タイトル:【ODNK】航空殲滅戦マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/19 18:50

●オープニング本文


●バグア軍〜佐賀拠点
 かつてはUPC九州方面隊の補給所として使用されていた施設の1室で、将校服姿の若い男が険しい目つきでモニターの画面を睨んでいた。
 男の名は天勝清秀(あまかつ・きよひで)。20代半ばの若さでUPC軍少佐にまで昇進し、佐賀補給所守備隊の副官を拝命。そこまでの地位を実力で勝ち取ったという意味では、近年UPC軍内部でも台頭著しい「天才児」達の1人ともいえる。

 いや「だった」と過去形で語るべきだろう。

 現在の彼は既にUPC軍人ではなく、佐賀周辺を占拠したバグア指揮官の強化人間であるのだから。
 天勝の見つめるモニターには、UPC陸軍部隊がL・Hの傭兵達と共に確保した有明橋を渡り、県道沿いに大川方面へ移動中との情報がCG画面で映し出されていた。
「愚かな‥‥北熊本の連中、この佐賀を本気で取り戻せるとでも思っているのか?」
 つい数ヶ月前は己の上官だったUPC九州方面隊の首脳部を、男は顔を歪めて嘲った。
(「奴ら、柳川は既に捨ててるな‥‥」)
 モニター上で刻々と変化する戦況を眺めつつ、天勝はじっと考え込む。
 UPC海軍、及び民間傭兵派遣会社「SIVA」連合軍による有明海からの徹底した砲爆撃は既に柳川市街を半ば廃墟と変え、それは人類軍が佐賀空港に対して行った「焦土作戦」をさらに大規模に実施しているとも考えられる。
 その一方、久留米方面から南下させたバグア軍部隊はUPC陸軍の頑強な抵抗に阻まれ戦線は膠着している。
「手薄になった大川を抜いて、その勢いで筑後川を越えるつもりか‥‥だがそうはさせんぞ」
 天勝は配下の兵を呼び、予備戦力として使用できる小型HWの数を問い質した。
「はっ。各重要拠点の防衛用を除き、30機ほどになります」
「全て大川に集結させろ。大型HWの出撃も許可する。‥‥そうだ、現在柳川防衛に派遣している分も回して構わん」
「よろしいのですか? 予備の航空戦力を全て投入することになりますが‥‥」
「奴らが短期決戦を目論んでいるなら、望むところだ。KV部隊さえ潰してしまえば、在来型の戦車や戦闘機などいくらあっても怖れるに足りん」
 そこまで命じてから、ふと苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。
 いかに周囲から「天才児」「軍の将来を担う人材」と褒めそやされた所で、一般人である限り、あの能力者達を永遠に乗り越えられないという「現実」。
(「たとえバグアに勝利したところで、あのエミタを移植したバケモノどもに顎で使われる? ‥‥そんなふざけた話があるか!」)
 そう思えばこそ、事前にバグア側と内通し上官である佐賀守備隊長を暗殺。春日方面から侵攻してきたバグア軍に白旗を掲げた。
 配下の兵士は全て洗脳で親バグア兵とし、逃げ遅れた民間人は労働力や「実験体」としてバグア側に提供した。
 その見返りに与えられた強化人間への改造、そして佐賀一帯のバグア軍指揮官の地位。
 いずれは熊本をも制圧し、九州中心部の占領軍司令官となる内約もとりつけている。
 天勝は自らの裏切り行為に対して、罪の意識など欠片も感じていない。
 彼にとって己が権力と名声を得られない「人類社会」など、存続する価値すら認めていなかった。

