●リプレイ本文
●秋の晴れた日に
その日の朝、他の仲間たちが寝ているうちに朝一番で起き出した五十嵐 薙(
ga0322)は、兵舎の厨房を借りて1人でお弁当作りを始めた。
「その人」の面影を思い浮かべつつ、愛情たっぷり込めた卵焼きをフライパンで焼く。
(「喜んで、くれる‥‥でしょうか」)
やがて目を覚し、同じく厨房に現れた暁・N・リトヴァク(
ga6931)、鳳 つばき(
ga7830)らも加わり、引き続き3人で弁当を作った。
料理上手の暁が率先する形でから揚げ、卵焼き、野菜炒め、にくじゃが、ポテトサラダ等のおかずが手際よく出来上がっていく。
「何でも、言って下さい‥‥お手伝い、します」
そういって薙は暁に手を貸す一方、つばきに向かってにっこり微笑んだ。
「つばきちゃん‥‥大切な人が‥‥喜んで、くれると、いいね」
「だと、いいんですけど‥‥」
慣れない料理で手に小さな傷を作りながらも、つばきはポッと頬を赤らめた。
「久しぶりにベル(
ga0924)さんとデート♪」
水上・未早(
ga0049)は弾んだ気分でお弁当やその他必要な物をカバンに詰め、兵舎の自室を出た。彼女がベルとつきあい始めて、はや4ヶ月過ぎ。今日のピクニックは彼から誘われた記念すべき初デートでもある。
(「何の進展も無いのって、やっぱりスローペースですよねー‥‥。アレとかコレとかして欲しいとかじゃないですけど、やっぱりもうちょっと近づきたいな‥‥」)
そんな事を思いつつ、一緒に公園に行くためベルの部屋へと向かう未早であった。
「遠足!! お弁当!! お出かけ!! お兄ちゃんと一緒にお出かけだー!! 何か知らない人達も沢山いるけど、仲良くなれたらいいな!!」
矢神小雪(
gb3650)は出発前からハイテンションだった。ドラグーンになってまだ日も浅い彼女にとっては、今回がL・Hで初のイベント参加でもある。
「はしゃぐのもいいけど、あまり遠くに行くんじゃないぞ。小雪」
義兄の矢神志紀(
gb3649)がちょっと釘を刺す。
今日のピクニックは知人への挨拶、新しい知り合いを増やす目的もあるが、幼い小雪を遊ばせつつも迷子になったりしないよう見守る必要もある。
「お兄ちゃんは何か会いたい人がいるとか言ってたけどどんな人なのかなー? う〜ん楽しみだ!!」
無意識に覚醒し、狐の尻尾に似た金色のオーラをパタパタさせる小雪の隣で、志紀は唐揚げ・卵焼き・焼きそば・蛸型ウインナー・ポテトサラダ・五目稲荷寿司・野菜炒め等お弁当のおかずをせっせと詰めていく。
「あれとそれはここに入れて‥‥これも入れておくか‥‥。しかし、今日は忙しい一日になりそうだな」
「おはようチェラル」
兵舎の前でにこっと笑って出迎える勇姫 凛(
ga5063)の姿を目にして、チェラル・ウィリン(gz0027)も白い歯を見せて手を振った。その様子からして、大規模作戦の時の負傷はもうすっかり回復したようだ。
「作ってきた?」
「ウン。バッチリ!」
指でOKサインを作り、手にした紙袋を示すチェラル。
「でも、凜君も面白いコト考えつくねー。お弁当まるごと交換なんて」
これはピクニックの話を聞いた晩、凜が電話で提案したアイデアである。
「折角だし、お弁当箱ごと交換するのも、面白いかなって思って‥‥それに、チェラルのお弁当も食べてみたくて」
ちょっと赤面しつついう凜。彼もまた手作り弁当をカバンにいれ、お茶を摘めた水筒を提げてピクニックの準備は万全だ。
(「何より‥‥もっと、もっと仲良くなりたいって、そう思うから‥‥」)
と、これは口に出さず胸の中で呟く凜。
「まさか、L・Hにこんな広い公園があるなんてな」
集合時間の少し前、寿 源次(
ga3427)は森林公園の管理事務所を訪れ、焚き火使用の許可を申請した。
「火の始末はキチンとやりますから。ついでに箒や熊手も貸して頂けますか? 落ち葉焚きもやりたいので」
「それは助かります。何しろこの時期、落ち葉の掃除も楽じゃないですからねえ」
事務所の管理人から借りた掃除道具を手に、ぶらぶらと集合場所に向かう。
空は抜けるような快晴。頬を撫でるそよ風も心地よく、まさに秋の行楽日和である。
そのせいか、園内には朝早くから家族連れ、そしてアベックの姿もちらほらと目に付く。
「‥‥さて、今回はどんな恋人達の物語が紡がれるのだろうか?」
「仕事であちこち出掛けていると、住んでいる処にこういう場所がある事さえ気付かない、か‥‥」
白鐘剣一郎(
ga0184)もまた、目から鱗の落ちる思いで公園の入り口付近を見回していた。
「だが、良い場所を知る機会が得られたのは嬉しい限りだ」
