タイトル:ナタリアの結婚マスター:対馬正治

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 33 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/27 03:02

●オープニング本文


●ラスト・ホープ〜未来科学研究所
「婚姻休暇の申請?」
 医療セクション主任・蜂ノ瀬教授は驚いた顔で眼鏡をずりあげ、部下のナタリア・アルテミエフ(gz0012)を見つめた。
「君、結婚するのかね? ‥‥また急な話だが」
「申し訳ありません。もっと早くご相談するべきだったのですが‥‥」
「いやいや、別に謝ることなどない。ウンウン。そうか、そうか」
 一転して蜂ノ瀬は上機嫌に笑った。というか、この年代のオジサン、オバサンはどういうわけか「親類や部下の結婚話」と聞くと無闇に張り切り出す傾向がある。
「いやー、実にめでたい。で、相手は誰かね?」
「ええ、それが‥‥」
 ナタリアは自分の指に嵌めた【OR】比翼の指輪をちらっと見やり、頬を染めた。
「ほほう‥‥傭兵のエースパイロットねえ」
「ええ。もう1年ほどのお付き合いになるのですが‥‥去年のクリスマスパーティーで、正式にプロポーズを受けまして」
「なるほど。‥‥つまり、この私に仲人を引き受けて欲しいというわけだね?」
「えっ!? いえ、そんな――」
 別にそんな事は頼んでいない。ナタリアとしては、ただ休暇届けの書類に上司のハンコが欲しかっただけだ。
「いやいや、遠慮することはない。万事承知した。及ばずながら私が仲人を務めようじゃないか」
 自分が結婚するわけでもないのに、みょーに嬉しそうな蜂ノ瀬である。
「はあ‥‥ところで『ナコウド』っていったい何でしょうか?」
「‥‥君、結婚式の段取りとかよく判ってるのかね?」
「いえ、それがあんまり‥‥」
 十代の頃に飛び級で博士号を取得した才媛。能力者のサイエンティストになってからも研究一筋の生活を送ってきたナタリアであるが、逆に言えばこういう世事には全く疎い。
 一応、あとで既婚者の同僚に詳しい話を聞こうかとは思っていたのだが。
「こんちわーっ! ナタリア先生、予約してたエミタ保守お願いねーっ!」
 そのとき、先日九州戦線から戻ってきたばかりのUPC軍曹、チェラル・ウィリン(gz0027)が相変わらず脳天気な声を上げて研究室に顔を出した。
「えーっ! 先生、結婚するの!? うわーっ、おめでと!」
 蜂ノ瀬から話を聞いたチェラルが、こちらも興味津々で声を弾ませた。
「相手は傭兵さん? なら、ULTが提携してるホールがタダで使えるんじゃない?」
「なるほど。式場の料金は浮くわけだな」
「最近の流行りはさ、やっぱりハウスウェディングだよね。宗派とかは気にしないで、みんなでパーッと賑やかに騒ぐの」
 何だか、本人を置き去りにしてどんどん周りが盛り上がっていく。
(「だ、大丈夫かしら‥‥?」)
 戸惑うナタリアであったが、もう引き返しはきかない。
 果たして、彼女は無事に結婚までこぎつけられるのだろうか――?

●参加者一覧

/ リディス(ga0022) / エクセレント秋那(ga0027) / 緑川 安則(ga0157) / 白鐘剣一郎(ga0184) / ドクター・ウェスト(ga0241) / 榊 兵衛(ga0388) / 御坂 美緒(ga0466) / 鯨井昼寝(ga0488) / クラリッサ・メディスン(ga0853) / 獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166) / 新条 拓那(ga1294) / クレア・フィルネロス(ga1769) / 篠原 悠(ga1826) / ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416) / 春風霧亥(ga3077) / エマ・フリーデン(ga3078) / 寿 源次(ga3427) / UNKNOWN(ga4276) / 守原クリア(ga4864) / クラーク・エアハルト(ga4961) / アルヴァイム(ga5051) / 勇姫 凛(ga5063) / みづほ(ga6115) / 井出 一真(ga6977) / 百地・悠季(ga8270) / 斑鳩・八雲(ga8672) / レティ・クリムゾン(ga8679) / 天(ga9852) / ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488) / 美環 響(gb2863) / アレックス(gb3735) / サンディ(gb4343) / トリシア・トールズソン(gb4346

