タイトル:頭上の脅威マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/29 01:20

●オープニング本文


頭上の脅威

‥‥ミシッ‥‥

「‥‥あれ?」
 頭上から聞こえた微かな音に、ヒマリア・ジュピトル(gz0029)は訝しげに顔を上げた。
 ここはラスト・ホープのULT兵舎。優に一万人を越すといわれる能力者傭兵達の生活の場であり、依頼以外のプライベート・タイムを過ごす安らぎの場でもある。
 その日、たまたまスケジュールの空いたヒマリアは、兵舎の自室でこの夏に海や山で撮影した記念写真を「思い出のアルバム」に貼って整理している最中だった。

‥‥ミシッ‥‥ミシミシッ‥‥

 作業に戻ろうとしたとき、再び頭上から物音が聞こえる。
 しかもさっきより大きく。
「地震かな?」
 そう思ったが、別に部屋全体が揺れているわけではない。
 物音は天井の辺りから響き、しだいにミシミシからギシギシと大きくなっていく。
 ――何か、ひどく重たい物が軋みを上げているかのように。
「な、何なのよぉ‥‥?」
 薄気味悪くなったヒマリアは部屋を出て、1階上のフロア、ちょうど自室の真上に位置する部屋を訪ねてみることにした。
「カミーラ・ヴェルド」という表札の名前をちらっと確認してから、インターホンのボタンを押す。
『‥‥誰?』
 若い女性らしき声が応えた。
「あのー、あたし、下の階に住んでるヒマリア・ジュピトルです。何だか、上からヘンな音が聞こえるんですけどぉ‥‥家具の移動でもなさってるんですか?」
『‥‥』
 間もなくドアが開き、20代半ばと思しき女性傭兵が顔を出した。
 黒髪を長く伸ばした面長の美女といってよい容姿だが、その顔色は青白く、どことなく生気がない。
「何もやってないわよ‥‥あんたの空耳じゃない?」
「でも、確かに‥‥」
 そういいつつ、カミーラの背後にチラっと視線をやったユピテルは愕然とした。
 部屋の中の間取りは兵舎の他の個室と同じ1R。ベッドやクローゼット、TV等普通の家具の他に、各種のSES武器や防具、アイテム類が置かれている。
 彼女も傭兵なのだから、それ自体は別におかしいことではない。
 問題は、そのハンパでない量だ。
 ソード、ファング、ロングスピア、ユンユンクシオにファルシオン――。
 お馴染みのショップ売りの武器から特別アイテムとして販売されているレア物まで、ありとあらゆる種類の武器防具があるものは床を埋め尽くすように、あるものは壁に立てかけた状態で積まれている。
 まだ未開封らしいダンボール箱が天井近くまで山積みになっている所から見て、表に出ているのはほんの一部なのだろう。
 そのまま中古の武器ショップが開ける――というか、ちょっとした軍基地の兵器倉庫だ。
 それらに混じって女物の衣類や雑誌、家電製品などの日常品が乱雑に投げ出されているが、とても人間の住む場所とは思えない。
(「な、何よ!? この部屋――」)
「‥‥とにかく、妙な言いがかりはやめてよねっ」
 唖然としたヒマリアの目の前で、無造作にバタンとドアが閉められた。

「よぅ、ヒマリアじゃねーか。どうかしたか?」
 廊下を通りかかった顔見知りの男性傭兵が、ドアの前で立ち尽くす彼女に声をかけてきた。
 事情を話すと、「‥‥ああ、カミーラの奴かぁ‥‥」と、いかにも訳ありな様子で顔をしかめる。
 彼の語るところによれば――。

 カミーラは1年ほど前にL・Hに移住した能力者のファイター。元々几帳面で努力家だった事もありめきめき腕を上げ、傭兵としての稼ぎも相当なものだったらしい。
 順風満帆だった彼女の傭兵ライフがおかしくなり始めたのは、つい数ヶ月前のこと。
 詳しい事情は不明だが、それまで交際し一時は結婚まで約束していた一般人の男性から、一方的に別れを告げられてしまったのだという。
 それからというもの、彼女は依頼も受けず、自室に引きこもりの生活を送るようになった。
 ただしこれまで稼いだ貯金があるので生活には困らない。それどころか、まるでストレスのはけ口にするかのごとく、ショップに注文してあらゆる武器防具をバカスカ購入し始めたのだ。
 といって実際に使うわけではない。
 要するに典型的な衝動買い、買い物依存症である。
 普通の女性ならブランド物の衣服やアクセサリなどを買いあさるところを、武器購入に走るあたりがいかにも傭兵らしいが。
 そんな荒んだ彼女の暮らしぶりを心配し、知り合いの傭兵やULT職員達も色々と忠告したらしい。しかし結局は、

