●リプレイ本文
●実行委員集結
「カレーを食いに来た」
どんっ!
「カレーを警備しに来ましたわ」
どどんっ!
「‥‥どんだけカレー好きなんだお前ら」
夜十字・信人(
ga8235)と竜王 まり絵(
ga5231)のボケコンビにツッコミを入れるラーン=テゴス(
gc4981)。
来訪経験のある二人に案内を期待してたが、果たして頼りになるのだろうか。
「結構大きい校舎ですね。大きさならカンパネラより‥‥」
『その分内装は劣るけれど』という言葉を沖田 護(
gc0208)は呑み込む。
「その分内装はお粗末だけれどね」
心でも読めるのか、案内役の女生徒シンシア・モリスンが答える。
「来たことあるんですか? カンパネラに」
「え? あ、いや、その、ない‥‥けど」
水無月 神楽(
gb4304)の問いかけに何故か慌てるシンシア。よく見るとちょっと赤くなってる。
大体の察しがついた。報告書によると能力者に少なからず憧れがあるという。大方アニメに出てくるような特殊施設を勝手に想像したのだろう。
(「‥‥あながち間違ってもいないのですが」)
神楽はくすりと笑いながらも『ちょっと可愛いな』などと思うのだった。
――そういうところから要らぬ誤解を招くのだと思われるが。
「おかわりだ」
「おかわりですわ」
「‥‥お前ら大概にせーよ‥‥」
ラーンはうどんを啜りながら信人とまり絵に呆れ顔。
「つうかそんなに旨いか、このカレー?」
春夏秋冬 歌夜(
gc4921)の頼んだカレーを一口貰っての素直な感想。
「ん。美味しい、よ」
のんびり肯定する歌夜。
「マズかねえけどよ、フツーのカレーだろ」
ラーンが実家で舌が肥えている事を差し引いても特別な味とは言い難い。
「ふっふっふ‥‥わかってませんわね、ラーン様‥‥」
「この月並みな味がいいのだ。海の家のカレーと言えばわかるかな?」
「それむしろマズいだろ」
全国の浜茶屋に謝らなければならないことをさらりと言うラーン。
「――すみませんね、待たせちゃって」
いつまでも食って喋ってる仲間達の代理に謝る春夏秋冬 里桜(
gc4919)。
「ううん、大丈夫‥‥」
やや引きつりながら返事をするも、能力者達の変わらない様子に心落ち着くシンシアだった。
「――これでA区画は終わりね。残りは明日でいいかしら?」
傭兵達には事前に見取り図も渡されているので案内は簡単に済む。
「勿論‥‥学園祭の準備もありますから‥‥」
終夜・無月(
ga3084)の言葉にシンシアは少し照れたような申し訳なさそうな表情を見せる。
「ごめんなさいね。貴方達に迷惑はかけないようにするから」
『貴方達は警備に専念して』
そう言って別れの言葉を切り出そうとするシンシアに、
「それは‥‥頼もしいですね‥‥。
じゃあまず俺達は何をすればいいでしょうか‥‥?」
「‥‥え?」
「学園祭なんて久し振りですわ」
「カンパネラで慣れてますからね」
「リオ兄‥‥お願いね」
「仕方ないですね、歌夜君もサボっちゃ駄目ですよ?」
まり絵、護、歌夜と里桜も口を揃えてる。
「そういう事です。よろしくお願いしますね、リーダー」
「いや、あの‥‥!」
確かに傭兵達が実行委員の肩書きを望むから与えた。
でもそれは『学内を動き易いように』という方便なわけで――。
「大丈夫。『迷惑はかけないようにしますよ』」
神楽は極上の笑みでシンシアに応えた。
●各国の文化活動(一部偏りあり)
「ったりィよなァ、ガクエンサイなんざ勝手にやってろっつーの」
大学のキャンパスを思わせる広い校舎の一角。
何故か校則ですらないのに日本の学生服、所謂『学ラン』を着込む男子生徒達。
ズボン裾が詰めてあったり上着の裾が短かったり長かったりと様々な改造が施されているが、そもそもこの学校服装規定とかないので校則違反とかでもない。
同様の理由でメガ粒子砲でも撃ち出せそうなリーゼントも咎める者はいない――にも関わらず人目を忍びアウトローを気取る少年達。
「相変わらずだな、学園生活はつまらんか」
ジャリッ、とわざとらしいくらいの足音を立てて声をかける赤髪の男。
「ア、アンタは‥‥!!」
「山田サン!!」
九龍学園番長・山田信人。
夜十字信人のもう一つの名である――らしい。
「つまらないなら‥‥面白くすればいい」
山田が目線だけで『立て』と合図すると不良達は弾かれたように立ち上がる。
「――いくぞ」
「ど、どこへ‥‥?」
「学園生活を面白くしてやろう」
まり絵と里桜は調理室で作業中。
「‥‥どうですか?」
「駄目。美味し過ぎますわ」
鬼のまり絵の審査が飛ぶ。
「お、美味しいならいいんじゃ‥‥?」
不思議そうに尋ねる里桜を睨み付けるまり絵。
「春夏秋冬さん、なーーーんにもわかってませんわ!
