タイトル:【JB】祝福の花をマスター:対馬正治

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 22 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/10 00:56

●オープニング本文


●L・H市内〜某レストラン
「えーっ! お二人とも、あの島でご結婚されるんですかぁ!?」
 食事の手を止め、ヒマリア・ジュピトル(gz0029)は思わず声を上げていた。
 ULTオペレーターの仕事は本日非番。ちょうど弟テミストの彼女・ミーティナの兄で傭兵のレドリックも久しぶりにL・Hに戻っているというので、その晩は「みんなで楽しもう」と誘い合わせてのディナーの席上。
 だが、そこにはもう1人のゲストが加わっていた。
 長く降ろした黒髪を背後で結わえ、今時珍しい「大和撫子」の言葉がぴったりあてはまる和服姿の美少女。
 能力者のファイターにして、古流棒術宗家の娘である十神榛名(とおがみ・はるな)だ。

 つい先日、レドリックと榛名は九州の激戦地帯で作戦行動中、廃墟の街でバグア軍に包囲されたまま孤立するという危機に見舞われたが、救出に向かった他の傭兵達の手で間一髪の所を助け出されている。
 そして、その救出依頼をオペレーターとして担当したのがヒマリア自身だった。

「あれからどーなってたか、気になってたんですけど‥‥うわ〜、そんな仲になってたんですかー?」
「いや〜。俺も心配で、あれから毎日彼女の病室に見舞いに行ってたんだがよ。ま、色々アレがアレして‥‥ま、いいじゃねーか? ガハハハ」
 分厚いステーキを口に放り込みながら、ガラにもなく照れる巨漢のレドリック。
 榛名はといえば、頬をポッと赤く染め、和服の袖で口許を隠してこちらも照れたように俯いている。
「‥‥ミーティナちゃんの方はいいの?」
「うん。新しいお義姉ちゃんができて、嬉しい‥‥」
 聞けば榛名は肩書きこそ傭兵のままだが、今後は祖父がL・Hで開いている十神流棒術道場の師範代となり、若手傭兵や正規軍兵士の体術訓練に協力していくという。
 今は学園の寮で1人暮しのミーティナも、いずれそちらに引越し同居するという話だった。
「そっかあ‥‥じゃあレドリックさんも安心だね。これまでも依頼で島を留守にすることが多かったし」
 それから隣に座るテミストの肩をポンと叩き、
「あんたもこれから大変ねー。ミーティナちゃん泣かせたら、もうタダじゃ済まないわよ? 元プロレスラーと棒術の達人が両方敵になるんだから」
「――むぐっ!?」
 食べかけのピラフを喉に詰まらせ、テミストは慌ててコップのお冷やを飲んだ。
(「縁起でもないこといわないでよっ、姉さん!」)
「ハッハッハ。安心しな、妹の彼氏に手ぇ上げる様な真似はしねーから」
 豪快に笑うレドリックだが、ふと真顔になると、
「で、まあ結婚式の方にもぜひ来て欲しいんだが」
「式っていうと‥‥やっぱりあの?」
「ああ。いま伯爵がスポンサーになって会場建設が進んでるっていう、例の無人島さ。次の大規模作戦も近いし、『善は急げ』ってな」

●L・H軍港〜空母「サラスワティ」艦内
「‥‥本当に、いいの‥‥?」
「気にするでない。当日は、ちょうど兄上も伯爵に挨拶するため本国から来るという話じゃしの」
 おずおずと尋ねるマリア・クールマ(gz0092)に向かい、プリネア王女にして「サラスワティ」艦長のラクスミ・ファラーム(gz0031)は鷹揚に微笑んだ。
「本当にすまないねぇ。こんな立派な船をタダで使わせてもらえるなんて」
 基準排水量3万t。「軽空母」とはいえサイズ的には20世紀の戦艦にも匹敵する大型艦の艦長室を目を丸くして見回しながら、エプロン姿の女性がいった。
 マリアが非番の日にバイトとして働くL・Hの花屋「ヴィオラ」の女店主・ローザである。
「この子から話を聞いた時は、さすがに『まさか』って思ったんだけどねぇ」
 L・H近海の無人島をまるごと結婚式場に仕立て上げ、能力者達の集団結婚式を行おうという前代未聞の「ジェーンブライド作戦」。
 すでに式場や関連施設もほぼ完成し、現地では最後の飾り付けが急ピッチで進んでいる。
 さて、結婚式といえば花嫁のブーケから会場を飾る記念の花輪まで花が付き物であるが、ご多分にもれず「ヴィオラ」にも大量の注文が来ていた。店主にとっては嬉しい悲鳴を上げたいところであるが、あまりに量が多すぎて数の限られた店員やパート、バイトではとても人手が足りない。さりとて運送業者を雇えば却って赤字となりかねない。
 困り果てたローザを見かねたマリアが、「うちの艦(ふね)が使えるかも‥‥」と申し出たのだ。
 正規軍の艦艇ならばまずあり得ない話だが、「サラスワティ」の場合は義勇兵としてL・Hに滞在している立場にあり、また今回の【JB】作戦についてはカプロイア家と付き合いの深いプリネア王国のファラーム王家も全面的に賛同を示している。
 そこで合同結婚式が挙行される当日、「サラスワティ」が輸送船として無人島まで花を配達する運びとなったのだ。
「あのう、殿下‥‥ちょっとよろしいですか?」
 ラクスミの背後で、侍従武官にして同艦副長のシンハ中佐が小声で囁いた。
「花の運搬はいいとしても、人手は如何します? まあ非番の水兵を当ててもよろしいですが‥‥」
「うーむ。近々北米での大規模作戦もあるし‥‥兵士達にはなるべく休養させてやりたいものじゃのう」
 僅かに考え込んだラクスミであったが、やがてポンと手を打ち。
「ULTに依頼を出そう。能力者達の中には、その足で合同結婚式を見学したい者もいるであろうからな」
「あ、それ面白そう! ボクも混ぜて、混ぜてーっ♪」
 艦長室のソファの上、ちょうど偵察機パイロットの李兄妹と一緒にジャンボサイズのチョコレートパフェをパクついていた正規軍軍曹、チェラル・ウィリン(gz0027)があっけらかんとした声で手を挙げた。
「そなた、いつからそこに!? ‥‥というか軍務は良いのか?」
「こないだ九州戦線から戻ってきたばかりだよ? 実はボクも今度の大規模作戦で招集がかかってるから、それまではお休みなんだ」
 口許をチョコとクリームでベタベタにしたまま、チェラルはニカっと笑った。