それから同行のナタリア・アルテミエフ(gz0012)へと振り返り、
「そうそう。この間渡した伯爵領の栗、役立ててもらえたかな?」
「ええ。今日のお弁当のおかずに使わせて頂きましたわ」
バスケットを差し上げたナタリアが、にっこり笑う。
依頼で出向いた先の欧州で入手した栗を、剣一郎は今日のために予めナタリアに手渡していたのだ。
「それはよかった。なら、行こうか?」
そういうと、2人は手を取り合って公園内へと入っていった。
「それじゃ行きましょうか。たまにはのんびりとね」
周防 誠(
ga7131)の誘いで参加したヴァシュカ(
ga7064)は、楽しげに園内を見回した。
「‥‥ふふっ。この時期は本当、季節が目を楽しませてくれますね〜」
今の所「ちょっと親しい友人」といった間柄の2人は紅葉を愛でつつ、銀杏並木をゆっくり散策する。
途中、談笑しながらふと、
(「手でも繋いで歩きませんか?」)
と言いかけた誠だったが、無邪気にはしゃぐヴァシュカを前に、結局言いそびれてしまった。
「まさかL・Hの中にこんな場所があるなんて知りませんでしたわ。綺麗なモノですわね」
クラリッサ・メディスン(
ga0853)は恋人の榊兵衛(
ga0388)と一日を過ごすべく、今回の日帰りピクニックに参加していた。
「なかなか自然に囲まれた場所へ遊びに行くということもありませんし、今回は良い機会ですわ。企画を立ててくれたチェラルさんやヒマリアさんに感謝しなくてはいけませんわね」
「お互いに傭兵として多忙な日々を過ごしているし、たまにはこうして自然に囲まれてのんびりするのも悪くないな」
兵衛もまた、外観は自然林と見まがうほど見事に再現されたL・H森林公園の景観を見渡しつつ、頷く。
「何よりクラリッサの手料理が食えるんだ。それだけでも来た甲斐があったと言うものだな」
現在、太平洋上に位置する人工島のL・Hは比較的温暖な気候を保っているが、園内に植林された広葉樹は気温とは関係なく赤く色づいている。
「まさかL・Hに来て、紅葉狩りが楽しめるとは思わなかった。多分日本では、バグアのせいで普通の人々は楽しむ心の余裕もないかも知れないから、少し贅沢だがな」
一応ULTの親睦企画して参加したこのピクニックだが、2人は他の参加者と別行動を取り、紅葉の景色を楽しみつつ、ゆっくりと歩き始めた。
(「皆で遊ぶのですね♪ 楽しそうなのですけれど‥‥クリシュナさんと会う事は適わなそうなのです」)
御坂 美緒(
ga0466)は先の銅菱勲章授与式で再会した、プリネア王国の若き皇太子の姿を思い浮かべ、少々残念な気分ではあった。とはいえ相手も一国の指導者、次に会える機会はいつになるかも定かでない。
「御坂さーん!」
かけられた声に振り返ると、ヒマリア・ジュピトル(gz0029)、弟のテミスト、それにテミストの恋人・ミーティナが行楽用の服装で小走りに追いかけてきた。
「ヒマリアさん、インドでのおケガは治ったのですか?」
「ええ。おかげさまですっかり――」」
「それでは快気祝いなのです♪」
「みうっ‥‥!?」
回れ右して逃げようとしたヒマリアを背後からぐっと捕らえ、恒例のふにふに。
今回は新境地の「耳許で囁き攻撃」のオマケ付である。
「あぁんっ! もぉ、御坂さんてば‥‥はぅぅ!?」
「ふっふっふっ‥‥相変らずヒマリアさんの反応は可愛いのです♪」
ひとしきりふにふにして満足した美緒は呆気にとられたテミストに向かい、
「テミストさんとミーティナさんも、折角のデートなのですから、ちゃんと私達のようにスキンシップしないとですよ♪」
「ええっ!? ぼ、僕らは、まだそんな‥‥」
「あたしは、別にいいよ?」
ミーティナからくいくい袖を引かれ、テミストは耳まで赤くなって絶句した。
ちょうどそこに、左手をギブスで固定し左頬にガーゼ、額と右手にも包帯を巻いた終夜・無月(
ga3084)が、恋人の如月・由梨(
ga1805)に付き添われて歩いてきた。
「久しぶり‥‥元気にしてました‥‥」
ヒマリアの顔を見て穏やかに微笑む無月だが、その様子は端から見てもただ事ではない。
「弟君に会うのは初めてですね‥‥こんにちは‥‥」
「終夜さん、そのケガ‥‥あの、噂じゃゾディアックの『山羊座』と戦ったって‥‥」
「彼は‥‥倒せたみたいなんですが‥‥この様ですよ‥‥」
と苦笑する無月。
凜と共に通りかかったチェラルも、その様子に思わず眉をひそめて立ち止まった。
「キミ、大丈夫かい?」
「こんにちは‥‥」
かねて同じミカガミ乗りとしてチェラルに親近感を抱いていた無月は、微笑して右手を差し出した。
