タイトル:【Pr】天空の狙撃手マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/04 14:30

●オープニング本文


 つい何ヶ月か前まで、俺は南海の孤島で独り戦い続けていた。
 主を失った粗末な民家の、シュロの屋根に空いた大穴から、ただひたすら蒼い空を見上げながら。
 そして、今も戦い続けている。
 ひとつ違うのは、今度の戦場はあの蒼い空の上ということ――。


 ソウル近郊・UPC東アジア軍空軍基地

『そろそろ始まるぞ、オラン。奴らがウランバートルの基地から飛び立ったそうだ』
 ヘルメットの無線を通し、仲間の傭兵が連絡してきた。
「やはり、目標は日本か?」
『そのようだな‥‥どうやら、本部の悪い予想が的中したようだ』
「どこだって構わないさ。奴らがこの半島上空を通るなら‥‥1匹残らず叩き落とす。ただそれだけだ」
『気持ちは判るが、無理は禁物だぞ。空戦はあくまでチームプレイだからな』
「心配するな。俺だって、こう見えても昔は正規軍だぜ」
(といっても、陸軍上がりだけどな‥‥)
 俺はいったん無線を切り、間近に迫った出撃に備えて大きく深呼吸した。
 目をつむると、ここ数ヶ月間のめまぐるしい出来事が走馬燈のように蘇る。
 今からおよそ2年前、ある国の狙撃兵だった俺は、領海内の小島で生まれて初めてキメラと遭遇した。
 友軍部隊は全滅し、外部との連絡手段も断たれた中で、俺は唯一の武器である狙撃銃を構え、スコープサイトの中に奴らが――キメラの主であるバグアどもが現れるのをひたすら待ち続けた。
 だがやって来たのはバグアではなく「能力者」と名乗る地球人の傭兵たちだった。
 どうやら俺が籠城している間に、人類はバグアに対抗する新たな手段を見い出していたらしい。
 餓死寸前だった俺は、能力者たちに救出された。しかし、同時に本国がバグア軍の襲撃で壊滅し、故郷の家族も生死不明となった事実も知らされた。
 ラスト・ホープで療養中、たまたま俺自身にも「能力者」の適性があることを知らされ、UPC側からエミタの移植を受けるかどうかの意思確認を求められた。
 ――むろん断る理由などない。
 復帰すべき原隊は祖国もろとも消滅してしまったが、傭兵として登録すれば、このままラスト・ホープに留まりバグアと戦い続けられる。
 元々狙撃兵だった俺が、能力者としてスナイパーのクラスを選んだのは、ごく当然の成り行きというものだろう。
 もっとも、まさか自分が戦闘機に乗ることになるとは夢にも思わなかったが。

 最初は不安もあったが、このナイトフォーゲルS−01という機体はAI制御により素人パイロットでもごく短時間の訓練で乗りこなすことができるという。事実、仮想システムによる2ヶ月ほどのシミュレーションで、俺は何とか実際に空を飛べるまでにこぎつけた。
 機体さえ乗りこなせれば、後はこっちのもの。
 照準サイトに相手を捕らえ、トリガーを引く――発射されるのが銃弾かミサイルか、ただそれだけの違いだ。

 俺は胸ポケットから妻の写真を取り出し、コクピット内の目につく場所へテープで留めた。
 忘れるものか――「奴ら」さえ来なければ、俺は今頃父親になっていたはずなんだ。
 ヘルメットの無線から「全機出撃」を伝えるコールサインが入る。

 ようやく、あのとき引き損ねたトリガーを引く時が来た。
 今度こそ、奴らに思い知らせてやる。
 ――この地球の大地を踏みにじった代償を。

●参加者一覧

ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
劉黄 柚威(ga0294
27歳・♂・SN
レティ・ヴェルフィリオ(ga0566
17歳・♀・SN
大山田 敬(ga1759
27歳・♂・SN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
佐間・優(ga2974
23歳・♀・GP
エリザベス・シモンズ(ga2979
16歳・♀・SN
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG

●リプレイ本文

●大韓民国・ソウル近郊〜金浦空港
かつては民間の国際空港として「空の玄関口」を務めたこの施設も、現在は米韓連合軍を主体とするUPC軍に接収され軍用空港として使用されている。
 中国北部を占領したバグア軍がその余勢を駆って朝鮮半島内陸部にまで侵入したいま、地理的に海からの補給を受けやすく、首都ソウルにも近いこの空港は、同半島における人類側の貴重な防衛拠点となっていた。
 そして今日――UPC正規軍にラスト・ホープからの援軍として能力者たちのKV(ナイトフォーゲル)部隊を加えた大規模な航空戦力が集結し、ウランバートルから長駆日本を目指すバグア軍を要撃すべく出撃の時を待っていた。
 人類側の動きを察知したバグア軍もここ数日、陸上型キメラを主力とする地上からの攻撃を繰り返していたが、漢江を防衛ラインとする米韓軍の頑強な抵抗と、仁川沖合に進出したUPC海軍潜水艦からの巡航ミサイル攻撃の支援により、何とかこの日まで空港を無傷で維持することができたのだ。