『余計なお世話よ! 私が自分のお金で何を買おうが勝手でしょ!?』

 と突っぱねられてしまい、今では彼女の部屋を訪れる者さえいないという。
「‥‥とまあ、そういうこった。ま、貯金が底を突けば彼女も考え直して、売り払うなり何なりするだろうから‥‥それまでは本人の好きにさせとくしかねえなぁ」
「ふうん‥‥」

 男性傭兵と別れて自室に戻ったヒマリアだが、相変わらず天井からギシギシと響く異音を聞いているうち、名状し難い不安が頭をもたげてきた。
(「そりゃ、カミーラさんが自分のお金で武器や装備を買い集めるのは自由だけど‥‥あのままモノが増え続けたら、一体どーなっちゃうんだろ?」)
 SES武器の主材料であるメトロニウム合金が「軽くて丈夫な夢の金属」といっても、あれだけの量を集めれば優に車1台分くらいの重さにはなるだろう。
(「鉄筋コンクリートの建物だし‥‥一応大丈夫だとは思うけど」)
 ふと気になり、バスルームの換気口から天井裏に上って懐中電灯を照らす。
 その瞬間、ヒマリアの目に世にも怖ろしい光景が飛び込んだ。
「ひええっ!?」
 ちょうどカミーラの部屋の床下にあたる部分が大きくたわみ、今にも底が抜けそうになっている。もし本当に抜ければ、住人のカミーラもろとも大量の武器とゴミがヒマリアの部屋を直撃するのは必定だ。
「ジョーダンじゃないよ! 誰か何とかしてぇ〜っ!!」
 天空から迫る大隕石を見上げる恐竜になった心境で、ヒマリアは思わず悲鳴を上げていた。

 すぐさま兵舎を管理するULTに通報したところ、
「とりあえず本人に注意して即刻片付けさせる。ただし逆ギレして暴れ出されても困るので、万一に備え同じ能力者達に対応させる」
 ――との返答だった。 

●参加者一覧

御坂 美緒(ga0466
17歳・♀・ER
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
潮彩 ろまん(ga3425
14歳・♀・GP
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
忌瀬 唯(ga7204
10歳・♀・ST
真田 音夢(ga8265
16歳・♀・ER
天小路桜子(gb1928
15歳・♀・DG

