タイトル:SIVA〜私設兵団マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/20 14:48

●オープニング本文


●民間傭兵派遣企業「SIVA」〜L・H本社
「例の契約がまとまったわ」
 本社ビル最深部フロア。「オフィス」というより大病院のICU(集中治療室)を思わせる地下室の中央で、介護用ベッドに横たわった少女が告げた。
「L・Hへの本社移転を機に、我が社はULTと業務提携する。今までは正規軍払い下げの中古KVでやりくりしてたけど、今後はULT所属の傭兵同様、新鋭KVのリースが可能になったわ‥‥あちらの搭乗権に比べれば多少割高になるけどね」
 それでも、1機数百億Cともいわれる新鋭KVを実費で購入する事を思えば、遙かに安いものだ。
「ほう‥‥そりゃありがたい。俺の中古バイパーも、ようやく新型機に乗り換えられるってわけか」
 ベッドに傍らに腰掛けた黒いコートの男、ラザロ(gz0183)が灰色の目を細める。
「しかし、ずいぶんと思い切ったな。ワームやキメラの相手は正規軍とULTに任せるんじゃなかったのかい?」
「状況が変わったのよ‥‥あのアジア決戦で、アジア地域のUPC軍やメガコーポは軒並み甚大な被害を被ったわ。幸い、バグアの本格攻勢が始まる前に本社移転した我が社は殆ど無傷‥‥こんなビジネスチャンス、見逃す手はないわ」
「ビジネスチャンス‥‥ねえ?」
「あなたの言いたいことは判ってるわよ。こんな体になった私が、今さら金儲けやビジネス拡大に執心するのが‥‥さぞ滑稽だと思ってるんでしょ?」
 かつてキメラの襲撃で一族を滅ぼされ、自らも半身不随となった18歳の少女――「SIVA」CEO(経営責任者)、ユディト・ロックウォードは無表情の半眼のまま、頭上に設置されたモニター群を見上げた。
 会社の業績や株価はもちろんのこと、世界各地からリアルタイムで送信されてくる軍事・経済・社会変動に関する膨大な情報。彼女自身はベッドの上にいながら、それらに基づき役員会に指示を下す、実質的に「SIVA」の頭脳そのものといえた。
 実際、地下シェルターの特別室内で生命維持装置に繋がれた状態でないと生きられない彼女を、生身の人間というより「巨大コンピュータの一部」とみなすSIVA役員も少なくない。
「別に理解されなくてもいいわ。たとえ『死の商人』と罵られようと――私には、やり遂げなくてはならないことがあるの」
「ま、あんたの本当の目的が何だろうと、俺の知ったこっちゃないが‥‥俺にとっては、むしろあんたの『過去』に興味がある‥‥」
 ラザロは立ち上がり、ユディトの青い瞳をじっと覗き込んだ。
「キメラに体を引き裂かれたそうだな‥‥どんな気分だった? その時の恐怖、苦痛、絶望‥‥今でも憶えてるかね?」
「忘れたわ」
 ユディトは顔色ひとつ変えず、半眼のまま男を見つめ返した。
「人の記憶って、案外便利に出来ててね‥‥耐えきれないような恐怖や苦痛の体験は、心が壊れる前にうまく忘れられるようになってるの。‥‥まあ、時々夢に見るのは仕方がないけどね」
「そいつは上辺だけの話だ。あんたが体験した、その大きすぎる『恐怖』は‥‥まだ心の中心にしっかり居座ってる。‥‥俺にはそれが判るんだよ、あんたの目を見れば」
 くすっ――ユディトの唇が、微かに笑った。
「面白い人‥‥ひょっとして、それが理由なの? あの本社移転の日以来、こうしてしょっちゅう会いに来るのは」
 通常、CEOのユディトに直に会えるのは主治医や医療スタッフを除けば、SIVAの限られた役員のみだ。他の社員は、たとえ重役クラスでも別に用意された「謁見室」で音声のみにより彼女からの指示を仰ぐ。
 にもかかわらず、ラザロはあれ以来何かと理由をつけては彼女への面会を申請し、そしてなぜかユディトもそれを許可し続けていた。
 同社役員の中には、能力者とはいえ一介の傭兵が自社のトップと逢い引きまがいの「密会」を重ねる事を快く思わない者もいる。しかし当のユディト自身の意志には逆らえず、今やラザロは彼女の「片腕」といっても過言でない立場となりつつあった。
「返す返すも残念だねえ。もっと早くあんたと出会えてりゃ‥‥俺も違う形で『衝動』を満たす事が出来たのに」
「私だって、別にあなたの前歴や『衝動』なんかに興味ないわ。ただ、うちに所属してる能力者の中ではトップクラスの実力者だから‥‥いずれ再編成する私設兵団の指揮官を任せたいと思ってるのよ」
「そいつは光栄だがね‥‥キメラはともかく、ワームとやり合った経験なんかないぜ?」
 ラザロは再び椅子に腰掛け、ふてぶてしく足を組んだ。
「KVだけ新型に乗り換えたって、実戦経験がなけりゃ宝の持ち腐れだろ? まあ、バーチャル訓練だけで事足りるかもしれんが」
「その件については、ULTに依頼しましょう」
「模擬戦でもやろうってか?」
「まどろっこしいわ。てっとり早く実戦訓練よ。何しろ、『標的』だけには不自由しない‥‥地球上、至る所バグアだらけですもの」
「なるほど」
「急いだ方がいいわね。今度は、どうやら‥‥グリーンランドの方が騒がしくなってきたようだし」