●参加者一覧

/ 榊 兵衛(ga0388) / 御坂 美緒(ga0466) / クラリッサ・メディスン(ga0853) / 新条 拓那(ga1294) / リヒト・グラオベン(ga2826) / 漸 王零(ga2930) / 寿 源次(ga3427) / 王 憐華(ga4039) / 諫早 清見(ga4915) / 勇姫 凛(ga5063) / 井出 一真(ga6977) / リュウセイ(ga8181) / 百地・悠季(ga8270) / 伊達・正風(ga8681) / ナティス・レーヴェル(ga8800) / 狭間 久志(ga9021) / 赤宮 リア(ga9958) / 野之垣・亜希穂(gb0516) / 小鳥遊真白(gb1959) / 美環 響(gb2863) / ソフィリア・エクセル(gb4220) / 結城悠璃(gb6689

●リプレイ本文

●L・H〜軍港
「いやー、よくこんなに綺麗な花を集めたね〜。マリアちゃんの発案なんだって? 凄いじゃん♪ うん、バッチリ届けるよ。任しといて!」
「うん。‥‥よろしく‥‥」
 花屋「ヴィオラ」の店員、そして依頼で集まった傭兵達の手で次々と空母「サラスワティ」の甲板上へ運び込まれる花束や花輪の量に驚きつつも、その華やかさに感心する新条 拓那(ga1294)の言葉に、今日は花屋の店員服に前掛け姿のマリア・クールマ(gz0092)がはにかむように頷いた。
「たまたまマリアさんのバイト先に遊びに行ったら話を聞きましてね。俺もお手伝いすることにしたんですよ」
 と、作業着に身を包んだ井出 一真(ga6977)も笑う。
「例の合同結婚式場を飾る花関係の注文も沢山出て、商品を大量に運ぶ必要があるとは聞いてたけど‥‥まさか空母を1隻使うなんて、思いっきり気前よくて豪勢よね」
 ラクスミ・ファラーム(gz0031)の依頼に応じて参加した1人、百地・悠季(ga8270)も感嘆した様子で空母の艦上を見回す。
「とはいえ輸送手段ばかりじゃなく、細かい人手も必要よね。こういう事には」
 彼女もまた作業用のツナギ服の上半身を脱いで腰に巻き、上はオレンジのランニング、さらに合金手袋もはめて力仕事もOKの出で立ちだ。
「おめでたい日ですからね。俺もぜひ協力しましょう」
 高く積み上げたダンボール箱の山を軽々運ぶリヒト・グラオベン(ga2826)の傍らでは、
「チェラル、ちょっとそっち持って‥‥一気に籠ごと運んじゃうから!」
 特大の籠一杯に盛られた花飾りをチェラル・ウィリン(gz0027)と二人して運ぶ勇姫 凛(ga5063)の姿もあった。

 伯爵の肝煎りで始まった「ジェーンブライド作戦」もいよいよ大詰め。
 かつて名も無き無人島だったその島は能力者達の献身的な協力によりチャペルや式場、宴会ホールからヘリポート、リゾートホテルまで完備した「巨大な結婚式場」に変貌し、その名も『ジューンブライド・エクセレント・デリシャス・レジャーランド』略してJEDL(イェーデル)島。
 本日、そのJEDL島で近傍のL・Hから来島した何組もの能力者カップルが、一斉に結婚式を挙げようというのだ。
 日本の梅雨シーズンも太平洋の南寄りに位置するここL・Hには関係なく、天気は抜けるような初夏の快晴。文字通りジェーンブライドの祝典を挙げ新たな人生を歩み始めるカップル達にとって、これほど相応しい日和もないだろう。

 友人知己の結婚式に参列するついでとして、今回の依頼を受けた者も多かった。
「まさかまさか。あの二人が急接近してるとは思いもしなかった。榛名嬢を押し切るなんてレドリックの奴、中々どうしてやるじゃないか」
 寿 源次(ga3427)の場合、ついひと月ほど前九州の戦場で救出した2人、十神榛名とレドリック・ゴーディッシュが電撃結婚すると聞いて駆けつけきた。ちょうど彼の友人である諫早 清見(ga4915)も久しく付き合っていた小鳥遊真白(gb1959)と祝言を挙げるというから、めでたさも2倍というところか。
「今回の機会に便乗して、俺も亜希穂さんと結婚式を挙げますので、宜しければ参列をお願いします」
 作業前に王女に謁見した伊達・正風(ga8681)は、結婚相手の野之垣・亜希穂(gb0516)を紹介した。
「おお、それはめでたいのう。後ほど仕事が終わったら、わらわたちもぜひお招きに預かろう」