●リプレイ本文

●L・H〜UPC空軍演習場
『空を見てみなさい』
 結婚式なのに、なぜ集合場所が飛行場? と首を傾げていた招待客一同は、スピーカーの声に促されて一斉に顔を上げた。
 と、盛大な花火が上がり――。
 5機のKVがメインブースターを吹かし、各々5方向から順次冬の青空へと駆け上っていった。
「白鐘、私からのプレゼントだ。『ファイブカード』より祝福を送ろう」
 漆黒の機体にJOKERのエンブレムを持つK−111の操縦席で、UNKNOWN(ga4276)は万感の思いを込めて呟いた。
 ちょうど1年前、名古屋防衛戦を勝利で飾った直後。本日の新郎、白鐘剣一郎(ga0184)と翼を並べて行った航空ショーの再現である。
 ただしメンバーは1年前とは違う。
『JOKER』UNKOWN機から灰色のスモークが尾を引き始めるや、続いて
「さてと‥‥いっちょやるかみんな」
『クラブの2』天(ga9852)のイビルアイズから緑の。
「こちらPearl。みんな、がんばろ。練習通り、最高のショーをプレゼントしよ!」
『ハートの2』篠原 悠(ga1826)のワイバーンからピンクの。
「アグレッサーやブルーファントム程の操縦技術は無いが、精一杯やらせてもらうのでしっかりと見ておいて欲しい。私達からのお祝いだ」
『ダイヤの2』レティ・クリムゾン(ga8679)のディアブロから赤の。
 そして『スペードの2』アルヴァイム(ga5051)のディスタンから青のスモークが、色鮮やかな5本のラインを大空に描いた。
 ちなみに婚礼の儀に合わせて悠機は機体を白×ピンクに塗装、さらにハートのマークをペイント。レティ機は機体カラーを普段の赤黒から紅白へと塗替えている。
 UPCを始め関係各方面へショー実施の許可を取り付けるなど、事前準備を整えたのはアルヴァイム。彼ら5人は剣一郎と、そして花嫁ナタリア・アルテミエフ(gz0012)にも知られぬ様、この日に備えて密かに訓練を続けていたのだ。
 訓練段階から地上観測員と管制役を務め、本番でもショーのアナウンスを担当するのは、男装の執事服に身を包んだ百地・悠季(ga8270)。
 パイロット1人1人の名前とプロフィールを紹介した後、
『これらパイロットを地上でサポートする百地悠季です、空の妙技を存分に楽しんでくださいね』
 各機が角度を72度ずつずらし、5色のスモークで五芒星『スタークロス』を描く。
 その後編隊を再編成、
「‥‥ピーキーな動きは俺の専売特許だ」
 天が愛機「マリアヴェル」の操縦桿をぐっと押し倒す。
 縦一列陣形で大きく渦巻き状に降下後、円の中心から5機で螺旋を描きつつ垂直上昇、上空で散開し「パームツリー」を形作った。
 観客席から大きく歓声が上がる中、5機のアクロバティックな飛行はさらに続く。
 アルヴァイム機を中心に鏃陣形を組んだ編隊はインメルマンターンから全機で上空へと舞い上がり、スモークでギガ・ワームを、さらにその胸の部分にハートマークを描いた。
『さあ、桃色スモークのワイバーン機が今まさに2人の祝福の為に、空を彩るハートを撃ち抜きます!』
 いよいよクライマックスを迎え、悠季のアナウンスも熱を帯びる。
 まずアルヴァイム機がワーム中央を、続いて悠機が予告通り見事にハート模様の心臓を貫いた。
 かつてUNKOWNが剣一郎と共に演じた空中ショーにアレンジを加えた『ブレイクワーム・ウェディングバージョン』を披露した後、5機のKVは余韻を残すかの様にローリングサークルで上空を旋回。
 最後の演出として、悠とレティの機体から模擬弾が発射され、派手な空中花火となって華開いた。
『こちらファイブカード』
 UNKOWNの声が僚機の無線に、そして会場のスピーカから響く。
『空より祝福を送ろう――』
「ステキですわ‥‥」
 普段は飛行機嫌いのナタリアも、両手を胸に当て、大空を見上げて感動した面持ちで呟いた。

 機体から降りてきたパイロット達と司会役の悠季に、会場から惜しみない拍手が贈られる。『ファイブカード』の面々は控え室で取り急ぎ着替えると、他の招待客達と共にULTが用意したマイクロバスに分乗し飛行場から披露宴の式場へと移動した。

●イベントホール
 新郎の剣一郎が能力者の傭兵ということもあり、結婚式と披露宴はULTが提携する多目的イベントホールで挙げられる事となった。
 結納など事前に必要な手続きは、ホールスタッフとも相談し既に済ませてある。慣例としては結婚式の方が先だが、今回は「あまり形式にとらわれずにやりたい」という新郎新婦の意向もあり、掟破りの披露宴→結婚式という段取りだ。
 剣一郎がナタリアを伴いバスを降りると、彼が隊長を務める【ペガサス分隊】隊員の春風霧亥(ga3077)、そして元隊員の朧 幸乃(ga3078)は各々お祝いの言葉と共に、ご祝儀袋を手渡した。
「すまないな。ご祝儀不要のつもりだったのだが」
「なに、ご遠慮なく。それにしても、共に人生を連れ添う相手ができるのはうらやましいな。男として少しばかり嫉妬するよ」
 久々のスーツにネクタイ姿の霧亥が気さくに笑い、
「名古屋での大規模作戦のころから、ずっとご一緒させていただいた部隊‥‥その隊長さんですし、せめて一言くらいはお祝いを‥‥」
 深い赤色のベアトップのドレス姿にアクセサリーで着飾った幸乃も、穏やかに微笑む。
「身体を張って戦われる方ですけど、いつまでも無事に、そして、幸せに‥‥」
 続いて【8246小隊】隊長のリディス(ga0022)が、隊員のヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)、クリア・サーレク(ga4864)を伴い挨拶した。
「この度はご結婚本当におめでとうございます。剣一郎さんも美人の奥様を貰えて幸せですね」
「ああ、ありがとう。リディス」
「それと‥‥ナタリアさんも。結婚してからも辛いことは沢山あると思いますが、隣にいる人を信じていればきっと大丈夫ですから。お幸せに」
「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いしますわね」
「黒海で白鐘さんから結婚式の話を聞いて、そのまま同行して参加することにしたんだよーおめでとうー」
 直前の別依頼に剣一郎と共に参加していたクリアは、その際の彼の活躍を土産話にナタリアへ語って聞かせた。
 これから新郎用控え室で霧亥が剣一郎の着付けを手伝い、その後は幸乃と2人で会場の受付(記帳係)を務める予定である。
 またリディス達は新婦用控え室でナタリアの着付けを手伝うべく、一同はそれぞれ別室に向かった。

