●リプレイ本文
●GAKUSYOKU
「シンシアさん、お久しぶりです」
「セシリア! お久しぶり、歓迎するわ!」
シンシア・モリスン(gz0236)はセシリア・ディールス(
ga0475)との再会を心から喜ぶ。
「お久しぶりです。なんか随分と会っていなかった気もしますね」
「そ、そう? 気のせいじゃない?」
鐘依 透(
ga6282)の言葉に何故か挙動不審な素振りを見せるシンシア。
「お久しぶりですわ! が‥‥シンシアさん【喜】」
「『が』って何よ‥‥」
フライング気味な竜王 まり絵(
ga5231)。気のせいか目がカレー色に輝いている。
「お元気そうだなお嬢ちゃん。今日は他にもゲストを連れてきたぜ」
ツァディ・クラモト(
ga6649)が紹介したのは、
「あら、貴方‥‥」
「覚えてて‥‥くれたんだ‥‥」
忘れる筈もない。忘れた事なんてない。
「あの‥‥こないだは‥‥その‥‥」
「気にしないで。私の方こそ迷惑かけてごめんなさい」
そう言ってシンシアはリオン・ヴァルツァー(
ga8387)に微笑みかけた。
●隠・密・調・査
「ったりぃなぁ」
「マジでよ、バグアの連中好き勝手やりゃあがってよ」
校舎裏にたむろする絵に描き過ぎた不良達。
え? こんな不良いない? ここは疎開先外国人学校じゃないのか? 細かい事は気にしない。
「――相変わらずだな、お前達」
「あン? なんだテメエ?」
「あ、アンタは!!」
十字架を縫った改造短ランをクールに着こなす赤毛の美形。彼等はヤツを知っている。
「ち、ちィース!!」
「お久し振りッス、山田さん!」
「‥‥しばらく振りだな、我が母校。また宜しく頼む」
山田信人こと夜十字・信人(
ga8235)。いつからここがお前の学校になった、24歳。
「モクいりますか?」
「貰おうか。だがお前らはやめとけ。身体に悪い」
「す、すんません!」
もはや我が物顔である。
「さて、と‥‥お前ら。最近、何か面白いことは無いか?」
「チョリーッス! 俺即ちイケメンが学園に再・降・臨!
ね、ね、カノジョ達、俺っちがいなくて寂しかった? 哀しかった?」
物凄い悪目立ちをしている植松・カルマ(
ga8288)に透は頭を抱えずにはいられない。
「え? 『お前誰?』ひゃっはははは! ジョーダンキツいッスねェ! 新感覚愛情表現!?」
「カ、カルマさん、カルマさん、その‥‥自重‥‥」
「いやね、ガイアが俺に輝けと囁いているんスよォ!」
それ輝いてたのか。
「はー、ウサギがねえ‥‥」
「そんな‥‥」
初等部で兎の死を聞かされ、ショックを受けるリオン。
楽しみにしていた。再会を。シンシアと――可愛がっていた兎。なのに、
「お墓、作ってあるって。リオンさん、行こ‥‥」
透は優しく肩に手を置き、リオンを慰める。
「夏また来ましょーよ、盆にゃ霊が帰ってくるンスよ?」
あえて空気を読まないカルマの気遣いがちょっとだけ嬉しかった。
墓に行くとそこには先客。
「早かったな。悪い。墓参りの邪魔する気じゃなかったんだが」
「御門さん?」
御門 砕斗(
gb1876)。校内調査の数ならば間違いなく世界トップクラスのカンパネラ学園生徒。
学園調査はお手の物だったりする。
背には竹刀袋に愛刀・夜刀神。
墓前に手を合わせる4人。
砕斗はリオンの横顔を見て、一瞬躊躇う。
「砕斗?」
だがやはり話そうと、
「ここの子供達に聞いた。死んだ兎なんだけどな‥‥」
リオンを含めた3人がよからぬ気配を察する。
「――死体がなかったらしい」
「なかったって――」
「ちょっと待った。おかしくねェッスか? 死体がなかったなら『逃げた』とか言うんじゃね?」
意外と鋭いカルマ。
