タイトル:続 ヒーローになりたいマスター:冬斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/20 14:18

●オープニング本文


「俺より強い奴に――」
 鍛え抜かれた拳が唸る。
「もう一回だけ会いに来たぁッッ!!」
 白い道着に赤い鉢巻が観客の声援を受け、雄々しくたなびく。

 新登場のアーケードゲーム『ストレートファイヤー肆(フォー)』の発表会である。
『スト肆』だけではない。日本を始め、あらゆる国のあらゆるメーカーの最新アミューズメントマシンがこの会場に集まっている。
 場所はラストホープ。『LHアミューズメントゲームショウ』。

 そして、ここには傭兵達の姿もあった。
 観客? いやいや、彼らは楽しませる側だ。
 例えば先程の赤い鉢巻の男、『ヒュウ』。
 彼もUPCの傭兵の一人である。
 まあ、正確には『ヒュウの中の人』となるのか。
 中の人はいるのである。ファンタジーやメルヘンではないのだから。
 だが、やはり観客はゲームキャラクターにはファンタジーを求めたくなってしまうもの。
 そこで能力者達の出番だというわけだ。
 覚醒した彼らの身体能力はアクションスターの比ではない。
 何より安い。ここ重要。
 問題なのは演技力。まあ、映画の撮影なわけでもなし。そこまで重要でもないのだが。

(「――でも熱演なんだよな。まあ趣味が高じてというやつか。好きこそものの上手なれ」)
 感心しているのは依頼仲介役の天爪竜斗。
 本来傭兵のやる仕事ではないと思っていたのだが、これがまた趣味人が集まる集まる。
 結果、こうして企業相手の依頼を受けるに至ったわけで。
 更には隣の会場では同じように新作アニメの試写会が行われている。
 そちらにも傭兵が何人か行っている状態だ。
(「キメラ警護にもなる。勿論向こうさんも期待してくれてるしな」)
 一石二鳥というやつだ。



「お疲れ様です」
 一仕事終えた傭兵達が労いをかわし合う。
 格好はコスチューム姿のままだ。脱ぐのがめんどいのか、結構気に入っているのか。
 ちゃんとした企業からの依頼なので衣装は相当本格的だ。
 ――だが、こんなことになるなんて誰が想定しただろうか。


「――はい、こちらULT‥‥え? キメラ出現? 大至急傭兵を寄越して欲しい?
 しかし、今空いている傭兵は――」
 いた。
 目の前に。
「皆さん! 緊急ですが仕事を依頼します! 乗ってください!」
 天爪が傭兵達を高速移動艇に叩き込む。
「え? 着替えですか? 時間が無いんです! 後々!!」


 艇内にて天爪が連絡を取っている先は、
「ええ、ええ。衣装はそのままです。緊急時なもので。
 一応そちらさんに報告はしておこうかと――は?」
 衣装は使い終わったら企業に返すことになっていた。
 もしも傷ついた場合の弁償などで移動中に報告をしていたのだが、
「イメージ? ちょ、ちょっと待ってください! 会場内にキメラが出た時の対応にはそんなことは――、会場内ではない? それはそうですが――」
 まさかこんな事になるとは思っていなかった。いっその事、事後承諾にしていればよかったか。自分の几帳面さが恨めしい。

「‥‥えー、皆さん。現地に着く前にお願いしておくことがあります。というか出来ました」
 仕方ない。これも仕事だ。
 傭兵達に怒られるのも自分の役目だろう。
「企業側から、会場の外でキャラクターのイメージを壊されるのは困るという要求がきました。その衣装を着ている以上はそれを守って欲しいと」
 我ながら呆れてしまう。これからキメラを相手に命をかける傭兵達を前に、

「要するに――キャラになりきって戦ってください」

 なんだこれは。正気か。
 ふざけているとしか思えない。

 だが、生真面目な天爪はまだまだわかってはいなかった。
 彼らの役者根性を、だ。

 ――傭兵達の瞳がどう輝いていたかはこの後の話。

●参加者一覧

相沢 仁奈(ga0099
18歳・♀・PN
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
鷹崎 空音(ga7068
17歳・♀・GP
リュウセイ(ga8181
24歳・♂・PN
神鳥 歩夢(ga8600
15歳・♂・DF
基町・走太郎(gb3903
16歳・♂・DG

