●リプレイ本文
●銀河重工熊本支社
「どもども。本日はXF−08D『雷電』改良計画のため、遙々L・Hよりお越しくださり、誠にありがとうございます」
会議室に集まった傭兵達を前に、銀河重工社員で同プロジェクトの主任を務める明石・小源太(gz0281)が挨拶を述べた。
「今回はバージョンアップということで、新規開発に比べると様々な制約もありますが‥‥ひとつ皆様のご意見を拝聴してより良いバージョンアップが実現すれば、弊社としても誠に有り難く思います」
「シミュレーターに始まり、試作実験機、そして驚異の性能と歌われ登場した雷電か。ついに雷電改へと進化するときが来たんだな」
思えばもう1年半前、シミュレーター段階から「雷電」開発に関わってきた1人でもある緑川 安則(
ga0157)が感無量といった表情で頷いた。
「雷電にはお世話になっていますからね」
やはり初期の開発依頼に参加しているクラーク・エアハルト(
ga4961)も、期待を込めていう。
安則やクラークもそうだが、今回の依頼には現役の雷電ユーザーも多数参加していた。
「雷電が改良されるとなれば参加しないわけにはいかぬの。気に入ってる機体だけに長く乗れるようにしてもらいたい所じゃ」
「さて、折角愛用してる雷電の強化だ。もっと 使いやすく出来るようにいろいろ提案してかねぇとな」
「お、とうとう雷電も強化の話が出てきたか。がっかりなヴァージョンアップにならないよう、よろしく頼むぜ」
綾嶺・桜(
ga3143)、砕牙 九郎(
ga7366)、ジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634)らも愛機の改良のため、大いに意欲を見せていた。
(「私があの子に乗ってから、もう一年かぁ‥‥」)
御崎緋音(
ga8646)は自ら「ヘルヴォル」と命名した機体に思いを馳せていた。
「それから色々新しい機体も出て、当時の最新機だった雷電も埋もれつつあったから、この時期の改良依頼は妥当かもしれませんね。この先に出る機体に対しても優位性を保てるような機体にしてあげたいなぁ」
「とりあえず、始めにおおよその改良方針から決めて行きたいかと」
明石主任が提示した改良方針は、以下の通り。
A.攻撃力重視案:攻撃・知覚・命中など目標にダメージを与える性能を強化
B.防御力重視案:防御・抵抗・生命・練力など生存性に関わる性能を強化
C.運動性重視案:回避・速度など、戦闘機としての機動性を強化
D.拡張性重視案:装備・スロット数を増やすことで拡張性を高める。
E.機体特殊性能改良:現行の超伝導アクチュエータを改良し、性能強化、もしくは同性能で消費練力の減少を目指す。
「もちろん上記以外にも、たとえば『命中・練力・回避を向上』『攻撃・抵抗・装備を向上』といった折衷案も考えられるわけですが‥‥そのあたりの細部については、また後ほどご意見を伺うということで」
参加の傭兵達から一通りリサーチした所、D案の拡張性重視を推す声が最も多かった。
「我輩はシンプルだ〜。他のKVにはない、副兵装スロットと装備力の多さをメインに持っていきたいね〜」
ドクター・ウェスト(
ga0241)が意見を述べる。
「副兵装スロットと装備力が多ければ、それだけ高威力兵器を装備でき、戦闘継続能力が増す。つまり補充に行く回数を減らせるからね〜。あと能力は強化やアクセサリーで補えばよいね〜」
ウェストの言葉通り、ドローム社の機体改造サービスと未来研のアイテム強化サービスが始まってからというもの、KV開発を巡る状況は大きく変わっている。
無理に初期性能が高い高級KVを購入するより、廉価でも拡張性の高いKVをベースに機体改造や強化アイテム搭載で自機をカスタマイズしていくという選択肢が生まれたためだ。
その意味で、機体改造では増やせないスロット追加をバージョンアップに求めるのは理に適っているといえよう。
同様の理由から、榊兵衛(
ga0388)はアクセサリスロットの追加と装備力強化を唱えた。