「鍵が壊されていたらしいからな」
「‥‥という事はその話‥‥」
砕斗の言わんとする事を察する透。
「ああ、教職員から聞いた。表向きは病死らしい。他言無用だとさ」
「‥‥生徒に不安を与えない為‥‥ですか。問題が起きればもっと拙いと思うんですけどね‥‥」
シンシアに校内を案内して貰うセシリア。
主に広場の方へ。彼女がバグアを目撃したというその場所。
「‥‥ここにいたんですか」
「うん‥‥その筈なんだけど‥‥ごめん、正直自信ない‥‥」
非現実的な出来事ほど時と共に風化する。『あれは夢だったのではないか』。
シンシアは二度(この件を含めれば三度)キメラを目撃した。
逆に言えば『たった二度しか』目撃していない。セシリアの十分の一、いや、百分の一にも満たない。
たった二度で見慣れるなど無理な話だ。それでも、
「‥‥信じますよ」
セシリアは確かにそう言った。
まり絵は職員側からIDを調査。墓参りを済ませた透も一緒だ。
「正直言って‥‥ザル‥‥ですわね」
確かに『ID管理』と謳うシステムとしては完璧とはとても言えなかった。
シンシアの使っていた外来用を初め、システムには随分と抜け道が多い。その手のプロである彼女等から見れば尚更だ。
「‥‥まあ、仕方ないんでしょうけれどね」
この学園の主たる存在意義はバグア被災地からの疎開先として。
入れ替わりが激しい為、関係者と部外者の区別が難しく、その為のIDシステムだ。
だがそのセキュリティを厳しくし過ぎると、今度は生徒達の受け入れそのものの手間がかかり過ぎてしまう。
「色々と面倒臭いんですのね‥‥仕方ありませんわ」
同じ言葉を二回呟き観念するまり絵。
「鐘依様、手分けして調べましょう。事件前後に絞ればカ‥‥お昼には間に合いますわ」
「そうですね、お昼はみんなとカツ‥‥情報交換ですからね‥‥」
おまいらなにしにきた。
●恒例行事
「ああっ、本当にお久しぶりですわ! 愛しのマイカレー!」
「泣くほどの事でもないだろう」
「そういう夜十字こそカレー頼んでいるじゃないか」
「山田だ」
「無理ないですよ。ここのカレー美味しいですから‥‥僕もカツカレー」
「なら俺も同じの貰おうかな」
まり絵、信人、透、砕斗の四人がカレーを囲んでいる光景におもくそドン引くシンシア。
「カ、カレー臭過ぎる‥‥」
「あれ? シンシアさんは食べないんですか、カレー?」
その小柄な身体のどこに入るというのかボリュームたっぷりのカツカレーを頬張る透。
「冗談。昼間っからそんなカロリー高いもの女の子が食べられるかっての、ねえ、セシリア?」
「‥‥はい?」
視線を向けた先には透よりさらに小柄な少女がカレーを上品に、しかし大胆に食していた。
「‥‥美味しいですよ」
(「能力者ってお腹減りやすいのかしら‥‥」)
「そうだぜ、みんな。シンシアちゃんの言う通りッスよ! 昼間っから五人でカレーたぁ情けねェッス!」
カルマはズズーッと実に日本人らしい音を立て麺を啜る。
「ここの学食はラーメンもイケるンスよ! カレーばっか食って嘆かわしい!」
そういう意味じゃねえ。
「ほほほ! ちゃんちゃらおかしいですわ、植松様。その道は既に午前中に通過致しましたッッ!!」
いや、駄目でしょ教職員。
「僕は‥‥今日はサバ味噌定食に挑戦してみる‥‥でもシンシア‥‥ホントに大丈夫‥‥? お腹痛くない‥‥?」
心配そうなリオン。
シンシアのメニューはきつねうどん。当然八人の中で一番少ない。まり絵や信人あたりからは三分の一程しかない。
「だ‥‥大丈夫‥‥大丈夫‥‥」
真剣なリオンを無碍には出来ず、彼等と付き合うにはまず胃を鍛えねばならぬのかとちょっと本気で悩んでしまうシンシアだった。
