タイトル:九州戦線〜氷雪の魔狼マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/30 20:43

●オープニング本文


「フェンリル?」
「そう。司令部ではそう命名したようだ」
 岩龍改による上空からの偵察写真を眺めるUPC軍少佐、松本・権座(gz0088)に向かい、前線指揮官がいった。

 インド、東南アジア、そして八王子爆撃とアジア全域に渡りバグア軍との大規模戦闘が繰り広げられる中、ここ九州においても依然として人類・バグア双方の果てしない攻防が続けられている。
 偵察写真に映っているのは、雪のごとく真っ白な狼。
 ただし傍らの樹木などと比較して、その体長は優に10mを超す。
「‥‥何だかキタキツネの親玉みてぇなキメラだな」
「そんな可愛いモノじゃない。図体の割にえらく素早いうえ、冷気ブレスを吐いて攻撃してくる超大型キメラだぞ? もう友軍の装甲車や輸送トラックが何台やられたことか‥‥」
「いくらでけぇたって、キメラだろ? KVの2、3機も呼んで潰しちまやいいじゃねぇか?」
「もちろん司令部に要請は出したさ。だがなあ、インドや東南アジアの大規模戦でみんな出払っちまって、こっちまで回す余裕がないそうだ」
 指揮官は忌々しげに、手にした指揮棒で作戦卓をコツコツ叩く。
「それともうひとつの難題は地形だな。ヤツはここから東に3kmほど離れた岩山をねぐらにしてるらしいんだが、地形が険しいうえ大岩がゴロゴロしてて、飛行KVの離発着はまず無理だろう。空軍に要請してF−1改で上空からロケット弾攻撃も試してみたが、すばしっこく逃げ回られてなかなか当たらん」

「それで、こいつの出番か‥‥」
 松本少佐が指揮官と共にテントから外に出ると、そこに車輪付きの4脚に支えられ、2本のアームを持つ、ロボットとも装甲車ともつかぬ武骨な機体が鎮座していた。
 最近導入が進められている兵員輸送型KV「リッジウェイ」である。
 飛行能力こそないものの、無改造でも頑丈な装甲と歩兵10名程度を輸送できる独自の性能は、特に能力者と一般人の兵士による混成部隊の多いUPC陸軍で歓迎されている。
「なるほどな。こいつならかなり足場の悪い岩山でも車両形態で移動できるし、大型キメラともやりあえそうだ」
「問題はだな‥‥操縦できる能力者がおらん。うちの部隊に唯一人いた能力者の下士官が、あいにくインド戦線に引き抜かれちまってなあ‥‥」
「まぁ安心しろ。そのために俺がL・Hから派遣されてきたんだからよ」
「そういう貴官は能力者なのか?」
「いや、俺じゃねぇけどな‥‥」
 松本少佐が顔を上げると、空の一角に黒い点がポツリと現れ、それはみるみる能力者達を乗せた高速移動艇となって、前線基地の手前に着陸したのだった。

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
緋霧 絢(ga3668
19歳・♀・SN
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
水枷 冬花(gb2360
16歳・♀・GP

●リプレイ本文

●出撃! 機械化歩兵小隊
「少佐、九州での活躍は耳にしている。お会い出来て光栄だ」
 移動艇を降りた寿 源次(ga3427)は、前線司令部のテント前で待っていたUPC軍少佐、 松本・権座(gz0088)に初対面の握手を求めた。
「おう。貴様らも、インドの方じゃバグア相手に大暴れしてきたそうだな。こっちでもよろしく頼むぜ」
 少佐の後は、今回依頼を共にする他の傭兵達にも一通り挨拶する源次。
「寿だ。宜しく頼む」
 メンバーのうち、アルヴァイム(ga5051)や皇 千糸(ga0843)は兵舎で旧知の仲だし、水枷 冬花(gb2360)とは以前に別依頼を共にした事がある。
 傭兵の依頼は参加者が出そろうまで誰と行動するのか判らないのが常だが、やはり見知った顔があると心強いものだ。

