タイトル:【少年の戦い】襲撃マスター:冬斗

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/14 13:58

●オープニング本文


 ――銀河重工支社のある研究所。
 そこに届いた一通のメールにより事件は始まった。

「襲撃予告?」
「中国の第十三研究所にメールが届いていたそうで」
 差出人はバグアを名乗っているそうだ。
「イタズラじゃないのか?」
 この手の軍事企業ともなればそういうものには事欠かない。
 イタズラメールが来る度に護衛を要請していたのでは取引でこける前に人件費で潰れてしまう。
「それが‥‥、
 こないだ湖南の研究所がキメラに襲撃された事件ありましたよね?」
「ああ、確かアレも銀河重工だったか」
「どうも‥‥その時にも同様のメールが予告で届いていたそうです。
 当時はイタズラと思われていましたが。
 文面は同じだそうです。勿論一般には公表されてはいません」
 一般に知り得ないメールが届いた。
 愉快犯である可能性は捨てきれないが、無視の出来るものでもないようだ。
「だからといって研究所を一日ストップさせる訳にもいかない。
 一流企業ともなると色々大変なようだな」
 作業が丸一日分遅れるだけではない。
 襲撃予告が外部に洩れでもしたら模倣犯も出るだろう。
 職員は不安を感じ、職務に支障をきたす。
 中には辞める者もいるかもしれない。
 それなら護衛を雇う方がまだ損害はマシというものだ。
「――どうあれ、要請を請けたんだ。人を遣わすしかあるまい。
 従業員が働いている研究所をまるごと護る。‥‥なかなか手間のかかりそうな任務だな」

 こうして、
 UPCから3チームの傭兵達が送られる事となった。

「‥‥しかし、予告して襲撃とはふざけた奴らだな」
「挑発‥‥ですかね、バグアもそんな事するんでしょうか?」



「3チーム募集か、ゴーセイだねぇ」
 初めにその依頼に目を通したのは少年傭兵・霧条カイナ。
「よし、オレ参加する。名簿に入れといてくれ」
 馴染みの受付嬢・シェリーに参加を申請。
「ちょっと、カイナ。傷は大丈夫なの? 前の依頼でも怪我したでしょ?」
「いつの話だよ。もうとっくに治ったさ」
 その言葉に偽りはないようだ。
 元々能力者達は回復力にも優れていると聞く。

「――でも、よかった」
 言うつもりはなかったけれど、
 元気そうな少年を見て、つい、零れた。
「悩みは――吹っ切れたみたいね。
 前よりいい顔してるわ」

「――そんな事ないよ。
 今でも悩んでる。
 許されちゃいけないって思ってるし、生きてていいとも思ってない」
 その瞳は、深く、暗く、
 15歳の少年のそれではなく、
 いや、15歳の少年がそのような目に遭ったからこその瞳なのか――。

 迂闊だった。
 触れるべきではなかったか。

「――けど、そういう風に悩んでるってのがいけないコトじゃないって、
 そう思えるようになってきたんだ。
 死ぬまで――いや、死んでも罪は消えないかもしれないけれど、
 それでもずっと背負っていこうって――」
 あまり前向きな生き方とは言えなかったけれど、
 でもその瞳には、力が宿っていて。

「だから――とことんやってみるよ、キメラ退治。
 差し当たってはこの依頼、よろしく!」

●参加者一覧

鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
篠崎 美影(ga2512
23歳・♀・ER
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL
絢文 桜子(ga6137
18歳・♀・ST
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
優(ga8480
23歳・♀・DF

●リプレイ本文

●3チームでの護衛任務
「アルファチーム9名・代表、篠崎公司です。宜しくお願いします」
 任務には10名未満の3チーム。
 篠崎 公司(ga2413)はチーム内の代表として、他チームの代表と挨拶を。
「ブラヴォーチーム9名・代表、ファビオ・ベレッタだ。宜しく」
 やや若い金髪の青年が握手を求める。
「チャーリーチーム8名代表、ライオネル・ハーパー。宜しくな、御二方」
 最後に赤みがかった金髪の男が自己紹介を終えた。