●リプレイ本文

●会場にて
 黄色い歓声が舞い上がる。
 中心にいる栗毛の美少年。いや‥‥少女‥‥なのか?
「ごめんなさいっ、応援ありがとうございます!」
 華奢な身体をぴんと伸ばして頑張っているのは神鳥 歩夢(ga8600)。
 衣装は論争系剣客ゲーム『サムスィング・スピーチ』の少年哲学家、緋鳥閑夢。
『人は誰しも心に鬼を飼っている』というスピーチを得意としているとか。
「ごめんなさい、新作『天上天下最強伝説』よろしくお願いしますっ」


『――え? 緋鳥閑夢‥‥ですか?』
『ええ、サムスピの。あなたならハマり役だと思いますよ』
『それって‥‥男らしいですか? ボク、強い男とかに憧れてて‥‥』
『え? あ、ああ。まあ――強いかといえば――強いですよ、うん』


「ごめんなさい、これ特典DVDです。よかったらどうぞ」


『あ、演技ですけど、「ごめんなさい」を多用してください』
『――はい?』
『強引でもいいです。会話の流れとか気にしなくていいですから』


「ごめんなさい、こんなに観に来てくれてボク嬉しいです」
 作中でもここまで謝ってはいなかった筈だが――、
 黄色い歓声が舞い上がる。
 結構ウケているらしい。
 ツボに嵌ったのだろうか。
 歩夢にはわからない。


 一方隣のアニメ会場。
「ちょっとそこいく兄ちゃん姉ちゃん、寄ってらっしゃい観てらっしゃい。
 こいつを観なきゃあ人生損するぜ?
『天海突破アクアラセン』、人気御礼映画化だぜ!」
 上半身を裸になって胸にサラシを巻いた鏑木 硯(ga0280)が流麗な江戸っ子喋りで客寄せをしていた。
 演じているのはカミア。海底に住む人間達の村、クヂラ村の鼻つまみ者。暗く深い海の底から抜け出し、空の下で魚人達と戦う破天荒娘。
「いいか、お前ら?
 映画の出来を信じるな!
 映画の出来を信じる俺を信じろ!」
 近頃のキメラとの連戦のお陰だろうか。ぐっと男らしくなってきている硯。
 やっている役は女性なのだが。


 視察しながら天爪 竜斗(gz0059)は一言。
「うん、やっぱり女性のコスプレには華がある。神鳥に任せてよかった」
 彼は冗談の通じない人間ではない。
 だが、自分からは冗談を言わないし、ましてや独り言である。

 結局、彼は最後まで二人をアクトレスと思っていたとか――。

●キメラ襲来
「――という訳なんです。
 心苦しい事ですが‥‥」
 渋面の天爪。
 スポンサーに一番文句を言いたいのはこの男かもしれない。
 何故なら、

「ふえ? いいニャスよ?」
「望む所だぜ!!」
「なんだかわくわくしてきちゃう!」
 全く気にしていない傭兵達、相沢 仁奈(ga0099)、リュウセイ(ga8181)、鷹司 小雛(ga1008)。
 こいつらいつもこんなもんかも。
「フハハハ、愚かなるスポンサー共め。我輩に指図したつもりならば片腹痛いわ。
 我輩は既に頼まれずとも豚キメラ共を魔王の姿で蹂躙するつもりであるわ!」
「ふ、古河さん‥‥」
「たわけめ! 古河ではない! コガウザーだ!!」
 古河 甚五郎(ga6412)さんワルノリし過ぎ。大丈夫か?

「え、えーと‥‥そういう訳なんですけれど‥‥基町さん、大丈夫ですか?」
「モトマチ? ダレデスカソレハ?
 ワタシハバルカン――」
「いいですから! 脱いで休んでてください! 練力切れますよ!!」
 基町・走太郎(gb3903)は『多次元要塞メビウス』の主人公を演じていた。
 主人公『メカ』バルカンを。
 自らのAV−KVで。
 練力の著しく消耗するAU−KV。企業の用意したダミーと使い分けていたが、屋外パフォーマンスで少し無理をした。
 その直後に出動である。
 心なしか声に張りがないようにも。
「リョウカイデス。セーブモードニ――」
「ああもう!」
「ナニヲスルノデスカ、ヤメ――」
 現地についた頃には練力切れになりかねない。
 見兼ねて強引に脱がしにかかる天爪。

