タイトル:【KM】遙かな渚マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/23 14:59

●オープニング本文


 2008年10月X日。
 オセアニア大陸北西海上に位置する島国、カメル共和国に対しバグア・オーストラリア軍が全面侵攻。
 首都ザンパ近郊に駐留していたUPC守備軍は、FR2機を主力としたバグア軍の奇襲攻撃により数時間で壊滅。時を同じくして首都ではカメル軍部のクーデターが発生し、新たに樹立された臨時政府の首班・ゲラン中将は世界に向けてUPC脱退とバグアとの単独講和を宣言して世界に衝撃を与えた。
 占領地域を別にすれば、アジア地域における初の「親バグア国家」誕生である。

 この事態に対し、UPCは直ちに最高首脳会議を招集。カメル臨時政府を承認せず、あくまで親バグア路線を選ぶのなら軍事介入もやむなし――との結論に至った。
 しかし人口2百万程度の小国といえ、カメルはれっきとした「国家」である。親バグア派の山賊どもが競合地域の村を占拠したのとはわけが違う。
 目下の課題としては、同国内で孤立したUPC軍の救出である。現在、生き残りの将兵約1000名が北部の海岸地帯に逃れて救出を待っている。その中には負傷者も多く、このまま放置すれば全滅は時間の問題であった。

●名古屋〜UPC東アジア軍本部
「お久しぶりです、殿下。‥‥そちらの状況は如何です?」
 電話の向こうにいるのは、プリネア王国皇太子クリシュナ・ファラーム。
 現在バンコクで臨時開催中の東南アジア諸国連合首脳会議に王国代表として出席中の、若き国家指導者にして能力者でもある。
『ついさっき、全会一致で決議を終えた。我ら東南アジア諸国もUPCと歩調を合わせ、間もなくカメルの臨時政府に対し国交断絶を通告するであろう』
「恐縮です」
『ただし――共同出兵となると難しい。知っての通り、このところバグア軍の攻勢が一段と強まっている故、どこも自国を守るので精一杯の状況であるからな』
「やはり‥‥ですか」
『おそらく、我が国の単独出兵となるであろう』
「よろしいのですか? その、貴国も――」
『幸い我が国はまだ被害も少ない。友軍救出のため、空母と輸送艦を出す。戦費も全て負担しよう。‥‥ULTには能力者の派遣を依頼したい』
「殿下のご配慮に‥‥深く感謝致します」
 正面のモニターに表示されたアジア・オセアニア地域の大地図を見つめ、UPC軍司令官はやや震える声で答えた。
 インド北部での大規模戦闘、そして東南アジア各地で続くバグア軍の攻勢により、東アジア軍の予備戦力は既に底を突こうとしている。
 小国ながら膨大なオイルマネーを擁し、アジア諸国では唯一余力を残したプリネア王国から支援を拒否されていたら――おそらく駐留軍の救出自体、諦めざるを得なかったろう。

●カメル共和国〜北部海岸
(「同じだな‥‥あの時と」)
 負傷の痛みにあえぎながら、身を寄せ合うようにして救出を待つUPC残存兵の群を望遠カメラでモニターしながら、ハワード・ギルマンは胸の裡で呟いた。
 泥沼の北米戦線。まだ能力者もKVも存在しなかった時代、圧倒的なキメラとワームの威力の前に為す術もなく、ただ絶望と苦痛の中で倒れていった多くの戦友や部下たち。
 ――だが一瞬の後、それは己ではなく、ヨリシロとした「この体」の記憶であることに気づき、慌てて頭を振った。
(「くそっ。どうかしてるぞ‥‥インドで撃墜されてヤキが回ったか?」)
『ちょっとギルマン? なにボンヤリしてんのよ』
 無線越しに響く、耳障りな少女の声。
 上空を飛ぶ中型HW「サロメ」に搭乗する結麻・メイだ。
『さっさと片付けちゃいなさいってば。あんな見苦しい敗残兵』
「奴らは‥‥囮だ。いずれ奴らを救出するため、UPCの援軍が来るだろう。その時まとめてカタをつけてやる」
『囮ぃ? そんなの、百人かそこら残しときゃ充分でしょ? ‥‥ふふっ。何なら、あたしがお掃除してあげよっか♪』
「――やかましい、小娘っ!!」
 自分でも理由の判らない苛立ちに突き動かされ、ギルマンは思わず怒鳴りつけていた。
『え? な、なに怒ってるの? あたしは、ただ‥‥』
「地上戦は俺の分担だ! いいか、余計な手出しをしてみろ――貴様がシモンのお気に入りだろうが、遠慮無く叩き落とす。そのつもりでいろっ!!」
 メイの返事など聞かず無線を切り、ギルマンは再びモニターを凝視した。
「さあ、来い能力者ども‥‥貴様らに仲間を助ける気があるなら、な」
 海岸近くの密林の中、森林迷彩にカラーリングしたエース機ゴーレムが巨体を起こし、バグア式バズーカ砲を海岸線に向ける。
 ゴーレムの胸にはくっきりと「蟹座」のエンブレムが描かれていた。


