●オープニング本文
前回のリプレイを見る●ラスト・ホープ〜UPC本部
「良い報せと悪い報せがある。どちらから知りたいかね?」
EAIS(東アジア軍情報部)オフィス内。部長のロナルド・エメリッヒ中佐が高瀬・誠(gz0021)特務軍曹に尋ねた。
「‥‥悪い報せから聞かせてもらえますか?」
「HFK(カメル人類戦線)から送られてきた情報だ。ハリ・アジフがセルベルク基地から移動したらしい」
「‥‥!」
正規軍と傭兵部隊、そしてHFKも協力して行われるカメル領内セルベルク基地強襲計画「シュトルヒ(コウノトリ)」は、既に準備も整い後は実行メンバーを募る依頼を出すばかりとなっていた。
まずニューギニア方面から出撃した正規軍KV部隊がカメル領空を侵犯。ただしこれはバグア軍のHW部隊を誘き出す陽動である。
その間隙を衝き、輸送ヘリ「エピメーテウス」2機に搭乗した傭兵部隊がセルベルク基地敷地内に強行着陸、ヘリを降りて内部へと突入。その際、HFKのゲリラ兵200名が基地を攻撃、バグア側警備兵の注意を引く。
前回の潜入調査時、傭兵が特殊デジカメで撮影した多数の画像により、現在の同基地内の建物配置や警備兵力はより詳しく判明している。専門スタッフによる分析の結果、もしNDF計画絡みの実験施設や「素体」として集められた子供達が監禁されているなら、基地内で一番大きなコンクリートビル(前回、傭兵達が潜入した同じ建物)の地下であろう――と推測されていた。
基地内部で活動できる時間はおよそ30分。その間に子供達の救出、ハリ・アジフを含めNDFメンバーの殲滅、可能なら情報収集までこなす。
そして子供達を乗せたエピメーテウスが脱出した直後、インドネシア領内から出撃した正規軍KV部隊がフレア弾爆撃により建物もろとも実験施設を破壊する。
極めて至難の作戦だが、成功すれば事実上「NDF計画」を完全阻止できる――はずだった。
しかし同計画の中心人物であるアジフが不在ということは、たとえ基地の破壊に成功しても「NDF計画」そのものは存続を許してしまう。
「それじゃあ、良い報せというのは‥‥」
「ヨリシロのアジフは今回最大のターゲットであると同時に、最大の脅威でもあった。つまり『子供達の救出』という目的に限って言えば、作戦の障害がひとつ取り除かれたことになるな」
「なら、『シュトルヒ』自体は決行するんですね?」
「むろんだ。ここまで準備を整え、今さら中止するわけにはいかん」
誠は内心で胸をなで下ろした。
アジフの無力化はこの先いくらでもチャンスはある。しかし「素体」の子供達は、グズグズしていれば全員がNDFの強化人間、あるいは「失敗作」として処分されてしまう怖れがあったからだ。
「それとだな。HFKから、もう1つ気になる情報が入っている」
「何でしょう?」
「カメル国内に駐留しているバグア軍の主力が、同国西部の山岳地帯に向けて移動しているらしい。セルベルク基地とは50km以上も離れた場所だ」
「どういうことでしょう? むしろこの前の事を考えれば、基地の防備を強化するのが普通だと思いますけど‥‥」
「理由はまだ判らない。ただ、HFKによれば‥‥最近カメル軍の暗号通信の中に、『グレプカ』という単語が頻繁に使われ出したということだが」
「グレプカ‥‥何でしょう? 何かの符丁か‥‥それとも新兵器?」
「現段階では何ともいえん。ただ、『シュトルヒ』作戦にとっては好都合だな。セルベルク周辺の護りが手薄になるわけだから」
「そうですね」
「とにかく、今は子供らの救出に全力を尽くすことにしよう。高瀬軍曹、速やかに救出要員を集める依頼を出したまえ」
「――はいっ!」
●カメル共和国〜セルベルク基地
「『グレプカ』の第1次稼働試験は無事に成功した。ドクターは、最終試験に向けて当面向こうに滞在するそうだよ」
「なら、私たちもお手伝いのため行くべきじゃないかしら? どうせドクターが不在の間はNDF計画も一時中断でしょうし」
基地の1室で、テーブルを囲んだ青服の少年少女達が相談していた。ちなみに彼らのいう「ドクター」とはハリ・アジフを指す。
「ねー、この前ここに来た能力者ってやつら。また押しかけてくるんじゃない?」
青服の子供達の中では一番年下、まだ10歳くらいの少女がいった。
「その心配はいらないよ、マティア。連中だってまた生身でノコノコ入りこんでくるほどバカじゃない。来るとすればKVの空爆だろうけど‥‥そちらはHW部隊に任せておけばいいさ」
