タイトル:三つ子の悪魔・再びマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/11 03:27

●オープニング本文


●ラスト・ホープ〜兵舎内喫茶室
「弟さん‥‥ですか?」
 渡された写真を眺め、高瀬・誠(gz0021)は訝しげに聞き返した。
 そこに映っているのは14、5歳の、要するに誠とほぼ同年配の少年だった。もっともどちらかといえば細身で内気な誠とは対照的に、体育会系のいかにもがっしりした体格と面構え。何だか空手か柔道でも習っていそうな雰囲気だ。
「いえ‥‥僕の知り合いじゃないですけど」
 そういって、テーブルを挟んで向かい合う若い女性に写真を返す。
 彼女もまた、誠にとっては初対面の相手だ。年の頃は二十歳前後、華奢で色白の女性だが、言われてみれば目鼻立ちに「姉弟」の面影がある。
 彼女は「稲垣・美雪」と名乗った。弟の名は「夏彦」だという。
「弟‥‥夏彦はあなたと同じ傭兵のファイターで‥‥つい2ヶ月前まで、この島の兵舎にいました」
「そういわれても‥‥能力者の傭兵だけで、このL・Hにはそれこそ1万人以上もいるんですよ?」
 誠自身、去年の暮れこの島に来てからもう8ヶ月以上になるが、実際に面識や交流のある能力者はL・H全体からみればごく一部に過ぎない。
「高瀬さんは‥‥つい先日まで、UPCからの依頼で九州へ行かれてたそうですね? それはひょっとして‥‥K村という場所ではありませんか?」
(「‥‥!」)
 誠は内心ハッとしたが、辛うじて表情には出さずにすんだ。
「今から2ヶ月ほど前‥‥弟から電話がありました。九州のK村で長期の依頼に参加するから、しばらく連絡がとれなくなるかもしれないと」
 稲垣家はキメラ災害で両親を喪い、今は姉弟2人だけ。両親の仇を討つため、そして病弱で就職できない美雪の生活費を稼ぐため、夏彦は姉の反対を押し切り能力者の傭兵になったのだという。
「それが1ヶ月前、UPCから『弟が任務中、行方不明になった』と連絡があって、見舞金の名目で銀行の口座にいつもの何倍もの報酬が振り込まれて‥‥でもお金の問題じゃないんです! 弟にいったい何があったのか――もし同じK村へ派遣されていたなら、高瀬さんご存じじゃありませんか!?」
 藁にも縋るような美雪の懇願を聞きつつ、誠は自分の顔から血の気が引くのを感じていた。
 稲垣・夏彦という名前、そして写真の少年にも全く覚えはない。
 ただし心当たりはあった。
 バグア軍の洗脳拠点となっていたあのK村分校。そして自分の前に調査員として潜入し、敵の捕虜になったというULTの傭兵――。
「ごめんなさい! 軍の情報部から受けた依頼の内容は‥‥外部の人にはお話しできない決まりなんです!」
 深々と頭を下げ、テーブルの伝票を取るなり、美雪の呼び止める声を振り切る様にレジへと向かう。

