タイトル:【AW】北京的蒼空マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/13 15:23

●オープニング本文


●再起への始動
 人類・バグア両軍がかつてない規模で激突したアジア決戦。中国に本拠地を置くメガコーポレーションの一角・奉天北方工業公司製の兵装は旧式ながらもその優れたコストパフォーマンスと数の多さにおいて大いに貢献したものの、企業本体が受けた被害もまた甚大なものとなってしまった。
 未だに国土の大半をバグアに占拠された中国にとって、せめてもの救いは北京を脅かしていた敵の移動要塞・ラインホールドが結果として東京へ移動してくれたことである。
「ピンチをチャンスに変えろ」――その合言葉の下、奉天公司においてはインド戦線で撃墜されたKVのジャンクパーツをかき集め、バグア軍の包囲態勢がある程度薄くなった北京へ向けて大規模な空中輸送計画が立案された。
 ジャンクパーツといえども、バグアによる長期包囲下で物資不足に悩むUPC北京防衛部隊、及び奉天公司にとっては貴重な資材である。だが一時的に弱まったといえ、未だ圧倒的な敵地上軍の存在により、北京への着陸は極めて困難。
 そこでパラシュート付きコンテナを用いて資材の空中投下案が採用されたが、ここで懸念されるのは空輸中のバグア航空戦力による妨害であった。

●少年の岐路
「僕が、UPCの情報部員に‥‥?」
 L・HのUPC本部、EAIS(東アジア軍情報部)部長・エメリッヒ中佐と机を挟んで向かい合い、高瀬・誠(gz0021)はポカンとした顔で情報将校の顔を見つめた。
「それって、正規軍にスカウトされたってことですか? 僕が?」
「ちょっと違うな。身分はULT所属の傭兵のまま、外部エージェントとして我々の依頼を優先的に受けて欲しいということだ。まあ非常勤のバイトの様なものと考えてくれたまえ」
(「なんだ‥‥」)
 それを聞いて、誠は少しがっかりした。
(「僕みたいな新米傭兵に、そんなうまい話あるわけないもんなあ‥‥」)
「傭兵としての自由をある程度制約してしまうことになるが‥‥任務遂行中に限っては正規軍同等の権限を与えるし、通常報酬とは別に年俸も支給しよう」
 そういって渡された契約書に書かれた金額を見て、誠は目を丸くした。
「こ、こんなに‥‥?」
「ただし依頼は必ず受けて欲しいし、また任務中に知った情報は全て軍事機密だ。関係者以外の人間に漏洩すれば、君は軍法会議にかけられることになる」
「‥‥」
 誠は思わず生唾を呑み込んだ。
 つまり、この書類にサインしてしまえば、今後いかなる危険依頼も拒否できないということになる。
 その一方で、日本に残してきた両親の事が脳裏を過ぎった。誠自身が能力者となるきっかけともなった「ある事件」のため父親は職を失い、母親は病気がちとなって入退院を繰り返している。現在、実家の家計は傭兵である誠の仕送りで何とかまかなっているようなものだ。
(「これだけのお金があれば‥‥父さんと母さんにも、楽させてあげられるなあ」)
「で‥‥どうするね? むろん強制はしない。君自身の意志で決めて欲しい」
「え? あ、ハイ‥‥分りました。お受けします」
 現実に引き戻された誠は慌ててボールペンを受け取り、いわれるまま数枚の契約書にサインしていく。
 契約そのものは、5分足らずで終わった。