 パイロットスーツに身を固めた褐色の肌の若者は、共にチームを組む傭兵たちの中にゲック・W・カーン(ga0078)と佐間・優(ga2974)の顔を見つけると、少しはにかんだように笑った。
「やあ‥‥あの時は、世話になったな」
 能力者オラン・ベンディーク。かつてアラネシア共和国陸軍の狙撃兵であった彼は、2年前南洋の孤島でバグア軍と遭遇、部隊が全滅した後もただ独り籠城を続けていた。
 たまたま上空を通過したUPCの偵察機に発見され、能力者の傭兵部隊に救出されたのだが、その時の依頼に参加していたのがゲックと優だ。
 そのオランが、今日は同じ能力者として共に戦うことになる。
 あのとき島で救出した直後の、幽鬼のごとくやつれきった姿が嘘のようだった。
「おまえも能力者になったとはな‥‥とにかく、あまり気負うなよ」
「ああ。気負いがないといえば嘘になるが‥‥正直、今はあいつを飛ばすだけで精一杯だ。お荷物にならないよう、何とかついていくからよろしく頼む」
 気遣うようなゲックの言葉に、オランは自らのKVを親指でさして苦笑した。
「この手であいつらを引き裂いてやりてぇところだが‥‥今回は支援に専念する。攻撃は任せたぜ、オラン」
 彼同様、バグアに対して深い憎しみを抱く優が言葉をかける。
「感謝する」
 オランは頷いた。
「とにかく、奴らの側まで連れてってくれ。たとえ空に上がっても俺は狙撃兵だ‥‥必ず、当てて見せる。TACネームは『ランギット』‥‥俺の国の言葉で『空』って意味だ」

 今回、オランのKVと正規軍の電子戦偵察機「岩龍」1機を加えた傭兵たちは、飛行隊を3班に分けて戦闘に挑む。

突撃班「ティシフォン」
 ゲック・W・カーン(リーダー)
 大山田 敬(ga1759
 佐間 優

牽制班「アレクト」
 劉黄 柚威(ga0294) (リーダー)
 新居・やすかず(ga1891
 アッシュ・リーゲン(ga3804
 他「岩龍」1機

攻撃班「メガエラ」
 レティ・ヴェルフィリオ(ga0566)(リーダー)
 エリザベス・シモンズ(ga2979
 オラン・ベンディーク

(「ウランバートルからの敵ならば、あの時『天狼』の皆様とわたくし達が守った情報も、防衛に幾らかは寄与している筈。初めての機体戦ですけれども‥‥ナゴヤを陥落させる訳には参りません。必ずや目的を果たしましょう!」)
 KVのコクピットに搭乗し、リズ(エリザベス)は思った。
 その通り、以前に彼女を含む傭兵部隊がモンゴルからの依頼で入手したメモリーカードの分析により、同国の首都ウランバートルに約2百機のヘルメットワームが集結、バグア軍による名古屋攻略作戦に参加すべく準備中との事実が判明した。
 この事態に鑑み、UPCは急遽中国大陸と朝鮮半島で使用可能な基地航空兵力を動員、敵遠征軍を暫減する計画を立案したのだ。
『ヤツラは日本へ行軍中だ。つまりそんなに道草は食えない連中だ。しかもマトモな兵站を唯一もってない長征軍だ。ちょっかい出されても全力で反撃ってわけにはいかないはずだぜ』
 敬が無線でリーダーのゲックに進言する。
 ワームの航続距離は一説には約1万kmともいわれるが、それでもモンゴルから日本までの遠大な距離を無補給で遠征するのは彼らにとっても相当の強行軍であり、ことに空戦で多大のエネルギーを浪費させれば、全滅とはいかずともかなりの数を燃料切れに追い込み日本海の藻屑と変えることが期待できる。
「初めてKVに搭乗か‥‥」
 オランやリズ同様、空戦では初陣になる柚威は機内でつぶやいた。
「不安は多いが、頼もしい仲間たち居る。皆を信じて戦いに挑む」
 だが内心の緊張は隠せず、その掌は汗に濡れていた。
 その一方で、
「あ〜っ! ドローム社製新機体のカタログ出てるじゃんっ! 何なに、F−104? 面白そうな機体〜♪ 欲しいな〜、ブースター付けてもらえないかな? 重そ〜」
 と、レティはすっかりリラックスして出撃を待っていたが。