「榛名が結婚するとはな‥‥これは十神先生もさぞ喜んで居られることだろう。俺も祝いくらい言ってやらなくては二人に失礼だな」
 装飾用の花を詰めたダンボール箱を運びつつ、榊兵衛(ga0388)も感慨深げに呟く。
「榛名さんが結婚されるというのなら、お祝いに行かなくてはなりませんわね」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)がにこやかにいった。
 そもそも担当オペレーターのヒマリア・ジュピトル(gz0029)が出した依頼を本部で見つけ、恋人の兵衛を誘ったのは彼女だ。
 空母の飛行甲板上で慌ただしく立ち働く傭兵や花屋店員に混じり、なぜか本日は非番のプリネア軍水兵達の姿も見えた。
「はて? あの者達には、確か休暇を出したはずじゃが‥‥」
「その通りですが‥‥『王女殿下自ら協賛するイベントのお力になれぬなどプリネア軍人の恥』と、皆自主的に休暇を返上して手伝ってくれているのです」
 首を傾げるラクスミに、副長のシンハ中佐が説明する。
「そうか‥‥わらわは良い部下を持った。‥‥ううっ」
 思わず感涙し目許を抑えるラクスミ。
 ‥‥少し違った。
 王女一行から遠く離れた甲板の端っこに、「サラスワティ福利厚生組合」と書かれた腕章を付けた逞しい水兵達が輪になって集まっている。
 その中心で、
「皆さん、これは好機なのです!」
 組合長の御坂 美緒(ga0466)が演説していた。
「花見大会は残念ながら流れましたが‥‥ここで組合員が休日返上で積極的に働き、大規模作戦を乗り越えた暁には、『第二回水泳大会 ぽろりもあるよ☆』の開催をお願い出来るのです♪」
 おおおぉーー‥‥と低いどよめきが男達の間から上がる。
「マリアさんやチェラルさんのスク水姿の為に頑張るですよ♪」
「――組合長ッ!」
 筋骨隆々の腕に刺青を彫り込んだ水兵の1人が挙手し、直立不動の姿勢で問い質した。
「すすスク水は‥‥し、白でありましょうか!? それとも、こ、紺にゼッケン‥‥」
「お望みのままなのです♪」
 雷鳴のごとき拍手と歓声。なぜか目を血走らせた水兵数十名は甲板をダッシュで走り出すや、猛然と運搬作業の手伝いを開始した。
 いやちょっと動機としては如何なものか――という気がしないでもないが、ともあれ能力者やプリネア兵達の働きにより、普通に運べば丸一日かかりそうな大量のフラワー関係の発注商品は瞬く間に空母への積み込みを完了。
 かくして「サラスワティ」は錨を上げL・Hを出航、婚礼の島を目指して航海を始めた。

●JEDL島近海
 クルーザー船程度なら停泊できるヨットハーバーも備えたJEDL島だが、さすがに排水量3万t超の空母が入港できるような施設はまだ完成していない。
 そこで「サラスワティ」は島のすぐ沖合に投錨し、入荷の花は空母が搭載する対潜哨戒ヘリ(サイレントキラー)6機でピストン輸送する手筈となっていた。パイロットは傭兵達が独自に決めたローテーションに従って交替制だ。友人の式典に参列する傭兵も、その際便乗させてもらえる事になっている。

「うひょー、中々の乗り心地じゃねぇかよ」
 ヘリの一番機を操縦するリュウセイ(ga8181)が、普段のKVとはまた違うフィーリングに歓声を上げた。
「サイレントキラーは傭兵だと触る機会がないから‥‥勉強になりますねえ」
 甲板上で待機するヘリの整備や点検を手伝いながら、一真は思わず顔を綻ばせた。
 元々は変形機構を備え「初のヘリ型KV」としてMSIから販売されるはずのサイレントキラーであったが、諸般の事情で計画変更、現在は多目的ヘリとして専ら正規軍に配備されている。
 それでも根っからのKV好きが高じて整備士の資格まで取った一真は、興味津々といった面持ちで点検がてら内部のメカニックを見回した。この後自らパイロットを務めるのはいうまでもない。
 本来輸送ヘリではない同機は小型のコンテナを吊下げ花関連の商品を空輸するわけだが、コンテナへの搬入を手伝いながらその光景を眺めていた拓那はふと何事か思いついたらしく、甲板上で作業を見守るラクスミに声を掛けた。
「王女〜、お忙しいところすいません。ちょっと‥‥」
「何じゃ?」
「あのヘリ、花の空輸が終わったらしばらく空くわけですよね?」
「まあ、そうじゃが」
「実はご相談が――」
 と小声で耳打ちする。
 聞き終えたラクスミもニヤリと笑い、
「ほほう、面白い。‥‥許可しよう。伯爵の方へはわらわが話を通すゆえ、詳しい手筈は本艦の整備班と打ち合わせるがよい」
「さすが、話が分かるなぁ♪ はい、OK貰ったからには飛びっきりのやりますよー!」
 嬉々として走り出した拓那は、早速空母の整備兵や一真も交えて何やら相談を開始した。