●長崎空港
 滑走路に駐機したKV・フェニックスのコクピット内。出撃待ちの暇つぶしに、戦術コンピューターを相手にチェスを指していると、ふいにモニターが無機質な「SOUND ONLY」の画面に切り替わり、柔らかな少女の声が響いた。
『予定変更よ。有明海の艦隊護衛と柳川への空爆は一時中断になったわ』
 声の主はL・H本社の地下シェルターに引き籠り、決して公に姿を現わさぬ「SIVA」CEO、ユディト・ロックウォードだった。
「なら何処に行けばいいんだい?」
 ラザロ(gz0183)は大して興味もなさそうに尋ねた。
『柳川上空を守っていたHWが一斉に大川方面に引き返したの。佐賀から大川へ大型HWの移動も確認されてる』
「ようやくこちらの意図に感づいたわけだ。バグアの連中も」
『手持ちの航空兵力を総動員して、大川方面を目指すUPC地上軍を叩く‥‥まあそんなところでしょうね』
「却って好都合じゃないか? あのうるさい小バエどもをまとめて墜とすチャンスだ」
『同じことを九州方面隊の参謀本部も考えたようね。正規軍とULTのKVを動員して航空決戦に持ち込むことを決定したわ』
「で? 俺達はどうすりゃいいんだい」
『敵の主力‥‥大型HWは正規軍とULTの傭兵が相手にするそうよ。私達SIVAへの依頼は、敵残存戦力の退路を断っての掃討戦ね』
「有り体にいえばハイエナ役か‥‥まあそっちの方がうちには似合いの仕事だ」
 くっくっく‥‥とひとしきり笑ってから、ふと通信機の向こうのユディトに尋ねる。
「‥‥しかし、制空権を握ったとしても大川から佐賀にかけては陸戦ワームがウヨウヨいるんだろ? UPCは本気で秋までに佐賀を取り戻せると思ってるのかねえ?」
『勝算はともかく‥‥彼らが本気なのは確かね。うちも資本参入している熊本のある工場に、軍から大量発注が来てるから』
「兵器かい?」
『棺桶と死体袋よ』
「‥‥なるほど。そりゃあ確かに『本気』だな」
 女社長との通信を切ったラザロは、回戦を部下のKVパイロット向けに切替え、作戦変更の内容を通達した。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
櫻小路・あやめ(ga8899
16歳・♀・EP
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

『今回の任務は殲滅戦だ。特に小型HWは1機たりとも無事に帰すなってお達しだよ』
 櫻小路・あやめ(ga8899)が操縦する雷電の無線を通し、長崎空港で待機する「SIVA」KV部隊指揮官・ラザロ(gz0183)の声が告げる。
「左様ですか。『歩のない将棋は負け将棋』と申しますものね」

 人類側KVの進歩、またバグア側でも本星型HWの出現により「強敵」のイメージの薄れつつある小型HWであるが、数の上ではまだまだ敵の主戦力であり、また市街戦の際など超低空飛行により空中戦車として運用されると厄介な事このうえない。
 たとえば正規軍の平均的なS−01改の場合、2機がかりで1機の小型HWに対抗でるかどうかといわれる。未だに彼我の軍事技術がバグア優位なことに変わりないのだ。
 そのため大川のバグア軍が大型HWを主軸に小型HW、飛行キメラ多数を送り出してきたのを好機と見て、UPC側は正規軍・ULT・SIVAのKVや戦闘機を動員して一大航空決戦を決意した。総合戦力としてはどうしても劣勢のこの戦いで、敵主力の小型HWを大量に撃破すれば今後の「烈1号作戦」をより有利に進められる――というのが真の狙いである。

『まあ討ちもらした連中はこっちで始末する。その代り、大型の方はしっかり仕留めといてくれよ?』
「了解しました。今回もよろしくお願いします」
「そっちはよろしくなー 」
 あやめに続き、ディアブロ改を駆る烏谷・小町(gb0765)も挨拶の通信を送った。
「いつぞやの訓練以来ですかな。小型HWの掃討、よろしくお願い致します」
 同じくディアブロ改の機上より、飯島 修司(ga7951)もラザロに声をかけた。
 どういう縁か、今回の依頼にはかつて「SIVA」私設兵団の実戦訓練で教官役を務めた者が多い。
「‥‥それにしても、今や貴重かつ重要な戦力ですな。色々とご活躍されておられるようで、SIVAの女王の慧眼恐るべし、と申すべきでしょうかね?」
『うちの社長も何かと人使いが荒くてねえ。九州での仕事が終わったら、次はどうやら東南アジアの方に飛ばされるらしい』
 ラザロは苦笑すると、引き続き傭兵達のKV各機に長崎空港のレーダーが捉えた敵の位置情報を伝えてきた。
 大型HW1、小型HW30、そして50匹に及ぶ飛行キメラ。
 相当の戦力である。
 当然CWも引き連れているだろうが、今の所敵のジャミング圏外なのかレーダー・通信などに支障はない。

