●リプレイ本文
佐世保基地から出撃した傭兵達のKV10機は有明海上空でチェラル・ウィリン(gz0027)軍曹率いる正規軍部隊70余機と合流した。
「はじめまして、今回ご一緒させていただくセラ・インフィールド(
ga1889)と申します。よろしくお願いします」
「そういや初顔合わせだな。同じグラップラーのゲック・W・カーン(
ga0078)だ。よろしく頼む」
口々に挨拶する傭兵達の無線機に、
「あっ、こっちこそヨロシクぅ♪」
例によって脳天気なチェラルの返信が入る。
だが彼女と親しい――というか既に恋人といって良い仲の勇姫 凛(
ga5063)には、一見明るいその声にいつもほどの元気がないように聞こえた。
傭兵・正規軍合わせて80機を超す大編隊。しかしそのうち50機は在来型の戦闘爆撃機であり、目標到達前にHWから攻撃されたらひとたまりもない。
一方、爆撃部隊を護衛するKV部隊も、チェラルと傭兵達の機体を除けばその殆どが低改造のS−01改。2機がかりで小型HW1機にようやく対抗できるどうか、という所だろう。
しかも皮肉なことに、爆撃目標はつい最近まで人類側の基地だった空港だ。
「将来的に脅威と成り得る設備を破壊ってのは、まぁ仕方ないわな。仮に今占拠した所で、連中が取り戻しに来たらボロボロになるのは目に見えてるしよ」
イビルアイズの機上でゲックが肩をすくめる。
「本作戦はある意味、爆装した在来機部隊の損害率が勝敗を分けるといってもいいだろう。中には死ぬものもいるだろう。だが、ここで佐賀空港を叩かねば後の禍根となりかねん」
緑川 安則(
ga0157)は一般人兵士達の決意を確かめる意味で、爆撃隊の指揮官を務めるF−2改のパイロットに通信を送った。
「いわれるまでもない。司令部からは損耗率3割で撤退せよと命じられているが――我々は全員、出撃前に基地で水盃を交わしておる。たとえ最後の1機になろうとも、佐賀空港に突入しバグアどもに一矢報いる覚悟である!」
爆撃隊指揮官から、断固たる口調で応答が返る。
「結構。そこで我々は空戦部隊を相手にしつつ、シュテルンによる強襲降下でタートルワームを叩く。その後、最悪、シュテルンがいる状態でも爆撃してほしい」
これは正規軍にとっても、また傭兵にとってもリスキーな作戦だ。しかし敵防空部隊を相手にグズグズしていれば、バグア春日基地からの増援を呼び寄せる怖れがある。
友軍の被害を最小限に抑えるためにも、短時間での強襲で一気にケリを付けるのが唯一最善の戦術といえた。
「敵の部隊や基地に洗脳された兵士がいるのですか‥‥」
「おそらくね。空港を守っていたはずの友軍が‥‥今では奴らの手先にされてる」
リヒト・グラオベン(
ga2826)の問いかけに、憂鬱そうな声で答えるチェラル。
絶対数の少ないヨリシロ、改造に手間のかかる強化人間に比べ、洗脳兵はバグアにとってキメラ同様「安上がりな兵器」なのだ。
(「真弓のように正気に戻る可能性は‥‥ゼロに等しいのでしょうね」)
仮に洗脳を解く方法があったとしても、完全なバグア占領下の空港に配備された何百人という親バグア兵を全員救うなど、まず無理な話だ。
リヒトも搭乗して間もないフェイルノートの操縦席でため息をつき、覚悟を決めた。
「さてさて。北九州解放の一歩となれるんかなぁ‥‥」
「臨時でも‥‥まがりなりにも拠点の一つだし、厳しい戦闘になりそうだな‥‥」
作戦の困難さが理解できるだけに、烏谷・小町(
gb0765)や明星 那由他(
ga4081)の通信にも一抹の不安が滲む。
だが迷っている時間はない。