いいですこと? 今回の出し物にはこの学園のカレーを来園者の皆様に知って欲しいという想いがありますの!
そして聞きます、この学園のカレーはこんなに美味しかったですか!?」
「い、いや‥‥その‥‥」
それが五杯おかわりした奴の台詞かというツッコミを口にするに彼は優し過ぎた。
「――でもこの美味しいカレーは勿体無いですわね」
どっちやねん。
「じゃあ学園カレーは作るとして別にもう一品いきます?」
「う〜ん‥‥旨いのと不味いのを出しても不味いのが残るだけですし‥‥」
自分で不味いって言っちゃったよこの人。
ちなみに学食の名誉の為に言うなら学食カレーが不味いという訳ではない。ちょっとチープな味わいなだけだ。
そして里桜のカレーが本気過ぎただけの――、
「それですわ!!
――春夏秋冬さん、アレンジ加えて戴けますか?」
笑みを浮かべるまり絵。
わるだくみをしてる顔だ。
「――っていう目にあったんですよ」
家庭科室で里桜はため息をつきながらちくちくと裁縫。
「へー、今度、食べに行こうかな」
「駄目です」
きっぱりと止める里桜。大切な肉親にあんなものは食わせられないとばかりに。
「それより頑張ってくださいね、ステージ。応援してますよ」
歌夜の衣装を縫いながら。
里桜がカレーを作っている間、歌夜は演劇部の公演に誘われていた。
『ボクのね、踊り、見て、『一緒にやろう』って‥‥』
幸せそうにはにかむ歌夜に里桜は微笑みで応える。
「素敵な学園祭になるといいですね‥‥」
神楽は女生徒達に頼み込まれている。
「お願いっ! 飾り付けやメニューは私達でやるわ。当日衣装を着てニコニコしてくれるだけでもいいから――」
人手が足りないというのだ。
出し物は――『執事喫茶』。
「質のいい男子が足りないの。バイト代は弾むわ!」
「はあ‥‥」
ため息ともつかない返事で応える神楽。
多分、自分はその『質のいい男子』に入っているのだろう。
(「気は乗らないけど‥‥無碍に断るのも悪いし‥‥」)
渋々と引き受けようとする寸前、教室の扉が乱暴に開け放たれた。
「神楽、来てくれ。お前の力が必要だ」
返事も待たずに山田信人は神楽の腕を掴み、廊下へ連れ出す。
一瞬の沈黙の後、教室からは黄色い歓声が響き渡るのだった。
「――少女‥‥漫画‥‥?」
手を振り解き、動揺を抑えながら怪訝に聞き返す神楽。
水無月神楽。20才手前、独身、――女性。
気のない相手にしろ、男性から妙な誘い方をされて全く動じない程にはスレてはいないつもりだ。
やや困惑しながら問い詰めた答えが少女漫画。
「漫研は押さえてある。だが俺だけでは駄目だ。お前の力が欲しい。協力してくれ」
矢継ぎ早に要請してくる。
それにしてもこの男、漫画を描くのか――それも少女漫画。
人は見た目によらないというか、いや、自分がそれを言える立場でもないか。
胸中で苦笑する神楽。
「何故僕が? 漫画なんて描くどころか読んだ事もそんなにないですよ?」
真面目一辺倒な青春時代だった。おそらく友人達の方がよっぽど漫画には詳しいだろう。
「経験など問題じゃない。センスが必要なんだ」
なるほど、女性観が必要というわけか。
正直、悪い気はしない。
「――という訳でお前ら、俺とコイツをモデルに漫画を描くんだ」
『――――は?』
不良達はおろか神楽まで間抜けな声をあげる。
「わからないか? カップリングだよカップリング!」
神楽の肩を抱く山田。流石に神楽も慌てる。
「ちょ、待ってください! 僕には心に決めた殿方が‥‥!」
しかし山田は怯まず、むしろ嬉しそうに、
「おお! やはりそうか! 心配するな、あくまで創作の出来事だ!」
「そ‥‥それなら‥‥」
しかし『やはり』とはどういうことか。
「どういう事ッスか? 山田サン」
不良達も素直に疑問を口にする。
「どうもこうもない。お前達、モテたいだろう?」
ニヤリと笑う山田。
「ならば女の趣味に合わせる努力をしろ! 俺達を描け!
こんな名言があるぞ!
ホ○が嫌いな女子なんて―――」
軽快なガラスの破砕音と共に
山田は空を舞った。
「わあ、綺麗」「可愛いー」
里桜の作った歌夜の衣装は演劇部には好評だった。
「良ければ皆さんの分も作ってきました。どうぞ使ってください」
歌夜が上手く溶け込めるようにと気を利かした結果だったが、
「素敵なお兄さんね、ありがとう。舞台のほうもよろしくね、歌夜ちゃん」
「うん‥‥ボク‥‥頑張る‥‥よ」
どうやら杞憂だったらしい。
「じゃあ見せて貰いましょうかね。皆さんの舞台を」
「‥‥‥‥うんっ! 見てて! この衣装で頑張るからっ!」
まり絵はカレーを一口啜り――、
「グッドですわ! ご苦労です、沖田さん」
「は‥‥はい‥‥」
まり絵のワガマ‥‥もとい職人的な要望に辛抱強く応えた護はようやくGOサインが出たかとへたり込む。
「全く‥‥春夏秋冬さんったら任務放棄とは‥‥兄バカにも程がありますわ! 敵前逃亡で銃殺です!」
「‥‥‥‥」
『どこに敵がいる』とかツッコめる元気は護にはもうなかった。
里桜が逃げ出したのは歌夜の為だけではあるまい。自分も逃げ出せばよかったかも。
「皆様に食べさせる気のない超難易度の辛口カレー! 甘口をお望みの方はどうかお帰りください!