「機体アクセサリを追加装備する事により、傭兵は自らの雷電で重視したい能力を高める事が出来る。その為にもアクセサリスロットを追加する事は機体性能の向上に間接的に繋がるだろう」
そしてそれに伴う装備力の向上。兵衛としては具体的に30〜40は欲しいと考えていた。
「スロット追加も技術的には可能ですが‥‥兵装とアクセサリ、両方となると少々厳しいですねぇ。せめてどちらか1方でも増やせればいいんですが」
スロット追加に伴う改造費、また同価格帯から上のKVとの性能バランスなどをざっと見積もりながら、明石主任が首を捻った。
「最優先で上げて欲しいのは兵装スロット。次点で移動かな? 理由は自力強化が難しいから」
と平坂 桃香(
ga1831)。
「兵装スロットを増やせば唯一無二の副兵装5になるので売りになる。移動はワイバーンがあるし、アクセサリは結局他能力の補助でしかないので売りにするには少し弱いと思います」
「まず第一に推す案としてはD案です。装備とスロットの追加ですね」
クラークがいう。
「元々、雷電は装備重量に余裕のある機体ですからそれを生かす方向で行った方が良いと思います。下手に元の性能が低い回避や知覚を上げるよりは良いかなと思います。個人的には、アクセサリースロットの方を追加してもらいたいです」
「まぁ‥‥愛機だし、ね」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は僅かに思案し、
「派手な特殊能力を持つ新型機にシェアを奪われるのは、ある程度は仕方ない。雷電の特長を伸ばすことで、独自色を保って欲しい。空陸の戦闘に対応できる兵器搭載能力、降下時の被弾に耐えて橋頭堡を確保し続ける生存能力。個人的には、この2点が改良のポイントだと思う」
その上でホアキンの提案は、
1)D案+E案「兵装スロットの追加および装備の強化」+「特殊能力の性能強化」
2)D案+E案「兵装スロットの追加および装備の強化」+「特殊能力の練力消費減少」
3)D案+E案「アクセサリスロットの追加および装備の強化」+「特殊能力の練力消費減少」
4)D案+B案「アクセサリスロットの追加および装備の強化」+「防御・抵抗・生命の強化」
「俺は、上記の案を上から順に推したい」
「兵装・アクセ枠追加。装備値底上げなら最高にグッドですねぃ。ベターをいえば兵装・アクセ、どちらでも枠追加。機体能力ぼちぼちアップってことで」
鈴葉・シロウ(
ga4772)も拡張性強化を希望する1人である。
彼としては、雷電の豊富なキャパシティをさらに強化することで、装備交換により回避型から防御型まで可能なマルチロール機になれば幸いと考えていた。
「ミサイルでレッツパーリィするのが最近の趣味な【ガーデン】隊の一人としては、『流石は雷電だぜ、C0200(重量200。装弾数計320)を二つ積んでもまだまだ余裕だ』となりたいわけで。装備枠が追加になればもっとアーマードに‥‥」
「雷電の特徴は何と言っても搭載力だ。かくいう私も搭載力重視だ。現在ドローム側の開発依頼にて知り合いが陸戦時に使用できる多連装マルチロックミサイルシステム、MLRSを提案している」
安則は現在ドローム社が開発中という新兵器の話題を出した。
「うまく開発に成功すれば空戦のK−01、K−02との併用で拠点制圧戦をうまく進めること出来るでしょうな。雷電は大火力を叩きこむ!それこそ雷電!」
「そういえば、雷電推奨装備で220mmロケットランチャーってありますよね?」
MLRSの話が出たせいか、クラークがふと思い出したようにいった。
「陸戦で使えるロケットランチャーは良いのですが、行動修正が付くのが少し難点かなと。もう少し口径を小さくして、行動に修正が掛からないロケットランチャーの開発は行なって貰えないでしょうか?」
「なるほど。スロット追加を求める傭兵さんが多いようですが‥‥仮に兵装とアクセサリ、どちらか1方を増やすとすると、どっちがいいですかねぇ?」
明石主任が簡単なアンケートを取った結果、「どちらでも良い」という者を除き、兵装派が6名、アクセ派が7名。ほぼ互角である。
