タイトル:【学園】オオカミと少女マスター:冬斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/30 23:26

●オープニング本文


 九龍国際学校。
 香港特別行政区、九龍半島に位置する教育施設である。

 主にバグアによって居住区を追われた人民で構成された施設である同校は、『国際』の名に違わず多国籍の生徒、教師を内包。
 校風も比較的自由で宗教、思想等の統一もない。
 年齢も幅広く、初等部から大学部までの生徒を在籍させており、生徒総数約5万人のマンモス校。
 九龍学園。
 その多様性から、この学校はそういった呼称をされている。


「キメラがまた出た‥‥?」
 九龍学園に別件から取り逃がしたキメラを討伐する依頼から二ヶ月。
 再びキメラが目撃されたという。
「『UPCは何をやっている。アフターケアも出来ないのか』ってカンカンですよ向こう」
「そんな‥‥まさか‥‥」
 目的のキメラを倒してからは現場の傭兵達が一週間敷地内をくまなく調べた。
 無論、広大な敷地内を蟻の子一匹逃すことなくというわけにはいかない。
 しかし、『人間を襲う』というキメラの性質上、一週間の調査で手がかりがない場合はいないものと考えるのが妥当である。
「明らかに別件じゃないのか?」
「話しましたよ。ですが、向こうからしたらキメラなんてわけのわからない化け物立て続けに出てきたら関連性を疑わずにはいられないようで‥‥」
 二ヶ月――とはいえ、これまで平穏無事だった校舎に現れたのだ。
 それも生徒達は皆、バグア被害の被災者達。
 学校側が神経質になるのも致し方あるまい。
「証明――するしかないな。そのキメラを捕えて、先々月のものとは無関係だという事を」

「‥‥本当に、キメラなんですかね?」
「ん?」
「いや‥‥だからこれまでキメラなんて出てなかったところでしょう? それに――」
 迂闊な予測を無責任に立ててもいいのか、若い職員はやや迷ってから、
「その目撃者って――生徒が一人らしいんですよ」
「いたずらだと? だが、二ヶ月前の事件は生徒側には隠し通した筈だ。キメラが敷地内に入ったことすら知りはすまい」
「万一見られていたとしたら――いや、そうでなかったとしても元々生徒達はバグア被害から避難してきた子供達です。『キメラが現れた』なんて発想もそう突飛なものではないのではないでしょうか?
 いや、いたずらでなかったとしても見間違いの線もあります。尤もその場合はキメラと見間違うような動物がいた訳ですから放っておいていい筈はないのですが――」
「ふむ、なるほど、そこも踏まえ調査を依頼した方が良さそうだな」
「あ、いえ、もちろん本当にキメラって可能性も否定できないと思いますが――!」

 軽はずみな推測だったかと慌てる若者を尻目に依頼は出された。
『キメラ潜伏の調査』として――。



 少女――シンシア・モリスンに友人はいなかった。
 昔はいたが、故郷がバグアの侵攻に疎開を余儀なくされ、親族を理事会に持つ彼女はそのコネで九龍学園に。
 そこに以前の友人はいなかった。
 元々友人を作る事が得意な部類ではなかった彼女は学園で孤立した。
 珍しい訳でもない。
 疎開の受け入れ先であるこの学校では多国籍の生徒達が初対面で会う為、コミュニケーションの苦手な者はことさら孤立しやすい。
 そこから問題が起きるケースも珍しくはない。
 だが、今回は少々大事となった。

『学園内でキメラを見た』

 学園理事会のコネを持つ彼女の言葉は、相手にその気がなくとも知らず重視される。
『UPCに調査を依頼したから大丈夫。それとしばらくはこの件は口外しないで貰えるかな?』
 大人達が慌てているのがわかる。
 彼女は思う。

 何故このような嘘をついたのか。

 子供じみた悪戯だと思う。
 そのような事をした理由も自覚できる程度に彼女は賢くはあった。
「‥‥ばかみたい‥‥」
 自分でも呆れてしまうくらい幼稚な行動だ。
 わかっていて尚、彼女は嘘を止められなかった。
『調査が終わるまで学校は休んでていいから』
 そう言いながらも休校にはしなかった。
 噂が立つ事を恐れているのだろうし、休校には色々とリスクもあるのだろう。
 だが、休校でないのなら自分も登校する事は出来る。
「傭兵か‥‥能力者なのよね。どんな人達がくるんだろう」
 迷惑をかけている自覚はある。それでも好奇心は抑えられなかった。

