タイトル:王女殿下の空母マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/26 02:00

●オープニング本文


「おお、ついに完成したか!」
 作業用通路の上から眼下のドックを見下ろし、プリネア王国王女ラクスミ・ファラームは両手を広げ、誇らしげに声を上げた。
 母国の民族衣装をまとい、黒髪に緑の瞳を持つ彼女は、年齢こそまだ16歳と若いが、王族の英才教育の一環として既に海軍大学を卒業し、現在は同国海軍提督の地位にある。
 といっても、平和な時代であれば、あくまで観閲式や進水式などのイベントに華を添えるだけの「お飾り」としての肩書きに終わったことだろう。
 だが、20世紀末に始まったバグア襲来という人類史上未曾有の事態が、若き王女を艦隊司令として実戦参加させるという、これまた戦史上稀なる状況を作りだしたのだ。
 
 ドックに停泊しているのは、つい先日就役したばかりのプリネア王国海軍初の、そして唯一の航空母艦「サラスワティ」。東南アジアの一角に位置し、小国ながらも豊富な産油量を誇るプリネアが、そのオイルダラーを注ぎ込んで建造した最新鋭艦である。
 基準排水量3万tと、空母としては小型の部類に入る。対キメラ用の各種武装を満載した武骨な艦体の横に250mの全通式スキージャンプ甲板を備えたその外観は、どことなく旧ソ連のキエフ級空母(航空巡洋艦)と英国のインヴィンシブル級空母を足して2で割ったような印象を与えた。

「SES機関搭載で最高速度35ノット以上、ナイトフォーゲルを最大15機搭載可能‥‥空母としては小さいが、UPC海軍の新鋭艦にもひけをとらぬ性能を備えておる。わらわ自らこの艦を指揮し、アジアの海からバグアどもを追い払ってみせようぞ!」
 まだあどけなささえ残る顔を上気させ、小さな拳を握りしめて叫ぶ。
 ‥‥幼い外見とは裏腹に、かなり好戦的な性格のようだ。

「恐れながら、殿下‥‥」
 背後に影のごとく控えていた将校服の男が、おずおずと声をかけた。
 同国海軍のシンハ中佐。1999年のバグア軍大侵攻の際、駆逐艦艦長としてASEAN連合艦隊に参加。質量共に圧倒的劣勢の中、巧みな操艦で敵円盤やキメラを翻弄し「南シナ海のライオン」と異名を取った名将である。
 後に「能力者」であることが判明した彼は、現在王女の副官兼護衛役として、常に身辺に仕えていた。
「何じゃ、シンハ? わらわが初陣に立つ暁には、そなたにも片腕として存分に‥‥」
「誠に残念でありますが、搭載する飛行機がございません」
「‥‥なに?」
 ラクスミが小首を傾げた。
「そんな筈はなかろう。確かこの艦を銀河重工に発注するとき、搭載機もコミで‥‥」
「先ほど、先方から契約のキャンセルと違約金の支払いを伝える連絡がございました。何でも、このところ日本列島周辺のバグア軍の動きが活発化し、非常事態として生産したナイトフォーゲルはすべて本土防衛に回すとのことで」
 王女の瞳が、みるみる点になった。
「銀河が駄目なら‥‥他のメーカーはどうじゃ? インドや中国の――」
「いずれにせよ、新鋭機は最前線への配備が優先されるでしょうから‥‥今から発注しても、我が国に届くのはいつのことになるやら‥‥」
「ええい、KVでなくともかまわん! 空軍じゃ! 空軍の戦闘機を回せ!」
「無理ですってば。我が空軍の主力は旧世代のF−15ですし‥‥そもそも空母に搭載できる仕様になっておりません」
「そんな‥‥」
 ラクスミはへなへなとその場にへたりこんだ。
 いかに最新の装備を備えようと、搭載機を持たない空母など置物も同然である。
「それではこの空母、何の使い道もないではないか‥‥」
「そうですなあ。まあオセアニアのバグア軍がいつ動き出すやもしれませんし、とりあえずその時まで待つのが良策かと」
「うう、口惜しい‥‥せめてわらわがそなた同様『能力者』であれば、たとえ一介の義勇兵としてでもラスト・ホープにはせ参じたものを」
 眼下の「サラスワティ」を眺めやり、うるうる落涙するラクスミ。
「殿下、そんなお戯れを‥‥」
「――そうじゃ、ラスト・ホープじゃ!」
 ガバっと顔を上げ、だしぬけに王女が叫んだ。
「あそこには、自らの戦闘機を持つ能力者の傭兵たちがおると聞いた。彼らにこの空母を無償で貸し出し、共に闘うのじゃ!」
「ええっ!? しかし、国王陛下が何といわれますか――」
「父上には、後で承諾を取ればよい! 今は人類存亡を賭けた戦(いくさ)の最中なのじゃ。貴重な戦力をここで遊ばせていられるか!」
 改めてすっくと立ち上がり、若き王女は高らかに告げた。
「ただちにUPCへ伝えよ! 空母『サラスワティ』はプリネア王国第1義勇艦隊旗艦として対バグア戦争に参戦。これよりラスト・ホープへ向かうと!」