「果たしてそうかしらね?」
異論を唱えたのはこの場でただ1人黒いドレスをまとった少女、結麻・メイ(gz0120)だった。
「もしあいつらの目的がここにいる子供達の救出だとしたら? 基地の警備が手薄になっている今は格好のチャンスじゃない」
青服の少年少女――4人のNDFメンバーはメイの顔を見つめ、そして一斉に笑い出した。
「何のために? あの『素体』達はエミタ適性者でもなんでもない、カメルやオーストラリアから集めてきた孤児だよ? そんなのを危険を冒して助けるなんて、UPCに何のメリットがあるのさ?」
「UPCはともかく、あいつらは‥‥能力者の傭兵は、そんな理屈だけで動いてるわけじゃないのよ。あたしには判る。この1年、あいつらと戦ってきたから」
「ククク‥‥例の中型HWで出撃して、その度に負けて帰ってくるのも『実戦経験』ってわけかい? サロメ」
この場では最年長の少年。NDFの実質的リーダーであるマルコが、口の端を上げて嘲った。
「あたしはメイ!『サロメ』は搭乗機のTACネームよっ!」
メイの紅い瞳に微かな殺意が宿るが、マルコ達4人は全く動じなかった。
「まあ仲間内でケンカは止しましょう。心配だっていうなら、誰か留守番に残ればいい話じゃない?」
褐色の肌に対照的な銀髪をカールさせた少女、ルカがおっとりとした声で諫めた。
「それもいいけど‥‥どうせなら賭けてみないか? 連中が空爆で来るか、それとも『素体』の救出に来るか」
「賭けるって、何を?」
「もし君の意見が正しかったなら‥‥メイ、今後は君をNDFのリーダーと認めてやってもいい。だがそうでなければ、僕らの召使いにでもなってもらおうか?」
「くっだらないゲーム‥‥でもいいわ。受けて立ちましょ」
「よし、決まりだ。ルカ、君はトマスとマティアを連れて一足先にドクターの元へ向かってくれ。僕はメイと一緒にここに残り、ヒューマニズム溢れる傭兵とやらを歓迎してやろうじゃないか? 来ればの話だけどね」
●リプレイ本文
●インドネシア領内〜UPC軍基地
「これだけの兵力を揃えて貰えただけで僥倖さ。後は俺達がその心意気を受け止めて上手くやるだけだね」
払暁の滑走路に翼を並べる正規軍KVの空爆部隊30機、及び2機の輸送ヘリ「エピメーテウス」を見渡し、新条 拓那(
ga1294)は誇らしげにいった。
傭兵達の強い要望がEAIS、さらにはUPCを動かし、正規軍、傭兵部隊、及びカメル国内の反バグア抵抗グループHFKも参加した救出作戦「シュトルヒ」は決行される運びとなったのだ。
「アジフ博士の事は残念ですが‥‥救出作戦頑張りますね♪」
前回の会議の際、ハリ・アジフの無力化を進言した御坂 美緒(
ga0466)も瞳を輝かせて張り切っていた。
間もなく、ニューギニア方面のUPC軍基地からは敵HWやカメル空軍を誘い出すため陽動担当のKV部隊が出撃するだろう。
ただし敵もバカではない。陽動作戦に気づいてセルベルク方面に迎撃機が向けられる前に空爆を成功させねばならず、エピメーテウスで基地内に強行着陸しての救出作戦に振り向けられる時間は、「せいぜい30分前後」と見積もられていた。
「帰りの時間は30分後で、遅刻厳禁なのですよ」
仲間達と時計の時刻を合わせながら、アイリス(
ga3942)も緊張に身を引き締める。
「それでも‥‥何もしないで見捨てるなんて、アイリスには絶対に出来ないのですよ」
滑走路の向こうから、黒い野戦服と防弾チョッキに身を包み、フェイスマスクとゴーグルで顔を覆った13名の正規軍兵士が行進してきた。
「インドネシア陸軍特殊部隊所属、ウマル軍曹です。本日の作戦に同行致します」
現地軍の一般人兵としては最精鋭の特殊部隊1個分隊を率いて参加した正規軍下士官は、救出作戦中エピメーテウス護衛を担当する叢雲(
ga2494)の前で部下と共に敬礼した。
「クレイモア地雷、突撃銃、GPMG(汎用機関銃)‥‥ご要望の装備は全て用意致しました。現場では貴官の指示に従うよう命令を受けております」
「正式に発令された以上、全力を以って完遂するのみ、ですね」
敬礼を返しながら、叢雲は目前に迫った強襲作戦に思いを馳せた。
「お願いした時限爆弾と無線機の方は、用意して頂けましたでしょうか?」
櫻小路・なでしこ(
ga3607)が、EAISから参加のUPC特務軍曹、高瀬・誠(gz0021)に尋ねた。