 大牟田の仮設基地から出撃し、計10機が2機ずつのロッテ編隊を組みつつ大川方面へ向かう傭兵達の前方には、S−01改8機を主力にF−15改、F−2改など在来型戦闘機30機余りが翼を並べ先導役を務めている。
 数こそ多いものの、一般人パイロットの操縦する通常戦闘機ではHWはもちろん大型飛行キメラにさえ歯が立たないため、この場合殆ど戦力外といえる。
 それでもUPC軍が彼らを投入したのは、有り体に言えば護衛の小型HWや飛行キメラの注意を分散させる明らかな「囮役」である。
(「ふむ‥‥気合十分なだけ有って流石に数が多いな。コレは要らぬ世話を焼きたくもなるか」)
 前方を飛ぶアルファ隊の編隊を見やり、九条・命(ga0148)はやや複雑な心境だった。
「烈1号作戦」完遂のため、一般人兵士から多数の戦死者が出るのを覚悟した九州方面隊が地元の工場に棺桶と死体袋を大量発注した――という噂は傭兵達の耳にも入っている。
「素敵な発注内容だ‥‥」
 ロビンの機上で、須佐 武流(ga1461)は誰に言うともなく呟いた。
「ただし‥‥数は減らしておいたほうがいい。金の無駄は‥‥納税者に怒られる」
 それは命たち他の傭兵も同じ気持である。
(「自身が生き延びる事も他者が生き延びる事も等しく重要だ。要らぬ世話を焼いてくれた連中に世話の有効活用をさせぬ為にも‥‥確実に始末をつける!」)
「柳川と、同じ、ですが、被害を、抑えるのは、難しい、です、ね‥‥それ、ならば、作戦を、絶対に、成功、させます」
 有明橋確保の戦闘で共に戦った「睦中隊」の少年少女兵達の姿を思い起こし、ルノア・アラバスター(gb5133)がたどたどしい口調とは裏腹にS−01Hの操縦桿を強く握り締めた。

 亜音速による巡航速度でも、大牟田〜大川間など目と鼻の先だ。離陸して5分と経たないうちに、大川方面から飛来する大小の黒点が目視で確認できた。
『ジャミング量増大! 敵HW部隊接近!』
 正規軍「岩龍改」のパイロットから報告が入った直後、能力者達を例の頭痛を襲うと共にレーダー精度が急速に低下した。
「意外と数が多いですね‥‥」
 遠目にも判る大型HWの威容。そして周囲を護衛として取り巻く小型HW、CW、飛行キメラの規模に、夕凪 春花(ga3152)は頭痛も忘れて表情を引き締めた。
 先行のアルファ隊、すなわち正規軍部隊のF−15改やF−2改がCWのジャミングに強いといわれるサイドワインダー・ミサイルを一斉に発射するが、残念ながらFFで身を守るHWや飛行キメラには殆ど効果がない。
「苦しい戦いになるだろうけど、任せられるかな?」
 蒼河 拓人(gb2873)の通信に対し、雑音混じりの無線機からイーグル・パイロットの1人が応答する。
『心配するな! こちとらロートル戦闘機だが、露払いの役は務めてみせる!』
 アルファ隊は編隊を左右2つに分け、敵前衛のHW、キメラ群を両脇に引き離す形の空戦機動を取った。その過程で数機の戦闘機がプロトン砲で撃墜されていくが、彼らは一歩も退くことなく、ある者は零距離からバルカン砲でCWを狙い、ある者は僚機と連携して大型飛行キメラに手傷を負わせた。
 ことに被害が大きかったのは8機のS−01改である。HWのAIには「最優先目標」として人類側KVがプログラムされているらしく、淡紅色のプロトン光線が集中するや、次々と爆炎の華が開き、眼下の海や大地へと黒煙を引いて墜落していった。
 だがアルファ隊による決死の陽動により、バグア側の前衛はまんまと左右に誘い出され、直径百mを超す大型HWの直衛が手薄になった。
(「ここであの大型を落としておけば次の一手を有利に打てる訳か」)
 傭兵KV10機で編制されるベータ隊。その中でも大型HW対応を担当するA班6人の1人、白鐘剣一郎(ga0184)は思った。
 これまでの戦闘でも正規軍は少なからぬ犠牲を出している。またこの地を故郷とする人々がいることを思えば、何時までも戦場にしておくに忍びない。
「道は拓けた、一気に抜けるぞ!」
 ロッテを組む修司に声をかけ、剣一郎はシュテルンにブーストをかけ大型HWへ突撃。
 同じくA班でロッテを組む命&あやめ、ルノア&須佐も後に続く。