 ふと、狼と少年の話を思い出した。
「オオカミがでたぞ――か、
 なら私もオオカミに食べられちゃうのかな――」

 だが、その少女も、
 まさかそれが本当になるとは思ってもいなくて――。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
愛紗・ブランネル(ga1001
13歳・♀・GP
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
竜王 まり絵(ga5231
21歳・♀・EL
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
リオン=ヴァルツァー(ga8388
12歳・♂・EP
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN

●リプレイ本文

●カレー班
「俺、先生になってみたかったんだ‥‥!【喜】」
 相当舞い上がっている蓮沼千影(ga4090)。本当に楽しそう。
「ふふ‥‥似合ってますよ、蓮沼先生」
「せ、先生〜!?」
 柚井 ソラ(ga0187)の世辞にも嬉しそう。ていうかちょっと喜び過ぎ。
「‥‥どうでもいいことですが、」
 千影の羽織っている衣服を指し、
「それは『先生』ではありません‥‥【冷】」
『保険医・蓮沼千影』にツッコミを入れてしまうセシリア・ディールス(ga0475)。
 淡々と落ち着いているが、語尾にはへんなものが。
 ともかく、
「‥‥ん。カレー食べに行こ」
 最上 憐 (gb0002)が真っ先に校舎に出る。
 学園のカレーを食べる。ただそれだけの為に。
「大丈夫。依頼はしっかりこなす」

●ラーメン班
「完全殲滅したはずですわ?【困】
 学食‥‥もとい侵入したキメラは!」
 前回の学園側の依頼に参加していた竜王 まり絵(ga5231)。
 今、学食とか――。
「おかしい、な。僕‥‥この前、他にもキメラがいないか‥‥調べたんだけど‥‥」
 同じく当事者、リオン=ヴァルツァー(ga8388)。
「嘘だッ!!」
「え‥‥いや‥‥本当‥‥だよ?」
 いきなり豹変する竜王マリ‥‥でなくまり絵。
 そもそも残存キメラの不在なら彼女も確認した筈。
「見落としてたのなら‥‥どうしよう‥‥」
 ほら、不安になっているではないか。
「あら、失礼。なんでしょう‥‥つい」
『つい』って。
「あれから別のキメラが来たと考えるのが自然でしょうね。
 学校側もその辺は理解は示してくれているようです【推】」
 ねえ、なに君達その語尾。流行ってんの?
 鐘依 透(ga6282)の言う通り、とりあえずの理解は示してくれた。とりあえずではあるが。
 なんにせよ、事件の究明は必須ではある。――が、
「本当に‥‥キメラがいるなら‥‥ね」

 打ち合わせが済むと、愛紗・ブランネル(ga1001)から出発の合図。
「じゃあ、次の集合は昼休みだね。B班、行動開始〜」
「違いますわよ、愛紗ちゃん」
 まり絵がやんわりと。
「ラーメン班ですわ」
 いい加減にせえ。

●クラスメイトと
 転入生、柚井ソラはさっそくクラスで情報収集。
 この『転入生』という設定、目立ちはするが情報収集にはうってつけのようだ。
 なにせ、
「まだ学園のことよくわからなくて‥‥いろいろ教えて欲しいです」
 これだけで堂々と調査が出来てしまうのだから。まさに魔法の一言。
 ルックスがいいなら尚、皆が放っておかない。
 その点でもソラは条件をクリア。
「面白い話があったら教えていただけませんか?」
 流石にキメラの事を直接聞く事は憚られた。
「う〜ん、面白い話ね‥‥この学校ってあまり横に噂広がらないから‥‥」
「そうなんですか?」
「ほら、みんな疎開してきたからさ、国も違うし、繋がり出来にくいんだ‥‥」
「あ‥‥ごめんなさい‥‥」
 それでかとソラは納得がいく。
 自分の学校と比べ、どことなく活気が薄めな事に。
 設備が整っている分、余計に気付きづらい。
「なに言ってるの、柚井さんだって疎開してきたんでしょ? 遠慮はなしよ!」
 茶色のくせっ毛をくしゃくしゃと撫でられる。
 元気づけてくれるのがちょっとだけ申し訳なく、

