●リプレイ本文
●ミーティナって誰?
「恋‥‥そういうのは難しい話ですよね‥‥取り敢えずはミーティナちゃんの方がどのような女の子かを見ることにしましょう」
ヒマリアの呼びかけに応じて集まった傭兵たちの一人、大曽根櫻(
ga0005)が提案した。確かに、まずは相手の事が判らなければ始まらない。
ミーティナの兄、レドリックは能力者の傭兵だという。念のためULTに問い合わせてみたところ、現在は依頼のためラスト・ホープを留守にしているとの返答だった。
となると、やはり直接本人に当たるしかない。
同性ならば向こうも話しやすいだろうということで、櫻の他、宇佐見 香澄(
ga4110)、そして姫藤・椿(
ga0372)、姫藤・蒲公英(
ga0300)の姉妹がミーティナの通う学園の初等部を訪ねることになった。
「‥‥仲良く‥‥なれたら‥‥いい‥‥ですね‥‥」
おどおどした口調で蒲公英がいう。年齢でいえば一番ミーティナに近い彼女が適任なのだが、いかんせん内気な蒲公英は、姉の椿の背中に隠れるようにしてついていくのが精一杯という雰囲気である。
「ミーティナちゃんは、彼のどこに惹かれたんでしょうねー? 運命的な出会いとかあったりなんかして‥‥」
一方、香澄は独りロマンチックな想像に耽ってトリップ中。
「‥‥はっ!? あれ?」
気がつくと誰もいない。
みんな彼女を置いて先に出発していたのだ。
学園に到着したものの、原則として校内に入れるのは教職員の他は生徒の家族など関係者だけだ。そこで一行は受付の職員に傭兵のIDカードを見せ、「傭兵仲間に頼まれて、妹さんの様子を見に来た」と理由をつけて面会申請。学園側が用意した面談室で、何とかミーティナと会える段取りをつけた。
待つこと10分ほど。担任の教師に連れられて入ってきたミーティナは、暗紫のストレートヘアを腰まで長く降ろした、まるで人形のように可愛らしい少女だった。
4人の顔を不安そうに見渡し、
「あ、あの‥‥お兄ちゃんに、なにかあったんですか?」
見知らぬ傭兵たちがいきなり訪ねてきたので、てっきり兄の身に何事か起きたのかと思ったのだろう。
「あ、違います、違います! 今日来たのは、そんな話じゃなくて‥‥」
慌てて椿がパタパタ手を振る。
「そうですか‥‥よかった」
小さな胸をなで下ろし、ミーティナが向かいのソファに座る。大人しげな少女だが、普段独り暮らしだけに意外と芯は強そうな感じだ。
教師が席を外したタイミングを見計らい、櫻が早速話を切り出した。
「突然で何ですけど‥‥中等部のテミスト君に、お手紙を出しましたね?」
途端に、ミーティナの顔が完熟トマトのごとく赤くなった。
「え? え? あの、なんで、それを‥‥?」
「実は私たち、テミスト君のお姉さんから頼まれて、ちょっとお話したくて伺ったんです。怪しい者じゃないから、安心してくださいね」
「そう‥‥なんですか」
「‥‥その‥‥テミストさまの‥‥どこが‥‥お好き‥‥なのですか?」
勇気を出して蒲公英が尋ねてみる。
「あの、あの‥‥ぜ、全部‥‥」
ミーティナはもじもじしながら答えた。
聞けば、半月ほど前たまたま廊下でぶつかりそうになり、落としたノートを拾ってもらった時から「憧れの先輩」のことが頭から離れないのだという。
絵に描いたような一目惚れ。テミスト本人は忘れているようだが。
「ミーティアちゃんの気持ちわかるなぁ‥‥。うまくいって欲しいけど‥‥」
椿が小声でつぶやく。
「恋をするのって素敵ですよねぇ〜♪ あたし、断然ミーティナちゃんを応援しちゃいますっ!」
