タイトル:エミタ狩りマスター:遠野

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/15 01:09

●オープニング本文


 夕暮れ。少女は家路を急いでいた。彼女は最近能力者になったばかりでつい先程、初依頼を無事終わらせた所なのだ。
(早くお母さん、お父さん、村のみんなに会いたい‥‥!!)
 少女の住んでいる村は人口こそ少なく、老人ばかりの小さな村だったがそれぞれが家族のように仲が良く、少女に能力者の適性があると分かるとみな喜んだ。なかでも一番喜んだのはやはり、彼女の両親だ。
(みんなよろこんでくれるかな‥‥)
 少女は手に持っている報酬の入った袋をみて、自然と顔がにやけるのが分かった。少女が自分で初めて勝ち取ったお金。喜びも一塩だ。みんなに自慢できるとも思った。

 しかし彼女を待っていたのは、みんなの笑顔などではく、倒壊した家屋、十体近くの強化人間、大量の死体、そして――その中央で微笑む浴衣に身を包んだ銀髪の少年だった。

「あ、あ、あ」
 声にならない叫びを上げる少女。手から滑り落ちた報酬袋が血溜まりに落ち真っ赤に染め上げられた。
「おそかったねぇ。退屈で退屈で死にそうだったよ‥‥こんな事なら本の一つでも持ってくるんだった」
 少年はため息をついて、腰に差していた日本刀を引き抜いた。刀身が赤いのは夕日に照らされているせいなのだろうか。
「大体ねぇ。ここ、交通の便が悪すぎなんだよね。‥‥と、愚痴はここまで。君に質問が――」
 少年が言い終わる前に少女は背中に背負っていた剣を引き抜き、少年に切りかかっていた。彼女の怒りと悲しみが体の中で弾けとび、頭の中には男を殺すことしかなかった。
「うわああああああああああああああああああああああああ」
 しかし、少女の一振りをわずかに体を逸らしただけでかわすと、剣を握っていた右腕を切り飛ばした。
「あああああああああああああああああっ!!」
 痛みに悶える少女を横目に見ながら少年は切り飛ばした右腕を拾い上げ、その腕の手の甲に懐から取り出した小刀を突き立てた。
「まったく‥‥最近の娘は話を聞かなくていけない。ま、でもこの年頃の少女ならしょうがないのかもね‥‥と、やっぱり手にあったか、質問する手間が省けた」
 彼が、彼女の手から取り出したものは、人間には「エミタ」と呼ばれる金属だった。
「ふーん、これのどこがいいのだろうねぇ」
「そう? 綺麗で可愛いじゃない」
 少年はビクリとして後ろ振り返り、ほっと息を吐き出した。
「エスカテリーナ嬢‥‥頼みますから気配を消して近づかないでいただけませんかねぇ」
「え? 『使用人』の分際で意見? 本気?」
 そういうエスカテリーナはセリフとは裏腹に上機嫌そうに見えた。少年は慇懃に頭を下げる。
「とんでもない。さ、どうぞお嬢様これを‥‥」
 少年か大仰な仕草で差し出したエミタをエスカテリーナは受け取ると、日にかざしうっとりと眺めた。
「綺麗‥‥ねぇ、首飾りにしたら私に似合いそうじゃない?」
「ええ、お嬢様。きっとお似合いになられると思いますよ」
 エスカテリーナの傍らに居た執事も賞賛する。
「‥‥で、あそこで呻いている少女はどうしますか? 『使用人』か『お友達』にでもしますか?」
 少年が顎で指したほうに居る少女にエスカテリーナは近づき、ぐいっと顔を近づけた。
「‥‥そうね。可愛い顔してるし『お友達』に――」
 エスカテリーナが微笑もうとした時、少女が力を振り絞り左の腰から銃を引き抜き、顔面に発砲した。
「みんなを‥‥かえせ‥‥」
 しかしエミタが無い今、傷はつかない。しかし、エスカテリーナの中で何かが弾けた。
「この‥‥」
 エスカテリーナは少女の顔を思い切り踏みつけた。何度も何度も、少女が動かなくなってしばらくしてもやめなかった。
「お気は済みましたか? ‥‥あーあ、可愛い顔が台無しだ」
 少年は呆れたように呟いた。彼女は自尊心を傷つけられるのをなによりも嫌った。
「せっかく、『お友達』にしてあげようと思ったのに‥‥!! 気分悪い。帰る」
 ふくれっつらをしながら、エスカテーリナは執事と帰ろうとする。少年が後に続こうとすると、
「あなたは残りなさい」
「なんでです?」
 エスカテリーナはイライラしながら言った。
「これだけ派手にやれば傭兵がよばれるでしょう。 そいつらからもこれを奪ってきなさい。強化人間は貸してあげるから」
 エスカテリーナはエミタを見せた。少年は面倒だと思ったがここで彼女に逆らうと殺されかねない。
「了解です。お嬢様」
 エスカテリーナが完全に去った事を見届けると、少年はうんざりしたように呟いた。
「女のヒステリーは怖いねぇ‥‥いや、本当」