「『ソラ』って呼んでいい? やっぱり友達出来ないと不安よね。女の子は特に――」
「俺、女の子じゃないです!」


「‥‥ん。最上憐。よろしく」
 初等部では可憐な美少女転入生、憐。
 ただし、ソラとは違い、この年頃の子供達にとっては見た目の愛らしさは必ずしもプラスにはならず、
「なんだよこいつー、へんなかっこー」
「ぬいぐるみもってきてるぜー」
 この学校は私服の生徒が半数を超えているが、それにしてもゴシックドレスめいた憐の服装は周囲からの注目を集めてしまう。
 プラスにならないというのは正確ではない。
 プラスの感情がそのまま素直に表現されないというべきか。
 そんな事をしても相手が気に入ってくれるわけはないのだが、
「へんなぬいぐるみ、よこせよ!」
 よっぽど憐に気があるのかぬいぐるみを奪おうとする男の子が一人。
 それをいとも簡単にするりとかわす。
「こ、この!」
 むきになってとびかかる男の子だが、現役傭兵の相手になる筈もなく。
 どうやらいじめの心配とかはいらなそうだ。
「‥‥ん。メフィスト‥‥とっちゃ駄目」
 息一つ切らさない憐に皆ぽかんとするしかなく、
 かまってくれない憐は自己紹介。
「‥‥ん。クマの名前。黒猫じゃないけどメフィスト。気にしたら負け」
 だが、どうやら子供達にはわかりづらいネタであったようで。

「愛紗、でーーっかいいきもの好きなのー! 知らない? でーーっかいの」
 一方、在校生愛紗。
 同じ子供でもこっちは元気過ぎて付け入る隙を与えてないようだ。
 尤も相手がついていけないという面ではさほど変わりはないが。
 そしてもう一つ、
「あー、きみきみ、学校にぬいぐるみは――」
「はっちーもちゃんとした生徒だもん。だから居てもおかしくないもん」
 学生帽にマントという大正時代の制服姿のぱんだのはっちー。
 愛紗ははっちーを庇いながら脱兎の如く逃げ出す。
「ああっ、待ちなさい! 授業ーー!」
 そしてどさくさに紛れボイコット。

●キメラ氏のなく頃に
「わたくし達の部活は来たるべきバグアの来襲に向かえる社会的経済的変化に備え多方面から情報を入手・公開する事によって過去への反省と未来への展開を画策し――」
「――つまり‥‥新聞部の許可‥‥とったんだね‥‥」
 情報収集の為の即席新聞部。まり絵の荒業だった。
 顧問にまり絵、部長にリオン、そして、
「お待たせー、愛紗とはっちー到着! これで四人全員揃いましたー!」
 ――まあ、よかろう。

「残念ながら目撃者には会わせて貰えませんでしたわ」
『キメラを目撃して精神的に不安定な生徒に直接面会させる訳にはいかない』と言われ。
 まあ、向こうからしてみれば能力者の傭兵など得体の知れない存在ではあるのだろうが。
「けれど目撃情報については一通りの事は聞かせて貰いましたわ。
 で、結果、――シロ――ですわね。
 少なくとも前回の事件とは関係ありませんわ」
「よかった‥‥見落としていて‥‥それで迷惑かけちゃったかと‥‥」
 リオンは責任を感じていたよう。
 それはまり絵も同じ気持ちだろう。
「じゃあキメラはいないの?」
「いいえ、楽観はできませんわね、わね。
 別件のキメラという事も充分に考えられますわ」
 なんか喋り方のおかしなマリ――じゃなくてまり絵。
「とにかく一刻も早くキメラを見つけ出しましょう。――うみねこのなく頃には」
「きひひ」
「‥‥真面目に‥‥やってるんだよね?」
 ノリノリのまり絵と愛紗。
 なんでこの面子で組んじゃったんだろう。後悔してももう遅い。