「ふうむ‥‥ではこの件は装備力向上と合わせ、改めて本社に問い合わせるとしましょう」
拡張性強化に次いでリクエストの多かったのは、E案の機体特殊性能=超伝導アクチュエータの改良であった。
「超電導アクチュエータは高性能ですが、現在新型プランとして出ているシラヌイ搭載型はエネルギー効率がかなり改善されたと聞きます。逆を言えば雷電に応用すればかなりの出力向上、推定で80から100ぐらい行けるのではと思いますが。後、対レーザーコーティングを使えば第一撃は防げるでしょうなあ」
現在「NMV計画」コンペに銀河からエントリーしている試作KVを引き合いに出し、安則がいった。
「シラヌイですか‥‥あれはまた、同じ社内でも開発セクションが違いますからねぇ」
頭を掻いて苦笑する明石。
「まあ超伝導システムの様にある程度社内で共有化されている技術もありますが、後は開発セクションごとの独自技術になりますから‥‥そうやって競わせる事で、開発関係者のモチベーションを上げようって部分もあるようですが」
かくいう明石自身が開発リーダーを務めるXF−09B「飛竜(仮称)」には、物理・非物理を問わず敵の攻撃エネルギーを半減させる次世代技術「超伝導コーティング」の搭載が検討されているが、こちらはまだ試作段階のうえ機体設計を1から見直す必要があるため、残念ながら雷電への搭載は不可能とのことだった。
「コノ間の超伝導コーティングの話を聞いたあとでは、つい期待してしまうね〜」
とウェスト。もっとも彼自身は、特殊性能強化について「あればいいかな」程度で、過度の期待をしているわけではなかったが。
「そういえば例の新型機ですけど、『竜』をつけずに強そうな名前をつけるなら、鐘軌とか震電ですかね。いっそ轟雷とか」
「そうですねぇ。もし販売までこぎつけるようなら、おそらく呼称は変えることになるでしょう」
瓜生 巴(
ga5119)の言葉に明石が答える。
「いいかげんゼロを作ってほしい気もしますが‥‥決定版のためにとっておきたい名前かなぁ」
「ハハハ。あまりメジャー所から持ってくると『名前負け』なんていわれそうで怖いですからね。‥‥その意味じゃ『震電』あたりが丁度いいですかね?」
「それにしても、名前に『改』がつくなら、そもそもの名前を雷電より紫電にしておけば‥‥いえ、こっちのことです」
閑話休題。
「現在の『超伝導アクチュエータ』による能力修正でも、雷電の欠点である回避の低さを払拭できては居ない」
兵衛が再び特殊性能に話題を戻す。
「Ver.2において消費練力に対する修正値の効率化が計られた事を鑑み、雷電用に更なる上位Verを開発の上搭載してもらいたいものだ」
具体的な要求としては、
「消費練力40で1ターンの間、命中と回避に+100」
「上昇値とかによりますね」
と、鋼 蒼志(
ga0165)。
「例えば+50が+80になる程度でしたら、命中の数値自体を底上げする事に労力を割いてもらった方がいいです。消費練力を下げる方がまだマシでしょうか。上昇値が下がれば元も子もありませんが」
「特殊能力の強化はして欲しいところじゃな。ただ、今の能力の倍以上にはならぬと意味がないの‥‥ならぬのであればせめて持続時間を延ばして貰えぬかの」
とは桜の意見。
「100ですかあ‥‥さすがに2倍の上昇は厳しいですねぇ」
眉間に皺を寄せつつ、悩ましげに答える明石。
「実の所、どの程度の能力上昇、もしくは練力消費減少が見込めるか、まずは伺っておきたいかな」
ホアキンも尋ねる。
「ま、あまり大きな声じゃいえませんが‥‥既存機体をバージョンアップで極端に強化するのは、SES技術の権利を独占するULTがいい顔しないんですよ。たとえばバージョンアップの結果、なまじ最新鋭機以上の性能を持たせちゃうと、逆にその新型機の搭乗権を購入したお客様からクレームがついたりして‥‥」
表向きは「メガコーポ同士の自由競争」という形を取っているものの、KVの根幹であるSESやエミタ関連の技術一切を独占しているのはULT。