 今回使用される婚礼服は、途中のお色直しを挟み和装と洋装の2種類。
 ナタリアが準備したのは披露宴用の色打掛(和装)、そして式で着るためのウェディングドレスである。
「ウェディングドレスに直に触るのなんて初めてなんだよー。女の子の夢なんだよ」
 控え室のトルソーに着せられた純白のウェディングドレスを前に、夢見るように瞳をキラキラさせるクリア。
 一方、ヴェロニクはナタリアの口から2人の馴れ初め(「ナタリアの憂鬱」対馬MS)を聞いて妙に盛り上がったりしている。
「‥‥こうやっていると、自分も着た時の事を思い出しますね。もう随分と前になりますが‥‥少々感傷的になっていますね。すいません」
 慣れない和服の着付けに四苦八苦するナタリアに手を貸してやりながら、しみじみとした口調で呟くリディス。
 クリアとヴェロニクも、隊長と共に甲斐甲斐しく手伝った。
 まずは初めの着付けが終わったナタリアの和装を眺め、
「花嫁さんって、いつ見てもいいよねぇ‥‥私もいつかああなれるのかなぁ」
 ヴェロニクがほうっと嘆息をもらす。
 そんな彼女の姿をちらっと見やり、
(「クリアさんやヴェロニクさん、ここにはいませんがあの子の式は何時になるんでしょうね? その時は是非また着付けなどをさせてもらいたいものです」)
 仲間達の将来を想像し、思わず微笑むリディスであった。

●披露宴会場
 会場に紋付き袴の剣一郎、そして色打掛に身を包んだナタリアが現れると、傭兵仲間を始め未来研、UPC、ULT関係者などの参列客から一斉に拍手が挙がった。
「実は和服は余り着慣れなくてな」
 苦笑する花婿に対し、
「それをいったら私なんか生まれて初めてですわ。‥‥でも、とてもお似合いです、剣一郎さん」
 にっこり微笑むナタリア。
 披露宴の司会進行役を務めるのは、榊兵衛(ga0388)とクラリッサ・メディスン(ga0853)。
 剣一郎とは互いに幾多の戦闘をかいくぐった仲であること、またこの両名も恋人同士であり、いずれ近いうちに‥‥との計らいでもある。
「わざわざの新郎からのご指名だ。色々拙い所もあるだろうが、精一杯務めさせて貰おう」
 兵衛は普段の着物姿とは一変、髪はオールバックにして背後で結わえた上、パートナーのクラリッサに合わせてきちんとした略礼装で臨んでいた。
「白鐘さん、ナタリアさん、おめでとうございます。どうぞ末永く、お幸せになってなって下さいね。今日はわたしもきちんと大役を務めさせて頂きますわ」
 クラリッサの言葉を受けて会場入りした新郎新婦が日本から招待した剣一郎の祖父と剣の師匠、ナタリアの両親に挨拶を済ませた後で披露宴の客席に来ると、早速【ペガサス分隊】の戦友達から口々に祝福の言葉が贈られた。
「いやー、めでたい。まさか、剣ちゃんがネェ。朴念仁の様に見えて手が早いもんだね。まぁ、2人ともお幸せに」
 大柄な体をホールで借りた着物に包み、さっそく祝いのビールを勧めるエクセレント秋那(ga0027)。
「白鐘さんは同じ小隊で共に戦ってきた仲間ですので、こうやって幸せになってくれる事は嬉しいです」
 微笑みながらいうクレア・フィルネロス(ga1769)は、ちょっと声を落とすと、
「白鐘さん、これからは無茶しすぎないようにしてくださいね」
 と釘を刺す。
「もちろん私達も全力でフォローしますので、これからもよろしくお願いします」
(「隊長は自己犠牲を選択するタイプでは無いと思ってますが、隊員のために前に出る傾向がありますからね‥‥」)
 みづほ(ga6115)は小隊仲間としての祝福はもちろん、剣一郎が帰る場所を確認し、必ず生きて帰らせる覚悟を決めるための出席でもあった。
「隊長、ナタリアさん、ご結婚おめでとうございます」
 祝福の言葉を述べた後、クレア同様、そっと小声で新郎に耳打ちする。
「ちゃんと彼女の元に帰らないといけませんよ?」
「如何に我らが隊長といえど、剣一郎さん、ナタリアさんを泣かせることはいけませんよ? その時は、僕もお供しているはずですが、行き先でお説教をしてさしあげます」
 斑鳩・八雲(ga8672)もグラスを挙げ、笑いながら声をかけた。
「まぁ、そうならないようにするのが隊員の務め、ですかね。‥‥お幸せに」
 幸せそうな新郎新婦の姿を眺めつつ、
「今度は私たちが守る番でしょうか」
 みづほは改めて気を引き締める。
「まあ今日は幸せな2人の顔を肴に飲めればいいさね。めでたい、めでたい!」
 秋那がグイッとグラスを空け、【ペガサス分隊】の面々は互いに歓談に興じるのだった。