香澄は香澄で、既に脳内は日曜のデートへとトリップしているようだ。
「あの‥‥テ、テミスト先輩は、なんて‥‥?」
「大丈夫ですよー。後のことは、あたしたちに任せてくださいね♪」
その場のノリで太鼓判を押してしまう香澄。
もっともテミストへの説得は、携帯で彼女たちの報告を受けてから別働隊に分かれた仲間たちが行う予定だが。
●男の決断
「ね、姉さん!? 誰にもいわないでって頼んだじゃないかー!」
呼び出された喫茶店で待ち受けていた別働隊を前に、テミストは激しく狼狽した。
「失礼ねー。先輩がたはプロの傭兵よ? 依頼の秘密は厳守してくれるって」
すまし顔でいうヒマリア。
その場にいた御坂 美緒(
ga0466)、棗・健太郎(
ga1086)、新条 拓那(
ga1294)、シア・エルミナール(
ga2453)のうち、美緒とシアは過去にテミストと面識がある。
「会って遊ぶくらいは良いんじゃないですか♪」
「み、御坂さん‥‥でも、僕らまだ子供だし、そんなの早――」
「甘い、甘いよテミスト君!」
拓那がドン! とテーブルを叩く。
「君だってもう中学生だろう? この先数年、嫌でも恋愛話はつきまとうぞ!」
「だって、相手は顔も知らない子なんですよ?」
「それなら、とにかく会わなきゃ始まらない!」
「ミーティナは、もうテミスト兄ちゃんとは会ってるって言ってたよ?」
事前に椿たちから情報を仕入れていた健太郎がフォローする。
「え、そうなの?」
「それにあの子は両親もいなくて、兄貴は傭兵でしょっちゅう家を空けてる。きっと寂しがってるんだと思うな。だから、今は恋人とかそういうのじゃなく、友達になってあげようよ」
「‥‥」
注文したジュースを一口のみ、テミストが考え込む。自分とよく似たミーティナの境遇を思い、改めて心を動かされているようだ。
「確かに年齢的に時期尚早、という意見も一理あるから‥‥まずはお友達と言う関係の方が気が利いてるんじゃないかしら? 10年後には23歳と20歳。お似合いよ」
甘党のシアが、プリンアラモードを口に運びながらいう。
「それに‥‥女性に気の利いたこと一つでも言える様になれば、ヒマリアさんに対しても必要以上に主導権を握られることも減るんじゃないかしら?」
「そ、それ本当ですか?」
「なぜそこで、身を乗り出すのよ‥‥」
何となく不服そうに、ヒマリアがつぶやく。
「色々思うところもあるとは思うけど、まずはミーティアさんに会うだけ会ってみたらどうかしら?」
「そう‥‥ですね。会って話すくらいなら‥‥」
結局、テミストも日曜にミーティアと会い、その上で結論を出すことに同意した。
「まあ、デートとは考えずに年下のお友達と考えてもう少しリラックスしてお行きなさい。何事も経験だし、体験して何も損はないわ」
おっとりした笑みを浮かべ、シアがアドバイスした。
●ドキドキ☆Wデート
さて、問題の日曜日。
傭兵たちはヒマリアも交えて待ち合わせの2時よりも早めに集合し、広場近くのレストランでランチをとりつつ策を練った。
「本来なら、服装とかデートの時における注意とか何かを簡単に教えて差し上げたいところなんですが‥‥問題は、この私がそう言う恋愛ごとにあまり詳しくないという事なんですよね」
櫻が苦笑する。確かに16の歳まで武芸一筋に修行してきた彼女は、今時の女子高生としてはファッションなどの話題に疎い。
「ですので、今回一緒に恋愛ごとの勉強をするつもりです‥‥」
そこで一同がひねり出したアイデアは、
『2人をその気にさせるため、ダミーのカップルを用意して見せつける』
「そうですねえ。ここは新条さんと、お相手は‥‥」