 兵舎の自室に戻った後、誠は電話器に向かい、震える指でUPC情報部直通のナンバーをプッシュした。

●九州〜壱岐水道上空
「壱岐島が解放されたおかげで、この空域も随分安全になったよなぁ」
「おい、気を抜くなよ。福岡には相変わらずバグアどもが居座ってるんだからな」
 壱岐の向こうにある対馬島に食料や武器弾薬を届ける輸送機部隊を護衛するUPC空軍S−01改のパイロット達が、互いに通信を交わし合っていた。
「判ってるさ。だからこうして俺たちが付いてるんじゃないか? とりあえず向こうについたら――」
 そこまでいいかけたとき、部隊に随伴する岩龍改から「未確認飛行物体」接近を報せる緊急通信が入った。この空域で未確認、すなわち友軍識別信号がないということは、ほぼ間違いなくバグア機だ。
「HWか? へっ、返り討ちにしてやるぜ!」
 S−01改8機がただちに旋回し迎撃態勢に入る。数km彼方にポツンと見える敵影はただ1機。あの厄介なCWの姿も見えない。
 だが接近してくるその輪郭を視認した瞬間、パイロット達は我が目を疑った。
 敵は1機ではなかった。
 真っ白にカラーリングされた小型HWが3機、三角形を形作る様に連結され、慣性制御でゆっくり回転しながら近づいてくる。
「み‥‥三つ子の悪魔!? 馬鹿なっ‥‥奴は、L・Hの傭兵に殲滅されたはずじゃ――」
 パイロット達の困惑などお構いなく、連結を解除したHWが3機に分離してKV編隊へと襲いかかる。
 爆発・炎上し、次々と海上へ墜落するKVと輸送機の黒煙が天を焦がした。

●L・H〜UPC情報部
「稲垣・夏彦の家族が高瀬・誠に接触したそうだな?」
 情報部将校、エメリッヒ中佐が部下の士官に問い質した。
「はい。高瀬も驚いていたようですね。何しろ稲垣には偽名を名乗らせて潜入させていましたから」
「とにかく、事が大きくなる前に稲垣家へ誰か人をやって、穏便に事情を説明させるように。といって、事実をそのまま告げるのも酷な話だが‥‥」
 潜入調査中、敵の手に落ち福岡へ拉致された夏彦の生死は未だに不明だ。救出作戦を行おうにも、現在ほぼ完全にバグア占領下にある福岡へ部隊を派遣するのは、あまりに危険が大きすぎる。
「やむをえん‥‥彼は任務中に殉職という扱いで‥‥」
 重苦しい表情で中佐がいいかけたとき。
 デスクの電話が鳴り、九州方面隊に常駐させている情報部員からの緊急連絡が飛び込んだ。
「‥‥何ぃ? 三つ子の悪魔が? そんな馬鹿な! 奴は、壱岐・対馬解放戦のとき確かに――」
 唐突に、電話の音声がノイズにかき消された。
 一瞬の沈黙の後、中佐の耳に届いたのは、まだ幼い少女のものと思しきけたたましい哄笑だった。
『バカはあんたたちよ! バグアのエースは不死身なの。地球人ごときに倒せると思って?』
「な、何者だ!? 軍用の特殊回線に割り込むとは‥‥?」
『どーだっていいわよ、そんなコト!』
 キャハハハ! という耳障りな笑い声。
『ひとつだけ教えてあ・げ・る♪ トリニティ。――それが彼の名前よ。今後、三つ子の悪魔なんて無粋な呼び方はしないことね』
 それだけいうと、もう用は済んだ、とばかりに電話は切れた。

●九州〜福岡上空
 輸送部隊を全滅させた3機の白いHWは再び合体すると、バグア軍春日基地上空に帰投した後もすぐには着陸せず、新しい機体をテストするかの様にしばらく飛び回っていた。
 その機内で、まだ中学生の様な年頃の逞しい少年がHWを操っている。
 ただしその表情は虚ろで、頭部や体の各所から伸びる何十本もの太いコードが、直接コクピットの機械に接続されていた。

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
潮彩 ろまん(ga3425
14歳・♀・GP
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
音影 一葉(ga9077
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