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
ヤヨイ・T・カーディル(ga8532
25歳・♀・AA
櫻小路・あやめ(ga8899
16歳・♀・EP
音影 一葉(ga9077
18歳・♀・ER
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

●フィリピン共和国〜「SIVA」所有飛行場
 傭兵達が指定された飛行場に着陸した時、本日の依頼を共にするSIVA所属のKV部隊――イビルアイズ×1、雷電×2、ディアブロ×3は既に出撃準備を整え、滑走路上に翼を並べていた。
「私設兵団の教官ねぇ‥‥傭兵生活も長いと色々なことがあるものだな。まっ、きっちりしごいてやるか」
 ディスタンの風防を開けたリディス(ga0022)が、タラップを降りながら呟く。
「初の実戦が対HWとは、これまた難儀なことで。あの慣性制御の挙動だけはいつまで経っても忌々しいものです。まぁ、KVも相当の機動が出来ますがね」
「確かに実戦に勝る訓練は無し、とは言うが‥‥SIVAの女王さんも、結構思い切りが良いな。下手すりゃ貴重な手駒を喪いかねないってのによ?」
 やはりKVを降りた飯島 修司(ga7951)とゲック・W・カーン(ga0078)はそんな言葉を交わしつつ、ひび割れた滑走路に管制塔、ハンガー、防空銃座等が並ぶ殺風景な民間軍事会社の飛行場を見渡した。
 ちなみに今回彼らが「教官役」を務めるSIVAのパイロット6名は、指揮官ラザロ(gz0183)を別にすれば年齢・性別・実名など一切伏せられている。KVパイロットとしての技量はだいたい初期訓練を終えたレベルとの話だが。
「年下の方だとやりやすいんですけどね‥‥相手も子供に教わるのは気が引けるでしょうし」
 と心配する音影 一葉(ga9077)。こういう事は傭兵に限らず、一般企業の社外研修でもよくあるケースだが。

「こんにちは。皆さん頑張って下さいね」
 ヤヨイ・T・カーディル(ga8532)が明るく挨拶すると、滑走路脇で待機していたSIVA側パイロット達が背筋を正し、無言で敬礼した。
 フルフェイス・ヘルメットに黒いパイロットスーツで全身を包んでいるため、やはり年齢も性別も判らない。
「シミュレータでの訓練は一通り済ませてるんだがね。何せHWとの実戦なんか初めてだし、まあひとつよろしく頼むよ」
 ただ1人、妙にリラックスして自機イビルアイズの機体にもたれかかったラザロが薄笑いを浮かべていった。
「出撃の前に、2つ言っておく事があります。まずあなた方が『お客』といえども、いったん空に上がれば一切特別扱いはしませんから、そのつもりで」
 ULT側の傭兵を代表し、リディスが告げた。
 覚醒を解いた彼女は傭兵というより物静かな女教師といった風情だが、実戦経験に裏付けされたその言葉に甘さはない。
「リディス隊長とペアになったパイロット、可哀想に‥‥。いや、普段からじゃ想像できないかもしれないけど、ホント厳しいんだってあの人!」
「‥‥今何か言いましたか?」
「いえ、こっちのこと」
 危うく藪蛇になりかけたブレイズ・カーディナル(ga1851)が、苦笑して慌てて肩をすくめる。
「次に、組む以上私たちは運命共同体です。絶対に突出したり勝手なことは許しません」
「Yes.Sir!」
 ラザロ以外のSIVA傭兵達は、直立不動のまま声を揃えて叫んだ。