「おお〜、ゴツゴツと眼鏡の人のドキドキニャス〜」
「きゃあ! アテネわかんない〜」
「ほう、ところ構わぬその意気やよし。我輩も滾ってきたわ」


 現場には獣型キメラが四体。
 現地の軍人が対応するも能力者がいなくては焼け石に水の状態である。
「おうおうおうおう、よーく聞きやがれキメラどもっ!!」
 いの一番に艇から飛び出た硯。
「一度会場離れたからにゃ、負けねぇ、引かねぇ、振り向かねぇ!
 前しか向かねぇ、悔やまねぇ! ねぇねぇづくしの乙女意地!!
 泣く子も黙るアクア団のカミア様が相手になってやるから、そう思え!!」
 キメラに人語は通じないが、これをやらねば乙女がすたるとか。

「うっわ〜、オネーサンおいしすぎ。アタシも混ぜてよ」
 続いて緑色のジャージに身を包んだ少女、鷹崎 空音(ga7068)。
 アットホームな衣装だが、これもコスプレだったりする。
 家庭用ゲーム『仮面4』の畑中智恵。
(「もう、キメラも間が悪いヨ‥‥このまま戦うっていうのも、なんかちょいハズいし‥‥」)
 空音の心配は杞憂という他ない。
 何故なら、もっと恥ずかしい人達が沢山いる。
 いや、もっと恥ずかしい人しかいないからだ。

「――さ、行きますわよ、ヘレン」
 剣に小雛が名を囁く。
 現場に躍り出れば彼女は『鷹司小雛』ではない。
 ヴィクトリア王国の王女、アテネへと。
「アテネ、いっきま〜〜す!」
 そこにいるのは女子高生サイキッカーではなく、
 豊満な肉体を赤のビキニのみに包んだ美少女が剣と盾のみを頼りに戦場に躍り出る。
『アテネマックスバーニング』の主人公、王女アテネ。
 その格好のどこらへんが王女なのかという突っ込みは野暮というものだ。
 小雛の大きすぎる『それ』はいまにも零れ落ちそうだ。
 かなり際どい衣装なのだが、そこら辺が認められるのは企業依頼故か。
 厳しい時はとことん厳しいが、腹をくくれば同人的な活動よりもよっぽど頼れる。

 だが、
 残念ながら敵はキメラ。
 キメラが人間の色香に惑わされる訳もなく。
 そう、無意味だ。
 ――色香は。

「えええぃっ!!」
 小雛のソードがキメラの肉を深く抉る。
 振るわれる爪を左の盾で受け流した。
「‥‥あっぶない、防御が心許無いんだから気をつけなくちゃ」
 持ち前の剣技で立ち向かう。
 キメラ相手に色香は必要ない。その剣だけで充分。
 そう言わんばかりに。
 それでも胸は揺れるが小雛本人はあまり恥ずかしがってはいないようだ。
 本人の性格もあるが、
 もっと恥ずかしい仲間がいるからかもしれない。

●飛び交う変態共
 ――その瞬間、
 避難をしている一般人が湧いた。

 鳴り響く重低音のサウンド。
 そして、聴く者によっては酷く耳障りな歌声が戦場を支配する。

「夜目が覚めるとキメラがいて、LH焼いてたさ♪
 さあ出かけよう、バグアども殺りにさ♪」

「‥‥コ」
 次の瞬間
「コガウザーさんだー!」
「すげえ、魔王が降臨だー!」
「キメラもバグアもコガウザーさんの前ではただの経験値にすぎねー!」
 ノリいいなお前ら!? というか何故知ってる?
 実はULTで用意したサクラが混じってたりする。

「待たせたな、愚民共。我輩がトカゲ・コガウザー二世である」
『オセアニア・メトロニウム・シティ』通称『OMC』のリーダーであり、ギター兼ボーカルのコガウザーさん。
 名曲『KAKUSEI』と共に登場。
 トカゲの獣人姿に不自然な金髪を垂らし、マイクスタンドランスを武器にする。
 よくあったなそんな武器。