●九州〜UPC軍佐世保基地
 L・Hから飛来した傭兵達は、KVの燃料補給を済ませた後、パイロット待機所に集まり敵ワーム出現の報せを待った。
「三つ子の悪魔とやらは詳しくは知らんが‥‥トリニティ、か」
 眼鏡の奥で青い眼を光らせ、鋼 蒼志(ga0165)が呟く。
 彼のいう「三つ子の悪魔」とは、かつてUPC軍を脅かした、バグア軍エース機の俗称である。純白にカラーリングされた3機1組の小型HW――その正体は1機のエースとリモート操作されたダミー2機であった。
 だが3機とも壱岐・対馬解放戦において能力者の傭兵達に殲滅されているので、今回現れたのはパイロット・機体ともに全くの別物と見てよいだろう。
「どぉせなら『三つ子の亡霊』の方が相応しいかもね?」
 当時の依頼に参加した1人、聖・真琴(ga1622)はくすくす笑った。
 奴が「蘇った亡霊」というならそれも上等、何度でも地獄へ送り返すまでのことだ。
「私達が目指す敵は、あの新型よりも遥か先にいるんです。怖気づいてはいられませんね」
 音影 一葉(ga9077)が力強くいい、
「お空の平和を守る為にも、彼奴らの好きにはさせておけないもん!」
 つい最近、九州に出現した敵試作ワーム「タランテラ」討伐に参加した潮彩 ろまん(ga3425)も元気一杯に頷いた。
 隣に座る同い年の少年、高瀬・誠(gz0021)を見やり、
「誠くん久しぶり、今日は一緒に悪い宇宙人の円盤、やっつけようね! ‥‥ん? 浮かない顔してるけど、何かあったの??」
「あ、何でもないです‥‥ただ、電子戦機なんか乗るの初めてだから、つい緊張しちゃって‥‥でも大丈夫ですよ、シミュレータ訓練は充分やってきましたから」
 そういって笑って見せる誠だが、その笑顔にはどこか陰がある。兵舎を訪れた稲垣・美雪から見せられた彼女の弟、夏彦の写真が頭から離れないのだ。
(「敵の捕虜になった能力者‥‥突然現れたバグアのエース‥‥まさかとは思うけど」)

「もし、あの通信者が本当に『あの子』だとしたら‥‥この一件、単なる試作ワーム討伐では終わらないかもしれません」
 同席のリヒト・グラオベン(ga2826)が話題を変えた。
「あの子」とは他でもない、UPCの軍用回線に堂々と割り込んできた例の幼い少女。
「トリニティ」の名を告げたのも彼女であり、その言動からおそらく九州のK村分校に潜伏していたバグア工作員、結麻・メイ(gz0120)と思われる。
「あの声、やはりあの方の様ですね。となると今回の件は先の件と関係があるという事でしょうか‥‥いやな予感が致します」
 いわゆる「山の分校」事案として記録される一連の依頼にリヒトや誠らと共に関わった櫻小路・なでしこ(ga3607)も、不安そうに眉をひそめる。
「‥‥だから情報部のエメリッヒ中佐も、あの潜入調査にあたった僕を指名したんだと思います」
 例の分校にいた当時は「結城・アイ」の偽名を使っていた赤いリボンの少女を思い出しつつ、誠は答えた。
 問題は、メイの背後にあの「ゾディアック」メンバー、シモン(gz0121)の影が見え隠れする事だ。
 一介の傭兵である誠に最新鋭偵察機ウーフーを与え、可能な限りの敵機撮影を命じたエメリッヒ中佐もまた、同様の懸念を抱いていると思われた。

 同じ頃、緋沼 京夜(ga6138)と藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)はKV格納庫で搭乗機の最終点検を行っていた。
「メイの言葉、誰かさんが知ってる相手‥‥ヨリシロか」
 整備の手を止め、ふと独りごちる。かつて藍紗と共に「三つ子の悪魔」を討伐した京夜だが、それとは別の依頼でバグア軍兵器に生体コンピュータとして取り込まれたUPC軍捕虜の惨たらしい姿を目撃した体験がある。
 もしトリニティの操縦者が敵エースではなく、同様の捕虜だったとしたら――。
「――いや、どちらにしても解放するだけだ」
 顔を上げると、じっとこちらを見つめる藍紗と目が合った。
「トリニティ‥‥『三位一体』か‥‥ここは、我ら二人『一心同体』な絆の見せ所じゃの‥‥京夜」
 そういって、たおやかな指先を京夜に向けて伸ばす碧眼の少女。
「一心同体か‥‥藍紗と一緒ならどんな敵とだって戦える。行こう、何度甦っても必ず倒してやるさ」
 心の迷いを振り払い、藍紗と指先を絡めて互いに寄り添った京夜は、そのまま固く抱き合い口づけを交わした。

