タイトル:【ODNK】瓶詰めの戦場マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/30 17:14

●オープニング本文


 佐賀奪還を目的とする「烈1号作戦」は既に最終局面を迎えようとしていた。
 大川市解放を果たしたUPC軍は消耗した戦力を後方から補充の後、再編制した部隊をさらに東へと進め、筑後川まで到達。
 迎え撃つ佐賀バグア軍は筑後川東岸に陸戦ワーム・キメラ多数、及び人類軍から鹵獲した戦車、誘導ミサイル、多連想ロケットなどをずらりと並べ進撃阻止の構えを取っていたがが、戦闘のさなか、その陣形がにわかに乱れ始めた。
 風を切って南方から飛来した巨弾がバグア軍の頭上で連続して炸裂し、無数の子爆弾となって降り注ぐ。
 先の空爆で廃墟となった佐賀空港にUPC軍艦艇から揚陸された傭兵派遣企業「SIVA」所属の戦車型KV「ゼカリア」30機が、戦艦並みの420mm大口径砲から徹甲散弾の一斉砲撃を行ったのだ。
 無防備なキメラと鹵獲兵器がたちまち肉塊やスクラップと化し、残る陸戦ワーム部隊へも、遙か遠距離から放たれる対FF徹甲弾の曲射砲撃が容赦なく加えられた。
 バグア佐賀拠点からの指示を受けたのか、残存のワームたちは佐賀市の方向を目指して撤退を開始。逆に勢いづいたUPC軍はまずバイパーやS−01などのKV部隊が飛行形態で、続いて工兵部隊が築いた仮設橋を渡り、95式戦車やリッジウェイを主力とする陸軍部隊が続々と筑後川を越え佐賀へと向かう。
 その上空を対地攻撃仕様に武装した戦闘ヘリ・サイレントキラーの編隊が、ローター音も勇ましく追い越していった。

●筑後川東岸〜UPC軍野営陣地
 円藤賢二、岡崎優作、そして高橋美香の3名は、95式戦車の脇に座り込み、レーションを携帯燃料で温めた簡単な夕食をとりながら、日が暮れてもなお続く佐賀方面での戦闘を眺めていた。
 彼らは本来UPC熊本士官学校の生徒だが、「烈1号作戦」発令と共に教育半ばで「特務兵」として動員され、通称「睦中隊」と呼ばれる機械化部隊の隊員。「睦中隊」は全員が一般人、その殆どはまだ十代の少年少女兵で編制されている。
 東からは正規軍とL・Hの傭兵KV部隊の先鋒が、南からはゼカリア、フェニックスなど新鋭KVを含むSIVA私設兵団が突入し、夜を徹した激戦が続けられていた。
 元UPC軍佐賀補給所(陸自時代の目達原駐屯地)を中心に残存兵力を集結させ持久戦を図るバグア軍に対し、北米戦から帰還した東アジア軍の増援を得たUPC側は短期決戦による早期決着を意図している。
 さらに佐賀空港跡に仮設基地を築いたSIVAも、ゼカリアを含む重武装KV200機に及ぶ大部隊を投入。圧倒的な火力と物量で佐賀市を制圧後、南西から回り込む形で佐賀補給所へと迫っていた。
 絶え間なく続く両軍の砲火、爆炎のため東の空が真昼の様に明るい。
 突如浮上した直径百mはあろうかという大型HWがプロトン光線を乱射。正規軍か傭兵のものかは不明だが、数機の戦闘機が炎を吐いて墜落していく。
 だがその大型HWも、たちまちスズメバチの群れのごとく数十機のKVから集中攻撃を受け、一瞬ふらついたと見るや墜落、地上の市街地も巻き込み大爆発を起こした。
「‥‥」
 賢二は食事も忘れ、じっとその光景を見つめた。
 戦況は明らかに人類側有利に見える。しかしバグア軍の抵抗もあと暫くは続くだろうし、その間、確実に人類軍は少なくない犠牲を払うだろう。
 ――あの大川解放戦の様に。
 そして自分達「睦中隊」もまた、明日の未明には傭兵のKV部隊と共同で佐賀補給所へ突入せよとの命令が下っていた。

