装ならではの魅力とかがないと。折角の火力特化機なのに使いたくもない武器にスロット潰されるのはちょっとね」
イーリスや美千子もほぼ同意見だった。
「ええ、むろん推奨装備として別途発売という手もありますよ? まあ今日のところはブレインストーミングということで、色々ご意見を伺えればと」
「噛み付き攻撃はいいよね。あたしも阿修羅でやってみたかったけどそういう武器なかったから」
「阿修羅は口が開くわけじゃないですからね。できれば竜牙の恐竜形態は口を開閉式にして、兵装のハードポイントを設置できれば‥‥とは思いますが。まあ多分に個人的趣味ですけど」
笑いながら答える小源太。
もっとも竜牙しか装備できないのも困りものなので、他のKVでも人型形態の腕などに装備できるよう考慮する必要はあるだろう。
「さきほどのディノファングに関する改良案も含めて、この辺りは推奨装備として検討させて頂くかもしれませんね」
●竜牙への要望あれこれ
とりあえず固定兵装・アクセについての議論を一通り終えた後、残りの時間は各々雑談も兼ねて竜牙開発への要望を述べることとなった。
「『竜牙』だとなんだかドラゴンっぽい感じで合わない気がするんだよね」
早速愛称について提案する美千子。
「ありきたりだけど神話に出てくるスサノオとか、あとは宮本武蔵に因んでムサシとかどうかな?」
「う〜ん‥‥ムサシはどちらかというと戦艦のイメージが強いですし。スサノオは‥‥できれば次の次、雷電の後継になるような高級機に付けたい所ですね。日本神話でも有数の英雄に相応しく」
「オフェンス・アクセラレータですが、上げ幅を大きくして、代わりに攻撃と知覚を任意に選択出来るように出来たら、もっと売りになるかと‥‥技術的には難しそうですけど」
苦笑混じりにダメモトとばかり提案する一真。
「回避を下げて防御、抵抗をもっと高くできないかな?」
我斬が基本性能についてリクエストした。
「この機体のポテンシャルを引き出すには特殊能力に対応する基本能力は高くあるべきだと思うから、AECで受けて高移動力で接近、高パワーで薙ぎ払う、そんな機体が理想」
「ええ。まさに駆逐戦KV‥‥空の突撃砲というイメージですね」
「価格は出来るだけ高くしてその分性能向上、兵装スロも現状+1。200万の機体を買って100万強化するより300万の機体買った方が絶対強いから」
「固定装備とか含めてだけど想定価格より高くならないようにして欲しいな。あたしみたいに10万Cの違いが大きいって人いると思うんだよね」
価格上昇については美千子が反対した。
「個人的には高い防御力で耐えるロジーナとは逆のコンセプト、回避し突撃、近接戦に持ち込める機体に仕上げて欲しいな」
レベッカが再び性能バランスに話題を戻す。
「出来れば回避の向上‥‥200万C代後半になっても攻撃≧装備>知覚>命中=回避>抵抗=生命=練力>防御=受防と言った感じには出来ないか?」
「やられる前にやるって事で、遠距離からの砲撃を行う事も考慮すると‥‥距離補正が入った状態での敵の攻撃を避ける為に、もう少し回避を確保するとか。その場合、代わりに抵抗を少なめにしてもいいだろう。抵抗は、超伝導AECで補えるからね」
「基本性能値で防御が低いなら、もうちょっと回避を上げて欲しいかなぁ‥‥駆逐戦KVって冠するなら、私は生存率からみて命中よりも回避を上げて欲しいな」
綾やクロスエリアもレベッカ同様、回避の向上を望む。
「変形時の負担やパーツの数も抑えられる‥‥ってコトが前回の報告書でありましたが、それをもう少し推し進めて整備性の向上とか出来ませんでしょうか?」
とイーリス。
「数字には表れない部分ですけど、その手のを好む人も少なくはありませんし」
ファリスはアクセサリで補いやすい「防御」「抵抗」よりも、補いがたい「生命」や機体スキルをより使いやすくする為の「練力」を強化することを提案した。
「メトロニウムコートも、ミラーフレームも先輩さん達の好意で手に入りやすくなったの。だから、改造でも上げ辛い『生命』や『練力』は最初から高くしておいた方が生き残りやすいとファリスは思うよ」
「なるほど‥‥こいつも時代の変化ってやつですねぇ」
メモ帳をパタンを閉じて小源太が立ち上がる。
「ともあれ、今回は貴重なご意見を有り難うございました。お陰様で、試作機の設計までまた一歩駒を進められそうです」
「小源太さん、絶対に完成させましょうね!!」
「ええ、お任せ下さい」
クロスエリアの声援に、笑顔で頷く小源太。
最後に我斬から一つ質問があった。
「超伝導AECだけど、数値を下げてもいいから防御も上げられないかな?」
「実は、それについて現在も研究を続けてます。『初の人類版FF』の機体スキルはサイファーに先を越されてしまいましたが‥‥俺はまだ諦めてませんよ」
ニヤリと笑うと、銀河の開発主任は一礼して会議室を退席するのだった。
<了>