 やがて上空で警戒にあたっていた「岩龍」から、敵ワーム群の接近を伝える警報が発せられた。
 まずは先発隊として、F−15GとF−16Gを主力とするUPC空軍が発進していく。もっとも彼ら在来機では小型ワームにさえ歯が立たない。ワームを護衛していると思しき飛行型キメラを引きつけ、後に続くKV部隊に道を開くのが彼らの任務だ。
 正規軍が飛び立って約20分の後、いよいよゲックらを含むラスト・ホープの能力者たちにも出撃命令が下った。
 滑走路から飛び立ち戦闘高度まで上昇した後、「ティシホン」が先行、次いで「アレクト」、「メガエラ」が続く。
 間もなく、朝鮮半島上空の蒼穹に夥しい黒点と、その間で盛んに輝く閃光が見えた。
 敵のワーム群だ。中型ワーム20機を主力に、護衛の小型ワームが約150機。事前の情報では小型ワーム180ということだったが、先に要撃をかけたUPC中国空軍が健闘し数を削ってくれたのだろう。
 生き残りのワームの中にも、よくよく見れば損害を負ったのかフラつきながら飛んでいるものさえいる。
 閃光はワーム群を取り巻く飛行キメラと、先発隊友軍機との交戦だった。
『アレクトは突出するな。ここの陣形が崩れると後の二隊に危険が及ぶ』
 柚威が僚機へ通信を送る。
 突撃班である「ティシホン」が囮となって敵1機を引きつけ、「アレクト」が他の敵機を牽制、おびき寄せた1機を「メガエラ」が攻撃。これが、今回傭兵たちが立案した攻撃パターンだった。
『青蘭からランギットへ。あんたは無闇に打つなよ。狙いを定めて攻撃してくれ』
『了解した。一撃必中、が狙撃兵の身上だからな』
 KV隊の接近に気づいたバグア側のうち、小型ワーム約50機が編隊を離れ向かってきた。主力部隊を日本へ送るための犠牲となる覚悟なのだろう。
 なぜバグアがそこまでして名古屋攻略に執着するのか――それは傭兵たちにも判らなかったが。
「1機でも墜とせば儲けモノ、と思ってたが‥‥こりゃ、意外にいけるんじゃねえか?」
 アッシュがニヤリと笑った。
 編隊から突出した1機の小型ワームに狙いを定め、ゲック率いるティシホン隊が突撃をかける。援護に回ろうとした別の敵ワームに対して、岩龍を除くアレクト隊3機がバルカン砲を浴びせて足止めした。
 その間、
「アタック開始!」
 優が叫び、ティシホン隊の僚機と連携を取りつつ攻撃を始める。
 ゲック機と敬機がホーミングミサイルで足止め、さらに肉迫した優機がガトリング砲の連射を浴びせる。
 通常なら慣性制御で高速離脱するところだが、あくまで友軍の盾に徹するつもりなのか、ワームはその場に踏みとどまりプロトン砲で反撃を加えてきた。
 その姿には敵ながら悲壮感すら漂うが、もとより傭兵たちに十億の同胞を殺した相手にかける情けなどはない。
 ティシホン隊は圧倒されたと見せかけいったん後退し、深追いする敵をメガエラ隊の待ち伏せポイントまで誘引した。
『メガエラリーダー、ヴァルキリーより各機へ。とっつげ〜き!』
 レティの号令の下、メガエラ隊3機が一斉に降下する。
「ぷれぜんとふぉうゆ〜☆」
 先陣切って突入したレティ機がホーミングミサイル、ミサイルポッド、ガトリング砲と射程の長い順から発射、ばらまき終えるなり機体を上方に逸らせてブースト加速で離脱。
 スナイパーの彼女としては鋭覚狙撃を使用して全弾命中させたいところだが、残念ながら能力者としてのスキルはKV戦では使えない。
 ワームは慣性制御で機体をせわしなくスライドさせて攻撃を避けたが、それでも雨あられと降り注いだ弾幕のうち何発がヒットしガクリと速度が落ちる。
「聖ジョージのご加護を!」
 後続のリズ機、オラン機がほぼ同時にスナイパーライフルで狙撃。
 左右から放たれた2本の火線が交差してワームを射抜き、ついに小型円盤を撃破した。
「はい、ごちそ〜さまっ☆」
 コクピットでレティがガッツポーズを決めた。