●アルファチーム
「お疲れ様です。公司さん」
 夫を労う篠崎 美影(ga2512)。
 夫婦揃っての参戦に、
「大丈夫かよ、その‥‥」
 霧条 カイナ(gz0045)が言い淀む。
『ここはイチャつくところじゃねえんだぜ』とでも決めたいのだろうが、
 まだ彼には大人の恋愛は早いようで。
「御心配なく。美影は信頼に足るパートナーです。公私共に――ね」
 軽くかわす大人な公司。
「カイナ様、野暮は宜しくありませんわよ?」
「ぐ‥‥」
 優しく諭す絢文 桜子(ga6137)。
 からかっているようにも見えるのは、カイナの反応があまりにわかりやすいからで、
 これでは本当にからかいたくなったとしても仕方無い。

「――それにしても」
 と、桜子。
「予告しての犯行とは何を考えているのかしら?」
 対応をされる事を承知で。
 あるとすれば――、
「威力偵察――でしょうか、此方の対応力を図っている――」
「なるほど。湖南は潰されましたからね」
 公司の推測に納得する優(ga8480)。
「なんだか随分と人間臭いやり方しますね。まわりくどいっていうか――」
 宗太郎=シルエイト(ga4261)は不快そうに。
 人間にとってバグアは無慈悲な侵略者に過ぎず、
 そこに『意思』を感じるのは決して気持ちのいいものではないだろう。
「親バグア派の人たちも関わったりしているのでしょうか‥‥?」
『人間的』という感想から九条院つばめ(ga6530)。
 なるほど、人間の敵はバグアそのものだけではない。
「どちらにせよ、嘗められるのはいい気分はしませんわね。
 向こうが『対応』をご期待なら、きっちりと返してあげませんと」
 鷹司 小雛(ga1008)は薄く笑う。
 挑発的に。
『やれるものならやってみろ』と。
 そして宗太郎も、
「同感です。
 湘南の二の舞なんて‥‥一小節も踊る気は無いですから、ね」

●全体会議
「こ、これだけ能力者さんがいると‥‥やっぱり壮観ですね‥‥」
 感心か、気後れか、藤宮紅緒(ga5157)。
 無理もない。
 総勢26名。
 通常の依頼ではまずお目にはかかれない光景だ。

「――坊ちゃん嬢ちゃんばかりじゃねえか。
 大丈夫なのか? そちらさん」
 チャーリーチームのライオネルが揶揄する。
 先天的に適性を持つ能力者達には性別や年齢は力量とは関係ない。
 それでも、外見による偏見を持つ者がいない訳ではなく。
「オッサン達が揃うと随分と強気になれるんだな?
 女子供は引っ込んでろって?」
 真っ先に突っかかるカイナ。
 言う事は尤もだ。仲間を庇う気概も見受けられる。だが――、
(「あなたがそれを言われますか‥‥」)
 苦笑気味の桜子。
『女と子供は戦いに出るな』
 それは以前彼も桜子達に言った言葉だ。
 いや、おそらくは今でも――。
(「矛盾――してますわね。護りたい気持ちと認めたい気持ち、本人も気付いていないのでしょうけれど――」)

「まあまあ、霧条様」
 優しく窘める小雛。
 だが、目は笑ってはおらず、
「そういうことでしたらライオネル様、お互い納得する為に――確かめてみますか?」
「―――!」
「ちょっ‥‥小雛さん‥‥!」
 息を呑む公司と慌てる紅緒。
 小雛は冗談で言っているのではない。
『仲間の名誉』それもある。
 だがそれよりも剣士の血。
 引かないのならば『それでもいいや』と思っていそうな獣の――、
「ああ、悪かった。侮辱するつもりはなかった。許してくれ」
 両手を上げ敵意のない事を示すライオネル。
「俺にも子供がいたんでな。つい心配しちまった。他意はねえよ」
『いた』
 それはつまり――。
 そう言われては剣を抜く事も出来ず。
「まあ、諍いはこれくらいに。
 傭兵達が集まれば喧嘩も起こる。これは挨拶代わりだとしておこう」
 ブラヴォーチームのファビオが中立の立場から場を収める。