●祝典の島
 空母のヘリに分乗し、結婚式場前のヘリポートに降り立った傭兵達は、コンテナから取り出した大量の花飾りをその足で式場へと運び、式場スタッフや「ヴィオラ」店長ローザのアドバイスも受けつつ、会場の飾り付けを開始した。
 その中には、榛名達と同じく本日この式場で結婚式を挙げるカップルもいる。
「しかし‥‥人の人生とはわからんものだな‥‥まさかこの様な形で式を挙げるとは‥‥」
 その1人、漸 王零(ga2930)はダンボールの運搬を手伝いつつ、ふと感慨にとらわれた。
 傍らでは彼の本日の結婚相手、赤宮 リア(ga9958)が王 憐華(ga4039)、狭間 久志(ga9021)、ナティス・レーヴェル(ga8800)、ソフィリア・エクセル(gb4220)、リュウセイらと談笑しつつ、楽しげに記念の花輪を並べたり、ホール内のテーブルにフラワーアレンジメントを置いたりしている。
「1年前にLHに来た時は、まさか結婚するなんて思ってもみなかったな。いやはや、月並みだけど、おめでとう」
 久志は同期傭兵でもあるリアに、一足早い祝福の言葉を送った。
「結婚‥‥ですか‥‥私も遂に人の妻になるのですねぇ♪」
 胸に手を当て、改めて幸福を噛みしめるように目を閉じるリア。
「個人的にはちょっと複雑ですけど、めでたいことに変わりはありませんね」
 そういって微笑む憐華の服装は、去年より成長した胸でも着れるように胸の所を大胆に開いた形に手直しした、ちょっとアダルティな【OR】戦闘用特注正装巫女装束である。
「しかし、何組のカップルが結婚式あげるんだろうか? すごい量の花だね‥‥」
 久志はナティスに話しかけた。彼にとってナティスはつい1ヶ月前に1年越しの告白が成功し、晴れて恋人同士となったばかりだ。
「無意味に多いわね。それだけ華やかにしたいのかしら?」
 ナティスはくすくす笑いながら答えると、ちょっと意味ありげな視線で久志を見る。
「結婚ね‥‥。ふふっ」
(「いつか彼女ともやれるといいんだけどな‥‥」)
 つい2人の将来に思いを馳せてしまう久志であった。

(「プロポーズからも‥‥結構待たせてしまったなあ」)
 やはり飾り付けを手伝いつつ、清見は結婚相手の真白をふとみやった。
(「彼女の方が年上‥‥男の甲斐性とかはまだまだだけど、想いの強さだけは誰にも負けないよ。これから、よろしくね」)
「式場以外に披露宴会場もだよね?」
 ローザの指示を仰ぎつつ、真白と共同作業で装花を進めていく。この花1つ1つに贈り主からの祝いの気持が込められているかと思うと、その気持に応えるためにもぜひ両会場のエントランスを華やかにしたい。
 チャペルのベンチ、披露宴会場のマイクやケーキナイフ。キャンドルサービスのトーチ等小さなアイテムにも一つ一つ、花を飾っていく。これら溢れんばかりの花々に、皆へのお祝いと感謝の気持ちと込めて。
「ええと‥‥これ、どこに飾ったら良いですかね?」
「‥‥その花籠は‥‥そっちのテーブルに置いて」
 同じ会場内では、ヘリから降りた一真がマリアの指示を受けつつ、楽しげに花を飾りつけていた。

 会場の飾り付けもほぼ終りに近づくと、傭兵達のうち本日挙式をあげる者、及びその付き添い役はそちらの準備のため早めに控え室へと移動した。
 リアの場合は憐華、ソフィリアらに着付けを手伝って貰う。
「リア姉様を世界一の花嫁に仕立ててみせますわ!」
 大張り切りでリアのヘアセットを担当するソフィリア。
「私が花嫁だなんて‥‥何だか夢の様です‥‥♪」
 義妹のソフィリアに髪を梳かしてもらいながら、リアもうっとり夢心地で呟く。
 憐華は着付けの方を手伝いながら、
「今日から正式にリアさんが妹妻になるんですね〜〜‥‥あら? リアさん‥‥少し大きくなっていませんか? ‥‥胸が」
「きゃぅッ!? ちょ‥‥そんな所に触れては‥‥はぅ‥‥ダメですっ!」
 などと楽しげにじゃれあいながらも、リアに純白のウェディングドレスを着せていく。

 普段は日本髪に結っている亜希穂は、鏡の前で少々悩んでいた。
「うーん、今日はウェディングドレスに合わせて下ろそうかしら? 正風さんに聞いておけばよかったわ」
 その隣で、やはり着替え中の真白も悩んでいることに気づく。
「あら、どうしたの?」
「ドレスを着るのは嬉しいし、清見と共に歩くことは誇らしい‥‥しかし何故、人前で口吸いして見せねばならんのか‥‥!」
 要するに、公衆の面前で誓いの口づけをするのが恥ずかしいようだ。
「別に良いんじゃないの? 折角の晴れの日なんだし」
 既に思いは結婚式に飛んでいる亜希穂には真白の葛藤が今ひとつピンと来ないらしく、ただあっけらかんと返答するばかりだった。