「‥‥ずいぶん死んじゃったね。友だちも‥‥」
 インスタントコーヒーを注いだマグカップに視線を落し、美香がポツリと呟いた。
 大川の戦闘による損害は、その後後方から送られて来た補充兵で埋められている。だがその補充兵は賢二達と同じ「特務兵」――中には彼らより年下、まだ中学生くらいにしか見えない者さえいた。
(「もう無茶苦茶だ‥‥」)
 賢二はやりきれない気分になる。
 だがそこまでしても、UPCは佐賀を奪還せねばならなかった。九州方面隊司令部のある北熊本の目と鼻の先に、春日のごときバグア軍恒久基地を築かせるわけにはいかなかったのだ。

 ふと近づいてくる人の気配に気づき、3人は顔を上げた。
 おずおずと歩み寄ってくるUPC制服の少女兵は、彼らと同期の士官候補生、井上沙由理(いのうえ・さゆり)だった。ただし戦車班所属の賢二達と違い、彼女の配属先はAPC(装甲兵員輸送車)で移動する歩兵班であったが。
「どうしたの? 井上さん」
 美香が声をかけた。一応同期の同性ということもあり顔と名前は知っているが、普段から大人しく無口な沙由理とは、まだ殆ど話したこともなかったのだ。
「うん。高橋さん‥‥この作戦が終わるまで、これ預かってくれないかな?」
 そういって沙由理が差し出したのは、少し大きめの硝子製の薬瓶。
 ただし中に入っているのは錠剤ではなく、金属の洋服ボタンだった。
「あれ? これって、あたし達の‥‥」
 美香にはすぐピンと来た。なぜならそれは、彼女ら特務兵が着るUPC制服に付いたものと同じだったから。
「これ、今まで戦死したみんなの‥‥認識票は、軍に回収されちゃうから」
 いわれて見れば、透明な硝子瓶の底1/3くらいにたまった制服ボタンは、どれも黒く焦げたり溶けかけたり、中には乾いた血糊がこびりついている物まである。
 沙由理の話によれば、前回の大川解放戦で特に大きな被害を出した歩兵班に所属する彼女は、軍医に頼みこんで、戦死した仲間の「形見」として遺体の制服ボタンを1個ずつ集めて回ったのだという。
「初めて出撃したとき、同じ分隊のみんなで約束したの。『必ず全員生きて帰ろうね』って‥‥でも、あたし1人残してみんな死んじゃった‥‥だから、せめてこれだけでもって思って‥‥」
 沙由理が元いた分隊は大川の戦いで全滅し、生き残った彼女は再編成された新しい分隊に配属されたという。
「でも、何でこれをあたしに‥‥?」
「ん‥‥私、また歩兵班だから‥‥多分明日の戦闘じゃもう生き残れない‥‥自分でそんな気がするの」
「そんな――」
 美香は途中で口をつぐんだ。大川解放戦以来、なぜかバグア側のワームが一般人の歩兵を執拗に狙いだした――という噂は、すでに中隊のうちでも広まっている。
「そ、そういうことなら、一応預かっておくけど‥‥弱気になっちゃダメよ? 明日はL・Hから来た能力者さん達だって一緒に戦ってくれるんだから――あたしたちは、必ず生きて熊本に帰れるよ!」
「うん、そうだね‥‥ありがと」
 沙由理は寂しげに微笑むと、自らの制服ボタンをひとつ千切り取り、瓶の中に入れた後、蓋を閉め直して美香に手渡した。
「井上さ‥‥」
 賢二達は何か声をかけようとしたが、言葉を捜すうち、沙由理の後ろ姿は夜の闇の奥へと消え去っていった。

●参加者一覧

赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
アリステア・ラムゼイ(gb6304
19歳・♂・ER