「内通者?」
「ええ、
 予めバグアとコンタクトを取り、襲撃の混乱に乗じて研究所のデータを盗み提供している者――考え過ぎですか?」
 優の推測を話すかどうかは皆迷った。
 だが、自分達で全ての区域を見張る事が出来ない以上、相談するべきと判断。
 それに、意見を通すこと自体がチームとしての主張にも繋がる。
「――なるほどな。あながち的外れでもねえ」
 頷くライオネル。
 どうやら本当にアルファチームに対する侮りはないらしい。
「前回の湖南襲撃も酷かったが、全滅ではない。可能性は否定できないな」
 ファビオも同意。
 彼らのチームにも意見はまちまちだが、明確な反対は見られず。
「では、研究所内の職員にも警戒。不審な者がいれば即連絡という方針で」
 公司の下、意見は纏まる。
「杞憂かもしれませんが、注意しておくに越した事はないですからね」

●少年の変化
 班編成の後は公司が代表達と依頼主への報告に行き、
「よろしく、です。霧条さん」
 つばめをはじめ、他の8名は報告待ち。
「カイナでいいよ」
「えっと‥‥」
 やや困ったようなつばめに、
「――好きに呼んでいいさ。それよりなんか用? 自己紹介は済んだよな?」
 明朗快活なつばめとは対照的にカイナは素っ気無い。
「よかったらお友達になってくれませんか?
 周りが年上の方ばかりでちょっと心細いんです」
 そんな事ない。
 彼女には年上の友人が何人もいるし、以前依頼を共にした宗太郎や小雛とも多少なりとも気安くなっているようだ。
 だからこれは彼女の気遣い。
 たぶん、本人すらも意識せずに、孤独そうな少年に――。
「あ、あのっ‥‥わ、私も‥‥よかったら‥‥っ!」
 そこに紅緒。
「私‥‥歳は離れてますけど‥‥それでもよかったら‥‥っ!」
 気になっていたのは紅緒も同じく。
 以前、ミルウォーキーにて背中を預け合った彼女は、少年があれからどうなったのかと会った時から気にしていた。
 自分とは正反対に鋭く、
 自分と同じようにどこか危うげな幼い傭兵を――。
「―――」
 しまった、と紅緒は思った。
 拒絶されると、
 前回もそうだったように。
 だが、
「―――よろしく」
 ただそれだけ。
 けれど、それが拒絶でない事だけはわかった。
「は、はいっ!」
 驚きと喜びに戸惑う紅緒。
「頑張りましょうねっ!」
 当然のようににっこり笑うつばめ。
「――けどなあ!」
 カイナは語気を荒げ、
「無茶はすんなよ! 女に怪我させるつもりはねえからな!」
 それが照れ隠しであった事に気付いていたのは二人ともか――。


「‥‥以前会った時より、随分と雰囲気が柔らかくなりましたね」
 夜は3チームで交替。
 B班、宗太郎、桜子、カイナ。
 奇しくもカイナを知る者同士。
 その二人も花見の席で知り合った仲だとか。
「何か一つ、カタがつきましたか?」
 宗太郎はカイナに尋ねる。
 なんだろう――鋭さはあるが――なんというか、刺が抜けたような――。
「‥‥ついたっちゃ、ついたかな‥‥」
 照れ隠し気味にぽりぽりと頬をかく少年を桜子がくすりと笑う。
「『苦しまなきゃいけない』って――思ってたんだ。けど――、
 『苦しもう』って、そう決めたんだ。誰のせいでもなく。
 だから――」
 宗太郎は安心した。
 危なっかしいのは相変わらずだが、
 以前のやけになった脆さはなく、
「カイナ様」
 桜子は諌めるように、けれどあくまでやさしく、
「余りやんちゃをなさって怪我ばかり増えると、お友達が泣きますわよ?
 ――無論、わたくしもです」
「む‥‥」
 これで充分。
 危なっかしいのは相変わらずだが、
(「――なら、私達が守りましょう」)