「こうして‥‥ちゃんと話すのは初めてですね‥‥やっと会えました‥‥終夜・無月です」
「あ! あの【月光】の総隊長さんだね? ボクも噂は聞いてるよ」
チェラルも顔を綻ばせ、握手を返す。
「大規模のミカガミでの戦い‥‥戦域は違いましたが‥‥聞かせて貰いました‥‥」
「アハハ‥‥その戦闘で、ボクも大ケガしちゃったんだけどね」
「俺もシェイド‥‥と言うよりエミタに宣戦布告しましたから‥‥コンセプトが対シェイドのこの機体を乗りこなしたいと思っているんですよ‥‥」
シェイドの名を聞くや、チェラルの顔から笑いが消え、険しい目つきで空の彼方を見やった。
「パイロットは違うけど‥‥ボクも八王子でそのシェイドと戦った。あれは強いよ‥‥ボクら『ブルーファントム』のメンバー2人が連携を仕掛けて、結局歯が立たなかったんだから‥‥」
「それでも、いつかは超えてみせますよ‥‥でなければ、この空を人類の手に取り返すことなどできませんからね‥‥」
「ウン、キミならきっと出来るさ。いつか、同じ戦場で戦える日を楽しみにしてるよ!」
チェラル達と別れた後、無月と由梨は落ち葉の舞い散る林道を再び歩き始めた。
今日は無月の療養も兼ねているので、由梨は彼のペースに合わせてゆっくり歩を進める。途中で休憩を挟み、会話をしたり景色を楽しんだり。
由梨が誰より己の容態を案じていることは、他ならぬ無月自身がよく解っている。
休憩中、由梨の話をじっと聞いていた無月は、ふと彼女の頬に手を添え――言葉では言い尽くせぬ大事な想いを、ただ一言に込めて伝えた。
「ごめん‥‥」
●煙が目に沁みて‥‥?
「秋の公園で、ゆっくりのんびり。ふふ‥‥何だかとても贅沢な気分です」
事務所から借りた箒で散策道の落葉を掃き集めつつ、石動 小夜子(
ga0121)は我知らず微笑んでいた。
(「日頃忙しいのですから、こんな時ぐらいは‥‥」)
そんな事を思いつつ、傍らにいる新条 拓那(
ga1294)をチラっと見やる。
当の拓那の方は、
「いい感じの落ち葉を集めて‥‥これがほんとの紅葉狩りってね? よい‥‥しょっと」
まったりした笑顔を浮かべながら、集めた落ち葉を籠一杯に入れ、広場の方へと運んではまた戻ってくる作業を繰り返していた。
現地集合した能力者達は、まずボランティアの公園掃除も兼ね、落ち葉焚きの準備のため園内のあちこちで落ち葉集めを行っているのだ。
「広い公園だから、いっぱい集まると良いんだが」
榊 紫苑(
ga8258)も箒を片手に、周囲を見回しながら呟く。
その一方、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)、クレイフェル(
ga0435)、緋霧 絢(
ga3668)、そして美緒やヒマリア達は林の中で栗拾い。
「‥‥イガには気をつけないとな」
用心深く合金軍手を着用したホアキンは火バサミを手に、木の下をのんびり歩きながら拾った栗をポイっとバケツに放り込んでいった。
恋人のクレイフェルとはほぼひと月ぶりのデートとなる絢は、栗拾いの最中にも紅葉を楽しみつつ、時に彼と腕を絡めたりして甘えていた。
「紅葉を見ると秋を感じますね」
ドキリとしてうろたえるも、彼女の長い髪についた落ち葉をそっと摘んでやるクレイフェル。
(「でも‥‥真っ赤な紅葉、黒髪によう映える、な」)
そんな事を思いつつも、照れ隠しのように栗拾いを続ける。
一時間とかからず、公園中央の広場には充分な量の枯葉と栗が山積みとなった。
「はは、随分集まったな。ご苦労様だね、みんな」
「皆で使う公園ですもの、綺麗な方が良いですよね。焼き芋を焼くのも楽しみです‥‥」
にっこり頷き合う、拓那と小夜子。
鷺宮・涼香(
ga8192)や紫苑らがバケツに汲んだ防火用水を用意。積み上げた枯葉に拓那がジッポーライターで点火し、落ち葉焚きが始まった。
「落葉で焚き火をするなら、これは外せないだろう」
剣一郎が微笑しつつ、アルミホイルで包んだサツマイモを焚き火の下に入れる。
小夜子はサツマイモの他、バターを付けたジャガイモや、醤油を塗ったトウモロコシもホイルに包んで入れた。
「ふふ‥‥これは美味しいですよ」
ついでにみんなが拾ってきた栗は皮が弾けないようきちんと傷を入れ、焼き栗にするため火にくべる。
ホアキンは、持参したハーブソーセージとチョリソーをホイルにくるみ、火バサミで焚き火の中に入れる。
「なかなか火加減が難しいかも‥‥」
なるべく直火の当たらない場所で焼くのがコツなのだ。