「‥‥よろしかったんですか?」
 誠が出て行ったあと、同室で記録をとっていた秘書の女性士官が顔を上げ、やや気まずそうに尋ねた。
「能力者といっても、彼はまだ子供ですよ? 私たちの仕事は‥‥必ずしもキレイなものばかりとは限らないのに」
「今は戦時下だ。えり好みをしていられる余裕はないんだよ」
 エメリッヒは煙草に火を点け、大きく煙を吐いた。
「知っての通り、実動部隊を持たない我々情報部門は現場の軍人連中に対して発言力に乏しい。また傭兵は必要な時、必ずしも必要な人数が集まるとも限らない‥‥」
 ちらっと壁の方を見やり、そこに貼られたアジア・オセアニア地域の大地図を険しく睨み付ける。
「今のうち、こちらの手札となる能力者を確保しておきたいのだ。いずれあの親バグア国家‥‥カメル問題にケリをつけるためにもな」

●飛び立つ凶鳥
「あ〜あ。随分こっぴどくやられちゃいましたねぇ」
 カメル共和国、急ピッチで基地建設が進められるバグア拠点。
 作業服にツールボックスを提げた、まだ子供のような年頃の整備士が、ボロボロに大破したFRを見上げ、言葉とは裏腹にひどく嬉しげな口調でいった。
 ショートカットにノンフレームの眼鏡を光らせたひどく可愛らしい顔立ちだが、その性別は定かでない。
 こんな時、UPC軍の整備士なら「もっと機体を大切に扱え!」と怒り出すところだろうが、どうも彼(?)の感覚は少し違うようだ。
「おまえか? 豪州軍司令部から派遣されてきた整備士というのは」
 パイロットスーツに身を包んだ長髪のアジア人青年――カメル駐留のバグア軍司令官、そしてゾディアック「射手座」の称号を持つシモン(gz0121)が尋ねた。
「はい、自分がユズ(gz0168)ですよ。初めてお目にかかります」

 武力侵攻と傀儡政権樹立による事実上のカメル占領には成功したものの、その後同国北部海岸において発生した能力者達との戦闘で、シモンのFRを始め、駐留軍の中核となるエース機が軒並み大損害を被ってしまった。
 配下の整備兵ではとても手が足りず、バグア・オーストラリア軍上層部に要請したところ、助っ人整備士として何処からか派遣されてきたのが、このユズである。

「よろしく頼む。基地の整備兵は好きに使って構わん」
「シモンさんは、これからまた出撃ですか?」
「まあな」
「じゃ、気をつけていってらっしゃ〜い」
 無邪気に手を振るユズは、シモンの背中を見送りながらニヤリと笑った。
「ふふっ‥‥頑張ってケガしてきてくださいね。機体の方は、僕がキチンと面倒みますから」
 そして鼻歌を歌いつつ、FRの修理作業にかかるのだった。

 シモンがハンガーから滑走路へ出ると、片眼を眼帯で覆い、手足に包帯を巻いた少女、結麻・メイ(gz0120)が不安そうに佇んでいた。
「あの‥‥お身体の方は、もう大丈夫なのですか?」
「心配ない。おまえの方こそ、回復するまでよく休んでろ」
 とはいえ、シモン自身も体調万全とは言い難い。
(「‥‥まあ、短時間の戦闘なら問題あるまい」)
 それに今回の機体はFRとわけが違う。
 今度こそ圧倒的な力の差を見せつけ、先日の屈辱を晴らさねば気が収まらない。
「待ってろよ‥‥次は2分といわず、1分で蹴散らしてくれる」
 シモンは既に出撃を待つばかりのその戦闘機――ステアーを見やり、口許に冷酷な薄笑いを浮かべた。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
文月(gb2039
16歳・♀・DG