つまり銀河本社から裁可を得られたとしても、ULTからストップが掛かればその機体は販売中止、もしくは延期となる。
「NMV計画のコンペ結果発表が先送りになったことを見てもお判りのとおり、この辺は拠ん所ないオトナの事情ってヤツでねぇ‥‥はは」
笑いながらも、どこか苦い顔で頬をかく。元は本社の開発部にいたという彼が熊本支社まで飛ばされた理由も、あるいはその「オトナの事情」絡みなのかもしれないが。
明石はコップの麦茶をグイっと飲んで一息ついた後、
「超伝導アクチュエータについても、どこまで改良が可能かは本社――まあ事実上はULTになりますが――に確認しておきましょう。‥‥では他の方も、何かご意見があればどうぞ」
「我は最優先で攻撃を上げて欲しいと思う」
以前、傭兵仲間を通じて雷電改良を希望した1人である漸 王零(
ga2930)が発言した。
「どれだけ攻撃に耐えようと、武装を多く持っていても奴らを倒す攻撃力がないとしょうがない。それに他の基礎能力の中で攻撃に関してはそれをあげる事がメインのアクセサリーを見ないので基礎の底上げは必須だと思う」
王零の提案する改良の優先順位は、
攻撃>武装スロット>特殊能力(性能)>アクセサリースロットか移動>防御・抵抗>特殊能力(燃費)>装備>知覚>命中>回避
「特殊性能に関しては、できれば出力・燃費の両立が理想だが、どちらかなら他の高級機の能力に比べて燃費の良さは目立つが修正能力値や効果の点でいえば見劣りがする。やはりいざという時の使用を考えれば出力の方を向上してほしい」
「回避はどうでもいいですが、移動力は欲しい。切り込み隊長としての移動5は大きいですからね」
特に移動の強化をリクエストしたのは蒼志。
「シュテルンやフェニックスに対する優位性になるかと。あとディスタンとのはっきりとした差別化にもなるでしょう」
彼を始め、移動力の強化を求める者もまた少なくなかった。
「ぶっちゃけ、俺は今の雷電に不満はないがな。それでも、底上げできるっていうなら‥‥」
ジュエルの提案は、
アクセスロット>超伝導アクチュエータ強化>抵抗>命中>攻撃
王零案とは対照的である。
「新規顧客に売るためにも、柔軟性を求めるならアクセサリー、インパクトを求めるならスキルを充実させるのがベストかな。超伝導アクチュエータの機動力上昇を推進力に変換できるようなシステムを組むのは難しいかね?」
「うーん。それだけの機能変更となると、もう新型機として開発した方が早いでしょうねぇ。ちょうどいまコンペに出てる『真ミカガミ』みたいに」
「攻撃性能を上げるのなら、命中を重点的に伸ばすべきですね」
桃香は他社KVとの比較を念頭に置きつついった。
「絶対に必要なステータスなのに、価格の安いロジーナとかアヌビスとかにも負けてるのはどうかと。攻撃は今のままでトップクラスなので優先度は低めで。知覚は多少増やしたところで役に立つレベルにはならないので、上げるべきではないでしょう」
また彼女は装備力についても「今のままで充分なので上げる必要はない」と述べた。
「希望する基本方針はB案の生存性重視ですね」
巴が改めて提案する。
「同じ意見の人も多いみたいですけど、開発当初、雷電のセールスポイントだった段違いの防御力は、他機種と比較にならないというほどの水準じゃなくなりました。ただし、20前後の小幅上昇なら、スロット増設の方が有効です。防御系アクセサリは比較的に、入手しやすくて強化費用も安く、高い性能上昇が望めますからね。相当大幅な性能アップでないと」
実際、通常のバージョンアップにおける性能値の底上げは10〜20程度が相場である。先にバージョンアップしたミカガミB型や阿修羅改の場合、発売時から諸々の問題点が指摘されたこともあり、「不要な性能値を削って他の性能値に回す」という非常措置がとられたものだが。
「アクセサリスロットの増設が同時にできればそれに越したことはないですが、ばかばかしいくらい生存性アップに集中するというのも面白いと思います。特に回避の低い雷電ですから、生命はいくらあってもうれしいでしょう」