少し離れた場所でもう一つ小さな焚き火を起こすと、源次は「ヒートディフェンダー」と書いた紙を燃やして供養した。
「くず鉄も、20万Cも、初めから無かったんだ‥‥くそぅ」
「じゃあ、あたしも‥‥昔くず鉄になった試作剣『雪村』のお弔い‥‥」
思わずもらい泣きしつつ、隣にちょこんとしゃがんだヒマリアも合掌する。
同様の苦い経験を持つ者は多いのか――。
「なら、私も‥‥」
「俺も‥‥」
とアイテム供養を始める者が続出。
楽しいはずの遠足は一瞬、通夜の席のごとく沈黙に包まれた。
「へぇ〜? L・Hにこんなトコがあったなンてねぇ〜☆ ココなら思いっきり遊べそうだね♪」
「ピクニックですぅ〜☆ えへ♪」
どよ〜んとした空気を吹き飛ばしたのは、やや遅れて到着した聖・真琴(
ga1622)、聖・綾乃(
ga7770)姉妹の溌剌とした声だった。
「いつもは『戦い』でばかり顔を突き合わせる傭兵同士、たまには遊びたいし!」
とりあえず面識のある傭兵達に挨拶して回る真琴。ついでに、自分の後を追うように能力者となった妹・綾乃を紹介して回る。
「見た目『おっとり』してるけど‥‥私より怖いかもよぉ〜?」
と真琴がにやにやすれば、
「うるさい姉ですけど、宜しくお願い致しますね♪」
綾乃の方も負けてはいない。
ナタリアの顔を見ると、以前に九州で飛行キメラ調査依頼を共にした綾乃は、真琴と2人で自作した「岩龍」のぬいぐるみ付きキーホルダーをプレゼントした。
「まあ、可愛いですわ♪ ありがとうございます」
喜んで受け取ったナタリアは、キーホルダーに付いた「打開! 恐怖症」の小さな旗に思わず微苦笑した。
「飛行機も、こんなグッズなら可愛いのに‥‥でも、実際に乗って操縦するのは‥‥ちょっと、色々アレですわね」
一方、依頼で面識のあるテミストを捕まえた真琴は、
「どぉ? ミーティナちゃんとは、巧くイってンのぉ〜?」
と問い詰め、再び少年を赤面させる。
姉のヒマリアに対しては、
「イイ人‥‥見付かった? 見付かったら私にも教えてよ? 応援するから♪」
「え〜? あ、あたしはまだ‥‥いませんよぉ〜、そんな人」
ふにふにしてくれる先輩はいるけど。
で、その美緒はといえば、
「チェラルさんは前回怪我を押しての出撃だったですものね。具合はどうか確認するのです♪」
と、UPCきってのエースの豊満な胸を遠慮無くふにふにしていた。
「み、御坂君‥‥前から思ってたんだけど、これホントに診察なの?」
「お静かに! 気が散るのです!」
(「むっ、これは‥‥また更に成長を!」)
‥‥少なくとも診察ではない。マッサージ効果はあるかも知れないが。
「そういえば、きみ達姉弟と知り合って丁度一年か‥‥」
源次がヒマリアの頭をポムりつつ、感慨深げに洩らす。
「ヒマリア君は立派になったし、テミスト君は遙か上のステージに昇った。彼女的な意味で。‥‥心の師匠と呼ばせて貰おう、うん」
「寿さん‥‥それ言われたら、姉としてのあたしの立場が‥‥」
●ワクワク☆ランチタイム
焚き火にくべた芋や栗が焼けるのを待つ間、参加者一同は地面にブルーシートを敷き、兵舎仲間や友人、恋人同士でグループを作って思い思いに弁当を広げ始めた。
おにぎりやサンドイッチ類は皆が持ってくるだろう――と予想した未早は専らおかず中心。骨付きの鶏の唐揚げ、ちょっと甘めの卵焼き、楊枝を刺した蛸型ウィンナー等のオードブルを多数用意。
野菜不足を補うため、サラダではなくキュウリ、人参、アスパラ等をスティック状に切って添える。
お新香、梅干し、沢庵など日本人ならではの「定番」も忘れない。
デザートは秋なので梨――とも考えたが、時期的に冬も近いためうさぎカットのリンゴを。
これらは大勢の参加者に振る舞うために作ったお弁当だが、「彼氏用」は特に気合いを入れてある。中身は基本的に同じだが、別の弁当箱に詰め、盛りつけも見栄え良くキレイに。加えて秋らしく、鮭とイクラのおにぎりもつけて。
その「彼氏」、ベルは当初弁当作りを手伝うつもりでいたのだが、未早からは「自分の手料理を食べて欲しい」との希望だったので、今回はペットボトルのジュースやお茶の差し入れに留め、彼女の作ってくれたお弁当を2人で食べるのだった。
落ち葉焚きの他にコンロを借りてバーベキューの準備も済ませた拓那は、小夜子の手作り弁当に舌鼓を打っていた。
「すっごい美味しそうだよ。このお弁当! 流石小夜ちゃんだ。お腹空かせてきた甲斐があるよ。いただきます♪」
「皆さん美味しいおかずを作って持ってきているのですね‥‥私もありふれた物ですけれど、卵焼きを作ってきました。これだけは、ちょっと自信があるんですよ?」