 一方、会場では傭兵達による式と披露宴の支度が着々と進んでいた。
 結城悠璃(gb6689)は花の飾り付けのみならず、会場の一角に休憩コーナーを設けるなど、全般的なセッティングにも精を出していた。
 やがて開場時刻となり、4組の能力者カップルによる合同結婚式を祝う招待客が次々と受け付けに記帳、披露宴会場のホールへと集まってきた。1組の招待人数が平均50名としてもおよそ200名。相当な数である。
 最初に白無垢の花嫁衣装をまとった榛名、そして慣れない紋付き袴に巨体を包んだレドリックが会場に現れると、大きな拍手と共に招待客が新郎新婦を取り囲んで口々に祝った。
「おめでとう、榛名、レドリック‥‥凛、吃驚しちゃったよ、この間会った時は全然そんな様子無かったのに。その出会いを大切にして、お幸せにね」
 九州で2人の救出依頼に参加した凜が笑顔でいう。
「榛名さんとレドリックさん、結婚おめでとうございます♪ 告白はどちらから、どんな台詞でしたのですか?」
 定番ともいうべき美緒の質問に榛名はポッと頬を染め、
「あの、レドリック様の方から‥‥退院の日に『俺と人生のタッグを組んでくれないか?』と‥‥」
「とてもレドリックさんらしいのです‥‥」
 もっともプロレスの事など全く知らない榛名はその時は何の話かサッパリ判らず、兵舎に戻ってから辞書の類をあれこれ調べたのだとか。
「夜なべで調べて、ようやくプロポーズの言葉だと判ったときは‥‥私、つい真っ赤になってしまいましたわ‥‥♪」
「ともかく、終わりよければ全てよしなのです。お祝いにヒマリアさん、久しぶりにふにふにしてあげるですね♪」
「な、なんであたしなんですか‥‥っ!?」
 残念ながらヒマリアに拒否権はなかった。背後から美緒に胸をふにふにされ、ついでに耳をカプリと甘噛みされ、半ば陶酔した表情で、
「あぁん‥‥あたしを可愛がって下さい、お姉様ぁ‥‥」
 などと懇願する始末。
(「むむ‥‥しばらくふにらない間に更に‥‥!」)
 ‥‥人様の婚礼の席でいったい何をやっているのだ、君らは。
 その一方で、搬送作業の後に改めてフォーマルスーツに着替え、髪型もきちんとオールバックに整えた兵衛は榛名の祖父、十神源二郎の盃に酒を注ぎながら祝辞を述べていた。
「十神先生、このたびはおめでとう御座います。榛名嬢が良き伴侶を得れたことを私も心から喜んでおります」
「うム‥‥わしは反対したんじゃがのう。何しろ榛名は、嫁に行くにはまだ早すぎる‥‥」
 祝杯を受けつつも、厳めしい不満顔でブツクサいう源二郎。
 だが側にトコトコ歩みよってきたミーティナが
「お兄ちゃんと榛名さんのこと、許してくれてありがとうございます。それと、これからよろしくお願いします‥‥」
 ペコリと頭を下げると、
「おうおう、ミーティナちゃんは礼儀正しいのう。しかし遠慮は無用ぞ、これからわしらは家族なんじゃから」
 フニャリと相好を崩し、ひ孫のような少女の頭を撫でてやる。
(「なるほど‥‥」)
 頑固な源二郎翁があっさり折れた理由を察し、思わず内心で苦笑いする兵衛。
 その隣には、会場の雰囲気に合わせたシックなドレスに身を包んだクラリッサの姿もある。彼女の胸はパールをあしらった銀のブローチで飾られているが、このパールは兵衛からの贈物。クラリッサの誕生石でもある。
(「早速付ける機会がありましたわね。有り難うございます、ヒョウエ」)
 そう思う彼女の横で、兵衛はしばし源二郎と酒を酌み交わし、武道談義などに花を咲かせた。
「彼は百戦錬磨の誉れ高い、妹想いの快男児でした」
 いつもの如く(?)執事服・シルクの手袋・鼻眼鏡に着替えて混沌執事へと変身した源次が、新郎レドリックに向けてスピーチを贈る。
「黙示録の野獣とも呼ばれた男は今、彼は『妻』という掛替えの無い存在を得て、愛する家族の為、力強くも誇り高い、心に牙を持つ狼へと生まれ変わったのです」
 宴席からの拍手喝采。
 スピーチを終え、レドリックの元に歩み寄った源次は新郎の肩を叩いた。
「やったな! 妹さんも奥さんも美人なんて、この果報者シスコン兄貴!!」
「ガハハ! そう誉めるなよ、照れるじゃねえか!」
 レドリックも笑いながら叩き返す。当人は「ほんの軽く」のつもりだろうが、元プロレスラー能力者のパワーに一瞬悶絶する源次。だがうははと笑い、
「きみ達二人にプレゼントだ。二人の時間を刻んでくれ」
 ペアの懐中時計を贈られたレドリックが、何時になくしんみりした顔つきになった。
「すまねえな‥‥‥‥一生の宝物にするぜ」

 同じ頃、式場の方では純白のタキシードに着替えた王零がウェディングドレスのリアと共に婚礼の儀を迎えていた。
「私‥‥綺麗ですか?」
「とってもきれいだよ」
 短く会話を交わしたあと、改めてホール付きの神父に向かい合う。
「我はここに再び聖闇に誓う‥‥憐華のみではなくリアも愛し二人に幸福をもたらすと‥‥我は妻の為になら世界とすら争い勝って見せる‥‥我は妻を護る刃となろう」
「私も誓います。夫の刃を包む鞘となり、いかなる時も信じ、支え、愛しぬく事を」
 宣誓を終えた2人は互いの指輪を交換。王零はウェディング姿のリアを軽々とお姫様抱きにし、その足で披露宴会場へと向かう。
 付添人としてその一部始終を静かに見守っていたソフィリアは、思わず義姉の姿に未来の自分を重ねていた。
(「綺麗ですわ‥‥とても‥‥大好きなリア姉様のお手伝いができて良かったですわ」)

「あたしがL・Hに来て以来、色々お世話になったお2人であり、その仲睦ましい情景が何時までも続く様、心からお祝い申し上げるわね」
 会場に現れた王零とリアの姿を見て、共通の友人である悠季が祝いの言葉を贈る。
 花の運搬中や飾り付けの最中は作業着だった彼女も、ホール備え付けのシャワーですっきり汗を流し、今は男装のダークスーツ姿だ。
「二人ともおめでとう。末永く御幸せにね。くすくす」
 ナティスや久志、リュウセイらも口々に2人の結婚を祝った。
「そうそう。久志、あとで汝に渡したいものがある」
「?」
 王零の言葉に首を傾げつつも、久志は頷いた。

 続いて式を執り行うのは正風と亜希穂。
 白いタキシードをびしっと決めた正風は、ウェディングドレスに合わせ髪を下ろした花嫁を見るなり、
「世界で一番綺麗だよ、亜希穂さん♪」
 と耳許に囁く。
 形式に則り神父の前で結婚の宣誓を行った後、
「‥‥‥‥永遠に、あなたを愛し抜きます」
 正風は持参したプラチナリングを亜希穂の指にはめてやり、2人はその場で情熱的な口づけを交わし合った。

