タイトル:【ODNK】折れた槍マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/06/05 12:34

●オープニング本文


●福岡県〜柳川市近郊
 矢部川を渡って大牟田市侵攻を目指したバグア軍の攻勢は傭兵達の活躍で阻まれたものの、佐賀を制圧したバグア軍は依然として熊本への地上最短ルートである大牟田方面への南進を虎視眈々と狙い、またUPC軍側もL・Hから傭兵の増援を得て反攻の機会を窺う。
 現在、柳川近辺の各所では両軍入り乱れて一進一退の攻防が繰り広げられていた。


 廃墟と化した市街地を、負傷した女傭兵がロングスピアを杖代わりに、よろけながら歩いていた。
 歳はまだ二十歳に届かぬほど若い。戦場には似合わぬ桜模様の和服姿だが、その着物も薄汚れて所々が破れ、長い黒髪が汗と埃にまみれた頬に張り付いていた。
(「私としたことが‥‥不覚を取りました」)
 UPC本部よりキメラ掃討の依頼を受け、8名の傭兵小隊を組んで現地へ派遣された。
 メンバーは彼女も含めてベテラン揃いの精鋭部隊。当初の戦闘では町を占拠する中小型キメラを順調に屠っていった。
 だが突如として情報になかったゴーレム2体が出現。いかに能力者傭兵といえども生身の武器では敵するべくもなく、部隊は散り散りになり仲間達の生死も不明。彼女自身も深手を負い、今は辛うじて歩くのが精一杯だ。

 崩れかけたビルの陰から、低い唸り声が聞こえた。
「――!」
 山猫を二回りほど大きくした様な獣型キメラ。血の臭いを嗅ぎつけ近寄ってきたのだろうか?
 残り少ない練力を振り絞り覚醒――少女の足許から蝶に似た淡い光が舞い上がる。
 スピアを構え直し、牙を剥いて襲いかかってきたキメラを迎え撃つ。
 だが、キメラのフォースフィールドを貫くはずの槍は音を立てて折れた。
 先のゴーレム相手の戦闘で、SES機能が壊れていたのだ。
「ああっ!?」
 鋭い牙が肩口に食い込む。
 血飛沫が舞い、覚醒の解けた少女は路面に叩きつけられた。
(「面目御座いません。ここまでです、お祖父様‥‥」)
 死を覚悟して、静かに目を閉じる。
 鈍い打撃音。重い肉塊がすぐ側にドサッと落ちる音。
「おい! 大丈夫か?」
「‥‥?」
 恐る恐る瞼を開くと、そこに息絶えたキメラと、身の丈2m近い巨漢の若者が仁王立ちに立っていた。
 鍛え上げた拳のメタルナックルがキメラの返り血で真っ赤に染まっている。どうやらグラップラーらしいが、彼もまた全身傷だらけだ。
「まいったぜ‥‥あの泥人形がいきなり現れたもんで、仲間達とはぐれちまった」
「‥‥あなたも‥‥傭兵、ですか?」
「ああ。UPCの依頼でL・Hから来たんだがなぁ」
 おそらく別口で派遣された傭兵部隊のメンバーだろう。
「とにかく、ここでウロウロしててもキメラどもの餌になるだけだ。何処かに隠れた方がよさそうだな‥‥ところで、あんた名前は?」
「榛名‥‥。十神榛名(とおがみ・はるな)と申します」
 片手で肩の傷を押さえ、榛名は痛みを堪えつつ立ち上がった。

 焼け残ったビルの一室に身を潜め、窓から外を窺うと、2機のゴーレムが獲物を求めるかの様に往来をのし歩いている。
「ファック! 奴らさえいなけりゃ、何とか脱出できるんだがなっ」
 中指を立てて罵った後、グラップラーの男は救急セットで榛名の応急手当にかかった。
 彼の名はレドリック・ゴーディッシュ。能力者になる前はメトロポリタンXでプロレスラーをやっていたという。
「こんな所でくたばってたまるか! L・Hにゃ妹もいるんだ」
「どうぞ‥‥お一人で脱出なさってください。私がいても、足手まといになるだけですから‥‥」
「そういうワケにはいかねーだろ? あんた、そのケガじゃ」
「私とて武道家の端くれ‥‥元より死ぬ覚悟は出来ております」
「おいおい? いくらジャパニーズだからって、今時カミカゼは勘弁してくれよ。それとも何だ、最近彼氏にでもフられたかい?」
「‥‥‥‥」
「わーっ!? ま、待てぇ!!」
 無言で懐から取り出したSES小太刀で己の喉元を突こうとした榛名を、慌てて押し留めるレドリック。
 ほんのジョークのつもりが、何やら図星を突いてしまったらしい。
「と、とにかく落ち着け‥‥運がよけりゃ、今頃逃げた仲間が援軍を呼んでくれてるはずだからよ」

