●リプレイ本文
「今日は招待してくださってありがとうございます、殿下」
イベン島へ向かう空母「サラスワティ」の艦上で、アーク・ウイング(
gb4432)は始めにプリネア王女にして艦長のラクスミ・ファラーム(gz0031)に挨拶した
「夏の海辺でみんな開放的な気分、と‥‥さて、夏の思い出にいっぱい写真を撮ろうかな」
「王女様に出会えてよかったですよ。何しろ従兄弟殿が毎回自慢していますからな。勇猛果敢にして傭兵に理解ある素晴らしい女性だと」
ビーストマンの緑川安則(
ga4773)は初対面の王女を褒めちぎった。
「ほう。そなた、あの者の従兄弟殿か?」
「ええ、同姓同名です。もっとも私の場合、声優時代に使っていた芸名ですがね」
「そういえばわらわの親しい能力者にも血縁同士の者がいるな。血筋というものかのう?」
「どうでしょう? あと、マリア嬢は可愛いですなあ。うんうん、従兄弟殿の言うとおりだ。まあ、怖いお義父様がいるみたいだし、手を出したら他にもファンのみんな‥‥艦内のみんなに命を狙われるでしょうなあ」
「ははは、それは大袈裟じゃ」
王女への挨拶を終えた安則は、今度はクルーへの挨拶とばかり持参した高級煙草や酒類を皆に振る舞った。
「一人前を目指し、クルーの皆さんの御要望に応えて頑張りたいと思いますっ!」
やはりラクスミとは初対面の上杉 怜央(
gb5468)が礼儀正しく頭を下げた。
「その志は有り難いが‥‥実は今回のクルー、というか『福利厚生組合』の要望はな‥‥」
「――白スクを着て欲しい、ですか」
怜央はさすがに考え込んだ。
「白スクコンテストも開かれるのですね、でもボクある件で水着を溶かされてしまって‥‥」
「それは難儀なことよのう」
ラクスミは既に白スクール水着(以下白スク)に着替え、近くに控えていたプリネア軍少尉のマリア・クールマ(gz0092)を呼び寄せた。
「これ、マリア少尉。上杉殿を含め、水着を所望する者達を例の部屋へ案内せよ」
「‥‥了解」
「ありがとうございます。ボク頑張ります!」
怜央、及び水着の貸与を希望する女性傭兵達はマリアの案内で艦内に降り、とある船室に移動した。
倉庫のように広い部屋の中、ハンガーにかけられた女性用水着がズラリと並んでいる。
「種類もサイズも豊富にそろってるから。好きなのを選んでね」
水着倉庫の隅には、姿見付きの試着コーナーまで備えられていた。
(「もしかして、とんでもない所に来てしまったのでは‥‥」)
以前解放戦に参加した同じ島でのイベントと聞き参加した神代千早(
gb5872)は、白スクコンテストに加え水着ショーまで企画されていると聞き、思わず胸騒ぎを覚えてしまう。
とりあえず一同は倉庫に入り、思い思いに着用する水着を選び始めた。
「む‥‥胸がきついです‥‥途中で破けないといいんですけど‥‥」
自らの白スク持参で参加の王 憐華(
ga4039)は早速試着コーナーへ行って着替えるが、巨乳を通り越してもはや「魔乳」ともいうべき彼女の胸でスク水は正直厳しい。
それでも何とか強引に押し込んだ。
「白スクは初めてだな‥‥」
各種サイズを手に取って比べながら、イレーネ・V・ノイエ(
ga4317)も呟いた。
サイズが合うかとか胸の辺りが辛そうだとか不安材料はあるが、この際だ細かい事は気にしないことにして着替え始める。
カンパネラ生徒の常世・阿頼耶(
gb2835)も白スク持参組。既に着替え済みだが、さすがに恥ずかしいので上半身には夏制服の上着を羽織っている。
アークも子供サイズの白スクを着用。
怜央は白スクに加え、体に可愛らしくリボンを巻きデコレーションを施した。コンセプトは「甘いお菓子」のイメージである。
