タイトル:恐怖の遊園地へようこそマスター:天舞

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/15 23:31

●オープニング本文


 毎年、子供達の夏休みに合わせるようにやってくる移動遊園地。
 今年もやってきたそれは、常設のものと比べれば、子供騙しと言われそうな小さなものではあるが、子供達にとって楽しみなものである。
 そんな子供たちにせがまれてやってくる親達も、口では面倒だと言いつつも、子供達の笑顔を見て、子供の頃の気持ちを思い出す。
 それは、至福の時であり、新しい思い出を紡ぎ出す。
「パパ、あれに乗ろうよ」
「待ちなさい」
 目を輝かせた子供に手を引かれ、駆けて行く親子。
 そんな親子を見ながら、この移動遊園地のオーナーである老人は、また、至福の時を味わっていた。
 何十年もの間続けてきたこの仕事。
 どちらかと言えば、与える側。
 しかし、老人は、たくさんの物を与えられて来たと思っている。
 たくさんの子供達の笑顔、歓声。
 遊園地の中に溢れるそれは、老人の生き甲斐とも言える。
 一番人気のメリーゴーランドのチケットを売りながら、少しづつ、夕闇に染まっていく空を見る。
 と、アトラクションに灯る明かり。
 更に歓声が上がり、遊園地の中は、人々の活気で満ちていく。
「あっ、ピエロさんっ」
 子供の指差す方を見ると、風船を持ったピエロの姿。
 老人は、あんなスタッフがいたのかと首を傾げるが、従業員のパフォーマンスだろうと、後で誰かに聞く事にして、順番待ちをしていた女の子にチケットを渡す。
「きゃぁ〜〜〜〜〜っ」
 遊園地に似つかわしくない悲鳴が上がり、老人が顔を上げると、先程までピエロだったものの顔が、大きく裂けた口へと変わり、少女の頭を咥え込んだ。
 首の無くなった体が倒れ、地面に血が滴る。
 悲鳴は、パニックを誘発し、楽しい筈の移動遊園地は、即席のお化け屋敷と化した。
 尤も、作り物でないそれが与えるのは、恐怖ではなく、死、であるが。
 最後に救出されたオーナーである老人が最後に見たのは、我が物顔で、電飾に彩られたメリーゴーランドの白い馬に跨っている姿。
 逃げ惑う人々の悲鳴と相まって、老人の移動遊園地での記憶を侵食していくのであった。



「幸いにも、別の任務で訪れていた能力者によって、口裂けピエロの被害を最小限に食い止める事が出来たが、あくまでも、入場者が避難するまでの時間を稼いだだけの事。
 市街地に設置された移動遊園地の為、周りへの被害を考えると、重火器を使用する訳にもいかず、止めを刺すには至らなかった故である。
 目撃情報によれば、口裂けピエロは、最低でも2体はいるようであり、何故か、移動遊園地がお気に召したようで、他の場所には移動はしていない。
 しかし、何時、街中へ出て行くか分からない為、早急に、ピエロを、否、キメラを退治せよ」
 近くでの任務を終え召集された面々に、緊急の任務が伝えられる。
 考えている暇は無さそうである。
 それぞれは、頷くと、現場へと足を向けた。
 

●参加者一覧

ネイス・フレアレト(ga3203
26歳・♂・GP
テミス(ga9179
15歳・♀・AA
紫藤 文(ga9763
30歳・♂・JG
蓮角(ga9810
21歳・♂・AA
銀龍(ga9950
20歳・♀・DF
楓姫(gb0349
16歳・♀・AA
鴉(gb0616
22歳・♂・PN
巽 拓朗(gb1143
22歳・♂・FT