「つまりB案+D案ということですね」
「ええ。予備システムをたくさん乗っけて、壊れても壊れても止まらないゾンビみたいな機体って、好みなんですけど」
「ははは、そりゃいい。元々雷電開発に携わったスタッフも『空の不沈戦艦』を目指してたって聞きますしねえ」
「雷電は以前乗っていて、いま搭乗権は手放してしまいましたが‥‥開発時から興味の惹かれる機体でしたし、今回の改良でより良い機体になると良いですね」
阿修羅改を含め4機種のユーザーである井出 一真(
ga6977)も、B案+D案の支持者だった。
「現状、バグア側の攻撃を全てかわしきるというのは難しいと言わざるを得ません。となれば当たっても耐えるしかないわけです。そういった点で雷電の装甲、耐久力はとても有効です。空挺降下という本来の目的に限らず」
「従来のHWやゴーレムならともかく、FR・ステアー・シェイドといった精鋭機の命中と回避はバケモノだと聞きますからねぇ。まず近づく前に一撃で墜とされちゃあ話にならない」
「KVの特性上、アクセサリによってかなり性能を変化させることができます。スロット、積載量の大きい雷電はこの点でもかなりの自由がきき、潜在的な可能性はかなり高いと思います」
「仰るとおり、スロットと装備力の大きいKVほど、独自のカスタマイズにより長く乗り続けられる‥‥かの名機バイパーがそれを証明してますからね」
「雷電は空挺作戦など敵陣に切り込む強襲機として設計されている。しかし、生命力、錬力などの継続戦闘能力が低いように思われる」
安則も副案として生命・練力・抵抗の底上げを挙げた。
「またタートルワームなど敵は知覚兵器主体であるのに、抵抗も若干低めだろう。空挺降下で対空砲撃するタートルワームの攻撃に継続して耐えれるようにお願いしたいものだ」
「最初のプランの奴はBプランを押すかな。やっぱり元々のコンセプトである空挺降下KVって部分を強化するために、装甲なんかの防御面を強化するのが一番だろうしな」
と九郎。
「あとは‥‥移動力だよな、高軌道な敵精鋭機に追従したり、味方に先んじて橋頭堡の確保や防壁を構築するには。やっぱり、あとちょっと移動力の強化が必要だと思うってばよ。なので、ここを強化できないかなぁ? こう新エンジンとか積んでさ」
「移動力についてのご要望も多いですねぇ。まあ現状でシュテルンやフェニックスと同レベルなので、難しいかとは思いますが‥‥一応上へ提案はしてみましょう」
「こう、実体弾を撃つ手持ちのバズーカみたいな重火器があればいいんだが。それを雷電に装備させたら 映えそうじゃね?」
「バズーカですかあ‥‥そういえば、雷電発売時に推奨兵装として『バルバロッサ』っていうのがあったはずなんですが‥‥あれ、もう入手できないんですかね?」
「高級機としては低めの命中と錬力、それにアクチュエーターを強化して欲しいな」
そう希望するのは発売当初から乗り続けてきた龍深城・我斬(
ga8283)。
「どんな攻撃も当たらなくっちゃ意味が無い、命中は高級機のシュテルンやフェニックスは勿論ディアブロやディスタン、アンジェリカにも劣ってる、目立たないけど明確な雷電の弱点だよ」
雷電ユーザーとしての経験が長いだけに、その言葉も自然と熱を帯びる。
「アクチュエータがあるから良い、じゃなくてそれを活かす為にも素の命中は高くあるべき。折角効率も効果もデカイ良い特殊能力なんだから。アクチュエーターそのものは燃費は今のままで出力を上げて欲しいな。命中とアクチュエーター両方上げる事でバージョンアップとしてはかなり大きな効果が得られると思うんだ」
さらに我斬は現行雷電の弱点として「練力の低さ」を指摘した。
「雷電の搭載力を活かせる重量級装備は燃料効率を下げたり、使用に錬力を消費する物が多い。なのに雷電の錬力は高級機としては低い部類だ、これじゃ折角の拡張性を活かしきれない。また、そういった重量級装備は命中が低い物も多い、ここも命中強化を推す理由だ。錬力も命中も改造で伸び難く、後天的に個人で改良するのが難しい、ぜひとも強化して欲しい部分だ」