「今回は招かれて嬉しいよ。しかし、あの素敵なナタリアの心を射止めるとはねえ。素晴らしいことだ」
 UPC軍服の胸を名古屋防衛戦以来数々の大規模作戦従軍章、そしてUPC銅菱勲章で飾った緑川 安則(ga0157)は、剣一郎に祝いの挨拶をした後、珍しい客――プリネア海軍の制服に身を包んだシンハ中佐の姿に気づいた。
 長身の中佐の陰に隠れるようにして、同国軍の士官服を着込んだ、どこかで見たような少女がくっついている。
「おや、これはラクス――」
「しーっ! 大声で呼ぶでない。周りにばれるではないか」
 剣一郎の招待を受け密かに参列していたプリネア王女、ラクスミ・ファラーム(gz0031)が、慌てて人差し指を顔の前に立てる。まあ、いくら服装や髪型を変えても顔を知っている者にはバレバレだが。
「本日はお越し頂きありがとうございます」
 王女と中佐の姿に目を留めた剣一郎が、近づいて丁寧に頭を下げた。
「こちらこそ、めでたい席に招待を感謝する。2人とも、末永く仲良うにな」
 祝いの言葉を述べて客席に戻るラクスミに、再び安則が話しかけた。
「本当でしたら王女の護衛役として動くべきでしょうかね‥‥もっともそんなことをするとシンハ殿以外につけ狙われるでしょうな。私が」
「狙われる? 誰にじゃ」
「姫さまもお年頃ですからね。恋人候補の一人もいるでしょうな。ほんとに好きな相手でしたら一度デートにでも誘ってみてはいかがですかな?」
「はて? 心当たりはないが‥‥」
「年の頃もちょうどいい上にギルマンを撃退、銅菱勲章を得た彼なら私はいいと思いますよ。もっとも私も可能でしたら候補に立候補しますが」
「???」
 判ったような、判らないような顔で首を傾げる王女の顔つきに苦笑しつつ、安則はその場を離れた。

 ベビーピンクの可愛らしい感じのシフォンドレスと、同色のパンプス。髪はアップにまとめ、全体的にエレガントなお嬢様スタイルで統一した鯨井昼寝(ga0488)は、ホールスタッフや有志の傭兵仲間とも相談し、式を彩る花の準備や飾り付けを手伝った。
「申し訳ないですわ。お客様にそんなことまで‥‥」
 すまなそうにいうナタリアには「みんな楽しんでやってるんだから心配しないで」とウィンクひとつ。
 普通の披露宴では出席者が宴会のセッティングにまで関わる事は滅多にないが、今回の結婚式および披露宴に関しては、逆に「みんなで楽しみながらブライダルを盛り上げよう!」というのが彼女の考えだった。
 メインテーブルには新郎新婦の覚醒時カラーをイメージした、黄色(金色)と青色(青白)の装花を。エントランスや受付、ゲストテーブル等はもちろん、後で使用される入刀用のナイフやキャンドルにも彩りを。
 昼寝のアドバイスにより、会場には慎ましい感じの2人を象徴するかのように、ゴージャスというよりはさりげない華やかさが演出されていた。

「2人とも、今後の勉強になるに違いないですよ♪」
 御坂 美緒(ga0466)はヒマリア・ジュピトル(gz0029)とテミストの姉弟、さらにテミストのGFミーティナまで誘って式に駆けつけていた。
「わ〜、素敵ですね☆」
「ところでヒマリアさん、もし誰か好きな人が出来たら、ちゃんと私に教えてくださいね♪ 隠すのはナシなのですよ♪」
 と、さりげなく恒例のふにふに。
「あ‥‥あぅン‥‥♪」
「あれ? 今日は逃げないのですか?」
「あのね、ヒマリアお姉ちゃん、初詣のときに神社で蛸みたいなキメラと戦ってから‥‥」
「うわ! それ言っちゃダメだ、ミーティナ!」
 何故か真っ赤になったテミストが、慌てて幼いGFの口を塞ぐ。
 ‥‥まあ色々あって、今日のヒマリアは少々感度良好な体となっているのだ。
 その時、近くにいるラクスミとシンハ中佐に気づいた美緒は持参の使い捨てカメラですかさずパチリ。
「この写真は後で式の事を書いたお手紙と一緒に、クリシュナ様にお送りするのです♪」
 その時は「宜しければバレンタインの日にお会い出来れば嬉しいです♪」と書き添えるつもりの美緒であった。