「はい。僕がエメリッヒ中佐から預かってきました」
高性能小型時限爆弾。そしてバグアのジャミング下でも使用可能な特殊短波無線機。
いずれもEAISが特殊任務に使用するアイテムで、よほど重要な作戦でない限り一般の傭兵に貸与されることは稀だ。
「救出作戦だ。全力を尽くそう」
レティ・クリムゾン(
ga8679)の言葉に応え、誠は傭兵達に人数分の地図を配った。
「前回の潜入作戦で撮影された写真、及び基地内に潜入した皆さんの証言を元に、EAISが独自の分析を加え新たに作成した見取り図です。地下部分に関しては完全な推測になりますが‥‥バグア側が改装にかけた時間がごく短期間だったことから見て、おそらく旧カメル軍時代に使用されていた間取りとほぼ変わりないかと」
傭兵達が各々貸与された地図を覗き込む。
基地司令部の地下はB2Fまで。面積自体はさほど広くない。
「問題は、この建物の何処に子供達が監禁されているか、ですね‥‥」
レールズ(
ga5293)が疑問を口にする。
「前回の調査報告の分析から、NDF計画の実験施設と被験体の子供達は、両方とも地下フロアの何処かにいる‥‥と推測されます」
さほど広い面積でもない。能力者10名が手分けすれば30分どころか10分とかけずに調べ尽くすことも可能だろう。
そこに敵が待ち受けていなければ、の話だが。
「相手が洗脳兵くらいならまだしも‥‥強化人間ならば、相当の苦戦を覚悟しなければならないでしょう」
リヒト・グラオベン(
ga2826)も腕組みして思案する。
「強化人間か‥‥」
イレーネ・V・ノイエ(
ga4317)は前回潜入の際に遭遇した青服の子供達――NDF隊員の姿を思い浮かべた。あの餓鬼どものうち何名かとは、また現地で出くわす可能性が高い。
「子供は好きだ、可愛いから。が、餓鬼は嫌いだ、五月蝿いから」
ミッション・ブリーフィングを続ける一行の中には、般若の面を被った水雲 紫(
gb0709)の姿もあった。
彼女自身はセルベルク基地へ初潜入となるが、基地の内部については該当の報告書に目を通し概ね把握しているので、その点について不安はない。
むしろ、気がかりなのは――。
(「さて戦場‥‥居ないといいのだけど。あぁ‥‥『勘』がする。ままならないものね」)
出発時間が迫り、一同は滑走路上のエピメーテウスへと移動を始めた。
叢雲、及び正規軍兵13名は1番機へ。直接の救出作戦を担当する他の傭兵達は2番機へ搭乗した。
「あぁ誠さん。これ、預かっといて貰えます?」
機内席に座った誠にふと紫が声をかけ、【OR】割れた狐面【右狐】を手渡した。
「え? でもこれって水雲さんの‥‥」
「あげませんよ? 貸すだけです。後でちゃんと返して下さいね」
「それは‥‥構いませんけど」
一瞬、少年は不安そうな面持ちで紫を見やった。
「大丈夫。死ぬ時は、それの傍に居ないといけないので。怒られてしまいますからね」
(「誰に?」)
と言いたげに首を傾げる誠だが、結局口には出さなかった。
「‥‥判りました」
「では、預けましたよ。お互い、無事にまた会いましょう」
「はい」
誠が【右狐】を背嚢にしまい込むのを確認したあと、自らの座席に戻った紫は、懐からクリップ付きの小さな筒状のケースを取り出した。
(「素直に渡しては、互いが内通者と疑われてしまう‥‥むしろ、私より『彼女』の身が心配ですね」)
その後席では、レティがペンとメモ帳を取り出し、基地の地図と首っ引きで何かを熱心に書き付けていた。
「ふむ‥‥どうすれば子供達にうまく伝わるかな?」
その他思い思いに作戦内容の再確認、装備の点検など行う傭兵達を乗せ、間もなくエピメーテウスのローターが始動し、2機の輸送機はフワリと滑走路から離陸した。
●強襲空挺戦
輸送機が陽動部隊とは反対のインドネシア方面よりカメル領内に侵入、セルベルク基地上空に到達した時、基地の周囲では既に激しい戦闘が始まっていた。
司令官ディアゴ・カイロスに率いられたHFKのゲリラ兵、およそ200名が基地を四方より取り囲み、一斉攻撃を開始していたのだ。
武装は旧式だが、周囲の地勢を熟知したHFKの戦闘は巧みだった。
密林内に配置した迫撃砲によりまず通信・レーダー関係の施設を破壊し、周囲に放たれていた対人キメラをRPG7や対戦車無反動砲で攻撃。
さらに基地内から出動してきた洗脳兵達には軽機関銃とAK47突撃銃による十字砲火が待ちかまえていた。