「正風もリアもおめっとー! 友人の幸せなイベントを祝えて嬉しいぜ」
 披露宴会場に来た正風達を見てリュウセイが叫ぶ。4組合同の結婚式である今日は、複数のカップルと友人知己である傭兵も少なくない。
「おめでとう! 本当におめでとうな、4人とも!」
 ついでに側にいる友人達に向き直ると、
「久志〜、お前んとこの結婚はいつなんだ? 源次は‥‥‥‥聞くまでもないか」
「一応は聞いて欲しいものだな‥‥社交辞令でいいから」

 最後のカップル、清見もタキシードの婚礼服で、ウェディングドレスの真白と式場で永遠の愛を誓い合っていた。
 真白のドレスは八重の花びらのようなプリンセスラインのスカート。髪はアップ、髪飾りと共に留めるタイプのヴェール。
 これらは清見のリクエストで、「お姫様より王女様」という表現の合う可愛くも上品に――がコンセプトとなっている。
「よく似合うよ、真白‥‥予想以上。綺麗、だよ」
 真白はふと自分の指、清見から贈られたペリドットの指輪を見やった。
 宝石としてのペリドットには邪気を祓い、夫婦和合、幸福、家庭円満をもたらす効果があるという。
(「この石が持つとされるパワーまで清見は知っていたのだろうか‥‥?」)
 幸い結婚式場と披露宴会場は別なので、この場にいるのは神父以外はごく身内の人間だけである。
 最初は僅かに躊躇っていた真白も、間もなく覚悟を決め、誓いのキスを清見と交わす。
「これから先ずっと共に在ることを。君にも、君の幸せを祈る優しい人達にも誓うよ」
 唇を離した後、清見は真白の目を真っ直ぐに見つめ、そう告げた。

 最後の新郎新婦が会場入りすると、友人代表として凜が祝いのスピーチを贈った。
「太陽の光を一身に浴びて育った様な、お日様みたいな清見だから、今が旬真っ盛り‥‥その輝きを2人で、素敵な光に育ててね。結婚おめでとう!」
「陳腐な言葉だけど、本当におめでとう。お幸せに!」
 やはり清見の友人である源次も心からのお祝いを述べる。
 これで本日の婚礼カップル4組が全て出そろった。
 その頃になると、伯爵への挨拶を済ませてきたプリネア皇太子クリシュナ・ファラームも、妹ラクスミと共に故国の王族用衣装をまとって来場し、婚礼を挙げた能力者達を自ら祝福していった。

「新郎新婦とは直接の縁はありませんが、このたび結婚する皆様方を精一杯祝福させていただきます」
 サーカスのピエロを思わせる衣装とメイク。正体不明の道化(クラウン)に仮装した美環 響(gb2863)が何もない片手にぱっとレインボーローズを取り出したのを皮切りに次々とマジックを披露。
 軽業師さながらの動きで会場内を爆転したり宙返りしたり、時にはわざとしくじって宴席からの笑いを取ったりする。
 最後は「汝らの魂に幸いあれ」の決め台詞で結婚する人々を祝福した。
 会場の照明が落され急に暗くなったかと思うと、レーザーの様な光の軌跡が空中に「オメデトウ」の文字を描く。実は久志が豪破斬撃で武器(といってもエアーソフト剣だが)を発光させた光のアートだ。
「さてと‥‥ここで準備を担当した傭兵達より皆様に記念品を贈呈させて頂きます」
 会場が再び明るくなると、マイクを持った悠璃がスピーチした。
 予め仲間の傭兵達と共に作った記念品――花弁をモチーフにしたチョーカーを、会場で仲良くなった子供達にも協力してもらい、新郎新婦はもちろん来場した招待客にも配っていく。
「バグアとの戦争など暗い話題も多い昨今ですが、今日この日のように幸せな話題もあります。今日の思い出が、新郎新婦の方々の絆をより深めることを、また、これからの皆様が掴む幸せの助けとなることを祈って‥‥」

 その頃リュウセイは自ら厨房に乗り込むと、ホールの料理長に許可を取りアルティメット包丁とフライパンを唸らせ、特製シーフードチャーハンの調理に勤しんでいた。
「感動をありがとうってことで、俺が一つ料理を作るぜ!」

 宴たけなわの頃、兵衛は榛名達への祝いの客が途絶えたのを見計らい、クラリッサと共に十神家新郎新婦席の方へと足を運んだ。
 色恋沙汰には疎い兵衛といえども、榛名が内心で彼を慕っていたことは薄々感づいていた。
(「結果的には振ってしまう形となったが‥‥やはりけじめはつけておかないとな」)
 あえて笑顔を浮かべて榛名に向き合うと、
「おめでとう、榛名。今日の榛名はおそらく世界で一番綺麗だと思うぞ。存分に幸せになってくれよ」
 一瞬はっとした様な表情を見せた榛名だったが、心なしか目許を潤ませにっこり笑ってみせる。
「ありがとうございます、榊様。私は彼の元へ嫁ぎますが‥‥榊様のことは、これからも尊敬する先輩、武の道を歩む先達としてお手本とさせて頂きますわ」
 そういって「今後ともよろしくお願い申し上げます」と深々頭を下げた。
 ついで兵衛はレドリックの分厚い胸板を軽く叩くと、
「誰よりも榛名を幸せにしてやってくれよ。泣かしたら、十神先生と一緒に殴り込むからな」
「おっと、そいつは怖いぜ。俺も榛名からジャパニーズ・カラテでも習おうかな?」
「バッカもーん!! 我が十神家は空手ではなく棒術じゃ!!」
 早速源二郎から雷を落され、レドリックは肩をすくめて苦笑い。
 その隙にクラリッサは榛名の袖をひき、男性陣から少し離れた場所へ誘った。
「おめでとう御座います、榛名さん。先を越されてしまいましたけど、どうぞお幸せになって下さいね」
 まずは祝辞を述べてから、やや声を落して耳打ちする。
「ヒョウエを取ってしまって、本当に悪いとずっと思っていましたのよ。榛名さんがヒョウエの事を好きなのは見て判っていましたから。でも、彼を愛する気持ちなら、私が一番ですからね。レドリックさんとお幸せにね」
 少し驚く榛名だったが、それはすぐ微笑みに変わった。
「私にも、女として榊様をお慕いしていた時期がありました‥‥でも、今にして思えばそれは憧れと尊敬‥‥いわばお兄様に抱く感情に近かったのだと思います。レドリックとは育ちも、武に対する考えもまるで違いますが‥‥だからこそ、2人とも対等の夫婦として共に人生を歩んでいけるような気がいたします」
 そして思い出したように手元のブーケを差し出すと、
「よろしければ、これを‥‥受け取って頂けますか? この格好でブーケ・トスも何ですし‥‥それに、元々は同性の、そして結婚の近い友人に手渡すものだと聞いておりますわ」
「おいおい。二人して何をコソコソ喋っている?」
「女同士の秘密ですわよ、ヒョウエ」
 クラリッサは振り返ると、にっこり笑顔で誤魔化した。