●リプレイ本文

●筑後川西岸〜UPC軍野営陣地 AM05:30
 傭兵達のKV部隊が到着した時、朝靄の中、既に「睦中隊」およそ120名は出撃準備を整え、中隊長・須賀大尉の前に整列を終えていた。
「赤村 咲(ga1042)。傭兵だ‥‥よろしく頼む」
 KVを降りた咲はまだ学生の様な(事実、彼らは熊本士官学校の生徒だが)特務兵達に声をかけ、最後に指揮官の須賀大尉にも挨拶した。
「後ろを、頼みます」
「お任せ下さい」
 つい数ヶ月前まで士官学校の教官を務めていた、実直そうなUPC軍人が回れ右して敬礼する。
 引き続き、キョーコ・クルック(ga4770)らも交え、傭兵KV部隊と睦中隊の役割分担について大尉と打ち合わせが始まった。
 まず敵ワームに対しては傭兵KV部隊が応戦、これを殲滅。睦中隊はそれまで突出せず、キメラ対応に専念する。ワーム殲滅後、傭兵達は独自の判断で攻撃・援護を行うので、中隊は討ちもらした敵を追撃して欲しい――傭兵側の提案に対し、須賀大尉も同意を示した。
「正直、我々の戦力で敵ワーム撃破は至難でしょう。ですが、KVを擦り抜けたキメラどもは1匹残らず殲滅する所存です」

 その間、流 星之丞(ga1928)など、「烈1号作戦」を通して同中隊と何度か行動を共にした一部の傭兵達も、特務兵のうち面識のある何人かの顔を捜した。
「だいぶ顔ぶれが変りましたね‥‥」
 アリステア・ラムゼイ(gb6304)が小声で星之丞に囁く。
 あの有明橋で初の戦闘に参加した中隊員のおよそ1/3は姿を消し、後方から補充された新兵の中には、まだ中学生くらいの年頃の者まで混じっていた。
 立場は違えど、同じ軍学校「カンパネラ」生徒であるアリステアにとっては複雑な心境である。
「同じような年代の少年少女が戦場に立つのですから、いつも以上に頑張らないと彼らに顔向けが出来ませんね」
 早朝の陣地内、まだあどけなさの残る顔を緊張させ不動の姿勢をとる特務兵達の姿を見渡し、彼らと同世代の榊 刑部(ga7524)も呟く。
 確率0.1%というエミタ適性により「能力者」と「一般人」に選別された若者達――しかしバグアの手から故郷を、地球を守ろうという想いに変りはない。
「戦闘に多少の犠牲は付き物かも知れませんが、一人でも多くの隊員達を護る為に尽力しましょう」
 隊列を組んだ95式戦車の前に立つ戦車兵達の中に円藤賢二、高橋美香らの顔を見つけた星之丞は歩み寄り、
「今回も宜しくお願いします」
 微笑みかけると、賢二も少しほっとしたように顔を緩めた。
「この間はどうも。こいつがご迷惑おかけしまして‥‥」
「もうっ、その話はよしてってばぁ」
 美香が唇を尖らせ、賢二を肩肘でつつく。
 顔見知りの傭兵が護衛についてくれると知り、賢二達の表情にもやや明るさが戻っていた。
 一方、
「今日は、宜しくお願いしますね」
 睦中隊とは今回が初の共同作戦となる冴木美雲(gb5758)も、初対面の挨拶も兼ね隊員達に声をかけて回っていた。
「私と同い年前後の人が多いんですね」
 もっとも睦中隊の兵士達にとっても、傭兵といえば「百戦錬磨の強者」というイメージが強いせいか、自分達と殆ど同世代の美雲の姿を見て驚く者が少なからずいた。
「無理、しないで下さいね? 無理をするのは、私達みたいな能力者の仕事です。皆さんは、生き残る事を第一に考えてくだ‥‥きゃん!」
 つい足元の岩に躓き、すっころんだ所を中隊の少年兵に助け起こされる。
「あいたたぁ‥‥」
 辛うじて立ち上がった美雲の服についた砂を、数名の少女兵がくすくす笑いながら払い落してやった。
 その光景だけ見ていると、何やらどこかの高校の遠足の様だ。
 そんな彼らのうち何人が、おそらく最後の決戦となる今日の戦闘を生き延び、熊本に帰ることができるのか――。
(「諦めて、欲しく、ない、です‥‥上手く、言えない、です、が」)
 ルノア・アラバスター(gb5133)は、ただ祈るような気持ちでそう思うのだった。