美緒がちょっと思案し、
「――女装した棗君!」
「するかーっ!」
健太郎が怒鳴った。
「お、俺は‥‥どうせなら、蒲公英と‥‥」
「え‥‥」
蒲公英がドキリとしたように胸に手を当てる。
「つ、椿ねーさま‥‥?」
「いーんじゃない? ちょうど同い年で釣り合うし」
ちなみにこの日の蒲公英の服装は、落ち着いた茶色のロングスカートワンピースの上にぶかぶかの白衣を羽織り、その上から水色のストール。椿の見立てである。
これはこれで、姉の深謀という気がしなくもない。
「お、そろそろ時間だな」
腕時計をちらっと見やり、拓那がいう。
偽装カップルを務める2人を除き、一同はテミストたちに悟られないよう、黒いコートにサングラスで変装した。
「古きよきスパイ衣装です♪」
これは美緒の発案だが、はたから見ると極めつけに怪しい一団であった。
昼下がりの2時。
時間通り広場に赴いたテミストは、先に来てベンチで待っていたミーティナにすぐ気づいた。
「あれ? 君、確か前に廊下で‥‥」
少女の顔を見て、テミストもようやく半月前のことを思い出した。
「あ、あのときは‥‥すみませんでした」
「え? そんな‥‥別に、大したことじゃ」
「て、手紙‥‥読んで頂けました?」
「うん。‥‥あ、ありがとう」
ひとまず挨拶を終え、ミーティナの隣に腰掛けるテミスト。
が、いかんせんその後の会話が続かない。
ミーティナは顔を赤らめて俯いたきり。
テミストはテミストで、おどおどとあらぬ方向を見やったりしている。
「とりあえず会って話す」ことしか念頭になかったので、デートコースのことまでとても気が回らなかったのだ。
彼女と話す話題については、拓那からあれこれ事前のアドバイスを受けていたのだが、残念ながら緊張のあまりテミストの脳内メモリーから飛んでしまったようである。
その様子をすぐ側の木陰から見守りつつ、
「んもー、何やってんの。もどかしいわね!」
思わず飛び出そうとするヒマリアを、美緒が引き留める。
「まあまあ。まず作戦第1弾、ダミーカップルが向かいますよ♪」
「よし。行くぞ、蒲公英!」
「ね、ねーさま‥‥」
泣きそうな顔で姉の椿を見やる蒲公英だが、
「ほら、テミスト君のためよ。ガンバッ!」
と発破を掛けられ、渋々健太郎と共に木陰を出た。
ベンチの方に向かってくる幼いカップルのうち、健太郎の顔に気づいたテミストは「あれ?」と目を丸くした。
ちなみにミーティナの方は、事前に椿から「計画」を聞かされている。
「こんちは! テミスト兄ちゃん。デートの方、うまくいってる?」
「デ、デートだなんて‥‥そっちの子は?」
「紹介するよ。俺の彼女、姫藤・蒲公英ってんだ」
「す、すごいな‥‥もう彼女、いるんだ‥‥」
「最近はこれくらい普通だぜ? へへっ、テミスト兄ちゃんも、頑張ってな!」
そういって、少し離れたベンチに2人で座る。
「普通かあ‥‥みんな進んでるんだね」
照れくさそうに笑って、テミストがミーティナにいう。
「僕なんか、さっぱり‥‥」
「でも‥‥誰かを好きになるのに、歳なんて関係ないと思います‥‥」
「そ、そうかな‥‥?」
「うーん、もう一押しって所かなあ‥‥」
木陰から2人の様子を観察しつつ、椿が首を捻る。
その一方で、隠し持ったコンパクトデジカメで妹のデートシーンをちゃっかり撮影するのも忘れていないが。
「なら、作戦第2弾。行きまーす!」
さっとコートを脱ぎ捨てると、その下はピンクのニットワンピースに白いマフラー、茶色のロングブーツという出で立ちだ。
「どうしたの? 喧嘩はよくないよ?」