●二度目の目撃
(「こうして考えると‥‥お嬢ちゃんの目撃証言の信憑性ってのも侮れねえかもな‥‥」)
メールで皆の情報を確認するツァディ。
昼食時、彼は参加しなかった。携帯食品で昼を済ませる。シンシアのイメージからすると理想の傭兵かもしれない。まり絵はさぞ嘆くかもしれないが。
そうまでして(?)別行動をとる事には当然理由がある。
バグアの方が目撃者のシンシアに気付いている可能性が否定出来ない。
勿論、気付かれてるなら始末されている筈だ。だが、『始末されていない=気付かれていない』と楽観出来る程に彼等は事態を甘く見てはいなかった。
(「流石に本人には言えないがね‥‥」)
そうしてツァディは今もこうして寮の中のシンシア達を見張っている。
もし敵が彼女を見張っているのならこの付近にいるかもしれない。それを警戒すべく。
シンシアの部屋ではセシリアと小柄な金髪が室内の探索をしている。
「‥‥大丈夫です‥‥異常ありません‥‥」
「こっちも。問題なし」
「ありがと。セシリア、ソラ、助かったわ」
傭兵達に資料を渡しに来た柚井ソラ。ついでにと室内の調査を手伝わされた。
シンシアも鈍い方ではない。直接言われなくとも自分の立場が危うい事には気がついている。
だからこういう気遣いはとても嬉しかった。両方の意味で。
「外に信人待たせてるわ。一緒にお茶しましょう。私、漫画読んだことないのよね」
信人が少女漫画家と聞いて好奇心が抑えきれないようだ。
「夜十字さんにも手伝って貰えば良かったんじゃないですか?」
(「山田だ」)
信人地獄耳。
「あら、駄目よ。女の子の部屋なんだから。入るのはともかく男の子があちこち触るの禁止よ?」
「〜〜〜〜〜ッ!!」
ソラは自分が呼ばれた意味を今改めて理解するのだった。
(「平和だねえ‥‥」)
その騒ぎは外のツァディにも伝わり僅かに頬が緩む。
だが警戒は決して緩めない。
その証拠に雑木林の影に気配を感じる。
(「!!」)
そしてそれは向こうも同じようだった。
ツァディが気付くや否や、彼が動き出すよりも早く影が引く。
(「逃がすかよ――」)
気配を隠す必要はない。全力で追い縋る。
後ろ姿を捉えた、そう思った時、
「な!?」
人影が跳んだ。2mを超える塀を手を使わずに。
「‥‥‥‥!」
ツァディはそこで追うのを止めた。覚醒すれば自分も塀くらい跳べる。手と足をかければ覚醒せずとも越えられる。
だがそれでも踏み止まった。相手の行動の意味する所。
相手は普通の人間じゃない。いや、バグアである可能性が高い。
更にはシンシアの証言からキメラを連れている可能性もある。
一人で追うのは危険過ぎる。
(「‥‥勘に障るがね」)
「ツァディ!」
砕斗が気配に気付いて向こう側からやって来た。
周囲を見張る為にバラけていたのが災いした。
といっても固まって見張る訳にもいかず、それに上手くいけば挟み撃ちに出来る筈だった。あの派手な逃げ方は砕斗の気配に気付いたのかもしれない。
(「向こうさんが上手だったって事か‥‥だが収穫はあったぜ‥‥」)
ツァディの見た人影。自分より二回り以上小柄な――少年の姿。
シンシアから聞いたものと一致していた。
●闇夜の戦闘
ツァディの報告を元に調査を絞り込む。
シンシアの目撃、キメラの発見が共に夜であることから、リオンの友人に夜間装備を用意して貰い夜探索を決行。
友人に調べて貰った結果、彼等が学園に潜入した日から外部から怪しい動きは特になかったそうだ。
「やっぱり‥‥内部に‥‥いるみたい‥‥」
「ですね。シンシアさん、どうしても来るなら止めませんけど‥‥絶対に離れないで」
素直に透に頷くシンシア。
その数日後――。