「ちょっと‥‥恥ずかしいです」
白スクに着替えたものの、まだおどおどしている千早の肩を憐華が叩き、そっと何事かを耳打ちした。
同じ頃、サラスワティ甲板上。
「チェラルが来てるって聞いて、凛も飛んで来ちゃったよ!」
そういってにこっと笑う勇姫 凛(
ga5063)の姿を見て、チェラル・ウィリン(gz0027)は呆気に取られていた。
どこでどう間違えたのか。凜は紺のスクール水着(女子用)を着込んでいたのだ。
「スク水着用って聞いたから、ちゃんと着て‥‥え?」
周りにいる安則や男性クルー達が普通に男性用水着を着用しているのを見て、凜もようやく勘違いに気づいた。
「凛、そう連絡受けてたから‥‥趣味なんかじゃ、無いんだからなっ!」
真っ赤になって口ごもる凜の肩を、チェラルがあっけらかんと笑いながら叩いた。
「まあまあ。凜君、けっこー似合ってるじゃない? ボクも今日は白スクだし、ちょうどいーんじゃないかな?」
「皆さん、イベン島へようこそ!」
外から訪れた久々の「観光客」ということで、浜辺に降り立った傭兵達を島役場観光課の職員達が笑顔で出迎えた。
浜辺にはリゾートホテルの他、海の家やら各種屋台が軒を連ねているが、この辺りはどことなく日本の標準的な海水浴場を思わせる。
「さて、私はみんなのために密猟を楽しむとしますか」
安則は空母側から借り受けたエアタンクや水中銃一式をひっさげていた。
「チュラル嬢は素敵な王子様と一緒にいたいようですしなあ」
凜の方に「頑張れよ!」と言いたげにウィンクし、そのまま海の方へと姿を消す。
浜辺の中央にひときわ大きな人だかりが出来ていた。
本日の目玉企画の1つ、「イベン島白スククイーン・コンテスト」が始まろうとしていたのだ。
浜辺に特設されたステージの上に、軽快なBGMに乗せて白スク姿の傭兵達が次々と姿を現わすと、観客席(島民や空母クルー)から大きな拍手が挙がった。
ちなみに公正を期すため、審査員は観光課職員と有志の島民が務める。
一番手は憐華&千早の巫女さんコンビ。
「普通にやっては勝てない」と判断した憐華は、同じ巫女の千早を誘い、白スク+αの演出を目論んだ。
入場時は2人で一緒にマントを頭からかぶって入場し、中央でマントを脱いで猫耳としっぽを身に付けた白スク姿を現し「にゃ〜ん」とポーズを決める。
このパフォーマンスに、早くも客席は興奮のるつぼと化した。
とりあえず演目を終えた2人は、観客に笑顔で手を振りながら舞台裏に引き返した。
「ふう。恥ずかしいかったけど二人だから耐えれました‥‥って神代さん!? だいじょうぶですか!?」
憐華同様、舞台では辛うじて正気を保っていた千早だが、楽屋に戻るなり緊張の糸がプッツリ切れてその場でぱったり倒れてしまった。
続いて登場したのはイレーネ。
(「何やら普通の水着とはまた違った感があって些か恥ずかしいが‥‥」)
だがそこは割り切り、舞台の上で堂々と白スク姿を披露する。
その間、アークはコンテストの方には参加せず、専ら仲間の水着姿をせっせと撮影していた。
続いて舞台に現れた怜央の白スク姿も好評を博した。
観客の誰1人、怜央を女の子と信じて疑わなかったのだ。
「お嬢ちゃんの趣味や特技は何かなあ?」
司会がマイクを差し出しインタビューを求める。
「ボクの特技は、御菓子作りと‥‥超機械を使った触手型やスライム型のキメラ退治です。この前も触手に絡まれちゃったり、スライムに水着を溶かされちゃったり‥‥あぅ、恥ずかしい‥‥」
日焼けした長身に白スクを着たチェラルが舞台に現れると、客席にいた凜は大声で「頑張れー!」と声援を送る。周囲の驚いた視線に気づき、ちょっと照れてしまう。