そういいながらさりげなくベンチに近づき、
「ひょっとしてお腹が空いてない? お姉さんがクッキーをあげるねっ」
手にした白いバッグから、前日手焼きで作っておいたクッキーを一袋、テミストに手渡す。
「え? あ、ありがとう、ございます‥‥」
テミストは椿の顔を知らないので、不思議そうな顔で受け取った。
椿は蒲公英たちの方を指さし、
「ほら、あの2人みたいに楽しく過ごした方が面白いと思わない?」
「はあ‥‥」
テミストはミーティナにもクッキーを渡してポリポリ囓っていたが、
「そうだ。これ、健太郎君たちにも分けてあげようか?」
「そうですね‥‥」
(「しめしめ、その調子♪」)
2人が健太郎たちのベンチに歩み寄ると、後ろからついていった椿が、
「あら、蒲公英じゃない? 偶然ねー」
と、わざとらしく手など振る、
「つ、椿ねーさま‥‥」
「そうだ! せっかくだし、4人で記念撮影しても、いい?」
デジカメを取り出し、椿がいう。
「あ、それ賛成! なーテミスト兄ちゃん、いいだろ?」
「え‥‥そ、そうだね」
「ほらほら。フレームに収まらないから、蒲公英は健太郎君に、ミーティナちゃんはテミスト君に、もっと寄って寄ってー。はい、撮りますよー!」
パチリ。
それをきっかけに、椿のエスコートでWデートという流れが出来上がった。
予め香澄が作っておいたデートプランに従い、5人は近場の喫茶店でお茶を飲み、ショップで小物など見て回り、再び公園に戻って屋台のクレープを食べる。
その頃になると、テミストとミーティナも徐々にうち解けていた。
特に、2人ともメトロポリタンX陥落の際に両親を亡くしたこと、唯一の肉親が能力者である事で、強く共感するものがあったようだった。
「へえ‥‥ミーティナのお兄さんって、傭兵になる前はプロレスラーだったの?」
「はい。普段は殆どお仕事で留守にしてるけど‥‥でもお兄ちゃん、とっても優しいんです」
「そうなんだ‥‥うちと同じだね。もっとも僕の姉さん、愛情表現がちょっと特殊だけど‥‥はは」
「『特殊』ってナニよ? 特殊って‥‥」
椿の隠し持ったマイクから2人の会話を盗聴するヒマリアが、笑顔を浮かべつつも口許をヒクヒクさせた。
何はともあれ、その日のデートはひとまず無事に終了。
「また、こんな風に一緒に遊びに行こうね」と約束を交わし、テミストとミーティナはそれぞれ家路についたのであった。
「どうやらうまくいったようですね‥‥皆さん、どうもお疲れ様でした」
櫻の言葉を合図に、尾行を続けていた5人&ヒマリアが変装を解いてぞろぞろ広場に集まった。
「いやぁ、何とも微笑ましいというか、甘酸っぱいじゃないの♪」
そういって拓那が苦笑いすれば、
「まずはお友達から、ですよね。テミストくん、ふぁいと☆」
香澄もクスクス微笑する。
「はぁ〜。嬉しいけど、何だか娘をお嫁に出しちゃった父親の気分‥‥」
ちょっと寂しげにつぶやくヒマリアを、
「大丈夫ですよー。ヒマリアさんにだって、すぐに素敵な彼氏ができますから♪」
美緒がぎゅっと抱き締めて元気づけた。
その一方で――。
緊張が緩んだのか、少しぽーっとした表情の蒲公英に、健太郎が話しかけた。
「なあ‥‥今度は演技じゃなくて、2人だけでどっか行かないか?」
「‥‥え?」
「その、なんつーか‥‥友達になろう。よろしく!」
そういって、真剣な面持ちで右手を差し出す健太郎。
「え、あの‥‥」
蒲公英は戸惑い気味に椿に向かって救いを求めるような視線を送っていたが、最後は真っ赤になって俯き。
「‥‥はい」
健太郎の手を、両手できゅっと握りしめるのだった。
<了>