「ふむ‥‥確かに雷電が開発された当時は、今ほど兵装やアクセサリのバリェーションも豊富じゃなかったですからね」
「生産中止になったがロジーナK2が出た時その攻撃と命中の高さ、燃料タンクの余裕には正直愕然としたよ、いかに採算度外視とは言え雷電と似た能力設定で185万で、ここまで出来るものかとね」
「まあプチロフさんは‥‥またうちとは生産体制が異なりますから。技術力なんかとは別の意味で、ちょっと真似できない部分もありますねぇ」
「移動力が上げられるなら上げて欲しいです。それが無理ならアクセサリースロットを。どちらかが通れば御の字ですね」
緋音がいう。ここまでは、既に出ている要求とも重なるが。
「次に防御・抵抗です。やはり雷電の特徴、存在意義とも言えると思います。バグアの攻撃は知覚属性も多いので抵抗も高めに、ですね」
「まあ抵抗も改造だけでは上げづらいと聞きますしね」
「機体性能は今でも充分ですが‥‥やはり他の機体に対する優位性を確保するためにも、もうひと味欲しいところです」
そこで彼女が提案したのは、
「効果時間の延長、上昇数値の強化、使用練力の削減、この辺りが適用されれば、と思います」
「ふむ、ふむ」
「それと個人的な希望なんですが‥‥垂直離着陸能力は雷電には付けられないんでしょうか?」
「VTOL機能は‥‥さすがに無理ですねぇ。機体の設計からやり直さなくちゃ」
「『空挺戦KV』という売り文句からすると、ない方が不思議に思えるんですが‥‥」
「当時はそこまでは無理だったんですよ。あのシュテルンで初めて実用化された機能ですからねえ‥‥こればかりはKV世代の違いというか‥‥」
少し寂しそうな顔で明石は答えた。
「それではせめて、攻撃・命中の向上を希望します」
「了解しました。本社へ提出する検討リストに加えておきましょう」
「俺は高級機として分類されている他機体と比較してみました」
自作の資料を示しつつ、鹿嶋 悠(
gb1333)が述べる。
「300万C以上の機体では汎用型シュテルン、攻撃型フェニックス、重装甲・重火力型は開発中の物ですがスピリットゴーストが存在します。この中だとスピリットゴーストが雷電と被る部類になると思われます。また中堅機でもロジーナ等、雷電の防御性能に並ぶ機体も存在するようになりました。もちろん、陸戦機や水中戦機を除いての話です」
「まあ発売から1年経ちますしね。いつまでも雷電が重装甲KVの王者というわけにはいかないでしょう」
「では、この中で雷電が生き残るのにはどうしたら良いでしょうか? 個人的には雷電のコンセプトである「重装甲・重装備」の「重装備」こそが他社のKVと一線を隔すのに最適と判断しました。既存の機体(公開済み開発機体含)でも副武装・アクセ4、装備力550以上の機体は無い事から雷電の持つ『最大の強み』と言うのが理由です」
悠はそこで語気を強め、
「最低でもアクセサリスロット増強をお願いします。基本性能の数値変動無しでもアクセの換装によってシュテルンとは異なるマルチロール機として差別化が行えるのではないでしょうか?」
「スロット増設‥‥やはりそこに行き着きますか」
「あと装備力向上はエンジンや駆動部の出力向上や機体の軽量化を行うのでしょうか? だとすると機動力や速度のある程度の向上『も』望めそうな気がしますが‥‥」
「実をいえば、雷電の設計思想は20世紀末に研究されていた有人宇宙船に近いんですよね。大容量キャパシティを持った重装甲の機体を、大出力ブースターで強引に飛ばす‥‥おかげで速度については他のKVにひけを取りませんが、通常時の回避についてはどうしても低めになってしまいます。装備力の向上については部分的に軽量な新素材を使用することでキャパシティの確保を図りますが、それが移動や回避につながるわけではないのです」
獅子河馬(
gb5095)は第1希望として装備力向上とスロット増設を挙げたうえで、