●R指定?
 A班は公司、美影、
 そして――、
「あ、あの‥‥遠慮せずに仲良くして戴いて結構ですよ?」
 むしろ遠慮してる九条院つばめ。
 物怖じしない元気少女も大人のカップルの前には緊張するものか。
「いえいえ、今は仕事中ですからね。夫婦で参戦するからには傭兵としてのマナーも心得ておりますよ」
 さわやかに笑いかける公司に
「ちょっと寂しいですけれど大丈夫。家で充分仲良くしてくださってますから」
 と美影。
「こら、美影。九条院さんにはまだ早いですよ。言葉は慎みましょう」
 やんわりと公司が諭し、
「あ、はい。ごめんなさい公司さん。
 でも、子供相手にもしっかりしているんですね。将来が安心です」
「しょ、将来って‥‥!!」
 あわあわとたじろぐつばめ。
 精神衛生上たいへんよくないかも。
(「なんで三人一組にしちゃったんでしょう〜〜!」)

●はさみうち
 C班、小雛、紅緒、優。
「‥‥今回は大群のようです。
 望美だけではなく、ソーニャの出番もあるかもしれません。
 ‥‥ちょっと‥‥ワクワクしますわね‥‥」
「不謹慎ですよ。鷹司さん」
 優が呟く。
 バグアに恨みを抱く傭兵はここにも一人。
「あら、これは失礼」
「私や霧条さんをはじめ、他のチームや一般職員の中にもバグアに大切なものを奪われた人達はいます。
 あなたがどんな考えで戦おうと勝手ですが、場所は謹んでください」
「――心得ましたわ」
 きつめの口調に笑顔で返す小雛。
「あ、あの‥‥」
 たまらないのが、
「お、お二人とも落ち着いて‥‥」
 間に挟まれた小動物。
「あら、紅緒様」
「‥‥私は問題ありません」
 二匹の獣達はけろりと答える。
 そう、この二人は平気であろう。
「‥‥えっと、あ、わ、私コーヒー淹れてきますっ!」
 小動物はにげた。

「あうぅ‥‥」
 眠気をこらえようと用意したコーヒーだったが、
 皮肉にも全く逆の理由から朝が待ち遠しい。
「ううう‥‥意志を強く持たなくては〜‥‥」
 おおかみたちにたべられないように。

●二日目
「―――ッ!」
 超機械のモニタリングを行う美影と桜子。
「‥‥驚いた、随分と出力が上がっていますね。
 まさか、SESをいじった‥‥とか?」
 興味を隠しきれない美影。
「流石にそれはないです。スチムソン博士じゃあるまいし」
「ではどうやって――」
「企業秘密です」
 当たり前だがそこは明かされる筈もなく。
「これ、使う訳にはいきませんでしょうか? 護衛に」
 と桜子が提案するが、
「勘弁して下さい。試作でそれしかないんです。もしもの事があったら――」
 これも当たり前。桜子自身、駄目元の希望である。

「ん‥‥」
 同じく弓のモニタリングをしている公司。
「よければ『ブラインドテスト』という名目にしてもいいでしょうか?」
 ブラインドテスト――盲検法。
 音響機器などで広く使われる検証法で、端的に言うなら二つ以上の機材をどちらかわからないまま使わせる。
 それによって機材の真価を先入観なしで測らせる。
 この場合、
「そうすれば我々は自分達の武器を持ち歩きやすくなります」
「いいでしょう。そういう事なら是非」
「助かります。ここからはコンディションオレンジです。皆さん、警戒を厳重に」


