●リプレイ本文
「ったく、馬鹿な坊主だ‥恐れねぇってのはただの無謀だぞ」
少年が入った山の前に到着するなり、荊信(
gc3542)は呆れ気味に呟いた。荊信もどちらかと言うと戦闘が嫌いな方では無いが、こんな無謀はしないだろう。そのひとりごとに時枝・悠(
ga8810)はどうでもよさげに答える。
「まぁ、血気に逸るのも、新人にありがちなハシカのような物だからな」
少年の愚行に彼女にも思う所はあったが特に言うほどのことでもない。自分はキメラを潰し少年を保護、これだけで十分だ。
「では、具体的に作戦を決めましょう」
ミスティア・フォレスト(
gc7030)が切り出す。
「私が事前に係員の方に地理を聞いてきました、それほど広い山ではなさそうですがより迅速に少年を発見するためにもここはそれぞれ班に分かれて行動しませんか?」
ミスティアの提案に傭兵たちは頷いた。たしかにその方が効率が良く、少年は迅速に発見しなければ命が危ない。そして相談の結果、2人組×4班に分かれることになって山中に入ることになった。
「レグ!」
傭兵の一人であるエイミー・H・メイヤー(
gb5994)はレーゲン・シュナイダー(
ga4458)に抱きついた。エイミーの言うレグとはレーゲンの愛称で彼女達は幼馴染である。
「絶対に‥‥無茶はするなよ?」
心配げに尋ねるエイミーにレーゲンは微笑を浮かべ、ポンっと彼女の頭に手を置く。
「大丈夫ですよ、簡単にやられるほど私はヤワな女ではではありませんよ?」
少し表情が和らぐエイミー。そんな彼女達の様子を見て、春夏秋冬 立花(
gc3009)は思わず笑みがこぼれた。
「ふふ、仲が良い人達を見ているとこっちまで幸せな気分になりますね」
立花は普通に裕福な家庭に生まれ、幸せに育った。だから他の人にも幸せになって欲しいと思っており、こういう場面に出くわすと自然とホッコリしてしまう。しかし、と立花は気を引き締める。今回は人命がかかっている、油断はできない。
「‥さてと、そろそろいきますかね」
と、漠然と人の話を聞いていた上杉・浩一(
ga8766)は寄りかかっていた木から背を離して言った、やや眠そうである。
「そうですね‥もたもたしててもしょうがないですし‥」
モココ(
gc7076)も上杉に同調する。モココとしては少年は勿論心配ではある、しかしそれ以上に早くキメラと戦いたかった。少しでも、少しでも強くなりたい、もう誰も傷つけないためにも。
●
「アルフちゃーん!」
立花はランタンを掲げ少年の名を闇に向かって叫ぶが、返事はない。
「まあ、何か起きる前にさっさとみつけてしまわねばな」
心配げな立花に同じ班になった上杉が横で、のんびりと言う。そして同じような口調のまま、
「‥‥しかし、少年ではないが別の奴は釣られたみたいだ」
立花がはっとして周りを見ると、すでに7匹程の双頭の狼が息を荒くして周りを取り囲んでいた。
「‥‥え、えと、結果オーライですか‥ね?」
些か数は予想より多いですけど、と立花が言葉を紡ぐ前に周りの狼が一斉に突っ込んで来た。
立花は瞬天速を使い前方から来る狼に一気に近づき、通り抜け様に狼の足を切り裂き動きを止めた、こうしてできた包囲網の穴に上杉は二本の刀を抜き突っ込む。そして動きを止めた1匹の狼に二段撃を放ち、一気に頭部を二つとも跳ね飛ばす。しかし、それでもまだ後6匹。二人は素早く背中合わせになり戦闘態勢を整えた。
「‥さて、どうしようかね」
上杉はポツリと呟く、前方からは6匹の狼がジリジリと近づいてくる。無線機はさすがに今は使う隙が無い。
「ワオオオオオオオオオン!!」
狼は勝ち誇ったように吠えると、二人に襲い掛かろうとした。
しかしその時、狼の背後から突如女性が二人飛び出してきた。レーゲンとモココである。モココは前方に気を取られている狼を思いっきり殴り飛ばし、慌てて応戦しようと背後から攻撃してきた狼をクルッと身を翻しそのまま蹴り飛ばした。
「戦闘音が聞こえたたから来てみたら‥‥大丈夫かい?あんた達!」
レーゲンは、モココに殴られ蹴飛ばされた狼の頭を銃で撃ち抜き絶命させると、立花と上杉に近づき安否を尋ねた。
「え、ええ‥‥なんとか」
覚醒後のレーゲンの口調の変化に若干戸惑いつつも、立花が答えると。
「そうかい、なら残りもとっとと畳んじまうよ!」
レーゲンが勇ましく答えて戦闘中のモココに練成強化を掛けアシストをし二人も戦闘に加勢した。
(ああ‥‥楽しい‥‥)
モココは狼と戦いながらも、この陶酔感を楽しんでいた。飛び掛ってくる狼の喉元をがしっと掴み地面に叩き付け、頭を一つ踏み潰す。メリメリと頭蓋の砕ける音にモココは一層興奮した。
(壊したい‥‥壊したい‥‥もっと、もっと‥‥!!)