「艦隊」とはいっても、実質的に「サラスワティ」1隻だが。

「そこまで仰るならお止めはしませんが‥‥しかし、いきなり実戦に出るのもいかがなものかと。我々も彼ら傭兵たちも、空母の運用なんて初めてでしょうし」
「ふむ。それもそうじゃな‥‥」
 ラクスミはしばし黙考し、
「ならば、こうしよう。傭兵たちをこの艦に招き、現場のパイロットである彼らの意見を聞くというのは?」
(何だか、建て売り住宅の見学会みたいだな‥‥)
 シンハ中佐はちらりと思ったが、むろん口には出さなかった。

●参加者一覧

MIDNIGHT(ga0105
20歳・♀・SN
エスター(ga0149
25歳・♀・JG
緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
綾峰・透華(ga0469
16歳・♀・SN
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
アイリス(ga3942
18歳・♀・JG
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER

●リプレイ本文

 遙か上空から望む「サラスワティ」の艦影は、まるで広大な海原にポツンと浮かぶ木の葉のようだった。

 事前にヴァーチャル・システムによるシミュレーション訓練を積んでいたとはいえ、初体験となる空母への着艦に、ナイトフォーゲルを駆る傭兵たちの顔も思わず緊張に引き締まる。
 空母のCDC(戦闘指揮所)から着艦許可の通信が入り、艦尾の着艦誘導灯が輝くのを確認した傭兵達は機体の高度を下げ、右舷後方上空から着艦体勢に入った。
 それまで小さく見えた艦体がみるみる目前に迫ってくる。
 艦橋に対してやや斜めに設置されたアングルド・デッキ(飛行甲板)を目指し、まず先頭機が着艦する。着艦フックがアレスティング・ワイヤーに引っかかる衝撃と共に機体が制止し、デッキ・クルーたちがわらわらと駆け寄ってきた。
 かつては熟練パイロットでも至難といわれた着艦作業も、最新のAIに制御されるKVなら遙かに安全にこなせることが実証されたのだ。
 同様にして後続のKVも次々と着艦し、十分ほど後には8人の傭兵たちが「サラスワティ」の甲板上に降り立っていた。

「うっわー、おっきいおっきいおっきーい! 想像してたよりは小ぶりだけど、それでも空母って大きいんだー!」
 綾峰・透華(ga0469)がはしゃいだように叫ぶ。
「サラスワティ」は基準排水量3万t(満載時3万5千t)。現代空母としては小型の部類に入るが、それでも20世紀前半における巡洋戦艦クラスの大きさである。
「せ、専門的なことは分からないけど、とんちんかんな意見を出さないようにしなくちゃ‥‥」
 傭兵たちの中では最年少になる明星 那由他(ga4081)が、緊張した面持ちでつぶやいた。