●仲良し二人組
(「あちゃ‥‥しまった」)
 まり絵の以前広めた噂を種に探りを入れようかと考えていた透。
 だが、転入生がその話を知っているのは無理がある。
(「愛紗ちゃんやセシリアさんみたく在校生で入ればよかったかな‥‥」)
 後悔しても仕方無い。ならば、
「ねえ、ちょっといいかな?【友】」
 その語尾やめれ。
 透は窓際で本を読んでいた女生徒に話しかける。
「―――」
 視線だけ上げ、反応を返す女生徒に、
「この学校って動物とか飼ってるの?」
「――兎なら、たしか初等部に兎小屋が」
「あ、そうじゃなくって、もっと大きなの。昨日手続きに来た時に草むらでガサガサッて。猪かな? でもそんなの危ないよね?」
「―――」
「そういうのがいるって――」
 話はそこまでだった。
 授業が始まってしまったから。

(「困りました‥‥」)
 在校生で潜入したセシリア。
 話しかける事が苦手な彼女はソラや憐、透のように転入生として入れば良かったのではないか。
 結論から言うとその心配は杞憂に終わった。
 在校生にしろ転入生にしろ、彼女が『見ない顔』であることに変わりはなく、
 場馴れしていない雰囲気を『初めての授業』と受け取ったか、男子生徒はエスコートを買ってくる。
 皆、セシリアの容姿に惹かれてのものだったが、故に話も聞き易い。
 しかし、
(「ごちゃごちゃしたのは‥‥苦手です【冷】」)

 セシリアは昼休みを待たず教室を抜け出した。
 教室の喧騒が合わなかった。それもある、が、
「やあ、セシリアさん【友】」
 屋上に上がった先には透との待ち合わせ。
 透の手には双眼鏡。
「結構眺めいいよ。これなら意外と見つかっちゃうかもね」
 確かに、キメラはそれほど小さいものでもない。
 学園内が広大とはいえ、いや、広大だからこそ原始的だが有効な手段だろう。
 購買で買った焼きそばパンを食べながら双眼鏡を覗く透。
「ん‥‥こういうの、懐かしい♪ セシリアさんも一緒にどう?【喜】」
 セシリアに水とパンの差し入れを勧め、
「‥‥じゃあ、お水だけ‥‥有り難う御座います【友】」

●青春の保健室
(「学食で皆でご飯が超楽しみ‥‥!!【喜】
  カレー! カレー!【愛】」)
 校舎内ではしゃぎまくっている千影。
(「ん〜、これほどキメラの潜伏し易い造りもそうないな‥‥。割と危険だぞ、この学校‥‥」)
 カレーに想いを馳せつつもやる事はしっかりやっているようだ。

 保健室に戻ると生徒が。
 先客――とは言わないだろう。自分は看る側だから。
「ん、何してるんだ? こんな所で」
 金髪の大人しそうな雰囲気の女生徒だった。
「先生?」
「ああ、臨時のだけどな」

 女生徒の名はシンシア・モリスン。
 ヨーロッパの小国からバグア被災で疎開してきたらしい。
「気分良くなったら教室に戻りなよ。みんなも心配してるぜ」
「別に。友達とかいないから」
 理事会の親戚のつてでこの学校に疎開。
 昔の友人とは一人残らず別れる事になった。
 この年頃の若者は新しく友達を作るのが難しい。
 転入してきた時期にも差はあり、国籍も違う。
 おまけに転入生自体が珍しくもないので自分から話しかける事がなければ自然と交流は無くなってしまう。
「‥‥この学校にはいっぱいいるわ。そういう子」
 その表情は受け入れたようにも見えて、諦めたようにも見えて。
「――余計なお世話かもしんないけどさ」
 何故か自然と言葉が出た。
「自分が微笑めば、相手も微笑んでくれる。
 逆もしかり、だ。
 笑顔の周りには人が集まるもんだ。
 今すぐに、じゃなくても心に留めておいてほしいぜ」