※戦場(概念図)     北

海海海海海海海海海海海海 ↑
海海海海海海海海海海海海
浜浜 兵兵兵兵兵兵 浜浜
浜浜浜浜浜浜浜浜浜浜浜浜
森森森森森森森森森森森森
森森 GGGGGG 森森
森森森 TTTT 森森森
森森 CCCCC 森森森

兵:負傷兵
G:ゴーレム
T:タートルワーム
C:CW

●参加者一覧

鷹見 仁(ga0232
17歳・♂・FT
ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
アイリス(ga3942
18歳・♀・JG
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA

●リプレイ本文

●カメル共和国北方海上〜空母「サラスワティ」艦内
「間もなく本艦はカメル領海へ入る。海岸部に追われた友軍部隊の救出は極めて危険な敵前上陸となろうが、今回の参加メンバーは先のアジア決戦でも名を上げた強者ぞろいじゃ。そなたらのような勇士と共に戦える事を誇りに思う」
 作戦会議室のボード前に立ち、傭兵のKVパイロット達に語りかける提督服の少女、ラクスミ・ファラーム(gz0031)の声を聞きながら、鷹見 仁(ga0232)は内心の驚きを隠せなかった。
「彼女」とはもう何度もこの空母の艦内で出会っている。ただしプリネア王国王女でも「サラスワティ」艦長でもなく、プリネア軍の名も無き1士官として。
 会議室に入ってきた仁の顔を見た時、ラクスミもまた一瞬気まずそうな顔をしたが、すぐ何事もなかったように作戦概要の説明を続けた。
 直接の救出にあたるのは「サラスワティ」の他、揚陸機能も備えた1万t級の輸送艦2隻、UPC東アジア海軍所属の駆逐艦3隻。
 救出完了までの間、上空から襲来する敵機に対してはUPC軍のチェラル軍曹が指揮する別動の制空部隊がエアカバーを担当。また水中ワームや水中キメラに備え、旗艦「サラスワティ」とUPC駆逐艦、及び駆逐艦搭載の水中用KV・W−01テンタクルス6機が警戒にあたる。
 空母艦載KVの任務は、海岸に上陸したUPC・プリネア連合軍の海兵隊が負傷兵収容にあたっている間、妨害が予想されるバグア軍地上部隊を牽制し、彼らを護衛することにある。
 口で言うのは簡単だが、身を隠す遮蔽物もない浜辺、海岸線からおよそ百m先は密林地帯であり、敵にしてみれば待ち伏せ攻撃をかける格好の地形だ。
 また、カメルへの奇襲第一波はFR2機を主力としたバグア航空戦力主体で行われたが、その後オーストラリア本土からゴーレム、タートルワームといった陸戦型ワームが輸送されたのは想像に難くない。傭兵側KV12機、空母専属のKV3機を以てしても、これは困難を極める任務といえる。