この陽動攻撃によりバグア側に悟られることなく基地の真上へ達したエピメーテウスは機体装備の機銃から地上に向けて制圧射撃を行いながら、敷地内への垂直着陸を強行した。
まず最初に着陸した1番機から、叢雲を先頭に正規軍特殊部隊が飛び出す。
叢雲は機内でのブリーフィングで、ウマル軍曹を含む13名の兵士を4人×3班に編制していた。
突撃銃の射手3名+GPMG担当1名という運用である。残りの1名はエピメーテウス機内に残り、搭載機銃による支援射撃を行う。
「各班、機体周辺40〜60mの地点にクレイモア地雷、及びリモコン信管を設置! 防衛ラインを形成してください!」
その指示は直ちに実行に移された。
輸送機の着陸に気づき慌てて引き返してきた洗脳兵に対し、重機関銃より軽く軽機関銃より高威力のGPMGが火を噴き、バタバタとなぎ倒す。
歩兵分隊が築いた環状防衛ラインの内側に2番機も着陸。素早く機体を降りた救出班の傭兵10名が、立ちふさがる洗脳兵を排除しながら司令部ビルを目指した。
●地下室の戦闘
救出班10名は、予めその役割に応じ2班編制を取っていた。
・α班(強化人間対応)
α1:レールズ、イレーネ
α2:リヒト、紫
・β班(子供達の救出を担当)
β1:拓那、誠、アイリス
β2:美緒、なでしこ、レティ
司令部ビルに飛び込むや、屋内警備にあたっていた洗脳兵から銃弾が飛んでくる。
これにはスナイパー達が応戦し、たちまち制圧した。
「階段を使う時間も惜しい! 最短経路で行きましょう」
リヒトが叫び、以前同じビルに侵入した記憶を辿りエレベーターホールを目指す。
破壊力の大きな近接武器を持つファイターやグラップラー達がエレベーターの扉を破り、10名はシャフト内のワイヤーロープを伝い降下。リヒトが靴装備の風火輪で2階ドアを内側から蹴破った。
「エレベータを待つ時間も惜しい? せっかちだね、能力者って」
B1フロアへ突入、各部屋の調査にあたろうとした傭兵達に、正面の廊下奥から小馬鹿にしたような声がかけられた。
そこには青服の少年――以前このビルに潜入した能力者達の一部が遭遇した強化人間「マルコ」がサーベルとプロトン拳銃を携え立っていた。
その背後に、背中にフェザー砲を背負ったイヌ型の半機械化キメラ数匹を従えている。
かつて海上EPプラントの戦闘に使用され、後にバグア側の呼称「ヤークトフント」と判明した改造キメラだ。
「子供好きなお世話の人、子供に優しいワンちゃん‥‥にはどうひっくり返っても見えないな。全く、ロクなもんじゃない!」
拓那の言葉に、少年の整った顔が微笑む。
「懲りないねえ。また泥棒猫みたいに潜り込んでくるなんて‥‥もっとも、ここには君らが考えてるようなお宝なんてないよ? 全くの無駄足だってことさ」
「無駄足? 何もわかっちゃいませんね!」
レールズが叫び返した。
「俺達の目的は、ここに監禁されている罪もない子供達を救い出す事です!」
「何のために?」
マルコの顔が意地悪く歪む。
「美談を演出してUPCの宣伝材料にでもするつもり? それこそ建前だけの偽善でしょ」
「同胞は絶対見捨てない。建前だろうかなんだろうか、それだけで何千何万もの兵士が勇敢に戦える! 数え切れない声援を背にな! 決して無駄なんかじゃない‥‥俺達人類はそういう誇り高い生き物だ! 覚えとけ!!」
「覚える必要もないよ‥‥行けっ!」
マルコの合図と共に、ヤークトフント達が一斉にフェザー砲を発射する。さらにマルコ自身もプロトン銃の光線を容赦なく浴びせてきた。
「やれやれ。これだから餓鬼は嫌いなんだ」
ぼやきながらも、イレーネがアサルトライフルで応戦する。
レールズもまた閃光手榴弾を投擲。激しい光の炸裂が僅かの間、機械化キメラのカメラアイを狂わせ、マルコの目を眩ます。
「皆さん、今のうちに!」
「ここはお任せするのですよ」
レールズの言葉にアイリスが答え、「足止め役」であるα1チームの2人を残し、残りの能力者達はすぐ手近の部屋に飛び込んだ。
「何の真似? そこは行き止まりだよ」
「発想が貧困だな。悪魔の部隊か何か知らんが、所詮は尻の青い餓鬼。大人の知恵には敵わないということだ」
哀れむような苦笑を浮かべ、イレーネが身近に迫ったキメラの右目を撃ち抜く。
「嘗めるな! 僕らNDFは単なる強化人間じゃない。シモン様直々にグレ――」
マルコはそこで口をつぐんだ。危うくイレーネの誘導尋問にかかりそうになったのを悟ったらしい。