●逆襲の「悪魔」
『壱岐水道上空で強烈な電子ジャミングを探知。友軍輸送編隊からの通信途絶、敵ワームの襲撃と思われる!』

 佐世保基地オペレータから緊急通報を受けた傭兵達は直ちに各KVへ搭乗、次々とスクランブルをかけた。
 発進後間もなく、晴れ渡った空に撃墜された友軍機の黒煙が狼煙のごとくたなびく様が目に入り――。
 そしてその向こうに、悠然と浮かぶ「奴」の姿があった。
 白塗りの小型HW3機をクローバーの葉のごとく束ねた、異形の機体。
「‥‥まさに『トリニティ』というわけですね」
 阿修羅の操縦桿を握る井出 一真(ga6977)が、ゴクリと生唾を飲む。
「みんなで頑張って、トリニテ‥‥痛っ」
 雷電の操縦席で、つい舌を噛むろまん。
「むぅ、言いにくい‥‥ミツゴンでいいや、合体円盤ミツゴンやっつけようね!」
 突然、KV全機のレーダー・通信機能がダウンし、激しい頭痛が能力者達を襲った。
 予め高々度で待ち伏せていたのだろう。あの電子戦機CWが降下してくる。
 トリニティとKVを取り囲む様に、8機で大きく円を描いて旋回し始めた。
 誠のウーフーには強化型ジャミング中和装置が搭載されているが、残念ながら強化された新型装置を以てしても、CWが互いに増幅させた電子ジャミングに対しては殆ど太刀打ちできない。
 むろん、CWの妨害については傭兵側も折り込み済みだ。
 KV各機は事前の作戦に従い、二手に分かれてトリニティ、及びCW殲滅へと向かう。
 その機先を制する様に、トリニティが形態を変えた。
(「分離か――?」)
 傭兵達は思ったが、そうではない。合体状態はそのままに、クローバー型から串団子のような横一列に並んだのだ。
 直後、ワームの機体底部から炎と白煙が上がった。
 バグア製K−01ミサイル――しかも3連同時攻撃。
 CWのジャミングと怪音波により回避を大幅に削られたKV編隊に、計750発の超小型ミサイルの嵐が容赦なく襲いかかった。
 機体を揺るがす衝撃。無数の小爆発がメトロニウム合金の装甲を削る。
 緒戦で手痛いダメージを負ったKV部隊に対し、今度こそ3機に分離した白いHWが襲いかかった。
 通常の小型HWなど比べものにならぬ動きからプロトン砲を放ってくるHWに対し、対トリニティ班6機は各々2機1組のロッテ戦術で迎え撃った。
「ちぃ、さすがに速い‥‥! そっち、任せた!」
 ジャミングで誘導兵器が封じられているため、蒼志の雷電は主に127mmロケットランチャーで1機を牽制、ペアを組む南部 祐希(ga4390)に攻撃を託す。
 怪音波の頭痛に耐えつつ祐希は20mmバルカンで弾幕を張り、敵の隙を見計らってソードウィングによる近接攻撃を試みるも、慣性制御により易々とかわされてしまう。
 他の2組にしても状況は似たようなものだ。
 なでしこ機の前方に位置していた一葉は敵機の接近を目視すると、ハンドサインで僚機に離脱を指示した後、自らもラージフレアを展開した。
「回避準備です、ディスタン!」
 急速回頭から上昇を図るも、それでも被弾してしまう。
 どこまでがトリニティ本来の性能で、どこまでがCWのジャミング効果かは判らない。いずれにせよほぼ一方的に敵の攻撃を浴びながら、対トリニティ班6機は副兵装による牽制と回避に徹しつつ、友軍機によるCW殲滅までの時間を耐えるより他なかった。