 一通りのミッション・ブリーフィングが終わると、後は作戦海域への到着を待つだけとなった。
「‥‥良ければコーヒーを一杯如何ですか?」
 リヒト・グラオベン(ga2826)は持参のミルで自ら挽きたての珈琲を淹れ、ラクスミや副長のシンハ中佐、仲間の傭兵達に勧めた。
 先のアジア決戦で負傷した傭兵は多く、リヒトもまた2度の重傷を負っている。幸い能力者の超人的な回復力によりKV操縦に支障はないが、万全を期するため彼は乗艦中もなるべく体を休め、体調を整える事に気を配っていた。
 霧島 亜夜(ga3511)は自らの兵舎【アイス「71」】で販売しているアイスを持ち込み、やはりお土産としてラクスミ達に振る舞った。
「おお、これはかたじけない」
 提督服の少女が、スプーンですくったアイスを一口食べて顔を綻ばせる。
「そういえば、去年のクリスマスパーティーだったか‥‥ある傭兵が土産に持ってきてくれたアイスが実に美味かったが、確かこの店の品じゃったな?」
 と、懐かしそうにいった。
 さらに亜夜はシンハ中佐他のプリネア軍幕僚と、ミッションの細部を詰める。
「水中はW−01に任せるとして‥‥後は救出作業終了時、空からのバグア機接近時の合図ですか。おそらく無線はCWのジャミングで妨害されるだろうし‥‥信号弾の打ち上げを取り決めておくべきでしょうね」
「うむ。海岸の友軍兵達も、こちらが信号弾を上げれば救援が来たことに気づくだろうしな」
 陸・海・空の戦力が一体となり「千人余りの友軍兵を速やかに救出する」というこの大がかりな作戦においては、ジャミング下であっても各部隊の綿密なコミュニケーションと連携が欠かせない。
 今回、新たに乗り換えた自らのウーフーに「緋閃」と名付けた亜夜は、空母専属の搭乗員で同じウーフー乗りの双子、李・海狼、李・海花の兄妹とも意見交換した。
「おまえたちは艦上から電子支援とSライフルでの援護射撃を頼む。それから、万一制空部隊の取り逃がした敵機が襲ってきたときの直援もな」
「お任せください! 頑張って援護します」
「ウーフーなら、たとえHW相手でも怖くないアルよ!」
 おかっぱ頭の少年と、お団子型に髪を結った少女。
 まだ7つの幼い双子が胸を張ってうなずく。
 そんな2人に、明星 那由他(ga4081)が持参したカウボーイハットとコサージュを、おずおずと手渡した。
「これ、海狼くんと海花ちゃんにプレゼント‥‥映画撮影のとき、悪役に付き合ってくれたから‥‥」
「わあ、ありがとうございます!」
「可愛い髪飾りアルね。嬉しい!」
 能力者の軍人といっても、やはりまだ子供だ。思いもよらぬ贈り物に、李兄妹は大はしゃぎで喜んだ。

 出撃までの僅かな待機時間、何人かの傭兵は改めて艦長のラクスミに挨拶した。
「お初に御目にかかります。お会い出来て光栄です」
 と、今回が「サラスワティ」初搭乗となるフォル=アヴィン(ga6258)。
「うむ、よろしく頼むぞ」
 緋沼 京夜(ga6138)は片手の掌に拳を打ち付け、
「このご時勢に単独出兵か‥‥姫さん、プリネアって国はすごいもんだな。やる気出てきたぜ。さあ、バシッと命令を出してくれ!」
 軍人は決して戦友を見捨てない――その信念を貫く決意を新たにした。
「きっつい戦いになりそうだけど、無理はしないでおこう‥‥多少は承知の上だけどね」
 まだ記憶に生々しいアジア決戦の激闘を思い起こし、ミア・エルミナール(ga0741)が武者震いする。
「頼りにしておるぞ。知っての通り、我がプリネアを含む東南アジア諸国はUPCの下に結束しているといっても、現実には各国の利害が複雑に絡み合い、必ずしも一枚岩とは言い難い。今回は何とか兄上が各国首脳を説得して、カメル臨時政府に対する断交までこぎつけたが――」
 王女の緑色の瞳がやや憂いを帯び、憮然とした表情で言葉を継いだ。
「万一この作戦が失敗すれば、友軍兵1千の命はもちろんのこと、これまで築いていたアジア諸国の団結も失われ‥‥カメルに続いてバグア陣営へと走る国が出ないとも限らぬ」

 そんな中、井出 一真(ga6977)は会議室の片隅にポツンと座るパイロットスーツ姿の少女を気遣うように話しかけた。
「‥‥必ず、無事で帰ってきましょうね」
「うん。‥‥一真もね」
 その少女、マリア・クールマ(gz0092)にとってカメルは因縁の地だ。
 今はプリネア軍軍曹として、またシンハ中佐の養女として新たな人生を歩みつつある彼女だが、あの「DF計画」で強制的に能力者兵士にされた1人であり、またバグア側のカメル侵攻軍司令官と目される元DF隊員のシモンとは、かつて「恋人同士」といっていい関係でもあった。
 相変わらず人形の様に無表情なマリアの本心を読み取るのは難しいが、やはりその心境は複雑だろう。

「鷹見殿‥‥」
 いよいよ出撃時間が近づき、能力者達は各々のKVを最終チェックするため艦内格納庫へと移動し始めたが、会議室を出ようとする仁をラクスミが呼び止めた。
「その‥‥驚かせてすまなかったの。これには色々と訳があって‥‥いずれ落ち着いたら説明するが」
「気にするなって。詳しい話は、任務成功の後でゆっくり聞かせてもらうさ」
 ややバツの悪そうな王女に対し、仁はニッと笑って親指を立てた。
「さて、勝利の女神にも会えたことだし、いっちょ頑張ってくるか」