有明海上空に出てからあっという間に対岸の佐賀空港が、そして滑走路から次々浮上する迎撃のHWとCWの群れが目に映った。
問題はKVの能力を大きく削ぐCWと、オリーブドラブに塗装された中型HWの存在だった。おそらく敵ワームのうちでは唯一の有人機。迎撃部隊の指揮を執るエース機であろう。
傭兵と正規軍の合同部隊は作戦の第1フェイズ、すなわち有明海上空における敵航空戦力との交戦に入った。
「混迷の九州戦線に投じるこの一石が‥‥大きな波紋を呼ぶ一石とならん事を、ボクは切に願うよ」
クリア・サーレク(
ga4864)は自らTACネーム「Ripple(波紋)」と名付けたシュテルンの操縦桿を握り締めた。
3割の損耗なんて言わない、全機無事に帰還させてみせる。
「その為にRipple、全力で舞うよ!」
「叩かれる前に叩く、いくよシュテルン‥‥」
アセット・アナスタシア(
gb0694)もまた自らの愛機に言い聞かせる。
「後方の味方には指一本触れさせない」
α班(対エース機):セラ、凜、チェラル
β班(対CW・HW):小町、リヒト、河崎・統治(
ga0257)、アセット、クリア、ゲック、安則、その他正規軍S−01改×16
γ班(爆撃機護衛):正規軍S−01改×4、岩龍改×2
既に敵HWからはプロトン砲がさかんに放たれてくるが、まだ射程が足りずその光線も届かない。
敵編隊を距離1kmまでひきつけたとき、
「マルチロック完了‥‥先制攻撃を仕掛けます」
リヒトはフェイルノートの機体得能TBMアタックを起動。間隔を空けてロックしたK−02ミサイルの第1撃を発射した。
CW群のジャミングにより狙いは外れるものの、扇状に広がった250発に及ぶ超小型ミサイルの猛射はそのまま弾幕代わりとなりHWの編隊を混乱に陥れる。その隙をつき、まだTBMの効果の続く機体から今度はCW目がけて127mmロケット弾を発射。
「まだ乗り慣れない機体‥‥無理は禁物ですね」
遠距離攻撃主体のフェイルノートに代り、ペアを組む小町のディアブロ改が前に出る。
「正規軍さん、派手な花火頼むでぇ!」
いよいよ両軍が交戦距離に入った瞬間、β班のS−01改16機がHミサイルを斉射。
このタイミングに合わせ、安則は雷電の超伝導アクチュエータ併用でK−01ミサイルを全弾撃ちまくった。
「とにかく撹乱だ。初手で混乱させているうちに何とかしなければ回避、防御共に貧弱な在来機へのダメージが大きくなりかねん」
有明の空に無数の噴煙が尾を引き、敵HWは攻撃も忘れ、この飽和攻撃から逃れようと慣性制御で逃げ惑う。
人類側KV部隊は岩龍改2機の電子支援の下、ブーストをかけ敵HW群に向かって突入した。
安則とペアを組む那由他のイビルアイズが前に出て、ロケット弾とヘビーガトリングでCWを墜とす。
「ほんとならBRキャンセラーを使いたいけど‥‥、それは空港上空に着くまで‥‥」
「さて、攻撃隊の露払い、しっかりやらないとな」
統治のディアブロ改はアセットのシュテルンとロッテを組み行動。また正規軍S−01改にも同様にロッテ編隊と同一目標への集中攻撃を指示した。
「敵編隊を確認。掃除を開始する」
新たなディアブロの機体得能、パニッシュメント・フォースを起動しロケット弾でCWを狙い打ちにする。以前に比べると一撃の威力は落ちたものの、効果が長く続く分CW掃討にはこちらが有利だ。
一方乱戦の中で配下のHWを鼓舞する用に飛び回る中型HWに向かい、α班3機がケッテ編隊を組んで迫った。
「貴方の相手は私達です。しばらく付き合ってもらいますよ」
『‥‥』
セラの言葉に敵エース機からの返信はない。だが返答のごとく慣性制御で方向転換すると、問答無用でプロトン砲を放ってくる。