●リプレイ本文

 本来なら、笑顔と笑い声で溢れている筈の場所は、立ち入り禁止区域となり、キメラがその場所から出ないようにと監視する為の兵隊の姿が、異質の物へと変えていた。
 崩れかけた遊具が、物悲しさを誘い、キメラへの怒りを増長させる。
「こんなの遊園地じゃない」
 テミス(ga9179)が呟く。
「だから、私達が呼ばれたのよ」
 楓姫(gb0349)が、悲しそうな顔を見せ、テミスの呟きに答える。
「まさか2人が参加してるとは」
 紫藤 文(ga9763)が一瞬驚いた顔を見せ声を掛けるが、二人の悲しさと怒りの入り混じった表情を見て、顔を曇らせる。
 勿論、どんな依頼であっても、バグア、キメラ絡みなら、笑顔を見せる訳にもいかないが、幼い子供も犠牲になった、今回の事件では、お互いの技量を知っている事で、仕事のし易さは感じても、再会を喜ぶ事は出来ない。
「奴等には、罰を受けてもらわないと‥‥頑張りましょう」
「ええ‥‥奴らを派手に散らせましょうか‥‥」
 テミスの決意に楓姫が答えると、紫藤が頷く。
 と、今回の任務に着く他の能力者も到着したようだ。
 皆、一様に表情は固い。
 その胸に秘められた思いはそれぞれでも、根本で思う所は同じなのであろう。
「こんな風に使うもんじゃないんすけどね」
 巽 拓朗(gb1143)が遊園地の見取り図を広げる。
 見取り図と言うよりは、案内図と呼ばれる、園内で配られているもの。
 可愛らしいイラストが、この場にはそぐわない。
 しかし、そんな事ばかりを言ってもいられず、キメラの所在の確認と、未確認のキメラが存在するかの確認をする為に、それぞれの担当を割り振られる。
「それじゃ、これを渡しておく。あった方が便利だろ」
 鴉(gb0616)が、それぞれに渡す。
「すいません、無線機借りますね」
 テミスが手を伸ばす。
 それを握る手に力が篭もる。
「おいおい、壊すなよ」
 そう、鴉が茶化したように言うが、テミスが感じている事は、此処にいる皆が思っている事で、少しでも、肩の力を抜かせようというもの。
 それぞれが、無言で頷くと、遊園地へと入って行った。



「既知のモノと思われるキメラを確認。監視に入る」
 紫藤からの無線が入る。
「了解」
 テミスが答え、その旨をネイス・フレアレト(ga3203)に伝えると、
「この遊園地への被害を抑える為にも、キメラは少ない方がいいですね」
 そう答えが帰ってくる。
「そうですね。
 でも、目撃が無いとはいえ‥‥油断は出来ませんよね‥‥」
 辺りを警戒しながらテミスが答えれば、
「勿論です。この仕事、油断が命取りですから」
 ネイスも、同じように、辺りを警戒しながら答える。
 移動遊園地故か、元々、規模が小さいのか、それ程の広さかと思われたが、やはり、8人で探すには、広いものである。
 しかも、ワゴン販売が、あちこちにあったり、チケットを売る小屋があちらこちらにあったりと、隠れ場所は多く、チェックするにも一苦労である。
 決して見通しも良くは無く、それぞれが、死角を作らぬようにフォローし合いながら移動するのは、通常の移動の倍以上の時間を費やす。
「これ、血の跡ですよね」
「ああ、それ程新しくはないから、恐らく、此処でキメラが現れた時に襲われた人間のものでしょう」
 テミスの視線の先を悲しそうに見つめながら、ネイスは答える。
 職業柄、理不尽な死に立ち会う事はたくさんあった。
 けれど、当然、慣れる訳はなく、慣れたとしても、そう、自分に言い聞かせているだけである。
 此処が、戦場と言うものから、遠く離れた、子供達にとっては楽園とも言える場所だけに、その死は、勿論、どんな命だって重く、どんな死も尊いのではあるが、今まで感じた以上に、何か、やるせなさを感じてしまう。
 全ては、キメラのせい。
 そして、このような場所に、ピエロなどと言うふざけた姿形で送り込んだバグアのせい、と、怒りをキメラに向け、今は、未発見のキメラがいないか、探す事に全力を尽くす事とする。
 


「ここ何? 凄く楽しそうな場所。キメラ出ていい場所じゃない」
 銀龍(ga9950)が珍しそうに眺めながら、その中に、キメラの存在を探す。
「そうだ。本来なら、此処には、たくさんの子供たちがいる筈だ。夏休みだしな」
 蓮角(ga9810)が答える。
「絶対、許せない」
「その為にも、俺達は、キメラを叩き潰さなくてはならない」
 勿論、この場所に限らず、人の生活を脅かすキメラは、この地球上には多くいる。
 その全てを叩き潰さんばかりの怒りは、地面に転がる赤い靴を発見したからかもしれない。
 キメラに襲われた時に脱げてしまったのか、それとも逃げる過程で、拾う暇が無かったのか。
 せめて、後者なら良いと、願わずにはいられない。
 と、まだ、少し、距離はあるものの、メリーゴーランドに跨るキメラが確認できた。
 笑い声にも似た、甲高い奇声を上げている。
 あれが笑い声なら、喜んでいるのだろうか?
「あいつ‥‥あれは、子供達のもの。キメラのじゃない」
 言って、直ぐにでも、キメラ退治に向かいそうな銀龍を制し、蓮角が、鴉からの無線連絡を受ける。
「そろそろ、担当エリアを外れるぞ。メリーゴーランドのキメラは、俺が監視してるキメラだ」
 言われて見れば、探索からそれなりの時間か経ち、担当エリアの目標としていた遊具は目の前である。
「分かった。それじゃ、見つからないよう‥‥」
 勿論、慎重を期したつもりではある。
 しかし、無線を通しての会話が聞こえてしまったのか、一人なら感じない気配も、三人では気づいてしまうのか、キメラの能力は、何が特化しているか、戦ってみない事には分からない。
 ただ、今は、それを議論している場合では無かった。
 議論するならば、あのキメラ相手の戦い方である。
 遊具への被害を最小限に抑える為、本来なら、食べ物の屋台が並んだ広場へ誘導する筈だったが‥‥。
「攻撃しつつ、広場へ誘導するぞ」
 鴉の声が無線を通して聞こえる。
 そして、蓮角達とキメラの、丁度、中間辺りで、もう一度、声が聞こえた。
「下手くそピエロ。鬼ごっこでもしようか」
 ピエロが放った光の筋が、鴉の足元に突き刺さるが、余裕で避けたようである。
 まるで、鴉の方が、ピエロのように、のらりくらりと攻撃を避けていく。
 銀龍、蓮角が姿を見せれば、今までの攻撃では相手にならないと思ったのだろう。
 メリーゴーランドを降り、ゆっくりと三人へと向かってくる。
「このまま、誘導しよう。
 広場へ向かう方向なら、他のメンバーとも合流出来るだろうからな」
 蓮角は、無線を入れると、更に挑発するような行動を見せ、広場への道を進んだ。