小夜子ご自慢の卵焼きを一口頬張り、
「くぅ〜、生きててよかったぁ」
感極まる拓那。それまでの空腹も手伝い、彼女の料理の腕に大袈裟に感動してしまう。
そのうち焼き上がってきた焼き芋やじゃがバタ、焼き栗などを、2人して半分に割り仲睦まじく食べ始めた。
剣一郎が焚き火の中から取り出したサツマイモを持ち帰ると、ちょうどナタリアがランチパックを開き、伯爵領の栗を使った栗ご飯、栗と豚肉の煮物、栗きんとん、さらにマロンケーキなどをシートに並べているところだった。
それらを肴に、2人はグラスに注いだワインで乾杯する。
暁は今朝方作った惣菜に加え、ごましお・おかか・鮭のおにぎりも取り出し、知人の傭兵達とおかずの交換を楽しんでいたが、そのうち薙に誘われ、人混みの中からそっと抜け出した。
「暁さんの‥‥為に、作ったん、です」
それは彼女が早朝早起きし、1人で作った玉子焼きも入った「愛情弁当」だった。
少し驚く暁だが、薙がお箸で差し出す料理を「あ〜ん」で食べ、ついでに彼女の頬についたご飯粒を取ってやったりする。
終始ラブラブの桃色オーラ発生中の2人であった。
「簡単なモノで申し訳ないのですけれど、ピクニックですからこう言うのも悪くないと思いましたの。お味は如何、ヒョウエ?」
そういってクラリッサが用意したランチはサンドイッチとポテトサラダ、それにコーヒー。
サンドイッチの具はスモークチキンやハムなどの肉系のモノ、スモークサーモンのマリネを挟んだモノ、卵サンドなど色とりどり。「簡単なモノ」といいながらも、実は兵衛の口を満足させるべく、前日から仕込みをして気合いを入れた手料理だ。
「美味い! やはりクラリッサが作る料理は俺にとって何よりのご馳走だな」
クラリッサのランチに舌鼓を打ち、すっかり満腹した兵衛は、食後のコーヒーで一服した後、彼女の膝を枕にゴロリと横になった。
「‥‥これくらいは許してくれと嬉しい」
「ふふ、よろしくてよ? こうしてヒョウエの寝顔を見る事が出来るのも、わたしだけの特権ですわね」
日頃の戦いも忘れ、しばしの平和な午睡を楽しむ兵衛。
「‥‥また、今度は春にでも来たいですわね」
クレイフェルは絢とお弁当交換。ちなみに互いの中身は楽しみのため秘密にしてある。
絢から渡されたバスケットを開くと、おかずはハム卵サンド、たこさんウィンナー、から揚げ、玉子焼き、うささんカットのリンゴ等々。
「‥‥えっと、その‥‥き、今日は色々作ってきたので、えと、気に入っていただければ、あの、嬉しいです」
普段はクールな彼女も恋人の前では真っ赤になってしきりに口ごもり、その指先には何枚かの絆創膏が巻かれていたりする。
「あ、絆創膏はその、気にしないでください。ちょっと、その‥‥あの、し、失敗してしまっただけなので」
「ほんまに大丈夫か?」
心配そうに絢の指先を見やるクレイフェルだが、弁当を一口食べると相好を崩し、
「ふふ、絢の料理は美味いよなぁ。俺かて負けてられへんっ」
そういって彼が差し出す弁当箱の中は、ひと口サイズで小さく握った栗ご飯のおにぎりとムカゴごはんのおにぎり、茸のオムレツ、きんぴらサラダ、大学芋、そしてデザートに葡萄羹。
「どや? 秋らしさ、ちょっとでも詰め込んどきたくて」
「あの‥‥お、美味しそうです。とても‥‥」
ポットから熱いお茶を注ぎ、おしぼりも忘れず準備。
互いに箸を差し出し、「あーん」と食べさせ合いっこなどしてみる。
「ふふ、しあわせやなぁ‥‥」
少し多めに作った大学芋は周りにもお裾分け。
落ち葉焚きで焼いておいたマシュマロ、焼き芋、焼き林檎もある。
「とろーりはふはふ‥‥ふふ、美味しいなっ。みんなでわいわい食べるから、なおさら美味しいんかもな。天気もええし!」
凜もまた、チェラルと約束通りお弁当を箱ごと交換していた。
ただしさすがに照れくさいので、一同から少し離れた場所に誘って。
「――わぁ!」
蓋を開けたチェラルは目を輝かせた。
自称「中国とウクライナのハーフ」である彼女は、そのせいか中華料理に目がない。
電話でそれを聞いた凜は、チェラルの好きそうなエビチリ炒飯をメインに、酢豚、餃子、八宝菜、春巻など中華風メニューを可愛らしく飾り付け、ついでに兎さんカットのリンゴを添えてみたのだ。
「嬉しいな。ボクの好きなものばっかり♪」
ちなみにチェラルが用意したのは、凜の好みに合わせてハンバーグ、ウィンナー、スパゲティーなどがおかずの洋食弁当。
「チェラル、怪我の回復おめでとう‥‥凛、腕によりをかけてみたから」
「ありがとう。凜君のおべんと、美味しいよ!」