「今回の目標は南シナ海の無人島で発見されたバグア軍基地‥‥といっても戦力は小型HW5、6機程度の小規模なものだがね」
 周辺海図を広げながら、ラザロがざっと説明した。
 おそらく人類側のタンカーや輸送機を襲撃するため、バグアが競合地域に数多く建造した無人基地の一つだろう。とりあえず、あの鬱陶しいCWがセットで現れないだけでも傭兵側には有り難いが。
「ま、丁度いい相手かもな。俺たちの腕慣らしや、彼らの実戦訓練の相手としては」
 グリーランドにおける大規模作戦を控えたブレイズが、頷きながら呟く。
「本日はよろしくお願いします。皆さんのお手本になれる程の腕前ではありませんが、精一杯の支援をさせていただきます」
 一通りのブリーフィングを終えた後、櫻小路・あやめ(ga8899)が同行のSIVA傭兵達に礼儀正しく頭を下げた。
「おや、あんたとはこれで3度目かな?」
「? いえ‥‥今回が初めてのはずですが‥‥」
 初対面のラザロから馴れ馴れしく声をかけられ、あやめはやや警戒したように答えた。
「‥‥?」
 ラザロは一瞬、不思議そうな顔をしたが、
「失敬。人違いだった‥‥前に似た名前の傭兵と一緒に仕事をしたものでね。ちょうどあんたくらいの年頃の、若い娘だったが」
 あやめが詳細を尋ねようか迷っているうち、既にラザロは背を向けて自機の方へ歩み去っていた。

●南シナ海上空
 基本的には教官役のULT側KV1機とSIVA側KV1機がロッテ編隊を作る形となるが、人数の都合上、烏谷・小町(gb0765)はブレイズの雷電とペアを組む事になった。
 それでも今回、彼女はSIVA側に合わせてわざわざ無改造ディアブロ、兵装まで同じものに換装しての出撃である。
「さーて、機体条件を一緒にしたこの状態でどれだけ差が出るんやろか‥‥腕次第ってことやけど」
 とはいえ、いつもに比べて出力も低く、レーダー精度も悪い機体には彼女自身、軽い戸惑いを覚えざるを得ない。
 相方のブレイズは、
「ま、俺はあまり人に教えたりするような柄じゃないし、こういう方がやりやすくていい」
 といつも通りの調子で愛機を操っているが。

 やがて目標の小島に近づいた頃、迎え撃つように急上昇してくる4つの黒点が傭兵達の目に映った。
 あいにくウーフーや岩龍を同行していないためレーダーや通信の感度は鈍いが、敵方にもCWがいない分、条件は五分五分という所か。
「さてさて、新米たちが何処までついてこれるか‥‥」
 リディスはロッテを組むSV4、すなわちSIVA側のディアブロをちらりと見やった。
 機体改造が間に合わなかった分、メトロニウムフレームを2重に装備して防御を高め、万一の回避用にラージフレアを搭載させてある。敵が通常の小型HWならば、何とか互角に渡り合えるレベルといえようか。
 ただしバグア機は慣性制御や重力波センサーという未だ人類にとって解明途上の技術を有し、また敵プロトン砲の射程は人類側のミサイルやスナイパーライフルをも上回る以上、余程強化したKVでない限り1対1での苦戦は免れまい。
 故に今回もHW1機に対しKV2機以上で数の優位を得る必要がある。
 リディスは自ら先行してスラスターライフルの掃射でHWの1機を引きつけ、SV4のディアブロに攻撃の隙を与えた。さらにディスタンの砲口が火を噴き、ダメージを受けたHWを追撃。
「この流れが理想だ。お互いのフォローはしっかりとな」
 この時点で既に敵HWは機体から煙を噴いてフラつき始めていた。
「それとG−01は虎の子だから、使う時は確実に落とせるときに撃て」
 リディスはSV4に対し、Aフォース併用でG−01ミサイル発射を命じた。
 赤い翼から矢のごとく放たれた2発のミサイルが噴煙の尾を引いてHWに向かうも、これは慣性制御でからくもかわされる。
 結局、ディスタンによる第3波の攻撃がHWを空中に爆散させた。