「結婚式、か‥‥」
 喧噪の中、祝福を浴びる2人の姿を遠目に眺めつつ、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は左手薬指にはめたダイヤモンドの指輪を撫でた。
 これは何を隠そうエンゲージリング。去年の5月、同じ傭兵の恋人にプロポーズし、了承を得たお揃いの品でもある。
 多忙な彼女は仕事でL・Hを離れ――以来、ホアキンは半年以上もその帰りを待ち続けている。
「‥‥先を越されたな」
 ダイヤの輝きに彼女の笑顔を重ね、ひとり微笑するホアキン。
 羨ましいが、戦場で幾度も肩を並べた傭兵の一人として嬉しくもある。大規模作戦や依頼で何度も一緒になった剣一郎の結婚を、心から祝ってやりたい気分だった。
 主賓席へ歩み寄ったホアキンは剣一郎に対して
「結婚おめでとう。今後は護るべきひとを護る、か。これでまた一段、強くなるな」
 次いでナタリアには、
「結婚おめでとう。良い男に見初められたね。気高く白い翼を持つ奴だ。お幸せに」
 一言ずつ祝いを述べると、その後はホールスタッフから借りたカメラで記念撮影を始めた。
 新郎新婦を中心に、宴や式の間、出席者たちの何気ない表情を追う。むろんサプライズの場面も逃さない。
「おめでたい日だ。皆、良い顔をしてくれよ」
(「いつになるかまだ分からないが‥‥俺が挙式する際の参考になるかもしれないしな」)
 酒と食事は控えめに、会場内を巡ってシャッターを押すホアキンであった。

「新年早々おめでとうだね、お二人さん♪ これ、お祝い、良ければ‥‥。ま、二人の華やかさには負けるかもだけどね?」
 とっておきの燕尾服で駆けつけた新条 拓那(ga1294)が、お祝いに結婚絡みで縁起のいい花を詰めた花かごを新郎新婦に手渡す。
「まあ‥‥良い香りですわ♪」
「全くニクいねこーの色男! 幸せ過ぎだし空でも飛んじゃえ♪ ってことでもういっちょ、おめでとーっ!」
 剣一郎の背中を叩き、持参のハンディデジカメを示す。
「今日のおめでたい式はバッチリ撮らせてもらうよ。ディスクの方は、後でそちらにも送らせてもらうから」
「悪いな、新条」
「いやあ、いいってこと」
 自分もいずれ体験することかも知れない――と思えば、今日の記録は貴重な参考資料ともなろう。
 そんなことを思いつつ、拓那は式場を見回しベストアングルを撮影できそうなポジションを捜した。

(「この新婚さん、どちらも自分にとって知らぬ人間では無い、今日を祝わずしていつ祝うと言うのだ!」)
 寿 源次(ga3427)は考えた。
 しかしスーツにネクタイは動き辛い。
「ふむ、やはりこれだ‥‥」
 素早く更衣室に駆け込むや、執事服・シルク手袋にインテリメガネの「執事G」へこっそり換装。
「さぁ、飲め! 騒げ! そして祝え!」
 主賓席の新郎新婦に歩み寄るや、
「旦那様、奥様、杯が空いておりますぞ?」
 2人のグラスに溢れんばかりにビールを注ぎ、
「おめでとう。比翼の示す通り、これからは二人で一つだな」
「まあ、そんな‥‥」
 ナタリアが両手で頬を押さえ赤面した所に、
「白鐘さん、ナタリアさんご結婚、おめでとうございます」
 クラーク・エアハルト(ga4961)も祝辞を述べに来た。
 ベレー帽を被り、白を基調に百合のエンブレムをあしらった小隊【シャスール・ド・リス】の式典用制服。そしてこれまで参加した大規模作戦の略綬及び従軍記章。
「白鐘さんとは一度同じ依頼に、ナタリアさんとは雷電のテストでお会いしましたよね? つまらない物ですが‥‥二人で朝、コーヒーでも飲む時にでも使ってください」
 祝いの品としてペアのマグカップを贈ると、そのまま源次と共に同じ席へと戻った。
「寿さんは、好きな人とかいますか?」
 グラスを片手に、ふと尋ねるクラーク。
「自分はいることはいるんですけど、想いを伝えていませんでしてね。勇気を持って、告白しようかな?」
 どうやら、彼にも誰か意中の人がいるらしい。
「おお。2人とも、去年のクリスマス以来じゃのう」
 ちょうど近くの席にいたラクスミが、クラークと源次に声を掛けてきた。
「おや、ラクスミ閣下とシンハ中佐? あのパーティーではお世話になりました。当たった餅は食べ方を教わって、皆でいただきました」
「そうか、それはよかった」
「こう顔見知りばかりでは、もはやおしのびも何もないですなぁ」
 シンハ中佐は苦笑いしつつ髭を撫でた。

