●リプレイ本文
●B班
当日の気温はかなり低く、吐く息も白い。だが、リヴァル・クロウ(
gb2337)が感じている寒気はそれとは別種のものだろう。
「同行者名簿を見た限りだと、戦力的にも問題はない。‥‥はずなのだが、この嫌な予感と悪寒はなんなのだろうか」
「あの‥‥リヴァルさん‥‥大丈夫ですか‥‥?」
顔色の悪いリヴァルを朧 幸乃(
ga3078)が心配げに顔を覗き込む。幸乃とリヴァルは旧知の仲だ。
「あ、ああ。大丈夫だ、問題ない」
リヴァルは口ではそう言ったものの、内心では嫌な予感が拭えていない。
「体調が悪いなら無理しないでくださいね?」
レーゲン・シュナイダー(
ga4458)もリヴァルを労りつつ、周囲を見渡しながら進んでいく。彼ら能力者たちはA班とB班に別れキメラを探しているのだ。しかし、何分細い木が立っているだけの見晴らしのいい雪原、キメラはあっさり見つかった。やはり寒いのか群れで固まっている。
「ん‥‥それじゃあ‥‥温泉のためにも‥‥嫌なキメラには退散してもらおう‥‥か」
エレシア・ハートネス(
gc3040)が淡々と言い槍を構えた。即座にレーゲンは他の傭兵に練成強化をかけ、ビシッと敵に指を突き付ける。
「さァ、やっておしまい!」
掛け声と共にエレシアが駆け出し、キメラに槍の一閃を加える。
この攻撃にキメラは四方に散ってからエレシアを取り囲み、脚で体を持ち上げ麻痺針のついている尻をその下に折り畳み、麻痺針を発射する。
「‥‥あっ」
何発かは盾で防げたが、全部とはいかない、針が体に突き刺さり、雪の上にへろへろと座り込む。キメラはエレシアに追撃しようと飛び掛るが、間にリヴァルが身を滑りこませ銃で撃退する。
「大丈夫か?」
盾で庇いながらキュアをかけて治療するとエレシアは、よろりと立ち上がる。
「ん‥‥なんとか‥‥」
銃を撃ちながらレーゲンも援護をする。
「麻痺針は厄介だねェ‥‥狙うなら腹か‥‥それとも」
キメラの頭に鉛弾をぶち込み不敵に笑う。
「やっぱり頭を潰すのが手っ取り早いか」
幸乃は、超機械「クロッカス」を使い電磁波を発生させ敵を足止めする。
「では‥‥援護します、これで頭でも何でも狙えますよね‥‥」
完全に立ち直ったエレシアが、飛び掛ってくるキメラを盾で弾き飛ばしながら、動きを止めているキメラを追撃する。胴を貫きそのまま横になぎ払い、キメラを引きちぎる。
残ったキメラも麻痺針で応戦するが最初の時より数が少ない。盾で防がれ、超機械で足止め、槍や銃で追撃され全滅した。
●A班
「旅館の方から聞いた場所だと‥‥ここら辺ですね」
祈宮 沙紅良(
gc6714)は辺りを見回し呟く。彼女は事前にキメラの出現しそうな場所を旅館の人間から聞いており、目撃情報があったと言う林に来たのだ。
「蜘蛛なら、上から襲うのも得意そうよね‥‥」
鹿島 綾(
gb4549)は頭上に注意を払う。その横でエレナ・クルック(
ga4247)も同じように上を見上げるがどこかつらそうだ。
「うーん‥‥首がいたくなりそうです‥‥」
がんばって背伸びしているエレナを見て樹・籐子(
gc0214)はにこやかな笑顔を浮かべる。
「ふふ‥‥可愛い娘ばっかりでお姉ちゃん嬉しくなっちゃうわねー」
そう言いながら、探査の眼を発動し辺りを見渡すと、雪の上に若干だが足跡らしい痕跡が奥の方に続いている。
「獲物はあっちね」