「さぁて‥‥アンタの初陣だね。肩慣しと行こうか‥‥相棒」
 乗り換え後初の実戦となる自機ディアブロに言い聞かせ、対CW班リーダーの真琴は僚機を率いて蒼空に浮かぶ立方型のワームに向かった。
 リング状に広域展開したCWに対し、ウーフーを含む5機のKVが攻撃を開始した。
「コイツらのせいで皆が全力を出せないンだ‥‥さっさと片付けるよ!」
「ここで時間はかけられません。一気に決めます!」
 リヒト機がブーストをかけ、最も遠くに位置する敵機を狙い加速する。
 電子戦機としては恐るべき威力を発揮するCWだが、それ自体は兵装らしきものを持たず、また動きも鈍いので撃墜はさして難しくない。問題はジャミングと怪音波だが、ギリギリまで接近しロケット弾やバルカン砲等で攻撃する事により、辛うじて命中させることができた。
「こっちには、ウーちゃんも居るんだ、もうお前達なんか怖くないもん」
 ろまん機の3連装P−115mm滑空砲が火を噴き、1機、また1機とサイコロ型ワームの数を減らしていく。
 CWのが4機まで減ったとき、かなりの雑音混じりながら、何とか聴き取れる程度に無線が回復してきた。
「リヒト機、高瀬機、離脱! キッチリ記念撮影しといで♪」
 真琴の合図で、ウーフーと護衛のディアブロがトリニティへ向け方向転換。彼らの目的は敵新型ワームの近接撮影だ。
「翼が届けば、落とせるッ!」
 増設したブースターを派手に吹かし、一真の阿修羅がソードウィングで最後のCWを叩き斬る。これで傭兵側は、心おきなくトリニティに戦力を集中できる様になった。
「待ってろミツゴン、今ボク達も行くっ!」
『ちょっとそこのあんた、なに勝手に変な名前つけてんのよ!』
 ろまん機の無線に、突然怒ったような少女の声が割り込んできた。
 おそらく例のバグア工作員、メイだろう。
『あれはトリニティよ! わざわざ教えてやったでしょ!?』
「うるさい! あんなの、ミツゴンで充分だよ〜っだ!」
「周辺の索敵データ、回して下さい! 近くに敵の観測機がいます!」
 一真の通信を受け、誠が機能回復したウーフーのレーダーをチェックする。
「福岡方面、距離約10kmに機影‥‥中型HWです!」
 直ちに真琴機、ろまん機がブーストして要撃に向かおうとするが、その寸前、後方から激しい衝撃が両機を見舞った。
 いつの間にか接近していたトリニティの1機がK−01を撃ってきたのだ。
『ホラホラ。よそ見してると、墜とされちゃうわよぉ?』
 からかうようなメイの声。しかしそれ以上接近して来ない所をみると、本人は戦闘に参加するつもりはない様だ。
「‥‥ちっ!」
 真琴は唇を噛んだが、今は観測機の相手をしている余裕はなさそうだった。

 たとえCWの支援を失った後も、トリニティは手強かった。
「三つ子の悪魔」に勝るとも劣らぬ運動性でKVを翻弄し、プロトン砲やK−01の残弾を撃ってくる。
 だが傭兵側も、本来の機体性能を取り戻した事、対CW班の増援を受けた事で徐々に3機のHWを追い詰めていった。
「貴様が何であろうと――この螺旋の弾頭で穿ち破砕する!」
 蒼志が温存していた8式螺旋弾頭ミサイルを放ち、時間差をおき祐希もAフォースを乗せた同型のミサイルを叩き込む。
 別の1機に対し、なでしこのアンジェリカはリヒト機と連携を取り、それぞれ強化型帯電粒子砲とギガブラスターミサイルで攻撃。
 各機に被弾したためか、3機のトリニティは再度集結し合体を図る。
 その瞬間を狙い、一葉のディスタンが螺旋弾頭ミサイルを撃ち込んだ。
「合体分離で待ってくれるのは悪人だけって、TVの決まり事です」