●リプレイ本文

●突撃! となりの武器屋敷
「ヒマリア君‥‥きみの周りには面白い事ばかりだな。色んな意味で」
 と寿 源次(ga3427)。
「‥‥面白くありません‥‥」
「ある日突然、ヒマリアちゃんが武器とゴミに潰されちゃったら大変だもん、なんとかしなくちゃいけないよね!」
 と、潮彩 ろまん(ga3425)。
「イヤだなぁ‥‥そんな死に方」
「ふむふむ‥‥上の階に居る美少女と仲良くなるのですね♪ 楽しみなのです♪」
 と、御坂 美緒(ga0466)。
「いえその、美『少女』ってゆーには年齢的にかなりビミョー‥‥」
「そんなことより姉さん、いつまで僕の部屋に居座るつもり?」
「あんたは黙らっしゃい、テミスト!」
 姉のヒマリア・ジュピトル(gz0029)にピシャリといわれ、2つ年下の大人しそうな少年がシュンとなって黙り込む。
「困った時はお互い助け合うのが、姉弟の情ってもんでしょーが!?」
「それはそうだけど‥‥」
 いつ上階に住むカミーラ部屋の床が抜け落ち自分の部屋も巻き込んで崩壊するかもしれない危機的状況の中、とりあえず貴重品や身の回りの品だけまとめて兵舎を脱出したヒマリアは、現在一般人向けの学園に通う弟テミストの学生寮へと避難している。
 いきなり自室の半分を姉に占拠されたテミストも、ある意味で今回の「被害者」といえそうだが。
「まあまあ、2人とも落ち着いて」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)が窘めた。
「災難だったですね、ヒマリアさん。でも、カミーラさんにも同情すべきところはあると思います。幸せの絶頂からいきなり叩き落とされたら、誰だって何処かおかしくなっても仕方ないんですから‥‥」
 それまで付き合っていた恋人から理由も判らず一方的に別れを告げられたのだから、カミーラでなくとも平静ではいられないだろう。暴走されたりバグアに寝返ったりされなかっただけでも、まだマシというべきかもしれない。
 まあヒマリア姉弟にとっていい迷惑であることに変わりないが。
「今は心を安らげてあげることに専念すべきだと思いますわ」
「とはいえ‥‥僕ら友人でもない者が雁首揃えて説教や同情混じりの発言を繰り返しても、却って逆効果かもしれないね」
 と、首を捻る鯨井起太(ga0984)。
「どうしてその男の人は、カミーラさんと別れたのでしょう?」
 真田 音夢(ga8265)その件を気にしていた。
「‥‥一般人と能力者。もしかしたら、そこに隔たりがあったのかもしれません」
「能力者と一般人の恋」とはよく聞く話だが、同時に悲しい結末に終わることも少なくない。
 つまらない理由なら、それでもいい。だがカミーラ自身も、はっきりした理由も判らないままでは踏ん切りがつかないだろう。
 もし何か誤解や行き違いが原因なら、できれば2人のよりを戻してあげたい――音夢はそう考えていた。
「ところで天井裏の写真は撮ったのかい?」
「ええ、一応‥‥」
 源次に聞かれ、現場の証拠写真を取り出すヒマリア。
「うわぁ‥‥」
 写真を覗き込んだ全員が絶句した。
 いったい、何をどれだけ詰め込めばこんな有様になるのか? 仮に木造アパートなら、とうに建物ごと潰れている所だろう。
 ともあれ「カミーラの元恋人に会ってくる」という音夢を除き、一行は直接兵舎を訪れ対策を講じる事となった。
「じゃあ、さっそく武器屋敷にレッツゴー!」
 元気よく拳を突き上げるろまん。まあ1Rの個室なので「屋敷」というのも大仰だが。
 だが、そこでろまんはふと気づいた。
「今日も通販で届く荷物ってあるんじゃないかな? ボク達が行ってる間にもどんどん荷物届いて、その時出会った‥‥ってなったら大変だもん」
 普通なら「個人情報」として簡単には調べられないが、今回は武器の発売元であるULT直々の依頼なので、宅配を請け負う運送業者に電話で問い合わせることができた。

「そういえば来てますねえ。『大口径ガトリング砲』‥‥これからお届けに上がる予定だったんですけど」

 元々KV用に開発された兵装が生身用に仕様変更されたものだが、「能力者の体力をもってしても扱うのは一苦労」と評判の重火器だ。
 慌てて事情を話し、配送を差し止めてもらう。
「こりゃ事態は一刻を争うな。そのうち『巨大剣シヴァ』だの『巨大槌・魔王』あたりが届くかもしれん」
「やめてください。寿さん‥‥」
 ヒマリアはげんなりした顔で呻いた。
「とりあえず、これで元気を出すのです♪」
 と、恒例のふにふにでヒマリアの成長ぶりを確かめる美緒。
 ――当然、後でカミーラのそれと比較するためである。

●恐怖のゴミ兵舎
 ULTの兵舎到着後、源次はまず兵舎の管理事務所を訪れ、改めて詳しい事情を聞いた。
「いや〜、カミーラ・ヴェルドさんの部屋については、同じフロアの傭兵さん達からも『悪臭がひどいから何とかしてくれ』って苦情が来てましてねぇ。今月中に片付けてくれないようなら、いっそ依頼を出して強制的に立ち退いてもらおうかと思ってたところで」
 対応に出たULT職員が、申し訳なさそうに頭を掻く。
「ゴミはともかく‥‥武器類だけでも、何処か一時的に保管できる場所はないのか?」
 源次の質問に対しては、
「UPCが地下倉庫を無料で貸し出してますから、余分な武器は皆さんそちらに保管されてますけど‥‥しかし、1人であれだけの武器、必要なんですかねえ?」
「(ンなわけないだろ。もっと早く気づけよ‥‥)」
 内心でツッコミを入れつつも、職員から近場にある倉庫の住所を聞き、ついでに運送用トラックの手配も頼むと、源次は仲間達と合流すべくカミーラの部屋へ向かった。