 R−01から後継機イビルアイズに乗り換えたばかりのゲックは、SV3の雷電と共にHWに当たった。
「お前さんが将来、雷電の積載性を活かして移動砲台となるか、それとも頑丈さから拠点強襲を狙うか、それはこれからの選択次第だが、今回に限っては前者を頼むぜ」
「ラ、ラジャー!」
 そう答えるSIVA傭兵は、初期型KVに比べるとまるで宇宙ロケットの様な雷電の大出力バーニアの制御にやや戸惑っている様子だ。
 そんな雷電に援護を任せ、ゲック自身は積極的にHWへと肉迫、そのままドッグファイトへ持ち込む。
 またHW同士に連携を取らせないよう他のチームとも連絡を取り合い、巧みに敵を分断。後方のSV3にG−01発射を要請後、回避運動に移ったHWの死角を狙いレーザー砲で敵機の生命を削っていった。

 修司がロッテを組んだSV2もまた雷電だった。
「いざという時は私がフォローに入ります。なあに、盾になってでも墜とさせやしませんから」
 そう断った上で防御の高い雷電に敵の攻撃を引きつけさせ、その後方から攻撃力に優れたディアブロでHWへ痛撃を与えていく。
「経験は最高の教師ですからね、貴方にはHWの慣性制御機動というものを実際に学んで頂ければ、と。特にスキル使用のタイミングは大事ですよ?」
 いかに重装甲の雷電といえども、ただ一方的に敵の攻撃を浴びていては機体が保たない。そこで修司は機体得能の超伝導アクチュエータをブーストやラージフレア、煙幕装置等と併用させることで、運動性の鈍い重装甲機が敵の攻撃を巧みに回避するためのノウハウをコーチした。
「回避したい時、止めの一撃を叩き込みたい時、それが雷電のスキル使用のタイミングでしょう」

 ヤヨイのアンジェリカはSV1、すなわちラザロのイビルアイズと組んでいた。
「私の後ろにちゃんと付いて来てくださいよ。気づいたら落ちてたなんて止めて下さいね?」
「ああ。こんな所で水中キメラの餌なんてのは、俺もごめんだねえ」
 やはりロッテ戦術でHWを攻撃するわけだが、もちろんラザロ機を単なる支援役で済ませるつもりなどない。
「電子戦機といえ、イビルアイズは前に出て戦う機体ですからね」
「ま、防御と回避がもうひとつだが‥‥教官殿の命令じゃやむを得んな」
 速度を上げてアンジェリカの前方に出たラザロの操縦は、指揮官を任されるだけあり、SIVA側のKVでは最も巧みだった。操縦自体はやや大雑把だが、まるでチェスの先手を読むように敵HWの回避方向に先回りし、ねちっこくレーザー砲でダメージを与えていく。
 当初はラザロ機のフォローが必要かと考えていたヤヨイも安心し、データ収集も兼ねて機体得能のロックオン・キャンセラーの発動を指示。
 およそ十秒間とはいえ、周囲に展開していたHWのプロトン砲命中率が目に見えて下がり、無人機の円盤がまるで戸惑うように迷走を始めた。
 無理もあるまい。彼らのAIには、人類側から重力波ジャミングをかけられた時の対応などはプログラムされていないのだろう。こういう機体は下手に自己学習する前に始末するに限る。
 チャンスと見たヤヨイはSESエンハンサー起動で試作G放電を、さらに距離を詰めてレーザー砲の知覚攻撃を浴びせた。