 その僅か前――後続のベータ隊に気づいて引き返してきたHWや飛行キメラに対しては、護衛機担当のB班4機が応戦を開始していた。如何にアルファ隊が囮として陽動に当っているといえ、バグア側も「旗艦」の守りをガラ空きにするほど間抜けではない。
 拓人のフェニックスはスラスターライフルで牽制しつつ、敵の編隊に半ば食い込んだところでロッテを組む小町とタイミングを合わせ、各々の機体得能を起動させ装備したK−02ミサイルを斉射。
「ミサイルの雨嵐‥‥耐えられるものなら耐えてみせろ!」
 練力を込められた超小型ミサイルが、マルチロックオンされた各々の目標に文字通り雨嵐と降り注ぐ。行く手を阻む敵のうち、同時被弾した飛行キメラはバラバラの肉塊と化して墜落し、小型HWは中破して黒煙をたなびかせる。
 K−02発射が終わるや、両サイドで待機していた鹿島 綾(gb4549)のディアブロ改、春花のシュテルンが前進、小型HWやCWに狙いを絞り攻撃を開始した。
「みやこ町の奴等の次は、お前等の番だ。一機たりとて逃さん‥‥!」
 綾は小町と、春花は拓人と素早くロッテを組み直し、A班の障害となる敵ワーム排除を目指す。
 小町の発射したスラスターライフルを慣性制御で回避した小型HWが、下方で待ち伏せる綾のライフル弾に蜂の巣とされた。
「ほら、真下がお留守だよ?」
 もっとも彼女の忠告が終わらぬうちに、HWは爆散して空の塵となっていたが。
 拓人の後方上空を守るように飛ぶ春花は、スナイパーライフルD−02でロングレンジからCWに照準を合わせる。
「狙い撃ちますっ!」
 被弾して慣性制御の利かなくなった電子ワームに対し、アルファ隊のF−15改が残弾のサイドワインダーを叩き込んでとどめを刺す。
 敵ワーム群の規模に比べ、意外なほどCWの数は少なかった。多く見ても10機程度というところか。
(「バグア側も‥‥手を広すぎて、戦力が足りなくなってるのかもしれませんね」)
 そんな考えが、ふと春花の脳裏を過ぎった。
 CWのジャミング効果が薄れると共に、小町と連携を取っていた綾もラッシュに入る。
「邪魔だから消えとけ。文字通りにな」
 小町のスラスターライフルで追い込まれてきた小型HWを、M−12強化型粒子砲の光条が敵の回避軌道をなぞるように薙ぎ払った。