「おおー、来たか!」
 艦橋の方から、南アジア風の民族衣装をまとい、褐色の肌に緑の瞳を輝かせた小柄な少女がパタパタ駆け寄ってきた。
 まるで女子高生のような年齢だが、プリネア王国の王女にして海軍提督。そして「サラスワティ」艦長でもあるラクスミ・ファラームである。
 実は王女との謁見は見学会の最後に行われるはずだったが、好奇心旺盛なラクスミは鶴の一声で予定を変更し、副長のシンハ中佐に実務を任せ自らホスト役を買って出たのだ。一応、背後には護衛も兼ねてプリネアの海軍士官が控えている。
「我が艦へようこそ! 歓迎するぞ」
 まずは傭兵側を代表し、緑川 安則(ga0157)が進み出た。びしっとスーツを着込み、右腰にハンドガン、左腰にレイピアと銃士のごとき出で立ちだ。
 いったん軍人風に敬礼してから、さっと王女の前に片膝をつき、その右手の甲をとって軽く口づけする。
「ラクスミ王女殿下に置かれましてはご機嫌麗しく、殿下のお望みのようにこの空母をUPCが誇りとする精鋭隊へと生まれ変わらせる、その役目。果たして見せましょうぞ」
「うむ、天晴れな心がけじゃ。わらわも共に戦える事を嬉しく思うぞ」
 王女は上機嫌で答えると、次いで他の傭兵たちとも一人一人握手しながら挨拶を始めた。
「櫻小路・なでしこ(ga3607)です。本日はお招きを頂きましてありがとうございます。空母運用のお力になれる様にご協力致しますので、よろしくお願い致します」
「おお。こちらこそよしなにな」
「アイリス(ga3942)と言います。はじめましてです。こ、この度はお招きに預かり、非常に光栄なのですよ」
「そう固くならずともよい。ゆるりとしていけ」
「綾峰・透華です。私、大きいメカってだーい好きです!」
「そなたもそう思うか? 気が合うのう」
「エスター(ga0149)っス。今日はよろしくお願いするっス〜」
「‥‥でかい胸じゃのう」
「藤田あやこ(ga0204)です。閣下、サラスワティを傭兵が競って配属を願う素敵な船にしましょう!」
「頼もしいぞ。何か思案があれば何なりと申すがよい」
 那由他と握手したとき、ラクスミがふと尋ねた。
「そなた、若いな。幾つじゃ?」
「じゅ、11歳‥‥」
 それを聞いた王女は、ニンマリ笑って背後の士官に振り向いた。
「聞いたか? この歳で立派に傭兵として闘っておるではないか。誰じゃ? わらわが出陣を決めたとき『まだ若すぎる』とかいって反対したのは」
「そ、それは国王陛‥‥ゴホゴホッ」
 何かいいかけたのを、士官は咳払いして止めた。
 最後に握手したMIDNIGHT(ga0105)が、まるで巡洋艦を無理やり横にくっつけたように武骨な艦橋を眺めてボソリといった。
「あれが邪魔‥‥。それに1隻だけじゃ‥‥無理‥‥護衛艦が必要」
「‥‥」
 王女の顔がみるみるふくれっ面になった。
「わぁっ! ちょちょっ――」
 士官が慌ててMIDNIGHTの腕をつかみ、少し離れた場所へと引っ張る。
「そ、その話に触れないでください! 本当は殿下ももっとスマートな正規空母をご所望だったのですが、なにぶん我が海軍の他の艦艇は旧式艦ばかりで、護衛に付けても却って足手まといになるだけ‥‥で、メーカー側にあれもこれもと注文をつけたら、結果的にああなってしまったわけでして」
「‥‥そうなの。ならせめて、水中戦専用機、欲しい‥‥SES搭載の」
「そ、そういう希望はメーカーの方にお願いしますっ」