「早速だが、こいつが今回の獲物だ」
 松本少佐が取り出した偵察写真を、傭兵達は額を寄せて見入った。
「大型キメラ、フェンリルか‥‥奇しくも私と同じ名を持つ敵だな」
 純白の毛皮を持つ狼をそのまま巨大化させたようなキメラの空撮写真を目に、緑川 安則(ga0157)が苦笑した。
 命名したのはUPC軍の上層部だろうが、覚醒時に同じ「フェンリル」を名乗る彼としては面子に賭けて負けられぬ相手といえる。
(「綺麗な毛ね。惜しいわ‥‥従順だったら番犬に欲しいくらいなのに」)
 写真を見ながら、冬花は内心で思った。
(「今のこれじゃ野犬と同じね。気の毒だけど、やっぱり殲滅あるのみだわ」)
「命名のモデルは北欧神話の狼ですか‥‥この手の仰々しいネーミングは、実力が伴わなければイタいだけですね」
「ラグナロクはまだ遠い――大人しく眠りについて頂きましょうか。ただし‥‥永遠の、ですが」
「現場の指揮官の話じゃ『同じサイズのケルベロスより手強い』って事だが。こればっかりは、実際にぶつかって見ねぇと判らんからなあ」
 緋霧 絢(ga3668)、ラルス・フェルセン(ga5133)らの言葉に対し、松本少佐は首を捻った。
「ま、楽させてくれる相手ではないでしょうね」
 と、軽く肩をすくめる千糸。
 これがKV戦なら敵のワームは通常でも10m前後。時には20m級のEQ、大規模作戦ともなれば直径1kmを優に超すギガワームを相手にすることさえある。
(「もうこの程度じゃ驚かなくなっている自分がいたり‥‥」)
 とはいえ敵も体高だけで5mはあろうかという超大型キメラ。しかも図体に似合わぬ敏捷さと冷気ブレスを使ってくるというから、能力者であっても生身で戦うには充分な脅威だ。
 そこで今回、UPC側が用意したのが歩兵輸送用KV「リッジウェイ」だった。
 通常の飛行KVでは離発着の難しい岩山に潜むフェンリルを狩るため、1名が操縦するリッジウェイに残り7名が乗り組み接近、後は降車してKVの援護を受けつつ戦う、いわゆる「機械化歩兵」として戦って欲しい、というのがUPC軍の意向だ。
「そういえば、生身とKVの共同戦線って何気に初めてだわ」
 ふと口にする千糸に対し、
「ま、大型とはいえキメラ相手にいちいちKV部隊を派遣してたらキリがねぇからな。軍のお偉方としちゃリッジウェイの輸送能力を最大限活かして、生身の能力者や一般人兵士による対キメラ戦を効率化しよう――って試験運用でもあるんだろ」
 松本少佐は今回の依頼のもう一つの意義について語る。
「我々の故郷での戦闘‥‥見て見ぬ振りは出来ませんねぇ」
 ヨネモトタケシ(gb0843)が恰幅の良い体を揺らして豪快に笑い、陸戦型KVの後部兵員室へと乗り込んでいった。
(「‥‥信頼する機体に、信頼する仲間が乗っている。心配など、あるものか」)
 頼もしげにリッジウェイの勇姿を見上げつつ、源次もその後に続く。
 全員の乗車を確認した後、運転役のアルヴァイムが操縦席に着いた。
「さて、野犬狩りですな」
 かくして、傭兵達を乗せたリッジウェイは魔狼が待ち受ける岩山目指して出発した。

●岩石の迷宮
「フェンリルはその名のとおり、狼をベースとしたキメラと思われる。大きな身体でありながら、高機動、かつ強力なブレスを使用する」
 移動中のKV兵員室内で、安則は仲間達に改めて説明した。
「そこでリッジウェイと共に捜索、発見次第、散開し、班ごとにリッジウェイを支援。まあ、ぶっちゃけていえばリッジウェイを動く壁と使えとなるわけだな」
 KV操縦担当のアルヴァイムを除き、生身で戦う傭兵達の班編制は以下の通り。

 A班/寿、ヨネモト、水枷
 B班/ラルス、緑川
 C班/緋霧、皇

 防御に優れ、いざとなれば人型形態で挌闘戦を挑む事も可能なリッジウェイを「囮」としてフェンリルを引きつけ、その間に降車した傭兵部隊が3チームに分かれて散開、包囲殲滅という段取りである。
「‥‥一応、スペック的にはKV級の火力を出せるはずですが、通用するでしょうか?」
 自らのスナイパーライフルを手入れしつつ、やや不安そうに絢が呟く。
「何ともいえませんね。生身で向き合えば、相手はちょっとしたビル並みの図体ですから」
 同じスナイパーのラルスは、洋弓「アルファル」の弦の張り具合を確かめながらいった。
「まあリッジウェイの支援と‥‥後は、こいつが役に立ってくれれば良いんですけどね」
 そういうと、移動艇で運んできた大きなビニール袋をちらっと横目で見やった。