皆様があまりの辛さに涙をぽろぽろ零すところが見たいのです!
題して、
『はらぺこのなく頃に』!!」
ドォォォン‥‥と備え付けのスピーカーから無駄なSEが流れる。まり絵すっごいドヤ顔。
(「‥‥あんまりうまくないから‥‥って言わない方がいいよなあ‥‥」)
無論コピーの事である。
(「‥‥さて」)
カレー作りを終えた護が校舎の外に出る。
疲れは精神的なもの。むしろ肉体の方は準備万端だ。
そこに先客がいた。
「よう」
赤毛の少女――ラーンだ。
小柄な身の丈に不釣合いなゴルフバッグを背負っている。
「準備万端ですね」
「これも実行委員の仕事だろう?」
そうかもしれない。
学園祭を無事遂行させるという意味でならば。
●裏方作業
覚醒する二人。
ラーンのチェーンソードが四足獣キメラの外皮を斬り裂く。
「練成強化、行きますよ!」
護の携帯用超機械がラーンの剣と護のナイフを緑の電磁波で包み込んだ。
「‥‥いい腕だ、やっぱりあたしらにゃこっちの方が似合ってるよな」
「さあ、どうでしょう? 僕はもうちょっとここの雰囲気を楽しんでも良かったですけどね」
皮肉気に笑うラーンに苦笑で返す護。
「しょうがねえだろ、出てきちまったモンはよ!」
「そうですね、これも僕らの仕事です」
喋りながらも剣戟の手を緩めない。
二人でキメラを挟み込みながらも、人気のない方へと誘導していく。
「無駄な広さだけは感謝だな。人目を気にせず戦える。
そこの角曲がったら頼むぜ、護。あたしのバイク置いてあるんだ」
その先へと敵を追い立てようとするラーンに、
「ラーンさん! 向こう、人がいます!」
「な!?」
護の制止も間に合わない。
キメラもその気配を感じ取り、曲がり角の向こうの獲物に牙を剥く。
「‥‥ッ、こんなとこにいるな馬鹿!」
悪態をつき、キメラを追うラーン。
「――それは申し訳ありません」
瞬間、
キメラと光が交差した。
だが、光が見えたのは護とラーンの二人だけ。
この場にもう一人人間がいたとしてもその光は視えなかっただろう。
視えたのは――その直後に噴き出す、鮮血。
光の元、男の持つ竹箒の変化さえ気付けやしまい。
「無月‥‥さん」
驚きと安堵の混じった溜息を護が漏らす。
「ありがとう、護さん。あなた方の誘導のお陰で先回りが出来ました」
「光栄です。ですが次からは打ち合わせありでお願いしますね――ッ!?」
無月の背後、血塗れのキメラが飛び掛ってくる。
(「タフさだけが取り柄というヤツですか――」)
振り返る無月も、庇おうと動く護も間に合わず――、
「――礼を言うぜ、無月。お前のお陰で着用の時間が出来た」
真紅の鋼鉄に身を包み、キメラの巨躯を真っ向から受け止めるラーン。
「‥‥やれやれ、俺もまだまだ修行不足ですかね」
無月の竹箒から二度目の閃光が輝いた時、
灰色の巨躯は今度こそ沈黙を守った。
●そして当日――
「このカレー辛過ぎー!」
「ふふふ、激辛の魔女・マリトリーチェのカレーはまだまだこんなものではありませんわよ?」
「‥‥語呂悪過ぎるぞその名前‥‥」
仕事を終えて、学園祭当日を迎えた8人。
シンシアは今日は学園祭を楽しむつもりらしい。
ならば自分達はお役御免の筈なのだが、何故かこうして居残っていた。
「このカレーで来園者達を屈服させなければなりませんからね」
「そして作るのは僕ですか‥‥」
「描くだけ描いて販売は人任せなのはプロの仕事だ。漫研ならばきちんと売らねばな」
「‥‥結局執事喫茶で働くことになってしまいました‥‥」
「ボクは今日が本番なんだもん! リオ兄、みんな、観ててねっ!」
「ええ、楽しみにしてますよ」
学園祭を支えた側としてそれぞれが仕事を残している。
「みんなすっかりやる気ですね」
「そういうお前はどうなんだよ、無月」
「――俺は『掃除』してただけですけどね、
それでも――」
無月は『巡回員』の腕章を身につけ、
「祭は最後まで参加しなきゃ嘘でしょう」
「――同感だ」
ラーンもそれに続いた。