炒飯をモグモグ頬張りながら、幸せそうにチェラルは笑った。
ヴァシュカは3段お重の1段目におにぎり、2・3段目におかずを詰めていた。
おかずは冷めても美味しいように、老酒鶏・若鶏の香草焼き・鰆のキノコの甘酢餡かけ・栗と銀杏の白和え・東坡肉・クラゲの和え物。
「‥‥今回は中華をメインで攻めてみました。どう‥‥です‥‥か?」
真っ先に同行の誠に試食してもらい、ドキドキしながら返答を待つ。
「思ったとおり、おいしかったですよ」
「‥‥よかった‥‥前日から仕込みをしたかいがあったってものです♪」
満面の笑みを湛え、ヴァシュカは自分の料理、そして誠が持参した弁当――おにぎり、卵焼き、唐揚げ、スティックサラダにも箸を付ける。
ついでに落ち葉焚きで作った焼きおにぎりも2人で頬張るのだった。
つばきは途中まで一緒だった仲間と別行動を取り、佐竹 優理(
ga4607)と2人きりでランチを共にしていた。
「あんまりうまくできなかったかもですが、どうぞ」
今朝方、暁達と一緒に作ったおかずを箸に取り、緊張しながら差し出す。
「あ、あーん。‥‥やってみたかったんです」
優理の方は「あーん」という行為自体にはさほど重大な意味を感じていないため、割と素直に口を開けておかずを食べ、
「‥‥うん。うまく出来てないね」
などと素っ気なくいいつつも、しっかり完食。
(「‥‥大切な存在ではあるんだけど‥‥年の差もあるし、イマイチ保護者気分が抜けきらないんだよねぇ‥‥」)
つばきの気持ちは解っているし、受け止める意志はある。しかし、まだ「女性」として扱う事について踏ん切りがつかないのだ。
「いやぁ〜‥‥たまにはこの様な骨休めも必要ですねぇ」
ヨネモトタケシ(
gb0843)は恰幅の良い体をドカっとシートに降ろし、手作り太巻きを肴に日本酒と発泡酒をひっかけ始めた。
太巻きの具は「アボガド・シーチキン」「納豆・貝割れ大根」「エビフライ」「チキンカツ」「梅肉・シソ」を、それぞれリーフレタスにくるんだもの。
「五種ほど‥‥巻き寿司持ってきましたが如何ですかなぁ?」
と、周囲の参加者達とおかずを交換し、成人同士で酒を酌み交わす。
調理師免許も持つホアキンは先刻焼いたソーセージやチョリソーの他、予め持参したお弁当としては、手毬のように丸めた「吹寄せ御飯」。具材は鶏肉・しめじ・椎茸と人参の千切り。秋らしく、紅葉型の人参・銀杏型の南瓜・枝豆・三つ葉の茎・栗の甘露煮で飾りつけている。
また鶏肉をにんにくと赤唐辛子、醤油・砂糖・酒に漬けた後、両面を焼いて食べやすく切った「鶏の甘辛焼き」、8等分した梨から皮と芯を取り、黒粒胡椒・シナモンスティック・生姜・レモン汁・砂糖で煮て冷やした「梨のシナモン煮」と、実にバラエティに富んでいた。
紫苑のお弁当はおにぎり(天むす、明太子、ツナマヨ、梅しばとじゃこ混ぜ)をメインにおかずは玉子焼き、きんぴら、唐揚げ、ちくわきゅうり。デザ−トはアップルパイとモンブラン。
食べ過ぎに備えて胃薬、後片付け用のゴミ袋まで用意という周到さである。
「皆さん、気合入って、ものすごい種類ですね? いえ、自分は、あまり料理上手く無いですので、とても見せられるものじゃ」
と謙遜するが、見た目も綺麗なデザートを自ら切り分け、おかず交換に参加した。
涼香の持参したのは、千切りキャベツの上に焼きウィンナーを挟み込んだホットドッグだった。
「キャベツがどう見ても百切りキャベツ?あはは、気のせい気のせい♪」
デザートは和風テイストな抹茶味クッキー。
「もしよかったらどうぞ。‥‥あ、形については触れないで頂けると‥‥」
そういって配りつつ、ホクホクのじゃがバタと塩辛を肴に成人組で盃を交わす源次の姿を見ると、傍に寄ってにこやかにお酌した。
「一面の紅葉を肴に、ゆったりと味わうのもいいですね」
「美味しそうです‥‥」
ケガと包帯のため少し箸の持ち辛い無月は、由梨の手作り弁当を食べながら穏やかに微笑した。
「ありがとう‥‥何だか‥‥懐かしい味がするよ‥‥」
そんな彼に、
「始めまして。俺は矢神志紀といいます。以後よろしく」
小雪とはぐれないよう気を配りつつ、知人の知り合いである志紀が挨拶した。
続いてジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634)も声をかけてくる。
無月と同じ依頼でやはり重体中のジュエルは、「こんなものは食って治す!」とばかりに皆の弁当を分けて貰いつつ食べ歩いていたのだ。
そんな彼に、
「えっと‥‥ジュエルさん。私の事、覚えていますかぁ〜?」