「な、何でもないんだからなっ」
彼女の水着姿にドキドキしつつも、他の男も見ているかと思うとちょっと複雑な少年心。
(「凛、独占欲強すぎるのかな‥‥」)
チェラルの後は相変わらず人形のように無表情なマリア。その影に隠れるようにしてサングラスで素顔を隠した白スク姿のラクスミがそそくさと走り抜け、第1部のコンテストは無事終わった。
30分の休憩を挟み第2部にあたる水着ショーが始まると、憐華は持参の水着、すなわち白いスリングショットでお尻には白い猫の尻尾付き、頭に猫耳、首に鈴付きの首輪というさらに過激なファッションで会場を沸かせる。
イレーネは一見ビキニに似ているがボトムスとトップが布地で繋がった、黒のモノキニ。さっきとは打って変わってアダルトなムードを醸し出す。
(「ふむ、こう言うのに恋人が居らんのは残念だが‥‥」)
とも思うが、ともあれ観客の目を意識し、戦場ではあまり見せることのない自分の「女らしさ」を発揮してみる。
さっき楽屋で失神してしまった千早は、今度はワンピースのごく地味な水着姿で舞台の端に立っていた。
浜辺が水着ショーで賑わっている間、単独行動でのんびりバカンスを楽しむ傭兵達もいる。
「夏の浜辺と言えば? ‥‥スイカ割だ!」
阿頼耶は海の家でスイカ割に使うスイカと目隠し等の小道具類を買い、ビーチでセッティング。
割るための棒は、わざわざ「勝利のバット」を持参するという気合いの入れ様だ。
「スイカ割やりたい人、この指、と〜まれー!」
砂浜でメンバーを募集すると、島の子供達が歓声を上げ駆け寄ってきた。
ルールはオーソドックスに目隠しをして1〜2回転した後、周りの誘導により前進してスイカを割るというもの。
割ったスイカは海の家で借りた包丁で適当な大きさにカットし、砂浜に座って子供達と分けて美味しく頂いた。
スイカを食べ終え満腹した阿頼耶は、腹ごなしにビーチボールを持って海に入ると、ボールをビート板代りにバシャバシャ泳いだりしてみる。
青い空に紺碧の海。水平線から湧き上がる入道雲。
ビーチでの賑わいをよそに、時間はまったりと流れていく。
同じ頃、エアタンクで海中に潜った安則は水中銃でスポーツフィッシングを堪能していた。
狙うは色鮮やかな魚たち。
「水中戦闘は専門じゃないが。何とかなるか。バグア相手じゃないから」
さて、イベント会場では審査員の採点と集計が終り、白スクコンテストの結果発表が行われていた。
1位:上杉 怜央
2位:王 憐華&神代千早
3位:イレーネ・V・ノイエ
憐華と千早のコンビは猫コスのパフォーマンスが、イレーネは白スクのイメージとは対照的な大人の色気が却って高得点に繋がったのだろうが、年齢・体型・容姿などを含め「白スクがもっとも似合う女の子」として1位に輝いたのは怜央だった。
(「うぅ、これで一人前の男に近づけたかは謎ですがっ‥‥」)
内心複雑な心境で表彰状と金一封を受け取る怜央。ともあれ一人前の「男の娘」として認められたのは確かであろう。
その後もちょっとおどおどした雰囲気で、クーラーボックスに詰めて冷やした手作りホワイトケーキを、
「お兄ちゃん‥‥どうぞ」
とクルーや島民の観客に配って回る。
(「今回はボク、男の子ってことは最後まで隠さなきゃ‥‥」)
怜央は既に腹を括っていた。
そう。みんなの夢を壊してはいけないのだ‥‥。
コンテスト終了後、憐華は浜辺で泳いだり、お腹が減ったら波打ち際でお団子を食べてのんびり過ごす。
イレーネはスキューバやボディボードなどマリンスポーツ用具を借りるとマリアを海へと誘った。