●リプレイ本文

●北京まで3千マイル
 奉天公司所属の大型輸送機5機を護衛する傭兵達のKV部隊は、インド北東部・バグアドラ空軍基地から離陸し、北京を目指していた。

「北京の現状は悲惨なものでした‥‥」
 以前、別依頼で北京上空を飛行した文月(gb2039)は、その時目にした光景を仲間達に無線で語って聞かせた。
 バグア軍に包囲され籠城することはや1年以上。慢性の物資不足にあえぐ北京防衛部隊にとって、たとえ撃墜されたKVから回収されたパーツといえども貴重な戦略物資だ。また、輸送コンテナの中には他にも医薬品、非常食、粉ミルクなど戦火に苦しむ北京市民へ向けた援助物資も積み込まれている。
「‥‥必ずや送り届けましょう」
 その思いは中国人を父に持ち、幼少期を中国で過ごしたレールズ(ga5293)も同じだった。
 出発前、彼は依頼主である奉天社員に頼んで輸送物資のコンテナにUPCのマークと中国国旗を並べて描いてもらい、その下に『我々は貴方を見捨てない!』とのメッセージを添えていた。
(「1年の篭城‥‥どんな気持ち、なのかな‥‥」)
 ラシード・アル・ラハル(ga6190)は思う。彼は胸の裡で、今はバグア占領下にある出身地の中東地域と北京を重ね合わせていた。
「僕の故郷は、なくなっちゃったけど‥‥まだ、北京は、生きてる。‥‥資材、届けてあげたい、ね」
「ジブリール2」と名付けた愛機ワイバーンに語りかけるように、そっと呟く。
「作戦の全貌は機密とされていますが、我々以外にも複数の輸送部隊が北京に向かっているはずです」
 先頭の輸送機に搭乗する奉天側代表、周隊長がKV各機に伝えた。
「実は‥‥つい先ほど本社から連絡を受けました。我々の前にインドから出発した輸送編隊が既に3つ、連絡を断っていると」
「HWの仕業でしょうか?」
 アンジェリカの機上から、櫻小路・なでしこ(ga3607)が尋ねる。
「どの編隊にもKV部隊を護衛に付けてます。飛行キメラや小型HW程度の襲撃で、そうそう全滅するはずはないのですが」
「たぶん、ステアーでしょう‥‥L・Hで情報部から警告されたように」
 おずおず返信したのは、中国戦線視察のためEAIS(東アジア軍情報部)からウーフーで派遣された高瀬・誠(gz0021)だった。
 彼の所属するEAISは、出発前にカメル共和国からステアーらしき機体がインド方面へ移動したという情報を得ていた。
「‥‥カメルから来た、となるとシモンか‥‥いい加減、奴にも消えてもらいたいものだがな」
 ややあって、ゲック・W・カーン(ga0078)が返信する。
 ゾディアック「射手座」。そして今やカメルを実質支配するバグア軍司令官・シモンとはつい先日、カメル国内からのUPC軍兵士救出を巡る戦闘でやり合ったばかりだ。
 そのときは幸い、能力者達はシモンの搭乗するFR撃退に成功している。そして今回の護衛機の中にはゲックを含め、同じ空戦に参加した者も何名か参加していた。
「FRの次はステアーか‥‥状況は何時でも過酷だな」
 その1人、リディス(ga0022)がため息をもらす。
「だがステアーといえど、むざむざやらせはせんさ‥‥絶対に」
「ステアー相手となると‥‥一瞬の遅れが命取りになるわね」
 今の所ウーフーの電子支援により正常に作動する雷電のレーダーで周辺空域を警戒しつつ、アズメリア・カンス(ga8233)が眉をひそめる。
「ともかく相手が相手だ。もう一度、万一の事態に備えて確認しておこう」
 赤くペイントされたウーフー「緋閃」に搭乗する霧島 亜夜(ga3511)が僚機に呼びかけた。誠の任務をサポートするべく自機にもKV用カメラを搭載し、またステアー遭遇時に備えて過去の戦闘記録を洗いざらい検討してみたが、FRと違いステアーに関してはまだこれといった弱点が見いだせていないのが実情だ。
「依頼主とはいえ我々は民間企業です。あなた方に『命を捨てろ』とまで命令する権利はありません」
 周隊長が答えた。
「ですから危険と判断したら撤退してくださって結構です。――ただし、我々輸送部隊は最後の1機となっても必ずや北京までたどり着く。このパーツ1つ1つが、我が中国人民にとって血となり肉となる貴重な資材ですから」
 奉天側の決意とは対照的に、輸送機隊の前後左右を直衛するβ隊10機のリーダーは弱気だった。
「申し訳ないが‥‥我々の部隊は機体も初期型だし、パイロットも新米ばかりだ。小型HWくらいならまだしも、ステアーなどとても太刀打ちできない」
 一応護衛は務めるが、撃墜の危険に陥ったら速やかに離脱させて欲しい――というのがβ隊リーダーの希望だった。
(「やはり、いざとなったら俺達α隊だけで対応するしかない、か」)
 時任 絃也(ga0983)は操縦桿を握り直して腹を括った。
 機体に関していえば彼も初期型のR−01改だが、機体強化や兵装の改造によりその性能は大幅にアップしている。つい先日の依頼では、それでゾディアック「魚座」のステアーともやりあっているのだ。
「ちっ、立て続けに相手がステアーとは厄日だが、愚痴を言っても始まらんか」