足に噛み付こうとしたもう一つの頭をサッカーボールのように蹴り飛ばす。
「アハハッ! みんなみんな、私が食べてあげる!」
他の傭兵達も奮戦する。
「こっちも狼の看板背負ってるンでね、負けてられないのさ‥‥!」
レーゲンが銃で狼を狙い撃つが相手はそれを避けると、間合いを一気に詰めようと駆け出す。しかし上杉が横からソニックブームでこれを牽制し怯んだ隙に、立花が瞬天速で間合いを詰め斬り伏せる。これで残りは三匹、多勢に無勢と感じたのか狼達は逃走しようとジリジリと下がるが。
「アハハ! 逃げられるとでも思ってんの?」
モココは一番近い狼を殴り飛ばし木に叩き付けると、その胴に重い一撃をくらわす。
そして背をみせて駆け出した残りの二匹をレーゲンが狙撃し倒れた所を立花と上杉が止めを刺した。
「やれやれ‥‥片付いたか」
上杉はため息をつくと、仲間と連絡を取るべく無線機をとりだした。
●
「はぁ‥‥はっ‥‥」
アルフは荒い息を吐きながら、油断無く自分を取り囲んでいる狼に剣を向ける。しかし、アルフは満身創痍の状態で正直立っているのがやっとの状態であった、能力者でなければとっくに死んでいたであろう。
「くっ‥‥くそ‥‥」
こんな筈じゃなかったのに、といまさら悔やんでも遅い、アルフは己の無力さに絶望した。
(ああ‥‥母さんごめん‥‥仇、取れそうに無い‥‥)
死を覚悟したアルフの喉元に狼が食らいつこうと飛び掛ったその時、突如響いた重い銃撃音と同時に狼が吹き飛ぶ。はっ、とアルフが銃声がした方を見ると、そこには狼達に油断なく銃口を向けている時枝がいた。
「存外に、元気そうだな?」
時枝は携帯していた照明銃を空に向かって放つと狼の群れに突っ込んで敵の注意を引き付ける。あっけに取られているアルフに、時枝とペアを組んでいる荊信が近づき傷の具合を確かめる。
「無茶しやがって‥‥なんでこんな馬鹿なことしたんだ? ああ?」
アルフは俯く。丁度その時、照明銃の光を見て現場にエイミーとミスティアが到着した。ミスティアはアルフの傷の具合を見ると、すぐにひまわりの唄で回復を試みた。
「か、母さんの‥‥仇を取りたかったんだ‥‥」
でもできなかった、悔しさでぎゅっと唇を噛むアルフに荊信は静かに問う。
「坊主、覚悟はあるのか」
アルフは顔を上げる。
「手前に覚悟があるなら俺達が少しは手ェ貸してやる、後ろは気にしなくて良い」
「覚悟‥‥」
アルフ少しの間の後、荊信の目を見つめてはっきりと答えた。
「‥‥やらせてください」
ある程度傷が回復し、なんとか立ち上がるアルフにエイミーが言う。
「仇を討って貴方の気が晴れるなら‥‥貴方が前を向く切欠になるのなら協力しましょう」
エイミーにも大切な人がいる、アルフの気持ちは痛い程わかった。
(大事な人を失ったとき、あたしならどうするだろう‥‥)
アルフの姿が自分と一瞬重なり、エイミーは他人事には思えなかった。
「私も協力します、というか最初から依頼が出るの待っていけばよかったのですよ」
ミスティアも言う、たしかにアルフが先走った事をしなければこんな厄介なことにはならなかったかもしれない。
「‥‥では早速依頼を片付けてしまいましょうか」
ミスティアは微笑みをアルフに向ける。
「参加者、9人全員で‥‥」
(思ったよりしぶといな‥‥)
時枝は足を止めず、積極的に立ち回る。彼女は狙いを限定せず距離がある場合は銃で応戦し、近くに寄ってきた敵を切り裂いていくが、さすがに一撃で仕留めるのは難しい、だが。
「止まるまで叩きゃ良い。首の数なんざ些事だよ」
飛び掛ってきた狼をそのまま切り上げ、宙に浮かせ銃を乱射し胴体に風穴を開ける、さらに天地撃で地面に叩きつけ確実に絶命させた。続いて背後から飛びかかって来た狼を、振り向き様に斬り飛ばし銃で仕留める。彼女を強敵と認識したのか狼達は弱っているアルフに的を絞り、攻撃しようと駆け出したが。
「そちらには行かせませんよ、狼さん」
エイミーが刀を振るい衝撃波をとばして牽制、さらに荊信の制圧射撃で狼は完全に足止めされる。
「今だ坊主! きっちり片をつけて来い!」
アルフは荊信の言葉に背中を押され、刀を構え駆け出す。
「うおおおおおおおおおお!」
ブンと力任せに刀をスイングし狼をふきとばす、そこには先程までの絶望して打ちひしがれていた姿は無かった。
(ハハッ、坊主が、いっぱしの男の顔になったじゃねぇか‥‥)
荊信はニッ、と笑って再び銃を構え直した。
●
「わかってる? 自分がしたこと。アルフちゃんが勇み足を踏まなければ、こんな夜中に来る必要もなかったし、みんな危険を犯す必要も、君もこんな危険もなかった」
帰りの高速艇の中、アルフは正座させられて立花にこってりと絞られていた。
「‥‥はい、すみませんでした」
しばらくアルフを睨む立花。しかしふっと表情を崩すと。
「まぁ、いい経験にはなったでしょう。いい? 一人で行動しない。何かあったら周りを頼る。大切だからね?」
ほっとするアルフ。その横で、
「よかったレグ! 無事で本当によかった‥‥」
エイミーとレーゲンがハグをしていた。
「ね、だからそんなにヤワじゃないっていったでしょ?」
レーゲンは優しく言う、覚醒時とはうって変わって穏やかだ。
そんな和やかな雰囲気の船内を上杉はぼんやりと見つめていた。少年のしたことはあまり褒められたことではない。しかし自分にも昔は少年のように血気盛んなときもあった事を思い出す。
(ま、なにはともあれ一件落着か)
上杉はゆっくり目を閉じ眠る体制に入る。
いい夢が見られそうだった。