●参加者一覧

秘色(ga8202
28歳・♀・AA
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
ゼクス=マキナ(gc5121
15歳・♂・SF
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
蒼 零奈(gc6291
19歳・♀・PN
ルーガ・バルハザード(gc8043
28歳・♀・AA

●リプレイ本文

「はぁ‥‥今日はやけに女性の怒っている顔をみるなぁ‥‥」
 少年は大儀そうに座っていたベンチから腰をあげると、首をこきこきと鳴らした。
「女運が悪いのかね? どう思う? お嬢さん方」
 少年が微笑みかけた先には傭兵達、秘色(ga8202)、瑞姫・イェーガー(ga9347)、セレスタ・レネンティア(gb1731)、クレミア・ストレイカー(gb7450)、ゼクス=マキナ(gc5121)、トゥリム(gc6022)、刃霧零奈(gc6291)、ルーガ・バルハザード(gc8043)が既に戦闘態勢に入っていた。
「ふん! うっさいわねマセガキがっ! その減らず口黙らせてあげる!」
 そう怒鳴るなり、真っ先にクレミアが少年に向かって発砲し、それが号砲だったかのように傭兵達と、強化人間達は一斉に飛び出した。
「さあ、黙ってエミタ置いてお家にかえりなよ!」
 少年が衝撃波を飛ばすと、瑞姫がソニックブームで打ち消し、少年に接近。鍔迫り合いになった。
「許せない。少女の顔を蹴り殺すなんて‥‥それに村の人も!」
 瑞姫が歯の隙間から、搾り出すように呟くと少年はあからさまにげんなりした顔をした。
「ありゃ、目撃者いたんだ。でも殺したのは僕じゃなくて、お嬢様だよ。それにいちいち君に許しを請わなきゃいけないの?」
「こいつ‥‥!!」
 瑞姫が思わず刀に力を入れた瞬間、少年は突然力を抜き、脇にスッと移動する。瑞姫はバランスを崩し前のめりになる。
(しまった!)
 少年はその腹におもいきり膝蹴りを食らわした。
「かはっ‥‥!」
 膝をついた瑞姫のあらわになった首筋に、懐から素早く取り出した小刀を振り下ろそうとしたが、突然バッと後ろに飛びのいた。わずかに遅れて少年のいた所には何発かの銃弾が通り過ぎた。
「ここは抑えます、立て直しを!」
 セレスタがサブマシンガンの銃声に負けないような大声で叫ぶ。
「ありがとう‥‥セレスタ」
 瑞姫は、ぐっと歯を食いしばり、再び立ち上がると少年に切り込んでいった。


「やたら数が多いな‥‥くっ、面倒な!」
 豊かな金髪を垂らした、凛とした女。バルハザードは軽く舌打ちをし、敵のチェーンソーを刀で受け止めた。骨髄を逆なでするようなチェーンソーと刀が擦り合う音が余計にイライラを増幅させる。バルハザードは乱暴にチェーンソー振り払い、がらあきになった胴に強烈な斬激を浴びせかけた。
「そー? これくらい数が居ないとつまんないじゃん♪」
 零奈は、その言葉どうり本当に楽しそうに戦う。命がけで殺しあっているという点を無視すれば、まるで遊園地ではしゃぐ女子高生のようだ。
 零奈は、脳天目掛けて振り下ろされたチェーンソーを紙一重で避け、脚払い。転倒した敵の胸を片足で踏みつけ、躊躇することなしに敵の首を切り落す。
 首跡から吹き出す血を全身に浴び、零奈は妖艶な笑みを浮かべた。
「ああ‥‥カ・イ・カ・ン♪」
 マキナは単純に繰り出されるチェーンソーを避けながら、超機械で体力を削っていく。
「動きが単純か、これは助かるなー」
 マキナは凪いだ湖面のような心で、冷静にチェーンソーを避け、確実に敵にダメージを与えながら、仲間の強化もしていく。そのお陰か、数では劣るものの傭兵達がやや優勢だ。
「ま、所詮見掛け倒しなのかなー」
「やばっ‥‥あいつら負けそうジャン。お嬢様に怒られちゃうな‥‥」
 少年がそちらに加勢に行こうとすると銃弾が飛んでくる。体をそらし回避。だがしかし、その直後肩に痛みが走った。跳ね返った弾が当たったのだ。
「逃げられないわよ!」
 クレミアが銃口を少年に向けている。跳弾を放ったのだ。
「むぅ‥‥メンドクサイ技。君から殺すべきかな?」
 少年は刀を納め居合いの構え。そして次の瞬間クレミアの目の前にそのままの姿勢で現れた。
「くっ!」
 クレミアが盾を構えるのと少年の刀を振りぬくタイミングは、ほぼ同時。鈍い金属音の後、すべるようにクレミアの横に移動。盾で守りきれないむき出しの部分を狙ったのだ。
「内臓ぶちまけな!」
 しかし今度は、走り寄ってきていた瑞姫が間に入り、刀を受け止める。
「やらせない! 絶対っ!」
 少年は歯軋りした。瑞姫を憎悪に満ちた瞳で、睨みつける。
「アアッ!! ウッザイなぁああああああああ! いい加減くたばりなよっ!」
 三人が少年を食い止めている間に秘色はショットガンで敵を牽制しつつ、敵を一箇所に集めていく。
「あやつの気が逸れているうちに、こっちを掃除してしまおうかの‥‥のう? 悪党共。」
 秘色は氷河のように冷徹な視線を敵に送る。秘色は命を平気で踏み潰していく者がなによりも許せなかった。
 ここにも、人が住んでいたのだ。夫婦、恋人、親友、家族。さまざまな人生があったはずなのに、もうなにも残っていない。なにも。すべてただの死体になってしまった。もう笑うことも、泣くことも、怒ることもできない。
 トゥリムも同じ気持ちだった。無残に踏み殺された少女のことを思うと涙が溢れ出しそうになる。希望に満ちていた少女は絶望に塗りつぶされ死んだ。
 理不尽な運命に、バグア達に向けて、トゥリムは銃を撃ち続けた。表向きは無表情を装って。
「皆の者! 離れておけ!」
 秘色は大声で怒鳴った。すでに強化人間達は一箇所に追い詰められていた。
「大盤振る舞いじゃ。遠慮はいらぬ、喰らっておけい!」
 秘色は刀を頭上に掲げ、思い切り振り下ろした。途端、十字に走る強力な衝撃波が強化人間を吹き飛ばした。