 その言葉通り、天はまだ2人を見放していなかった。
 命からがら最寄りのUPC軍陣地まで撤退したそれぞれの傭兵部隊が、ULTへ戦場に取り残してきた榛名とレドリックの捜索依頼を出していたのである。

●ラスト・ホープ〜UPC本部
「ハイ、MIA(戦時行方不明者)の捜索依頼ですね?」
 新米オペレーター、ヒマリア・ジュピトル(gz0029)はマイクに向かってハキハキと答えた。
「お名前は‥‥十神榛名さん、と‥‥レドリック‥‥ゴーディッシュさん‥‥」
(「あれ? 2人とも、どっかで聞いたような‥‥」)
 依頼受理の手続きを行いながら、ハタと考え込むヒマリア。
「アーッ!!」
 やがて周囲が驚くほどの大声を上げた。
「榛名さんは去年一緒にお花見した人だし‥‥レドリックさんていえば、弟の彼女のお兄さんじゃない!?」

●参加者一覧

トレイシー・バース(ga1414
20歳・♀・FT
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
霞倉 彩(ga8231
26歳・♀・DF
魔宗・琢磨(ga8475
25歳・♂・JG
ふぁん(gb5174
20歳・♀・DF

●リプレイ本文

●L・H〜UPC本部
「その2人で間違い無いのか!?」
 斡旋所のモニターで依頼内容を確認した寿 源次(ga3427)は思わず怒鳴っていた。
「悪い、つい声が」
 驚く周囲の職員達に詫びつつ、腕組みして思案する。
(「見知った顔がこんな事になるとは‥‥効くな。無事でいてくれ」)

●数時間後〜傭兵待機所
「ワシも行くぞっ!」
 道着袴に白襷、白鉢巻という出で立ちの老人・十神源二郎がロングスピアの石突きでドン! と床を突いた。
「不肖の弟子とはいえ榛名はワシの孫。各々方の手を煩わせたとあっては、師として祖父として面目が立たん!」
「まあ落ち着いて下さい、十神先生。救出に向かう傭兵も手練れの者達。必ずや榛名嬢を無事連れ戻すことでしょう」
 榛名・源二郎の両名と親しい榊兵衛(ga0388)がやんわりと窘める。
「それに、助けを待っているのは榛名嬢だけではありません。ここは彼らに任せましょう」
「‥‥むぅ」
 その様子を少し離れた場所から見やり、
(「やれやれ。兵衛を呼んでおいて正解だったな」)
 内心で胸をなで下ろす源次。
 今回の要救助者の1人に十神榛名がいることから、祖父の源二郎が出張ってくる事は充分予測できた。だがいくら能力者で十神流棒術館長とはいえ、80も半ばを過ぎた老人を前線に出すのは危険過ぎる。
 そういうわけで、別依頼のため参加はできなかったものの丁度L・Hに戻ってきた兵衛に至急連絡を取り、引き留め役を頼んでおいたのだ。
 一方、源次を含む救助部隊の傭兵達は、オペレーターのヒマリア・ジュピトル(gz0029)を囲み出発前の最後の打ち合わせに入っていた。
「しばらく前に柳川を渡った敵を追い返したことがありましたが、まだあの辺りでは戦闘が続いていたんですね。お二人とも無事だといいのですが‥‥」
 セラ・インフィールド(ga1889)は今年の初め、大牟田近辺の防衛依頼に参加している。あれから半年近く経つが、北九州におけるUPC・バグア両軍の戦闘は収まるどころか益々苛烈さを増しているようだ。
「少し時期がずれてれば、俺達が救出を待つ身になったかもしれないな‥‥」
 生身で派遣された部隊が運悪くゴーレムに遭遇したと聞き、魔宗・琢磨(ga8475)も他人事には思えなかった。
(「そんな時、他の誰かが必ず助けに来てくれるって信じられるよう、今の俺達が救出を頑張らないとな!」)
「安心しな、皆生きて帰ってくる。‥‥絶対にだ!」
「俺は救出対象のお二人を知らないので、何か手がかりになるものはありませんか?」
 リヒト・グラオベン(ga2826)がヒマリアに尋ねる。
「これが2人の写真と身体特徴、それに出発時の装備‥‥あと、その‥‥認識番号です」
 僅かに語尾を濁したのは、「最悪の場合」遺体を確認する最後の手段が、身につけた認識タグのナンバーとなるからだ。
 源次は2人が所持していると思われる無線機の周波数を確認した後、声を落としてヒマリアに耳打ちした。
「ミーティナはどうしてる?」
「いま本部内の別室に来てますけど‥‥多分大丈夫です。弟が付き添ってますから」
 ヒマリアの弟テミストと、レドリックの妹ミーティナは恋人同士だ。といっても、まだ14歳と11歳の幼いカップルだが。
「そうか‥‥なら、後は任せろ。何せ奴はヒマリア君のお義兄さんになる(予定)の男だしな?」
「大丈夫、凛達が絶対助け出してくるから」
 勇姫 凛(ga5063)も力強く頷く。
 やがて出発の刻限が迫り、KV使用の傭兵達はハンガーに駐機する各々の搭乗機へ、源次のリッジウェイ「大山津見」及び生身で救助にあたる者達は大型輸送機へと向かった。