――透とカルマのソニックブームが空を薙ぐ。
まり絵のエネルギーガンがそれをバックアップ。
AU−KVのない砕斗も遅れをとってはいなかった。
「3時と11時! 一匹ずつ来るッ!」
リオンの指示に暗闇の中襲うキメラ達に対処する4人。
「大丈夫ですか、みんな!」
「‥‥お前が大丈夫なのに俺が大丈夫じゃないって事ないだろ?」
「イケメンは死なねーんスよ」
「わたくしはレディですからみなさんに守って頂きますわ」
減らず口を叩ける余裕はあるようだ。シンシアに心配をかけまいとしているのかもしれない。
シンシアもそれを理解し、余計なことはしなかった。
悔しいけれど今は守られているのが仕事だと言い聞かせるように。
「‥‥いましたか?」
「いや、ってコトはそっちもか‥‥」
セシリアの通信に答えるツァディ。
キメラが襲ってきたということは指示をしている黒幕が近くにいると考えてまず間違いない。
キメラを置いて逃げるとは考えにくい。逃げる機会は幾らでもあった。
(「あいつらが持ちこたえてる間に奴さんを見つけ出す‥‥いる筈なんだ‥‥!」)
銃弾を躱す悪魔が闇を渡り翻弄する。
一対一で追い込まれるなど信人には滅多にない経験だった。
(「‥‥ちっ、自身を失くさせやがる‥‥!」)
愛銃マヨールーの威力は並のキメラを一撃で死に至らしめる。
だが装弾数僅か2発。尽きれば再装填の隙を狙われる。
「――サイレンサーが仇となったね。味方も呼べない」
背後から声がした。
「――ッ!」
信人のマヨールーと敵の青龍刀が同時に相手を捉えた。
助けは呼べない。大声を出す為に息を吸えば隙が出来る。
「‥‥撃たないのかい?」
「相討ち覚悟か? 悪くない」
「――そうしたら次の身体はキミのを貰おうか」
直後、エネルギーガンが青龍刀を弾く。
「!?」
一瞬の隙に信人は迷わず引き金を引いた。
サプレッサーを付けられた銃口から気の抜けた、しかし確実な死が迫る。
だが、その少年は首を捻りそれを躱した。
少年が体勢を立て直す。
それは信人との距離を離す事を意味していた。
少年の視線の先にはエネルギーガンの使い手・セシリアと、
「あんだけやり合ってりゃデカい音なくても気付くぜ、大将」
ツァディは確信する。この少年に間違いない。
「‥‥仲間を助けに行かなくていいのかい?」
「イケメンは助っ人いんねーんスよ。知らなかった、ボクちゃん?」
カルマ達5人。シンシアもいる。
包囲網を敷きリオンが告げる。
「キメラは全部倒したよ。後はキミだけだ」
●少年バグア
「何者だ、キミ達?」
「唯の通りすがりの学園生で――能力者だよ」
飄々と答える砕斗。
「最後に聞きたい。何故この学園を‥‥?」
それは純粋な疑問。シンシアに見つかった時点で何故口を封じなかったのか。
口封じも、逃げもせず。
「キメラの餌場と運動場」
「――ッ!」
予想していた答えの一つとはいえ、透は気色ばむ。
リオンも同じだった。その為に兎は――。
「初めはそのつもりだった。けど気が変わってね。キメラはキミらにけしかけたので全部だ。本当さ。
もうキメラは連れてこない。彼女も襲わない」
「信じろと‥‥?」
皆セシリアと同じ思いだ。
「今回のはキミらが手を引かないからさ。キミらを全滅させたとしても彼女は殺さないよ」
「何故‥‥?」
「ボクはこの学園を調べたいんだ。トラブルが起きて学園が維持できなくなったりしたら最悪だ」
「‥‥‥‥?」
一瞬だった。
数日前に見せたそれとは比べ物にならない跳躍力で少年は後ろに跳んだ。
「待て!」
「さっきのは本当だよ! この学園にもうキメラはいない! 安心していいよ!」
月夜に照らされた後、
闇に溶けるように少年は姿を消した――。