●極音速の刺客
 数百km後方から接近するその機影を最初に捉えたのは、編隊上空で早期警戒にあたっていた亜夜の「緋閃」だった。
 相手はただ1機だが、その速度が尋常ではない。ブースト状態のKVすら上回る、まさに弾道ミサイル並の速さである。
 ステアー襲来――。
 輸送機の直衛はβ隊に任せ、α隊に誠のウーフーを加えたKV11機は直ちに迎撃態勢に入った。
「行こう‥‥僕の翼、ジブリール‥‥」
 ラシードは兄と慕う人に貰ったルークの駒に、そっと手を触れた。
「選りに選ってステアーとは‥‥時間切れを期待できないなら全力で迎え打つしかないか」
 レールズはラシードと共に高々度へ、ティーダ(ga7172)のアンジェリカは下方の雲海へ身を隠し、残り8機は各々2機1ペアのロッテ編隊を組む。
 敵機が輸送隊を射程に収める前に4つのロッテ編隊が波状攻撃で足止め、隙を見てラシード、レールズ、ティーダから成る強襲班3機が上下から奇襲――という作戦だ。
 直後、激しいジャミングがKV部隊を襲った。例の頭痛は起きないので、CWとは異なるステアー独自のECM機能だろう。
 一時的にレーダーや通信が乱れたが、亜夜と誠のウーフー、そしてβ隊の岩龍改によるジャミング中和により、辛うじて最低限の電子機能は維持できた。
 蒼空の彼方に黒点として現れたステアーの機体は、せいぜい人類側KVよりやや大きめという程度だ。だがそのコンパクトな機体に恐るべき戦闘力を秘めたバグア高性能機は、驚くほどの高加速で一気に距離を詰めてきた。
 傭兵側は射程の長いAAMやG放電装置で迎え撃とうとしたが、先手を取って仕掛けてきたのはやはりステアーだった。
 マンタを前後逆にしたような異形の機体から噴射炎が閃き、マルチロックオンされた超小型ミサイルの嵐がKV編隊に襲いかかる。
「――させませんッ!」
 文月は翔幻の機体得能・幻霧を発動。煙幕のような霧で自機と周囲の僚機をカモフラージュするが、それさえも貫く凶悪な他目標誘導弾は距離をとった強襲班を除く8機に命中、緒戦から少なからぬダメージを与える。しかし文月の幻霧も無駄ではなく、何割かの被弾を回避することで「一撃で全滅」という事態は免れた。
 続いて、アウトレンジからシャワーのごとく降り注ぐ20連装プロトン砲の雨。
 意図的に電子戦機を狙ったのだろう。相次ぐダメージに耐えかねたのか、まず亜夜のウーフーが錐もみ状に墜落し眼下の雲海に消えた。
「うわぁっ!?」
 同じく被弾した誠機もターゲットにされたが、その前にアクセルコーティングで身を固めたディスタンが盾となって立ちふさがった。
「リディスさん!?」
「前途有望な若者が傷つく必要はない‥‥傷つき守るのは大人の役目だからな。ペアになった以上必ず守ってみせるさ」
 リディスは風防越しに迫り来るステアーを睨み付け、
「一度売った喧嘩だ、シモン。しっかりと買い取ってもらいたいな‥‥!」
 辛うじて先制第一撃を耐え凌いだ迎撃班7機は、有効射程に入ったステアーに対し全機がミサイルやG放電の集中砲火を浴びせた。
 が、ステアーは慣性制御も交えた鮮やかな機動でそれらの攻撃を尽くかわす。
「‥‥? 動きが、今、少し、おかしかった‥‥?」
 上空から見守っていたラシードを始め、何名かの傭兵は奇妙な違和感を覚えた。
 確かにステアーは高性能だし、シモンの操縦技術も相変わらず巧みだ。
 ――が、その動きにどこかキレがない。能力者の優れた動体視力を以てして、始めて感じ取れる微かな「差」であるが。
「奴はカメルでの戦いで相当な重傷を負ってるはずだ。たとえ機体を乗り換えても、本人のケガまでそう簡単に治るとは思えん」
 あの戦いに参加したゲックが僚機に伝えた。いずれにせよ、万に一つでもつけいる隙があるなら、そこを狙わない理由はない。
 傭兵達は間近に迫ったステアーに対し、再度の攻撃を開始した。
「休む暇は与えないわ」
 アズメリアの雷電を始め、G放電、試作G放電装置を装備した各機が高命中の雷撃を集中し、それに合わせてリディスはエネルギー集積砲を発射。
 そして満を持して待機していた強襲班3機も、太陽を背にした高々度と真下の雲海から挟み撃ちで襲いかかった。
「友として訪問するなら歓迎するが、そうでないなら、今すぐ出て行け!」
「人が、乗ってるんだ‥‥隙はある、筈‥‥」
「皆さんが作り出した好機、外すわけにはいきません‥‥!」
 レールズのソードウィングが。ラシードの試作G放電が。
 さらに一瞬の時間差で、ティーダの帯電粒子砲がステアーに殺到する。
 雷撃とビームの閃光が消えた後――。
『‥‥今のが、おまえ達の切り札か?』
 せせら笑う様な若い男の声が、KV各機の無線に響いた。
『すまんが、私は忙しい。これ以上おまえ達と遊んでいる暇はないのだ』
 20連プロトン砲。無慈悲な淡紅色の暴風が行く手を塞ぐKVを蹴散らし、一直線に輸送編隊へと突進する。
 奉天の輸送機とβ隊各機は煙幕を張り、必至に離脱を図るも――。
『ふん、のろい‥‥まるで宙に止まった蝿だな』
 再び発射された多目標誘導弾が、編隊後尾に付いた輸送機2機、β隊のS−01改2機を瞬時に撃墜した。