「もういいよ。おまえらみんな‥‥この場で消えろ!」
一方、部屋の中に飛び込んだ傭兵達はそれぞれ攻撃力の高い近接兵装を掘削機代わりに壁の一角を破壊にかかった。α1が時間を稼いでる間に壁に穴を穿ち、強引に道を啓こうという作戦である。
その間、美緒、なでしこ、アイリスは部屋の中で目についたメモリーチップやディスク等の記録媒体を手当たり次第に回収する。
1分足らずで壁に大人が通れるほどの穴が開き、一同はマルコとキメラ群を迂回する形でB1フロアを突き進んだ。
そんな風に突破した幾つか目の室内で、彼らは奇妙な「機械」を目撃した。
外観は傭兵達がKV戦訓練に使うヴァーチャル装置のブースに似ている。ただし異様なのは、訓練ブースならばシートに座った両手両足にあたる部分に金属製の手枷・足枷が装着されていることだが。
「心理改造‥‥この装置を使って、子供達に『恐怖のイメージ』をフラッシュバックさせていたのか?」
カメル関連の過去報告書を思い起こし、レティが装置を覗き込む。手枷と足枷には、被験体の子供がもがいた痕跡らしい乾いた血糊がどす黒くこびりついていた。
「酷いな‥‥まるで拷問装置だ」
「こんな事をした博士は、後で絶対やっつけてやるです!」
普段はのんびりした美緒も憤りを隠せない。
一通りB1フロアを調べ終えたが、子供達の姿はなかった。
傭兵達が階段を降り、B2フロアに降りた、その直後――。
廊下の方から長く伸びた赤いリボンが、彼らに襲いかかった。
「あ〜、よかった。これで奴らの召使いにならずにすんだわぁ♪」
やはりヤークトフントの群れを従えた黒衣の少女――結麻・メイ。
意味不明の発言だが、彼女はマルコと違い、傭兵達が生身で乗り込んで来ることを予想していたらしい。
一瞬の躊躇いの後、最初に口を開いたのはなでしこだった。
「この場は見逃して頂けませんでしょうか。そして退いて頂けませんでしょうか」
「ま、あたし的にはどーでもいいんだけど‥‥こっちもシモン様から警備を任された立場だしね。『ハイどうぞ』ってワケにはいかないの」
頭の両脇から伸びたリボンナイフが蛇の様に宙でうねり、プロトン拳銃の銃口を構える。
「で、誰が遊んでくれるの? いいのよぉ、いっそまとめてかかってきても♪」
「‥‥」
α2チーム。リヒトと紫が、無言で1歩前に進み出る。
「紫‥‥前にいったわよね?『戦場じゃ手加減しない』って」
リボンナイフとプロトン光線、そしてキメラのフェザー砲が傭兵達めがけ殺到する。
先刻と同様、足止めに2人を残し、救出担当のβ班6名は手近の部屋に飛び込んだ。
(「くっ‥‥思った通り厄介ですね。この場での戦闘は」)
鞭と刃物を兼ねたしなやかなバグア製特殊兵器をライガークローで回避しつつ、リヒトは唇を噛んだ。
紫も月詠と扇盾を振るってリボンナイフの先端を捌くが、逃げ場の少ない地下通路の奥から、プロトン銃とフェザー砲の光線が容赦なく降り注ぐ。
知覚兵器の狙撃を避けるため壁際に寄り、飛びかかってくるキメラに瞬即撃で斬りつけた。
「貴女は確かに俺達よりも強い‥‥しかし、そこに信念は宿っているでしょうか?」
キメラの1匹を風火輪で蹴り飛ばし、リヒトが問いかけた。
「当然でしょ! 全てはシモン様の御心のまま――そのためにあたしは今、ここに居るんだから!」
リヒトは武器を天剣ウラノスに持ち替えた。
直後、限界突破を発動。突進と見せかけて瞬天速で斜めに飛び、横から剣撃を仕掛ける。
知覚剣の斬撃を間一髪で回避するメイ。だがリボンナイフの片方を切断され、悔しげに舌打ちした。
「アジフに伝えなさい。信念無き力に俺達は絶対屈しないことを」
「あたしの知ったこっちゃないわ! あんなジジイ!」
自身障壁で防御を高めた紫は、リボンナイフの攻撃が途絶えた間隙をついて素早く駆け出した。
「私が隙を作ります。リヒトさんは暫く後ろへ」
「お願いします」
入れ替わるように前衛に出る紫。比較的ダメージの少ないキメラのフェザー砲は無視し、毒蛇のごとく襲い来るリボンナイフのみを盾扇で捌きながら一歩一歩、前進する。
「来るなぁーーっ!」
怒りで顔を歪めたメイがプロトン砲を立て続けに発射。
「‥‥うっ」
ヤークトフントの光線より遙かに高威力のプロトン光線を腹に受け、一瞬前のめりになった紫の体を、細長く伸びたリボンナイフが幾重にも縛り上げた。
「武器を置いて後ろに下がれ! この女の頭、ぶっ飛ばすわよ!」
プロトン銃の銃口を紫に突きつけ、メイが怒鳴る。