「誰であれ『フラれた挙句、引きこもりになった』なんて境遇は恥ずかしいハズ。ましてやそれが顕著に現れている自室を見られるのには、女性であれば相当の抵抗があると思うよ」
 という起太の気配りにより、まずは女性陣が穏便に説得する手筈になっている。
「何よ? あんたたち‥‥」
 ドアの向こうから現れたカミーラは確かに「美人」と呼んで差し支えない容姿だが、その服装はヨレヨレのスウェットスーツ、長い髪もパサついてろくに風呂さえ入っていないようだ。
「あ、あのぉ、お話を聞いて頂けますでしょうか。別にカミーラ様を責めている訳では‥‥」
 丁寧な口調で切り出した天小路桜子(gb1928)はふと考え、チラっとヒマリアの方を見やった。
「‥‥若干名ほどカミーラ様に泣き付かれる方はいらっしゃいますけれど」
「あら? その子、この前の‥‥」
「ともかく、これをご覧頂けますか?」
 桜子の差し出した天井裏の写真を見て、カミーラもさすがに眉をひそめた。
「道理で‥‥最近、床が少し傾いてるような気がしてた‥‥」
 一応、自覚はあったらしい。
「ここで立ち話も何だから‥‥」といわれ、起太、それに後から来た源次の2人は外で待機、女性陣が室内に入って改めてカミーラと話し合う事に。
 足の踏み場もない――どころか、積み重ねられた武器ケースや未開封のダンボール箱の山のおかげで身動きすらままならぬ個室に一歩足を踏み入れるなり、ツンと鼻を突く据えた悪臭。
「これは‥‥想像、以上‥‥ですね‥‥」
 両手で鼻を押さえ、忌瀬 唯(ga7204)が顔をしかめる。もっとも体の小さな彼女は、こんなとき楽ではあるが。
 とりあえずお茶でも――とキッチンに向かった桜子は、「キメラ生産プラント」といわれても信じてしまいそうな台所の惨状を見るなり断念した。
「‥‥別に、悪気はなかったのよ‥‥」
 動かぬ証拠(写真)を突きつけられ、カミーラもようやく事の重大さを理解したらしい。
「ただ色々買いこんでるうちに、段々片付けるのが面倒になって‥‥」
「うんとね、自分のお小遣い好きに使うのはボクも勝手だと思うんだ‥‥でも、こんな狭い所に、ケースに入れられて山積みなんて、この子達が可哀相だよ」
 と、殆ど武器をペット扱いでろまんが諭す。
「自分でも変だと思うけど‥‥でも、いったん手元から離したら、みんな何処かに行っちゃうような気がして‥‥」
 そういうなり、両手で顔を覆い、シクシク啜り泣くカミーラ。
 彼女が「手放したくないもの」は、多分武器なんかじゃない――ヒマリアも含め、その場にいる女性達全員が何となく直感していた。

●君、去りて後
 その頃音夢は一人、クルメタル社のL・H支社を訪れていた。
 カミーラを知る傭兵達から話を聞き、彼女の元恋人であるルドルフがここに務めている事を突き止めたからだ。
「ULTの傭兵」といえば、クルメタルにとってもお得意様だ。「新型KVのウーフーについて詳しく聞きたい」といったら、アポなしで営業マンのルドルフ本人と会うことができた。
「‥‥彼女の事か‥‥」
 支社の応接間で、音夢からカミーラの名を聞くと、若いメガコーポ社員は表情を曇らせた。
「元気でやってるかい? きっと、今頃は同じ能力者の彼氏と幸せに――」
「あの‥‥何もご存じないのですか?」
 音夢からカミーラの現状を聞いたルドルフは、目を丸くして驚いた。
「いったい何で? 君ら能力者は超人――僕ら一般人なんとかとは桁外れのスーパーマンじゃなかったのか?」
 ルドルフの話によれば、2人がつきあい始めたのは約1年前、カミーラがL・Hに来てから間もなくの事。しばらくの間は甘い交際が続いたものの、ルドルフは会社の仕事が、そしてカミーラの方は傭兵業が忙しく、なかなか会う時間も取れない。
 しかも五大湖戦、欧州戦とバグアに対する戦果を上げるたび、こぞってマスコミが「人類を救うヒーロー」として能力者を賛美する(何割かはUPCのプロパガンダとはいえ)一方で、ルドルフ自身の業績は伸びず、いつまで経ってもヒラ社員のまま。
「とても釣り合わない。やっぱり、彼女は同じ能力者と一緒になった方が幸せだろう――そう思って別れたのに‥‥」
「‥‥能力者といえど、心まで強くなるわけではありません。いえ‥‥能力者だからこそ‥‥心を強く保たなくてはならない‥‥」
 音夢はルドルフに対し、不器用ながらも切々と語りかけた。
「貴方では彼女の支えにならないと思いますか‥‥? 違います‥‥。どんな武器よりも‥‥人の想いが支えになるのです」
 まだ中学生のような年頃の少女の言葉にじっと耳を傾けていたルドルフは、やがてポツリともらした。
「僕らは、まだ‥‥やり直せるんだろうか?」
「彼女を‥‥救ってあげてください」
 そういって、音夢は若者に頭を下げた。