●北九州〜柳川近郊
 最前線のUPC軍基地で改めて装備や編制を整えた傭兵達が現場へ到着したのは、朝の8時頃だった。
 まずは源次が無線で呼びかけてみるが、あいにくバグア側のジャミングがひどくて人間用のトランシーバー程度では通信できそうにない。
 今の所戦闘そのものは一段落しているようだが、敵にゴーレム2機が確認されている以上油断はできない。
 そこでKVに搭乗する4名が2機ずつペアを組み、先行して市街地へ踏み込んだ。

A:凛(ロビン)&霞倉 彩(ga8231)(ディアブロ改)
B:セラ(シュテルン)&ふぁん(gb5174)(阿修羅改)

 陸戦形態で廃墟と化した街に入り、障害物を避けながら進むこと、およそ10分。
 ビルの陰で何か巨大な影が動き、その直後プロトン砲の光線が撃ち込まれてきた。
 重力波センサーを装備しているだけに、敵の方が先にこちらのKVに感づいたらしい。
「早速現れましたね」
 セラは試作型スラスターライフルで応戦しつつ、仲間達とじりじり後退。
 やがてゴーレム2機が姿を現わし、プロトン砲を連射しつつ後を追ってきた。
 これは傭兵側も織り込み済みだ。まず最大の障害であるゴーレム部隊を街の外まで誘き出す、陽動作戦。たとえ敵の陸戦ワームを撃破しても、要救助者の2人を巻き添えにしては元も子もないからだ。
「手間取ると面倒‥‥ゴーレムを片付けたら、キメラの排除しながら私達も捜索しよう‥‥」
 同じくスラスターライフルでゴーレムを引きつけつつ、彩はKVサブアイカメラのモニターに映る廃墟の街並みを見やった。

「とりあえず第1段階は成功か‥‥」
 ゴーレム達が友軍のKV部隊を追って街を出て行く姿を確認した後、やや離れた場所で墜落した戦闘機の陰に車両形態の「大山津見」を停車させていた源次は、SESエンジンを発動させ入れ替わるように市街地へと入った。
 後部の兵員用キャビンには、直接の捜索・救出にあたるトレイシー・バース(ga1414)、リヒト、琢磨らも乗り組んでいる。
「2人とも生きててくれればいいんだけどね」
「最初の通報からもう一晩過ぎてる。能力者とはいえ練力切れが心配だな」
 自らの武器装備をチェックしつつ、トレイシーと琢磨が言葉を交わす。ゴーレムの釣り出しには成功したものの、市街地にはまだ先行部隊の討ちもらした中小型キメラが徘徊していると思われる。別々の部隊として派遣された2人が一緒にいるとは限らないが、ともかくどこか安全な場所に隠れている事を祈るのみだ。
 行く手を阻む瓦礫をヘッジクローで粉砕しつつ、「大山津見」は街の大通りをゆっくり進んでいく。
「迎えに来たぞ! 声を出せずとも、何か反応をくれ!」
 時折機体の外部スピーカを使って呼びかけ、センサーやモニターの反応を確認。
 声を聞きつけ寄ってきたキメラが体当たりしてくるが、幸いリッジウェイの重装甲はびくともしない。しつこくつきまとってくる奴はガトリング砲で薙ぎ払った。
 そうしてどれほどの間捜索を続けたか――。
 スピーカで何度目かの音声を流した時、前方の廃ビルの窓で何かが光った。
 朝陽を反射してチラチラと光るそれは、傭兵が連絡用に使うシグナルミラーの様であった。