セラ、凜、そしてチェラルの3機はβ班がCW掃討に専念している間、中型HWの足止めも兼ねて回避と牽制に徹していたが、やがてCWの数が減り、レーダー機能がほぼ回復してきた頃合いを見計らい一機に攻勢に出た。
PRMシステムで抵抗を増幅したセラのシュテルンはUK−10AAMで中HWを牽制、隙を見て装甲の薄そうな部位を狙いレーザーガトリングを撃ち込む。
シュテルンに翻弄されつつも頑強な抵抗を続ける敵エースに対し、凜とチェラルの機体が突撃をかけた。
「行こうチェラル、凛達のコンビネーションを見せてやろっ」
「よーし、やっつけちゃお!」
風防越しにニッと歯を見せチェラルが親指を立てる。
「‥‥アリスシステム始動、マイクロブースターON!」
凜のエミタとKVのAIが連動、さらにブースト&Mブースターで最大限に回避を上げたロビンに、シンクロした様にピタリと動きを合わせるチェラルのミカガミB型。
(「チェラルの動きや考え、前に一緒に戦った時より良くわかる‥‥側で手を取り合ってるみたいに」)
左右から迫る2機から息の合ったレーザー攻撃を浴び、中HWは一瞬戸惑う様に動きを止めた。慣性制御で逃れようにも、その先にはロビンかミカガミどちらかが回り込み、さらにシュテルンのミサイルが退路を阻む。
機体得能の効力が切れロビンの知覚が回復した頃、能力者達を悩ませていたCWもほぼ姿を消し、β班は次なる獲物である小型HWに食らいついていた。
「アリスシステムダウン‥‥やるよ、チェラル!」
「OK、凜君!」
螺旋を描くように互いの軌道を交差させ、敵の照準を乱しつつ急接近する。
「2人の絆は、絶対無敵なんだからなっ!」
知覚に秀でた2機のKVから発射された2条のレーザーがエース機のコクピット付近の1点で収束。中型HWは一瞬動きを止めるや、黒煙を吐きつつ眼下の海面に落下――間もなく巨大な爆発の水柱が上がった。
「こっちの方は何とかなるかなー。あっちは手伝いに行かんでも大丈夫やとは思うけどー」
α班が敵エース機を撃墜する少し前、小町はリヒトからの援護射撃を受けつつ、自らは手近の小型HWを狙いレーザー砲で牽制しつつ距離を詰め、スラスターライフルの弾雨を浴びせて1機ずつ確実に墜としていった。
次なる目標を見据え、一歩先を呼んでリロードと方向転換。距離をおいた敵には必中のUK−10AAMをお見舞いする。
やがて中型HWが海の藻屑と化すや、残存のHWは指揮官を失い混乱したのか、各自バラバラの動きで闇雲に光線を乱射し始めた。
その頃には戦場は佐賀空港上空へと移り、同時に人類軍の攻撃も第2フェイズを迎えた。
滑走路上に展開したタートルワーム4機からのプロトン砲を始め、洗脳兵による高射砲や対空機関砲の火箭が花火の如く打ち上げられてくる。
そんな中、那由他のイビルアイズが温存していたBRキャンセラーによる重力波ジャミングを開始。セラ、クリア、アセットのシュテルン3機がVTOL機能を活かして空港への強行着陸に挑んだ。
「こちらアセット、これから基地へ着陸し目標を撃破するよ。余裕があれば空からの援護よろしく‥‥!」
要請を受け、安則を始め手持ちのロケット弾を残したKVはHWとやり合う一方で地上の対空陣地へもロケット弾の攻撃を開始した。たとえ命中はせずとも、上空から降り注ぐロケット弾はそれだけで充分な牽制となる。
「爆撃機を落とさせることが出来んからな。邪魔するなら壊させてもらおう」
このときリヒトが予めチェラルを通じ進言した通り、S−01改もロケット弾による対地制圧攻撃に参加していた。
「貴方達に罪はありませんが‥‥」