 いよいよカメル領海に侵入し、目的の北部海岸も間近に迫ったとき、カメル共和国海軍の沿岸警備艇が姿を見せ「領海侵犯に対する警告」及び「速やかな退去」を通告してきたが、UPC駆逐艦からの威嚇射撃を受けると泡を食った様に逃げ帰っていった。
 元よりカメル海軍じたい兵力も少なく装備も旧式なので、今回の作戦にあたっては殆ど障害にならないだろうと予想される。
 だからといって下手に撃沈してしまうと、カメル一般国民の反UPC感情を一気に煽り立てる怖れがあるので、慎重に対処せねばならないが。
 空母艦隊、及び海中に発進したW−01隊のセンサーに水中ワーム反応はない。バグア側もカメル全土掌握に忙しく、まだ周辺海域までは手が回らないだろう。
 中小型の水中キメラらしき反応は幾つか見られたが、これはW−01で充分対処できるものと思われた。
 海岸線が視認できるほど近づいた頃、上空で幾筋かの光条が飛び交い、爆発の炎と黒煙が膨れあがった。
 ニューギニアのUPC軍基地から出撃し、先行して突入した制空部隊がバグア側飛行ワームと交戦状態に入ったのだろう。
 ラクスミも艦載機の発進を命じ、李兄妹のウーフーを除くKV13機は、順次「サラスワティ」のスキージャンプ甲板を蹴ってカメルの海岸を目指す。
 時を同じくして、空母からは浜辺の友軍兵に援軍到着を報せる信号弾が打ち上げられた。

●カメル北部海岸〜敵前上陸
 亜夜のウーフー「緋閃」が上空を通過すると、浜辺にいたUPC軍の兵士達が歓声を上げて軍帽を振った。
「待ってろよ。もう少しの辛抱だ‥‥!」
 ただし彼らの救出を援護するのは後続のKV隊だ。
 亜夜の任務は先行して海岸部、及び沿岸の密林地帯を偵察し、待ち伏せなどの敵戦力を探ることにある。
 UPC情報部の分析によれば、カメルに侵攻したバグア軍の中には司令官シモンの他「ゾディアック」のダム・ダル(gz0117)、ハワード・ギルマン(gz0118)も参加しているらしい。
 このうち特に注意を要するのギルマンだろう。
 アジア決戦では印パ国境上空でFRを撃墜されたといえ、その後のデリー市街戦では小型ワームに搭乗し地下シェルター内部のUPC司令部まで後一歩の所まで侵入する等、その老獪なゲリラ戦法は相変わらず健在だ。今回も、わざとキメラを使わず負傷兵を「囮」に使い、能力者達に罠を仕掛けてくる事は充分に予想された。
「見てろよ‥‥『紅の魔術師』として、その作戦暴いてやるぜ!」
 情報部に要請し過去のギルマン戦闘記録を全て送ってもらった亜夜は、空母の艦内でそれらに目を通し、事前にギルマンの採りそうな戦術に目星を付けていた。

 波打ち際から海岸一帯にかけては、今の所敵戦力やトラップらしきものは見あたらない。さらに密林上空にさしかかったとき、突然亜夜を激しい頭痛が見舞った。
「くぅっ――CWか!」
 レーダー機能が極端に低下したため目視で周囲を索敵するが、少なくとも上空にそれらしき機影はない。おそらく、密林の中に置いてトラップとして使用しているのだろう。
 この使い方だとCWの移動力とジャミング効果範囲は制限されるものの、ワームとしては小さいので樹木などで隠蔽されると捜し出して破壊するのが厄介だ。
 間髪を置かず、地上から発射された淡紅色の光線が「緋閃」へと殺到する。
 眼下の密林、やや樹木のまばらな地面をのっそり動き回る巨大亀――タートルワームだ。打ち上げられてくるプロトン砲の発射間隔や方位から推測して、その数は4機。
 防御や抵抗は高いものの、回避が低いウーフーにとってこの空域を低空飛行するのは非常に危険だ。
 それでも亜夜は多少の無茶は覚悟の上で踏みとどまり、うるさくノイズが混じる無線で後続の友軍機に可能な限りタートルの現在地を伝え続けた。


『偵察機の方はタートルに任せろ。ゴーレム隊、射撃準備。‥‥まだだ‥‥もう少し、引きつける』


「ちゃんと全員、助け出すのですよ」
 アイリス(ga3942)が所属するのは負傷兵援護、及び浜辺でのゴーレム戦を担当するA班。KV7機からなる同班はさらに2隊に分かれ、