「総員、乗車ぁーっ!」
 大尉の号令と共に、中隊の少年少女達は自らの戦車や装甲車へ、傭兵達は駐機させたKVへと走る。
 正規軍と傭兵の混成部隊は西の方角、すなわち佐賀バグア軍が立てこもる最後の拠点、元UPC軍佐賀補給所(旧陸自目達原駐屯地)を目指して進軍を始めた。
「何だか、おかし、かったです‥‥ワームの、様子が」
 先の大川解放戦にも参加したルノアは、KVではなく一般人兵士を優先して狙っていたEQや本星型HWの不可解な動きについて、仲間達に通信で説明した。
「生身の兵を狙うなんて‥‥」
 陸戦形態のシュテルンを操縦しながら、夕凪 春花(ga3152)が眉をひそめる。
 確かに戦争なのだからそういう手段もあるだろう。また無人のワーム達はAIのプログラムに従い戦っているにすぎない。
 それにしても、ただ人類軍の消耗だけを狙ったようなあざとい戦術に、傭兵達は補給所にいるという佐賀バグア軍指揮官の底知れぬ悪意を感じざるを得なかった。

●佐賀補給所〜バグア軍基地 AM06:30
 睦中隊を後方に従えた傭兵達のKV部隊が基地の東端から侵入すると、既に補給所の広大な敷地内はバグア軍、UPC軍、そしてULTとSIVAの傭兵部隊が入り乱れての戦場と化していた。
 あちこちに自爆したワームと撃破された人類側KVの残骸が転がり、そして紅い絨毯のごとく折り重なる人類側歩兵とバグア洗脳兵の戦死者。
 その屍さえ踏みつけ、敵味方のゴーレムとKVが各所で激突し、さらにその足元を幽鬼のごとく多数の対人キメラが徘徊している。
「地獄だな‥‥」
 咲は小声で独りごちてから、通信回線を開き僚機と睦中隊の各車両に通達した。
「全員の武運を祈る。これより突入を開始する‥‥!」
 星之丞の骸龍が高感度カメラで周囲の状況を探る。
 前方数百mの距離にゴーレム4機。さらにその後方にフレキシブルパイプ状の「足」をクラゲの如く垂らした陸戦仕様の本星型小型HW1機。
「攻撃目標を捕捉しました‥‥皆さん、行きましょう!」
 傭兵達は素早く臨戦態勢を整えた。