以前に別依頼を共にした綾乃が、真琴と共に作った手巻き寿司、サンドイッチなど勧めながら挨拶する。
「初めてだよね、テミストくんと会うのは。ボクは、柿原ミズキ(
ga9347)。よろしくね」
ヒマリアの兵舎仲間、ミズキはテミストに挨拶すると、持参したちりめんじゃことごま塩のおにぎり、マカロニサラダ、ササミフライ、南瓜の煮物といったお弁当を広げてジュピトル姉弟に進めた。
彼女もまた、弟の柿原 錬(
gb1931)を同伴している。
「ヒマリアさん初めまして、弟の錬です。よろしく」
「気に入ってもらえるかな? お弁当」
「わぁ、ごちそーさまです☆」
さらにミズキは周囲で目に付いた知人、イスル・イェーガー(
gb0925)、雪代 蛍(
gb3625)にも声を掛けた。
「あっ、イスルくんこっちこっち」
日頃は人付き合いが苦手なイスルも、ミズキの顔を見ると手持ちのBLTサンドのお弁当を持ってやってきた。
「イスルくんさあ、いつもありがとうね。小隊の事とかさ、助けてもらってさ、とにかくこれからもよろしくね」
「いや、それほどでも‥‥」
ついでミズキは弟の方に振り向き、
「あの時は心配したよ。まさかシェイドと戦ったなんて聞いたからさ、でも生きててくれて本当に良かったよ」
「確かに、あの時は死ぬかと思ったよ。さすがに、初陣でシェイドだったからね」
デリーでの激戦を思い起こし、錬は答えた。
「あの時は必死だったから良く覚えてないな。気が付いたらベットの上だったし‥‥それにしもても、お姉ちゃんがまさか、小隊長やるなんてさ。思いもしなかったよ」
「へぇー、小隊長してるんだ」
驚いたように、蛍がいう。
「小隊長って言ってもさまだまだだよ」
謙遜するように苦笑いし、手を振るミズキ。
「初めて聞いたときは大丈夫かなって思ったよ。でも、支えてくれる仲間いるみたいだから、安心したけどさ」
錬はチラっとイスルの顔を見やり、
「イスルくん、お姉ちゃん支えてあげてね。冷静に成り切れない所有るからさ」
「ミズキと錬ってさ、あんまり似てないよね姉弟なのに。ミズキは男の子っぽいのに、錬はなんか女の子っぽいな」
蛍が口を挟んだ。
「そうかなー?」
「良いんじゃない別に胸小さいんだし、ってもう手遅れかもね」
「そっ、それはお姉ちゃんには禁句なんだよ」
慌てる錬だが、もう遅い。
「ちょっ‥‥、気にしていることを、づけづけと‥‥」
「コレでお姉ちゃんは努力したけど‥‥ってマズイ‥‥あっ、イジケモードのスイッチが入っちゃったよ」
「へぇー、気にしたんだ? てっきり気にしてないと思ってたけど」
小悪魔の様に笑う蛍だったが、ふいに顔を覆って泣き始めた。
「どうしたの?」
「ごめん。つい、家族のこと思い出したら急に‥‥仇を取るまでは泣かないって決めたのに‥‥情けないな」
「全く、無理しなくても良いのにさ」
ミズキはため息をついた。
「蛍もし良かったらさぁ、家族にならない? 無理にとは言わないけど」
「嬉しいけどさ、そこまでしてくれなくていいよ。それに、まだやらないといけないから、それまではね」
蛍は涙を拭い、少し顔を赤らめて笑った。
「ミズキ‥‥ありがとう誘ってくれて」
●木漏れ日の下で
やがてランチタイムも終わり後片付けが済むと、能力者達も個人やグループ、あるいはカップルなどに分かれて、思い思いに秋の日の午後を過ごし始めた。
「そぉ〜れ! 取ってみろぉ〜〜〜☆」
聖姉妹は拓那や小夜子、イスル達など有志を誘ってフリスビー大会を開いた。
敗者は罰ゲームとして激辛唐辛子入りも混じった特製「ロシアン鯛焼き」から1個選んで食すという、なかなか過酷なルールだ。
巧みなテクニックで背中投げを決める真琴のフリスビーを、
「てぇいっ! 負っけませんよぉ〜だ☆」
しっかりキャッチしエヘヘと笑う綾乃。
フリスビー初体験の涼香も見よう見まねで挑戦。
広場の中心で盛り上がるレクリエーション組から少し離れた木陰では、紫苑が静かに読書に耽り、タケシはのんびり昼寝を楽しんでいた。
「はぁ〜‥‥良い心地ですねえ」
美緒はラクスミ艦長やマリア親子、そしてクリシュナに贈る押し花を作るため綺麗な紅葉の葉を集めている。
「殿下達にも、これでステキな秋の紅葉を感じて貰えると嬉しいですよ♪」
そこからさらに離れた林の奥で、鯨井起太(
ga0984)、鯨井昼寝(
ga0488)は枯葉でカモフラージュしたレジャーシートにくるまり、並んで木の枝からロープでぶら下がっていた。
一見すると何やら判らないが、これぞ疲れを癒すための「みのむしごっこ」である。