「では、とりあえず艦内から見てもらおうか?」
 気を取り直した王女に引率され、一行はぞろぞろ歩き出す。
 ちなみに当初の予定では2泊3日で実施されるはずだったこの見学会、バグア軍のUPC日本本部への大規模攻撃が近いとの情報が入ったため、急遽日帰りに変更された。
 従って本日は駆け足のスケジュールである。
「まず艦の主要武装ですが、SES兵器のレーザー砲20門、その他対空・対艦・対潜ミサイルを多数装備。また対潜・哨戒・救難用に各種ヘリも搭載しているので、これにKVのエアカバーが加われば単艦でも充分作戦行動可能な仕様となっています」
 同行する海軍士官が説明する。
「また船体は造船では定評ある銀河重工の製造。現時点で確認されている最大級の水中型キメラの体当たりにも、充分耐えられるよう設計されております」
「空母は陸戦部隊に攻め込まれるのが一番問題です。そちらの警備体制は?」
 安則が質問した。
「ご心配なく。能力者も含む海兵隊の精鋭が常時警備してますよ。ことに東南アジア周辺海域では、キメラだけでなく海賊の被害も馬鹿になりませんからね」
「KA−6のような艦載給油機を導入し、増槽の投棄をやめ環境問題への姿勢をPRしましょう!」
 と提案するのはあやこ。
「艦載給油機か‥‥KV対応型はあったかのう?」
「さあ‥‥まあいずれ早期警戒機や電子戦機も搭載する予定ですし、その時に検討してみましょう」
 王女の質問を、士官がメモに取る。
「そうそう、パイロットとして搭乗して頂く皆さんには、一般クルーとは別にゲストルームをご用意してありますから」
 そういって案内された部屋は狭いながらも個室で、ベッドはもちろんトイレにシャワーまで付いていた。一般的な軍艦の基準でいえば、上級士官並の好待遇である。
「空母といえば長期の作戦行動もあり得ますよね。クルーの方がストレスを感じない様な配慮も必要じゃありませんか?」
 なでしこがいった。
「たとえば、体を動かせるトレーニング施設とか、入浴設備とか」
「それはよいな。どうせキャンセルされたKV用の予算が余っておるし、いっそフィットネスクラブにサウナ、ジャグジー風呂も作るか?」
「畏まりました。次の改装で業者に依頼しましょう」
「あのあのっ、もしかして‥‥アイス食べ放題ってあります?」
 透華がわくわくしたように尋ねると、ラクスミは顎を撫でてふっと笑った。
「ぬかりないわ。アイスとお菓子、ジュース類は艦内の食堂で食べ放題じゃ」
「僕は‥‥電子図書館があればいいと思います。本をデータ化して保存して、PDAとかの個人端末に落として読めるようにしたら‥‥」
 那由他が提案した。
「それも名案じゃな。ついでにネットカフェでも作って、映画やTVドラマのDVDも一通り揃えるか」
「TV。それですよ!」
 あやこがポンと手を打った。
「電波は剣よりも強し。お国のTV局や外国のメディアを招いて広報番組を世界に配信しませんか?」
「ほう? 今の件、さっそく本国のTV局に伝えて企画書を提出させよ」
「ははっ」
「ゲーセンも欲しいッスね。バーチャル空戦ゲームなら訓練代わりにもなるっス」
 エスターがいう。
「なるほど。息抜きに娯楽施設も必要じゃな。それも追加じゃ」
 矢継ぎ早に繰り出される王女の指示に、ひたすらメモをとり続ける士官。
「あとマニュアルッスね。空母がどういう風に運用されるのか? どういう風に動いて欲しいのか? その辺の例を記したマニュアルが有ると雇う人員が大幅に入れ替わったりしても問題減ると思うッスよ」
「それは少し時間が要るな‥‥とりあえず本艦のクルーは各国から優秀な空母勤務経験者をスカウトしたゆえ、初心者の傭兵にも不自由はかけぬと思う」
 甲板下の格納庫に降りると、何機かのヘリコプターが駐めてある他はひどくガランとしている。本来はここに最大15機のKVが格納されるはずだった所を、メーカーの都合でキャンセルされてしまったので現在はガラ空き状態だ。
 さらにボトム(船倉)まで降りたとき、MIDNIGHTがまたボソっと、
「毛布や非常食‥‥水‥‥もっと必要」
「うむ。そのあたりの物資はラスト・ホープで調達予定じゃ。場合によっては災害救助や難民収容にも使えるようにな」
 軍艦だけに、さすがにCDCや機関部など機密に関わる区画に立ち入ることはできない。そのため、一般の見学コースは2時間ほどで一通り回り終えてしまった。
「では、そろそろ甲板の方に‥‥おや? 一人足りませんね」
 と、士官が首を傾げたとき。
「うえぇ〜ん! みんな、どこぉ〜?」
 子供のようにベソをかくアイリスを、困り顔の警備兵が廊下の向こうから連れてきた。
「こちらの方が迷子になってたんですが‥‥」
「広すぎて何が何だか判りませんよ〜。案内板付けてくださ〜い」
「あ! いやーすみません。最初に説明するのを忘れてました」
 士官が苦笑しながら床を指さした。見れば、ペンキで色分けされたラインが数本引かれている。
「艦内じゃ階級や役職によって立ち入り可能の区域が細かく分かれてましてね。とりあえず、この黄色いラインが一般見学用のコースになってるんですよ」