●鎮魂
 爆炎に包まれ、トリニティを構成するHWの1機が墜落していく。
 しかし残り2機はそのまま合体し、双子円盤としてプロトン砲を乱射し続けた。
 合体状態だと防御は増す代り、運動性は若干落ちる――そう判断した傭兵側は、包囲を狭め一気に高命中・高威力兵器を集中する。
「どっちがホントの悪魔か‥‥試そぉじゃねぇの?」
 ニヤっと笑った真琴はブーストをかけ急接近、すれ違い様にソードウィングの斬撃で敵装甲の一部を切り裂いた。
「この真紅の翼とエンブレム‥‥しっかりと頭に叩き込んどけっ!」
「敵の動きがだいぶ鈍って来ました‥‥撮影を行いますので、援護をお願いします」
 僚機の同意を得た上で、誠がウーフーを敵ワームへ接近させる。一部の装甲が剥がれ内部の機械まで無惨に露出したトリニティを、ウーフー搭載のカメラで撮影し始めた。
 CW殲滅と同時に誠機とデータリンクを張ったため、その映像はそのまま各KVのモニターへも表示される。
「え‥‥?」
 彼らが目撃したのは異様な光景だった。
 双子円盤の一方、真琴のソードウィングに大きく切り裂かれた敵機体の一部。KVでいえばコクピットに相当するであろうその場所に、パイロットらしき人影が見える。
 だがそれは頭髪を剃られ衣服も身につけぬ少年の上半身であり、全身から伸びる大小のケーブルがHWの機体と直結したその姿は操縦者というより、半ばワームに組み込まれたパーツの一部だ。
「ちょっと‥‥何? あれ‥‥酷すぎる‥‥」
 真琴の口から、呆然とした言葉がもれる。
『よーやく気がついたぁ?』
 KV各機の無線に、メイの哄笑が響き渡る。
『そいつの名は稲垣・夏彦。ついこの間まで、あんたたちのお仲間だった傭兵よ? そんな姿にならない様、あんたたちもせいぜい用心することね』
 リヒトやなでしこは誠を案じて声をかけようとしたが、その前にウーフーから震えた声で通信が入った。
「撮影、完了しました‥‥作戦続行して下さい」
 京夜のディアブロ、藍紗のアンジェリカがロッテ編隊を組み前に出る。
 こんな状態になってもなおプロトン砲を放ち儚い抵抗を続けるトリニティに対し、G放電を放射してその足を止めた。
「眠れ――緋剣『レヴァンティン』――」
 雷光の残滓を切り裂き、Aフォースの赤い輝きを纏うソードウィングの一閃が疾る。
 ――そして、藍紗が最後の引導を渡す。
「亡霊よ、今度こそ迷わず黄泉路を往くがよい!」
 帯電粒子砲から放たれた光の矢が夏彦を直撃した瞬間、トリニティは全ての機能を停止、黒煙を引いて眼下の海面へと墜落していった。
 奇しくもあの「三つ子の悪魔」が没した同じ壱岐水道に――。

 メイのHWは、いつしか福岡方面へと飛び去っていた。

「敵に捕らえられたのは不幸だが、早期に撃墜されたのは幸い‥‥といったところかね」
 慰めるような蒼志の言葉に対しても、誠からの返信はない。
 佐世保基地に帰投するまで、少年は無言のままだった。



『なぜ弟だったのですか? 貴方でなく、弟が‥‥』
「‥‥僕は‥‥」
『ごめんなさい。高瀬さんのせいじゃないことは解ってるんです‥‥でも、こうでも思わないと、私‥‥』
 後は号泣となり、美雪からの電話は切られた。
 暗い兵舎の自室で受話器を握り締め、誠は俯いたまま、何時までもその場に立ちつくした。

<了>