●暗殺者の瑕
 極音速のステアーが低速の輸送機を攻撃するには、人類側の戦闘機なら失速しかねない程の急減速を必要とするが、慣性制御を備えたバグア機にとっては造作もない事だ。
 が、そこにシモンの油断があった。
 端から見ていた傭兵達の目には、まるでステアーの方が一瞬宙に止まった様に見えたのだ。
 この機を逃さず、態勢を立て直したα隊がステアーに追いすがる。
 絃也機のR−P1マシンガンがシモンの気を引いた隙を衝き、なでしこはM−12強化粒子砲の光条をステアー主翼に直撃させた。
 彼女はそのまま接近すると、オープン回線でシモンに呼びかけた。
「結麻・メイ(gz0120)様をどの様にお考えですか?」
『‥‥何だと?』
 危険極まりない行為である事は百も承知である。
 しかし一瞬でもシモンの注意を逸らせるため――そして何より、なでしこ自身が確かめておきたかったのだ。
「あなたに取って、メイ様は単なる道具なのですか?」
『‥‥』
 コンマ何秒かの沈黙。すかさずSレーザーを照射しつつ、再び問う。
「それとも――ご自分でも、よくわかられていないのですか?」
『――喧しい!!』
 突然激したシモンの声と共に収束フェザー砲が放たれ、紫の炎がアンジェリカを灼く。
(「もしや人の心がまだ‥‥?」)
 消火装置作動。半ば操縦不能に陥った機体バランスを懸命に保ちつつ、なでしこは薄れ行く意識の中で脱出ボタンを押した。
 墜落するアンジェリカの黒煙に紛れて肉迫した絃也機が短距離用AAMを命中させるも、反撃のフェザー砲を受けてやはり撃墜される。
「ここまでか‥‥しかし、R−01でも一矢は報いてやった!」
 機体各部損傷のアラートを聞きながらも、絃也は深い満足を覚えつつ不時着のため雲海へと沈んでいった。
『輸送機さえ片付ければ、今日の所は見逃してやるつもりだったが‥‥気が変わった。まず、貴様らから――』
 真下から迸るG放電の直撃が、シモンの声を遮った。
 朱塗りのウーフー「緋閃」――亜夜だった。
「紅き魔術はまだ終ってないぜ!」
 おそらく自らの電子戦機が最初に狙われるだろう――と踏んだ彼は、最初のプロトン砲を被弾した際に墜落を装って雲海に身を隠し、このチャンスを待っていたのだ。
 すれ違い様に後方からプロトン砲を浴び爆炎に包まれたが、これをきっかけに傭兵側は残存のKVでロッテを組み直し、ステアーに対する波状攻撃を再開した。
「シモン、幾らステアーであっても簡単に人類をやれると思うなよ‥‥!」
 誠の試作G放電で援護を受けつつ、リディスがソードウィングで吶喊。
「人間の、力‥‥あんまり、舐めないで‥‥」
 ラシードはティーダ、レールズら強襲班でケッテ編隊を組み、至近距離からKA−01集積砲を撃ち込む。
 ステアーが放つ反撃の多目標誘導弾をアズメリアのヘビーガトリングが迎撃し、文月は再び幻霧を展開し僚機をガードした。