 艦内見学を終えた一同は、改めて飛行甲板上に引き返した。
 この機会に、空母での離発着訓練の希望を申請していたからである。
「もうすぐデカイ事件が起こるッスからね〜〜。少しでも操縦経験積んどきたいんッスよ」
 再びパイロットスーツに着替えたエスターが、張り切ってナイトフォーゲルに向かう。
 KVに乗り込んだ傭兵達は、発艦士官の合図に従い次々と空母から飛び立った。
 スチーム・カタパルトを装備した大型空母と違い、「サラスワティ」のスキージャンプ式甲板は実際に使用してみると想像以上に狭く見える。
 AIの支援があるといえ、着艦時以上の緊張を覚えつつも、地上の滑走路とは全く違う感覚を体に覚え込ませるべく、彼らは空母への着艦と発艦を続けて行うタッチ・アンド・ゴーの訓練を繰り返した。
「平均20秒か‥‥なかなかやるじゃねえか」
 デッキクルーの一人が、ストップウォッチを見ながらつぶやいた。

 一通りの離発着訓練を終えたあと、一行は引き続き訓練を行うグループと、甲板上の設備を視察するグループに分かれた。
「今度は人型状態でチャレンジしてみるっス!」
 KVを人型に変形させたエスターが2足歩行でドタドタ離陸しようとすると、3万t超の艦体がグラリと揺れた。
「あーダメダメ! そんなコトされたら、甲板がデコボコになっちまうだろが!」
 発艦士官やデッキクルーたちが怒鳴り声を上げて制止する。
「うーむ。やはり、あの形態での離発着は無理かのう‥‥」
 ちょっと残念そうにラクスミがつぶやく。
 一方、安則は自分の機体に燃料や武器弾薬を補給してもらい、ついでにクルー達の作業速度をチェックしていた。
「普通、任務ごとに武装変更です。つまり整備との連携が重要です」

 夕刻、傭兵たちは見学の締めくくりとして士官用食堂でディナーに招かれた。
 厨房係の水兵が一同のグラスにワインを注ぐ。もっともラクスミも含め、未成年者は全員ノンアルコールのシャンパンだったが。
 王女が立ち上がり、高くグラスを掲げた。
「では――『サラスワティ』の幸運と、人類の勝利を祈って乾杯!」
 多国籍のクルーが勤務する艦だけに、メニューも洋風・和風・その他アジア風エスニック料理と多彩である。
「あたしの胃袋‥‥満たせなければ‥‥失格」
 訓練中に覚醒した影響でまさに底なしの胃袋と化したMIDNIGHTが、厨房の能力確認とばかり食いまくる。
「ほう、おぬしわらわと同い年か?」
 ラクスミはちょうど同じ16歳の透華と意気投合し、ファッションからメカ談義まであれこれ話し込んでいる。普段は王族と軍人の公務に追われているものの、本人も内心では庶民の女の子の生活に興味があるらしい。
 他の傭兵たちは各自訓練の反省会をしたり、口頭で伝えきれなかった感想や要求をメモ書きにした。
 そんな中、
「あ、あの王女様‥‥いいですか?」
 那由他がおずおずと手を挙げた。
「くるしゅうない。申してみよ」
「その、僕らの意見より普段乗っている乗務員の方たちの意見を優先した方がいいんじゃないかって思います‥‥僕らは、や、雇われてそのとき過ごすだけだけど、そのときにKVがちゃんと飛ぶのも艦が動くのも、乗務員の人たちのおかげだから‥‥」
 王女は黙って聞いていたが、やがて静かに答えた。
「その言葉、肝に銘じよう。‥‥それと、帰ったらラスト・ホープの者たちにこう伝えて欲しい。『この艦に乗って共に闘う者は、傭兵であるとクルーであるとを問わず、皆かけがえのない同志である』と」


「すごく良い経験が出来たです。ありがとうございますです」
 一同を代表してアイリスがペコリと頭を下げる。
 傭兵達は各々愛機に乗り込み、1機、また1機と空母から星の瞬き始めた夜空へと飛び立っていく。
「さらばじゃ! 次は戦場で会おうぞ!」
 最後の1機が星空の彼方に消えるまで手を振りながら見送るラクスミの背後から、護衛の士官が歩み寄った。
「殿下、シンハ中佐からの伝言です。『UPC総本部より通達あり。例の作戦の期日が決まったとのこと』」
「そうか‥‥いよいよ始まるな」
 若き王女は険しく顔を引き締めると、衣装の裾を翻して艦橋へと戻っていった。

<了>