「―――」
 自身の高校時代を投影してか、千影は驚くほど優しい声音で――。

「帰る」
 女生徒は立ち上がるとそのまま挨拶もせずに保健室を去っていった。

「――怒らせちまったかな」
 おそらく本人もわかっているのだろう。
「でも、それでも言ってやんなきゃな」
 誰だって寂しいのは嫌だから。

●恒例(?)学食タイム
 昼休み。全員で広場の学食へ。
「‥‥ん。カレー全種類注文。大盛りで」
 カレーを食べに依頼を受けたと言い切る憐。
「カレー! カレー!【愛】」
 泣くほど嬉しいらしい千影。
 ほんとにおまえらなにしにきた。
 ソラははふはふとカレーを頬張り――本当に女の子のようで。
「カレー‥‥美味しいよ‥‥僕も‥‥」
 カレーを頼もうとするリオンをぬっと遮るまり絵。
「なんで新聞部の仲間なのにカレーを頼むのかな、かな?【疑】」
 ついに口調まで変わってきた。
「仲間っていうのはラーメンを頼むものでしょう? 豚骨ショウガ味。
 頼まないなら‥‥お前は仲間じゃない」
 無茶言うな。好きなもん食わしてやれ。
「ラーメン大盛りー。カップ麺より美味しいよー」
 ラーメンを啜りながらもちゃっかり陰でカレーをお持ち帰りパックにしている愛紗だったとか。

●放課後
 まり絵達の推測やソラ達の情報を総合した結果、キメラの証言はあやふやになってきた。
「変‥‥ですね」
「うん、目撃者がはっきり一人いるのに他の誰の目にも止まっていない事とか――ね」
 それでもセシリアと透は聞き込みを続ける。

「随分、猪に執着するのね」
 その最中に話しかけてきたのは、透が朝初めに話しかけた女生徒。
 確かシンシアという――。
「うん、本当だったら危ないからね」
「それで探しているの? 転校初日に? 先生にも言わず?
 それに、転校してきたばかりなのに友達いるのね」
「――君、何か知ってるの?」
 彼女は間違いなくこちらに興味を持っている。なら――、

「やっぱり、貴方達が傭兵なのね」

●夜のキメラ再び
 夜、キメラの捜索の為、集合した一同。
「嘘――ね」
 千影はどこか納得していた。
 思えば初めから怪しかった。
 野生生物と違い、キメラは人を襲う生き物である。目撃しておいて無事に済む確率は極めて低い。
「寂しかったんだろうな」
「でも‥‥だからって‥‥」
 ソラの想いも尤もだ。千影だってそれはわかる。
「仕方ないな。そうとわかれば一通り調査報告して納得して貰いましょう」
 透の提案に皆が賛成した時、
 悲鳴が聞こえた。


「キメラ‥‥?」
「馬鹿な、嘘だって――」
 セシリアの呟きを打ち消す千影。
 そう、シンシアのそれは嘘だ。キメラを目撃しておいて無事に済む確率は極めて低い。
 だが、目撃されてないならば?
 嘘から出た真というように、『それ』は『そこ』にいた。

「あ‥‥あ‥‥」
 キメラの傍には怯える少女。
「シンシア‥‥さん」
 そこにいたのはセシリアが昼間事情を聞いた女生徒で、
「好奇心は猫を殺す――か、仕方ねえな!」
 千影が白衣から小振りの二刀を抜き放つ。
 憐はぬいぐるみの背中を開けると、中から愛用のファングを。
「‥‥ん。メフィスト。戦いの時も安心」
 そしてリオンは一歩前へ。ナイフを構え、障壁を張る。
「今度こそ、かくれんぼは終わり‥‥!」

●ただ、不器用で
 キメラ自体はむしろ前回よりもスムーズに片付ける事が出来た。
「えっと、キメラ本当にいたの?」
 首をかしげる愛紗、だが、
「嘘‥‥ではありません。ですが‥‥」
「‥‥ん。偶然」
「えっと、シンシア‥‥さん」
 悲しそうな面持ちで声をかけるソラ。
「今回の事‥‥キメラはいました。そう報告します。
 ですが‥‥貴方の嘘で困る人がいること、覚えていて下さい」
 悪気がないことくらいわかってる。それでも、
「嘘の情報に俺達傭兵が踊らされている間にも本当にキメラに襲われている人がいるんですよ‥‥!」
 自分達が踊らされるだけならいい。けどもし、自分達だけで済まなかったら――。
「――ってる」
 シンシアは差し出されたソラの手も掴まずに、
「わかってるわよ! そんなこと!」
 弾かれたように立ち上がると、止める間もなく夜の闇に消えていった。

「言い過ぎたでしょうか?」
 うなだれるソラに、
「仕方ないさ。後は時間に任せるしかない。」
 千影は夜闇を見つめ、
「きっと‥‥わかってくれます‥‥【友】」
「その時は一緒にラーメンでも食べたいな【友】」
 セシリアや透達も、そのいつかを想って――。