「自分はLHの能力者♪
 昨日は鉄クズ作ったぜ
 明日は飲料買ってやる
 支給品だけあればいい♪」

『支給品だけあればいい♪』
『支給品だけあればいい♪』
 なにこの一体感。

「‥‥あの、ふる‥‥コガウザー、アピールもいいが早くキメラを‥‥」
 似たような格好で獣人化した天爪。
 その隙を突いて襲ってきたキメラに、
「――はっ!」
 ベースにカムフラージュした斧を叩きつける。

「馬鹿か貴様はーーー!!」
「!!?」
 いきなりランスで天爪の頭をはたくコガウザーさん。
「おおーすげー! コガウザーさん仲間のリュギ様にまで容赦ねー!」
「コガウザーさんには味方さえも経験値にしか見えてねー」

「‥‥な、何を‥‥」
「貴様の攻撃のどこにメタルがあるか! もういい貴様は何もするな!」
「すげー空回りっぷりだ、流石リュギ様ー!」


「‥‥と、飛ばしてるニャー、デスメタな人‥‥」
 負けじと変な格好をしている割にはどん引きの仁奈。
 別に素になっているわけではない。
「乳の人もデスメタな人も恥ずかしいニャス。マオだけニャね、マトモなのは」
 溜息をつく『ヴァラーレッド』のマオカカ。
 なんのことはない。自分を棚に上げているだけだ。
 彼女とコガウザーさんにだけは非常識扱いはされたくないであろう。
「まあ、いいニャ。このままデスメタな人に秒速13回でスナイプされるのだけは勘弁ニャス」
 キメラの攻撃をかいくぐり、長袖に仕込んだベルニクスを一閃。
「スナイプするのはマオニャス。今夜はローストビーフニャよ〜」
 相手は牛型キメラではないが、細かい事は(以下略)

「協力しましょう!」
 仁奈のフォローに入る歩夢。
「ニャニャッ!? お肉はマオのニャよ!?」
「えっ? ご、ごめんなさいっ!」
 お前ら息合い過ぎだ。
「まあいいニャ。食べたいのなら一切れくらいはやるニャ」
 微妙にケチくさい。

 それをキメラがのんびりと見ている訳もなく、
「!!」
「ニャッ!?」
 キメラの吐く紅蓮の炎が二人を包み込んだ。

●集う魂
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ、コスプレせよと俺を呼ぶ!」
 高らかに叫ぶリュウセイ。
 衣装は『スーパーロボットウォーズ』。記憶喪失の主人公バイオウガ。熱血系だ。リュウセイだけに。
「ちょいなぁっ! ってな!」
 キメラにバスタードソードの一撃を叩き込む。
「じわじわといくのがヒーローのお約束! だが時間がねえ、一気に片をつけるぜ!」
 一番空気の読めなさそうなキャラが実は一番空気を読んでいる。
「まずは気合!!」
 覚醒したリュウセイの身体から炎のオーラが吹き出す。
「そして熱血! 必中! ――最後に覚醒だぁぁぁぁ!!」
 もう覚醒しとるだろうと言うなかれ。
 彼は能力者として覚醒したわけではない。
 ヒーローとして覚醒したのだ。
 覚醒したリュウセイのスピードは常時の二倍。
 彼が二倍と言ったのだから二倍なのだ。
 彼は練力の全てを費やし一撃にかける。いや、正確には二回攻撃か。
「ハートに一刀両断ッッッ!! 意味不明? んなこたぁ関係ねぇぇぇ!!」
 努力も使っているので経験値は二倍だろう。
 その一撃は――、

「きゃっ!?」

 赤いビキニから零れる小雛の双丘。それを目の当たりにし、
「!?!?!?」
 溜めた気力と熱血と必中と努力と幸運は――真っ赤な奔流となってリュウセイの鼻から飛び散った。