 アルファ隊の陽動、及びベータ隊B班の猛攻により切り開かれた血路を突破し、6機のKVは大型HW目がけて流星群のごとく突撃していった。
 あやめの雷電から走る螺旋弾頭ミサイルの軌跡を追うように飛ぶ命の視界に、みるみる大型HWの巨体が広がっていく。
 目標をD−01ミサイルの射程に捉えるなり、ディアブロ改のパニッシュメント・フォースを起動、迷わずトリガーを引く。
「コレが本命だ!遠慮せずに持って行け!」
 2連射、4発が全弾命中。さすがに撃墜とはいかないが、巨大円盤に穿たれた4つの弾孔から早くも煙が吹き出す。
 その後もあやめの雷電と連携しつつ、敵のプロトン砲をかわしながらバルカン砲、AAMなどで攻撃の手は緩めない。
 剣一郎と修司の2機も、孤立した大型HWを攻撃圏に収めていた。
(「ただHWでも大型となれば防御力も相当強固なはず――」)
 ならば、ただ攻撃を叩き付けるに留まらず内部へ確実にダメージを通すべく、剣一郎は予め策を練っていた。
「此処から先はペガサスの翼に懸けて通さん」
 修司のG放電が大型HWを足止めしたタイミングを狙い、PRMシステムを全て攻撃に注ぎ込んだソードウィングにより敵の外装甲深く斬りつける。
 パックリと口を開けた裂け目を狙い、螺旋弾頭ミサイルを全弾発射。交替するように修司がブースト&機体得能併用でレーザーガトリングを叩き込んだ。
 中型以下のHWならこの段階で墜ちているところだが、黒煙の尾を引きながらも大型HWは悠然と飛び続けている。
「大型だけあって、さすがにタフだな」
 呆れたように呟きつつも、G放電、スラスターライフルと立て続けに攻撃を加える剣一郎。
 さすがにダメージに耐えかねたか、巨体に似合わぬ慣性制御によるマニューバで回避行動に移る大型HW。
「そう、簡単に、逃がす、筈が、ない、でしょう?」
 そこで待ち受けていたメタルレッドのS−01H、ルノアの「Rot Sturm」が剣一郎たちの空けた破損口を狙い短距離高速型AAMを発射した。
「全弾、持って、いきなさい!!」
 吸い込まれるように命中した4発のミサイルが巨大円盤の内部で炸裂。それでも瀕死の巨獣のごとくひたすら回避運動を繰り返す。
 だがその先には、武流のロビンが待ち受けていた。
「余所見は‥‥厳禁だ。それとも、図体がデカすぎて見えなかったか?」
 既にアリスシステムは起動済み。レーザーバルカン、レーザーカノンで牽制しつつ接近、攻撃力を増幅させたソードウィングでルノアが狙ったのと同じ破損口へ一撃離脱の斬撃。
 大きく広がった外装甲の亀裂から火花が飛び散り、逃げ惑っていた大型HWの動きがにわかに鈍った。
 アルファ隊の正規軍機を追い回していた小型HW、飛行キメラどもが慌てて引き返してくる。だがその瞬間、HWの1機が後方から飛来したG−01ミサイルを受けて爆発した。
 フェニックス8機を主力に、ディアブロ改やウーフーで構成されたKVの大編隊。
 長崎から遅れて出撃したチャーリー隊、SIVAの部隊が大川方面から回り込み、傭兵や正規軍と共にバグア軍を挟撃する形で参戦してきたのだ。
「これで勝負だ。参るっ!!」
 退路を断たれた形で戸惑う小型HWには目もくれず、剣一郎が再度の剣翼突撃。
 もはや慣性制御も利かず、速度も半分以下に落ちながら、それでもなお大型HWは生き残りのプロトン砲を放って抵抗を続ける。
 その頃には、SIVA部隊の到着で小物の敵を相手にする必要がなくなったB班4機も大型撃墜のため駆けつけてきた。
「さてと‥‥佐賀空港に続いて、ここでもこちらの勝ちとさせてもらおか?」
 小町は再びパニッシュメントフォースを起動、温存していたK−02ミサイルの1斉射を全てHWの巨体にロックオンして撃ち込んだ。
 拓人がフェニックスの「SES2000」オーバーブースト&空中変形スタビライザーを同時発動。赤い力場に包まれたKVは空中で人型に変形した。
「空の王者の真価。それがただ空中変形するだけではない事を教えてやる」
 多目的誘導弾、全弾発射。やや時間差をおき、全てが破損口の1点に集中するよう発射ボタンを押し続ける。
 最後の1発が目標に命中した直後、大型HWの巨体がふいに制御を失い、木の葉のごとくクルクル回転しながら迷走を開始した。
 そのまま放物線を描いて有明海へと墜落――数秒後、海面が光り巨大な爆発の水柱が立ち上がった。
 残存の小型HW、そして飛行キメラが死にものぐるいで大川への逃走を図る。
 だがそれも、SIVAとULT傭兵、合計40機に及ぶKV部隊の前には儚い抵抗に過ぎなかった。

「ペガサスよりラザロへ。ベータ隊、状況終了」
 剣一郎の通信を受けると、指揮官機と思しきフェニックスが軽く翼をバンクさせ、僚機を引き連れて長崎方面へと帰還していく。
「皆、お疲れ様だ」
 仲間の傭兵達にも労いを言葉をかけ、剣一郎も大牟田方面へ帰還コースを取った。
 傭兵達のKVに中破以上の損傷を受けた機体はない。
(「‥‥大分戦力を出してきたようだが‥‥こちらを本気で潰す気だったのか? これで目論見が狂ったのか、それとも、想定の範囲内か‥‥」)
 そんなことを考えつつ、武流が周囲を見やると、正規軍のアルファ隊で生き残っていたのはF−15改7機、F−2改5機のみ。地上や海上から立ち上る煙の、どれが友軍でどれがバグア機か、もはや見分けすらつかなかった。
「だが‥‥ここまでして‥‥俺たちも奴らも‥‥一体、何がしたいんだろうな」

 この戦闘で佐賀バグア軍は航空戦力の主力である小型HWの大半を喪失。
 大川〜柳川上空の制空権は、ほぼUPC側が握ることとなった。

<了>