傭兵達が足跡を追っていくと、雪原の上でうろうろしているキメラがいた。こちらを発見していないらしく、動きは緩慢だ。
「ちょうどいいですね、奇襲をかけましょうか?」
祈宮はそう言って、リンと澄んだ声で子守唄を唄う。
「天降し依さし奉りき――」
その子守唄で何匹かの蜘蛛が動きを止めるが、眠らなかった蜘蛛がこちらに気づき麻痺針を飛ばす。
「あうっ‥‥」
祈宮は麻痺針を受けその場にひざをつく。しかし蜘蛛が次の行動に移る前に、鹿島は二つの槍を振り回し、衝撃波を飛ばして牽制。さらに怯んでいる蜘蛛に近づき天地撃で蜘蛛を叩きつける。
「これも温泉の為――大人しくやられなさい!」
鹿島は二槍を駆使し、槍を蜘蛛の腹に突き刺そうとするが、蜘蛛はこれを回避しようと横に飛ぶ。しかしこれを想定していた鹿島は、もう一本の槍で蜘蛛の着地点に衝撃波を飛ばし、蜘蛛の着地と同時に衝撃波で蜘蛛が吹き飛ばした。
「じゃ、とっとと片付けちゃいましょうか」
冷たく言い放つと、籐子は前線に飛び出し銃を連射して子守唄で眠っている蜘蛛を掃射していき、突進してくる蜘蛛を脚で踏みつけ、ほぼゼロ距離で銃弾をぶち込んでいく。
エレナは麻痺針をぎりぎりの所でかわしつつも、蜘蛛の素早い動きについていく。
「とりゃ!」
確実に致命傷を避け、隙あればラサータで切り裂いていく。そこに自力で麻痺を直した祈宮も援護に加わる。
「もう大丈夫です‥‥一気に片をつけましょう!」
折宮の呪歌で麻痺になった蜘蛛達をそれぞれ撃破していき全滅させた。
「さて、これで温泉に入れるわね♪ 楽しみよねー」
籐子が戦闘中とは打って変わって明るく言い、傭兵達は旅館に向かった。
●温泉にて
「みなさんお疲れ様ですー!」
旅館の入り口で弥生は傭兵達を出迎える。
「無償で露天風呂というのも、中々に洒落た報酬よね。温泉に浸かりながら、お酒を飲む事は出来るのかしら?」
鹿島が尋ねると、弥生はもちろんという風に大きく頷く。
「ええ、ご自由にどうぞー」
それを聞いた鹿島は、嬉しそうにお酒を持って露天風呂に向かった。
「偶にはこういう大きな風呂を独り占めするというのも、悪くない」
露天風呂にはリヴァルが夜空を見上げながら大きく息をつく。戦闘で消耗した体力が温泉に浸かっていると回復していくのがわかる。
「昼間の嫌な予感は杞憂だったか‥‥」
戦闘は滞りなく終わり、大きな怪我を負った傭兵もいない。
と、その時誰かが入ってくる気配がした。
「おー! リヴァルじゃらいかー!! げんきぃー?」
湯煙の中からふらりと、ほぼ生まれたままの姿の鹿島が現れる、湯煙がなかったらあぶなかった。相当酔っているらしく呂律が回っていない。
「なっ‥‥此処は男風呂のは‥‥いかん、間違えたのか‥‥!」
慌てて風呂を出ようとするリヴァルの手を鹿島はがしっと掴む。
「どこいくのぉー? ‥‥て、あるぇ? どうして、紅くなってるのらー?」
必死で顔を逸らそうとするリヴァルの顔を覗き込み、突然にへらーと笑った。その笑顔を見た瞬間リヴァルは昼間の嫌な予感を思い出した、いや、思い出してしまった。
「リヴァルもー、飲めばいいのらっ」
そう言ってリヴァルの手をグイグイ引っ張って行く。
「ちょ‥‥まて!!」
抵抗虚しく、リヴァルは引きずられるように連れて行かれる。
●
「効能が気になります‥‥! 美肌! 美肌!」