 一端高加速で距離を取り、20連プロトン砲でKV部隊に掃射を加えようとしたその時、シモンは胸の辺りに激痛を覚え顔をしかめた。
「ぐっ‥‥こんな時に、カメルでの傷が‥‥っ!」
 ステアーほどの高性能機となると、パイロットにかかる負担も相当なものになる。機体の損傷自体はまだ軽微だが、これ以上戦闘を続行すれば己の体が保たない。
「やむを得ん‥‥たかが輸送機相手に命まで捨てられるかっ!」
 吐き捨てるように叫ぶと、シモンはそのまま高々度へ急上昇。ブーストをかけてカメル方面へと撤退した。


「撃墜された皆さんの事はご心配なく。今頃、地上に待機した当社の私兵部隊が救助に向かっているはずです」
 再び輸送機の周辺に集まってきた生き残りのKV各機を、周隊長が労った。
「とりあえず、我々もこの近くにある当社の仮設基地へ降りましょう。機体の応急修理と休息が必要でしょうから」
「申し訳ありません。2機を墜とされてしまい‥‥」
 気落ちするレールズに対し、周隊長が応答した。
「いいえ。あなた方は命を賭けて輸送隊を全滅から救ってくれました。奉天公司に‥‥いえ北京市民に成り代わり、御礼を言わせて下さい」
「あの都市は幾度と無く外敵に攻め込まれてきました‥‥ですが、復興を望む人が居る限り決して滅んだりはしません」
「その通りです。我々中国人民は、必ずやバグアを退ける。‥‥あなた方の戦いを拝見し、私も改めて勇気づけられました」

 残り3機の輸送機を護る様に編隊を組み直し、傭兵達のKVは蒼空の彼方へと向けて進路を取った。

<了>