「紫!?」
「いいんです、リヒトさん‥‥この子のいう通りに」
「‥‥」
やむなく武装解除し、そのまま数歩後退するリヒト。
その姿を確かめた後、メイは改めて紫に視線を戻した。
「で‥‥目当てはアジフの暗殺? それとも、UPCがあたしの首に賞金でもかけてくれたのかしら?」
「いえ、どちらでも。ただ、こちらで預かって頂いているお子様達をお迎えに上がっただけです」
「‥‥やっぱり‥‥」
呟くようなメイの声を聞き、般若面の下で紫の口許が微笑んだ。
相変わらず少女の赤い瞳は憎々しげにつり上がっているが、そこに本当の「殺意」がないことに気づいていたからだ。
「あんた達、何考えてんのよ? ここは――」
「ええ、綺麗事など一切通用しない戦場です。だからこそ‥‥たまには綺麗事も必要だとは思いませんか?」
女の体を縛り上げていたリボンナイフの力が、僅かに緩む。
後ろから見ていたリヒトの目からは、あたかも紫が自力で縛めを振り解いたように見えた。
自由の身になった紫はメイに向い盾扇を投げつけた。
「――!」
咄嗟にプロトン銃を振り、鉄扇を払いのけるメイ。一瞬がら空きになった少女の顔面めがけ、すかさず月詠で刺突をかける。
狙いは僅かに逸れた。いや、紫が故意に逸らした。
瞬刻、2人の体がすれ違う。
「確かに‥‥渡し、ましたよ」
「‥‥?」
床と壁を器用に蹴り、小柄なメイの体が後方に飛び退いた。
「前に言ってたわね‥‥あたしの事が知りたいって」
「はい」
「東南の廊下の突き当たり‥‥そこに行けば会えるわよ。『昔のあたし』に」
いうなりメイは踵を返し、生き残りのヤークトフントを殿に廊下の彼方へ走り去っていった。
「大丈夫ですか!?」
拾い上げた武器を再び身につけながら、リヒトが駆け寄った。
「ご心配なく。それより、無線でβ班の皆さんにお伝え願えますか?」
紫は和服の乱れを整え、リヒトに向き直った。
「子供達の居場所が判りました」
レールズが繰り出すセリアティスの刺突をマルコがサーベルで捌き、イレーネのライフルが張る弾幕がヤークトフントの突進を食い止める。
B1Fの廊下ではα1チームと強化人間の死闘が続いていた。
フェンシングの様な構えで反撃してきたマルコの刺突を今度はレールズが槍で受け流し、その勢いで流し斬りによるカウンターを決める。
マルコの青い制服が避け、赤い血が滲み出した。
「‥‥僕の服を汚したね」
怒りでも憎悪でもない。ただ混じりけのない殺意に碧眼を輝かせ、何事もなかったかの様にサーベルで斬りかかってくる少年の姿に、レールズは今まで戦った強化人間やヨリシロとは何処か違う、まるで人型キメラを相手にしている様な薄気味悪さを感じた。
『聞こえる? どうやら賭けはあたしの勝ちね』
インカムを通し、マルコの耳にメイの声が飛び込んだ。
「そんな話は後にしてくれないか? 今それどころじゃない」
『大事な話よ。こうして奴らが乗り込んできたからには――UPCが本気でカメルを潰す気になったってこと。ニューギニアから来たKVは囮ね。この後、きっと本命の空爆が来るわよ』
「なるほど。なら、どちらの予想も当り‥‥この賭けは勝ち負けなしだね」
『そーゆーと思ったわ‥‥とにかく上の兵隊達にも指示して、あんたも先に脱出なさい。後はあたしが奴らの相手をするから』
「お言葉に甘えさせてもらおう」
足元に打ち込まれたレールズの槍を飛び退きながらかわすと、マルコは身を翻し、配下のキメラに足止めを命じて廊下の奥へと駆け去っていった。
「いったいどうしたんでしょうか?」
逃げ遅れたヤークトフントにとどめを刺し、訝しげにレールズが呟く。
「ふむ。‥‥奴ら、ひょっとしたら此方の空爆作戦に気づいたのかも知れん」
イレーネはライフルをリロードし、時刻を確かめる。
既に潜入から15分経過している。
「残り時間が少ない。我々も救出班の仲間を追いましょう」
レールズがいい、2人はエレベーターのワイヤーロープを伝ってB2Fを目指した。
●世界に拒まれし者達
α2から無線連絡を受け、B2フロアの東南廊下に向かったβ班6名は奥の突き当たりに佇むメイの姿を目にして立ち止まった。
配下のキメラも連れず、プロトン銃を手にした片手は下に降ろしている。
「こんな所までわざわざご苦労様。あんた達の捜し物はそこの部屋の中にいるわよ」
手前の壁で半開きになった部屋のドアを指さす。
「‥‥」
月詠を構えた誠が、慎重にメイの前まで進んだ。