「ナタリア、剣一郎、結婚おめでとう! 2人の幸せ、凛も祈ってるから」
 パリっとした礼服姿で勇姫 凛(ga5063)が微笑する。
「こういう席ってなんか緊張するなぁ‥‥とにかく2人とも、お幸せにね♪」
 今日ばかりは正規軍代表として、普段着慣れないUPC軍制服姿のチェラル・ウィリン(gz0027)軍曹も、頭をかきかき照れくさそうに祝福した。
「2人の幸せと、もっと幸せな未来の為に‥‥『Hope−希望はいつも2人の側に−』」
 現役アイドルの凜が持ち歌の中から1曲歌うと、宴席からも大きな拍手喝采が起こった。

「結婚、おめでとうっ! 月並みだが、いつまでも幸せに」
 先だって航空ショーを演じたメンバーを代表してスーツ姿のレティが祝辞を述べ、天が剣一郎とナタリアを模した巨大デフォルメ人形を会場へ運び込む。
「人形師天の特性ぬいぐるみだ」
 同じ円卓に戻ってきた『ファイブカード』のメンバーを、人数分の食事を用意させておいた悠季が待っていた。
「はい、みんなお疲れ様」
「レティさん、ほらこれ、美味しいよ♪」
 新郎新婦と面識のない悠は、彼女にとって大切な人であるレティと共に、専ら料理を楽しむ。

「厚かましくも出席させていただきました。ご結婚、おめでとうございます」
 UPC軍服を着込み、大勢の参列客を掻き分けるようにして井出 一真(ga6977)が新郎新婦席の前に来る。その傍らにはマリア・クールマ(gz0092)の姿もあった。「サラスワティ」搭乗員の彼女がたまたま非番であることを知った一真が、艦長ラクスミの許可を得て連れ出して来たのだ。
「ナタリア先生、おめでとう‥‥」
 バイト先の花屋でアレンジメントした花束を、おずおず差し出すマリア。
 あの「悪魔の部隊」事件――カメル共和国でシモン(gz0121)が引き起こしたDF隊員反乱の際に拘束され、その後自らが精神ケアを担当した少女からの花束を受け取り、思わず涙ぐむナタリア。

「あー、うん。ダメだ、こういうの。実戦より緊張するかも知れねぇ」
 恋人であり家族でもあるトリシア・トールズソン(gb4346)から「一緒に行こう」と誘われ、バイク形態リンドヴルムの後部に彼女を乗せて式場に到着したアレックス(gb3735)は、バイクを降りると改めてカンパネラ学園制服のネクタイを締め直した。
 トリシアが彼を誘ったのは、1つには以前に剣一郎と同じ依頼に参加した縁。そしてもう1つは――こちらの方がメインかもしれないが――「大好きなアレックスと一緒に『結婚式』なるものを見ておきたい」という動機によるものだった。
 記帳を済ませて会場に入ると、共通の友人であるサンディ(gb4343)が武装して壁際で眼を光らせている姿が目に入った。
「やあ、アレックス、トリシア」
「何やってんだよ?」
「会場の警備。傭兵のエースと優秀な研究員の結婚式。バグアが狙ってこなければいいけど‥‥」
 サンディ自身は既に新郎新婦への挨拶は済ませ、今はホール警備スタッフと無線連絡を取りつつ自らも警戒にあたっているのだという。
(「ここはL・H内だし、UPCの軍警察も巡回してるからまず安全だろうけど‥‥」)
 アレックスは思ったが、とりあえずサンディのやりたいようにさせ、自らはトリシアを連れて主賓席へと向かった。
「結婚、おめでとう。後はバグアを地球から叩き出すだけ、か?」
 祝いの言葉と共に、ささやかなプレゼントとして「烈のイヤリング」を剣一郎に贈った。