 目的地のすぐ手前に到着。後部ドアを開いて傭兵達が降車すると、そこに広がっていたのは「岩山」というよりは、およそ百m四方の平たい岩盤の上にコーン上の尖った巨岩が切り立つ「天然の迷路」ともいうべき奇観だった。
 岩と岩の間にはリッジウェイ1台が通れる程度のスペースが空いているが、逆にいえば敵キメラも巨岩に身を隠しつつ自在に駆け回れる事を意味する。また周囲は森林地帯になっているので、万一討ちもらして森の中に逃げ込まれたら、追跡するのは極めて困難と思われた。
 フェンリルにはワームと違い重力波センサーなどないが、狼ベースのキメラだとすれば鋭敏な嗅覚を有する可能性が高い。
 絢は位置を感づかれないよう野戦服や肌、髪を周辺の土などで汚し、周囲の臭いと同化を図った。日頃は傭兵アイドルとしても活躍する彼女であるが、こんな時に見栄えなど気にしてはいられない。
「頼りにしているぞ、お二方」
 A班の源次はチームを組むタケシ、冬花の肩をポンと叩いた。
「いよいよですね‥‥」
 覚醒した冬花の左手の甲に6枚の花弁の様な刻印が浮かび上がる。
 花弁の数が残り練力のバロメータの役も果たす不思議な紋様だが、いまその数は丁度3枚。彼女の練力は前回依頼から完全に回復しきっていなかったのだ。
「アルヴァイム君、お任せしました」
 ラルスの合図を受け、まずは囮役のリッジウェイが車両形態のまま前進、迷路のごとく入り組んだ岩山の中へ侵入する。
「どちらがフェンリルとしてふさわしいか‥‥勝負だな」
 セーフティを外したドローム製SMGを構え、ラルスとコンビを組む安則がその後に続く。
 他の傭兵達も各々の武器を携え、また無線機でリッジウェイや別チームと連絡を取り合いつつ、KVに随伴して風下から索敵を開始した。