鬼気迫る迫力で、温泉にざぶざぶとレーゲンは入っていく。そんな姿を見て幸乃は苦笑する。
「‥‥そんなに、あせらなくても温泉は逃げませんよ?」
「えっ‥‥あ、ああ、そうよね!」
ちょっと赤くなり、顔の半分まで湯に身を沈めるレーゲン、もっとも彼女がそこまで気にする理由も幸乃は知っていた。
「最近やっと素敵な方との絆が結ばれたようですね‥‥。改めておめでとう」
「‥‥ありがと」
顔を出し、レーゲンは照れ笑いを浮かべた。
「‥‥祝い酒としゃれ込みましょうか?」
幸乃も笑顔でお酒を取り出しレーゲンに渡すと、レーゲンもこくりと頷いた。
「あ〜温まるです〜♪」
エレナは温泉でリラックスしてはぁ〜とため息をつく、しかし同じように隣で浸かっているエレシアの胸を見て今度は、はぁー‥‥ため息をつく。
「いいな‥‥」
エレシアの胸はかなり大きく、発育がかなり良い。こういうのを見るとキャベツを食べたり、牛乳を飲んでいる自分の努力は実る日が来るのかと不安になるが、きっと実ると信じたい。うん、きっと大丈夫。
「もー! 胸の大きさなんかきにしちゃって、可愛いんだから!」
籐子はエレナの心の内でも読んだのか、ぎゅっとエレナに抱きつく。
「大丈夫! ひんにゅうはステータスよ!」
「こ‥‥これから大きくなるんです! 今は、はってんとじょうなのです!」
そんな二人のやり取りを、話題のきっかけになったエレシアはぼっーとっしながら聞き流していた。
「ん‥‥気持ちいい」
●
「みんなー! リヴァルが来たよぉー♪」
女湯の表示が見えた時からリヴァルの頭の中では警告音が大音量で鳴り響いていた。
「さ、さすがにこれはまずいだろう!」
しかし酔った鹿島の耳には届かない、そのまま湯のなかに突き飛ばされる。
「そーい♪」
若干溺れ掛け慌てて手じかなもの掴んで立ち上がる、そして目の前にはエレシアがいた。手元をみるとエレシアの豊満な胸をがっちり掴んでいる。キョトンとするエレシア。
「ふにゃ〜リヴァルさんのえっち〜」
エレナもエレシアの横で自分の胸を隠し、いやいやと首を振る。
「す、すまん!!」
慌てて手を離し、早く出なければとくるりと後ろを振り返ると、正面にいたレーゲンとばっちり目が合う。当然彼女は裸に近く――
「い、いやこれは――」
「ぅぉああぁあ!」
リヴァルが言い訳を述べるより先に、思いっきり湯の入り口の扉まで殴り飛ばされる。今日一番重いダメージかもしれない。
さらに仰向けに倒れたリヴァルの頭上で扉がからり、と開いた。
「‥‥あら? クロウさん? ここ男湯でしたっけ? というかこんなところで寝てると風邪をひきますよ」
祈宮が不思議そうにリヴァルを覗き込んでいた。彼女はタオル一枚という姿だったが、リヴァルの位置からは裸身もみえてしまいそうだ、湯煙が無かったら危なかった。
リヴァルは慌てて立ち上がる。
「す、すまん! 折宮は間違えていない‥‥だからといって俺が間違ったわけでもないんだが‥‥」
首を傾げる折宮にリヴァルはさらに釈明しようとしたが。
「リヴァルちゃん、いらっしゃーい♪」
後ろから籐子がぎゅっと抱きついた。背中にあたる柔らかい感触にドギマギする。
「な‥‥!」
なんとか拘束を解き逃げるように温泉から出て行く。
「‥‥どうしたんでしょうかリヴァルさん。顔真っ赤でしたけど‥‥」
不思議そうな折宮に籐子は、
「さぁ? のぼせたんじゃない?」
ふふふ、と悪戯っぽく笑って答えた。