●恋のビフォー・アフター
 ともあれカミーラの承諾を取り付けた傭兵達は、安全上の必要からも彼女の部屋の片付けに取りかかっていた。
「散らかった部屋にいると気分まで滅入ってきますものね。部屋を片付けたら、きっと気分もリフレッシュ出来ますわ」
 まず身の回りの品や日常ゴミについてはプライバシーの問題もあり、同性で年齢も近いクラリッサが仲立ちになる形で、カミーラ本人から必要なものとそうでないものを聞き出し、女性陣がてきぱき片付けていく。
「食べ物の容器とか‥‥ちゃんと捨てないと‥虫が出ますよ‥‥‥」
 唯のアドバイスにより、生ゴミを含め可燃・不燃・資源各種のゴミ袋を用意し手際よく分別していく。
 台所はキメラならぬ「Gの虫」の巣窟となっていたが、唯は臆することなく丸めた新聞紙で叩き潰し、そのまま広告用紙などでくるんでゴミ袋へ。
「これが‥一番確実で早いので‥‥それに虫を怖がってたら‥家事とか出来ないですし‥‥‥」
「波斬剣、殺虫スリッパ落とし!」
 ろまんもへっちゃらで、両手に持ったスリッパでバシバシバシと片付けていく。
「本命」である武器類の運搬には源次や起太も協力した。ただしこれも起太の気配りで、務めてビジネスライクに、引越し業者になったつもりで兵舎の外まで運び、ULTから借りたトラックに積んで地下倉庫へと収納する。
 作業の合間、予め差し入れ用のおむすびを用意しておいたのも起太だった。


 殆ど丸一日かけてゴミと武器を運び出し、ついでに掃除や模様替えも済ませると、カミーラの部屋は見違えるようにさっぱりした。床が中央に向かって大きく凹んでいたが、この修理費用は彼女自身が「要らない武器を売って弁償する‥‥」との事だった。
 まだ片付ける荷物は多少残っていたが、とりあえず一段落ついた所で本日の作業は終了とし、女性陣が綺麗に掃除したキッチンを借りて夕食を作り始める。
 食材は近所のスーパーから人数分を調達した。
「『他人の為に料理を作るのは素晴らしく良い事。作った料理を皆で食べるのはその次に良い事』と郷里の母も言っていました♪ それに、皆で一緒の事をしていたら気も晴れてくるですよ♪」
 そういって、美緒はカミーラも誘って一緒に料理を作る。
 その後はカミーラの気晴らしと一同の慰労も兼ねて、ささやかなホームパーティーが始まった。
 そのさなか、ヒマリアのポケットに入れた携帯が鳴った。
「ハーイ☆ あ、音夢ちゃん? どう、そっちの方の首尾は? ‥‥うん。うん」
 携帯を切ったヒマリアはニンマリと笑い、他の仲間達にも何事かひそひそ囁いた。
 それから一同でカミーラに向き直り、
「疲れたでしょ? 折角だから、先にシャワーでも浴びてきたら?」
「え? 今から‥‥?」
 渋るカミーラをバスルームへ連れて行き、身綺麗にさせた後は女性傭兵たちが総掛かりでドレスへの着替えと化粧直し(源次と起太はまた廊下で待機)。
 カミーラは、ついさっきまでとは別人のような美女へと変わった。
 ちょうどその時、インターホンのベルが来客を告げる。
 ドアを開けると、そこには音夢と一緒に、スーツ姿で薔薇の花束を抱えたルドルフの姿があった。
「久しぶり、カミーラ。その‥‥」
 最後まで聞かず、泣きながらルドルフの胸に飛び込んでいくカミーラ。
「残りの片付けをヒマリアに手伝わせて、今後のご近所づきあいもうまくいくよう、わざと途中で切り上げたんだけど‥‥どうやらその必要はなさそうだね」
 起太が苦笑いし、
「あっ! カミーラさんをフニフニして、お仲間か確かめるのを忘れてました。不覚なのです‥‥」
 元の鞘に戻った2人を微笑ましく見守りつつも、美緒はちょっと残念そうに両手をわきわきさせるのであった。

<了>