 α隊:漸 王零(ga2930)、京夜、アイリス、亜夜
 β隊:仁、月影・透夜(ga1806)、フォル
  ※エース機迎撃は王零、仁が担当。

 アイリスらA班の役目は先行して浜辺に強行着陸し、負傷兵や救援部隊(海兵隊)、そして後続のB班着陸を助ける「盾」となることだ。
 まずは上空から密林に向けて煙幕装置を発射、煙に紛れて人型形態に変形・降下する。
 砂浜の上に降り立つか降り立たないかのうち、密林方向から激しい砲撃が開始された。
 既にお馴染みとなったバグア式Sライフルに混じり、どうやら命中率・攻撃力を向上させた新兵器も混じっているようだ。
 それでも雷電クラスの重装甲なら1発や2発の直撃を食らっても耐えられる。索敵中の亜夜を除くA班6機は森と負傷兵の間に立ちふさがった。
「今のうちに、退避して下さいですよ」
 ガトリング砲で森の中の敵を牽制しつつ、アイリスはKVの外部スピーカで負傷兵達に呼びかける。
 その頃には「サラスワティ」と輸送艦2隻から発進した揚陸用ホバークラフトや輸送ヘリも海岸に到達し、怪音波の効果が及ばない一般人兵士のみで編成された海兵隊がUPC軍兵士救出を開始していた。


『負傷兵などほっとけ! 目標はKVだ。1機たりとも逃すなっ!』


「負傷兵を残し、救助者を潰して被害拡大‥‥くそっ、昔の狙撃兵かよ!」
「古典的ですけど、嫌らしい事をしてくる」
 京夜とフォルはそう憤りつつも、負傷兵と救援部隊に被害が及ぶのを防ぐべく森からの砲撃にひたすら耐える。
「この手口、やはり指揮官はギルマンか? 欧州戦では世話になったが、今は負傷兵の救出が優先だ」
 透夜はヒートディフェンダーを盾にしつつ、敵の射線から位置を推測しヘビーガトリングで反撃の掃射を叩き込む。さらに苛烈さを増す砲火に対し、煙幕銃を発射して妨害を図った。
「今は耐える時だ。反撃はこの後だ」
 だが敵も中距離砲撃だけでは決定打にならないと判断したのか。
 ふいに砲撃が止むと、森の中から兵装をBCアクスに持ち替えたゴーレム4機が姿を現わした。
「はわっ、こっちに来たですよ〜」
「まさかあの中にギルマンが‥‥?」
 4機全てが森林迷彩でカモフラージュされているのを見て、傭兵達の間に緊張が走る。
 だが、「迷彩」というだけでギルマン搭乗のエース機と判断するのは早計だ。
 ともあれA班KV部隊は救出部隊を護るための散兵線を形成して前進、ゴーレム迎撃の態勢に入った。
 ちょうどその頃偵察飛行から戻ってきた亜夜は、「緋閃」に搭載したKV用カメラで周囲の撮影を始めた。
 後々のため敵戦力の分析。また負傷兵救出の場面は、カメル占領で動揺する周辺諸国を勇気づけるため何よりのメッセージとなるだろう。
 後方の密林に配置されたCWの怪音波による頭痛とジャミングが、能力者達を悩ませる。さらに森の奥からタートルのものと思しきプロトン砲の砲撃も始まった。
 だが、奴らを片付けるのは別動隊B班の役目だ。
 頭上をB班6機のKVが通過する。
 A班のKV部隊は迫り来るゴーレム隊を迎え撃つ一方、森方向へは引き続きガトリング砲の弾幕を浴びせてタートルの対空砲火を牽制した。

●密林地帯〜タートルワーム掃討戦
 対CW・タートルを担当するB班もまた、各々3機ずつの2班編制をとっていた。

 α隊:月神陽子(ga5549)、ミア、那由他
 β隊:リヒト、一真、マリア

 亜夜が危険を犯しての強行偵察で入手した情報により、少なくともタートル4機の配置は大体把握できている。
 α隊は東、β隊は西とタートル部隊を挟み込むように高度を下げた。