誰もが知っているであろう秋のレジャー。この季節に適した娯楽といえば、これをおいて他にない――と、少なくとも鯨井兄妹は考えていた。
向こうから歩いてきたヒマリアに気づき、「やるんでしょう?」と声をかけたら、
「あ、あたしは‥‥ちょっとぉ〜‥‥」
なぜかドン退きで逃げられてしまうが、そんな事は気にしない。
みのむしは余計なことは考えず、黙ってぶらんぶらんと揺られるだけで良いのだ。
「‥‥もうすぐ冬ね」
「‥‥そうだね」
ベルは未早の膝枕に寝転がり、のんびりと食後の談笑。
レクリエーションから抜けた小夜子は並んで腰掛けた拓那に寄り添い、一時の安らぎを満喫するように、その頭を相方の逞しい胸に預けた。
「‥‥ボク、秋が好きなんです。この暖かな色合い、舞い散る風景‥‥ふふふっ♪」
食後、再び誠と2人で林の中を散策するヴァシュカが、悪戯っぽく笑った。
ニコニコしながら、誠の少し前で、ステップを踏むようにクルクル回り。
ふいに立ち止まると、後ろ手を組んで振り返った。
「周防さんは、どの季節が好きですか?」
誠はやや躊躇いつつも、今度こそ口に出してみた。
「――手でも繋いで歩きませんか?」
「研究の方はどうだ? 俺たちの体調管理などもしてくれているし、教授の相手も大変そうだが」
やはり林の中を散策しながら、剣一郎はナタリアに話しかけた。
「ええ。近々、復興支援で北インドに派遣されるので‥‥また、何かと忙しくなりそうですわ」
「しかし、こうして秋の雰囲気を感じると日本にいた時とそう大差ないな。ナタリアの故郷はどんな感じだった?」
「実は、あまり細かい事は憶えてないのです。子供の頃には、もうバグアの侵略が始まって日本へ避難してましたから‥‥」
考えてみれば、お互いまだまだ知らない事の方が多い。
「折を見てナタリアにも俺の故郷を見て貰いたい。自然の美しい場所だしな」
両親は既に他界しているが、故郷の長野には祖父母や師匠が健在だ。
「まあ‥‥それは、機会があれば、ぜひ行ってみたいですわね」
出会ってからもうすぐ1年。ある意味区切りの時期ともいえる。
(「渡すべき物を準備しないとな‥‥」)
「時間があるなら、この後部屋に寄って行かないか?」
一瞬、ナタリアは驚いたように剣一郎の顔を見つめたが、やがて頬を赤く染め。
「‥‥ええ」
と小声で頷いた。
「き、き、キスをしてもいいですか‥‥?」
緊張した面持ちのつばきから突然ねだられ、優理はさすがに驚いた。
「え‥‥ちょ、ちょっと考える時間を下さい」
動揺のあまり普段は使わない敬語で答え、あれこれ考え込むことおよそ十秒。
「――よし、解った」
自らつばきを抱き寄せ、素早く、ごく軽いキス。
だが満足できないつばきはムキになり、強く抱きついてさらに長く口づけを交わした。
唇を離した後、我に返る耳まで真っ赤になってオタオタ。
「そ‥‥そんなマセガキに育てた覚えは無い!!」
やがて呼吸を整えたつばきが、彼を見上げて真剣な表情で告げた。
「ずっと‥‥あなたと一緒にいさせてください」
「‥‥あんまり先の事約束するの嫌いなんだよね。人間、明日どうなるかも判らんしさぁ‥‥保証の無い事は言いたくないんだよ」
「‥‥」
「今は大切に思ってるし‥‥まぁ‥‥一緒に居たいとは思ってる。それで勘弁しておくんなせぇ〜‥‥」
それだけいうと、仰向けで芝生に寝ころぶ優理。
つばきは少しがっかりしたが、それでも「大切な人」「一緒に居たい」という返答に安堵を覚えつつ、切なげな顔つきで彼の傍らに腰を下ろすのだった。
食事の後もあれこれ談笑していた凜とチェラルだったが、やがて話し疲れたのか、お互い芝生に座ったまま、言葉少なに陽の傾いた秋の空を見上げていた。
勇気を出して身を寄せた凜の体に、チェラルの温もりと胸の鼓動が直に伝わってくる。
「お弁当美味しかった‥‥こんな時間を永遠にする為にも、これからも宜しくだからなっ」
ちょっと頬を染めながらいう凜だが、チェラルからの返事がない。
「う〜ん‥‥もう、お腹一杯だよぉ‥‥」
凜に体を預けたまま、いつしか彼女は眠りこけていたのだ。
苦笑した凜は、自らの上着を脱いでチェラルの肩にそっとかけてやった。
やがて夕暮れが迫り、参加者達は各々ゴミの回収も含め帰り支度を始めた。
「後始末はしっかりやらないと、ね☆」
涼香は用意したビニール袋にゴミを片付ける一方、今年の秋の思い出として、一枚の紅葉を拾った。
(「帰ったら、押し花にして栞にしましょう」)
その近くでやはり後片付けをしながら、
「こんな楽しい時間を、もっと増やせる様に‥‥取り戻す様に‥‥私達も頑張ろう。ね☆」
真琴は妹の綾乃と頷き合うのだった。
<了>