●リプレイ本文
「水中戦部隊緊急出撃」を告げるアラーム音が艦内に鳴り響いたとき、鏡音・月海(
gb3956)は休憩所で空母のクルーに労いの紅茶や珈琲を振る舞っているところだった。
「御仕事の時間のようですね」
そのままエレベーターで艦底側ハンガーへと直行。途中で上着のメイド服を脱ぎ捨て、ミニスカ&ハイニーソの戦闘服へと早変わりしつつ覚醒する。
その頃には、同じく水中戦を担当する他の傭兵達も相次いでハンガーへと姿を見せていた。
「わぁ、後少しで港なのに‥‥ボク、絶対許さないぞっ!」
待機所でポテチを食べながらくつろいでいた潮彩 ろまん(
ga3425)は、慌てて持ってきてしまった食べかけの袋を、その場に居た整備兵に預け愛機W−01改へと走る。
「行くよテンタクルスダイバー、輸送船団を守るんだ!」
「‥‥ようやくお仕事か。全く、このまま腐っちまうところだったぜ!」
待ってましたとばかり威勢良く駆け込んでくる伊佐美 希明(
ga0214)の様な者もいれば、「全部爆雷投下で片が付く楽な依頼」と思っていたらあと一歩という所での敵襲警報にお怒りモードのゴールドラッシュ(
ga3170)など傭兵側の反応も様々である。
「ああもう、こうなったら全部沈めてやるわよ!!」
民間軍事プロバイダー【sms】の一員であるキャル・キャニオン(
ga4952)などは、
「おほほ‥‥SIVAさまのお零れに預かるチャンスですわ。棚から牡丹餅、寝耳に衝撃電話。頑張りますわよ社長♪」
と上機嫌だ。
「そろそろ出る頃だとは思ってたけど‥‥ま、今回はきっちり護りきらなきゃな」
ジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634)は以前にも『G3P』計画絡みの輸送依頼に参加し、船団に被害を出してしまった苦い記憶がある。今回は名誉挽回と己の頬を叩き気合いを入れた。
「やはり来たな、さすがだぜバグアなのですよ」
自ら「海の娘」を自称するほどの海好き、美海(
ga7630)が嬉々としてビーストソウル(BS)に乗り込む。また彼女はUK参番艦の完成を心待ちにしており、その入れ込み様はもはや「フェチ」と呼んでいい。
そしてこの船団が甚大な被害を受けるようなことになれば、既に『轟竜號』の愛称も決まった参番艦の就航が遅れるのは明白だ。
「この輸送船団に指一本触れさせる訳にはいかないからな。速やかに邪魔者を蹴散らして、港で祝杯を挙げることにしようぜ」
同じくBS搭乗の威龍(
ga3859)も、機体を専用の発進口へ移動させ、直接海中に出撃した。
「こいつもいよいよ歴戦の勇者らしくなってきたな。今回も宜しく頼んだぜ、相棒」
輸送船団の真下から浮上してくる敵ワーム群に対し、傭兵達のKVは急遽3段構えの防衛ラインを敷くことで合意した。
A班(浅深部):希明、キャル
B班(海面下75mまでの中域部):ジュエル、美海、ろまん、井出 一真(
ga6977)
C班(海面下75m以下の深海部):ゴールドラッシュ、ザン・エフティング(
ga5141)、威龍、井出 一真(
ga6977)、月海
「UKの部品輸送‥‥民間の傭兵会社もフェニックスやシュテルンを持ち出してるから楽な仕事になると思ってたんだが」
バグア軍を迎え撃つ第1陣となるC班のザンは、計器盤にある水深メーターが通常の水中用KVの潜航限界である75mを超えるのを確認した。BSの耐水圧装甲により深度2百mまでの潜航には耐えられるが、その代り機体の練力消費は早くなる。
ただしこの点はさほど問題にならないだろう。
「高雄港まであと僅かということは、敵にとってもチャンスはこの一度だけ。こちらも出し惜しみなしで一気に攻め込むわよ」
ゴールドラッシュの声がC班僚機の無線に響く。
「やれやれバグアも空気読まずにこんな所で襲撃かよ、傭兵は仕事熱心だが奴らも案外と仕事熱心だよな」
ぼやきながらも水中用ホールディングミサイルのセーフティーを解除するザン。
同じ頃、テンタクルス改の潜航限界手前付近で機体を止めたB班の一真は、計算されたようなタイミングの敵襲に不気味なものを感じていた。
かつて伊万里湾海底で遭遇したバグア軍水中戦エースの記憶が蘇る。