「お二人ならきっと幸せな家庭が築けますよ。僕も結婚する時是非ご招待させていただきますね」
 美環 響(gb2863)はにっこり笑うと、剣一郎達にエニシダの花をプレゼントした。
 花言葉は「幸せな家庭」。
 さらに隠し芸として軽くコインマジック等を実演した後、ホールスタッフに頼んで会場の照明を暗くして貰う。
「幻想的な世界を楽しんでください」
 響が指を振ると指先に青い光が宿り、その指を他の指に付けると赤い光が宿る。
 指先の光の色を変えつつ腕を振り、神秘的なムードを演出。
 次に虚空を指さすとそこに次々と違う光が宿り、最後に指揮者のように指を振ると虚空に留まっていた光が一斉に上へと立ち昇った。
 あたかも色とりどりの数多の星を見ているような幻想世界である。
「汝らの魂に幸いあれ!!」
 優雅に一礼して響が退場すると、代って現れた獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)が満面の笑みを浮かべつつ、新郎新婦にお酌した。
「本当にめでたい。2人の門出を祝うと共に、これからの傭兵生活‥‥特に白鐘君には、変わらぬ武運を祈る。むろん獄門も協力させて貰うんだよー。あ、ウォッカ飲む?」
 そこでキラっと眼鏡を光らせるや、
「よーし! 総員、突撃にィ、かかれェー!!」
 獄門の合図と共に、それまで食事や談笑に興じていた傭兵達が一斉に主賓席に押し寄せ、驚く剣一郎とナタリアを胴上げし始めた。
 これぞ参列者有志で密かに結成された「新郎新婦を揉みくちゃにし隊」である。
 揉みくちゃー揉みくちゃー、もみもみー!!
「‥‥うむ、これは‥‥喜びたまェー、白鐘君。控えめながら確かな感触。適度な自己主張! 鑑賞にも愛玩にも実用にも十分耐えうる物と判断するんだよー」
 いったい何処を揉んでいってるのかは、この際シークレット。
「いやあ、何気なく言った揉みくちゃ発言が、こんなに広がろうとは思わなかった」
 といいつつ揉み揉みに加わる源次。
「花嫁衣裳を‥‥何だか興奮です」
 美緒はドキドキしながら、どさくさ紛れにナタリアをふにふに。
「成長と恋には密接な関係がありそうなのです♪」
「‥‥まあ、諦めて皆の肴になってくれ、白鐘。俺たち傭兵流のお祝いの形の一つと思ってな」
 司会役の兵衛も頭をかいて苦笑い。
 手荒な祝福がひとしきり終わると、再び照明の落とされたパーティー会場のピアノにスポットライトが当てられ、クラリッサが静かに一礼して座った。
「拙い歌で、お二人にはお耳汚しかも知れませんけれど、わたしからのお二人へのプレゼントと思って下さいね。‥‥では、皆さん聞いて下さい。『vow〜この愛しき人に』」
 一転して静まりかえった会場に、しっとりと澄んだ弾き語りの歌が響く。

 あなたと一緒なら、どんなことだって乗り越えてゆける。
 そんな気がしたのは、いつからだろう。
 あなたと出会って、永い旅をしてきたわ。
 辛い事、悲しい事もあったけど、
 あなたが居たから、乗り越えてゆけた。
 楽しい事も嬉しい事もあなたが居たから、
 何倍も幸せだった。
 だから、神様の御前で、あなたに誓うわ。
 あなたを幸せにします、って。
 あなたと幸せになります、って。
 今日からはもう本当に一人じゃないのだから。

 この誓いは永遠に……
 ただ一人の愛おしい人よ。

 割れんばかりの拍手がホールを満たした。
「参列の皆さんと祝福をくれた仲間達にまずは感謝を。無事この日を迎えられたのは皆のおかげです。本当にありがとう」
 最後に剣一郎は感謝の辞を述べると、ナタリアと共にいったん控え室に引上げ、再びリディス達の手を借り洋装のタキシードとウェディング・ドレスへとお色直しする。
 そこから舞台はパーティー会場から外のチャペルへと移動。
 いよいよ式も本番である。

●希望の門出
「あなた方は夫婦として、順境にあっても逆境にあっても、病める時も健やかなる時も、生涯、互いに愛と忠実を尽くすことを誓いますか?」
「「誓います」」
 ULTから招かれた神父の質問に、声を合わせて宣誓する剣一郎とナタリア。
 互いに改めて【OR】比翼の指輪を交換し、ここに2人は正式に夫婦となった。
「ナタリア、愛している」
「私もですわ‥‥」
 剣一郎とナタリアが口づけを交わすと同時にチャペルの鐘が鳴り響き、ライスシャワーの紙吹雪が頭上から降り注ぎ2人を包む。
「白鐘、ここは男の見せどころ。お姫様抱っこだ!」
 間近でカメラを構えるホアキンの言葉に応え、高々と花嫁を抱き上げる剣一郎。
 やはりその光景を撮影しながら、
「いつかは俺も、彼女にああいうドレス、着させてあげなくちゃなぁ‥‥。思い切りの良さ、見習わなきゃ」
 ちょっと照れくさそうに独りごちる拓那。
「剣一郎さんのああいったお顔は、実に貴重な一幕ですねぇ。写真、撮っておきましょうか?」
 八雲も懐からカメラを取り出した。
「綺麗だね、花嫁さん。二人とも、凄く幸せそう‥‥」
 幸福絶頂の剣一郎達を眺めつつ、悠は傍らのレティにそっと寄り添い、その横顔をじっと見つめた。
「何だ?」
「ふふ、何でもない」
 悠は最高の笑顔を浮かべ。
「‥‥レティさん、大好きだよ」
(「素敵だなぁ‥‥凛も、いつか」)
 凜もまた、隣に立つチェラルの横顔をちらっと盗み見た。