「‥‥ラクスミ艦長。5分だけ待っていただけますか? それだけあれば十分です。あの砲撃は、必ず止めてみせます」
 赤く塗装されたバイパー改「夜叉姫」を駆る陽子は「サラスワティ」にそう通信を送ると、A班友軍の援護射撃に紛れ、樹木のまばらな場所を選び変形・降下。
 手近にいたタートルからプロトン砲の直撃を受けるが、多少のダメージはものともせずロンゴミニアトの3連撃をお見舞いした。
 鈍い音がして亀型ワームの甲羅が砕ける。以前ならこれであっけなく沈んだものだが、大ダメージを負いつつもタートルは倒れず、しぶとく体当たりで反撃してきた。
「あら? 少しは強化されてる様ですわね‥‥ですが、そこまでです」
「これ以上誰も死なせないよ‥‥その為の力なんだから! 負けたと思うまで人間は負けないんだー!」
 陽子と同時に降下していたミアの阿修羅が大地を蹴り、サンダーホーンの一撃を叩き込む。さらに那由他が後方からレーザー砲を照射、しぶとい強化型タートルはようやく動きを止めた。
 ウーフーのロールアウトに伴い電子戦機としては1世代旧式となった那由他の岩龍改だが、中和装置のタイプが違うため両者が協力してCWのジャミングをより緩和できるという利点がある。今回参加しているただ1機の岩龍改は、決して墜とされてはならない貴重な戦力でもあった。
「B班α−1よりB班β−1へ。タートル1機を撃破。これよりCWの捜索に‥‥あら?」
 同じく森の西に降下したβ隊のリヒトに連絡を取ろうとした陽子が、訝しげに呟いた。
 β隊からの返信がない。
 無線機の向こうからは、ただCWによるジャミングのノイズだけが響いていた。

 その僅か前――。
 α隊と同時に森の中へと降下し、やはりタートル1機と遭遇したリヒトは、一真の雷電、マリアのアンジェリカの援護を受けつつ、機槍グングニルで亀型ワームを撃破。さらにすぐそばに配置されていたCW1機を破壊していた。
 α隊の陽子機へ連絡を入れようとした、その矢先。
 べきべきっ――。
 樹木をなぎ倒し現れる巨大な影。
 迷彩塗装を施されたゴーレム――ただしその胸にはくっきりと「蟹座」の紋章が描かれている。
「‥‥ハワード・ギルマン!?」
『ほう‥‥その声には、いつぞや対馬島で聞き覚えがあるな』
 ジャミング下にもかかわらず、無線を通し低い男の声が妙にはっきりと伝わった。
 エース機ゴーレム、ゾディアック・カスタム――。
『罠と判って、わざわざ友軍を助けに来た度胸は誉めてやろう。度胸だけは、な』
 ゾディアック・ゴーレムは手にしたバズーカ砲を降ろし、素早く別の近接兵装に持ち替えた。一見刀の柄のようなユニットから伸びる、6mに及ぶ光の刃――バグア式レーザーブレード。
「貴方にとって‥‥敵とは何を指すのですか?」
『‥‥何だと?』
 斬りかかろうとしたギルマンの動きが、一瞬だけ戸惑うように鈍る。
 リヒトはすかさず煙幕銃を発射、僚機に後退を指示した。ギルマンを相手にするのはまだ先、タートルやCWを殲滅し仲間達と合流してからだ。
 ――が。
『甘いわ! 逃がすか!』
 煙幕を突破して追撃してきたゴーレムがレーザーブレードで刺突。リヒトのディアブロは一撃で機体生命の4割近くを削られていた。
 速い。その機動力はFRには及ばないものの、同じエース機ゴーレムでも対馬島で相見えた機体とはケタ違いだ。
「やむを得ませんね‥‥」
 抗戦の覚悟を決めたリヒトはブーストオン、Aフォースを乗せたグングニルで突撃。
 だがその渾身の一撃は紙一重でかわされ、レーザー剣の連撃を浴びたディアブロはその場にくずおれた。
「俺が時間を稼ぎます! マリアさんは海岸に後退して、A班と合流を!」
 代わって一真の阿修羅が前に出る。
 元より単独でギルマンとやりあうつもりはなかった。P−115mm滑空砲、長距離バルカンで牽制。何とか離脱のチャンスを作ろうと図るが、迷彩ゴーレムは魔性のごとく素早い動きで退路を塞ぎ、徐々に距離を詰めてくる。
「くそっ‥‥ソードウィング、アクティブ!」
 最後の切り札、ブースト併用のソードウィングで差し違え覚悟の斬撃を仕掛けるが、惜しくも届かない。
 半身で回避したギルマンがレーザーブレードを2度振い、阿修羅は黒煙を吹いて横倒しになった。
 それを見たマリアは後退を止め、逆にアンジェリカを前進させた。
「シモンは‥‥ここには来ないの?」
『誰だ、貴様は? ‥‥なぜあいつの名を?』
 それには答えず、マリア機は装輪形態に変形、最大戦速でギルマンに吶喊した。
 彼我の機動力を思えばまず逃げられない。
 中途半端な距離から砲撃しても、きっとかわされる。
「ブーストオン。‥‥SESエンハンサー起動」
 零距離射撃でレーザー発射、そのまま体当たりしてギルマンを止めるつもりだった。
 薄暗い密林に光の刃が一閃し――。
 切断されたアンジェリカの頭部が、地響きを立てて落下した。