 ・対HW班:ルノア、咲、キョーコ
 ・対ゴーレム班:アリステア、星之丞、刑部、春花
 ・中隊直衛:美雲

 早くもこちらの動きを察知したゴーレム、HWからプロトン光線が浴びせられてくる。
 最初に動いたのは星之丞の骸龍。元々は高速偵察機として開発された機体だが、独自のカスタマイズにより、対ワーム戦闘にも耐え得る高機動KVへと改造された彼専用のカスタム機だ。
 機槍ドミネーターを携え、敵の光線や重機関砲の弾幕を回避しつつ接近、突撃の威力を上乗せした一撃を加える。
「この骸龍なら、そう簡単に当てられはしません‥‥くらえっ、チャージ!」
 ゴーレムの巨体が衝撃に震えた。
 巨大な出刃包丁を思わせる特殊サーベルを振り下ろしてくるが、星之丞は驚異的な運動性でこれをかわし、そのまま近接戦闘へと持ち込む。
 案の定、敵ワームの光線や砲撃は傭兵達のKVよりも後方の睦中隊に向けられたものだ。
「やらせませんよ!」
 春花は敵の射線から中隊を庇う形で前進、レーザーカノンで牽制しつつ、ジリジリと彼我の距離を詰めて行く。
 その動きから見て、敵ゴーレムはおそらく無強化の量産型。
(「――いける!」)
 近接戦の間合いに入るや、真ツインブレイドを回転させて斬撃を加える一方、相手が振り回すサーベルを受け止める。
 その近くで、やはり真ブレイドを構えたアリステアのフェニックスがゴーレムの突進を食い止めていた。
「こいつを後ろに行かせるわけにはいかない‥‥畳みかけます!」
 友軍の被害を減らすためにも短期決戦を決意したアリステアは、スタビライザーとオーバーブーストを同時発動した。
「スタビライザー起動‥‥オーバーブースト、オン!」
 一気に敵の懐へ飛び込むと、左腕のデアボリングコレダー、【OR】クレイモアランチャー、右腕の機杭ヴィカラーラと目にも止まらぬ3連撃。
「これが俺の‥‥切り札だ」
 とどめの一撃とばかり繰り出された真ツインの切っ先がゴーレムの胸板を貫いた直後、武骨な人型ワームは仰向けに倒れ、そのまま自爆する。
 アリステアは休む間もなく機体を方向転換、やはりゴーレムと切り結ぶ春花の援護へと向かった。
 ミカガミBを駆る刑部は150mm対戦車砲、R−P1マシンガンの弾幕により手近のゴーレムを他のワームより孤立させ、頃合いを見てブーストオンで白兵戦を挑んだ。
 やはりサーベルで反撃してくるゴーレムに対し、真ツインブレイドの刺突・斬撃攻撃などを巧みに使い分けて応戦。
「貴様の攻撃‥‥見切った!」
 接近仕様マニューバ起動。右腕の内蔵「雪村」を実体化させるや、ダメージの蓄積で動きの鈍ったゴーレムを肩口から袈裟懸けに切り裂いた。

 時を同じくして、後方に展開した睦中隊も95式戦車の砲撃で大型キメラを攻撃。また装甲車から降りた歩兵班はそれぞれ分隊に分かれ、無反動砲や汎用機関銃で中小型キメラを狙撃していた。
 彼らに随伴するのは美雲のディアブロ改。
「睦中隊には、手出しさせませんよっ!」
 群がる中小型キメラを多連装機関砲で掃射。弾切れの際はレーザーバルカンの攻撃に切替え、その間にリロード。
 また前衛のKV部隊からの指示を中隊に伝えるのも美雲の役目だ。
「睦中隊、停止して下さい。‥‥微速前進、対人キメラの対処に専念して下さい」
 彼女の働きにより、距離を置いて戦うKV部隊と睦中隊は確実な連携行動が可能となった。
 サブアイカメラのモニターに、のっそりと近づくサイの様な大型キメラが映る。
「こちら美雲機。前方百m、大型キメラを狙い撃ちますっ!」
 須賀大尉の指揮車両に通信後、スナイパーライフルが火を噴く。
 直撃を受け足を止めたキメラに、95式戦車からの砲撃が殺到した。