 同じ頃、ゴーレム2機を牽制しつつ充分街の外へ誘き出した陽動班は、一転して反撃を開始していた。A・B2チームが各1機ずつゴーレムを担当する形での連携攻撃だ。
「暫くはここで遊んでもらいましょう」
 ふぁんの阿修羅改が放つ高分子レーザーの支援を受け、セラのシュテルンが前進。兵装を持ち替えたゴーレムのバグア式ディフェンダーをヒートディフェンダーで受け流し、そのまま白兵戦に持ち込んだ。
 ゴーレムを街の方へ逃がさないため、ふぁんは側面から回り込み、阿修羅改の尻尾を伸ばしてサンダーテールによる雷撃を叩き込む。ディフェンダーを盾代わりにして防ごうとしたゴーレムだが、一切の防御を無視する特殊攻撃により耐久を削られ、その巨体がグラリとよろめいた。
「いくよ、シャウラ‥‥新しい力だ‥‥。パニッシュメント・フォース‥‥アクティブ‥‥」
 白をベースに青系のアクセントでペイントされたディアブロ改、彩の「シャウラ」が新スキルを起動。攻撃力を増幅した30mm重機関砲が火を噴き、人型ワームの足元と下半身に撃ち込まれる。
「ゴーレムの足は私が止める‥‥いいよ、凛、行って!」
 相棒の合図を受け、凜のロビンがレーザー砲、レーザーガトリングを連射しつつ突撃する。
「さぁ、お前の相手は凛達だ!」
 誘導を開始した時点でアリスシステムを起動させたので、現状は知覚を下げた分回避と命中を増幅している。おそらくこの戦闘中に機体スキルの効果が切れるので、凜はその時に勝負をかけるつもりだった。
「これ以上、2人を危険な目には遭わせないんだからなっ」

 合図のあったビルの入り口付近まで「大山津見」を近づけ、源次は兵員室の後部ドアを開けた。
 中からトレイシー、リヒト、琢磨らが飛び出すや、付近の路地や瓦礫の陰から対人キメラがワラワラと飛び出してくる来る。
「凄ぇ数だな畜生。‥‥これで大分殲滅された後ってんだから、先行班の疲労も相当だろうな‥‥」
 助けを待つ2人の身を案じつつ、琢磨は真デヴァステイターの銃弾をキメラへと浴びせる。
 その傍らで、トレイシーが長身から繰り出すバトルアクスの斬撃でビースト型キメラの頭蓋を断ち割った。
「邪魔よ! 大人しく路をお開け!」
 救出班の行動中、源次はリッジウェイの操縦席で待機していた。
 焦りはあるが、後は仲間達を信じるのみ。
「大山津見」を人型変形させると、道路側から接近してくるキメラをガトリング砲や踏みつぶしで防ぎつつ、源次は救出班からの合図を待ちわびた。
「皆が帰る場所だ、退く訳にはいかん!」

 ビル内へと踏み込んだリヒトが呼子を吹くと、丁度2階の方から若い男の声が応えた。
 キメラの方は他の2人に任せ、瞬天速で階段を駆け上がる。声の聞こえる2階の一室を覗くと、仁王立ちの大男とばったり出くわした。
 写真で顔を見たレドリックだ。
「傭兵のリヒト・グラオベンです。あなたと十神榛名を救出に来ました」
「ふう、助かったぜ‥‥こっちもそろそろヤバいとこだった」
 大仰に肩をすくめるレドリックの足元に、数匹のキメラが死骸となって転がっている。どうやら一睡もせず戦っていたらしい。
 部屋の中では、青ざめた顔の榛名が壁にもたれかかり座り込んでいた。
「如何です? 具合の方は」
 とりあえず持参のミネラルウォーターを渡しながら、レドリックに尋ねる。
「俺は大丈夫だがな。そっちのレディは、早いとこ病院に連れてった方がいいだろ」
「判りました。すぐに仲間達も到着するはずです」
 リヒトは予備の武器を差し出したが、レドリックは「いや、俺はこいつで充分さ」と拳のメタルナックルを示しニヤリと笑った。
 トレイシーと琢磨が合流するのを待ち、計5名となった能力者達は休む間もなく脱出の準備にかかる。琢磨が窓から「要救助者発見」の照明銃を撃つと、入り口を守るリッジウェイからも返事の照明銃が打ち上げられた。
「さて、榛名さんはあの人に任せて‥‥レドリックさん、リッジウェイまで走り抜けますが、行けるっすか?」
「おう。まだそれぐらいの練力は残ってるぜ」
「上等! それじゃ一気に走り抜けるぜ!」
 身動きできない榛名をリヒトが抱え上げ、他の3名は露払いとして階段に残るキメラを排除しつつ駆け下りる。
「こんな所に長居は無用ね!」
 トレイシーが戦斧を振るって近づくキメラを蹴散らし、琢磨は真デヴァステイターのリロードをデヴァステイターで補いつつ銃撃を絶やさない。
 両手の塞がったリヒトは靴に装備した風火輪で敵を切り裂いた。