「第二希望は命中と回避の強化。ちょっと低いのが気になるので。もう、長所は十分出ていますし弱点を補うという意味でも。知覚と抵抗‥‥まではさすがに無理でしょうか?」
さらに第3希望として攻撃と防御の強化を挙げた。
「飛ぶゼカリアといったところかな‥‥?」
荒神 桜花(
gb6569)が持ち込んだのは、全く独自の改良プランだった。
○リニア・アクチュエーター:変形駆動系の大半を非接触構造に置き換えることで変形に要する時間を従来の2/3に短縮する。この機構を取り入れれば、故障率と整備性が改善され稼働率向上にも繋がるでしょう。
○アームレイカー:球形の可動部を掌で覆うようにして、指でそれぞれ定められたスイッチを操作しつつ、球形部分全体を手首で動かしKVをコントロールする。
○高周波超小型レーダー装置:入力された情報はKVに搭載されたAIで統合、解析されパイロットに360度視界の通常映像、赤外線映像、音響波を与えます。戦場の地形に加えて、視界内に捉えた物体についても正確な距離と方向を測定でき「見たもの」を解析できます。
○外装式アーマードパック:着脱式であり各部に多連装マイクロミサイルを装備、空戦形態時においても使用可能とする。
「う〜ん。この辺りはバージョンアップというより、独立した新技術の開発プランになりますが‥‥まあ、現在開発中の新型KVの参考案とさせて頂きましょう」
他にも幾つかのプランが提案された桜花の資料に目を通しつつ、明石主任はいった。
(「皆雷電のユーザーだけあって、それぞれに一家言があるみたいね」)
時間の経つのも忘れたように活発に続く会議の様子を眺めつつ、加賀・忍(
gb7519)は思った。
「翻って私はその辺は初心者で、この機体で実際に戦場に出た訳ではないから何が改良すべきかの提言は難しい処よ‥‥さりとてこれに命を預けるからには生半可に悠長な事は言ってられないし。なのでそれなりに気が付いた事に関しては助言してみようかしらね」
というわけで、改めて考えをまとめた忍は挙手して発言を求めた。
彼女の意見としては「B案+E案」。
「心情的に攻撃特化なのだけれど、手持ちに高攻撃力兵装が有る時点で見送っても良さそうだし‥‥護り固めるのが信条ならば、二の次にしても構わないしね」
また忍の場合、戦闘スタイルが陸戦主体で空戦は眼中にないので、これはその道に詳しい者達に任せる。
要望の多いD案については、彼女には優先事項とは思えなかった。
「行動手段が多いに越した事がないけど、私にいわせれば一撃必殺の手立てさえ有ればそれで良いのよ」
だからこそ、その一撃を叩き込んで敵を倒し切るまで耐えられる防御力が欲しかった。
そして機体特殊性能。
「ある意味目玉とも言える特能だけども、状況の推移に連れ改良は必然よね。私としては耐えうる持続力向上が欲しい処なので『同性能で消費練力の減少を目指す』のを希望よ。半分もしくは2/3に軽減を要望かしらね」
ただし多数意見があればそちらに同調する――そう付け加え、忍は発言を終えた。
「え〜、これで皆さん、だいたいのご意見は出尽くしたようですか?」
会議時間の終了近く、傭兵達の顔を見渡して明石が確認した。
「どの様な改良プランになるかは最終的にそちらの判断ですが、可及的速やかな改良の実行を望みます。雷電をこれからも使って行きたいですからね」
雷電ユーザー一同の心情を代弁するように、クラークがいう。
「はい、当方も努力いたします。本日は、貴重なお時間を割いてくださり誠にありがとうございましたっ」
傭兵達から渡された提案書、そして会議をメモした手帳を取り上げ、明石主任は深々と一礼して退室した。
傭兵達もまた、銀河の女性社員に案内され移動艇の待つヘリポートへ向かう。
「行動力を増やす事は出来なくなりましたが、強化によって雷電に新しい魅力を感じてもらえると嬉しいのですが‥‥」
和服に懐手で辻村 仁(
ga9676)がしみじみ呟く。
「もう一度雷電に乗ってみようかなぁ‥‥」
諸般の事情により一度は手放した雷電だったが、会議で熱く語り合ううち、つい再度の購入を考えてしまう一真であった。
<了>