「直下からの浮上攻撃‥‥これは、指揮官が居そうですね。注意しないと」
A班2機はいわば「最終防衛ライン」という事になるが、あまり浅海にいると肝心の護衛対象(輸送船団)を戦闘に巻き込んでしまう怖れがある。そこで若干深い場所に陣取り防衛ラインを突破した敵ワーム、あるいは魚雷などの遠距離攻撃に備えることにした。
「私は船団の中央あたりに陣取ってなるべく広範囲をカバーする。情報管制と援護射撃は任せたぜ、キャル」
希明はBSの機内から水中キット装備のR−01改に乗るキャルに通信を送った。
「心得ましてよ。餞別に戴いたスナイパーライフルD−06で弊社の威信を披露しますわ」
その間にも、護衛艦のソナー、哨戒ヘリの投下したソノブイによる索敵情報がSIVAのウーフーを介してキャル機に送信され、僚機KVの水中センサー情報と併せて深海から急速浮上する敵影を刻々とモニターに映し出す。
大鮫に似たメガロ・ワームが4機。
奇襲にしては敵の数が少ないことに引っ掛かったジュエルが仲間達に注意を促す。
「なんか妙な気配がするな‥‥伏兵にも気をつけていこうぜ」
「何か嫌なタイミングで狙って来たし、この間の水中ミミズを操る悪い奴が、何処かで隠れてお船を狙ってるかもしれないから要注意だよ」
同様の懸念をろまんも抱いているらしい。
海面下およそ120m付近の深海で、ブースト使用で急速潜航するC班と浮上するメガロがまず接触した。
4機のBSは敵機を有効射程に捉え次第、水中用ミサイルや重魚雷、Sライフルなどの長射程兵器を一斉に発射した。
暗い海底で水中爆発の泡が膨れあがり、命中弾を食った鮫型ワームが衝撃でもんどりうつ。だが敵は再び態勢を立て直すと、被弾にもめげず再び浮上を続ける。
腹に抱えているはずの魚雷は、あくまで輸送船攻撃用に温存するつもりらしい。
「まずいわね‥‥下手に近づけると、敵はあたし達と輸送船を同時に狙えてしまうわ」
ゴールドラッシュの言葉通り、まずはこの深海域でどこまで敵を食い止められるかが勝負の分かれ目だ。
さらに距離を詰めてきたメガロ部隊に対し、魚雷系兵装を撃ち尽くしたBS部隊はガウスガンなどの中距離兵器による弾幕で阻止を図る。
初撃のダメージが相当堪えたか、既にボロボロになっていた4機のメガロはBSに体当たりする前に力尽き、次々と自爆していく。
足元十mほどで発生した水中爆発の余波で、一瞬KVのセンサーとソナーのデータが途切れた。
『よし、今だ――ゴーレム隊、突撃!』
湧き上がる水泡の彼方から淡紅色の光条が走り、C班のBSを衝撃で揺るがした。
泡の蓋を突き破るように、プロトン砲と巨大な出刃包丁を思わせる大剣を振りかざした水中型ゴーレム3機が急浮上してくる。
「ちっ、奴らが本命かよ!」
ザンが舌打ちした。
見た目は区別が付かないが、スタンダードな陸戦型に比べるとやや性能が落ちるといわれる水中型ゴーレム。しかしその攻撃力と耐久力はメガロ・ワームより遙かに高い。
「テンタじゃこれ以下は応援にも行けないんで、やばくなったら早めに上がってきてくれよな」
ジュエルからの通信を受け、C班4機のBSはガウスガンで牽制射撃を加えつつ、水深70m付近で待機するB班と合流すべく後退(浮上)を開始した。
ゴーレム側もプロトン砲やガトリング砲を乱射してくるが、C班に対しては牽制程度に留め、BSを凌ぐ速度で海面を目指す。
人型形態で臨戦態勢に入るB班。ゴーレムを追って浮上するC班。
主戦場は水深60〜70mの中域部へと移動した。
「混戦になれば誰も立ち位置を見失いますわ」
水深20m付近で待機したキャルは、水筒の紅茶など優雅に啜りつつ計器盤のモニター類を監視していた。
その時、ソノブイの1つが足元の水面下で混戦状態に突入した敵味方両軍とは全く別の方向から輸送船めがけて急接近する小型物体を探知。
「これは魚雷‥‥いえ水中ロケット!?」
すかさず希明のBSに通報する一方、自らもSライフルD−06で迎撃態勢に入る。
「やっぱり伏兵かよ! このいやらしい手口――まさか、いつぞやのミミズ野郎か!?」
艦隊中央付近で弧を描くように哨戒を続けていた希明も、SライフルD−06、水中用長距離バルカンで敵ロケットを迎撃。