●北部海岸〜ギルマンの逆襲
 KV3機を撃破したギルマンは、操縦席のモニターで戦況を確認する。
 密林内に残ったバグア戦力はタートルが2機、CW4機。
 ――あと5分も保てばマシな方だろう。
 ならば、自ら海岸に打って出て敵の主力を叩く。
 そう決断し、北への移動を開始した。
(「俺にとっての敵? ――馬鹿馬鹿しい。貴様ら人類に決まってるだろうが!」)
 リヒトから受けた問いかけが意識の片隅にこびりつき、ひどく男を苛立たせる。
 にわかに視界が開け、浜辺に出ると、既に配下の量産ゴーレム4機は自爆した残骸となり果てていた。

 密林から現れた5機目の迷彩ゴーレム。そしてその「蟹座」のエンブレムを見たとき、A班のKV各機はそれがギルマン搭乗の指揮官機であることを確信した。
「あれが噂のエース機‥‥?」
 フォルが口許を引き締め、汗ばむ手で雷電の操縦桿を握り直す。
 既に負傷兵の7割は輸送艦や空母へと収容されている。
 あとわずか。ここを凌げば、救出作戦は成功するのだ。
 事前の打ち合わせ通り、エース機対応を担当する王零の雷電、仁のディアブロが進み出た。他のKVも残りの負傷兵を護り、また2人を援護すべく周囲に展開する。
「毎度毎度こそこそと、もはや軍人ではなくただの野盗だな。嘆かわしいよ。ゾディアックの蟹座も文字通り地に落ちたな!」
 かつて幾度か刃を交えた王零の挑発を耳にし、仮面の内側で男は薄笑いを浮かべた。
 傭兵達の敵意を一身に浴び、却ってバグアのエースたる自覚を取り戻したからだ。
『ぬかせ! 俺は元々ゴーレム乗りなんでな。FRなんぞより、こちらの方がやりやすいわ!』
 嬉々としてレーザー・ブレードを振りかざし、雷電へと斬りかかる。
 王零機はその刃を受けるも、雷電の強大な装甲と生命はダメージに良く耐え、逆にジャイアントフィアーの刀身を回転させてゴーレムの機体を穿つ。
 ギルマンの意識が王零に集中した所で、背後に控えていた仁が素早く入れ替わり、ハイディフェンダーで斬りかかった。
「ギルマンか。あんたとはそれなりに因縁付いてきたな。とりあえず‥‥こないだの借りから返させて貰う!」
 だがこの一撃はエース機の素早い動きでかわされてしまう。
 王零と仁は引き続き連携を取り、ある時は2機が並んで壁となり、またある時は左右からの挟撃をかけた。
 しかしギルマンも手強い。ゴーレムのカスタム機としてはおそらく最高レベルの機体性能をフルに活かし、時には慣性制御も織り交ぜて王零と仁の攻撃をかわし、逆に2人の機体生命を削っていく。
「いくら装甲が堅くても傷が付いているところを狙えば!」
 一瞬の隙を見出した仁は試作剣「雪村」でゴーレムの腹部装甲を傷つけ、そこにブースト&Aフォース併用でハイディフェンダーの刺突を入れる。乾坤一擲の攻撃はギルマン機にダメージを与える事に成功したが、その代償としてレーザーブレードの3連撃を浴び、ついに力尽きて機能停止した。
「汝の業は我が全て貰い受ける‥‥迷わず落ちろ!! ギルマン!!」
『何の――まだまだっ!』
 残る王零がジャイアントフィアーを唸らせ激しく打ち合うが、彼の雷電にもかなりのダメージが蓄積していた。
 FRに比べれば落ちるとはいえ、ゾディアック・ゴーレムの高性能にギルマンの老獪なテクニックが加わり、徐々に押されていく。
『このへんで‥‥終わらせるか』
 外部装甲は傷だらけになりつつも、まだかなりの余力を残したギルマンがレーザーブレードを構え直した、その時。
 凜とした声が、無線機を通しゴーレムの操縦席に響いた。
「ギルマン、貴方の心が今どれだけ残っているかは知りません。けれど、貴方がかつて守ろうとしたものは‥‥わたくしが守りましょう」
 ――「夜叉姫」の陽子。
 強化型タートルに手こずりながらも残り2機を撃破し、密林から引き返してきたのだ。
 ちなみにミアは森の中で残りのCWを掃討中。那由他は機体大破したβ隊の3名を救出し錬成治療を施している。
(「俺の守ろうとしたもの? 何を言ってるんだ、この女は――?」)
「笑って下さっても構いませんわよ? わたくしは、今、この瞬間から『人類の守護者』を名乗ろうと思うのです」
 ――それは少女が己に課した決意。
 誰もが笑うその言葉を、現実のものと変えるための誓い。
 再び、ギルマンの意識が揺らいだ。
 泥沼の北米戦線。絶望的な抵抗戦のさなか、それでも人類の勝利を信じて塹壕の中から見上げた青空――。
(「違う! これは、俺の記憶では‥‥」)
 ゴーレムの動きがわずかに鈍ったその瞬間を、能力者達は見逃さなかった。
 この機を窺っていた京夜がロンゴミニアトの連撃を叩きこみ、最初の1発をまともに食らったギルマンが慌てて2発目を避けた先で――。
「幾ら慣性制御でも攻撃直後なら!」
 透夜のディアブロがブーストオンでヒートディフェンダーの一撃を加える。
『ぐっ‥‥!?』
 この連携攻撃が流石に利いた。
 ――機体損傷率、70%。
(「ば、馬鹿な‥‥敗れるというのか? このゾディアック・ゴーレムが!?」)
 インドでFRが墜とされた時は、まだ「シモンの不手際と練力切れによる不運」と己を納得させていた。
 だが今回は違う。充分な準備を整え、巧妙に罠を張り――「負ける要素など万が一にもない」と挑んだ一戦なのだ。
『ククク‥‥見事だ。貴様ら人間の方が‥‥よほど戦上手だな。我らバグアより!』
 ゴーレムの機体がFFとは異なる赤光に輝いた。
 特殊性能による一時強化。だが練力消費も大きいため、これを使うのはよほどの非常時に限る。
 ふいに機体を反転させたゴーレムは、密林の方角――「夜叉姫」の立つ、まさにその方向に向かって駆けだした。
「逃がしません!」
 壁のごとく立ちはだかった陽子が、差し違え覚悟でロンゴミニアトの刺突を繰り出す。
 機槍の穂先から放出された液体火薬の炸裂がゴーレムの脇腹を深く抉り、レーザーブレードの一閃がすれ違い様にバイパー改の装甲を切り裂く。
 ――が、ギルマンは慣性制御で加速したスピードを落とすこともなく、そのまま森の中へと逃げ込んだ。
(「あの小娘の使った戦法が‥‥こんな所で役に立つとはな」)
 やや複雑な心境でコンソール盤のボタンを押す。
 同時に、密林地帯の各所に仕掛けておいた煙幕弾が一斉に爆発し、ジャングル全体を白煙で覆い尽くした。