「結局全員殺しちゃったのか‥‥残忍だね」
 今、少年は傭兵達に追い詰められていた。
「‥‥ごめん、っていったら逃がしてくれるかな?」
「そのセリフ。地獄の底で吐き出すんじゃな」
 秘色、は冷たい刀の切っ先を少年に突きつける。しかし、秘色のかもし出す雰囲気はその刀身よりも冷え切っていた。
「この外道! エミタを奪う目的はなんだ!!」
 バルハザードが息巻くと、少年は鼻を鳴らした。
「僕が知るわけないじゃない。お嬢様に聞いてみたら?」
「お嬢様?」
 トゥリムが反応した。
「名前は‥‥?」
「エスカテリーナ」
 少年はあっさり答えた。その時トゥリムの脳裏に、森で出会った少女がよぎった。尋常じゃない雰囲気を持った少女。トゥリムは寒気を覚えた。
 零奈がパンッ、と手を打った。
「はい、お喋りしゅうーりょー。血反吐吐き散らしてくたばらせてあげるよ♪」
 それを合図に全員武器を構え直す。少年は微笑んだ。
「あーあ、めんどくさいなぁ、多勢に無勢‥‥」
 そして刀を構え、にやりと笑う。
「でも、君ら一人でも多く道ずれに、足腰立たなくなるくらいズタズタにしてやるよっ!」
 少年が動くより早くトゥリムがガトリングガンを構え、空気が揺れるほどの凄まじい轟音とともに銃弾の雨を浴びせかける。
「くっ」
 何発か食らいながらも、ガトリングガンの射線上から抜け出す。しかし、セレスタがそこを狙い射撃。
 思わず脚を止めた少年に、零奈は瞬天速で一気に距離を詰め、切りかかる。かろうじて刀で受け止めたが、さらにバルハザード、秘色が切りかかる。さすがに同時攻撃は避け辛いのか、少年の腹に刀が深々と突き刺さった。
「ちょ、タンマ!」
 慌てて刀を抜こうと、もがいている少年に、瑞姫は刀を正眼の構え。一呼吸置いて飛び上がり、少年の脳天目掛けて、全体重を乗せた刃を振り下ろす。
 グシャッと、スイカが潰れた様なみずみずしい音がして少年は崩れ落ちた。
「シザーっぽいと思ったけど‥‥過大評価だったみたいね」
 瑞姫はなぜか少し残念そうに呟くと刀を納めた。
 
「やはり生存者はいないようですね‥‥」
 セレスタはもしかしたらと思い、村を丁寧に調べたが生きている人間は発見できなかった。
「そう、残念」
 トゥリムは村人を埋葬し終え、その前で合掌した。銀色の髪が風になびいている。
(どうか安らかに)
 あたりはすっかり暗くなり、血溜まりも、死体も、全てが黒く塗りつぶされ、なにもわからなくなっていた。

「お嬢様、あの男が負けたそうです」
 洋風の部屋。三十代前半、オールバックの男は慇懃に頭をさげ報告した。
「えー‥‥結構手間かけたのにー」
 ふかふかのソファに横たわっているエスカテリーナは、つまらなそうに毛先をいじくっている。
「ま、いいわ。所詮使用人。代わりならいるわ。‥‥それにあの子、ちょっと生意気だったし」
 突然エスカテリーナはがばっと起き上がった。
「そんなことよりっ! メアリーはどうしている?」
 男は頭を上げず答えた。
「もう少しで『完成』なさいますよ。お嬢様」
 エスカテリーナの顔がパッと輝いた。
「ホント!? ああ、楽しみだわ‥‥メアリー、メアリー私のメアリー‥‥ふふ」
 エスカテリーナはポンっとソファから飛び降りると鼻歌混じりに部屋を出て行った。

 メアリーに会いに。