リヒト自身もフェイルノートの高度を下げ、洗脳兵の操る対空銃座に向けて127mmロケット弾を撃ち込んだ。
先に降下したセラが煙幕銃を発射、白煙の立ちこめる中、機盾アイギスで身を守りつつクリアも着地。
滑走路に降り立つなり、アセットはミサイルポッドと突撃ガトリングで牽制しつつ詰め寄り、大亀ワームの首の下辺りを狙い機杭エグツ・タルディを叩き込んだ。
「どんな装甲だろうと‥‥ゼロ距離から撃ち抜けば!」
タートルが怒ったような唸りを上げ、至近距離からプロトン砲を浴びたアセットは灼けるような熱さに歯を食いしばった。
「空で皆が頑張ってるのに‥‥ここでやられるわけにはいかない!」
その傍らではクリアが練剣「白雪」を実体化させ、別のタートル目がけ光の刃で斬りつけている。練剣の使用は最初の2発だけだが、これで大ダメージを与える事によりタートルどもの注意を爆撃隊から逸らすのだ。後は盾を構え、ひたすらヘビーガトリングを撃ち続ける。
セラもまた「白雪」でタートルの砲台目がけて斬撃を浴びせ、練力が残り少なくなるとレーザーガトリングの砲撃に切替えた。
わずか1分ほどの戦闘でタートル2機が撃破され、ダメージを負った2機も手足を甲羅に引っ込め防御態勢に入った。
滑走路を使い緊急着陸したチェラルのミカガミが人型変形、内蔵「雪村」を実体化させタートル1機の甲羅に深々と突き立てた。
「もうすぐ爆撃隊が来るよ。みんな、早く離脱の準備を!」
海の方から響く、雷鳴のごときジェットの轟音。
3機のシュテルンは最後のタートルを集中攻撃で撃破、素早く垂直離陸で地上から舞い上がった。わずかに遅れ、ミカガミも離陸する。
「ここまでの支援を感謝する!」
爆撃隊指揮官から通信が入り、シュテルンと入れ違いに空港へと突入するF−2改、F4−EJ改のパイロット達から風防越しに敬礼が送られる。
「‥‥皆、幸運を」
敬礼を返しつつ、アセットは思わず呟いた。
やがて50機に及ぶ戦闘爆撃機から500ポンド爆弾が相次いで投下され、両翼パイロンからは数知れぬ空対地ロケット弾が雨あられと撃ち込まれた。その目標は主に管制塔、レーダー施設、燃料タンクなど。滑走路じたいはHWにとってさほど意味はないので、とにかくバグアに利用されそうな空港施設を徹底的に破壊しておくのだ。
その間にも上空ではゲックがBRキャンセラーをかけつつHWをスラスターライフルで蜂の巣にし、小町もエース機撃墜と競うかのごとく残存HWを狩り続ける。
だが傭兵達の攻撃を擦り抜けた何機かの小型HW、あるいはしぶとく生き残った洗脳兵の対空砲火により何機かの爆撃機が被弾し、辛うじて海へとUターンしてから射出座席でパイロットが脱出した。
パラシュートで着水した彼らを救出するため、予め海上に待機していた護衛艦からボートが降ろされる。
紅蓮の劫火。そして濛々と立ちこめる黒煙が空港全体を覆い尽くし、もはや目視するのも難しいが、ともかく相当の被害を与えたのは確かだろう。
春日基地から指令を受けたのか、残り少なくなった小型HWが福岡方面に向けて撤退していく。
傭兵達もチェラルや正規軍と共に長崎空港への帰路に着いたが、結果的にS−01改2機、在来型機5機が撃墜されたことが判明。幸いパイロットは全員護衛艦に救助されたとのことだった。
バグアが再び空港を拠点化しようと図っても、それは早くて1ヶ月以上先のことになるだろう。その間に何としても筑後川まで防衛ラインを押し戻し、佐賀奪回の態勢を整えなければならない。
「まだ暫くは厳しい戦いが続く事になるな」
基地へ帰る機上から燃えさかる空港を振り返り、統治は小声で呟くのだった。
<了>