「予定よりも早いですね」
 無線連絡を聞いて、楓姫が顔を顰める。
「仕方無いな。こっちも、探索を早め、合流するか?」
 巽も、同様に顔を顰め、恐らく、戦闘が行われているであろう方向を見る。
「ですね」
 戦闘の行方は気になるが、いるかどうか分からないキメラの探索を行うのは、戦闘中に不意打ちを食らう可能性を減らす為。
 そして、戦闘中に、市街へと向かう事をさせない為の作戦である。
 キメラ1体なら、三人で相手が出来ない事は無いだろう。
 今まで以上に神経を張り巡らせ、早足で探索を行う。
「結構、壊れてやがるな」
 常設の遊園地に比べれば子供騙しかもしれないが、小型のコースターの支柱が折れている。
 キメラの襲撃によって、壊れてしまったのだろう。
「キメラが暴れた割には、被害は少ないようには見えますが、これ以上の被害は、キメラを倒しても、営業を続けるのが難しいでしょうね」
「キメラを倒した後には、復旧も、手伝うかな」
「そうですね」
 そう言って、辺りを見回すと、再度、無線が入る。
 悪い知らせかと身構えると、テミス達の班の探索が終わった事を知らせるもので、楓姫達の状況で、紫藤が監視しているキメラの誘導を開始すると言う。
「こちらも、OKです」
 楓姫が、巽の頷きを見て、そう答えると、広場への道を進む。
 じきに、紫藤が監視をしていたキメラがいる場所へと着いた。
「‥‥ようこそピエロさん。命懸けのショーを楽しんでください‥‥」
 楓姫が、紫藤と対峙しているキメラに声を掛ければ、キメラの持つ殺気が、こちらへと向く。
「ピエロだかピエールだか知らないっすけど、やったことにはそれ相応の報いを受けてもらうっすよ!!」
 広場へと誘導するように、声で誘い、戦いと言う名の餌を掲げる。
 攻撃されれば、本能のように、攻撃で返してくる。
 人の形をしていても、やはり、キメラはキメラである。 
「こっちだ」
 楓姫が、巽より、広場に近い位置で、楓姫が声を上げる。
 その声に、一瞬、気を削がれた隙に、巽の剣が、キメラを傷つける。
 その怒りが、楓姫に向かい、それを、彼女は、軽やかに避けると、誘うように挑発する。
 と、広場で、派手な爆音と共に、キメラの叫びが聞こえる。
 それに呼応するように、キメラが叫び、三人を薙ぎ倒さんと突進してくる。
 それぞれが、それを避け、軽い攻撃を加えれば、目的地の広場はもう、すぐそこである。
 此処からが、本番。
 戦いの始まりである。