 優の視点から感じた職員の感情は一つ。
 脅え。
 もちろん予告は洩れてはいない筈。
 しかし、
(「皆、薄々と気付いている‥‥いつキメラが襲ってきてもおかしくはない事に」)
『ここが』ではない。
『この辺の研究所全て』がいつ襲われてもおかしくはないのだ。
 湖南のように。
(「やらせはしません。絶対に――!」)
 滾るバグアへの憎悪を自身で律しながら、女は想いを秘める。

●当日
「きましたっ!」
 双眼鏡に初めに捉えたのはつばめ。
 飛来するのはキメラ、『ビートル』タイプ。
 湖南の時と同じ。
 その数――10。
「あ、あんまり何匹も来られると‥‥嬉しくないのですが‥‥」
 怯える紅緒。
「私達だけでは危険です。他チームにも連絡を!!」
「は、はい! ええっと‥‥
 だ、駄目です! 繋がりません!!」
「何ですって!?」
 公司も無線を試してみるが、通じず。
「電波妨害でもあるのか――拙いな、美影さん、藤宮さん! 2チームに!」
 電波が繋がらない以上、自分達の脚を使うしかない。
 戦力が落ちるのはいただけないが、ここで8人で耐え続けるのはもっと危険だった。
「わかりました!」
 夫婦の絆故か、美影の決断は早い。
「藤宮さんも!!」
「――っ、わかりました‥‥みなさん、お気をつけて」
 紅緒が走るのを横目に、
「――さて、いきますわよ。ソーニャ、出番ですわ」
 遠くの敵にエネルギーガンを構える小雛。
「皆様、油断なさらずに」
 役目の重さをかみしめる桜子。
 美影がいない今、回復役は彼女だけだ。
 そして、宗太郎の髪が金色に輝く。
「そう簡単にここを落とせると思うなよ! 一匹残らず焼き尽くす!」

●かみあう牙
「ファビオさん!」
 警報の鳴り響く中、ブラヴォーチームを見つけた紅緒。
「アルファチームは?」
「こっちです! 早く‥‥!」
 紅緒の導いた先には、

「はッ――!!」
 優の月詠がビートルの手足を斬り飛ばす。
 バランスを欠いたビートルに、
「―――」
 鬼気迫る小雛の剣閃がビートルを腹部から両断。
「やりますわね」
「油断せずに。次が来ます」

「‥‥息‥‥合ってんな‥‥」
 紅緒に話を聞いて心配していたカイナだったが、
「『喧嘩するほど――』ってやつですかね。二人ともなかなかのクセ者のようですし」
 言いながらカイナを支援する公司。
 そして、

「我流――」
 小雛が戦う為の力なら、
 彼のそれは守る為の――、
「偃月!!」

●裏切り
 研究所内。
 倒れ伏す傭兵達は皆チャーリーチームの面々。
 それともう一人、
「あうぅ‥‥」
 銀髪に覚醒したサイエンティストは自分が探した傭兵達と共に地に伏していた。
「――内通者、か」
 男は相手の手際の良さに感心する。
 洞察力と、判断の速さ。
「いいところまでいってたぜ、アンタの旦那だったっけ?」
 それと女剣士。
 バグアを憎む彼女はきっと自分を許さないだろう。

 内通者は――いた。
 だが『それ』に至らなかった理由は一つ。
 前回、『それ』はいなかったから。
「ああ、向こうにはいなかった」
「――まさか」
 美影は聡明に結論に至る。
「察しがいいな。
 そうだ。陽動はキメラ達じゃねえ。

『陽動』は『湖南の予告襲撃』だ」

 湖南が予告襲撃に遭えば、次の研究所は無視が出来ない。
 必ず護衛を雇う。
 キメラ達では研究所の殲滅までしか出来ない。
 だが、人間がいるなら、
 例えば研究中の新作の兵器のデータとか、
 つまり――、

「じゃあな。
 坊ちゃん嬢ちゃんに言っといてくれや。
『二度と会わねえ事を祈ってる』ってよ」

 そう言って、
 美影達を――自チームの7人ごと欺いた男、ライオネルはいち早く研究所を去った。


 ブラヴォーチームと共にビートルを退けた公司達が美影を発見したのはその30分後である。