「この子は僕が見張ってます‥‥皆さんは、部屋の中を」
後に続く5人も、油断無く各々の武器を構えながら部屋の中に踏み込んでいく。
そこは白い壁に囲まれ、幾つものベッドが並ぶ病室の様な場所だった。ただし広さでいえば、普通の病院の大部屋より遙かに広い。
空きベッドもあるが、幾つかのベッドには10歳から14、5までの子供達があるいはシーツにくるまって横たわり、あるいはベッドに腰掛けぼんやり宙を見上げていた。
人数は、男女合わせて22名。
「‥‥これで全部か?」
鋭い声で拓那が問い質す。
「その様ね。この施設のことは、あたしもつい最近知らされたからよく判んないけど」
廊下に立ったままメイが答えた。
「この子達に何をやった!?」
「多分、あたしがされたのと同じ事じゃない? もっともバグアの装置を使ってるから、苦痛はもっと大きかったかもしれないけど」
どこか遠くを見る目でメイは続ける。
「大抵の子供は途中で『壊れちゃう』けど‥‥いるのよね。何百人かに1人、『恐怖』そのものを自分の中に取り込んで、全く新しい人格を作る子供が」
さらりとしたその言葉に、傭兵達は戦慄した。
この基地に監禁されていた子供達は「NDF計画」被験体のごく一部に過ぎなかったのだ。
「貴様ら、何てひどいことを‥‥!」
「ひどい? この子達の中にはキメラ災害の被害者もいるけど、大半は同じ人間に家族を殺された孤児よ? 一般人でさえまともに生きていくのが難しいこの世界で、誰が彼らの面倒を見るっていうの? エミタ適性者は千人に1人。でもNDFの『素体』は、それこそ世界中に溢れてる‥‥誰の助けも受けられずにね。だからこの子達を連れて行かれたって、アジフは何も困りゃしないわ」
「今の貴方は恋する乙女ではない‥‥それでは私に勝てませんよ!」
メイに指を突きつけ、美緒がビシっという。
「あの博士はシモン(gz0121)さんの為になりません」
ほんの僅か、メイは気まずそうに目を伏せる。
が、すぐ視線を戻しニヤリと笑った。
「ついでだから教えてあげる。この子達はまだ実験途中だから‥‥強化人間には改造されてないわ。治療次第で治るかもね? もっとも、それまでにどれだけの費用と人手が要るか知らないけど」
それだけ言い残すとクルリと後ろを向き、誠が止めるのも聞かず廊下の奥へと歩き出す。突き当たりと思われた壁の一部がスライドし、メイの後ろ姿を呑み込むと同時に再び閉ざされた。
「隠し扉‥‥?」
「放っておけ。それより子供達だ」
レティが誠を促し、傭兵達は各々ベッド上の子供達に歩み寄った。
「ひっ‥‥!?」
怯えきって身を縮める男の子の1人に、なでしこが優しく語りかける。
「怖がらないでください。わたくし達は、あなた方の味方です」
身振り手振りも交え助けに来た事を説明し、持参したお菓子をそっと口の中に入れてやる。
「‥‥甘い‥‥」
それまでよほど味気ない病人食しか与えられていなかったのか、少年は怖がるのも忘れて呆然とした。
その傍らで、美緒がベッドで震えていた少女を抱き起こし目線を合わせると、
「もう大丈夫。助けに来ましたよ」
そっと頭を撫でてやる。
アイリスは自分より背の高い男の子をギュッと抱き締めていた。
「もう、大丈夫なのですよ。アイリスたちが、ちゃんと守るですから」
ベッドに腰掛けた少年が、近づいてくる拓那に虚ろな視線を向けた。
「‥‥誰?」
「君達を助けに来た正義の味方さ」
「嘘だ‥‥そんなの‥‥」
再び顔を背けようとした少年の前で、拓那は覚醒を解いて普段のまったりした表情に戻る。
「はは、ヒーローなんておとぎ話の中だけだと思ってた? ところが、ちゃんと居るんだな。今ここに!」
「‥‥」
信じられない――といった表情で拓那を見上げた少年は、間もなくワナワナ震えながら大粒の涙を流した。
レティは年長の子供達を集め、輸送機の機内で作成したメモを1枚ずつ配った。
それは基地からの脱出経路、脱出の際の注意点や警戒方法を分かりやすく記した簡易マニュアル。子供でも理解し易い様にイラストを多用している。
「此処から逃げ出すのに君達の協力が必要だ。お願いだから手伝って欲しい。隣の仲間を支えてやってくれ」
初めはまた「実験室」に連れて行かれると怯えていた子供達も、傭兵達がお菓子や飲み物を配り、誠心誠意を込めた説得を続けるうち少しずつ耳を傾け始め、α班の4名が合流した頃には、どうにか全員が部屋から出ることに同意していた。