「何かやりたいスポーツがあるならいってみろ。自分が教えてやろう」
「いいの? 私、こういうの詳しくない‥‥」
「我が儘なんて思わなくても良いのだぞ、お姉ちゃん的には妹の我が儘に付き合えるのは嬉しいものだしな♪」
それを聞いたマリアは、嬉しげにイレーネの腕によりそった。
「ありがとう。イレーネ姉さん‥‥大好き」
「毒は多分ないはずだ。食えるぞ」
安則は仕留めた魚介類をナイフで捌き、シンハ中佐やクルー達も誘い海鮮バーベキューパーティーを開く。
「そういえばなぜか以前、醤油がショップに並んでいましたなあ。あのときの醤油はなかなかのものでしたが‥‥」
そういえば、あの時はショップの店員も別人だったような気がする。理由は安則にも判らないが。
「ははは。平和な場所で素敵な女性と共に過ごした一時、酒と共にうまい肴があれば平和の証。いいことですなあ」
気さくに笑いながら、シンハ中佐にも酒を勧める。
「しかしあなたも素敵なお嬢さんをお持ちだ。もしかすると近い将来花嫁の父親役をすることになるかもしれませんなあ」
「いやいや。あの子が結婚など、まだ先の話です」
といいつつも、思わず「その日」を想像したのか、複雑な表情の中佐であった。
アークは支給された使い捨てカメラとは別にもう1つカメラを用意し、自分も女の子である事を活かし水着ショーや浜辺でギリギリのショットで撮影した分を「福利厚生組合」の組合員達に売却しようと図っていた。
「なにぃ! 傭兵ガールズやマリアちゃんの生写真だと!?」
組合員達が手に手に財布を取り出し、商談成立――と思ったその時、「MP」の腕章を付けたプリネア軍士官がつかつか歩み寄って来た。
「貴官らは何をしておるのだ?」
アークの方をジロリと睨み、
「‥‥まさか王女殿下のお姿を盗み撮りしたのではあるまいな?」
「アーちゃん、そんなことしてないもん。ただの記念写真だよ?」
その辺はアークもぬかりない。
「よろしい。ならば、後で現像して本艦に郵送するがよい」
「――だって。ゴメンねー♪」
うるうる落涙するクルー達に手を振ってその場を離れるアーク。
別にいいのだ。アークとしては金が目的ではなく「何か面白い騒ぎになればいい」くらいの考えだったのだから。
「楽しいイベントだったね。でも、来年の夏頃はバグアとの戦いはどうなっているのかな」
夕刻の海岸。
海遊びを満喫した凜とチェラルは、2人並んで波打ち際の岩場に腰を下ろした。
「大規模作戦ひとまずお疲れさま。ほんとに無事で良かった‥‥この前あんな事言うから凛、凄く心配してたんだからなっ」
「ボクだって、ロス方面で凜君が負傷したって聞いた時は、心臓が止まるかと思っちゃったよ?」
改めて互いの無事を喜ぶように、ギュっと抱き合う2人。
凜はチェラルの顔をじっと見つめた。
「あのキーホルダー、凄く嬉しかった。今も肌身離さず持ってるから‥‥それと、凛のもっと良く知りたいチェラルは、現在進行形なんだからなっ‥‥これからも一緒に、一杯素敵な思い出作っていこ」
少年の微笑につられる様に、チェラルも笑った。
水着越しに感じる温もりが愛しい。
凜とチェラルは、波の音を聞きながら2度目の口づけを交わした。
サラスワティの女性士官達を誘い、かき氷早食い競争を挑んだ阿頼耶は、その面子のまま花火大会に興じていた。
ホテルのシャワーで一汗流した千早は、ニセライド討伐で一緒に戦ったが、別の依頼が忙しくて一緒に来られなかった「彼氏」のため、土産物売り場でお土産を物色した。
「来年こそは、一緒に来てみたい、ですね」
一時の安らぎを楽しむ傭兵達を包み込む様に、南海の島の夜は更けていくのだった。
<了>