 花婿の腕から降り立ったナタリアが参列客に背を向けた。
 結婚式の最後を飾る、定番のブーケトスである。
 近く結婚の決まっている女友達に直接手渡す場合もあるが、今回は後ろ向きに投げるため、誰の手に渡るかは全く判らない。
 希望者の傭兵達がナタリアの背後にわらわらと集まった。
「さて、誰がゲットするかな?」
「行きますわよ‥‥えいっ!」
 ナタリアが背中越しにブーケを投げると、幸せの証を掴もうと傭兵達も一斉にジャンピングキャッチを試みる。非覚醒状態でも一般人の体力を凌駕する能力者達だけに、その競争の熾烈さもハンパではない。
「バスケで鍛えたボクのジャンプ力を見よーっ」
 と飛び上がったクリアはハイヒールブーツな事を忘れて踏み切りに失敗し、ヴェロニクも巻き込んでどんがらがっしゃーん! と顔面着地の大惨事に。
 そして並み居る強豪(?)を抑えて見事ブーケを手中に収めたのはトリシア。
「ブーケ、絶対ゲットするぞ‥‥ってあれ? 取れちゃった‥‥」
 狐に鼻を摘まれたような顔のトリシアを、
「よかったじゃないの」
 サンディが片肘で小突いた。
 昼寝はホールスタッフをつかまえ、
「ブーケ獲得できなかった人のために、ミニブーケを人数分用意して配れば?」
 と提案してみた。
「申し訳ありません、そこまで気づきませんでした‥‥ご参列の皆様には、別に引き出物をご用意いたしておりますので」
 頭を下げて詫びるスタッフの横で、響が得意の手品でポンとミニブーケを出した。

 かくしてつつがなく結婚式は終わり、剣一郎とナタリアは参列客からの拍手を浴びつつファミラーゼで式場を後にした。この後は双方の親類縁者とホテルで合流、夜はそのままロイヤルスイートで一泊の予定だ。
 新居などまだ考えねばならない件も多いが、それはまた後日の事になろう。

 参列の客が三々五々と帰路につく中、凜はチェラルに話しかけた。
「ナタリアと剣一郎、素敵だったね‥‥あっ、そうだ、少し遅くなっちゃったけど、チェラル、誕生日おめでとう」
 にこっと笑い、ラッピングした【OR】御呪羅のぬいぐるみを手渡す。去年の夏、一緒に出演した怪獣映画のキャラグッズである。
「へ? あ、そうかぁ。ボクの誕生日1月1日だったっけ‥‥いや〜、元旦と一緒なんで、自分でもつい忘れちゃうんだよねえ」
 一瞬目を丸くしたチェラルは、すぐ顔を綻ばせプレゼントの包みを受け取った。
 続いて凜はポケットから小さなケースを取り出し、赤面して差し出した。
 ガーネットの指輪である。
「これは、凛からのお守り‥‥誕生石の指輪は、女性を幸せにしてくれるって言うから」
「えー!? これ、すっごく高いんじゃ‥‥」
 蓋を開けて驚くチェラルだったが、やがて凜と同様に頬を赤らめ――。
「ありがとう。‥‥大切にするよ」

(「最後の希望は、まだまだ捨てたモンじゃないみたいだ」)
 対バグア戦争のさなか、久々に見た明るい結婚式の光景にアレックスは思った。
(「今はまだ俺もガキだし、世界も先の見えない戦いの中だけど。いつか平和になった世界で、俺もアイツを幸せにしたい、な」)
 手にしたブーケを大切そうに抱えるトリシアを呼び止め、
「初めてのプレゼントが武器ってのも、アレだけど。受け取って欲しいな」
 バックパックから「チンクエディア」を取り出し手渡すのだった。

 人気のなくなったチャペルの前で、兵衛はクラリッサと向かい合っていた。
「何か白鐘たちの結婚式に便乗するようで、格好悪いが‥‥ずっとはっきりと言わなくてはならないと思っていた」
 披露宴での彼女の歌。あれは新郎新婦を祝福すると同時に、己への想いを託したメッセージでもあろう――それに気づいた兵衛は、ついに決断の言葉を口にした。
「‥‥俺の妻となって欲しい、クラリッサ。二人の残りの時間を共に過ごして欲しい。駄目か?」
 一瞬驚きながらも、クラリッサはやがて穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます、ヒョウエ。今日のわたしの歌ではありませんけれど、二人で幸せを育てていければ、良いですわね」
 彼女は自ら兵衛の方へ身を寄せると、やがて2人して固く抱き合い、ゆっくりと唇を重ねた。
 その光景を、偶然物陰から見るともなく見てしまった者がいる。司会役の兵衛達を労おうとその場に残っていた源次であった。
 どうしたものかと躊躇していたが、2人が離れた頃を見計らい、姿を現わして歩み寄る。
「大胆な男だなオイ。だが‥‥おめでとう」
 苦笑しつつも、2人の手を取り、しっかり重ね合わせる。
「互いが互いの支えとなる、きみ達なら大丈夫さ。向こうが比翼の鳥なら君達は連理の枝。どんな困難だろうとはね返せる、自分は確信しているぞ!」

 どうやらこのチャペルが新たな鐘を鳴らすのも、そう遠くない将来だろう。

<了>