「まず一つ。次っ!」
 優の言葉通り、次なる獲物を求めて傭兵たちは再び編隊を組み直した。
 基本的な作戦は変わらないが、同じ攻撃パターンを繰り返しても相手に手の内を読まれる恐れがある。
 被弾した友軍機を追い回すワーム編隊に対し、ティシホン隊が挑発するようにネチっこく攻撃を加えた。
 2対3なら充分勝てると踏んだのか、まんまと誘き出されたワーム2機に対し、雲間と高々度にそれぞれ潜んでいたアレクト・メガエラの各機が一斉に襲いかかる。
『オラン、今だ!』
 敬の合図を受け、後方に位置していたオラン機がスナイパーライフルで狙撃。
 有効射程の限界近い1kmの距離から見事に命中弾を与えた。
 罠にはまったことを悟った2機のワームはプロトン砲を乱射しながら離脱を図るが、なぜか慣性制御を使わない。
 ――いや、使えないのだ。どうやら、ここまで到達する以前に中国空軍との戦闘でエネルギーが底を尽きかけているらしい。
「網にかかった獲物は逃さない‥‥」
 柚威が冷徹につぶやく。
 岩龍の護衛、及び周辺警戒を担当するやすかず機を残し、8機のKVは一斉に突入した。
 敬、リズが射程の長いスナイパーライフルで狙撃し、レティが再びミサイルとバルカン砲の猛射を加えながら肉迫。1機のワームに命中弾を与えるも、あいにく別の1機にバックを取られてしまった。
 だが、さらにその背後から、アレクト隊のアッシュ機が援護に入る。
「ケツを突つかせる様な真似はさせねぇぜ!」
 アグレッシブ・ファング発動でスナイパーライフル発射。
「ダンスの相手が欲しいのか? なら俺が面倒見てやるよ、来な!」
 さらに距離を詰め、立て続けに高分子レーザーを浴びせる。
 動きの落ちたワームに対し、メガエラ隊のリズとオランがホーミングミサイルを撃ち込みとどめを刺した。
 同じ頃、優は差し違えを狙うように突入してきた残存ワーム1機のプロトン砲をかわして反転、ブースターで一気に距離を詰めた後ガトリング砲の零距離射撃を浴びせて一撃離脱。
 続いてバックを取ったゲックがホーミングミサイルを撃ち込む。
 遙かウランバートルから日本を目指し飛来した円盤は、結局日本海を見ることもなくバラバラの金属塊と化して朝鮮半島上空に散った。
 その間、主の危機を救おうとしたのか1匹の飛行型キメラが飛来した。
 警戒に当たっていたやすかずはスナイパーライフルで応戦、回避行動を取った目標に対し時間差攻撃でホーミングミサイルを浴びせると、傷ついたキメラは苦しげな咆吼を上げ黄海方面へ逃走していった。

 傭兵たちが3機の小型ワーム撃墜を達成したとき、半島上空の戦闘もほぼ終わりを告げていた。中型ワーム20機を含むバグア軍主力はM6の全速力で日本海方面に抜け、その代償として殿を務めた小型ワーム50機は友軍機との交戦で尽く撃墜、あるいは燃料切れのためか自爆を遂げた。
 大陸部における最後の防衛ラインを突破し日本へ向かったワーム、その数約120機。
 ただし、相当のエネルギーを消費した彼らのうち何機が目的地までたどり着けるかは定かでない。
 むろん、UPC軍の損害も少ないものではなかったが――。

「要するにね、ろくに兵站も考えない大遠征なんてどだい無理ってことですよ。それは歴史が証明してます。ま、宇宙人の軍隊も例外じゃなかったってことですね」
 金浦空港に帰還後、基地の食堂でビールを煽りながら敬がいった。
『バグア軍・ウランバートル遠征部隊は補給に問題あり』――この件は、既に日本のUPCにも報告してある。
「さーて‥‥パーティの本番は、どんだけ盛り上がるかな?」
 と、どこか嬉しげにアッシュ。
 彼の言葉通り、勝利の美酒に酔っている暇はない。明日にはこの地を去り、彼らは真の戦場となる日本へと向かうことになるだろう。
 その一方で、言葉少なにビールを飲むオランに、ゲックが忠告した。
「‥‥仇を討ちたい気持ちも分かるが、それだけに囚われるな。お前が引鉄を引く事で、助けられる命だけでなく助けられない命もあるって事を忘れるなよ」
「あんたたちには‥‥感謝しているよ」
 オランは答えた。
「あの島に籠城しているときは、俺は自分の事しか考える余裕がなかった‥‥今は、もう少し違う目で世界を見られるような気がする。もっとも、バグアどもを1匹残らず地球から追い払いたいって気持ちに変わりはないけどな」
 そういって、ぐいっとジョッキのビールを飲み干した。

<了>