最初の1発はライフル弾を受け爆発したが、水深百mを超す深海より2発目、3発目と相次いでロケットが撃ち込まれてくる。
「ちっ、ジリ貧野朗のくせに、景気良くバカスカ撃ちやがって‥‥」
討ちもらした1発に向かい希明はブーストで突撃、サーベイジ併用でアンカーテイルを振り回し、爆発に巻き込まれるのも厭わず撃ち落とした。
「はっ、そう簡単にやらせるかよ!」
「ここから先は、ボク達が進ませないもん!」
海面への強行突破を図るゴーレムの1機に対し、ろまんは長距離バルカンで牽制を加えた後、ガウスガンによる本格的な迎撃を開始。
さらに距離が詰まると水中用太刀「氷雨」を抜き放ち、敵の大剣と切り結ぶ。
「寄らば斬る‥‥正義の太刀で真っ二つだもん!」
ろまんとペアを組む一真も側面からレーザークローで攻撃。
「多少の被害は、覚悟の上だ!」
さらにツインジャイロを盾代りに突っ込み、ゴーレムの浮上阻止を図る。
重魚雷、ガウスガンと距離に応じて砲撃を加えていた美海は、いよいよ白兵戦になるとレーザークローを実体化させ斬りかかった。
知覚特化に改造を加えたBSが振るう光の爪は、水中の巨人の分厚い装甲をザックリと切り裂く。
動きを止めたゴーレムに、上方からジュエルの放つガウスガンが弾痕を穿ち、再び振り下ろされた美海のクローが見事にとどめを刺した。
「これで腐ったガスも抜けるだろうさなのです」
そこへ浮上してきたC班4機も合流。彼らの場合輸送艦への誤射の怖れがあるため海面方向への長射程兵器は使えないが、レーザークローなどの近接兵器によりB班と挟撃の態勢を取る。
「海は私の故郷。これ以上あなた方の好きにはさせません!」
海を愛し海に愛される娘・月海が叫び、
「さすがにここから先へ進ませる訳にはいかないからな。大人しく俺たちの相手をして貰うぜ」
BSを人型変形させた威龍も得意のクロー攻撃で敵ワームを切り刻む。
数に勝るKV部隊の集中攻撃により、残り2機のゴーレムもやがて機能を停止し海中で自爆した。
奇襲攻撃を図った無人ワーム部隊は全滅したが、深海の暗闇からは相変わらず姿を見せぬ「敵」からの水中ロケットが打ち上げられて来る。
傭兵側KV10機はガウスガン、長距離バルカン等の弾幕を一斉に展開。空中のミサイルに比べれば速度の遅い水中ロケットを撃ち落とした。
ただし深追いはしない。彼らの任務はあくまで船団護衛であり、敵戦力の殲滅ではないからだ。
「護りきれるか‥‥?」
額に汗を浮かべながらも、ザンはガウスガンのトリガーを引き続ける。
果てしなく続くかと思われるような――だが実際には1分にも満たない雷撃戦のさなか。
「ご苦労さん。いま、最後の輸送船が高雄に入港したよ」
フェニックスで上空警戒にあたるSIVA指揮官・ラザロ(gz0183)の声が、ウーフーのデータリンクを介してKV各機の無線に入った。
その通信を傍受したか、あるいはロケット弾じたいを撃ち尽くしたか――ふいに海底からの攻撃は途絶えた。
「ちっ、今回は相手してる余裕はなさそうね。次は覚えておきなさいよ!」
おそらくは「例のEQ」であろう敵エース機に向けゴールドラッシュが通信を送り、他の傭兵KV各機も引き続き眼下の警戒を続けながら、空母への撤収を開始した。
「ふむ。ゴーレムならいけるかと思ったが‥‥奴らの水中用KVを見くびっていたか」
海底の泥へと潜り込み、人類側勢力圏からの撤退に入った有人EQ『ヴォールク』のコクピットでセルゲーエフは呟いた。
そして脳裏に思い描く。春日基地から提供された情報――バグア軍のビッグフィッシュを遙かに上回るという、人類軍の超巨大潜水空母『轟竜號』。
「まあ敵の艦(ふね)とはいえ、この目で見てみたい気もする‥‥元潜水艦乗りとしては、な」
UPC海軍の制服に身を包んだロシア人青年の口許に、微かに皮肉げな笑みが浮かんだ。
「やれやれ。今回はうまくいったぜ」
「3番艦が配備されたら、少しはこういう輸送も楽になると良いですね」
空母の甲板上より、無事高雄の港に入り積荷を降ろす輸送船団の光景を眺め、ジュエルと一真が言葉を交わす。
そして同じ甲板の上から、戦闘で荒れた海を癒すかの様に月海の透き通った歌声が響き渡るのだった。
<了>