 精神が極楽へと旅立ったリュウセイに肉体の方も同じ所へ送らんとキメラの牙が襲い掛かる。
 そこに、
「待て待て待てそこのキメラ! 俺を誰だと思ってやがる!」
 それで止まるキメラではない。
「俺を誰だと思ってやがるスラァァァッシュ!!」
 だが、蛍火の一撃は別だった。
 間一髪でリュウセイを救った硯は、キメラを無視し、傍にいる走太郎に話しかける。
「ツラいか? ノウテン」
「バルカン‥‥デス」
『ノウテン』はアクアラセンの作中のロボットの名称である。
「そうかノウテン。ツラいのは仕方ねえ。ロボにも人間にも限界はあらぁな」
 高速艇の休憩は気休め程度にしかなってはいなく、
「だがなノウテン! ロボにだって気合はあるはずだぜ! そして気合は限界を突破するんだ!!」
 握り拳で語る硯。
「わかるか!? 乙女は理屈じゃねぇんだよ!!」
 その言葉がバルカンに届いたのかは判らない。
 だが、
「ワタシハノウテンデモオトメデモアリマセン。
 シカシ――」
 走太郎は残り練力を振り絞り、
「バルカン、サイキドウシマス」
「おおよ! キメラ共に見せつけな! お前さんの底力をよ!!」
「バルカン、バトルモードトツニュウ」
 竜の爪と竜の鱗を発動。残った練力のほとんどを費やす。
「ノコリキドウジカン、10プンデス」
「馬鹿野郎! 乙女の気合は無限大だ!!」
 二人の刃がキメラを斬り裂く。
 メビウスはリアルロボット系なんだが‥‥ファンの人達、怒らないで欲しい。

●タイツ同盟
「必殺!!」
 疾風脚を使った空音の蹴りがキメラに炸裂する。
「考えるな、感じるんだ‥‥ってね!」
 スピードでキメラ達を翻弄するも、蹴り技はフォースフィールドを破れない。
(「やっぱり‥‥ね、そろそろいこうかな」)
 空音がそう考えている時、

「すげー、なんだあれはー!?」
「きっとあれはコガウザーさんの恥辱プレイだー!」
「味方を嵌めるとはなんて恐ろしい人なんだー!」

「??」
 古河用のサクラがこっちを見て何か言ってる。
 そういえば何か息苦しいような。頬にはなにか糸のようなものが当たって――、
「げげっ!?」
 智恵のコスプレをしている空音は当然戦闘時には眼鏡をつけていた。その眼鏡が――。
「フハハハハ! 我輩のすり替えた鼻眼鏡をまんまと着用したようだなあ!」
 勝ち誇るコガウザーさん。なにがしたいんだあんたは。

「――こんの!!」
 鼻眼鏡をむしりとる空音の背後をキメラが襲う。
 爪が緑のジャージを引き裂く。
 ジャージとスカートが布切れと化す。
 そして――、
 黄色いスーツに身を包み刀を携えた仮面の女が。
 言わずもがな、空音である。
「おぉ! 智恵の正体はトモエゴゼンだったのかー!」
 空気読みすぎなサクラ達。
(「へへっ」)
「流石はコガウザーさん! 人間以外でもモノにしちまうとは!」
(「なんでそうなるのよっ!」)

●がんばれおにゃのこ
 炎に包まれた仁奈と歩夢。
 炎が止むと、そこには真っ赤な傘が一つ。

「む、助かったぞ、おにゃのこ」
 女の子、と言いたいらしい。
 歩夢の傘にはプロテクトシールドが内蔵されている。
「どういたしまして」
 そしてキメラに向き直り、
「本気でイくよっ!」
「おにゃのこ、ここは共に戦うニャー」
「だからさっきからそうイってるじゃないですかっ」
「む? そだったかニャッ? でもゴチソーはマオのモノニャス!」
 キメラに飛びかかる仁奈。袖は長いのにスカートが異様に短い。

「おおーすげー! 頭隠してパンツ隠してねーぜ!!」
 お前らここが危険区域だとわかってるか?

「イっけぇーー!!」
 傘にソニックブームを合わせて飛ばす歩夢。
「おいおい、マオのパンツみてイくなんてもしかしてヘンタイさんニャスか?」
「な!? ちょっ――!」
 余計なことを言われて動揺する歩夢。
 その隙を突こうとするキメラを、
「マオのおパンツ無視するなんて失礼ニャス!!」
 背後から抱きつくように喉を抉った。
「い、今だっ!」
 傷ついたキメラの喉にめがけ、歩夢の両断剣が深々と突き刺さった。
「‥‥ごめんなさい、もうイかなきゃ‥‥!」
「う〜む、最後までヤバげなセリフニャ」