 索敵を続けること十分余り。前方左右にそびえる大岩の間を、何か白い物体が過ぎった。高さ5mはありそうな巨岩にもひけをとらぬ大きさである。
「敵影確認。散開後、弾幕射撃にて牽制する」
 安則が無線で警告を発し、傭兵達は素早く3方向に分かれて散開する。
 さらに前進を続けるリッジウェイの眼前に、右手の岩陰から巨大な狼型キメラが飛び出すや、白い霧のような冷気ブレスを吐き付けてきた。
「ようやくお出ましですか!」
 アルヴァイムは機体にブレスを浴びつつも、リッジウェイのガトリング砲で反撃。
 SES兵器に能力者の練力を込めた砲撃を浴び、フェンリルは悲鳴の様な咆吼を上げ別の岩陰に逃げ込んだ。
 今まで餌食にしてきた装甲車や輸送トラックとは、勝手が違う事を悟ったらしい。
 以後はピタリと息を潜め、その巨体にもかかわらず行方をくらました。
 この時、ラルスを始め何名かの傭兵達は胡椒や酢などの刺激物を詰め込んだビニール袋を投擲し、KVのガトリング砲で破裂させた。
 嗅覚の鋭敏な狼型キメラへの牽制目的だったが、残念ながら空中散布された刺激物の大半は上空で風に流されてしまい、さしたる効果を上げる事ができなかった。
 刺激臭だけで牽制するには、やはり相手が大きすぎたのだ。
 やむなく傭兵達はフェンリルが隠れたと思しき大岩を3方から囲み、慎重に接近していった。
 ――いた。
 ピタリと地面に這いつくばり、キメラはじっとKVの隙を窺っている。
 さらにその隙を衝き、傭兵達はまず射程の長いスナイパーが中心となってフェンリルへの銃撃を開始した。
「こっちとら鹵獲兵器のS−01、旧型陸戦ワームともドンパチしているんだ。恐れることはない。今回はリッジウェイもいるしな」
 安則は手近の岩に身を隠しつつ、スキル併用で狙撃と移動を繰り返した。
 隠密潜行で気配を隠した絢は、最大射程から伏射でキメラを狙撃する。火を噴く銃口の先端に、覚醒変化による黒い魔法陣の様な影が多重展開した。
 一応野獣並みの知性はあるのだろう。KVと能力者の奇襲に旗色が悪いと判断したか、フェンリルは包囲を突破して森の中への逃走を図った。
「そっちはダメでしょ!」
 千糸は影撃ちで眼を狙っていったが、図体の割りに素早く動き回るフェンリルの頭部に命中させるのは難しく、敵の機動力を削ぐべく狙いを脚の方に変えた。
「確かに素早い――が、まだ届きます!」
 SMGの弾幕で面攻撃を行う安則に対し、ラルスはFバックル&強弾撃で威力を増した「アルファル」の点攻撃でキメラの脚、顔面、腹部を狙っていく。
 3方向から激しい弾幕が張られたが、フェンリルも予想以上にしぶとい。
 中小型キメラならとうに消し飛ぶほどの火力を浴びながら、その飛び抜けた巨体がダメージを吸収してしまうのだ。
 サイズならひけをとらないリッジウェイもガトリング砲で援護射撃を加えるが、こちらは岩石に遮られ、やはりなかなか直撃弾を与えることができない。
 生身の傭兵が接近して急所への攻撃を図ると、冷気ブレスや敵の肉弾攻撃によりダメージを食らう。
 そんな膠着状態を破るべく、A班3名が思い切って突入した。
 冬花は味方への誤射を防ぐため使用を控えていたショットガンを構えて肉迫し、至近距離から見上げるような怪物に散弾を撃ち込む。
 カウンターで吹き付けられた冷気ブレスを彼女が瞬天速で回避した後、代って蛍火を二刀流に構えたタケシがずいっと前に出た。
「自分は盾、そして壁。その脅威‥‥後ろに通しはしませんよぉ!」
「話には聞いていたがデカい‥‥だが!」
 源次はフェンリルを見据え、超機械による錬成弱体で敵の防御を弱める。
 一気に間合いを詰めたタケシが両断剣&ソニックブーム併用でキメラの前足を狙い、斬りつけた。
「自分‥‥渾身の衝撃を喰らうがいいですっ!」
 フェンリルの左前足から鮮血が飛び散り、大きくバランスを崩す。
 だがすかさず振り下ろされた右前足の一撃がタケシを弾き飛ばした。
「行かせないわ‥‥」
 再び飛び出した冬花が限界突破により全能力を解放、キメラめがけ立て続けにショットガンの連射を浴びせた。これでかなりのダメージを与えるも、その代償に彼女は残り練力をほぼ使い切ってしまった。
 フェンリルの両眼がギラリと輝き、覚醒が解け無防備になった冬花に向け報復の冷気ブレスを吐こうとあぎとを開く。
 間一髪。横合いから突入してきたリッジウェイが、体当たりで強引にブレスの狙いを逸らした。
「そうはさせませんよ。体を張ってもね」
 アルヴァイムはKVの後部ドアを開き、装甲に守られた兵員室へと冬花を退避させた。
 その頃には、源次の錬成治療と自らの活性化によって回復したタケシが戦列に復帰。
「まだまだ‥‥自分は堕ちはしません! 刈り取れ!」
 ソニックブームの一閃がフェンリルの左前足を切り裂き、キメラの動きがガクリと鈍った。
「その隙は見逃せないわね!」
 前進してきた千糸が兵装をエネルギーガンに持ち替え、なおも逃亡を図るフェンリルに強力な知覚攻撃を叩き込む。
 他の傭兵達も一斉に距離を詰め、ある者は銃器による零距離射撃を、ある者はスキル併用で近接兵装による肉迫攻撃を加えた。
「お眠りなさい」
 ラルスの放ったエネルギーガンの光条に頭部を射抜かれた瞬間、さしもの大型キメラもついに地響きを上げて大地へ倒れた。
 フェンリルはその名に相応しく、永遠に北欧神話の世界へと旅立ったのだ。

●戦い終えて‥‥
「大丈夫ですか?」
「ええ。何とか」
 戦闘中に練力切れを起こしたものの、幸い重傷は免れた冬花が、心配する仲間達に微笑む。
 リッジウェイに乗って再び前線基地へ帰還した傭兵達は、松本少佐と現地指揮官への報告を済ませると、思い思いにL・H帰還への準備を始めていた。
「早く帰って、シャワーを浴びたいですね」
 そうぼやきつつ、持参したミネラルウォーターで髪や顔に付けた泥を落とす絢。
 安則はフェンリルの死骸から回収した肉片を容器に詰め、松本少佐に手渡した。
「これほどの性能を秘めているやつを研究すれば少しは情報を得られるかもしれないので、よろしく頼む」
「すまねぇな。帰ったら、未来研の学者先生にでも渡しておこう」
 傭兵達の活躍によりフェンリル殲滅は成功、そして対大型キメラ戦におけるリッジウェイの有用性も立証された。
(「先は見えない戦い。だがこうした積み重ねが重要なのだろうな」)
 そんな事を思いつつ、源次は今回の任務を共にした「9番目の戦友」のボディを拳で軽く叩いた。
「見上げる姿も最高だな、リッジウェイ!」

<了>