 本星型HWに対しては、ルノア、咲、キョーコの3機が立ち向かっていた。
 強化FFを装備した強敵であるが、それは特殊能力であるため何度かの使用で練力切れに追い込めることが判明している。
 そのため、傭兵側も最初から手加減なしの全力攻撃で挑んだ。
「さて‥‥強化FFは反応するか‥‥?」
 目標を射程内に捉えた咲のシュテルンが高分子レーザー砲で狙撃。
 従来型に比べてさらに凶暴そうなフォルムのHWが一際強い赤光を放った。
 強化FFの障壁がレーザー光線のエネルギーを遮蔽するが、全く無傷というわけではなく、機体表面に黒い焦げ目が生じた。
「その強化FFが弱点になるんだよ!」
 機盾リコポリスを構え、キョーコのアンジェリカ「修羅皇」が弧を描く様に接近。
 HWが振り下ろす鋏状の挌闘戦アームを軽々と避け、ライトニングハンマーの鉄球を叩きつける。
 強大な知覚攻撃はやはり強化FFに遮られるが、防ぎ切れなかった分のダメージは確実に敵の機体に刻まれていく。所詮は小型だけに、HW本体の防御力はさほど高くなさそうだ。
「その、装甲、削り、とって、あげ、ます!!」
 キョーコの突撃を援護すべく、ルノアのS−01H、メタルレッドの「Rot Sturm」が重機関砲とスラスターライフルを使い分け、緩急を付けた砲火を耐えず浴びせ続ける。
 じりじりと後退を始めたHWを追い、咲はシュテルンを一気に前進させた。
「行くぞ‥‥相棒!」
 双機刀「臥竜鳳雛」が唸り、敵機体との間に赤い火花を散らす。
 さらに肉迫し、片腕の拳でHWを殴りつける。一見無意味な攻撃に見せかけ、インパクトの瞬間掌底に切替え掌銃「虎咆」を放った。
 が、やはり強化FFに阻まれる。
「AIも中々良く見ている‥‥ちぃっ」
 その頃になると、ゴーレム部隊を全滅させた友軍KVも戦列に加わっていた。
「ブーストオン! いっけぇー!」
 ブーストジャンプで超低空から接近した春花が、エナジーウィングで奇襲の斬撃。
 後方から刑部のミカガミBが放つマシンガンの弾雨が降り注ぐ。
 その間、星之丞とアリステアは睦小隊の方へ後退、キメラ掃討を援護した。

 不意にHWを包んでいた強化FFの赤光が消滅する。
 ついに練力が切れたのだ。
 それでも残り練力でヨタヨタと浮上し、最後の執念を見せるかのごとく睦中隊の歩兵を狙うHWを、キョーコと咲が離陸して追撃した。
「逃がすかっ!」
「ここで堕ちて貰うぞ!」
 ソードウィングの刃が閃き、重機関砲が炎を吐く。
 HWの機体から黒煙が噴き出し、あえなく大地に激突して爆発した。

 ふいに基地の一角から一回り大きな本星型HWが浮上、慣性制御による超音速で熊本方面に飛び去った。
『追うな! 奴は北熊本で待機中の別働隊が仕留める!』
 UPC軍指揮官の声が無線機から響き渡る。そのHWが佐賀バグア軍指揮官・天勝清秀の搭乗機である事を傭兵達が知るのは、暫く後のことであった。


 佐賀補給所の司令所屋上にUPC軍旗が翻り、正規軍、そしてULTやSIVAの傭兵KVが勝利の凱歌のごとく天空に向けレーザー砲を放つ。
 年頭の春日バグア軍侵攻からおよそ9ヶ月ぶり――。
 佐賀補給所は人類軍の手に奪還された。

 戦闘終了後、KVを降りたアリステアは睦中隊の様子を確かめに走った。
 中隊の被害は重傷者十数名、軽傷者多数。
 傭兵達の援護が功を奏し、幸い全員の生存が確認されたという。
(「俺に何が出来るわけでも無い‥‥でも、気になるのは仕方が無いよな‥‥。適性が無ければ、場所は違っても俺もあの中にいただろうから‥‥」)
 戦死者こそ出さなかったものの、衛生兵の手当を受ける負傷兵達を目の当たりにして、ため息をもらすアリステア。
 持参の救急セットで衛生兵を手伝うルノアの前を、担架に乗せられて重傷の少女兵が運ばれて行く。
「しっかり‥‥絶対に、諦め、ない、で!」
 ルノアの言葉に弱々しく微笑む少女の制服には「井上沙由理」の名札が縫いつけられていた。

 賢二や美香らの身を案じ、停車した戦車隊の前を捜し歩いていた星之丞は、彼らの無事な姿を見つけ、思わず駆け寄った。
「良かった‥‥いつか、またお会いしましょう」
 そういって握手をしながら、ふと美香が大事そうに抱えた硝子瓶に気づいた。
「それは?」
「‥‥っ」
 唇を噛みしめ、無言のままポロポロ涙を零し始める美香。
 そのまま子供の様に泣きじゃくり始めた少女の肩を抱き、星之丞は優しく頭を撫でてやるのだった。

<了>