「‥‥‥‥」
 傭兵達はギルマンの逃げ去った密林を悔しげに睨んだ。
 追撃しようにも、こちらの被害もまた少なくない。
 被撃墜機4。王零の雷電もほぼ大破。
 比較的余力を残した他のKVも、損傷率は平均70%超。
 森の中から那由他が運んできたリヒト、一真、マリア。そして機体から救出された仁は、意識は失っているものの命に別状はなさそうだったが。
 ちょうどその時、「サラスワティ」の艦上から再び照明弾が打ち上げられた。
 ――救出作業完了のサインだ。
「とりあえず、作戦終了ですね」
 アイリスの言葉で全員が我に返り、ようやく任務達成の実感を噛みしめた。


 それから、およそ一週間後。
 負傷も癒え、喪失機体も代替機を貸与された傭兵達は、L・HのUPC本部に召喚され以下の辞令を受けた。

鷹見 仁
ミア・エルミナール
月影・透夜
リヒト・グラオベン
漸 王零
霧島 亜夜
アイリス
明星 那由他
月神陽子
緋沼 京夜
フォル=アヴィン
井出 一真

「諸君ら12名の健闘により救出作戦は無事成功、また撃墜には至らなかったといえゾディアックのギルマンを撃退、カメルの傀儡政権に人類側の断固たる意志を示した意義は大きい。この度の功績を称え、依頼参加の全員にUPC銅菱勲章授与、並びに褒賞金10万Cを贈るものである」

 UPC本部における授賞式の当日。
 連動作戦として参加した制空部隊15名を加えた計27名のULT所属傭兵に対し、賓客として招かれたプリネア王国皇太子、クリシュナ・ファラームが自ら勲章を授与した後、能力者達の功績を改めて称え、厳かにスピーチした。

「バグアとの戦いはこの先も続く。しかし今後いかなる苦境に立たされた時も、我々はあの遙かなカメルの渚に刻まれた歴史を思い返す事で乗り越えて行くであろう。――すなわち我々人類は侵略者の武力には決して屈しない事を。そして一般人であると能力者であるとを問わず、人類は決して同じ人類を見捨てない事を」

 そしてそれはまた、アジアに誕生した新たな脅威――親バグア国家・カメル共和国を巡る長い戦いの幕開けでもあった。

<了>