●この喜びを永遠に
 やがて披露宴も終わりに近づくと、4組の新郎新婦は招待客と連れ立ち屋外のチャペルへと移動した。
 祝福の鐘が鳴り響く中、まずリアが恒例のブーケ・トスを行う。
 元々狙っていた事もあってか、放り投げられたブーケは首尾良く友人のナティスがキャッチ。
「確かに受け取ったわ。リアちゃん」
 してやったりとほくそ笑むナティスは隣にいる久志を横目で見やり、
「‥‥次は私の番と言わんばかりな展開よね‥‥」
 と小声で独りごちる。
 そのすぐ側で、ブーケのことをうっかり失念していたソフィリアが愕然としていたり。
「あ‥‥完璧に忘れてましたわ‥‥」
「久志!!」
 大声で王零が呼びかけ、何か光るものを放り投げる。
 慌てて受け取った久志の掌中には、『汝の未来の祝福あれ』と裏に刻まれた古びたシルバーリングが輝いていた。
 真白の投げたブーケがちょうどミーティナの手に渡るのを見て、ふっと笑う清見。
「それじゃあ真白、例のやつもいこっか?」
「あれ‥‥本当にやるのか?」
「いいじゃないか。一生に一度の事だし」
「う〜ん‥‥任せた!」
 ブーケ・トスほど有名ではないが、結婚式の慣わしの1つにガーター・トスというのがある。
 花嫁が左足に付けていたガーターを新郎が外し、未婚の男友達に投げるというもの。いわばブーケ・トスの男性版だ。
 半ば思考停止しつつも覚悟を決めた真白がスカートを半分までめくり挙げると、清見が手を突っ込んで左足のガーター(ただしホール側が用意した式専用のダミー)を外しトス。
 宙を舞ったガーターは、奇しくも清見の友人である源次の手元に飛び込んだ。

 ちょうどその時、海の方から飛んできた1機のサイレントキラーがチャペルの真上でホバリング。機体の下に吊下げられたコンテナを開き、大量のライスシャワー(花吹雪)が新郎新婦達の頭上に降り注いだ。
 操縦席にいるのは拓那。ラクスミから許可を得たあと、空母のメカニックや仲間の傭兵達とも相談し、コンテナ改造の巨大な「くす玉」を作り上げたのだ。
 ちなみにリモコン操作により頃合いを見てコンテナを開けたのは地上の一真である。
 式典の最後を飾るに相応しい、まさに吹雪のごとき色とりどりの花弁。
「末永くお幸せに〜、と。さぁて、早いトコ俺もあの子に白無垢着させてあげなきゃなー!」
 地上で歓声を上げる人々を見下ろしながら、
(「次は自分の番かなぁ‥‥」)
 とつい想像に耽る拓那であった。

 舞い落ちる花弁の下、スーツ姿の一真はプリネア軍士官服で同行していたマリアに尋ねた。
「‥‥マリアさんもウェディングドレス、似合うでしょうね」
「そうかな?」
 ちょっと嬉しそうなマリアだったが、すぐに顔を伏せ、ポツリと呟いた。
「でも‥‥そんな資格あるのかな? ‥‥私なんかに」
(「マリアさん‥‥やっぱり、まだ『奴』のことで‥‥」)
 やや気の重くなる一真だったが、その場ではあえてそれ以上触れず、ただ季節外れの桜吹雪のようなライスシャワーを二人して見上げた。