残り時間、あと10分足らず。
β1、β2の救出班はそれぞれ11名ずつ子供の護衛を担当し、α班も支援しての脱出行が始まった。元来た道を戻りつつ、要所要所に置き土産とばかり時限爆弾を仕掛けていく。
ヤークトフントはメイとマルコが連れ去ったらしく姿を消していたが、その代り地下フロアの至る所にトラップとして隠されていた小型キメラが襲いかかってくる。
「傷1つつけさせはしないっ!」
「絶対に、無事に逃がしてあげるのですよ」
レティの紅炎がソニックブームで行く手の小型キメラを蹴散らし、アイリスの小銃シエルクラインが炎を吐く。
拓那はどうしても動けない子供2人を背中と片腕に抱え、空いた手で構えた照明銃をキメラの群に撃ち込み仲間達の戦いを援護した。
●脱出
「右集団侵入。地雷起爆」
叢雲の指示に従い遠隔操作のクレイモア地雷が炸裂、防衛ラインの突破を図る洗脳兵達を指向性爆発が消し飛ばした。
「3班、射撃継続しつつ後退。‥‥掃射します、伏せて!」
正規軍ライフル分隊を指揮しつつ、叢雲自身も【OR】複合兵装「罪人の十字架」SMGで貫通弾の弾幕を形成、GPMGとの十字砲火で突撃してくる洗脳兵の一団をなぎ倒す。
屍の山を築きながらも無謀な突撃を繰り返していた敵兵の動きが不意に止まり、なぜか手近の軍用車両に乗り込むや次々と基地から脱出していった。
「‥‥?」
状況を確かめるためいったん攻撃中止命令を出したちょうどその時、司令部ビルから二手に分かれて子供達を引き連れた救出班が姿を現わした。
その先頭で、小さな子供達を保母さんのごとく引率した美緒がにこやかに手を振っている。
「25分、ジャスト‥‥ぎりぎりセーフですね」
安堵のため息をつき、叢雲は自ら指揮していた正規軍部隊にも撤収の指示を出した。
基地の周囲で戦っていたHFKのゲリラ部隊も密林に後退する。
その最後列で、野戦服に顎髭の男――ディアゴが、傭兵達に向け親指を立てた拳を高々と挙げていた。
子供達、傭兵、そして最後まで周辺の警戒に当っていた正規軍兵が乗り込み、2機のエピメーテウスが大地から浮上する。
ローターを水平に倒し高速飛行モードに移行したとき、ちょうどインドネシア方面から飛来したフレア弾搭載の空爆KV部隊とすれ違った。
脱出用の地下坑道を早足で歩いていたメイは、坑道を揺るがす爆音と震動に立ち止まった。
「始まったわね。あいつらも脱出できたのかしら‥‥って、何であたしが心配すんのよ!」
ふと背中に違和感を感じ手を伸ばすと、襟首にクリップで留められたプラスチックケースの存在に気づく。
ケースを開けると、そこには先日キム・ウォンジンの墓参の際に元分校の生徒達と撮った記念写真が丸めて収められていた。
「‥‥バカ‥‥もう、何もかも手遅れなのに‥‥」
●宣戦布告
同日夕刻、カメル首都ザンパ・大統領官邸前。
バルコニーに現れた国家元首・ゲラン元帥はUPC軍によるセルベルク空爆を激しく非難。中立政策の破棄、及びUPC加盟諸国への宣戦を布告した。
官邸前に集まった群衆、いやカメル軍兵士までが言葉を失った。人口2百万足らずのこの島国が、全世界を相手に戦おうというのだ。
続いて姿を見せた人物を見上げ、群衆から驚愕の声が上がった。
「私はカメル駐留バグア軍司令官、シモンである」
修復中のステアーを置き、単身HWで帰国したのだろう。
わずか3分ほどの演説でシモンはカメルとの条約に基づくバグア軍の出動を宣言。
「私は配下の軍団に東南アジア全域に渡る無制限攻撃を命じた。アジアの地図は全く塗替えられることになろう」
●L・H〜EAISオフィス
「どうだ? 傭兵達の持ち帰った媒体から、何か判ったか?」
「どうもプロテクトのかかったデータが多くて‥‥ただ、現段階で実戦化されたNDF隊員のリストは判明しました」
NDF−01:マルコ(14歳、男)
NDF−02:ルカ(13歳、女)
NDF−03:トマス(12歳、男)
NDF−04:マティア(10歳、女)
「この4人を生み出すために、何人の子供が犠牲になったのだろうな‥‥」
出力されたリストを眺め、エメリッヒ中佐は憂鬱そうに呟いた。
「それと、もう一つ気になるものが‥‥」
「何だ?」
PCのモニターに映し出されたのは、何かの兵器らしい青写真だった。
書き込まれた言葉は異星の言語らしく全く理解不能だが、そこに描かれた図面には、中佐もその部下も、確かに見覚えがあった。
「‥‥ラインホールド!?」
<続く>