「来たね、もう一体。早く、こっち片付けなくちゃ。覚えたばかりだけど‥‥」
 もう一体のキメラの存在に気を取られた隙をつくように、銀龍は、二段撃を繰り出した。
 致命傷にはならなかったものの、足を止めるには十分であり、もう一体のキメラを誘き出す役割も果たす。
 広場の中央に、二体のキメラが、それを囲むように、能力者が陣形を組み直す。
 最初のキメラは、蓮角、銀龍、鴉によって、かなりのダメージを受けている。
 もう一体のキメラも、誘導の際に、攻撃を受けている事もあって、ダメージが見える。
 これが、大型のキメラならば、ダメージの度合いも図りかねるが、人型と言う事もあって、そのダメージを、人の外傷と捕らえるならば、分かりやすい。
 とは言え、何を隠し持っているか分からない以上、油断は禁物である。
「テミスさん、足を止めます」
 ネイスが、二体目のキメラへの攻撃を引き継ぎ、その足を止めるべく、疾風脚を放つと、
「あなたの壊した平穏、その命で償ってもらいます‥‥!」
 テミスが間髪入れずに攻撃を放つ。
 そこへ、巽が、畳み掛けるように攻撃を加えれば、キメラは、崩れ落ちる。
 それでも、怪しげな動きを見せる様は、やはり、異形のもの、キメラ故であろう。
 そこへ、楓姫が、
「‥‥子供の夢を壊すあなたは‥‥皆に討たれて地獄にいけ‥‥」
 そう目を据わらせ、止めを刺せば、断末魔が空へ上る。
「遊園地は楽しかったか? 地獄はきっともっと楽しいだろうよ。じゃあな!」
 同様に、蓮角に止めを刺されたもう一体も、同じように断末魔を上げ、命尽きた。
 元々の、個々の戦闘力を考えれば、周りに被害を与えないように、と言う制約さえなければ、難しいものではなかった。
 しかし、周りへの被害を与えないように、キメラを逃がさない為の的確な攻撃と、そして、子供達の夢を奪うようなキメラの存在への能力者達の怒りは、それ以上に、能力者達の戦闘力を向上させ、結果、キメラを倒す事となった。



「目撃された以外のキメラがいなかったのは幸いでしたね」
 戦闘を終え、アフターサービスと、園内の探索を終え、再度、広場へとやってきたネイスは、ほっとしたように言う。
 二体のキメラとの戦闘の場であった広場も、ベンチや屋台に被害はあるものの、キメラとの戦闘があった割には少ないと言える。
 探索の際に見た被害の状況は、専門家で無ければ分からないが、営業を続けられない事は無いだろう。
「それじゃ、修理の手伝いでもしますか」
 紫藤が言えば、
「銀龍が触ると余計壊れるかも。だから壊れたものを運ぶの手伝う」
「おうっ」
「私も、お手伝いしますよ」
 そう、テミスも言って、手近な所からの片づけを始める。
「えーと、これがこう‥‥あ、しくったっす」
「って、屋台直すのに、どうして、そうなるんですか‥‥」
 巽が壊れた屋台を直そうと手を掛ければ、元々、キメラとの戦闘で壊れていたのだろうが、崩れ落ち、呆れた顔の楓姫が目を瞬かせる。
 と、零れる笑い声。
 不謹慎かもしれないが、それこそが、この場に、一番似合うものだろう。
「皆様、お疲れ様でした」
 そう、掛けられる声。
 今回の依頼主である、園長と、スタッフ達。
「いえ、キメラを倒す為とは言え、こんな風にしてしまって」
「いいえ、これだけで済んだのは、あなた達の力です。
 これなら、完全にとは言わないでしょうが、直に、営業が開始できるでしょう」
「それじゃ、お手伝いを」
 皆が、そう言って、作業をしようとすれば、園長が首を振る。
「いいえ、此処からは、私達の仕事です。
 元々、これを組み立てるのも修理するのも、スタッフの仕事。
 ですから、此処からは、我々が行いますよ。
 宜しければ、直ぐに動く物に限られますが、遊んで行かれませんか?」
 そんな園長の言葉に、
「遊園地にきたの、銀龍は初めて。でも今度は遊びできたかったんだ」
 表情は、相変わらずではあるが、その言葉に、遊園地への興味を示したと思ったのか、是非にと、園長が笑顔を見せる。
「私も」
 テミスが、手を挙げれば、ニコニコと、園長が答える。
「ええ、存分に楽しんでください。他の皆様も」
「でも、お手伝いもせずに、俺達が遊ぶのは‥‥。
 早く、再開出来て、またここが子供達の笑顔で溢れたら、それが一番の報酬ですし‥‥」
 蓮角は、流石に、スタッフたちが作業していると言うのに、遊ぶと言うのは、気が引けるようであるが、
「いいえ、此処から、笑い声が聞こえれば、直に、子供達は戻ってくるでしょう。
 ですから、此処へ、笑い声を取り戻してくれたあなた達に、一番に、楽しんで頂きたいのです」
「それじゃ、楽しませて貰いますよ」
 鴉が、何かを伝えるように蓮角の、肩を軽く叩く。
 と、
「メリーゴーランド、動きますよーーー」
 そうスタッフの声が、奥から響く。
 そして、夕暮れと共に、平和の光が灯り始めるのだった。