 婚礼の式典が一段落したあとの過ごし方は人それぞれである。
 凜はチェラルを人気のなくなった結婚式場へと誘った。
「結婚式素敵だったよね‥‥チェラル、せっかくだから、凛達も着てみない?」
 このホールではサービスとして、無料で婚礼服をリースし模擬ブライダル体験ができるのだ。
「ええ〜、ウェディングドレス? ボクには似合わないよぉ〜」
 最初は渋っていたチェラルだが、結局は凜に押し切られる形で参加。30分ほど後には、ホールスタッフの手伝いで着付けてもらった純白のドレスに身を包み、同じくタキシード姿の凜と共に記念撮影など行っていた。
「へえ〜‥‥やってみると、けっこー面白いモンだね」
 生まれて初めて着るウェディングドレスを物珍しげにあちこち引っ張っていたチェラルだが、ふと真顔になり。
「北米の大規模作戦‥‥もうすぐだね」
「うん。チェラルはどうするの?」
「ボクも正規軍から招集がかかってる。‥‥たぶん五大湖方面に行くんじゃないかな?」
 そういう彼女の表情が微かに曇っている事に凜は気づいた。
(「やっぱり不安なんだ‥‥チェラルも」)
 正規軍エースといえども「必ず撃墜されない」などという保証はない。いや、チェラル自身、過去の大規模作戦では幾度も撃墜され、その度に瀕死の重傷を負っているのだ。
「‥‥前にボクのこと、もっと知りたいっていってたよね?」
「え?」
「今だから言うけどさ。実はボク自身、自分のことよく知らないんだ。物心ついた頃には、もう中央アジア辺りをウロウロしてたから」
 表向きは「中国とウクライナのハーフ」ということになっているチェラルだが、実の所本当の国籍はどこなのか、いや両親や家族についてさえ確たる記憶がないという。
 首から提げた認識票――そこには彼女の姓名と認識番号、血液型などが刻印されている――を摘み上げ、
「だから、もしボクが死んだとして‥‥残るのはこれだけ。これだけが、ボクがこの世に生きてた証‥‥」
「そんなこというなよ! チェラルは死んだりなんかしない、凜と一緒に絶対生きて帰るんだからなっ!」
「アハハ‥‥ごめん、ごめん。ちょっと弱気になっちゃったかな?」
 再びいつもの屈託ない笑顔に戻ったチェラルは、ハンガーに掛けた自分の服――礼装代わりに着てきたUPC軍服のポケットを探り、何か小さな物を取り出した。
「男の子に何贈ったら喜ばれるとか、よくわかんなくってさ。広場で見つけた金属アクセサリーのお店で、これ作ってもらったんだけど‥‥」
 それはチェラルが彼女自身の認識票をモデルに作らせた、オーダーメイドのキーホルダーだった。
「よければこれ、凜君受け取ってもらえるかな? 何てゆーか、その‥‥」
 赤面してもじもじするチェラルを見つめるうち、急に愛おしさがこみ上げてきた凜は、思わず彼女を抱き寄せていた。
 チェラルも抵抗しない。
 目をつむり、思い切って身を乗り出した凜の唇に――そっと触れる、柔らかく温かな感触。
 やがて彼女の体を放した凜は、耳まで赤くして横を向いた。
「幸せにする、いつか絶対‥‥これが凛の誓いだからなっ」

「貝殻の贈り物、受け取って貰えましたですか?」
 美緒はチェペルにいたクリシュナを呼び止め尋ねていた。
「うむ、妹から転送してもらった。いつもながら、そなたの手紙は読んでいて心が和む」
 日々激化する対バグア戦争の中で、一国の指導者として重責を担う皇太子は微笑を浮かべた。
「ええと、戦いやお仕事も大事ですけれど、息抜きも大切ですよね。今度ご一緒に海水浴、してみませんか?」
「しかし、こんな時期に国王代理たる私が‥‥」
「偉い人が率先してイベント参加する様子を見せれば、他の方々やラクスミさんも参加し易くなると思うです!」
「ふむ‥‥それも一理あるな」
 クリシュナはわずかに思案し、
「まあ今度の大規模作戦が一段落したら‥‥考えて見るか」
(「やったのです♪」)
 さらに勢い込んだ美緒は、
「‥‥傭兵とか、結婚相手としてはどう思うでしょう?」
 海水浴からいきなり結婚。まさに恋する乙女の直球質問である。
 ――何だか直球すぎる気もするが。
「もちろん傭兵で悪いという法はない。我が国の国教はヒンドゥーだが、カースト制はとうの昔に撤廃しておるしな」
 苦笑しながらいうクリシュナだが、やがて残念そうにため息をつき、
「とはいえ‥‥この戦争が終わるまで、とてもそんな余裕はあるまい。バグアどもを地球から追い払うまで、私には祖国を守る義務がある」

 式典を終えた新郎新婦のうち、榛名とレドリックは十神家の面々やミーティナと共にL・Hへ戻り、正風と亜希穂は幸福の余韻に浸るべく、先に予約を入れておいたリゾートホテルにタクシーで向かった。
 王零もリアを再び抱き上げ、そのまま式場から去ろうとしたが――。
 そんな2人の前に、ウェディングドレスをまとった憐華が現れた。
「ねぇ‥‥零‥‥私もあなたの鞘よね? 私とリアさんはあなたにとってどんな鞘なの?」
 王零はいったんリアを腕から降ろした。
「憐華は我を誘う鞘で‥‥リアは我を癒す鞘だ」
 それを聞いた憐華とリアは互いに目配せして悪戯っぽく笑うと――。
 王零を挟む形で、2人は両サイドから男の頬に口づけした。
「あなたを愛してます‥‥だからちゃんと二人とも幸せにしてね♪♪」
「もちろんだとも‥‥我も汝らを愛している‥‥幸せにして見せる」
 やや照れながらも力強く答えた王零は、強靱な腕力で憐華とリアを同時に抱きかかえ、そのままホテルに向かうタクシーを拾うべく停車場に向かうのだった。

 人生最良の日の喜びを胸にL・Hへの家路につく者。あるいは島のホテルで一夜を過ごす者――だが、中には悠璃の様に会場の後片付けや掃除を手伝う者もいた。
 本来ならホールスタッフがする業務だが、彼は「これも依頼のうちだから」と、有志の傭兵達と共に協力を申し出たのだ。
 その1人、源次もチャペル周囲に散った花弁を掃き集めつつ、ふと作業の手を止め、執事服のポケットに入れた花嫁のガーターを取り出してみる。
「まあ、自分の場合はいつのことになるやら、まだわからんが‥‥」

 両の手を 共に取り合い 歩みだす
 新たな門出の この素晴らしさよ

 暮れなずむJEDL島の夕陽を眺めつつ、本日結婚した者達に幸多かれ――と一句ひねり出すのだった。

<了>