 源次がリッジウェイから打ち上げた赤色の照明弾は、街の外でゴーレムを足止めする陽動班のKVからも観測できた。
「救出成功の様ですね。こちらも一気に決めましょう」
 セラはPRMシステムを起動。練力100を知覚へ注ぎ込み、練剣「白雪」を実体化。ゴーレムの懐に飛び込むなり袈裟斬りから返す刀で逆袈裟、さらに刺突の3連撃を加える。
 機体各所より煙を吹き出し、殆ど動きを止めたゴーレムに対し、
「これが生まれ変わった阿修羅の力よ!」
 ふぁんは改良された機体スキル・クラッシュテイルを発動、鞭の如く伸びた尻尾から練力で増幅された雷撃を送り込みとどめを刺した。
 重機関砲の弾を撃ち尽くした彩は兵装をスラスターライフルに切替え、残るゴーレム1機になおも弾雨を浴びせ続ける。
 その時、アリスシステムの効果が切れた凜は試作剣「雪村」を実体化。
「誰かを助けたいと思う気持ちは、絶対無敵なんだからなっ‥‥みんなの願いを刃に変えて、輝け雪村!」
 ロビン本来の知覚を強力な光の刃に変え、彩の激しい砲撃で装甲をボロボロにされたゴーレムを一刀の下に両断した。

 再び車両形態に変形した「大山津見」は救出班を収容後、KV4機の護衛を受けつつ最寄りのUPC陣地に向け移動を開始した。撤退路の障害になりそうなキメラ群は、既に彩の「シャウラ」が掃討済みだ。
「‥‥」
 兵員キャビンの中で榛名は無言のまま俯いていた。
「いや、俺も詳しい事情は知らないんだがな――」
 レドリックは救出班の傭兵達に、彼女が衝動的に自害しかけた一件を小声で説明した。
「‥‥生きる事は可能性です。貴方は絶望や悲しみに暮れる事を恐れ、その先に待っているかもしれない楽しさや喜びを放棄してしまうのですか?」
 その話を聞き、悲しみを込めて榛名を諭すリヒト。
「‥‥亡くなった方々は、その可能性すら奪われてしまったのですよ」
「そうよ。『Life is beautiful』っていうじゃない?」
 トレイシーも心配そうに話しかける。
「積もる話もあるが‥‥今は帰ろう。そして榛名君の治療だ」
 彼女が落ち込んでいる本当の理由を知る源次の心境は少々複雑だ。
「チョコ食うか?」
 そういって背後の小窓からトリュフチョコを差し入れた。

●L・H〜UPC本部
「――お兄ちゃん!!」
 輸送機から降りてきたレドリックの姿を見るなり、妹のミーティナが泣きじゃくりながら駆け寄って逞しい胸に縋り付く。
 傭兵達の肩を借りてタラップを降りた榛名は、迎えに出た兵衛の姿に気づくなり、ハッとしたように髪と着物の乱れを整えた。
「ご苦労様だった。生きて帰れた事、それだけで今は十分だ。今回のことを己の血肉とすれば、榛名はもっと成長出来ると思う。期待させて貰うぞ」
「はい‥‥この度は、誠にご迷惑をおかけしました」
 兵衛と、そして救出にあたった傭兵達に向かい、深々と頭を下げる榛名。
「まあ、何にせよ良かった」
 安堵のため息をもらす源次の横では、源二郎翁が目に涙を浮かべてウンウン頷いている。
「来年もまた、みんなでお花見にも行けるといいよね」
 ロビンから降りた凜も、にこっと笑みを浮かべるのだった。

<了>