 雷電搭乗のあやめは、自らの機体を若干前寄りに出し、専ら相方のSV5(ディアブロ)を攻撃機動させるよう心がけた。
「気負いすぎる事はありませんが、油断はしないでください。もし失敗をしても私たちでフォローします」
 対HW戦経験の浅いSIVAパイロットに通信を送って落ち着かせ、自らもミサイルポッドやガトリング砲で敵の耐久を削っていく。
 未改造のディアブロは搭乗者の経験不足もあり、しばしばHWに側面へ回り込まれピンチに陥ったが、その際はあやめの雷電がすかさず盾代わりとなってダメージを最小限に抑え、その隙に相方の態勢を立て直させた。
 やがてHWにダメージが蓄積した所を見越し、あやめはSV5にとどめの攻撃を指示。
 Aフォースを乗せたG−01ミサイルが炎の尾を引いて飛翔、慣性制御もままならなくなったHWに命中するや、爆炎の塊となって南海の上空に散華した。

「私のディスタンより早い筈ですが、今日は私に合わせて頂きますね」
 一葉はSV6のディアブロに対し逐一指示を下した。
 やはり基本は1対2のロッテ。一葉のディスタンが常に先手を取り、相方には後の先を取って貰う。
 まずはロングレンジから遠距離兵器による威嚇射撃を行い、HWの回避機動を読んでその後の攻撃法を決める。
「派手な一撃は最初の威嚇だけ、後は詰め将棋の如く追い詰めれば良いです‥‥その図式が描ければ後はミス無く行動あるのみです!」
 反撃で撃ち返されてきたプロトン砲に対しては僚機と共にラージフレアを展開して回避。すかさずSV6への攻撃指示を下した。
「防御兵器が反撃までのラグを無くす‥‥発想の転換ですね」
 ディスタンのスラスターライフルとディアブロのレーザーでHWの装甲をそぎ取り、最後は8式螺旋弾頭とG−01の連携でとどめを刺した。

 HW4機を撃墜し、島の上空に到達した頃、一見単なる無人島の地面が一部スライドし、地下からさらに2機の小型HWが発進してきた。補給・整備等も全てAIによるオートメーションだろう。
「さて、こんな基地を残しておくわけにはいかないからな‥‥これで、燃え尽きてもらうぜ!」
 フレア弾を搭載したブレイズ、あやめ、修司の3機が減速・急降下の体勢に入る。
 ゲックとラザロのイビルアイズ2機がRキャンセラーを交互にかけて電子支援する中、他のKV各機は迎撃のHW2機目がけて火線を集中させた。
 小町はHWを引きつけるべく温存していたG−01を斉射。撃ち尽くした後は間合いを詰めての挌闘戦でレーザー砲を叩き込む。
「こいつで‥‥落ちろ!!」
 爆撃班3機のKVから投下されたフレア弾が3つの巨大な火球となって膨張し、バグア無人基地を地下施設もろとも焼き尽くす。
 同じ頃、11機のKVから集中砲火を浴びた残り2機のHWも力尽きて南シナ海の藻屑と化していた。

●帰還後
「幾ら一機の性能が劣っていても、チームで戦えば勝てない道理はない。チームワークの大切さを絶対に忘れないようにな。今日はよく頑張った」
 教官のリディスから労いの言葉をかけられ、初のHW戦を終えたSIVA傭兵達もようやく安堵したようにヘルメットを脱いだ。いずれも20代から30前の若い男達だ。
 彼らの機体はかなり被弾していたが、幸い大破というほどの損傷ではなかった。
「やはり‥‥シミュレータと違いますね。実戦は」
「ま、何にせよ最初こそモタつくだろうが何事も馴れだ。その内気にならなくなる。で、その際慢心を起こさないでいられれば、生き残れるだけの腕は身に付くさ」
 ゲックは自分の相方を務めた若い傭兵の肩を叩いて激励した。
「どれだけ頭の中で予測できるかで5割は決まります。残りは、操縦技術ですね、そちらは私も自信が無いです」
 ちょっと苦笑いしつつ、今回の戦闘を総評する様に一葉が所感を述べる。
「ディアブロを一機削ってでも、ウーフーを追加してアンチジャミングを入れた方がええと思う。アンチジャミングは結構便利やからなー」
 小町がラザロにそう進言すると、
「ああ、ご心配なく。電子戦機の方はいま別口で訓練中さ」
 脱いだヘルメットを両手で弄びつつ、男の灰色の目がニィっと細まった。
「今月中に5、60機は実戦に出せるようにしとけって『社長』からのお達しでね‥‥グリーランドには間に合いそうもないが、代りに九州の方が慌ただしく来たようだしな」

<了>